説明

ハザードマップ作成支援サーバ

【課題】作成が簡単で、かつ、河川管理者等にとっては、広範囲での管理等が可能になるハザードマップ作成支援サーバの提供を目的とする。
【解決手段】災害原因事象発生をシミュレートして得られた災害分布図1を格納する災害シミュレーションデータベース2、当該シミュレーション範囲内の地形図データ3を格納する地形図データベース4、前記シミュレーション範囲内に設定される重畳画像を格納する重畳画像データベース7、重畳画像に避難場所等の避難情報8を登録する避難情報登録部9、前記災害分布図1、地形図データ3および重畳画像を重ね合わせてハザードマップ10を生成するハザードマップ生成部11、並びに生成されたハザードマップ10を出力するハザードマップ出力部12、を備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハザードマップ作成支援サーバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハザードマップとは、災害原因の事象発生時における被害発生地域の予想、避難場所、避難経路等を地図情報としてまとめたものであり、特許文献1に記載されるように、災害発生シミュレーションに基づいて作成される。
【特許文献1】特開2003-168179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ハザードマップは、単に被害領域の想定にとどまらず、避難場所、避難経路の選定等を要するために、通常市区町村等の行政主体単位で作成される。この結果、例えば、都道府県等の河川管理者が河川全体のハザードマップ作成状況を統一的に把握、管理し、広範囲での検索、分析、計画等を行うことが困難な上に、市区町村等のハザードマップ作成主体にとっても、多大な費用がかかる上に、作成ノウハウ等が市区町村等を超えて全体に蓄積されないために、広範囲に渡るハザードマップを均質に作成することが困難であるという欠点がある。
【0004】
本発明は、以上の欠点を解消すべくなされたものであって、ハザードマップ作成主体にとっては作成が簡単で、かつ、河川管理者等にとっては、広範囲での管理等が可能になるハザードマップ作成支援サーバの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば上記目的は、
災害原因事象発生をシミュレートして得られた災害分布図1を格納する災害シミュレーションデータベース2、
災害分布図1に座標標定された当該シミュレーション範囲内の地形図データ3を格納する地形図データベース4、
ネットワーク5を通して交信可能なクライアント端末6からのハザードマップ作成要求に応じ、前記シミュレーション範囲内に設定される重畳画像を格納する重畳画像データベース7、
前記クライアント端末6からの要求に応じて重畳画像に避難場所等の避難情報8を登録する避難情報登録部9、
前記災害分布図1、地形図データ3および重畳画像を重ね合わせてハザードマップ10を生成するハザードマップ生成部11、並びに
前記ハザードマップ生成部11において生成されたハザードマップ10を出力するハザードマップ出力部12、
を備えるハザードマップ作成支援サーバを提供することにより達成される。
【0006】
ハザードマップ10には、河川氾濫による洪水ハザードマップをはじめとして、津波、火山、地震等、災害の種類に応じた各種のものが含まれ、ハザードマップ10の作成に際して、災害原因発生時における災害の深刻度(規模や被害金額等)をシミュレートした災害分布図1が作成される。シミュレーションは、対象地域を分割したメッシュ内での災害の深刻度を演算し、災害の深刻度により対象地域を複数に区分して行われ、災害分布図1には、このメッシュデータをそのまま使用することも、さらには、メッシュデータから各メッシュ内の地形の特殊性等を考慮して詳細に作り直したものを使用することもできる。
【0007】
地形図データ3は、上記災害分布図(1)と重なるよう、座標標定により位置、縮尺等が調整されている。ハザードマップ作成主体は、これら地形図データ3と災害分布図(1)に、必要事項を配置した重畳画像を重ねることにより、ハザードマップ10を完成させることができる。
【0008】
本発明においては、市区町村等のハザードマップ作成主体に対して、基礎となる災害分布図1、災害分布図1に重ねられた地形図データ3、およびこれらにさらに重ねられる重畳画像を提供しているので、ハザードマップ作成主体は、重畳画像に必要事項を配置するだけでハザードマップ10を簡単に作成することが可能になる。また、ハザードマップ10は、同一の災害分布図1上を異なった作成主体により領域分割しながら作成されるために、洪水ハザードマップ10を例に取ると、同一河川の全範囲におけるハザードマップ10の作成状況の把握、あるいはマップ作成主体が複数に渡る領域での分析、検討が可能になる。
【0009】
さらに、ハザードマップ10は、途前記災害分布図1、地形図データ3および重畳画像を重ね合わせ画像情報(例えば、ファイル形式をPDF(Portable Document Format:電子文書フォーマット)等の汎用フォーマット)として出力部から出力可能であるために、市区町村が住民配布用の(途中省略)効率化が図れる。また、本件サーバには、災害分布図1、地形図データ3および重畳画像が蓄積されているために、例えば、堤防改修等により災害分布図(1)が変更された場合、あるいは地形図が変更された場合にも、重畳画像を変更することにより速やかなアップデートが可能になる。
【0010】
重畳画像の登録は、予めクライアント端末6に編集ツールを含む重畳編集用プログラムを本件サーバからのダウンロード、あるいはCD-ROM等、適宜の媒体を使用して提供した後、クライアント端末6側で編集済みの重畳画像を本件サーバにアップロードすることによって行うことも可能であるが、随時本件サーバと交信しながらハザードマップ10を作成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハザードマップ作成主体にとって作成が簡単で、かつ、河川管理者等にとっては、広範囲での災害対策管理等が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に洪水ハザードマップ10を作成するために構成されたハザードマップ作成支援システムを示す。洪水ハザードマップ作成支援システムは、ハザードマップ作成支援サーバAと複数のクライアント端末6とを適宜のネットワーク5(図示の例ではインターネット回線網)を介して接続して構成される。
【0013】
クライアント端末6には、市区町村等のハザードマップ作成主体の担当者が使用する端末に加え、ハザードマップ10の印刷業者が使用する端末、あるいは一般住民が使用する端末が含まれる。これらクライアント端末6には、サーバAと交信可能なWebブラウザが搭載される。
【0014】
一方、サーバAは、入出力部14と、制御部15と、制御部15内のデータベースアクセス部16を介してアクセスされるデータベース部17とからなる。データベース部17は、洪水シミュレーションによる河川流域の災害分布図1を格納した災害シミュレーションデータベース2と、河川流域の地形図を格納した地形図データベース4と、ハザードマップ作成主体によって設定される重畳画像を格納する重畳画像データベース7とを有して構成される。
【0015】
図2(a)に災害分布図1を、図2(b)に地形図データ3を、図2(c)にこれらを重ね合わせた状態を示す。この実施の形態においては、災害分布図1には、氾濫シミュレーション結果を示すメッシュデータが使用されている。また、災害分布図1は、図3(b)に示すように、浸水深さ等を基準にして複数に区画されているが、図2(a)においては、繁雑さを避けるために、被害発生予想領域の最外郭線のみを示す。さらに、同様の理由で、地形図データ3も市区町村等の境界3aのみを鎖線で示す。
【0016】
以下、図2(b)、(c)に示すように、流域にA〜Hまでの市区町村がある河川(R)流域のE市におけるハザードマップ作成を例にとって本件サーバAの動作を説明する。
ハザードマップ10の作成に際して、まず、E市の担当者は、サーバAに対するアクセス権限を請求する。認証部18にてサーバAとの間の認証が成立すると、サーバAは該当市区町村を含む近傍の地形図データ3に災害分布図1を重ね合わせた暫定画像データをクライアント端末6側に送信する。また、アクセス権限が確定すると、クライアント端末6は、サーバAにアクセスして編集ツールをダウンロードすることができる。
【0017】
編集ツールには、暫定画像データ内で編集権限を画定するためのラバーバンドツール19が含まれており、E市担当者は、ラバーバンドツール19を使用してマップ作成エリアを画定する。マップ作成エリアの画定に当たっては、印刷時の用紙サイズ、縮尺等が考慮され、ラバーバンドツール19は、用紙サイズ、縮尺の組み合わせにより決定される面積のみを指定可能にすることもできる。また、地形図データ3がラスタデータとして格納される場合には、縮尺の増減による画像のぼけの防止や表示スピードの向上のために、複数の縮尺に対応したものを地形図データベース4に格納しておくこともできる。
【0018】
以上のようにしてE市担当者がクライアント端末6上でマップ作成エリアを画定すると、クライアント端末6にインストールされた編集ツールは、上記マップ作成エリア、縮尺、用紙サイズ等のデータをカプセル化した編集権限要求としてサーバAに出力する。
【0019】
上記クライアント端末6からの編集権限要求を受けたサーバAは、認証部18での認証が成立すると、避難情報登録部9において編集権限要求を解析し、上記マップ作成エリアに対応する重畳画像を新規作成し、データベースアクセス部16を経由して、位置、面積等を重畳画像データベース7に登録する。また、重畳画像データベース7の登録と同時に、認証部18の編集権限管理部13は、上記重畳画像に対するインデックス情報と権限管理情報とを関連付け、以後、E市担当者(クライアント端末6)からの編集要求に対して、対応する重畳画像の更新権限を付与する。
【0020】
重畳画像データベース7には、上記インデックス情報に加え、災害分布図1、あるいはこれに対応する地形図データ3による地図空間上の位置情報が付加される。位置情報は、絶対位置情報であっても、あるいは上記地図空間を適宜に区分した区分コードであってもよい。
【0021】
図3(a)に上述のようにして設定されたサーバA上の重畳画像領域を示す。図中重畳画像領域は、ラバーバンドツール19により囲まれた矩形枠で示されている。また、図3(a)において、理解を容易にするために、D市における重畳画像領域も同時に示した。
【0022】
以上のようにして編集権限の設定が終了すると、クライアント端末6の編集ツールはクライアント端末6内にサーバAに出力したのと同一の重畳画像を設定する。編集権限管理部13における権限付与が行われると、このクライアント側重畳画像への編集が可能となり、以後、E市担当者は、この重畳画像を編集し、適宜、編集結果をサーバAにアップロードする。
【0023】
編集結果は、適宜のタブを付けたデータ群としてカプセル化されてサーバAに送信され、編集権限管理部13において認証されると、サーバAは、避難情報登録部9において命令解析した後、重畳画像データベース7内の所定の避難情報8を更新する。
【0024】
図3(b)に重畳画像の編集状態を示す。図3(b)には図2(a)において省略されていた災害分布図1の災害程度の区分が表示されており、浸水深が2m以上のような重度被害領域を右上がりの間隔の狭いハッチングで、浸水深が50cm以下ないし2mの中度被害領域を右下がりのハッチングで、浸水深が50cm以下の軽度被害領域を右上がりの間隔の広いハッチングでそれぞれ示している。また、重度被害領域を赤で、中度被害領域を黄で、軽度被害領域を青でというように色分けして表示してもよい。
【0025】
重畳画像への編集は、架空のレイヤ上に各種の避難情報8を配置して行われる。避難情報8には、後述するテーブルデータ8aや補助データ8bのように、マップ上で自由に配置位置が変えられるマップ内配置位置可変要素が含まれる。これらの要素は、テーブル編集ツールあるいはレイアウト編集ツールを利用して編集することができる
【0026】
テーブル編集ツールは、行政機関一覧、医療施設一覧、ライフライン管理機関一覧、避難場所一覧等をテーブル形式で入力することができるツールであり、予め提供されたテーブルフォーマット内に必要事項を入力することによりテーブルデータ8aを編集することができる。行政機関一覧には、市役所、警察署等の行政機関の、医療施設一覧には病院等の、ライフライン管理期間一覧には電力会社等のそれぞれ名称、所在地、電話番号が示される。また、避難場所一覧には、避難対象地区名、避難施設名、所在地、電話番号が一覧表示される。
【0027】
これらテーブルデータ8aは、重畳画像データベース7に関連付けられてテーブルデータデータベース20に格納され、重畳画像から参照できる。この結果、ハザードマップ10作成完了後であっても、適宜修正したり、あるいは追加することができる。
【0028】
また、上記補助データ8bは予めサーバAに登録されており、市担当者は、レイアウト編集ツールを使用してこれら補助データ8b、および上述した各種テーブルデータ8aを重畳画像上に配置することができる。補助データ8bは、例えば、避難時の心得を記した複数種のイラスト、情報の伝達経路を示す表、地図の見方の説明図、あるいはマップ利用者(市民)の防災メモ欄等であり、市担当者はこれらから好みのものを選択することができる。
【0029】
これらの内容は、配置オブジェクト番号、位置情報としてサーバAに送信され、サーバA側で解析されて重畳画像データベース7に格納される。
図3(b)に示すように、重畳画像にこれら補助データ等の配置場所がないときには、図4に示すように、重畳画像を拡張したり、あるいは、重畳画像に加えてレイアウト用の補助レイヤを提供してスペースを確保することができる。
【0030】
一方、避難場所のマップ上の位置を指示することができるように、画像編集ツールが提供される。画像編集ツールは、重畳画像上に避難場所の位置、避難場所名、および該当区域と避難場所との対応を示すための矢印を描画するためのツールであり、図3(b)は、これらの画像編集ツールを使用し、重畳画像上に、避難場所である○○小学校、○○中学校、○○公民館の位置に名称とともに丸印を付し、さらに、避難場所と地域との対応を示すために矢印を加えた状態を示す。これらの内容は、例えば、矢印がベジェ曲線で定義される場合には、コントロールポイントの特性値が、位置情報は重畳画像上の座標値と、ポイント形状(この実施の形態では丸印)を示す値が、名称に対しては、テキストデータと、配置位置の座標値がサーバAに送信される。
【0031】
これを受信したサーバAは、重畳画像編集部において命令解析した後、重畳画像データベース7に登録する。
図4にハザードマップ10の完成状態を示す。図において、画像上辺にタイトル21が配置され、左辺部に行政機関一覧、医療施設一覧、およびライフライン管理機関一覧が配置される。また、右辺部には、上から順に8種類の避難心得のイラスト、避難場所一覧、および地図の見方の説明図が配置されている。
【0032】
以上のようにして重畳画像に対する編集が終了し、クライアント端末6からサーバAに対してマップ生成要求を出力すると、サーバAは、ハザードマップ生成部11においてハザードマップ10を生成する。ハザードマップ生成部11は、関連データを配置した重畳画像を、対応する災害分布図1と地形図データ3とに重ね合わせ、重畳画像が最前面に表示される1枚のPDFファイルを生成する。
【0033】
生成されたハザードマップ10はデータベース部17のハザードマップデータベース22に格納され、以後、要求に応じてハザードマップ出力部12から出力される。ハザードマップ出力部12からのダウンロードは、市区町村の住民、あるいは市区町村から印刷依頼を受けた印刷業者等が自由に行うことができる。更に、必要に応じて、認証を要求することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を示す機能ブロック図である。
【図2】ハザードマップの構成要素示す図で、(a)は災害分布図、(b)は地形図データ、(c)はこれらの重ね合わせた画像を示す。
【図3】ハザードマップ作成手順を示す説明図で、(a)はラバーバンドツールによりマップ作成領域を区画した状態を示す図、(b)は画像編集ツールによる編集結果を示す図である。
【図4】完成したハザードマップを示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 災害分布図
2 災害シミュレーションデータベース
3 地形図データ
4 地形図データベース
5 ネットワーク
6 クライアント端末
7 重畳画像データベース
8 避難情報
9 避難情報登録部
10 ハザードマップ
11 ハザードマップ生成部
12 ハザードマップ出力部
13 編集権限管理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
災害原因事象発生をシミュレートして得られた災害分布図を格納する災害シミュレーションデータベース、
災害分布図に座標標定された当該シミュレーション範囲内の地形図データを格納する地形図データベース、
ネットワークを通して交信可能なクライアント端末からのハザードマップ作成要求に応じ、前記シミュレーション範囲内に設定されるオーバレイ画像を格納するオーバレイ画像データベース、
前記クライアント端末からの要求に応じてオーバレイ画像に避難場所等の避難情報を登録する避難情報登録部、
前記災害分布図、地形図データおよびオーバレイ画像を重ね合わせてハザードマップを生成するハザードマップ生成部、並びに
前記ハザードマップ生成部において生成されたハザードマップを出力するハザードマップ出力部、
を備えるハザードマップ作成支援サーバ。
【請求項2】
前記避難情報のうち、凡例等のマップ内配置位置可変要素が予め定型化され、
前記クライアント端末からの避難情報登録要求が、要素種類と、マップ内配置位置により特定される請求項1記載のハザードマップ作成支援サーバ。
【請求項3】
前記オーバレイ画像に対する編集権限を当該オーバレイ領域をマップ作成領域として要求したクライアント端末に設定し、管理する編集権限管理部を備える請求項1または2記載のハザードマップ作成支援サーバ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−106124(P2006−106124A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289126(P2004−289126)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000135771)株式会社パスコ (102)
【Fターム(参考)】