説明

ハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法、及びその薄膜化方法

【課題】本発明は、ハチ類の繭タンパク質を極力高純度で効率良く抽出(精製)する方法及び素材利用として実用性の高い形態、すなわち薄膜化方法(成型加工方法)を提供すること。
【解決手段】繊維状タンパク質を含むハチの巣を中性塩水溶液中で繊維状タンパク質を溶解させ、更に、不溶物を分離除去した後、透析することにより中性塩を除去して繊維状タンパク質を得るハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法。また、繊維状タンパク質を含むハチの巣をハロゲン化有機溶媒中で繊維状タンパク質を溶解させ、更に、不溶物を分離除去した後、沈殿剤を加えて沈殿させ、繊維状タンパク質を得るハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法及びその薄膜化方法に関する。
更に詳しくは、ハチ類の幼虫がその下咽頭腺から吐出した繊維状タンパク質を効率良く抽出するための抽出方法及びその薄膜化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ハチの巣はタンパク質や脂肪酸、酵素等が含まれることから、その用途の有用性が期待されている。
巣の中にいるハチの幼虫は、繊維状タンパク質からなる繭を吐糸するため、巣には繊維状タンパク質が大量に存在している。
しかし、スズメバチやアシナガバチは、木くず、枯植物等の雑物を唾液で練り合わせて巣を作り、繭は幼虫が育つ巣房の周囲にのみ存在する。
よって、巣には、このような繊維状タンパク質の他に木くず、枯植物等の雑物、すなわち不純物が多く含まれる。
一方、ミツバチやマルハナバチは、腹部の蝋腺から分泌された蜜蝋で巣を作ることから、蜜蝋を主成分とする不純物を多く含む。
よって、高純度の繊維状タンパク質を得るためには、木くず、蜜蝋等の不純物を分離除去する必要があった。
【0003】
一方、ハチが持つ一部の危険性のために、このような繊維状タンパク質を豊富に含むハチの巣(例えばスズメバチ及びアシナガバチの巣)が、毎年、多数、捕獲駆除されている。
そのためハチの巣自体は、安価にて入手できる利点がある。
因みに、ハチの巣に含まれる繊維状タンパク質は他の昆虫由来のタンパク質、例えばフィブロイン、セリシンよりなる絹タンパク質等と較べて、そのアミノ酸組成が大きく異なっている。
【0004】
参考までに、ハチの巣に含まれるタンパク質と絹タンパク質におけるアミノ酸組成を、図1に示す。
このようにタンパク質のアミノ酸組成が異なることから、ハチの巣に含まれるタンパク質は、例えば絹タンパク質と較べて、異なった特有の性質を有することが分かる。
ところで、絹に関しては、その絹タンパク質を繭から抽出する方法は多く開発されており、更に絹タンパク質の応用分野も明らかにされている(特許文献1)。
それに対して、ハチ類の巣に含まれる繊維状タンパク質を純粋に抽出(精製)する技術は未だ開発されていない。
しかも、抽出した繊維状タンパク質を更に材料用途に適した形状に成型加工する技術も当然なかった。
先述したように、今日でも巣の大部分は廃棄され、ハチの巣が含有するタンパク質が無駄となっていることを踏まえると、その有効成分を利用すべき、抽出方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−70160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、ハチ類の繭タンパク質を極力高純度で効率良く抽出(精製)する方法及び素材利用として実用性の高い形態、すなわち薄膜化方法(成型加工方法)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記のような問題点を解決すべく鋭意研究した結果、ハチの巣に含まれる繊維状タンパク質とそれ以外の雑物とは、特定の処理液を使うことにより、簡単に分離できることを見出し、この知見により、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、(1)、繊維状タンパク質を含むハチの巣を中性塩水溶液又はハロゲン化有機溶媒中に入れて繊維状タンパク質を溶解させ、更に、不溶物を分離除去させるハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法に存する。
【0009】
そして、(2)、繊維状タンパク質を含むハチの巣を中性塩水溶液中に入れて繊維状タンパク質を溶解させ、更に、不溶物を分離除去した後、透析することにより中性塩を除去して繊維状タンパク質を得るハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法に存する。
【0010】
そしてまた、(3)、繊維状タンパク質を含むハチの巣をハロゲン化有機溶媒中に入れて繊維状タンパク質を溶解させ、更に、不溶物を分離除去した後、沈殿剤を加えて沈殿させ、メタノールを加えて沈殿させて繊維状タンパク質を得るハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法に存する。
【0011】
そしてまた、(4)、ハロゲン化有機溶媒としてトリフロロ酢酸を使った場合には、4℃以下にて溶解させる上記(1)記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法に存する。
【0012】
そしてまた、(5)、フィルター又は遠心分離器により不溶物を分離除去する上記(1)記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法に存する。
【0013】
そしてまた、(6)、ハロゲン化有機溶媒はジクロロ酢酸、トリフロロ酢酸、ヘキサフロロイソプロパノール、又はヘキサフロロアセトンの溶媒である上記(1)記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法に存する。
【0014】
そしてまた、(7)、中性塩水溶液は、臭化リチウム、塩化カルシウム、銅エチレンジアミン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸リチウム、又は硝酸マグネシウムの水溶液である上記(1)記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法に存する。
【0015】
そしてまた、(8)、 沈殿剤としては、メタノール、エタノール、又はエーテルを使用する上記(3)記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法に存する。
【0016】
そしてまた、(9)、繊維状タンパク質を溶解させた中性塩水溶液から透析して得た水溶液、又はハロゲン化有機溶媒を平板上で風乾してフィルム状の繊維状タンパク質を得るハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の薄膜化方法に存する。
【0017】
そしてまた、(10)、平板として、ポリスチレン製の平板を使用する上記()記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の薄膜化方法に存する。
【0018】
本発明の目的に沿ったものであれば上記(1)から(10)の組み合わせも構成可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、ハチの巣から繊維状タンパク質を取り出すために、繊維状タンパク質を含むハチの巣を中性塩水溶液又はハロゲン化有機溶媒中に入れて繊維状タンパク質を溶解させ、更に、不溶物を分離除去させる手法を採用しているため、数時間で溶解が可能となり、極めて効率よく繊維状タンパク質を抽出することができる。
また、繊維状タンパク質を溶解させたハロゲン化有機溶媒又は中性塩水溶液を平板上で風乾することで、簡単にフィルム状の繊維状タンパク質を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、繊維状タンパク質を含むハチの巣から効率良く、繊維状タンパク質を抽出するものである。
ハチの巣とは、ハチ(例えば、ミツバチ、スズメバチ、アシナガバチ、マルハナバチ等)によって形成された巣をいい、ハチの種類によってその形態も異なるが、それらの全部を含むものである。
【0021】
因みに、ハチの幼虫は上咽喉腺から蝋物質を吐出し(吐糸)、それに木クズ等を絡ませて巣を形成するが、この吐出した糸状の蝋物に多くの繊維状タンパク質が含まれている。
この繊維状タンパク質の成分は先述した図1に示すように、複数種類のアミノ酸より成り立っている。
【0022】
因みに、絹タンパク質と較べて、グリシンが1/4以下と少なく、アルギニン、スレオニン、グルタミン酸が5倍と多く含まれるアミノ酸構成となっており、特有の性質を有するものである。
巣に含まれる繊維状タンパク質は、ハロゲン化有機溶媒又は中性塩水溶液に効率良く溶解するものである。
【0023】
ここで、ハロゲン化有機溶媒としては、ジクロロ酢酸、トリフロロ酢酸、ヘキサフロロイソプロパノール、又はヘキサフロロアセトン等の溶媒がある。
ヘキサフロロイソプロパノール及びヘキサフロロアセトンの水和物溶液は、トリフロロ酢酸と比較して非常に安定性がある。
また、中性塩水溶液としては、臭化リチウム、塩化カルシウム、銅エチレンジアミン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸リチウム、又は硝酸マグネシウムの水溶液が挙げられる。
【0024】
一方、巣を構成する木くず等の不純物(これらにより巣の骨格や表皮が形成される)は、上記のハロゲン化有機溶媒や中性塩水溶液には不溶である。
尚、ミツバチやマルハナバチが作る蜜蝋も、上記のハロゲン化有機溶媒や中性塩水溶液には不溶である。
従って、ハチの巣をこれらの処理液に加えて(浸して)攪拌し、可溶成分である繊維状タンパク質とそれ以外の不溶成分とに分離することで、ハチの巣に含まれる繊維状タンパク質を得ることができる。
【0025】
ハロゲン化有機溶媒の中にはタンパク質を分解する恐れがあるものも存在するので、その場合の溶解は、4℃以下にまで冷やして分解を防ぐ。
4℃以下では分解が殆ど生じなく、また0℃より温度を下げてマイナス温度とすると溶解速度が低下するようになる。
そのため、簡単な具体的な操作としては、トリフロロ酢酸への溶解においては、氷冷して分解を防ぐ方法を採用する(実施例4参照)。
この場合、可溶成分(繊維状タンパク質)と不溶成分(不純物)を分離するのは、処理液をフィルターに通すことによって行う。
【0026】
また、別の方法としては、処理液を遠心分離機で分離することによって、不純物を除去できる。 ハロゲン化有機溶媒に溶解した繊維状タンパク質成分は、タンパク質の溶解性を低下させる沈殿剤を加えることによって不溶化させて回収できる。
ここで沈殿剤としては、メタノール、エーテル、エタノール等が採用される。
【0027】
また中性塩水溶液に溶解した繊維状タンパク質成分は、透析膜を使った透析によって中性塩成分を除去することができる。
例えば、具体的には、臭化リチウム溶液においては、セルロース製の透析チューブを使って臭化リチウムを除去している(実施例1参照)。
なお、透析の過程で大部分のタンパク質成分が沈殿するが、一部は溶解することがある。
【0028】
その場合、透析後の溶液をフィルターを通してろ過、もしくは遠心分離することによって、固化したタンパク質と、水溶液状態のタンパク質を得ることができた。
いずれの分画成分も、乾燥することによって粉体として回収できた。
水に可溶なタンパク質成分から得られた粉末試料は、非常に吸湿性に富んでおり、空気中では容易に水分を吸収した。
【0029】
〔薄膜化方法〕
本発明でタンパク質をフィルム状に薄膜化するためには、上述したような不純物を除去した後、さらに透析をして脱塩して得られたタンパク質を含む水溶液を、平板(例えばシャーレ)上で風乾(すなわちキャスト)することで可能となる。
また、上述したような不純物を除去した後のタンパク質を含むハロゲン化有機溶液を平板上で風乾することで可能となる。
さらにまた、上述したような不純物を除去した後の高濃度のタンパク質を含むハロゲン化有機溶液を平版上に流延し、そこに沈殿剤を加えてハロゲン化有機溶媒を抽出し、固化したタンパク質のフィルムを常温、加圧下で乾燥することによって可能となる。
特に、この方法はジクロロ酢酸(DCA)を溶媒とした場合に有効となる。
【0030】
この場合、フィルムの透明性は溶媒の揮発速度に依存する。
従って、透明性の高いフィルムを得るためには、ハロゲン化有機溶媒の中でもトリフロロ酢酸等の揮発性の高い溶媒よりも、ヘキサフロロイソプロパノール等の揮発性の比較的低い溶媒を用いる方が好ましい。
しかしながら、トリフロロ酢酸は溶解性に優れ、且つ、揮発性が高いことから、フィルム化までの工程時間が短くなるという長所がある。
【0031】
一方、不純物を除去した後の中性塩水溶液及びハロゲン化有機溶媒においては、平板の材質によってフィルムの剥がれ易さが異なる。
平板の材質としては、ガラスは不適当であり、プラスチック製、例えば、ポリテトラフルオロエチレン製又はポリスチレン製の平板が好ましい。
次に本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例にのみ限定されるものではないことは当然である。
【実施例】
【0032】
〔実施例1〕(中性塩水溶液による方法)
〔不純物除去〕
まず臭化リチウム(LiBr)を蒸留水に溶解して中性塩水溶液である9mol/1 LiBr 水溶液を調製した。
この水溶液にスズメバチの巣を40℃にて、1時間程度、タンパク質成分の溶け残りが無くなるまで攪拌した(ここでは、200mg の繭を9mol/1
LiBr
水溶液に溶解した)。
得られた水溶液をガラスフィルター(G−1)で吸引濾過して、不溶成分を分離させ取り除いた。 実験で出発原料となるスズメバチの巣は、木くず等を主成分としているが、これらの巣構成成分は、いずれも、9mol/1 LiBr 水溶液に不溶であるために、不溶成分として除去させた。
結果として、タンパク質のみが選択的に溶解したLiBr水溶液が得られた。
【0033】
〔タンパク質水溶液の作製〕
上記方法で得られたタンパク質の9mol/1
LiBr
水溶液をセルロース製の透析膜チューブ(Wako シームレスセルロースチューブ、小サイズ18) に入れ、蒸留水中で室温にて4 日間透析し、LiBrを除去した(水溶液1)。
これで純粋なタンパク質水溶液が得られた。
尚、透析過程でタンパク質の一部が固化している現象が視認できた。
透析した後、ガラスフィルター(G−4)を通して固化したタンパク質が含まれていないタンパク質水溶液を得た。
【0034】
〔タンパク質粉末の作製〕
上記のLiBrを除去した水溶液(水溶液1)を凍結乾燥し、粉砕することでタンパク質の粉末を得た。
また、透析過程で固化したタンパク質を乾燥することによっても、同様の粉末が得られた。
更に、透析過程で固化したタンパク質を除いたタンパク質水溶液を凍結乾燥することによっても粉末が得られたが、この粉末は非常に吸湿性が高い。
【0035】
〔薄膜化〕
上記、透析過程で固化したタンパク質を除いたタンパク質水溶液をプラスチックシャーレ〔(株)イナ・オプティカ製 Bio-BIK 滅菌シャーレ〕に流延し、室温にて2日間静置して溶媒を蒸発させた。
プラスチックシャーレ表面に透明な薄膜が形成された。
この薄膜をナイフを使ってプラスチックシャーレ表面から一部を無理やり剥がしたら、小さいフィルム片が得られた。
なお、ガラス製シャーレを使った場合は、剥離は無理であった。
【0036】
〔実施例2〕(ハロゲン化有機溶媒による方法)
〔不純物除去〕
まずヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)の水和物を調製した。
このHFIPにスズメバチの巣を加えて室温にて、一昼夜攪拌し、繊維状タンパク質を完全に溶解させた(200mgの巣を10mlのHFIPの水和物に溶解した)。
【0037】
因みに、ここではタンパク質の溶解が一昼夜(半日程度)という短時間で行われたが、絹タンパクをヘキサフロロイソプロパノール水和物で溶解する場合には、2ヶ月という長時間の攪拌が必要である。
得られた水和物をガラスフィルター(G−1)で吸引濾過して、不溶成分を取り除いた(溶液1)。
結果として、タンパク質のみが選択的に溶解したHFIP溶液が得られた。
【0038】
〔粉末化〕
上記の不溶成分を取り除いた低濃度のタンパク質のHFIP溶液に沈殿剤として機能するメタノールを加えて溶解度を低下させ(尚、タンパク質のHFIP溶液を沈殿剤中に滴下してもよい)、繊維状タンパク質を沈殿させた。
この溶液(沈殿物を含む)をガラスフィルター(G−4) で減圧濾過して、繊維状タンパク質を分離させて取り出した。
分離したタンパク質を減圧乾燥することによって、粉末が得られた。
【0039】
〔薄膜化〕
上記不溶成分を取り除いた溶液1をプラスチックシャーレ〔(株)イナ・オプティカ製 Bio-BIK 滅菌シャーレ〕に流延し、室温にて2日間静置して溶媒を蒸発させた。
プラスチックシャーレに付着している透明な物質を剥がすことにより、繊維状タンパク質のフィルムが得られた。
このフィルム試料の固体NMR スペクトルが、捕獲した巣に含まれる状態の未処理の繊維状タンパク質の固体NMR スペクトルとほぼ一致したことより(図2参照)、薄膜化後もタンパク質の構造が維持されていることが分かる。
また、この固体NMR スペクトルから、薄膜化したフィルム状タンパク質の高次構造がβシートとαへリックス構造を有していることも明らかである。
参考までに、直径90mmのシャーレを用いた場合、タンパク質試料は40mg以上を必要とし、溶媒は2ml以上を必要とした。
タンパク質試料の量を40mg使用した場合、フィルムの厚さは、約0.1mmのものが得られた。
一方、既製のガラス製シャーレで同様な操作を行ったが、プラスチックシャーレに較べて剥離性が極めて悪かった。
【0040】
〔実施例3〕(ハロゲン化有機溶媒による方法)
〔不純物除去〕
まずヘキサフロロアセトン(HFA) の水和物を調製した。
このHFA にスズメバチの巣を加えて室温にて、一昼夜攪拌し、繊維状タンパク質を完全に溶解させた(200mgの巣を10mlのHFA の水和物に溶解した)。
得られた水和物をガラスフィルター(G−1) で減圧濾過して、不溶成分を取り除いた(溶液2)。
結果として、タンパク質のみが選択的に溶解したHFA 溶液が得られた。
【0041】
〔粉末化〕
上記の不溶成分を取り除いた溶液2(尚、溶液の粘性が高い場合には、HFA を加えてタンパク質濃度を低くしてもよい)にメタノールを加えて溶解度を低下させて(尚、タンパク質のHFA 溶液を沈殿剤中に滴下してもよい)繊維状タンパク質を沈殿させた。
この溶液(沈殿物を含む)をガラスフィルター(G−4) で減圧濾過して、繊維状タンパク質を分離させて取り出した。
分離したタンパク質を減圧乾燥することによって、粉末が得られた。
【0042】
〔薄膜化〕
上記不溶成分を取り除いた溶液2をプラスチックシャーレ〔(株)イナ・オプティカ製 Bio-BIK 滅菌シャーレ〕に流延し、室温にて2日間静置して溶媒を蒸発させた。
プラスチックシャーレに付着している透明な物質を剥がすことにより、繊維状タンパク質のフィルムが得られた。
【0043】
〔実施例4〕(ハロゲン化有機溶媒による方法)
〔不純物除去〕
まずトリフロロ酢酸(TFA) を調製した。
このTFA にハチの巣を加えて氷冷して、10分間、攪拌し、繊維状タンパク質を完全に溶解させた(200mgの巣を10mlTFAに溶解した)。
得られたTFA溶液をガラスフィルター(G−1) で減圧濾過して、不溶成分を取り除いた。
結果として、タンパク質のみが選択的に溶解したTFA 溶液(酢酸溶液1)が得られた。
【0044】
〔粉末化〕
上記不溶成分を取り除いたトリフロロ酢酸(酢酸溶液1)(尚、溶液の粘性が高い場合には、FTA を加えてタンパク質濃度を低くしてもよい)にメタノールを加えて溶解度を低下させて(尚、タンパク質のTFA 溶液を沈殿剤中に滴下してもよい)、繊維状タンパク質を沈殿させた。
このトリフロロ酢酸(沈殿物を含む)をガラスフィルター(G−4) で減圧濾過して、繊維状タンパク質を分離させて取り出した。
分離したタンパク質を減圧乾燥することによって、粉末が得られた。
【0045】
〔薄膜化〕
上記不溶成分を取り除いた酢酸溶液1をプラスチックシャーレ〔(株)イナ・オプティカ製 Bio-BIK 滅菌シャーレ〕に流延し、室温にて、1時間程度、静置して溶媒を蒸発させた。
プラスチックシャーレに付着している透明な物質を剥がすことにより、タンパク質のフィルムが得られた。
一方、既製のガラス製シャーレで同様な操作を行ったが、プラスチックシャーレに較べて剥離性が極めて悪かった。
【0046】
〔比較例〕(中性塩水溶液及びハロゲン化有機溶媒以外の方法でギ酸を使った場合)
まず、ギ酸を調製した。
このギ酸にスズメハチの巣を加えて室温にて、攪拌し続けたが、ハチの巣には殆ど変化はなく溶解することはなかった。
温度を上げて又は下げて同様に攪拌し続けたが同様な結果となった。
【0047】
〔比較例〕(中性塩水溶液及びハロゲン化有機溶媒以外の方法で尿素を使った場合)
まず、尿素を蒸留水に溶解して9mol/1の尿素水溶液を調製した。
この尿素水溶液にスズメハチの巣を加えて室温にて、攪拌し続けたが、ハチの巣には殆ど変化はなく溶解することはなかった。
温度を上げて又は下げて同様に攪拌し続けたが同様な結果となった。
【0048】
〔実施例5〕(ハロゲン化有機溶媒による方法)
〔不純物除去〕
まずジクロロ酢酸(DCA) の水和物を調製した。
このジクロロ酢酸にスズメバチの巣を加えて室温にて、2時間程度攪拌し、繊維状タンパク質を
完全に溶解させた(200mgの巣を10mlのDCA に溶解した)。
得られた水和物をガラスフィルター(G−1) で減圧濾過して、不溶成分を取り除いた(溶液3)。
結果として、タンパク質のみが選択的に溶解したDCA 溶液が得られた。
【0049】
〔粉末化〕
上記の不溶成分を取り除いた溶液3(尚、溶液の粘性が高い場合には、DCA を加えてタンパク質濃度を低くしてもよい)にメタノールを加えて溶解度を低下させて(尚、タンパク質のDCA 溶液を沈殿剤中に滴下してもよい)、繊維状タンパク質を沈殿させた。
この溶液(沈殿物を含む)をガラスフィルター(G−4) で減圧濾過して、繊維状タンパク質を分離させて取り出した。
分離したタンパク質を減圧乾燥することによって、粉末が得られた。
【0050】
〔薄膜化〕
上記不溶成分を取り除いた溶液3をプラスチックシャーレ〔(株)イナ・オプティカ製 Bio-BIK 滅菌シャーレ〕に流延し、室温にて乾風を吹きつけ数日間静置した。
しかし、DCA の揮発性は低く、高い効率で薄膜を得ることができなかった。
そこで、タンパク質の濃度を高くした溶液3を調製し、シャーレ上に流延した後、沈殿剤(好ましくはメタノール)を流延した溶液3の表面に徐々に加えて溶液3と沈殿剤を2層に分離した。
この状態で放置したら、溶液3の中に存在するDCA 溶媒が、沈殿剤側の層に移行した。
沈殿剤を3回以上交換することで、ほぼ完全に溶液3からDCA が除かれ、タンパク質だけが残った。
このようにしてシャーレ表面上に残ったタンパク質は、透明でゲル状の弾力性に富んだ膜となっていた。
このタンパク質よりなる膜を取り出して、平板で挟み、常温にて加圧下で2日間乾燥することによって、薄膜が得られた。
【0051】
〔評価〕
さて、以上の実験(実施例1〜5及び比較例)における溶解性、揮発性、安定性を図3に一覧で示した。
薄膜化方法によって得られたフィルム(実施例1〜5)は、水に不溶であった。
これは、固体NMR 測定(図2参照)を見れば、βシートとαへリックス構造(結晶性の高い構造)であることに起因するものであることが理解できよう。
なお、図2は、巣に含まれる未処理の繊維状タンパク質、及び薄膜化によるフィルムのタンパク質における固体NMR スペクトルを比較して示す。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、ハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法、及び薄膜化方法に関するものであるが、繊維状タンパク質のもつ特有の性質を利用して、医療、化粧品等を含む種々の分野への適用が可能であり、また出発原料が大量に調達できる点からもコスト的に有利であり産業上の利用価値も極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、ハチの巣に含まれるタンパク質と絹タンパク質におけるアミノ酸組成を示す。
【図2】図2は、巣に含まれる未処理の繊維状タンパク質、及び薄膜化によるフィルムのタンパク質における固体NMR スペクトルを比較して示す図である。
【図3】図3は、実施例1〜5及び比較例における溶解性、揮発性、安定性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状タンパク質を含むハチの巣を中性塩水溶液中又はハロゲン化有機溶媒中で繊維状タンパク質を溶解させ、更に、不溶物を分離除去させることを特徴とするハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法。
【請求項2】
繊維状タンパク質を含むハチの巣を中性塩水溶液中で繊維状タンパク質を溶解させ、更に、不溶物を分離除去した後、透析することにより中性塩を除去して繊維状タンパク質を得ることを特徴とするハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法。
【請求項3】
繊維状タンパク質を含むハチの巣をハロゲン化有機溶媒中で繊維状タンパク質を溶解させ、更に、不溶物を分離除去した後、沈殿剤を加えて沈殿させ、繊維状タンパク質を得ることを特徴とするハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法。
【請求項4】
ハロゲン化有機溶媒としてトリフロロ酢酸を使った場合には、4℃以下にて溶解させることを特徴とする請求項1記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法。
【請求項5】
フィルター又は遠心分離器により不溶物を分離除去することを特徴とする請求項1記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法。
【請求項6】
ハロゲン化有機溶媒はジクロロ酢酸、トリフロロ酢酸、ヘキサフロロイソプロパノール、又はヘキサフロロアセトンの溶媒であることを特徴とする請求項1記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法。
【請求項7】
中性塩水溶液は、臭化リチウム、塩化カルシウム、銅エチレンジアミン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸リチウム、又は硝酸マグネシウムの水溶液であることを特徴とする請求項1記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法。
【請求項8】
沈殿剤としては、メタノール、エタノール、又はエーテルを使用することを特徴とする請求項3記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の抽出方法。
【請求項9】
繊維状タンパク質を溶解させた中性塩水溶液から透析して得た水溶液、又はハロゲン化有機溶媒を平板上で風乾してフィルム状の繊維状タンパク質を得ることを特徴とするハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の薄膜化方法。
【請求項10】
平板として、ポリスチレン製の平板を使用することを特徴とする請求項記載のハチの巣に含まれる繊維状タンパク質の薄膜化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−265307(P2010−265307A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163431(P2010−163431)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【分割の表示】特願2004−225153(P2004−225153)の分割
【原出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(504294293)有限会社藤原養蜂場 (3)
【Fターム(参考)】