説明

ハッチカバーの昇降と水平移動を電動ウインチにより一連に駆動するハッチカバー開閉装置

【課題】水平移動機構の動力源である電動ウインチによる牽引力を昇降機構に伝えてハッチカバーの昇降と水平移動を一連に駆動する、ハッチカバー開閉機構の新規な構成を提供する。
【解決手段】プーリングアーム9は、ハッチカバー3がハッチの直前から真上位置まで変位する際、第3軸8を中心に第1位置から第2位置に回動しつつカム連動レバー11を回動させ、断片レール部材14a,14bを水平位置に固定していた昇降カム12を回動させ、断片レール部材を傾斜位置に変位させ、真上位置に達したハッチカバーを密閉位置に降下させる。プーリングアームは、ハッチカバーが密閉位置にあって牽引索が開方向に引かれると、第2位置から第1位置に回動しつつカム連動レバーを回動させ、昇降カムを回動させて断片レール部材を傾斜位置から水平位置に変位させて固定し、ハッチカバーを真上位置に上昇させ、アームロック機構により第1位置に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、貨物船のデッキ上においてハッチを開閉するローリング式ハッチカバーに関し、とくに、電動ウインチによりハッチカバーの昇降と水平移動を一連に駆動する改良された装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、一般的な貨物船のサイドローリング式ハッチカバーの開閉はつぎのように行われる。
(A)ハッチのコーミングに密接してハッチを完全に塞いでいるハッチカバー(この状態を密閉位置とする)を平行に上昇させ、ハッチカバーをハッチコーミングから引き離し、ハッチカバーの車輪をレールの位置に合わせる(この状態を真上位置とする)。
(B)真上位置のハッチカバーをレールに沿って水平移動させ、ハッチ上方から完全に離れた位置にもっていく(この状態を開放位置とする)。
(C)開放位置にあるハッチカバーをレールに沿ってハッチの真上位置まで水平移動させる。
(D)真上位置のハッチカバーを密閉位置まで平行に下降させ、ハッチコーミングに密接させる。
【0003】
周知のように、この種のハッチカバー開閉装置において、従来の多くのものは、ハッチカバーを密閉位置と真上位置の間を昇降させる駆動機構と、ハッチカバーを真上位置と開放位置との間をレールに沿って水平移動させる駆動機構とが別々の動力源を用いた構成になっていた。
【0004】
また周知のように、上記の従来技術にはいろいろな改善すべき点があったので、実公昭47−28878号公報、特開2006−290225号公報、特開2008−94359号公報に記載されているように、ハッチカバーの昇降と水平移動とをひとつの動力源により一連に駆動するように構成されたハッチカバー開閉装置が発明された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実公昭47−28878号公報に記載された発明は、ハッチカバーを搭載した状態のレール全体を平行移動させることによって、ハッチに対してハッチカバーを昇降させる構成であるため、レールが長くて重量の嵩む大型のサイドローリング式ハッチカバーには不向きである。
【0006】
特開2006−290225号に記載された発明は、自動車のスイングアーム式懸架装置のように、スイングアームを介して車輪をハッチカバーに取り付け、スイングアームの角度によってハッチカバーとレールの間隔を変える構成であるため、カバー重量を受け続ける車輪の懸架装置の部分に負担が継続的に集中することとなり、耐久性に難点がある。
【0007】
特開2008−94359号公報に記載された発明は、電動機の回転動力を差動歯車装置および2つの切り替え式制動機により昇降駆動用と水平移動用に振り分ける構成であるため、回転動力の振り分け制御の機構も含めて、全体としてきわめて複雑な構成になり、動きもぎこちないものになるという難点がある。
【0008】
この発明の目的は、水平移動機構の動力源である電動ウインチによる牽引力を合理的に昇降機構に伝えてハッチカバーの昇降と水平移動を一連に駆動する、簡単な構成で耐久性に富むハッチカバー開閉機構の改良された新規な構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るハッチカバー開閉装置は、つぎの事項(1)〜(14)により特定されるものである。
(1)ハッチカバーは、複数個の車輪を備え、デッキに配設されたレール上に搭載され、レールに沿って走行自在であること
(2)ハッチカバーは、電動ウインチに巻かれた牽引索に結ばれており、ハッチの真上位置とハッチから外れた開放位置との間を電動ウインチにより駆動されて往復移動すること
(3)ハッチカバーの各車輪は、ハッチカバーが真上位置にあるとき、レールの一部をなしている断片レール部材の上にあること
(4)断片レール部材は、デッキ側部材にレール方向と直行する水平な第1軸を中心に回動自在に取り付けられていること
(5)断片レール部材は、レール面がレールとほぼ同じ高さになる水平位置と、レール面が下方に傾斜する傾斜位置との間を、第1軸を中心に回動可能であること
(6)複数の車輪に対応した複数の断片レール部材は、連動リンク機構により連結されており、同期して一斉に水平位置と傾斜位置の間を変位すること
(7)断片レール部材は、昇降カムにより傾斜位置から水平位置に変位されて固定可能であること
(8)昇降カムは、カム連動レバーと一体に、デッキ側部材にレール方向と直行する水平な第2軸を中心に回動自在に取り付けられていること
(9)カム連動レバーは、ハッチカバーが真上位置の直前から密閉位置にあるとき、ハッチカバー側部材に取り付けられたプーリングアームに連動すること
(10)プーリングアームは、ハッチカバー側部材にレール方向と直行する水平な第3軸を中心に回動自在に取り付けられ、その先端部分に牽引索が結合されていること
(11)プーリングアームは、ハッチカバーが牽引索に引かれてレール上を移動する状態においては、ハッチカバー側部材に設けられたアームロック機構により第1位置に固定されていること
(12)アームロック機構は、ハッチカバーが牽引索に引かれて真上位置の直前に達した際、デッキ側部材に取り付けられたストッパーに当たってプーリングアームの固定を解除して回動自在にすること
(13)プーリングアームは、ハッチカバーが前記直前から真上位置まで変位する際、第3軸を中心に第1位置から第2位置に回動しつつカム連動レバーを回動させ、断片レール部材を水平位置に固定していた昇降カムを回動させ、断片レール部材を傾斜位置に変位させ、真上位置に達したハッチカバーを密閉位置に降下させること
(14)プーリングアームは、ハッチカバーが密閉位置にあって牽引索が開方向に引かれると、第2位置から第1位置に回動しつつカム連動レバーを回動させ、昇降カムを回動させて断片レール部材を傾斜位置から水平位置に変位させて固定し、ハッチカバーを真上位置に上昇させ、アームロック機構により第1位置に固定されること
【発明の効果】
【0010】
ハッチカバーには前記プーリングアームが取り付けられ、電動ウインチに巻かれた牽引索が前記プーリングアームに結ばれており、この牽引索でハッチカバーを開方向および閉方向に引くだけで、前記断片レール部材を水平位置と傾斜位置に変位させ、ハッチカバーを密閉位置から真上位置に上昇させてから開方向に移動させるとともに、閉方向の移動終了時に真上位置から密閉位置に下降させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施例装置の全体概略図である。
【図2】同装置の昇降機構(真上位置)の詳細図である。
【図3】同装置の昇降機構(密閉位置)の詳細図である。
【図4】同装置の昇降機構(真上位置)の別視点の詳細図である。
【図5】同装置の昇降機構(密閉位置)の別視点の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
===装置の概観===
貨物船のデッキにおけるハッチカバー部分の全体的な概観を図1に示している。デッキの中央部にハッチ1のコーミングがあり、その両側にレール2が船幅方向に平行に配設されている。ハッチ1を塞ぐ2枚のハッチカバー3は、両脇にそれぞれ2個の車輪6を備えており、2本のレール2の上に搭載され、レール2に沿って走行可能となっている。
【0013】
デッキ上に固定された電動ウインチ4により駆動されるチェーン5がレール2に沿って掛け回されており、ハッチカバー3の両脇に取り付けられたプーリングアーム9の先端部分にチェーン5が結合されている。
【0014】
電動ウインチ4を正転させると、ハッチカバー3はチェーン5に引かれてレール2上を開方向に移動する。電動ウインチ4を逆転させると、ハッチカバー3はチェーン5に反対方向に引かれてレール2上を閉方向に移動する。
【0015】
図1において、2枚のハッチカバー3が船体中心線の位置で突き合わされた状態が、前述したハッチ1の真上位置である。ハッチカバー3は真上位置から開方向に移動し、ハッチ1の開口から完全に離れた開放位置に達する。
【0016】
===断片レール部材14a・14b===
図2と図4は、ハッチカバー3が真上位置にある状態での昇降機構を示している。また図3と図5は、ハッチカバー3がハッチコーミングに密接した密閉位置にある状態での昇降機構を示している。
【0017】
図1〜図3に示すように、ハッチカバーの各車輪は、ハッチカバー3が真上位置にあるとき、レール2の一部をなしている断片レール部材14a・14bの上にある。断片レール部材14a・14bは、デッキ側部材(ハッチコーミング側面に取り付けられたブラケット15a・15b)にレール方向と直行する水平な第1軸16a・16bを中心に回動自在に取り付けられている。
【0018】
断片レール部材14a・14bは、図2に示すようにレール面がレール2とほぼ同じ高さになる水平位置と、図3に示すようにレール面が下方に傾斜する傾斜位置との間を、第1軸16a・16bを中心に回動可能である。断片レール部材14aと14bは、連動リンク17により連結されており、同期して一斉に水平位置と傾斜位置の間を変位する。
【0019】
===昇降カム12とカム連動レバー11===
図2〜図5に示すように、断片レール部材14aは、昇降カム12により傾斜位置から水平位置に変位されて固定可能である。昇降カム14aは、カム連動レバー11と一体に、デッキ側部材(ハッチコーミング側面に取り付けられたブラケット15a)にレール方向と直行する水平な第2軸12aを中心に回動自在に取り付けられている。
【0020】
図2・図4に示すのは、昇降カム12により断片レール部材14aを下から押し上げて水平位置に固定している状態である。この状態から昇降カム12とカム連動レバー11が時計方向に回動すると、図3・図5に示すように、ハッチカバー3の自重により断片レール部材14aが第1軸16aを中心に反時計方向に回動して傾斜位置になる。
【0021】
上述したように、断片レール部材14aと14bは連動する。したがって、昇降カム12とカム連動レバー11が時計方向に回動すると、ハッチカバー3は真上位置から平行に下降変位し、ハッチコーミングに密接した密閉位置となる(図3・図5)。反対に、昇降カム12とカム連動レバー11が反時計方向に回動すると、ハッチカバー3は断片レール部材14a・14bにより密閉位置から平行に上昇変位し、ハッチコーミングから引き離され、車輪6がレール2の高さに揃う真上位置となる(図2・図4)。
【0022】
===プーリングアーム9===
カム連動レバー11を上記のように回動させるのは、チェーン5に引かれるプーリングアーム9である。プーリングアーム9は、ハッチカバー側部材(筒型ブラケット7)にレール方向と直行する水平な第3軸8を中心に回動自在に取り付けられている。
【0023】
カム連動レバー11の先端は二股になって先端溝を形成している。以下の説明から明らかになるが、ハッチカバー3が真上位置・密閉位置にある場合、プーリングアーム9の中間部分に固設されたピン10がカム連動レバー11の先端溝に入り込んでいる。この状態をアーム/レバー結合状態と称する。
【0024】
===密閉位置から真上位置へ===
アーム/レバー結合状態において、プーリングアーム9の下端に結ばれたチェーン5が電動ウインチ4により開方向に引かれると、プーリングアーム9は反時計方向に回動して、図2・図4に示すように、時計文字盤のほぼ4時の位置(前記の第1位置に相当)で止まる(理由は後述)。プーリングアーム9の反時計方向の回動に連動し、結合状態のカム連動レバー11も反時計方向に回動し、昇降カム12により断片レール部材14a・14bを水平位置に押し上げ、ハッチカバー3を密閉位置から真上位置に上昇させる。
【0025】
===アームロック機構===
プーリングアーム9は、反時計方向に第1位置(時計の4時の位置)まで回動すると、その状態にロックされる。そのようなアームロック機構がある。アームロック機構の主要素は、ハッチカバー3の車輪ブラケット21に取り付けられたフック13と、プーリングアーム9の右側部に取り付けられフッキングピース25である。
【0026】
フック13は、軸13aを中心に所定範囲回動自在であり、かつ、フック13の自重により反時計方向に回転力が働いている。プーリングアーム9がチェーン5に引かれて反時計方向に回動すると、第1位置にてフッキングピース25が車輪ブラケット21に設けられたストッパー26に当たり、また、フッキングピース25がフック13に引っかかる。これによってプーリングアーム9が第1位置にロックされる。
【0027】
===真上位置から開方向に移動する===
ハッチカバー3が図2・図4に示す真上位置にあり、プーリングアーム9が第1位置にロックされている状態において、チェーン5がさらに開方向に引かれると、ハッチカバー3はチェーン5に引かれて開方向にレール2上を移動する。このとき、第1位置にロックされているプーリングアーム9のピン10がカム連動レバー11の先端溝から抜け出して開方向に移動する。つまりアーム/レバー結合状態でなくなる。
【0028】
===閉方向に移動して真上位置に達する===
開放位置まで移動したハッチカバー3を閉方向に移動させる場合、電動ウインチ4を逆転させ、チェーン5を閉方向に引く。このときプーリングアーム9は第1位置にロックされたままの状態で、チェーン5の牽引力をハッチカバー3に伝える。
【0029】
閉方向に移動するハッチカバー3が真上位置に到達すると、フック13の下端左側がデッキ側部材(ハッチコーミング側面のブラケット15a)に取り付けられたストッパー27に当たってフック13が反時計方向にすこし回動して、第1位置に拘束していたプーリングアーム9を解放する。ほとんど同時に、第1位置のプーリングアーム9のピン10がカム連動レバー11の先端溝に入り込み、アーム/レバー結合状態となる。
【0030】
===真上位置から密閉位置へ===
さらにチェーン5が閉方向に引かれると、真上位置に達したハッチカバー3はそれ以上水平方向に移動することはなく、プーリングアーム9がチェーン5に引かれて時計方向に回動し、図3・図5に示すように時計文字盤のほぼ8時の位置(前記の第2位置に相当)になる。このときのプーリングアーム9の動きに連動してカム連動レバー11が昇降カム12とともに時計方向に回動し、ハッチカバー3の自重により断片レール部材14aが第1軸16aを中心に反時計方向に回動して傾斜位置になる。これによりハッチカバー3は真上位置から平行に下降変位し、ハッチコーミングに密接した密閉位置となる。
【符号の説明】
【0031】
1 ハッチ
2 レール
3 ハッチカバー
4 電動ウインチ
5 チェーン
6 車輪
7 筒型ブラケット
9 プーリングアーム
10 ピン
11 カム連動レバー
12 昇降カム
13 フック
14a・14b 断片レール部材
15a・15b ブラケット
17 連動リンク
21 車輪ブラケット
25 フッキングピース
26 ストッパー
27 ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
つぎの事項(1)〜(14)により特定されるハッチカバー開閉装置。
(1)ハッチカバーは、複数個の車輪を備え、デッキに配設されたレール上に搭載され、レールに沿って走行自在であること
(2)ハッチカバーは、電動ウインチに巻かれた牽引索に結ばれており、ハッチの真上位置とハッチから外れた開放位置との間を電動ウインチにより駆動されて往復移動すること
(3)ハッチカバーの各車輪は、ハッチカバーが真上位置にあるとき、レールの一部をなしている断片レール部材の上にあること
(4)断片レール部材は、デッキ側部材にレール方向と直行する水平な第1軸を中心に回動自在に取り付けられていること
(5)断片レール部材は、レール面がレールとほぼ同じ高さになる水平位置と、レール面が下方に傾斜する傾斜位置との間を、第1軸を中心に回動可能であること
(6)複数の車輪に対応した複数の断片レール部材は、連動リンク機構により連結されており、同期して一斉に水平位置と傾斜位置の間を変位すること
(7)断片レール部材は、昇降カムにより傾斜位置から水平位置に変位されて固定可能であること
(8)昇降カムは、カム連動レバーと一体に、デッキ側部材にレール方向と直行する水平な第2軸を中心に回動自在に取り付けられていること
(9)カム連動レバーは、ハッチカバーが真上位置の直前から密閉位置にあるとき、ハッチカバー側部材に取り付けられたプーリングアームに連動すること
(10)プーリングアームは、ハッチカバー側部材にレール方向と直行する水平な第3軸を中心に回動自在に取り付けられ、その先端部分に牽引索が結合されていること
(11)プーリングアームは、ハッチカバーが牽引索に引かれてレール上を移動する状態においては、ハッチカバー側部材に設けられたアームロック機構により第1位置に固定されていること
(12)アームロック機構は、ハッチカバーが牽引索に引かれて真上位置の直前に達した際、デッキ側部材に取り付けられたストッパーに当たってプーリングアームの固定を解除して回動自在にすること
(13)プーリングアームは、ハッチカバーが前記直前から真上位置まで変位する際、第3軸を中心に第1位置から第2位置に回動しつつカム連動レバーを回動させ、断片レール部材を水平位置に固定していた昇降カムを回動させ、断片レール部材を傾斜位置に変位させ、真上位置に達したハッチカバーを密閉位置に降下させること
(14)プーリングアームは、ハッチカバーが密閉位置にあって牽引索が開方向に引かれると、第2位置から第1位置に回動しつつカム連動レバーを回動させ、昇降カムを回動させて断片レール部材を傾斜位置から水平位置に変位させて固定し、ハッチカバーを真上位置に上昇させ、アームロック機構により第1位置に固定されること

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−51489(P2011−51489A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202667(P2009−202667)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(509247814)玄海テック株式会社 (1)