説明

ハッチ装置

【課題】水平移動装置と昇降装置を共通(単一)の電動機で駆動するローリングタイプのハッチ装置を提供する。
【解決手段】ハッチカバー2を、着座位置と移動位置の間で昇降させるハッチカバー昇降装置4と、前記移動位置にあるハッチカバー2を水平方向に移動させるハッチカバー水平移動装置3を有するハッチ装置1において、電動機12と、前記電動機12の動力をハッチカバー昇降装置4とハッチカバー水平移動装置3に分配する差動歯車装置13と、前記ハッチカバー昇降装置4の動作を拘束するブレーキ17と、ハッチカバー水平移動装置3の動作を拘束するブレーキ16を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の貨物倉のハッチを開閉するハッチ装置、特にローリングタイプのハッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ローリングタイプのハッチ装置とは、コーミングトップ上でハッチカバーを水平に移動してハッチを開閉する装置である。ハッチカバーが船体の首尾線方向に移動するものをエンドローリングタイプ、船体の幅方向に移動するものをサイドローリングタイプと呼んでいる。また、複数のハッチカバーを上下に積み上げるものをピギーバックタイプと呼ぶ。
【0003】
ローリングタイプのハッチ装置には、ハッチカバーの側面に取り付けた車輪をコーミングトップ上に敷設したガイドレールに上架して、ハッチコーミングの側面に架け渡されたチェーンでハッチカバーを牽引する水平移動装置が備えられている。また、ハッチを閉鎖する際に前記車輪を前記ガイドレールから降架して、ハッチカバーをコーミングトップに着座させる昇降装置が備えられる(例えば、特許文献1)。
【0004】
伝統的にハッチ装置の動力には油圧が使用され、船内に装置した油圧ポンプで加圧した作動油を水平移動装置の油圧モータおよび昇降装置の油圧ジャッキに供給している。そのため、船舶の上甲板には長大な油圧配管が配設されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−132879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
油圧を動力とするハッチ装置は、電気火花や高熱を発する装置を上甲板に配置しないので、防火・防爆の観点において優れている。しかしながら、長大な油圧配管を上甲板に配置する工事は手間がかかり、コストの上昇を招くという問題があった。
【0007】
また、大量の作動油を使用するので、万一配管を損傷すると作動油の漏出による海洋環境の汚染あるいは貨物の汚損を招く可能性があるという問題もあった。
【0008】
さらに、多数の油圧モータや油圧ジャッキを必要とするので、装置が高価になり、保守整備の手間が係るので、油圧モータ等の点数を削減したいという運用者側からの要請もある。
【0009】
本発明はこれらの課題を解決するために成されたものであり、本発明の目的は水平移動装置と昇降装置を共通(単一)の電動機で駆動するローリングタイプのハッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のハッチカバー装置の第1の構成は、ハッチカバーを、前記ハッチカバーがハッチコーミングのコーミングトップに密着する着座位置と、前記コーミングトップから持ち上げられて水平方向に移動可能とされる移動位置の間で昇降させる昇降装置と、前記移動位置にあるハッチカバーを水平方向に移動させる水平移動装置を有するハッチ装置において、電動機と、前記電動機の動力を前記昇降装置と前記水平移動装置に分配する差動歯車装置と、前記昇降装置の動作を拘束する昇降制動機と、前記水平移動装置の動作を拘束する水平制動機を備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、昇降制動機及び水平制動機を操作することによって、電動機の動力の出力先を自在に切り替えることができるので、共通(単一)の電動機で、前記昇降装置と前記水平移動装置を駆動することができる。また、油圧配管を必要としないので、事故による作動油の漏出の恐れもない。
【0012】
なお、ここで、「制動機」とはいわゆるブレーキ装置に限られるものではなく、昇降装置あるいは水平移動装置の動作を物理的に拘束する装置は全て「制動機」の範疇に含まれる。特定の方向への移動を制限するストッパーなども「制動機」の一種である。また、「制動機」の取り付け位置は差動歯車装置と昇降装置あるいは水平移動装置の間であれば、どこであってもよく、昇降装置あるいは水平移動装置の内部に「制動機」を備えてもよい。
【0013】
本発明のハッチカバー装置の第2の構成は、前記第1の構成において、前記差動歯車装置は遊星歯車装置であることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、差動歯車装置を遊星歯車で構成したので、差動歯車装置をコンパクトにまとめることができる。
【0015】
本発明のハッチカバー装置の第3の構成は、前記第1または第2の構成において、前記昇降装置は、前記ハッチコーミングに固定されたフレームと、前記フレームに水平動自在に支持されて、前記電動機の動力によって水平動する楔形部材と、前記フレームに上下動自在に支持されて、その下端が前記楔形部材の斜面に当接する昇降子を備えることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、楔形部材をチェーン等で牽引することによって昇降子を昇降させることができる。そのため、回転軸のような高い取付精度を要する部品が不要となり、工作が容易になる。
【0017】
本発明のハッチカバー装置の第4の構成は、前記第1または第2の構成において、前記昇降装置は、前記ハッチコーミングに固定された基台と、前記基台に一端を枢支された一対の下部アームと、前記一対の下部アームの他端に枢支された一対のナットであって、一方に右ねじを、他方に左ねじを刻んだ一対のナットと、前記一対のナットに一端を枢支された一対の上部アームと、前記一対の上部アームの他端に枢支された昇降台と、前記一対のナットに螺合し、前記電動機の動力によって回転するねじ軸を備えることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、ねじ軸の回転を昇降台の上下動に変換するので、差動歯車装置と昇降装置の間の動力伝達を回転軸で行うことができる。そのため動力伝達機構をコンパクトにまとめることができる。
【0019】
本発明のハッチカバー装置の第5の構成は、前記第1または第2の構成において、前記昇降装置は、前記ハッチコーミングに固定されたフレームと、前記フレームに軸支されて、前記電動機の動力によって回転するウォームと、前記フレームに軸支されるナットであって、その外周に前記ウォームと噛合するピニオンを備えたナットと、前記フレームに上下動自在に支持されるとともに、前記フレームに回転を拘束されるねじ軸であって、前記ナットに螺合するねじ軸を備えることを特徴とする。
【0020】
この構成の昇降装置は、動作の過程で水平方向に変位する要素がないので、昇降装置をと他の装置との干渉が小さくなり、設計の自由度が増す。
【0021】
本発明のハッチカバー装置の第6の構成は、前記第1ないし第5の構成において、前記水平制動機は、前記ハッチカバーの側面に固定されて側方に突出するガイド片と、前記ハッチコーミングに固定されて上方に突出するストッパー片を有し、前記ガイド片は、前記ハッチカバーが前記着座位置にある時に前記ストッパー片の内側にあって、前記ストッパー片に当接するように配置されていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、ハッチカバーが着座位置にある時にガイド片がストッパー片の内側に当接するので、ハッチカバーの全閉位置から全開位置ヘの移動が拘束される。つまり、水平移動装置の動作が拘束されるので、昇降装置にだけ動力が供給され、ハッチカバーはその場で上昇する。そして、ハッチカバーが上昇してガイド片がストッパー片より高い位置に来ると、ハッチカバーの全開位置ヘの水平移動が自由になるので、水平移動装置に動力が供給されて、全開位置への水平移動が開始される。つまり、この構成によれば、水平移動装置の動作の拘束/解放がハッチカバーの昇降動作に従って自動的になされる。
【0023】
なお、ここで「内側」とはハッチカバーが全開位置から全閉位置に向かう向きをいう。したがって、ガイド片がストッパー片の「内側」に当接すれば、全閉位置から全開位置に向かう(つまり、「外側」に向かう)ハッチカバーの動作はストッパー片によって、制止される。
【0024】
本発明のハッチカバー装置の第7の構成は、前記第6の構成において、前記昇降制動機はレバーを備えて、前記レバーを倒すと前記昇降装置の動作を拘束するとともに、前記ガイド片は、前記ハッチカバーが全閉位置から全開位置に向けて水平方向に移動する時に前記レバーに当接して前記レバーを倒すように配置されていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、ハッチカバーが全閉位置から全開位置に水平移動する際に、ガイド片が昇降制動機のレバーを蹴って押し倒す。そのため、ハッチカバーの全閉位置から全開位置への水平移動に従って、昇降制動機を自動的に作動させることができる。
【0026】
本発明のハッチカバー装置の第8の構成は、前記第7の構成において、前記ハッチカバーの側面に固定されて側方に突出するキッカー片を備えるとともに、前記キッカー片は、前記ハッチカバーが全開位置から全閉位置に向けて水平方向に移動する時に前記レバーに当接して前記レバーを起こすように配置されていることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、ハッチカバーが全開位置から全閉位置に水平移動する際に、キッカー片が昇降制動機のレバーを蹴って引き起こす。そのため、ハッチカバーの全開位置から全閉位置への水平移動に従って、昇降制動機を自動的に解放させることができる。
【発明の効果】
【0028】
以上、説明したように本発明によれば、水平移動装置と昇降装置を単一の電動機で駆動できるので、安価なハッチ装置を提供することができる。また、油圧配管を必要としないので、漏油による船体や環境の汚染の危険がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の実施例1に係るハッチ装置の概念を示す平面図である。図1に示すように、ハッチ装置1は、ハッチカバー2、ハッチカバー走行装置3、ハッチカバー昇降装置4及び動力装置5から構成される。
【0031】
ハッチカバー2には図示しないハッチコーミング上に設置されたガイドレール上を転動する車輪(図示せず)が備えられ、ハッチカバー走行装置3によって牽引されて、2枚のハッチカバー2が左右に離反するとハッチは開放され、逆に接近するとハッチは閉鎖される。また、ハッチカバー2はハッチを閉鎖する位置において、ハッチカバー昇降装置4によって昇降され、前記ハッチコーミングに密着して、ハッチを風雨密にした状態(低位置)と、前記車輪を前記ガイドレールに上架した状態(高位置)を選ぶことができる。
【0032】
ハッチカバー走行装置3は、ハッチカバー2を牽引するチェーン6、チェーン6を駆動する駆動スプロケット7、および駆動スプロケット7の反対側にあってチェーン6を支持する遊動スプロケット8から構成される。
【0033】
ハッチカバー走行装置3は、図示しない昇降アクチュエータと前記昇降アクチュエータに動力を伝えるチェーン9、チェーン9を駆動する駆動スプロケット10、および駆動スプロケット10の反対側にあってチェーン9を支持する遊動スプロケット11から構成される。
【0034】
動力装置5は、ハッチカバー走行装置3及びハッチカバー昇降装置4およびに動力を供給する装置であり、電動機12、差動歯車装置13、笠歯車装置14,15、及びブレーキ16,17から構成される。電動機12は動力装置5の動力源であり、電動機12の動力は差動歯車装置13に入力され、ハッチカバー走行装置3とハッチカバー昇降装置4に分配される。
【0035】
ハッチカバー走行装置3向けの動力は笠歯車装置14を介して、駆動スプロケット7に伝達される。また、ブレーキ16は差動歯車装置13と笠歯車装置14の間の動力伝達軸に装置されて、前記動力伝達軸の回転を任意に拘束又は解放する。
【0036】
同様に、ハッチカバー昇降装置4向けの出力は笠歯車装置15を介して、駆動スプロケット10に伝達される。また、ブレーキ17は差動歯車装置13と笠歯車装置15の間の動力伝達軸に装置され、前記動力伝達軸の回転を任意に拘束又は解放する。
【0037】
また、ハッチ装置1によるハッチカバー2の開放操作は次の手順で行う。なお、ハッチカバー2を閉鎖した状態においては、ブレーキ16,17は何れも「拘束」状態にしてある。ハッチカバー走行装置3及びハッチカバー昇降装置4の不用意な動作を防止するためである。
(1)ブレーキ17を「解放」状態にし、電動機12を始動する。ブレーキ16は「拘束」状態にあるから、電動機12の動力はハッチカバー昇降装置4にだけ伝達され、ハッチカバー2はその場で「低位置」から「高位置」に上昇する。
(2)ハッチカバー2が「高位置」に到達したら、ブレーキ17を「拘束」状態にし、ブレーキ16を「解放」状態にする。電動機12の動力はハッチカバー走行装置3に伝達され、ハッチカバー2が移動を開始する。
(3)ハッチカバー2が所望の位置に到着したら、ブレーキ16を「拘束」状態にし、電動機12を停止する。
【0038】
ここでは、ブレーキ16,17を差動歯車装置13と笠歯車装置14,15の間に備えた例を示したが、ブレーキ16,17の位置はこれに限られるものではない。差動歯車装置13とハッチカバー走行装置3あるいはハッチカバー昇降装置4の間であれば、何処に配置してもよい。任意の場所に備えることができる。あるいは、ハッチカバー走行装置3およびハッチカバー昇降装置4の内部にブレーキ装置を備えてもよい。
【0039】
また、差動歯車装置13の形式は特に限定されない。笠歯車を組み合わせたもの、遊星歯車を利用したものなど、各種公知の形式を選ぶことができる。
【0040】
また、ここでは差動歯車装置13とハッチカバー走行装置3あるいはハッチカバー昇降装置4の間の動力伝達手段を回転軸とした例を示したが、チェーンやベルトを選んでもよいし、回転軸、チェーン、ベルト及び歯車等の組合せで構成してもよい。
【実施例2】
【0041】
図2は、本発明の実施例2に係るハッチ装置の概念を示す側面図である。また、図3はチェーンクランプの概念図、図4はハッチカバー昇降用アクチュエータの概念図である。なお、実施例1と共通する構成要素については同一の符号を付している。
【0042】
図2に示すように、実施例1と同様に、ハッチ装置18のハッチコーミング19の側面には、ハッチカバー走行装置3およびハッチカバー昇降装置4が装置され、差動歯車装置を備えた動力装置(図示せず)で駆動されるが、実施例1のブレーキ16,17に代えて、チェーンクランプ20を備える点で異なる。なお、チェーンクランプ20の構成については、図3を参照して後述する。
【0043】
ハッチカバー2には、ハッチカバー走行装置3のチェーン6と係合するチェーンキャッチャー21,22が備えられ、ハッチカバー2はチェーンキャッチャー21,22を介してチェーン6で牽引される。
【0044】
また、ハッチカバー2の側面には車輪23が備えられ、車輪23はハッチコーミング19の上面に備えられたガイドレール24の上を転動する。また、ハッチカバー2を閉鎖位置に置いた時に車輪23が載るガイドレール24の部分は別部材(可動レール25)となっていて、ハッチカバー昇降用アクチュエータ26によって自在に昇降される。このように構成されているので、閉鎖位置においてハッチカバー2を降下させて、ハッチコーミング19に密着させることができる。なお、ハッチカバー昇降用アクチュエータ26の構成については、図4を参照して後述する。
【0045】
次にチェーンクランプ20の構成を説明する。図3に示すようにチェーンクランプ20は、フレーム27と、フレーム27に固定されたナット28、ナット28に螺合したネジ軸29を備えるとともに、ネジ軸29の下端に保持子30を、上端にハンドル31をそれぞれ取り付け、フレーム27と保持子30の間にチェーン6(9)を通したものである。
【0046】
このように構成されているので、人力でハンドル31を操作してネジ軸29を回転させることによって保持子30を昇降させることができる。保持子30が下降すると、保持子30とフレーム27の間でチェーン6(9)が挟まれ、チェーン6(9)の動きが拘束される。なお、人力でハンドル31を操作する機構に代えて、ネジ軸29を電動機で回転させる機構を備えてもよい。あるいは、ネジ軸29に代えて、油圧ないしは空気圧で駆動されるアクチュエータを備えてもよい。
【0047】
次にハッチカバー昇降用アクチュエータ26の構成を説明する。図4に示すように、ハッチカバー昇降用アクチュエータ26は、フレーム32と、フレーム32に水平に支持されるとともに、チェーン9に牽引されて左右に移動する楔部材33と、フレーム32に上下動自在に支持されて、可動レール25を支持する昇降子34から構成される。
【0048】
楔部材33は下辺に水平面、上辺に傾斜面を備えた四辺形の部材であり、前記水平面は、ガイドローラ35,36及びローラ37によって支持されて、水平に保たれる。また前記傾斜面は昇降子34に回転支持されたローラ38に当接する。
【0049】
楔部材33がチェーン9に牽引されて、図の右方に移動すると、昇降子34は楔部材33に押し上げられて上昇し、左方に移動すると下降する。このように、昇降子34はチェーン6に牽引されて移動する楔部材33の動きに従って昇降し、可動レール25を昇降させる。
【実施例3】
【0050】
実施例2では、ハッチカバー昇降用アクチュエータをチェーンで駆動する例を示したが、ハッチカバー昇降用アクチュエータをシャフトで駆動することもできる。
【0051】
図5は実施例3に係るハッチカバー昇降アクチュエータの概念図であり、(a)は上昇状態、(b)は下降状態を示している。図5に示すように、ハッチカバー昇降アクチュエータ39は、基台40、基台40に枢支された下部リンク41,42、下部リンク41,42の上端にそれぞれ枢支されたナット43,44、ナット43,44にそれぞれ枢支された上部リンク45,46、上部リンク45,46の上端に枢支された昇降台47、およびナット43,44に螺合するネジ軸48から構成されている。なお、ナット43には左ネジが、ナット44には右ネジが刻まれ、ネジ軸48の左側(ナット43と螺合する側)には左ネジが、右側(ナット44と螺合する側)には右ネジが刻まれている。このように構成されているので、ネジ軸48を図示しない駆動装置で回転させると、ナット43,44の距離が拡縮する。ナット43,44の距離が縮まると昇降台47が上昇(図5(a))する。逆にナット43,44の距離を拡げると昇降台47が下降(図5(b))する。
【0052】
図6は実施例3に係るハッチカバー昇降アクチュエータの別の例を示す概念図である。図6に示すようにハッチカバー昇降アクチュエータ49は、図示しない駆動装置によって、水平軸(紙面の表から裏に向かう軸)周りに回転駆動されるウォーム50、外周にウォーム50と噛み合うピニオンを備えるともに、内周にネジ溝を刻んだナット51及びナット51に螺合するネジ軸52を備え、ネジ軸52の上に昇降台53を取り付けて構成される。なお、ウォーム50及びナット51は図示しないフレームに回転自在に支持され、ネジ軸52は前記フレームに上下動自在に支持されるが、ネジ軸52の回転は前記フレームによって拘束される。
【0053】
このように構成されているので、ウォーム50を回転させると、ナット51が回転し、ネジ軸52及び昇降台53が昇降する。
【0054】
また、図2に示したハッチカバー昇降アクチュエータ26に代えて、ハッチカバー昇降アクチュエータ39あるいはハッチカバー昇降アクチュエータ49をハッチコーミング19の側面に配列する場合は、隣り合うネジ軸48あるいはウォーム50を自在接ぎ手付きの回転軸で連結して、複数のハッチカバー昇降アクチュエータ39あるいはハッチカバー昇降アクチュエータ49が同時に動作するようにすればよい。なお、自在接ぎ手はネジ軸48あるいはウォーム50相互の軸心のずれを許容するために付加されるものである。
【実施例4】
【0055】
実施例1では、ブレーキを手動で操作する例を示したが、ブレーキを自動操作することもできる。
【0056】
図7は実施例4に係るハッチ装置の概念図である。図7に示すように、ハッチ装置54は、ハッチカバー2の側面に突設したガイド片55、キッカー56、ハッチコーミング19上に突設したストッパー片57、及びブレーキ装置58を備える。また、ハッチ装置54は図示しないハッチカバー走行装置、ハッチカバー昇降装置及び動力装置を備え、更に前記動力装置は差動歯車装置を備えて、動力を前記ハッチカバー昇降装置とハッチカバー走行装置に分配している。また、ブレーキ装置58は前記差動歯車装置から前記ハッチカバー昇降装置の動作を任意に拘束又は解放する機械装置であり、レバー59を右方向に倒すと作動して前記ハッチカバー昇降装置の動作を拘束し、レバー59を正立させると前記ハッチカバー昇降装置の動作は自由になる。
【0057】
ここで、ハッチ装置54の作用を説明する。
(1)ハッチカバー2をハッチコーミング19に密着載置した状態(つまり、ハッチを「全閉」にした状態では、ガイド片55がストッパー片57の内側に当接しているから、ハッチカバー2の水平方向の移動は拘束される。つまり、ハッチカバー走行装置にブレーキを掛けたのと同じ状態にある。また、この時、ブレーキ装置58は「解放」状態にある。したがって、この状態で動力装置を始動すると、動力はハッチカバー昇降装置にだけ伝えられるから、ハッチカバー2はその場で上昇する(図7(a))。
(2)ハッチカバー2が上昇すると、ガイド片55はストッパー片57より高くなるので、ハッチカバー2の水平方向の移動が自由になる。一方、ハッチカバー昇降装置はストロークエンドに達しているので、これ以上上昇することはできない。したがって、動力装置の動力はハッチカバー走行装置にだけ伝えられ、ハッチカバー2は図の右方向(つまり、ハッチを「全開」する方向)への移動を開始する(図7(b))。
(3)ハッチカバー2が右方向に移動すると、ガイド片55がブレーキ装置58のレバー59を右に倒して、ブレーキ装置58を作動させ、ハッチカバー昇降装置の動作を拘束する。したがって、以後、ハッチカバー昇降装置に動力は伝達されない(図7(c))。なお、ブレーキ装置58の構成と作用については、後述する。
(4)ハッチカバー2は更に右方向に移動して、「全開」位置に達する(図7(d))。(5)逆に、ハッチカバー2を左方向(「全開」から「全閉」に向かう方向)に動かす場合は、キッカー56がレバー59に当接して、レバー59を引き起こしてブレーキ装置58を「解放」状態にする(図7(e))。
【0058】
図8はブレーキ装置58の構成を示す概念図である。図8に示すように、ブレーキ装置58は、差動歯車装置(図示せず)からハッチカバー昇降装置(図示せず)に動力を伝達するシャフト60に固定されて、シャフト60と一体に回転する回転ディスク61、フレーム62に滑動自在に支持されて、水平方向に滑動する摩擦ディスク63、フレーム62と摩擦ディスク63の間に架け渡されて、摩擦ディスク63を回転ディスク61に向けて押し出すバネ64、摩擦ディスク63に枢支された第1リンク65、一端を第1リンク65に枢支され他端を支点66に枢支された第2リンク67、及び、第2リンク67に固定されたレバー59から構成される。
【0059】
このように構成されているので、レバー59が正立した状態においては、摩擦ディスク63は左に動いて回転ディスク61から離れている(図8(a))。レバー59を右に倒せば、摩擦ディスク63は右に動いて回転ディスク61に当接して、シャフト60の回転を止める(図8(b))。
【0060】
なお、図8(a)は、ハッチカバー2が図7(a)に示す位置から、図7(b)に示す位置に移動する途中の状態を示している。つまり、ガイド片55がストッパー片57の内側に当接して、ハッチカバー2の右方向の移動を拘束している状態を示している。
【0061】
なお、図8(b)は、ハッチカバー2が図7(c)に示す位置から、右方向に行き過ぎようとしている状態を示している。つまり、レバー59がガイド片55によって、右方向に完全に押し倒された状態を示している。この状態からハッチカバー2を更に右に水平移動させると、図7(d)に示すようになる。また逆に、この状態からハッチカバー2を左に水平移動させると、図7(e)に示すように、キッカー56がレバー59の外側に当接して、レバー59を左側に引き起こす。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例1に係るハッチ装置の概念を示す平面図である。
【図2】本発明の実施例2にハッチ装置の概念を示す側面図である。
【図3】本発明の実施例2に係るチェーンクランプの概念図である。
【図4】本発明の実施例2に係るハッチカバー昇降用アクチュエータの概念図である。
【図5】本発明の実施例3に係るハッチカバー昇降アクチュエータの概念図である。
【図6】本発明の実施例3に係るハッチカバー昇降アクチュエータの別の例を示す概念図である。
【図7】本発明の実施例4に係るハッチ装置の概念図である。
【図8】本発明の実施例4に係るブレーキ装置の構成を示す概念図である。
【符号の説明】
【0063】
1 ハッチ装置
2 ハッチカバー
3 ハッチカバー走行装置
4 ハッチカバー昇降装置
5 動力装置
6 チェーン
7 駆動スプロケット
8 遊動スプロケット
9 チェーン
10 駆動スプロケット
11 遊動スプロケット
12 電動機
13 差動歯車装置
14,15 笠歯車装置
16,17 ブレーキ
18 ハッチ装置
19 ハッチコーミング
20 チェーンクランプ
21,22 チェーンキャッチャー
23 車輪
24 ガイドレール
25 可動レール
26 ハッチカバー昇降用アクチュエータ
27 フレーム
28 ナット
29 ネジ軸
30 保持子
31 ハンドル
32 フレーム
33 楔部材
34 昇降子
35,36 ガイドローラ
37,38 ローラ
39 ハッチカバー昇降アクチュエータ
40 基台
41,42 下部リンク
43,44 ナット
45,46 上部リンク
47 昇降台
48 ネジ軸
49 ハッチカバー昇降アクチュエータ
50 ウォーム
51 ナット
52 ネジ軸
53 昇降台
54 ハッチ装置
55 ガイド片
56 キッカー
57 ストッパー片
58 ブレーキ装置
59 レバー
60 シャフト
61 回転ディスク
62 フレーム
63 摩擦ディスク
64 バネ
65 第1リンク
66 支点
67 第2リンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハッチカバーを、前記ハッチカバーがハッチコーミングのコーミングトップに密着する着座位置と、前記コーミングトップから持ち上げられて水平方向に移動可能とされる移動位置の間で昇降させる昇降装置と、
前記移動位置にあるハッチカバーを水平方向に移動させる水平移動装置と
を有するハッチ装置において、
電動機と、
前記電動機の動力を前記昇降装置と前記水平移動装置に分配する差動歯車装置と、
前記昇降装置の動作を拘束する昇降制動機と、
前記水平移動装置の動作を拘束する水平制動機と
を備えることを特徴とするハッチ装置。
【請求項2】
前記差動歯車装置は遊星歯車装置である
ことを特徴とする請求項1に記載のハッチ装置。
【請求項3】
前記昇降装置は、
前記ハッチコーミングに固定されたフレームと、
前記フレームに水平動自在に支持されて、前記電動機の動力によって水平動する楔形部材と、
前記フレームに上下動自在に支持されて、その下端が前記楔形部材の斜面に当接する昇降子と
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のハッチ装置。
【請求項4】
前記昇降装置は
前記ハッチコーミングに固定された基台と、
前記基台に一端を枢支された一対の下部アームと、
前記一対の下部アームの他端に枢支された一対のナットであって、一方に右ねじを、他方に左ねじを刻んだ一対のナットと、
前記一対のナットに一端を枢支された一対の上部アームと、
前記一対の上部アームの他端に枢支された昇降台と、
前記一対のナットに螺合し、前記電動機の動力によって回転するねじ軸と
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のハッチ装置。
【請求項5】
前記昇降装置は、
前記ハッチコーミングに固定されたフレームと、
前記フレームに軸支されて、前記電動機の動力によって回転するウォームと、
前記フレームに軸支されるナットであって、その外周に前記ウォームと噛合するピニオンを備えたナットと、
前記フレームに上下動自在に支持されるとともに、前記フレームに回転を拘束されるねじ軸であって、前記ナットに螺合するねじ軸と
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のハッチ装置。
【請求項6】
前記水平制動機は、
前記ハッチカバーの側面に固定されて側方に突出するガイド片と、
前記ハッチコーミングに固定されて上方に突出するストッパー片を有し、
前記ガイド片は、前記ハッチカバーが前記着座位置にある時に前記ストッパー片の内側にあって、前記ストッパー片に当接するように配置されていること
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のハッチ装置。
【請求項7】
前記昇降制動機はレバーを備えて、前記レバーを倒すと前記昇降装置の動作を拘束するように構成されるともに、
前記ガイド片は、前記ハッチカバーが全閉位置から全開位置に向けて水平方向に移動する時に前記レバーに当接して前記レバーを倒すように配置されていること
を特徴とする請求項6に記載のハッチ装置。
【請求項8】
前記ハッチカバーの側面に固定されて側方に突出するキッカー片を備えるとともに、
前記キッカー片は、前記ハッチカバーが全開位置から全閉位置に向けて水平方向に移動する時に前記レバーに当接して前記レバーを起こすように配置されていること
を特徴とする請求項7に記載のハッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−94359(P2008−94359A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282032(P2006−282032)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(592250540)株式会社大島造船所 (32)