説明

ハニカムフィルター

【課題】ハニカム作成時ならびに、フィルター使用時に問題となる有害化学物質を削減し、また作業耐水強度ならびに湿潤時における外観保持性に優れたハニカムフィルターを提供する。
【解決手段】疎水性成分からなるシート材料を構成材料として使用し、主骨格としてエチレン−酢酸ビニル共重合体もしくはエチレン−アクリル酸共重合体を有し、皮膜白化時間が30分以上の特性を有する特定組成の水系接着剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐白化性、加工適性ならびに衛生性に優れたハニカム状フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、低通気抵抗で気流を通過させ、粒子ならびに気体成分を除去することを目的としてハニカム(展張ならびにコルゲート)フィルターが用いられている。
ここに、ハニカムとは紙、不織布、フィルム、金属箔等を賦形したものを積層、接着する事により空隙を形成したものである。ハニカムを構成する手法はいくつか知られているが、コルゲートハニカムと称される形状においては、ライナーと称される平面部材とフルートと称される波板部材を交互に積層し、層間接着することにより成型体を得る。
【0003】
近年、付加価値を効率的に付与するため、ハニカム成型後に薬剤、触媒等を担持する添着加工や、リサイクルの要請から、使用済ハニカムの水洗再利用などが行われるようになってきている。かかる用途に対応するためには、乾燥時のみならず、湿潤もしくは水浸漬条件下においても外観変化を生じず、形状保持可能な耐水性を有するハニカムが要求される。耐水性ハニカムを得るためには、シート材および接着剤両方に耐水性を付与する必要があるが、接着剤要因として多くの問題がある。
すなわち、(1)(紙類の)接着剤として用いられるポリオキシエチレン、アルギン酸ソーダ、デンプン、ヒドロキシエチルセルロース等の水性高分子は、溶出著しく耐水強度を得る事ができず、(2)エマルジョン系接着剤は白化による外観変化及び接着強度低下が著しく、(3)エマルジョンへの低分子架橋剤(グリシジルエーテル類、グリオギザール、ユリア樹脂、イソシアネート)添加はポットライフ、作業環境の悪化ならびに、ハニカムからのVOC発生の問題があり、(4)炭化水素及びアルコール等を含有する溶剤系接着剤は、作業環境の悪化ならびに、ハニカムからのVOC発生の問題がある点である。
これらの要求のうち、水洗洗浄可能な光触媒ハニカムが開示されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、かかる方法は構成素材の耐水強度についての考察はなされているが、具体的接着剤組成に関する内容には何ら開示されておらず、上記要求を全て満足するハニカムを得ることができないのが現状である。
【特許文献1】特開2001−70418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、耐白化性、加工適性ならびに衛生性に優れたハニカム状フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。即ち本発明は、(1)ライナー層とフルート層の接着に水系接着剤を使用し、当該接着剤の乾燥皮膜が30分以上の耐白化性を有することを特徴とするハニカム、(2)水系接着剤が自己乳化型エチレン−アクリル酸共重合樹脂である事を特徴とする、(1)に記載のハニカム、(3)水系接着剤がノニオン系エチレン−酢酸共重合樹脂エマルジョンである事を特徴とする、(1)に記載のハニカム、(4)活性炭含有シート及び/又は疎水性樹脂シートからなる事を特徴とする、(1)〜(3)いずれかに記載のハニカムである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により生産時の加工性ならびに水浸漬時の耐剥離性に優れたハニカムフィルターを作成する事が可能となる。これにより、水系溶媒に分散もしくは溶解させた触媒、各種吸着剤、脱臭剤等をハニカム作成後に加工することが容易となる。また、使用済みのハニカムフィルターを水ならびに温水にて洗浄再生することが可能となると同時に、洗浄時の外観変化を抑制する事ができる。更には、耐水性を付与するための低分子架橋剤や、皮膜柔軟性を付与する為の可塑剤を必要としないため、ハニカム作成時ならびにフィルター利用時における有害化学物質の影響を低減する事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明にかかるハニカムのライナー層とフルート層の接着に用いる接着剤は、水系接着剤であることが好ましい。作業環境時における安全性、衛生性に優れ、ハニカムへの有機溶剤吸着ならびに使用時における揮発性物質の再放散を生じ難いからである。なお、本発明でいう水系接着剤とは、溶媒、分散媒として水を用い、実質的に有機溶媒を含有しない物を指す。
【0008】
本発明で用いる水系接着剤は、乾燥皮膜が30分以上の耐白化性を有することが好ましい。すなわち、外観変化を抑制し、また耐水、耐溶出性に優れるためである。
【0009】
所望の特性を有するものであれば特に制限されないが、基本骨格としてエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等のエチレンセグメントを含有する水系接着剤であることが好ましい。かかる組成物を用いることで、ポリエステル、ポリオレフィン等の疎水性樹脂への浸透性、接着強度を確保する一方で、白化による外観変化を抑制することができることを見出したことに基づくものである。また、共重合比率によりガラス転移温度を制御することが可能であるため、耐水性低下ならびに揮散性が問題となる低分子可塑剤(例えばフタル酸ジブチル・フタル酸ジオクチル等)を必要としないという有利な効果も有する。
かかる組成の水系接着剤が、白化抑制に効果的であることのメカニズムは明確ではないが、エマルジョン皮膜が破壊されると、粒子間に水分が浸透し、この過程において多数の界面が生じ、光散乱による不透明化が起こると考えられ、かかる組成の水系接着剤は、皮膜破壊され難いため白化を抑制することができると推測される。
【0010】
白化とは水系接着剤に水分が浸透することにより接着剤皮膜が白濁する事である。ハニカム形状のまま水中に浸漬することにより外観変化を観察する事も可能であるが、詳細な特性評価を行うためには、水系接着剤を平板上に塗布し、最低造膜温度以上にて乾燥皮膜とし、常温(25℃−50%RH)条件下にて皮膜に水滴を滴下し、白濁時間を評価する事がより好ましい。
【0011】
好ましく用いられるエチレン−酢酸ビニル共重合体としては、水分散体であって所望の特性を有するものであれば特に制限されないが、たとえば乳化重合により得られるエチレン−酢酸ビニルであれば、乳化剤としてHLB値10〜20の範囲にあるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン性乳化剤をエチレン−酢酸ビニルに対して、1〜10W%の範囲で用いる事より所望の耐水白化特性を得る事が可能となる。このうち、近年の化学物質規制の観点から鑑みた場合、ノニオン性乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いる事がより好ましい。重合時に用いられる還元剤としてはホルムアルデヒド等の有害物を生成しないもの、例えばアスコルビン酸塩、イソアスコルビン酸塩やエリソルビン酸塩などを用いる事がより好ましい。
【0012】
また、エチレン−酢酸ビニル共重合体のガラス転移温度は−30℃から30℃の範囲であることが好ましく、耐剥離性ならびに切削加工性を鑑みると、−20℃から20℃の範囲であることが好ましい。すなわち、ガラス転移温度が高すぎる場合には乾燥時の皮膜形成が不十分となりやすいばかりか切削加工時の衝撃による剥離が生じやすい。一方、ガラス転移温度が低すぎる場合には引張強度が不足するばかりか、切削加工時に粘着物質が析出して汚損、加工不良を生じやすい。
【0013】
好ましく用いられるエチレン−アクリル酸共重合体としては、水分散体であって所望の特性を有するものであれば特に制限されないが、予め重合された固形樹脂を、アンモニア、低分子アミン、アルカリ金属水酸化物等のアルカリ性水溶液中で中和することによりポリマー主構造の溶解性を向上させ、必要により加熱攪拌することにより水分散性を付与されたもの(即ち自己乳化性を有したもの)を好ましく用いる事ができる。
【0014】
また、エチレン−アクリル酸共重合体の場合においては、耐剥離性ならびに切削加工性を鑑みると40℃〜110℃の範囲の融点を有している事が好ましく、より好ましくは60℃〜100℃の範囲である。融点が高すぎる場合には乾燥時の皮膜形成が不十分となりやすいばかりか切削加工時の衝撃による剥離が生じやすい。融点が低すぎる場合には接着強度が不足するばかりか、切削加工時に粘着物質による汚損、加工不良を生じやすい。
とりわけ、温水による洗浄を実施する場合には、水温より高い融点を有する樹脂成分を用いる事が耐久性ならびに接着強度の点からより好ましい。また、本組成の場合には金属塩を添加することにより金属架橋を生じさせる事も耐水性を高めるために好ましい。
【0015】
本発明に用いられる水系接着剤は、B型粘度計(6回転/分)を用いた評価条件において、100〜100000cpsの粘度範囲にあることが好ましい。100cps以下である場合には、ウエットタックならびに固形分の塗布密度が劣るため剥離が生じやすく、また必要塗布量が大きくなる為に切削不良やセル目詰まり等が生じやすい。また、100000cps以上の粘度を有する場合には、液体の取り扱いや塗布作業に困難を生じやすい。なお、チクソトロピー性を有する場合には、計測開始後に定常状態となる値を使用する。
【0016】
また、本発明に用いられる水性接着剤の固形分率は25%〜80%の範囲であることが好ましく、より好ましくは30〜70%である。かかる範囲よりも固形分率が低い場合には、固形分の塗布密度が劣る為に接着強度を得る事が困難であり、また水分を乾燥させるために大きなエネルギーが必要となる。かかる範囲よりも固形分率が高い場合には凝固等の問題が生じやすい。
【0017】
本発明ではハニカムとして耐水性を付与するために、構成材料として耐水性シートの組み合わせを用いる事を特徴とする。したがって、吸着機能等を付与させる場合には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる疎水性繊維を支持繊維とし、活性炭、ゼオライト、触媒等を塗布、抄紙、接着等により担持したものが好ましく用いられる。
【0018】
また、集塵性能やハニカム剛性を付与するために、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる疎水性繊維を含有する不織布、織物などからなる繊維シートやフィルム等も好ましく用いられる。コルゲートハニカム構造を有する場合には、ライナーとフルート成分が相違する材料であることやライナー及び/又はフルートが2層以上の構造を有することも好ましい。
【0019】
本発明においては、接着剤中に他の機能性材料を混合することも好ましく実施される。とりわけ、本発明にて好ましく用いられるエチレン−酢酸ビニルエマルジョンは、ノニオン系の界面活性剤を使用しているためカチオン性、アニオン性等の電荷を有する物質混和性にも優れている。
【0020】
機能性材料の例としては、防菌抗黴剤などを例示する事が出来る。この場合、界面活性剤、高分子分散剤、水などが混入する事により初期接着性ならびに皮膜特性が低下するため、必要に応じて薬剤原体を混合して用いることも好ましい。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0022】
(耐水性活性炭シート)
PVA繊維、芯鞘ポリエステル繊維、粉末活性炭を混合抄紙、加熱乾燥することにより目付50g/m3、活性炭比率50%のシートを得た。
【0023】
(疎水性シート)
旭化成(株)ポリプロピレンスパンボンド(平均繊維径2.5デシテックス、平均目付40g/m2)を疎水性繊維シートとして用いた。
【0024】
(耐水試験)
ハニカムを高さ50mm×幅50mm×厚さ5mmに裁断した。25℃の水中に30分浸漬させた後、引張り試験機を用い100mm/分の条件にて積層方向に引張り、接着状態を確認した。剥離状況を観察し、紙破壊(活性炭シート層が破壊)、ならびに凝集破壊(接着剤層が破壊)とした。ハニカム積層方向を高さ、通気可能方向を厚さと定義する。
【0025】
(耐温水試験)
作成したハニカムを高さ50mm×幅50mm×厚さ5mmにカットした。85℃の水中に30分浸漬させた後、引張り試験機を用い100mm/分の条件にて積層方向に引張り、接着状態を確認した。
【0026】
(外観変化)
ハニカムを高さ50mm×幅50mm×厚さ5mmに裁断し、25℃の水中に30分浸漬させた後、接着面の色調変化を観察した。
【0027】
(白化試験)
1mm厚の無色透明ガラス板上に、水系接着剤を塗布し、60℃×50%RH にて12時間乾燥、約0.20mmの乾燥皮膜を作成した。25℃×50%RHにて1時間放置後、新聞紙上の8ポイント活字上に乗せ、皮膜上に水滴(イオン交換水0.1ml)を滴下し25℃の条件下にて活字が読めなくなるまでの時間を測定した。
【0028】
(実施例1)
活性炭シートをライナー、疎水性繊維シートをフルートとし、住化ケムテックス(株)ノニオン系 エチレン酢酸ビニル共重合エマルジョンS−752を層間接着剤として用い、AS−50(山高さ3mm、山間隔5.1mm)のコルゲートハニカムを成型した。
【0029】
(実施例2)
活性炭シートをライナー、疎水性繊維シートをフルートとし、住化ケムテックス(株)ノニオン系 エチレン酢酸ビニル共重合エマルジョンS−467を層間接着剤として用い、AS−50(山高さ3mm、山間隔5.1mm)のコルゲートハニカムを成型した。
【0030】
(実施例3)
活性炭シートをライナー、疎水性繊維シートをフルートとし、住友精化(株)水分散型エチレン−アクリル酸共重合樹脂ザイクセンACを層間接着剤として用い、AS−50(山高さ3mm、山間隔5.1mm)のコルゲートハニカムを成型した。
【0031】
(実施例4)
活性炭シートをライナー、疎水性繊維シートをフルートとし、住友精化(株)水分散型エチレン−アクリル酸共重合樹脂ザイクセンLを層間接着剤として用い、AS−50(山高さ3mm、山間隔5.1mm)のコルゲートハニカムを成型した。
【0032】
(比較例1)
活性炭シートをライナー、疎水性繊維シートをフルートとし、可塑剤としてフタル酸ジブチルを含有するコニシボンド(株)CH−18(旧品番)酢酸ビニルエマルジョンを用い、AS−50(山高さ3mm、山間隔5.1mm)のコルゲートハニカムを成型した。
【0033】
(比較例2)
活性炭シートをライナー、疎水性繊維シートをフルートとし、可塑剤としてフタル酸ジブチルを含有する酢酸ビニルエマルジョンであるコニシボンド(株)CH−18(旧品番)に対しユリア樹脂(ユーロイドS120)を10重量%混合することによりAS−50(山高さ3mm、山間隔5.1mm)のコルゲートハニカムを成型した。
【0034】
(比較例3)
活性炭シートをライナー、疎水性繊維シートをフルートとし、アニオン性活性剤を含有するエチレン酢酸ビニル共重合エマルジョン昭和高分子(株)AD−4Hを層間接着剤として、AS−50(山高さ3mm、山間隔5.1mm)のコルゲートハニカムを成型した。
【0035】
結果を表1に示す。
【表1】

○:良好 ×:不良
【0036】
実施例1〜4によると、可塑剤や架橋剤不含有であり、外観変化が無く耐水性に優れたハニカムを得る事ができる。
【0037】
比較例1〜3は外観変化があり、また耐水接着性に劣る。また、実施例1〜2では可塑剤としてフタル酸エステル類を含有し、実施例2では架橋剤としてホルムアルデヒドを含有する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のハニカムは、耐水性、外観変化に優れ、且つ高い安全性も得られるため、工業用、事務用のみならず、一般家庭用途フィルター等幅広い用途分野に利用することができ、産業界に寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナー層とフルート層の接着に水系接着剤を使用し、当該接着剤の乾燥皮膜が30分以上の耐白化性を有することを特徴とするハニカム。
【請求項2】
ライナー層とフルート層の接着に用いる層間接着剤が自己乳化型エチレン−アクリル酸共重合樹脂である事を特徴とする請求項1記載のハニカム。
【請求項3】
ライナー層とフルート層の接着に用いる水系接着剤がノニオン系エチレン−酢酸共重合樹脂エマルジョンである事を特徴とする請求項1記載のハニカム。
【請求項4】
活性炭含有シート及び/又は疎水性樹脂シートからなる事を特徴とする、請求項1〜3いずれかに記載のハニカム。

【公開番号】特開2006−255562(P2006−255562A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75239(P2005−75239)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】