説明

ハニカム構造フィルムの製造方法

【課題】孔径の大小に関わらず孔のサイズ及び配列が規則的なハニカム構造をつくる。
【解決手段】疎水性の高分子化合物61が溶解した溶液46からなる液膜40に、雰囲気中の水分を結露させて水滴を形成する。液膜40から溶液46の液体成分63,64と形成した水滴とを蒸発させる。溶液46は、界面活性剤62と、水滴形成工程における液膜40と同温の水に対する溶解度が0.5g/(100g水)以下である強疎水液63とを含む。強疎水液63が高分子化合物61の貧溶媒であるときには、良溶媒64も溶液46の成分として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学分野や電子分野における集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化といった要求に応えるべく、微細な孔が密に形成されたハニカム構造フィルムはその製造方法についての検討が進められている。また、ハニカム構造フィルムは、外科手術時の組織と組織との癒着を防止する癒着防止材といった医用材料への利用や細胞培養基材として再生医療分野での利用がすすめられるなど、医療分野からも期待が寄せられる。
【0003】
ハニカム構造のフィルムをつくる代表的な方法としては、結露法がある。結露法は、高分子化合物の溶液からなる液膜に加湿空気をあてて水滴を形成し、液膜中の液体成分と形成した水滴とを蒸発させる方法である(例えば、特許文献1)。この結露法では、水滴が液膜に潜り込み、水滴が鋳型となってハニカム構造が形成される。
【0004】
ハニカム構造を形成する孔の数は水滴の数に依存する。また、液膜の露出面おける水滴の形成密度が小さい、すなわち露出面の単位面積あたりの水滴の数が少なすぎて、水滴同士が大きく離れていると、ハニカム構造とはならない。そこで、多くの水滴を密に形成するために、流延する溶液中に界面活性剤を含ませておくという方法が提案されている(例えば特許文献1)。また、ハニカム構造の孔の大きさは、水滴の大きさに依存するので、径が大きな孔を形成するためには、発生した水滴を大きく成長させなければならない。界面活性剤を含む溶液を用いる特許文献1の方法は、水滴を成長させる効果もある。
【0005】
しかし、結露法では、雰囲気中の水分を結露させるために、雰囲気の条件制御が難しい。そこで、結露が確実に為されるように、疎水性の溶剤と親水性の溶剤との混合物に高分子化合物を溶解し、この溶液から液膜を形成して結露を行う方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2の方法によると、水滴を密に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−175962号公報
【特許文献2】特開2008−179749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法によると、発生する水滴の数は限られてしまい、水滴の形成密度にも限界がある。したがって、孔の大きさや配列の均一性を問わない多孔フィルムを製造することはできるが、これらが均一なハニカム構造フィルムについては、製造することができても一定範囲の孔径のものに限られる。具体的には、孔径が小さなハニカム構造を形成しようと水滴が小さなうちに液膜を乾燥すると、ハニカム構造にはならずに孔と孔とが大きく離れたフィルムしか得られない。また、孔径が大きなハニカム構造を形成しようと水滴を成長させると、水滴が成長する間に水滴同士が結合してしまう。このため、得られるフィルムは、孔径が大きくてもその大きさや孔の形にばらつきがあり、孔の配列も不規則である。
【0008】
また、特許文献2の方法は、特許文献1の方法に比べて、水滴をより早く発生させ、より速く成長させるという生産効率上のメリットはあるが、水滴の発生と成長との促進が得られる程度の量の親水性の溶剤を用いると、水滴の大きさも形状も不均一となり、配列も乱れやすい。このため、特許文献2の方法により得られるフィルムは、多孔フィルムとはいえるが、ハニカム構造と呼ぶことができるほどの均一性は無い。
【0009】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みて、0.05μmから50μmの範囲の孔径をもち、均一な大きさの孔を規則的な配列で形成したハニカム構造のフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のハニカム構造フィルムの製造方法は、疎水性の液体と界面活性剤と疎水性の高分子化合物とを含有し、親水性の液体を非含有とする溶液の上に、雰囲気中の水分を結露させて水滴を発生させ、この水滴を所定の大きさに成長させる水滴形成工程と、前記溶液の液体成分と溶液の中に入り込んだ水滴とを蒸発させる蒸発工程とを有し、疎水性の液体は、水滴形成工程での溶液と同温の水に対する溶解度が0.5(g/100g水)以下であることを特徴として構成されている。
【0011】
界面活性剤は、溶液での臨界ミセル濃度を超えない量が溶液に含まれる。そして、本発明の製造方法では、形成すべき水滴の大きさに応じて、前記溶解度に基づき疎水性の液体を決定することが好ましい。
【0012】
疎水性の液体が高分子化合物の貧溶媒であるときには、溶液には高分子化合物の良溶媒を含ませることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、0.05μm程度の小さな孔径から50μm程度の大きな孔径のハニカム構造フィルムを製造することができ、しかも、孔の大きさが均一で配列が規則的なハニカム構造フィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明により製造するハニカム構造のフィルムの平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】本発明により製造する別のハニカム構造フィルムの断面図である。
【図5】フィルム製造設備の概略図である。
【図6】溶液における界面活性剤の状態を示す説明図である。
【図7】溶液における界面活性剤の状態を示す説明図である。
【図8】水に対する強疎水液の溶解度の説明図である。
【図9】形成される水滴の大きさと水に対する強疎水液の溶解度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[フィルム]
図1〜図4は、本発明により製造するハニカム構造フィルムの概略図である。図1はハニカム構造フィルム(以降、単に「フィルム」と称する)10の平面図、図2は図1のII−II線に沿う断面図、図3は図1のIII−III線に沿う断面図である。また、図4は、別の態様のフィルム20の断面図であるが、このフィルム20の平面図は図1と同じなので略す。
【0016】
フィルム10,20は、図1〜図4に示すように、蜂の巣形状、いわゆるハニカム構造をもつ。すなわち、フィルム10,20には、フィルム面10a,20aに沿って複数の孔11,21が密に形成されており、フィルム10では複数の孔11が隔壁14により、フィルム20では複数の孔21が隔壁24により、それぞれ独立している。孔11,21は、略一定の形状及びサイズであり、フィルム面10a,20aに沿って規則的に配列するように形成されてある。したがって、孔11,21の配列の規則性はフィルム面に沿った二次元での規則性といえる。そして、一方のフィルム面10aの法線方向からフィルム10を見たときに、1つの孔11の周囲を複数(例えば、図6によると6つ)の孔11が取り囲むように位置している。図1のフィルム10では、1つの孔11の周囲に形成されている孔11は6個であるが、製造条件によって3〜5個或いは7個以上になる。
【0017】
フィルム10の孔11は、図2及び図3に示すように、一方のフィルム面10aから他方のフィルム面10bへフィルム10を厚み方向で突き抜けるように形成されたいわゆる貫通孔である。これに対し、図4のフィルム20の孔21は、一方のフィルム面20aにのみ形成、すなわち凹状に形成された窪みである。貫通孔として形成されるか、窪みとして形成されるかは、後述の製造工程における液膜への水滴の入り込みの深さによる。
【0018】
そして、本発明は、フィルム10の厚みTが0.05μm以上100μm以下、孔11の径D1が0.05μm以上100μm以下、隣接する孔11の中心間距離Lが0.05μm以上120μm以下であるような多孔質構造体を製造する場合に効果があり、孔径D1が0.05μm以上50μm以下の範囲であるような多孔質構造体を製造する場合に特に効果がある。
【0019】
なお、上記のフィルム10,20は、支持体の上に重なるように形成されたものであってもよい。支持体とフィルム10あるいはフィルム20とが重なる複合材とされた場合には、フィルム10,20は、支持体とともに使用に供されてもよいし、支持体から剥がされて使用に供されてもよい。
【0020】
フィルム10とフィルム20との製造方法は基本的には同じであるので、以下の製造方法はフィルム10を製造するものとして記載する。図5に示すように、本発明を実施するフィルム製造設備30は、フィルム10を支持する支持体31を送り出す送出装置34、長尺の支持体31の上にフィルム10を形成するフィルム形成装置35、及び支持体31とともにフィルム10を所定の形状にカットするカット装置36から構成される。
【0021】
送出装置34からカット装置36に至る支持体31の搬送路には、支持体31を周面で支持するローラ37を複数設けてある。これらのローラ37の中には、周方向に回転する駆動ローラがあり、この駆動ローラの回転により支持体31を搬送する。また、支持体31の搬送路の下方には、支持体31の温度を調整する温度制御板(図示無し)が、矢線Xで示す支持体31の搬送方向に沿って複数並べて設けられてある。この温度制御板により支持体31が温度調整され、支持体31の上に形成された液膜40の温度は所定のタイミングで所定値となる。
【0022】
送出装置34は、長尺の支持体31がロール状にされた支持体ロール38から支持体31を引き出して、連続的にフィルム形成装置35へ送る。
【0023】
フィルム形成装置35は、支持体31の搬送方向Xの上流側から順に並べられた第1室41と第2室42と第3室43とから構成され、支持体31を第1室41、第2室42、第3室43を搬送させる間に、支持体31の上に溶液46からなる液膜40を形成し、この液膜40を乾燥することにより、フィルム10を支持体31の上に形成する。
【0024】
第1室41には、溶液46を流出する流延ダイ47を設けてある。溶液46を流出する流出口が支持体31に対向するように配された流延ダイ47から、搬送されている支持体31の上に連続的に流出することにより、溶液46が支持体31の上で流延されて液膜40が形成される。このように、溶液46を流延して液膜40を形成する液膜形成工程は、第1室41で行われる。
【0025】
液膜40の厚みは、溶液46の粘度及び流量、流延ダイ47の流出口のクリアランスや、支持体31の搬送速度により調節する。形成直後の液膜40の厚みは10μm以上2000μm以下の範囲とする。
【0026】
第2室42における支持体31の搬送路の上方には、空気を液膜40の上方に供給し、液膜40の上方にある気体つまり雰囲気を吸引する送風吸引ユニット50を設ける。図5では、送風吸引ユニット50を、支持体の搬送方向Xに2つ並べて設けてある。
【0027】
送風吸引ユニット50は、液膜40の露出面に向けて空気を出す送風口51と液膜40の上方で気体を吸引する吸気口52とを有するダクトと、送風部53とを備える。送風部53は、送風口51から出す空気の温度、露点、風量を制御するとともに、吸気口52で吸引する際の吸引風量と、吸引した気体から溶剤を除去して溶剤ガスの露点を制御する。
【0028】
この第2室42では、送風口51から加湿された空気を供給して雰囲気中の水分を液膜40の露出面に結露させて水滴を生じさせ、生じた個々の水滴を所定の大きさになるまで成長させる水滴形成工程を行う。加湿空気の供給で生じた水滴は、毛細管力等により整列し、加湿空気と接触し続けることにより成長する。つまり、最終的な水滴の大きさは、雰囲気の露点TDとこの雰囲気に含まれる水蒸気との接触時間とに主に依存する。したがって、水滴をより大きく成長させたい場合には、雰囲気の露点TDをより高くすることと、第2室42における液膜40の滞留時間をより長くするとよい。そして、雰囲気の露点TDは、送風口51からの空気の露点制御により、調整することができる。
【0029】
また、液膜40からは、わずかではあるが溶剤が蒸発する。この蒸発に伴い、水滴は徐々に液膜40の中に成長しながら潜りこむ。つまり、水滴の液膜40への潜り込みの深さは、液膜40が所定の粘度になるまでの溶剤の蒸発速度と蒸発量とに依存する。したがって、溶剤の蒸発速度と蒸発量とを制御することにより、フィルム10とフィルム20とをつくりわけることができる。
【0030】
水滴の発生の進行度と成長の進行度とは、送風吸引ユニット50により、加湿された空気の供給と、液膜40の露出面の温度調整とにより制御することができる。具体的には、液膜40の雰囲気における露点TDから液膜40の露出面の温度TSを減じたパラメータΔTw(=TD−TS)が1℃以上30℃以下の範囲となるように、温度TSと供給する空気の湿度及び温度とを調整する。さらに、液膜40の上方における溶剤ガスの露点制御を実施することにより、水滴の発生及び成長の進行度の制御はより確実なものとなる。液膜40の上方における溶剤ガスの露点は、吸気口52からの吸引風量を調整することで制御することができる。
【0031】
第3室43には、送風吸引ユニット56が、支持体31の搬送方向Xに沿って複数並べて設けられてある。送風吸引ユニット56は、第2室42の送風吸引ユニット50と同様の構成を有し、送風口57及び吸気口58を有するダクトと、送風部59とを備える。
【0032】
この第3室43では、液膜40から溶剤と水滴とを蒸発させてフィルム10を得る乾燥工程を実施する。そこで、送風吸引ユニット56の送風口からは、乾燥した空気を流出して、液膜40の乾燥をすすめる。溶剤と水滴とをともに蒸発させてもよいが、溶剤を水滴よりも早期に蒸発させる方が、より好ましい。
【0033】
フィルム10は、支持体31に重なった状態でカット装置36に案内され、支持体31とともに所定のサイズに切断されてシート状の製品となる。なお、本実施形態では、カット装置36により、フィルム10をシート状に切断したが、長尺のまま巻き取ってロール状の製品としてもよい。また、支持体31から剥がしてから、シート状あるいはロール状の製品にしてもよい。
【0034】
なお、本実施形態では、走行する支持体31に溶液46を流延して液膜40を形成し、この液膜40に対して結露させることによりフィルム10,20を製造するが、この方法には限定されない。例えば、容器の中に溶液46を入れてこの溶液46の液面に結露させて水滴を形成する方法でもフィルム10,20を製造することができる。このように容器中の溶液46に対して結露を実施する方法は、貫通孔ではなく窪みである孔21を形成したフィルム20を製造する場合に特に有効である。
【0035】
フィルム10,20はともに疎水性の高分子化合物61から構成され、上記の通り溶液46から製造される。つまり、溶液46には、疎水性の高分子化合物61が溶解している。この溶液46は、高分子化合物61の他に、界面活性剤62と水に対する溶解度が0.5(g/100g水)以下である疎水性の液体63とを含む。この溶解度は、一般に疎水性と言われる中でも極端に強い疎水性のレベルであるので、以降の説明ではこの液体を「強疎水液」と称する。この強疎水液63が、高分子化合物61の良溶媒である場合には、強疎水液63を溶液の溶媒成分とすることができるので他の液体を溶媒成分として用いる必要は無い。しかし、この強疎水液63が高分子化合物61の貧溶媒である場合には、良溶媒64をさらに用いる。なお、溶液46は、界面活性剤62以外の親水性の物質は含まない。したがって、本発明では親水性液体を用いない。
【0036】
(1)高分子化合物
疎水性の高分子化合物は、フィルム10,20の用途に応じて選択される。例えば、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、アガロース、ポリ−2−ヒドロキシエチルアクリレート、ポリスルホン、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド(例えば、ナイロン)、ポリイミド(ポリアミド酸を含む)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体が挙げられる。
【0037】
高分子化合物は、溶解性、光学的物性、電気的物性、強度、弾性等の観点から、上記に挙げる各ホモポリマーであってもよいし、コポリマーやポリマーブレンド、ポリマーアロイでもよい。フィルム形状の癒着防止材としてフィルム10,20を用いる場合には、生分解性が求められるので、ポリ乳酸やポリ−ε−カプロラクトンが特に好ましい。また、これらを任意の比率で混合して用いたり、これらの各繰り返し単位をもつ共重合体を合成し、合成した共重合体を用いてもよい。
【0038】
(2)界面活性剤
界面活性剤は、周知のように、疎水性を示す疎水部と親水性を示す親水部とをその構造内にもつ両親媒性化合物である。界面活性剤としては、市販される多くの界面活性剤のようなモノマー(単量体)であってもよいし、二量体や三量体等のオリゴマーであってもよい。フィルム形状の癒着防止材としてフィルム10,20を用いる場合には、生分解性をもつことからリン脂質を用いることが好ましい。
【0039】
界面活性剤は、水中に含まれる場合には、単独では水に囲まれた疎水部が不安定なので外部の空気と水との界面に吸着したようになり、疎水部が外気側、親水部が水側となるように水と外気との界面である水面に位置する。そして、界面活性剤の量を増やしていくと界面活性剤は凝集してより安定な形態へと変化していき、やがて水中で安定化するように並ぶ。このように並んだ状態あるいは並んだものがいわゆるミセルであり、界面活性剤は、疎水部が内側で親水部が外側の球の形状である球状ミセルを形成して水中に漂うようになる。このように球状ミセルを形成するようになる界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度(cmc,critical micelle concentration)である。
【0040】
これに対し、本発明で用いる溶液のように、疎水性の液に界面活性剤を含ませた場合には、図6に示すように、界面活性剤62は、cmcよりも小さい濃度においては親水部62aが外気側、疎水部62bが溶液46側となるように液面46aに位置し、cmc以上の濃度では、図7に示すように、親水部62aが内側で疎水部62bが外側の球状の逆ミセル71を形成して溶液中に漂うものが出てくる。
【0041】
界面活性剤62は、溶液46でのcmc未満の濃度となるような量に抑えて使用することがより好ましい。cmc未満の濃度に界面活性剤62の使用量を抑えることで、界面活性剤62のほとんどが溶液46の内部ではなく液面46aに位置することになる。したがって液膜40を形成した場合には、液膜40の内部ではなく液面すなわち露出面に位置するようになる。そして、親水部62aが液面46aの外気側となるような姿勢で界面活性剤が液面に存在するので、結露によって水滴を生じさせるときに各親水部62aがその発生の足場となる。したがって、溶液46中の界面活性剤62のほとんど全てが水滴の発生に寄与することになる。そして、この効果は、溶液46における界面活性剤62の濃度がcmcである場合でも同様に得られる。したがって、界面活性剤62は、溶液46でのcmcを超えない程度、すなわちcmc以下となる量で使用すればよい。
【0042】
また、溶液46における界面活性剤62の濃度がcmcより大きいと、液膜40の中に存在する逆ミセル71によって、フィルム10,20の内部に空隙が出来てしまうことがあるが、cmc以下の濃度に界面活性剤62の使用量を抑えることで、この空隙の発生を防止することができる。なお、cmcより低い濃度であっても逆ミセル71が極わずかに液膜40の中に存在しているが、cmc以下の濃度であれば、空隙発生の抑止に一定の効果がある。この効果をより確実に得るには、溶液46における界面活性剤の濃度をcmcの1/2以下とすることが好ましく、1/10以下とすることがさらに好ましい。ただし、多くの水滴を確実に発生させる観点から、溶液46における界面活性剤62の濃度は、少なくとも0.0001質量%以上とすることが好ましい。
【0043】
さらに、界面活性剤62はフィルム10,20に残ることがあるが、残っていてもその含有量が極めて少ないために、生体等の使用環境への影響をより小さく抑える可能性がある。したがって、癒着防止材のような医用材料としての利用の可能性が高くなる。
【0044】
界面活性剤62が含まれる溶液46は、界面活性剤62の濃度が増加するに従って表面張力が低下する。この表面張力と界面活性剤濃度との関係を求め、界面活性剤の濃度を高めても表面張力が変化せずに一定となる濃度を臨界ミセル濃度cmcと定義する。溶液46の表面張力は協和界面科学株式会社製のDropMasterシリーズで測定することができる。
【0045】
なお、界面活性剤62のcmcは、溶液46の温度や、溶液46における電解質の有無及び電解質の量によって変化する。具体的には、溶液46の温度が低いほど、そして、電解質の量が多いほど、界面活性剤62のcmcは低くなる。そこで、cmcを求める場合の溶液46は、水滴形成工程の間の液膜40の温度と同じ温度とし、また、界面活性剤62を除く全ての処方が流延する溶液46と同じにすることが好ましい。
【0046】
(3)強疎水液
強疎水液63は、界面活性剤62の各親水部62aに生じた水滴の各々を、安定的に成長させるものである。安定的に成長とは、発生した多数の水滴のうち、一部の水滴同士が結合して水滴の最終的な大きさや配置が不均一になること無く、個々の水滴が形状を保ちながら互いに同じ大きさに成長していくことを意味する。同じ大きさに成長していくことにより、結果的に水滴の配列も一様になる。強疎水液63を用いることの上記の効果は、形成すべき水滴の大きさが0.05μm以上10μm以下という非常に小さな場合にもあるが、水滴を大きく成長させて孔径D1が大きなフィルム10,20をつくる場合ほど顕著である。
【0047】
一般的に、親水性といわれる溶解度は図8の符号R1で示す30(g/100g)より大きい領域であり、疎水性といわれる溶解度は符号R2で示す30(g/100g)以下の範囲である。そして、強疎水液63としては、符号R3で示す0以上0.5(g/100g水)以下の範囲の溶解度をもつ液を用いる。強疎水液63の疎水性は大きいほど好ましい。すなわち、強疎水液63の水に対する溶解度は、符号R3で示す範囲の中でも小さいほど好ましく、0以上0.1(g/100g水)以下の範囲がより好ましく、0以上0.05(g/100g水)以下の範囲であることがさらに好ましい。このように、強疎水液63の溶解度は、図8に示すように、疎水性領域R2の中でも非常に低い溶解度であり、しかも、この領域R3は領域R2の中の極わずかな範囲である。なお、本明細書における水に対する溶解度は、水滴形成工程における液膜40と同じ温度の水に対する溶解度であり、液膜40を形成せずに容器内に収容されてある溶液46に対して水滴形成工程を実施する場合には、このときの溶液46と同じ温度の水に対する溶解度である。
【0048】
強疎水液63としては、n(ノルマル)−ヘキサン(溶解度≦0.001(g/100g水))、シクロヘキサン(溶解度=0.008(g/100g水))、その他の常温で液体のn−ペンタン、n−オクタン、ヘプタン等の炭化水素化合物類を用いることができる。他には、旭硝子(株)製アサヒクリン(AK−225)(溶解度=0.033(g/100g水))等のフッ素系溶剤等を用いることができる。
【0049】
良溶媒64と混合して用いる強疎水液64は、沸点が100℃以下のものであることが望ましい。また、強疎水液64の他に疎水性の液を用いる場合、例えば良溶媒64が疎水性の液体である場合等には、疎水性の液の沸点をTr、強疎水液64の沸点をTkとした場合に、Tk−Tr≦10℃であるような強疎水液64と疎水性の液とを用いることが望ましい。強疎水液64の沸点が、併用するその他の液の沸点より著しく高い場合には、強疎水液64とその他の液との混合液の表面近傍においてその他の液の比率が高くなることで、本効果が発現しない場合もありうる。さらに好ましくはTk−Tr≦5℃であるような強疎水液64と疎水性の液とを混合して用いることである。
【0050】
従来の製造方法においても疎水性の液体は用いられてきたが、これは、疎水性の高分子化合物61を溶解する溶解度と乾燥工程における乾燥のしやすさとの観点から選定してきた。これに対し、本発明では、強疎水液63として用いる液の選定に際しては、高分子化合物61を溶解する観点や乾燥のしやすさではなく、水に対する溶解度を基準とする。これは、結露により形成する液滴が水滴であり、水滴の発生の足場として界面活性剤62の親水部62aを利用するからである。水滴及び親水部62aの溶解度は領域R1に含まれ、これらの溶解度と領域R3の溶解度とは溶解度との差が極めて大きいので、露出面に発生した各水滴を、界面活性剤62の各親水部62a上にとどめた状態で接触角が大きいまま成長させる作用が極端に強いからである。界面活性剤の疎水部62bや、良溶媒64の溶解度は、領域R3と領域R1との間の領域R4にあり、この溶解度では、各水滴を親水部62aにとどめたまま大きく成長させる作用はほとんどない。
【0051】
水に対する溶解度が低いということは疎水性が強いことを意味する。そして強疎水液63は、この疎水性の強さゆえに水滴を安定的に成長させるので、図9に示すように、疎水性の強さが異なる強疎水液63を用いることにより、形成すべき水滴の大きさを変えることができる。図9の縦軸は、形成することができる水滴の大きさであり、上方へ向かうほど水滴の径が大きいことを意味し、横軸は、強疎水液63の水に対する溶解度(単位;g/100g水)である。なお、このグラフは、溶液46における界面活性剤62の質量に対する強疎水液63の質量の割合を一定とする場合である。この図9によると、強疎水液63の溶解度が小さいほど、水滴を大きく成長させることができることがわかる。したがって、形成すべき水滴の大きさに応じて、水に対する溶解度に基づいて強疎水液63として用いる液を選定するとよい。
【0052】
形成すべき水滴の大きさが0.05μm以上10μm以下という非常に小さい場合には、強疎水液63は、高分子化合物61の溶解性に優れるものよりは、むしろ溶解しないいわゆる貧溶媒であるものの方が好ましい。強疎水液63として高分子化合物61の貧溶媒を用いることにより、液膜40をよりはやく硬くすることができるので水滴の成長を早いタイミングで止めることができるようになるからである。なお、貧溶媒とは、ここでは、高分子化合物61の溶解度が1%未満であることを意味する。
【0053】
0.05μm以上10μm以下という非常に小さな直径であるうちに水滴の成長を止める場合には、貧溶媒としての強疎水液63の質量Xは、溶液46の質量Yに対して多くとも50%とすることが好ましい。より好ましくは、X/Y×100で求める強疎水液63の質量割合が1%以上30%以下であり、さらに好ましくは5%以上30%以下である。なお、強疎水液63が高分子化合物61の貧溶媒であるときには、良溶媒64を用いる。
【0054】
(4)良溶媒
良溶媒64は、高分子化合物61を溶解するために用いる。良溶媒64としては、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、酢酸メチルなどが挙げられ、これらのうち複数を併用してもよい。なお、高分子化合物61が疎水性であるため、この良溶媒64として用いることができる液の多くは疎水性であるが、良溶媒64の選択にあたっては、疎水性の強さ、すなわち水に対する溶解度を考慮する必要はない。
【0055】
以上のように、本発明によると、孔が0.05μmという小さなものから50μmという大きなものまで、孔径が均一で配列が規則的なハニカム構造フィルムを製造することができる。中でも、本発明は、孔が0.05μm以上10μm以下という小さいハニカム構造フィルム、さらには0.05μm以上3μm以下という非常に小さいハニカム構造フィルムを製造する場合に、従来技術と比べて特に顕著な効果を示す。
【実施例1】
【0056】
以下組成の溶液46を調製した。そして、この溶液46をろ過して異物を除去した後に流延ダイ47に供給した。疎水性の高分子化合物61としてポリ乳酸、界面活性剤62として両親媒性のポリマーであるポリアクリルアミド、強疎水液63としてノルマルヘキサン、良溶媒64としてトリクロロメタン(クロロホルム)をそれぞれ用いた。高分子化合物61の溶液46における濃度は1.0質量%とした。以下のように、(強疎水液63):(良溶媒64)で表す質量比は30:70とした。なお、界面活性剤62の溶液46におけるcmcは1.0%である。表1において、各「水に対する溶解度」とは、水滴形成工程での溶液46と同温の水に対する値である。
【0057】
第1室41では、流延ダイ47から、温度が10℃以上30℃以下の範囲内でほぼ一定の保持された溶液46を、支持体31に吐出し、これにより、支持体31の表面に液膜40を形成した。このようにして、液膜形成工程を行った。液膜40の厚みは500μmであった。
【0058】
第2室42は、ΔTwが5.0℃以上6.0℃以下の範囲内でそれぞれほぼ一定となるように、送風吸引ユニット50からの湿潤空気を調節した。そして、送風吸引ユニット50から液膜40に湿潤空気をあてて、水滴形成工程を行った。送風吸引ユニット50から送り出された湿潤空気の風速は、0.5m/秒であった。
【0059】
第3室43は、ΔTwが−6.0℃以上−5.0℃以下の範囲内でそれぞれほぼ一定となるように、送風吸引ユニット56からの乾燥空気を調節した。そして、送風吸引ユニット56から液膜40に乾燥空気をあてて、乾燥工程を行った。送風吸引ユニット56から送り出された乾燥空気の風速は、5.0m/秒であった。
【0060】
得られたフィルム20の孔21の径D1の平均値と、径D1の変動係数(以下、孔径変動係数と称する)とを以下の方法で求め、さらに、この孔径変動係数に基づいて孔21の配列の規則性の程度を以下の基準で評価した。評価結果は表2に示す。
【0061】
<径D1の平均値及び孔径変動係数>
フィルム20の表面を、SEM(走査型電子顕微鏡,Scanning Electron Microscope)写真または光学顕微鏡写真において、1画面中の孔の数が50個以上となるような倍率により観察した。観察した顕微鏡写真を元に、1画面中に存在する孔について画像解析を行い、それぞれの孔21の径D1を測定し、孔21の径D1の平均値DAV、孔の径の標準偏差σD、及び孔径変動係数Xを算出した。孔径変動係数X(単位;%)は、(σD/DAV)×100で求められる。
【0062】
<配列の規則性の程度の評価基準>
A;変動係数が5%未満である場合
B;変動係数が5%以上10%未満である場合
C;変動係数が10%以上15%未満である場合
D;変動係数が15%以上である場合
【実施例2】
【0063】
(強疎水液63):(良溶媒64)で表す質量比を1:99とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0064】
得られたフィルム20につき、実施例1と同様に評価した。評価結果は表2に示す。
【実施例3】
【0065】
強疎水液63として、n−ヘキサンに代えて旭硝子(株)のアサヒクリンAK−225を用いた。(強疎水液63):(良溶媒64)で表す質量比を10:90とした。これら以外は、実施例1と同様に行った。
【0066】
得られたフィルム20につき、実施例1と同様に評価した。評価結果は表2に示す。
【実施例4】
【0067】
強疎水液63として、n−ヘキサンに代えてシクロヘキサンを用いた。良溶媒64おして、トリクロロメタンに代えてジクロロメタンを用いた。(強疎水液63):(良溶媒64)で表す質量比を10:90とした。これら以外は、実施例1と同様に行った。
【0068】
得られたフィルム20につき、実施例1と同様に評価した。評価結果は表2に示す。
【実施例5】
【0069】
界面活性剤62の溶液46における質量割合を、cmcである1.0%よりも大きい2%とした。これ以外は実施例1と同様に行った。
【0070】
得られたフィルム20につき、実施例1と同様に評価した。評価結果は表2に示す。
【0071】
[比較例1]
強疎水液63を用いずに、流延すべき溶液をつくった。溶液の液体成分としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)と、良溶媒64としてのトリクロロメタンとである。DMSOの水に対する溶解度は100(g/100g水)以上である。DMSO:(良溶媒64)で表す質量比は30:70とした。
【0072】
得られたフィルムにつき、実施例1と同様に評価した。評価結果は表2に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【符号の説明】
【0075】
10,20 フィルム
11,21 孔
14 隔壁
40 液膜
46 溶液
70 界面活性剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性の液体と界面活性剤と疎水性の高分子化合物とを含有し、親水性の液体を非含有とする溶液の上に、雰囲気中の水分を結露させて水滴を発生させ、前記水滴を所定の大きさに成長させる水滴形成工程と、
前記溶液の液体成分と前記溶液の中に入り込んだ前記水滴とを蒸発させる蒸発工程とを有し、
前記疎水性の液体は、前記水滴形成工程での前記溶液と同温の水に対する溶解度が0.5(g/100g水)以下であることを特徴とするハニカム構造フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記界面活性剤は、前記溶液での臨界ミセル濃度を超えない量が前記溶液に含まれることを特徴とする請求項1記載のハニカム構造フィルムの製造方法。
【請求項3】
形成すべき前記水滴の大きさに応じて、前記溶解度に基づき前記疎水性の液体を決定することを特徴とする請求項1または2記載のハニカム構造フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記疎水性の液体が前記高分子化合物の貧溶媒であるときには、前記溶液は前記高分子化合物の良溶媒を含むことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載のハニカム構造フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−202100(P2011−202100A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72633(P2010−72633)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】