説明

ハニカム構造体成形用金型及びこれを用いたハニカム構造体の製造方法

【課題】正方形配置のセル構造を有するハニカム構造体の成形時において、外周スキン近傍のセルの変形を十分に抑制できる金型、及び、当該金型を用いたハニカム構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】金型20は、多数の貫通孔が略平行に配置され且つ端面から見て当該複数の貫通孔70cが正方形配置されたセル構造70bを有するとともに側面が外周スキン70aで覆われたハニカム構造体70を押出成形するためのものである。金型20に装着されたスペーサー24は、その内径を縮径して外周スキン70a付近のセル構造70bをなす原料組成物の量を減らす開口縮小部24bを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造技術に関するものであり、より詳細にはハニカム構造体成形用金型及びこれを用いたハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハニカムフィルタ構造体が、ディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel particulate filter)用等として広く知られている。このハニカムフィルタ構造体は、多数の貫通孔を有するハニカム構造体の一部の貫通孔の一端側を封口材で封じると共に、残りの貫通孔の他端側を封口材で封じた構造を有する。特許文献1には、ハニカム構造体の製造に使用される金型が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−166386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の金型を用いて図1の(a)に示すハニカム構造体70を押出成形した場合、側面を覆う外周スキン70aが均一に形成されずに内部のセル構造70bが露出した欠陥品が生じることが多かった。また、外周スキン70aが十分均一に形成された場合でも、図1の(b)に示すように、外周スキン70a近傍のセルが変形することも多かった。なお、図1に示すハニカム構造体70は、多数の貫通孔70cが略平行に配置された円柱体からなり、ハニカム構造体70の端面から見て、複数の貫通孔70cが正方形配置、すなわち、貫通孔70cの中心軸が正方形の頂点にそれぞれ位置するように配置されている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、正方形配置のセル構造を有するハニカム構造体の成形時において、外周スキン近傍のセルの変形を十分に抑制できる金型を提供することを目的とする。また本発明は、当該金型を用いたハニカム構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、外周スキン近傍のセル変形の原因について検討したところ、セル変形が生じる箇所は他の箇所と比較して原料組成物の供給量が過剰であり、これがセル変形の主因であるとの知見を得た。かかる知見に基づき、金型に装着するスペーサーという部材の形状を工夫することによって上記課題を解決すべく、種々のスペーサーを試作して評価を行い、以下の本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明のハニカム構造体成形用金型は、多数の貫通孔が略平行に配置され且つ端面から見て当該複数の貫通孔が正方形配置されたセル構造を有するとともに側面が外周スキンで覆われたハニカム構造体を押出成形するためのものであり、ペースト状の原料組成物が供給される供給穴及び当該供給穴に連通しておりセル構造を形成するための格子状のスリット溝を有する金型本体と、金型本体のスリット溝が形成されている側の面の周縁部を覆うように配置され、ハニカム構造体の外径に対応する内径の開口を有するカバーリングと、金型本体とカバーリングとの間に配置され、カバーリングの開口よりも大きい略円形の開口を有するスペーサーと、金型本体に対してカバーリング及びスペーサーを固定するホルダーとを備え、スペーサーは該スペーサーの内径を縮小して外周スキン付近のセル構造をなす原料組成物の量を減らす開口縮小部を有する。
【0008】
円柱状のハニカム構造体を押出成形する場合、従来、外周スキンを形成するため、円形の開口を有するスペーサーが使用されている(図5参照)。スペーサーは厚さ0.3〜1.0mm程度のシート状の材料からなり、カバーリングの開口よりも一回り大きい開口を有する。かかる構成のスペーサーを金型本体とカバーリングの間に配置することで、金型本体とカバーリングの間を通過した原料組成物が外周スキンとなる。本発明に係る金型によれば、原料組成物の量を減らすための開口縮小部を有するスペーサーを使用することで、外周スキン近傍のセルをなす原料組成物の過剰供給を十分に抑制でき、当該箇所におけるセル変形を十分に抑制できる。
【0009】
上記スペーサーの開口縮小部は、スペーサーの開口の中心を原点とし金型本体の格子状のスリット溝の延びる方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向とする円座標系を設定したとき(図5参照)、中心角すなわち角度θが45°、135°、225°及び315°の位置にそれぞれ設けられており、これらの位置においてスペーサーの内周がそれぞれ中心方向に隆起していることが好ましい。
【0010】
本発明者らの検討によると、正方形配置のセル構造を有するハニカム構造体にあっては外周スキン近傍のセル変形が、角度θが45°、135°、225°及び315°の位置に生じやすい。これは正方形配置のセル構造は中心から外周への方向によって原料組成物の使用量が異なり、かかる非対称性が上記位置にセル変形を生じさせる主因と推察される。スペーサーの特定の位置に開口縮小部を設けたことで、これらの位置において原料組成物の押出量を減少させることができる。このため、単に円形の開口を有するスペーサーが装着された従来の金型を使用する場合と比較し、外周スキン近傍のセルの変形を十分に抑制できる。
【0011】
本発明は上記金型を用いたハニカム構造体の製造方法を提供する。すなわち、本発明に係るハニカム構造体の製造方法は、上記金型を押出成形装置に装着する工程と、押出成形装置にペースト状の原料組成物を供給し、金型から押し出されるハニカム構造体を得る工程とを備える。この方法によれば、金型の作用により、外周スキン近傍のセル変形が十分に少ないハニカム構造体を十分に高い歩留まりで製造できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正方形配置のセル構造を有するハニカム構造体の成形時において、外周スキン近傍のセルの変形を十分に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)はハニカム構造体の一例を示す斜視図、(b)は外周スキン近傍であってセル変形が認められる箇所を示す部分拡大図である。
【図2】金型の周縁部の構成を示す部分端面図である。
【図3】本発明に係る金型が備えるスペーサーの一例を示す平面図である。
【図4】本発明に係る金型が備えるスペーサーの他の例を示す平面図である。
【図5】金型本体及び従来の金型に装着されるスペーサーを示す平面図である。
【図6】本発明に係る金型が装着された押出成形装置の一例を示す概略断面図である。
【図7】押出成形装置が備える整流板の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。まず、本発明に係る金型の説明に先立ち、焼成前のハニカム構造体(グリーン成形体)について説明する。
【0015】
<ハニカム構造体>
図1に示すハニカム構造体70は、原料組成物を押出成形することによって得られたものである。図1の(a)に示すように、ハニカム構造体70は側面をなす外周スキン70aを有し、格子状のセル構造70bによって画成される多数の貫通孔70cが略平行に配置された円柱体である。貫通孔70cの断面形状は、図1の(b)に示すように正方形である。これらの複数の貫通孔70cは、ハニカム構造体70において、端面から見て、正方形配置、すなわち、貫通孔70cの中心軸が、正方形の頂点にそれぞれ位置するように配置されている。貫通孔70cの断面の正方形のサイズは、例えば、一辺0.8〜2.5mmとすることができる。なお、図1の(b)には、本発明の課題を説明するため、セル構造70bの一部が変形したハニカム構造体70を示したが、このような変形がなるべく生じていないものが好ましい。
【0016】
ハニカム構造体70の貫通孔70cが延びる方向の長さは特に限定されないが、例えば、40〜350mmとすることができる。また、ハニカム構造体70の外径も特に限定されないが、例えば、100〜320mmとすることできる。
【0017】
ハニカム構造体70をなす原料組成物は特に限定されないが、DPF用のハニカム構造体を製造する場合にあっては、セラミクス原料である無機化合物源粉末、及び、メチルセルロース等の有機バインダ、及び、必要に応じて添加される添加剤を含む。ハニカム構造体の高温耐性の観点から、好適なセラミクス材料として、アルミナ、シリカ、ムライト、コーディエライト、ガラス、チタン酸アルミニウム等の酸化物、シリコンカーバイド、窒化珪素等が挙げられる。なお、チタン酸アルミニウムは、更に、マグネシウム及び/又はケイ素を含むことができる。
【0018】
例えば、チタン酸アルミニウムのハニカム構造体を製造する場合、無機化合物源粉末は、αアルミナ粉等のアルミニウム源粉末、及び、アナターゼ型やルチル型のチタニア粉末等のチタニウム源粉末を含み、必要に応じて、更に、マグネシア粉末やマグネシアスピネル粉末等のマグネシウム源粉末及び/又は、酸化ケイ素粉末やガラスフリット等のケイ素源粉末を含むことができる。
【0019】
有機バインダとしては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシアルキルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩を例示できる。
【0020】
添加物としては、例えば、造孔剤、潤滑剤及び可塑剤、分散剤、溶媒が挙げられる。
【0021】
造孔剤としては、グラファイト等の炭素材;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類;でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物材料;氷;及びドライアイス等などが挙げられる。
【0022】
潤滑剤及び可塑剤としては、グリセリンなどのアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸アルミニウムなどのステアリン酸金属塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(POAAE)などが挙げられる。
【0023】
分散剤としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウムなどの界面活性剤などが挙げられる。
【0024】
溶媒としては、アルコール類及び水などを用いることができる。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどの2価アルコール類;などが挙げられる。
【0025】
<金型>
図2に示す金型20は、図1に示す態様のハニカム構造体を成形するためのものである。金型20は、原料供給穴21a及びスリット溝21bを有する金型本体21と、カバーリング22と、スペーサー24と、ホルダー28とを備える。
【0026】
金型本体21は、押出成形装置に装着された際、上流側に配置される面S1と下流側に配置される面S2を有する。面S1には複数の原料供給穴21aが形成されており、面S2には原料供給穴21aに連通した格子状のスリット溝21bが形成されている。金型本体21の面S1側から供給される原料組成物は、原料供給穴21a及びスリット溝21bを通じて面S2側に至り、正方形配置されたセル構造となって押し出される。金型本体21の材質としては、炭素鋼;ニッケル、クロム、タングステン等を含有する特殊鋼等が挙げられる。
【0027】
カバーリング22は、金型本体21の面S2の周縁部を覆うように配置されている。カバーリング22は、成形すべきハニカム構造体の外径に対応する内径の開口を有する。言い換えれば、金型本体21の外形に関わらず、所定の内径を有するカバーリング22を使用することによって所望の外径のハニカム構造体を得ることができる。なお、カバーリング22の材質としては、炭素鋼;ニッケル、クロム、タングステン等を含有する特殊鋼等が挙げられる。
【0028】
図2に示すように、ホルダー28は金型本体21に対してカバーリング22及びスペーサー24を固定するためのものである。ホルダー28の材質としては、炭素鋼;ニッケル、クロム、タングステン等を含有する特殊鋼等が挙げられる。
【0029】
(スペーサーの一例)
スペーサー24は、金型本体21とカバーリング22との間に配置されている。スペーサー24は厚さ0.3〜1.0mm程度のシート状の材料からなる。スペーサー24の材質の具体例としては、銅などの金属、紙、樹脂などが挙げられる。スペーサー24は、カバーリング22の開口よりも一回り大きい開口24aを有する。カバーリング22の開口よりも一回り大きい開口を有するスペーサー24を金型本体21とカバーリング22の間に配置することで、両者の間に隙間が設けられる。この隙間を通過した原料組成物が外周スキンとなる。
【0030】
スペーサー24は、その開口24aがカバーリング22の開口の半径よりも長い半径r1を基準としたサイズを有し、図3に示すとおり、所定の位置に4つの開口縮小部24bが設けられている。4つの開口縮小部24bは、開口24aの中心を原点Oとし金型本体21のスリット溝21bの延びる方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向とする円座標系を設定したとき(図5参照)、角度θが45°、135°、225°及び315°の位置にそれぞれ設けられている。なお、スペーサー24は、開口24aが所定のサイズ及び形状を有していることが重要であって、金型本体21とカバーリング22の間に適切に配置可能である限り、全体の大きさ及び形状は制限されない。
【0031】
スペーサー24の開口24aは、角度θが0°〜90°の部分の形状が角度θが90°〜180°、180°〜270°及び270°〜360°の部分でそれぞれ繰り返される形状を有する。ここでは、開口24aを画成する角度θが0°〜90°の部分の形状について詳細に説明し、角度θが90°〜180°、180°〜270°及び270°〜360°の部分については説明を省略する。
【0032】
スペーサー24の開口の角度θが0°〜90°の部分は、以下の部分によって画成されている。(1)原点Oを中心とする半径r1の円弧からなる角度θが0°〜θの部分a1。(2)原点Oを中心とする半径r1の円弧からなる角度θが(90°−θ)〜90°の部分a2。(3)原点Oを角度θが225°の径方向にずらした点Oを中心とする半径r2の円弧からなる角度θが(45°−θ)〜(45°+θ)の部分a3。
【0033】
上記3つの部分a1,a2,a3によって角度θが45°の位置にピークを有する開口縮小部24bが形成される。外径が100〜320mm程度のハニカム構造体を成形する場合にあっては、角度θが45°における開口縮小部24bの中心方向への隆起の幅(図3におけるWa)は、好ましくは1〜3mm程度である。ここでいう隆起の幅は、半径r1の円を基準(図3に示す破線)としたものである。上記3つの部分a1,a2,a3の接合部はなるべくなめらかに連続していることが好ましい。隆起の幅を十分に確保すると共になめらかな接合部を実現する観点から、θは好ましくは10〜30°であり、θは好ましくは0〜35°である。なお、半径r1及び半径r2は成形すべきハニカム構造体の外径及び隆起の幅Waに応じて適宜設定すればよい。
【0034】
(スペーサーの他の例)
上記スペーサー24の代わりに図4に示すスペーサー25を使用してもよい。スペーサー25は、その開口25aがカバーリング22の開口の半径よりも長い半径r1を基準としたサイズを有し、図4に示すとおり、所定の位置に4つの開口縮小部25bが設けられている。4つの開口縮小部25bは、開口25aの中心を原点Oとし金型本体21のスリット溝21bの延びる方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向とする円座標系を設定したとき(図5参照)、角度θが45°、135°、225°及び315°の位置にそれぞれ設けられている。なお、スペーサー25は、開口25aが所定のサイズ及び形状を有していることが重要であって、金型本体21とカバーリング22の間に適切に配置可能である限り、全体の大きさ及び形状は制限されない。
【0035】
スペーサー25の開口25aは、角度θが0°〜90°の部分の形状が角度θが90°〜180°、180°〜270°及び270°〜360°の部分でそれぞれ繰り返される形状を有する。ここでは、開口25aを画成する角度θが0°〜90°の部分の形状について詳細に説明し、角度θが90°〜180°、180°〜270°及び270°〜360°の部分については説明を省略する。
【0036】
スペーサー25の開口の角度θが0°〜90°の部分は、以下の部分によって画成されている。(1)原点Oを角度θが0°の径方向にずらした点Oを中心とする半径r3の円弧からなる角度θが0°〜θの部分b1。(2)原点Oを角度θが90°の径方向にずらした点Oを中心とする半径r3の円弧からなる角度θが(90°−θ)〜90°の部分b2。(3)原点Oを角度θが225°の径方向にずらした点Oを中心とする半径r4の円弧からなる角度θが(45°−θ)〜(45°+θ)の部分b3。
【0037】
上記3つの部分b1,b2,b3によって角度θが45°の位置にピークを有する開口縮小部25bが形成される。外径が100〜320mm程度のハニカム構造体を成形する場合にあっては、角度θが45°における開口縮小部の中心方向への隆起の幅(図4におけるWb)は、好ましくは1〜3mm程度である。ここでいう隆起の幅は、半径r1の円を基準(図4に示す破線)としたものである。上記3つの部分b1,b2,b3の接合部はなるべくなめらかに連続していることが好ましい。隆起の幅を十分に確保すると共になめらかな接合部を実現する観点から、θは好ましくは10〜40°であり、θは好ましくは1〜40°である。なお、半径r1、半径r3及び半径r4は成形すべきハニカム構造体の外径及び隆起の幅Wbに応じて適宜設定すればよい。
【0038】
本例に係るスペーサー25は、部分b1と部分b2の接合部分において両円弧の接線が一致し且つ部分b2と部分b3の接合部分において両円弧の接線が一致する。このため、より高度になめらかな曲線で開口25aが画成され、これにより外周スキン付近のセル変形をより一層十分に抑制できる。
【0039】
図3,4に示すような態様のスペーサーを備えた金型20によれば、開口縮小部24b,25bが設けられた箇所において外周スキン近傍のセルをなす原料組成物の押出量を適度に減らすことができる。このため、図5に示す従来のスペーサー27を使用する場合と比較し、外周スキン近傍のセルの変形を十分に抑制できる。
【0040】
<押出成形装置>
図6に示す押出成形装置10は、上述の金型20が装着されており、粉末状又はペースト状の原料組成物からハニカム構造体70を製造するためのものである。
【0041】
押出成形装置10は、ハウジング1内の上段に設けられたスクリュー2A及び下段に設けられたスクリュー2Bを備える。スクリュー2A,2Bは、入口1aから供給された原料組成物を混錬すると共に流路1bを通じて下流側へと移送するためのものである。スクリュー2A,2Bの間には、真空室3が設けられており、真空室3内を減圧することによって原料組成物を脱気処理できるようになっている。真空室3内の原料組成物はローラ3aによって下段のスクリュー2Bに導入される。
【0042】
押出成形装置10は、スクリュー2Bの下流側に設けられた整流板5と、原料組成物からなる成形体70Aが押し出される金型20と、流路1bと金型20を連通する抵抗管9とを更に備える。抵抗管9は、内部の流路がテーパ状になっており、上流側から下流側に向けて流路断面積が徐々に小さくなっている。なお、スクリュー2Bの径よりも径が大きい成形体70Aを製造する場合などになっては、抵抗管9は上流から下流に向けて流路断面が大きくなる拡大部を有してもよい。金型20から押し出された成形体70Aが変形しないように、押出成形装置10の隣には成形体70Aを支持するための支持台15が設置されている。整流板5は、金型20に原料組成物を導入するに先立ち、その流速分布の均一化を図るためのものである。
【0043】
整流板5は、ハウジング1に対して着脱自在に設けられており、スクリュー2Bと金型20の間に配置されている。整流板5は厚さ方向に貫通する複数の開口5aを有する。整流板5は、流量調整の効果を高めるために網状の抵抗体(図示せず)を有していてもよい。図7の(a)は整流板5の正面図であり、図7の(b)は整流板5の断面図である。
【0044】
整流板5は、上流側から圧力を受けてもほとんど歪みを起こさない構造体であることが好ましい。かかる観点から、整流板5の材質としては、例えば、炭素鋼等が好ましい。炭素鋼以外の好適な材質として、ニッケル、クロム、タングステン等を含有する特殊鋼を例示できる。整流板5の厚さは、十分の強度を確保する観点から、10〜100mmであることが好ましい。
【0045】
整流板5は、厚さ方向に貫通する直径1〜10mmの開口5aを複数有する。整流板5の開口率は30〜80%であることが好ましい。開口率が30%未満の整流板5を使用した場合、上流側の圧力を過度に高くしないと、単位時間当たり十分な量の原料組成物を通過させることができず、圧力が装置の許容圧力以上となりやすい。他方、開口率が80%を超える整流板5は強度が不十分となりやすい。整流板5の開口率は40〜80%であることが好ましく、50〜80%であることがより好ましい。
【0046】
ここでいう「開口率」とは、整流板5の一方面における開口の面積の合計を当該一方面の面積(ハウジングによって覆われる周縁部を除く)で除すことによって算出される値を意味する。なお、開口の流路断面積が一定ではない整流板の場合、開口率は原料組成物の流れ方向に垂直な、すべての整流板の断面において最小の値をいう。
【0047】
<ハニカム構造体の製造方法>
次に、押出成形装置10を用いてハニカム構造体70を製造する方法について説明する。まず、金型20を押出成形装置10に装着する。押出成形装置10の準備が完了したら、原料組成物を入口1aから流路1b内に導入する。スクリュー2A,2B及びローラ3aを作動させることによって原料組成物を混練すると共に下流側に移送する。混練物を整流板5の開口5aを通過させて流速分布を均一化させた後、抵抗管9を通じて金型20に導入する。金型20の下流側における原料組成物の線速度は10〜150cm/分程度であることが好ましい。
【0048】
流速分布の均一化が図られた原料組成物を金型20から押し出し、支持台15上に成形体70Aを回収する。成形体70Aを所定の長さに切断することによってハニカム構造体70を得る。この方法によれば、金型20の作用により、薄い外周スキンを有するハニカム構造体を十分に高い歩留まりで製造できる。
【0049】
<評価試験>
本発明の効果を確認するため、本発明者らは図3に示す形状のスペーサーを用いて、図1に示す形状のハニカム構造体の押出成形を実施した。表1に本試験で準備したハニカム構造体の原料組成を示す。連続して作製した10本のハニカム構造体のうち、外周スキン(厚さ:約5mm)付近のセル変形が認められたものは1本のみであった。
【0050】
【表1】

【符号の説明】
【0051】
20…金型、21…金型本体、21a…原料供給穴、21b…スリット溝、22…カバーリング、24,25…スペーサー、24a,25a…開口、24b,25b…開口縮小部、27…従来のスペーサー、28…ホルダー、70…ハニカム構造体、70a…外周スキン、70b…セル構造、70c…貫通孔、S1…金型本体の上流側の面、S2…金型本体の下流側の面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の貫通孔が略平行に配置され且つ端面から見て複数の当該貫通孔が正方形配置されたセル構造を有するとともに側面が外周スキンで覆われたハニカム構造体を押出成形するための金型であって、
ペースト状の原料組成物が供給される供給穴及び当該供給穴に連通しており前記セル構造を形成するための格子状のスリット溝を有する金型本体と、
前記金型本体の前記スリット溝が形成されている側の面の周縁部を覆うように配置され、前記ハニカム構造体の外径に対応する内径の開口を有するカバーリングと、
前記金型本体と前記カバーリングとの間に配置され、前記カバーリングの開口よりも大きい略円形の開口を有するスペーサーと、
前記金型本体に対して前記カバーリング及び前記スペーサーを固定するホルダーと、を備え、
前記スペーサーは、該スペーサーの内径を縮小する開口縮小部を有する、金型。
【請求項2】
前記開口縮小部は、前記開口の中心を原点とし前記格子状のスリット溝の延びる方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向とする円座標系を設定したとき、角度θが45°、135°、225°及び315°の位置にそれぞれ設けられており、これらの位置において前記スペーサーの内周がそれぞれ中心方向に隆起している、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記スペーサーの開口は、角度θが0°〜90°の部分の形状が、角度θが90°〜180°、180°〜270°及び270°〜360°の部分でそれぞれ繰り返される形状を有し、
前記スペーサーの開口の角度θが0°〜90°の部分は、
前記原点を中心とする半径r1の円弧からなる角度θが0°〜θの部分と、
前記原点を中心とする半径r1の円弧からなる角度θが(90°−θ)〜90°の部分と、
前記原点を角度θが225°の径方向にずらした点を中心とする半径r2の円弧からなる角度θが(45°−θ)〜(45°+θ)の部分と、によって画成されており、
角度θが45°における開口縮小部の中心方向への隆起の幅は1〜3mmであり、θは10〜30°であり、θは0〜35°である、請求項2に記載の金型。
【請求項4】
前記スペーサーの開口は、角度θが0°〜90°の部分の形状が、角度θが90°〜180°、180°〜270°及び270°〜360°の部分でそれぞれ繰り返される形状を有し、
前記スペーサーの開口の角度θが0°〜90°の部分は、
前記原点を角度θが0°の径方向にずらした点を中心とする半径r3の円弧からなる角度θが0°〜θの部分と、
前記原点を角度θが90°の径方向にずらした点を中心とする半径r3の円弧からなる角度θが(90°−θ)〜90°の部分と、
前記原点を角度θが225°の径方向にずらした点を中心とする半径r4の円弧からなる角度θが(45°−θ)〜(45°+θ)の部分と、によって画成されており、
角度θが45°における開口縮小部の中心方向への隆起の幅は1〜3mmであり、θは10〜40°であり、θは1〜40°である、請求項2に記載の金型。
【請求項5】
半径r3の円弧と半径r4の円弧の接合部分において両円弧の接線が一致している、請求項4に記載の金型。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の金型を押出成形装置に装着する工程と、
前記押出成形装置にペースト状の原料組成物を供給し、前記金型から押し出されるハニカム構造体を得る工程と、を備えるハニカム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−35276(P2013−35276A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−154929(P2012−154929)
【出願日】平成24年7月10日(2012.7.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】