説明

ハニカム触媒体

【課題】圧力損失が低く、排ガス浄化性能に優れたハニカム触媒体を提供する。
【解決手段】流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを有するハニカム基材と、ハニカム基材に担持された触媒とを備え、セルの延びる方向に直交する断面において、セルの形状が六角形であり、隔壁の厚さが0.06〜0.21mmであり、セルピッチが0.8〜1.5mmであり、隔壁の気孔率が45〜80%であり、触媒の担持量が100〜600g/リットルであるハニカム触媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム触媒体に関し、更に詳しくは、圧力損失が低く、排ガス浄化性能に優れたハニカム触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、各種エンジン等から排出される排ガスを浄化するために、ハニカム構造体に触媒が担持されて形成されたハニカム触媒体が用いられている(例えば、特許文献1及び非特許文献1を参照)。このようなハニカム触媒体は、流入側の端面から各セルに流体(排気ガス)を流入させ、排ガスに含まれる窒素酸化物(NO)等を触媒により浄化するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−196212号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tinghong Tao 他5名、2004−01−1293、Diesel SCR NOX Reduction and Performance on Washcoated SCR Catalyst、「SAE 2004 World Congress」、US、2004年3月、SP−1860、p367−375
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のハニカム触媒体は、触媒担持面積の大きな六角ハニカム構造体のセルピッチを調整することにより、薄肉であっても高強度になるようにしようとしたものである。特許文献1に記載のハニカム触媒体は、触媒担持面積を大きくするために六角セルを採用しており、隔壁表面に触媒を担持することを前提としていると推察され、そのため、触媒担持量を増やすことが難しいと推察される。また、触媒担持量を増やすと、圧力損失が増大すると推察される。
【0006】
非特許文献1に記載のハニカム触媒体は、高気孔率基材に触媒が担持されたものである。非特許文献1に記載のハニカム触媒体は、四角形セルを前提にしていると推察され、触媒と排ガスとの接触効率については、更に検討の余地があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、圧力損失が低く、排ガス浄化性能に優れたハニカム触媒体を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によって以下のハニカム触媒体が提供される。
【0009】
[1] 流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを有するハニカム基材と、前記ハニカム基材に担持された触媒とを備え、前記セルの延びる方向に直交する断面において、前記セルの形状が六角形であり、前記隔壁の厚さが0.05〜0.26mmであり、セルピッチが0.8〜1.8mmであり、前記隔壁の気孔率が45〜80%であり、前記触媒の担持量が100〜600g/リットルであるハニカム触媒体。
【0010】
[2] 前記隔壁の厚さが0.10〜0.21mmであり、セルピッチが1.2〜1.5mmである[1]に記載のハニカム触媒体。
【0011】
[3] 前記隔壁の気孔率が60〜80%である[1]又は[2]に記載のハニカム触媒体。
【0012】
[4] 前記隔壁の平均細孔径が15〜40μmである[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム触媒体。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハニカム触媒体は、セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状が六角形であり、隔壁の厚さが0.05〜0.26mmであり、セルピッチが0.8〜1.8mmであり、隔壁の気孔率が45〜80%であり、更に、触媒の担持量が100〜600g/リットルであるため、圧力損失が低く、排ガス浄化性能に優れたハニカム触媒体である。
【0014】
更に詳細には、本発明のハニカム触媒体は、隔壁の厚さが0.05〜0.26mmであり、セルピッチが0.8〜1.8mmであるため、開口率(セルの延びる方向に直交する断面における、全面積に対する、セル面積の合計の比率)が大きく、圧力損失が小さい。また、隔壁の気孔率が45〜80%と大きいため、触媒を隔壁の細孔内に担持しても、触媒と排ガスとの接触効率が高く、排ガス浄化性能に優れる。また、隔壁の気孔率が45〜80%と大きいため、触媒の担持量を100〜600g/リットルとしても、圧力損失は大きくならず、触媒と排ガスとの接触効率を高くすることができる。また、セルの形状が六角形であることにより、隔壁の細孔内に触媒を担持したときに、四角形セルのハニカム触媒体と比較して、より広い範囲で排ガスと触媒とを効率的に接触させることができ、排ガス浄化性能に優れたものとすることができる。
【0015】
また、本発明のハニカム触媒体は、セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状が六角形であり、隔壁の厚さが0.05〜0.26mmと薄く、隔壁の気孔率が45〜80%と大きいが、隔壁の気孔が触媒で充填され、ハニカム触媒体の剛性が増すため、十分な機械的強度を有している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のハニカム触媒体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明のハニカム触媒体の一の実施形態の中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【図3】本発明のハニカム触媒体の一の実施形態の中心軸に直交する断面の一部を示す模式図である。
【図4】本発明のハニカム触媒体の一の実施形態の中心軸に直交する断面における、一つのセルと当該セルを形成する(取り囲む)隔壁とを示す模式図である。
【図5】四角セルを有するハニカム触媒体の中心軸に直交する断面における、一つのセルと当該セルを形成する(取り囲む)隔壁とを示す模式図である。
【図6】圧力損失測定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0018】
(1)ハニカム触媒体:
図1〜図3に示すように、本発明のハニカム触媒体の一実施形態は、流体の流路となる「一方の端面11から他方の端面12まで延びる」複数のセル2を、区画形成する多孔質の隔壁1と、最外周に位置する外周壁4とを有するハニカム基材3と、ハニカム基材3に担持された触媒とを備え、セル2の延びる方向に直交する断面において、セル2の形状が六角形であり、隔壁1の厚さが0.05〜0.26mmであり、セルピッチが0.8〜1.8mmであり、隔壁1の気孔率が45〜80%であり、触媒の担持量が100〜600g/リットルである。ここで、セルピッチとは、ハニカム触媒体100のセル2の延びる方向に直交する断面において、セル2の「対向する2辺」間の距離D1(図3を参照)に隔壁厚さD2を加えた長さである。ハニカム触媒体100のセル2の延びる方向に直交する断面において、セルには、3組の「対向する2辺」が存在するが、これらの「対向する2辺」間の距離が同じ大きさではない場合には、3組の「対向する2辺」のそれぞれの「対向する2辺間の距離」を平均した値とする。図1は、本発明のハニカム触媒体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明のハニカム触媒体の一の実施形態の中心軸に平行な断面を示す模式図である。図3は、本発明のハニカム触媒体の一の実施形態の中心軸に直交する断面の一部を示す模式図である。
【0019】
このように、本実施形態のハニカム触媒体100は、セル2の延びる方向に直交する断面におけるセル2の形状が六角形であり、隔壁1の厚さが0.05〜0.26mmであり、セルピッチが0.8〜1.8mmであり、隔壁1の気孔率が45〜80%であり、更に、触媒の担持量が100〜600g/リットルであるため、圧力損失が低く、排ガス浄化性能に優れたハニカム触媒体である。
【0020】
更に詳細には、本実施形態のハニカム触媒体100は、隔壁1の厚さが0.05〜0.26mmであり、セルピッチが0.8〜1.8mmであるため、開口率(セル2の延びる方向に直交する断面における、全面積に対する、セル2の面積の合計の比率)が大きく、圧力損失が小さい。また、隔壁1の気孔率が45〜80%と大きいため、触媒を隔壁1の細孔内に担持しても、触媒と排ガスとの接触効率が高く、排ガス浄化性能に優れる。また、隔壁1の気孔率が45〜80%と大きいため、触媒の担持量を100〜600g/リットルとしても、圧力損失は大きくならず、触媒と排ガスとの接触効率を高くすることができる。また、セル2の形状が六角形であることにより、隔壁1の細孔内に触媒を担持したときに、四角形セル(セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状が四角形)のハニカム触媒体と比較して、より広い範囲で排ガスと触媒とを効率的に接触させることができ、排ガス浄化性能に優れたものとすることができる。
【0021】
また、本実施形態のハニカム触媒体は、セル2の延びる方向に直交する断面におけるセル2の形状が六角形であり、隔壁1の厚さが0.05〜0.26mmと薄く、隔壁1の気孔率が45〜80%と大きいが、隔壁の気孔が触媒で充填され、ハニカム触媒体の剛性が増すため、十分な機械的強度を有している。
【0022】
本実施形態のハニカム触媒体100においては、隔壁1の気孔率が45〜80%であり、60〜80%がより好ましい。このように、隔壁1の気孔率が45〜80%と大きいため、隔壁1の細孔内に触媒を担持することにより、触媒をハニカム基材3に多量に担持することができる。隔壁1の気孔率が45%より小さいと、触媒を担持する量が少なくなるため好ましくない。隔壁1の気孔率が80%より大きいと、ハニカム触媒体の強度が低下するため好ましくない。気孔率は、水銀ポロシメータを用い、水銀圧入法によって測定した値である。
【0023】
本実施形態のハニカム触媒体100においては、触媒の担持量が、100〜600(g/リットル)であり、200〜400(g/リットル)であることが好ましい。本実施形態のハニカム触媒体100は、触媒の担持量が、100〜600(g/リットル)と多いため、排ガス浄化性能に優れたものである。触媒の担持量が、100(g/リットル)より少ないと、排ガス浄化性能が低くなるため好ましくない。触媒の担持量が、600(g/リットル)より多いと、圧力損失が大きくなるため好ましくない。ここで、触媒担持量(g/リットル)は、隔壁表面の触媒と隔壁内の触媒の総質量をハニカム基材の体積(隔壁及びセル空間の合計体積)で除した値である。
【0024】
また、触媒は、触媒全体の10質量%以上が隔壁の細孔内に担持されていることが好ましく、触媒全体の20〜80質量%が隔壁の細孔内に担持されていることが更に好ましい。このように、触媒全体の10質量%以上が隔壁の細孔内に担持されることにより、「セルの空間」のなかで、触媒によって占有される部分が少なくなるため、圧力損失の増大を抑制することができる。圧力損失を低減するためには、触媒の全て(100質量%)を隔壁の細孔内に担持させることが好ましいが、排ガス浄化性能の観点では全て隔壁の細孔内に担持させるより、一部は隔壁上に担持する方が好ましいため、80質量%が上限になる。隔壁の細孔内への、触媒の担持量は、圧力損失、排ガス浄化性能及び強度向上の観点から、上記数値のように設計することが好ましい。
【0025】
本実施形態のハニカム触媒体100においては、セル2の延びる方向に直交する断面において、セル2の形状が六角形であり、正六角形(6つの辺が同じ長さで、内角が120°)であることが好ましい。セル2の延びる方向に直交する断面において、セルの形状が六角形のハニカム触媒体を「六角セルを有するハニカム触媒体」ということがある。また、セルの延びる方向に直交する断面において、セルの形状が四角形のハニカム触媒体を「四角セルを有するハニカム触媒体」ということがある。本実施形態のハニカム触媒体100は、六角セルを有するハニカム触媒体であるため、四角セルを有するハニカム触媒体と比較して、圧力損失が小さい。また、本実施形態のハニカム触媒体100は、六角セルを有するハニカム触媒体であるため、四角セルを有するハニカム触媒体と比較して、嵩密度が低く、熱容量が低いため、昇温性能が高く、排ガス浄化性能に優れたものである。
【0026】
また、隔壁の細孔内に多量の触媒を担持する場合、排ガスと触媒との接触効率を向上させて排ガス浄化性能を向上させるため、隔壁内に排ガスを効率的に拡散させる必要がある。隔壁内への排ガスの拡散のし方は、セルの形状によって異なると考えられる。図4、図5に示されるように、セル2の延びる方向に直交する断面における形状が六角形のセル2(六角セル)(図4を参照)の場合、セル2の延びる方向に直交する断面における形状が四角形のセル2(四角セル)(図5を参照)の場合に比べて、隔壁における「排ガスが十分に拡散する範囲」である拡散領域1aが大きく、排ガスと触媒との接触効率がより高くなっていると考えられる。これは、六角セルは、内角が120°と大きいため、頂点付近からも、排ガスが隔壁内に容易に浸入することができるのに対し、四角セルは、内角が90°と小さいため、頂点付近からは、排ガスが隔壁内に浸入し難くなっているためと考えられる。本実施形態のハニカム触媒体は、六角セルによって、単に触媒担持面積を大きくしようとするものではなく、上記のように六角セルの拡散領域が大きいという特徴を利用して、排ガスと触媒との接触効率を高め、排ガス浄化性能を向上させたものである。
【0027】
図4は、本発明のハニカム触媒体の一の実施形態の中心軸に直交する断面における、一つのセルと当該セルを形成する(取り囲む)隔壁とを示す模式図である。図5は、四角セルを有するハニカム触媒体の中心軸に直交する断面における、一つのセルと当該セルを形成する(取り囲む)隔壁とを示す模式図である。
【0028】
本実施形態のハニカム触媒体100においては、隔壁1の厚さが0.05〜0.26mmであり、セルピッチが0.8〜1.8mmである。そして、隔壁1の厚さが0.10〜0.21mmであり、セルピッチが1.2〜1.5mmであることが好ましい。隔壁1の厚さ及びセルピッチをこのような範囲にすることにより、開口率(セル2の延びる方向に直交する断面における、全面積に対する、セル2の面積の合計の比率)を大きくすることができ、圧力損失を小さくすることができる。
【0029】
隔壁1の厚さが0.05mmより薄いと、ハニカム触媒体の強度が低下することがある。隔壁1の厚さが0.26mmより厚いと、圧力損失が増大することがある。セルピッチが0.8mmより小さいと、圧力損失が増大することがある。セルピッチが1.8mmより大きいと、ハニカム触媒体の強度が低下することがある。
【0030】
本実施形態のハニカム触媒体100において、ハニカム基材3に担持される触媒としては、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒等を挙げることができる。
【0031】
本実施形態のハニカム触媒体100においては、隔壁1の平均細孔径が、15〜40μmであることが好ましく、20〜40μmであることが更に好ましい。隔壁1の平均細孔径が15μmより小さいと、圧力損失が増大することがある。隔壁1の平均細孔径が40μmより大きいとハニカム触媒体100の強度が低下することがある。平均細孔径は、水銀ポロシメータを用い、水銀圧入法によって測定した値である。
【0032】
本実施の形態のハニカム触媒体100の隔壁1を構成する材料としては、セラミックを主成分とする材料を好適例として挙げることができる。セラミックとしては、炭化珪素、コージェライト、アルミナタイタネート、サイアロン、ムライト、窒化珪素、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア、アルミナ、シリカ、及びLAS(リチウムアルミニウムシリケート)又はこれらを組み合わせたものを好適例として挙げることができる。特に、炭化珪素、コージェライト、ムライト、窒化珪素、アルミナ、アルミナタイタネート等のセラミックスが、耐アルカリ性に優れるため好ましい。中でも酸化物系のセラミックは、安価である点でも好ましい。
【0033】
ハニカム触媒体100の外形としては、特に限定されないが、円筒形、楕円筒形、四角筒形等の底面多角形の筒形状、底面不定形の筒形状等を挙げることができる。また、ハニカム触媒体の大きさは、特に限定されないが、中心軸方向長さが40〜260mmが好ましい。また、例えば、ハニカム触媒体100の外形が円筒状の場合、その底面の直径が70〜360mmであることが好ましい。
【0034】
また、ハニカム触媒体100の最外周に位置する外周壁4は、成形時にハニカム成形体と一体的に形成させる成形一体壁(隔壁と外周壁とが焼結し、隔壁と外周壁との境界が明確には残っていない状態)であってもよいし、成形後に、ハニカム成形体の外周を研削して所定形状とし、セメント等で外周壁を形成するセメントコート壁であってもよい。外周壁が一体成形壁の場合、外周壁の厚さは、0.1〜0.6mmが好ましい。また、外周壁がセメントコート壁の場合の外周壁の厚さは、0.1〜7.0mmが好ましい。また、外周壁がセメントコート壁の場合、セメントコート壁の材質としては、コージェライト等を挙げることができる。
【0035】
(2)ハニカム触媒体の製造方法:
次に、本発明のハニカム触媒体の一実施形態の製造方法について説明する。
【0036】
まず、セラミック原料を含有する成形原料を成形して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁と最外周に位置する外周壁とを備える筒状のハニカム成形体を成形する。
【0037】
成形原料に含有されるセラミック原料としては、例えば、コージェライト化原料、炭化珪素、コージェライト、アルミナタイタネート、サイアロン、ムライト、窒化珪素、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア、アルミナ、シリカ、及びLAS(リチウムアルミニウムシリケート)又はこれらを組み合わせたものを好適例として挙げることができる。特に、炭化珪素、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、窒化珪素、アルミナ、アルミナタイタネート等のセラミックスが、耐アルカリ特性上好適である。中でも酸化物系のセラミックスは、安価である点でも好ましい。コージェライト化原料とは、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミックス原料であって、焼成されてコージェライトになるものである。セラミック原料の含有量は、成形原料全体に対して40〜90質量%であることが好ましい。
【0038】
また、この成形原料は、上記セラミック原料に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、造孔材、界面活性剤等を混合して調製することが好ましい。
【0039】
分散媒としては、水が好ましい。分散媒の含有量は、成形原料全体に対して7〜45質量%であることが好ましい。
【0040】
有機バインダとしては、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。有機バインダの含有量は、成形原料全体に対して3〜15質量%であることが好ましい。
【0041】
造孔材としては、グラファイト、澱粉、合成樹脂等を挙げることができる。造孔材の含有量は、成形原料全体に対して15質量%以下であることが好ましい。
【0042】
界面活性剤としては、エチレングリコール、脂肪酸石鹸等を挙げることができる。界面活性剤の含有量は、成形原料全体に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0043】
セラミック成形原料を成形する際には、まず成形原料を混練して坏土とし、得られた坏土をハニカム形状に成形することが好ましい。成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては特に制限はなく、押出成形、射出成形等の成形方法を用いることができる。例えば、得られるハニカム触媒体の隔壁厚さが0.06〜0.21mm、セルピッチが0.8〜1.5mm、セルの延びる方向に直交する断面におけるセル形状が六角形、となるような口金を用いて、押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0044】
また、上記成形後に、得られたハニカム成形体を乾燥してもよい。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができ、なかでも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組合せて行うことが好ましい。また、乾燥条件としては、乾燥温度80〜150℃、乾燥時間5分〜2時間とすることが好ましい。
【0045】
次に、得られたハニカム成形体を焼成(本焼成)してハニカム基材を得ることが好ましい。「本焼成」とは、仮焼した成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するための操作を意味する。
【0046】
なお、ハニカム成形体を焼成(本焼成)する前には、そのハニカム成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、中の有機物(有機バインダ、分散剤、造孔材等)を除去することができればよい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度である。造孔材の燃焼温度は種類にもよるが200〜1000℃程度であるので、仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0047】
本焼成における焼成条件(温度・時間)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成最高温度は、1410〜1440℃が好ましい。また、焼成最高温度キープ(保持)時間は、3〜15時間が好ましい。
【0048】
次に、得られたハニカム基材に、触媒を担持して、ハニカム触媒体を得ることが好ましい。
【0049】
触媒の担持方法については特に制限はなく、従来公知のハニカム触媒体の製造方法において用いられる方法に準じて触媒を担持することができる。例えば、ハニカム基材に対して、触媒成分を含む触媒液をウォッシュコートした後、高温で熱処理して焼き付ける方法等を挙げることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
タルク、カオリン、仮焼カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びシリカのうちから複数を組み合わせて、その化学組成が、SiO42〜56質量%、Al30〜45質量%、及びMgO12〜16質量%となるように所定の割合で調合されたコージェライト化原料100質量部に対して、造孔材を5質量部添加し、有機バインダとしてメチルセルロースを5.0質量部、ラウリン酸カリ石鹸を0.5質量部それぞれ添加し、分散媒として水を、成形原料全体に対して37質量%となるように添加して、混合、混練して坏土を調製した。造孔材としては平均粒子径40μmの発泡樹脂を使用した。
【0052】
次に、所定の口金を用いて坏土を押出成形し、複数のセルを区画形成する隔壁と、外周壁とを備えるハニカム成形体を得た。ハニカム成形体は、セル形状(セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状)が正六角形で、全体形状が円筒形であった。
【0053】
次に、得られたハニカム成形体を、120℃で1時間乾燥させ、その後、1400〜1430℃で10時間焼成してハニカム基材を作製した。
【0054】
次に、得られたハニカム基材に、触媒を担持して、ハニカム触媒体を作製した。触媒としては、SCR触媒を用いた。触媒をハニカム基材に担持する方法は、触媒液を、ハニカム基材にウォッシュコートした後、550℃で熱処理して焼き付ける方法とした。触媒全体の30質量%を、隔壁内(細孔内)に担持した。
【0055】
得られたハニカム触媒体の、気孔率は50%であり、平均細孔径は15μmであった。気孔率及び平均細孔径は水銀ポロシメータで測定した値である。また、触媒の担持量は、300g/リットルであった。また、隔壁厚さは0.17mmであり、セルピッチは1.27mmであった。また、得られたハニカム触媒体は、底面の直径が118.4mm、セルの延びる方向における長さが152.4mmの円筒形であった。
【0056】
得られたハニカム触媒体について、以下の方法で、「排ガス浄化性能」、「圧力損失(圧損)」及び「アイソスタティック破壊強度(アイソ強度)」を測定した。結果を表1に示す。表1において、「セル形状」は、セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状を示す。「気孔率」及び「平均細孔径」は、ハニカム触媒体の隔壁の気孔率及び平均細孔径を示す。また、「排ガス浄化性能」は、比較例1のハニカム触媒体についての浄化率の値を基準とし、比較例1に対する比率を示す。また、「圧損」は、比較例1のハニカム触媒体についての圧力損失の値を基準とし、比較例1に対する比率を示す。
【0057】
(排ガス浄化性能)
HC(プロピレン)、CO、NO、HO、O、及びNからなる燃焼ガスを、空間速度(SV)100000時間−1、温度200℃の条件でハニカム触媒体内に流入させた。流入前後における燃焼ガスのHC、CO、NO濃度から、浄化率(%)を算出する。
【0058】
(アイソスタティック破壊強度)
社団法人自動車技術会発行の自動車規格(JASO規格)M505−87で規定されているアイソスタティック破壊強度試験に基づいて測定する。アイソスタティック破壊強度試験は、ゴムの筒状容器にセラミックハニカム構造体(ハニカム触媒体)を入れてアルミ製板で蓋をし、水中で等方加圧圧縮を行う試験である。アイソスタティック破壊強度(アイソ強度)は、セラミックハニカム構造体が破壊したときの加圧圧力値(MPa)で示される。アイソ強度は、1.0MPaを超える場合を合格とする。尚、アイソスタティック破壊強度試験は、セラミックハニカム構造体を自動車に搭載する際に、セラミックハニカム構造体が、外周面把持された状態で缶体内に収納される場合の、圧縮負荷加重を模擬した試験である。
【0059】
(圧力損失)
図6に示すような、測定試料(ハニカム触媒体)24を保持するホルダー21と、測定試料24の流入直前の圧力と、測定試料24の流出直後の圧力との差(差圧)を測定する差圧計22と、測定試料24にガスGを流すためにホルダー21(測定試料24)の流出側に取り付けられたブロワー23とを備え、それぞれが配管で繋がれた圧力損失測定装置20を用いて、測定試料にガスを流した時の圧力損失(圧損)を測定する。尚、図6に示す圧力損失測定装置20においては、バルブ、計測機器(差圧計を除く)、バイパス等は省略している。まず、ホルダー21に測定試料24を取り付け、室温下で、ブロワー23によりガスGを測定試料24に流す。そして、ガスGを流しながら、差圧計により、測定試料24にガスGを流したときの圧力損失(圧損)を測定する。ここで、ガスGの流量は、1Nm/分とする。図6は、圧力損失測定装置を示す模式図である。
【0060】
【表1】

【0061】
(実施例2〜20、比較例1〜10)
隔壁厚さ、セルピッチ、セル形状、気孔率、平均細孔径及び触媒担持量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム触媒体を作製した。実施例1と同様にして、上記方法で、「排ガス浄化性能」及び「圧力損失」を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
表1より、実施例1〜20のハニカム触媒体は、圧力損失が低く、排ガス浄化性能に優れていることが分かる。また、実施例1のハニカム触媒体と比較例1のハニカム触媒体とを対比すると、セル形状が六角形であるハニカム触媒体は、セル形状が四角形であるハニカム触媒体より、排ガス浄化性能に優れるとともに圧力損失が低いことが分かる。比較例2のハニカム触媒体は、隔壁厚さが厚いため圧力損失が高く、排ガス浄化性能に劣ることがわかる。比較例3のハニカム触媒体は、セルピッチが大きいため、排ガス浄化性能に劣ることがわかる。比較例4のハニカム触媒体は、セルピッチが小さいため、圧力損失が高いことがわかる。比較例5のハニカム触媒体は、隔壁の気孔率が低いため、圧力損失が高いことがわかる。比較例6,10のハニカム触媒体は、触媒担持量が少ないため、排ガス浄化性能に劣ることが分かる。比較例7のハニカム触媒体は、触媒担持量が多いため、圧力損失が高いことが分かる。比較例8のハニカム触媒体は、隔壁厚さが薄いため、機械的強度が低いものであった。比較例9のハニカム触媒体は、気孔率が高いため、機械的強度が低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のハニカム触媒体は、自動車等の排気ガス等の処理に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1:隔壁、1a:拡散領域、2:セル、3:ハニカム基材、4:外周壁、11:一方の端面、12:他方の端面、100:ハニカム触媒体、D1:対向する2辺間の距離、D2:隔壁厚さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを有するハニカム基材と、前記ハニカム基材に担持された触媒とを備え、
前記セルの延びる方向に直交する断面において、前記セルの形状が六角形であり、
前記隔壁の厚さが0.05〜0.26mmであり、セルピッチが0.8〜1.8mmであり、前記隔壁の気孔率が45〜80%であり、
前記触媒の担持量が100〜600g/リットルであるハニカム触媒体。
【請求項2】
前記隔壁の厚さが0.10〜0.21mmであり、セルピッチが1.2〜1.5mmである請求項1に記載のハニカム触媒体。
【請求項3】
前記隔壁の気孔率が60〜80%である請求項1又は2に記載のハニカム触媒体。
【請求項4】
前記隔壁の平均細孔径が15〜40μmである請求項1〜3のいずれかに記載のハニカム触媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−194359(P2011−194359A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65971(P2010−65971)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】