説明

ハブユニット軸受およびその電着塗装方法

【課題】ハブユニット軸受のパイロット外径部周面に優れた塗装膜を有するハブユニット軸受を提供すること。
【解決手段】ハブ13を油脂分を除くため脱脂洗浄を行った後乾燥し、この乾燥したハブ13に電極を付け、パイロット外径部42のみを解離可能な水溶液性塗料を展開した電着槽に浸し、電着槽中に設けられた電極との間に電圧を印加し、イオン化された塗料イオンをパイロット外径部42の周面に電着させ、塗料の電着終了後、高温で焼付け冷却を行い電着塗料を硬化し塗装膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受に係り、詳しくはハブユニット軸受のハブパイロット外径部周面の塗装膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用アクスル装置等では、部品点数の削減や製品コストの低減等を図るべく、特開2000−142009号公報(以下、先行技術と記す)等に記載されたように、軸受の構成要素をアクスル装置の構成要素と一体化したいわゆる第3世代のハブユニット軸受が開発されている。先行技術のハブユニット軸受では、複列アンギュラ玉軸受の外輪に懸架装置の取付フランジを形成すると共に、一方の内輪(第1内輪)をハブと一体化し、更に他方の内輪(第2内輪)をハブに形成された内輪保持筒に外嵌・圧入させている。ハブの軸芯には雌スプラインが形成される一方、この雌スプラインにドライブシャフトの雄スプラインが嵌入し、ドライブシャフトからハブ(すなわち、車輪)に駆動力が伝達される。
上述のハブユニット軸受のハブには、ハブにホイールを取り付ける際の中心合わせの目安となるパイロット外径部がホイールを取り付ける側に凸状に設けられている。従来、このパイロット外径部周面には防錆等を目的として黒色塗料が刷毛塗り塗装や吹き付け塗装され焼き付けられて塗装膜を形成していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の刷毛塗り塗装や吹き付け塗装では、塗装膜が完全に硬化するまでに4〜5日必要であり、塗装膜が完全に硬化するまでの間の取り扱い段階で剥がれ等の問題を生じていた。さらに、塗装膜の硬度が十分でなかったため、傷つき易く、剥がれやすい、また塗装膜を均一に塗布することが難しいと言う問題を生じていた。
【0004】
本発明は、上記状況に鑑みなされたもので、ハブユニット軸受のパイロット外径部周面に優れた塗装膜を有するハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するために、本発明では、駆動力や操舵力をホイールに伝達するハブユニット軸受において、
前記ハブユニット軸受のハブの前記ホイール側に凸状に形成されたパイロット外径部周面に、電着塗装法により塗装膜を形成したことを特徴とするハブユニット軸受を提供する。
【0006】
また、前記電着塗装法は、カチオン電着塗装法であることが好ましい。
【0007】
このように、本発明では、ハブユニット軸受のハブのパイロット外径部周面に電着塗装法を用いて塗装膜を形成している。電着塗装膜では、塗装膜の電着が完了して、焼き付け、冷却後は塗料が完全に硬化しているため、灯油・溶剤等が付着しても全く剥がれることがない。また、塗装膜が均一で薄く形成でき、焼き付け、冷却時間も短時間で済む。さらに吹き付け塗装膜に比べ硬度が高く、傷つき難く剥がれにくい塗装膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るハブユニット軸受を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るハブユニット軸受1を示す縦断面図である。
本実施形態は、本発明をFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型乗用車における駆動車軸用の第3世代ハブユニット軸受に適用したものである。図1中、符号3で示した部材は複列アンギュラ玉軸受5の外輪であり、その内周側にはそれぞれ軸方向外向きに開いた円弧状断面の第1,第2軌道面7,9が形成されている。外輪3の外周側にはフランジ11が形成されており、このフランジ11を介して懸架装置のナックルアーム(不図示)にハブユニット軸受1が結合される。
【0010】
外輪3の第1軌道面7側にはハブ13と一体化された第1内輪15が配置されており、この第1内輪15の外周側には外輪3の第1軌道面7に対応する内向きに開いた円弧状断面の軌道面17が形成されている。第1内輪15の軌道面17と第1軌道面7との間には多数個の鋼球19と保持器21とからなる第1ころ列23が介装されている。図中、符号25は内側係止端を示し、符号27は軸シールを示している。
【0011】
外輪3の第2軌道面9側には第2内輪31が配置されており、この第2内輪31の外周側には外輪3の第2軌道面9に対応する内向きに開いた円弧状断面の軌道面33が形成されている。第2内輪31の軌道面33と第2軌道面9との間には多数個の鋼球19と保持器21とからなる第2ころ列35が介装されている。
【0012】
第2内輪31は、ハブ13の内側に延設された第2内輪保持筒37に外嵌・圧入され、その内側係止端39が第1内輪15の内側係止端25に当接することによって軸方向に位置決めされると共に、第2内輪保持筒37の端部に施された揺動加締め41によってハブ13に固定・一体化される。図中、符号43で示した部材は第2内輪31に外嵌・固着されたエンコーダであり、ナックルアーム(不図示)に固定されたセンサと伴に、図示しない電子制御装置に出力するハブ13(すなわち、車輪)の回転情報の生成に供される。ハブ13にはハブボルト47が植設された車輪取付用フランジ49が形成されており、この車輪取付用フランジ49に図示しないホイールが装着される。また、ハブ13の軸心には雌スプライン51が形成されている。
【0013】
ハブ13のホイール側には、ホイールセンタの目安となるパイロット外径部42が設けられている。そして、このパイロット外径部42の周面には、錆等を防ぐために、例えば黒色の防錆塗装が施されている(図1中、太い実線で示す)。この防錆塗装膜は、電着塗装法によりパイロット外径部42の周面のみに施されている。
【0014】
以下、本願で用いた電着塗装膜の形成について簡単に説明する。ハブ13を油脂分を除くため脱脂洗浄等を行った後乾燥する。雌スプライン51の形成部に塗装膜が付着するのを防ぐキャップ(不図示)を付けた後、この乾燥したハブ13に電極を付け、パイロット外径部42の周面部のみを解離可能な水溶液性塗料を展開した電着槽(例えばカップ状の容器)に浸し、電着槽中に設けられた電極との間に電圧を印加し、陽イオンにイオン化された塗料イオンをパイロット外径部42の周面に電着させる。今回用いた電着装置では、装置を簡略化するため、塗装前のリン酸化処理を省き、部分的な塗装でありながら塗装部分の見切りをよくするため、単純な浸漬ではなく、カップ内へ塗料をポンプで循環させカップからのオーバーフローを一定にすることにより塗装範囲を一定に保っている。これにより塗料液面への波打ちや装置の揺れによる影響を低減している。一例として、塗装膜厚が約15μmの場合、電着電圧200Vで電着時間が1分であった。塗装膜の電着終了後、高温で焼付け冷却を行い電着塗装膜を硬化し塗装膜を完成させる。塗装膜の焼付け処理は、通常の加熱処理のほかに、遠赤外線を用いても良い。今回、遠赤外線を用いた場合、塗装後の焼付け時間は約3分程度であった。この間ハブ13の表面温度は140度、ベアリングの内部温度は100度以下とし、ハブ13の材料の組織に影響が出ないようにしている。このように遠赤外線を用いた場合には、塗装膜の焼付け温度の制御や冷却時間を短縮できる効果がある。
【0015】
上述のようにして作成された電着塗装膜は、従来の刷毛塗り塗装や吹き付け塗装により作成された塗装膜に比べ、塗装膜を薄く、均一に形成することができる。また、この塗装膜は、灯油などの溶剤が付着しても剥がれることがない。さらに、電着塗装膜の硬度も5H〜7Hと吹き付け塗装膜の2Hに比べて高く、傷、剥がれ等の危険性が少なくなり、防錆効果を飛躍的に良くすることができる。
【0016】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではない。例えば、塗料の色を黒色として説明したが、黒色に限られるものではなく、解離可能な水溶液性塗料であれば電着塗装可能である。さらに、カチオン(陽イオン)塗料を用いた、カチオン電着塗装法について説明したが、アニオン(陰イオン)塗料を用いた、アニオン電着塗装法でも同様の効果を奏する。また、第1世代、第2世代等の他の世代のハブユニット軸受のパイロット外径部周面の塗装にも適用できることは言うまでもない。
【0017】
(発明の効果)
以上述べたように、本発明によれば、ハブユニット軸受のパイロット外径部周面の塗装膜に電着塗装膜を用いることにより、膜厚が薄く、均一で、5H〜7Hの高い硬度を有する塗装膜を形成することができ、防錆効果の優れたハブユニット軸受を提供できる。
【符号の説明】
【0018】
1‥‥ハブユニット軸受
3‥‥外輪
5‥‥複列アンギュラ玉軸受
7‥‥第1軌道面
9‥‥第2軌道面
13‥‥ハブ
15‥‥第1内輪
17‥‥軌道面
19‥‥鋼球
21‥‥保持器
23‥‥第1ころ列
31‥‥第2内輪
33‥‥軌道面
35‥‥第2ころ列
37‥‥第2内輪保持筒
42‥‥パイロット外径部
51‥‥雌スプライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力や操舵力をホイールに伝達するハブユニット軸受において、
前記ハブユニット軸受のハブの前記ホイール側に凸状に形成されたパイロット外径部周面に、電着塗装法により塗装膜を形成したことを特徴とするハブユニット軸受。
【請求項2】
前記電着塗装法は、カチオン電着塗装法であることを特徴とする請求項1に記載のハブユニット軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2010−23839(P2010−23839A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254217(P2009−254217)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【分割の表示】特願2007−134379(P2007−134379)の分割
【原出願日】平成13年10月31日(2001.10.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)