説明

ハリコンドリンBアナログ合成のための新規な中間体及び前記中間体に用いるための新規な脱スルホニル化反応

【課題】ハリコンドリンBアナログ合成のための新規な中間体及び前記中間体に用いるための新規な脱スルホニル化反応の提供。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物を、溶媒中において、下記式(II)で表される配位子の存在下に、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とによって処理することにより、下記式(III)で表される化合物を製造する。
[化1]


[化2]


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記式(I)で表される新規な化合物及びその製造方法、ならびに前記化合物から下記式(III)で表わされる化合物を製造するための方法、特に新規な脱スルホニル化反応に関する。
【化1】

【化2】

【背景技術】
【0002】
ハリコンドリンBは、海産カイメンであるクロイソカイメン(Halichondria okadai)から初めて単離され、続いてAxinella sp.、Phakellia carteri、及びLissondendryx sp.から発見された強力な抗腫瘍活性を有する天然物である。ハリコンドリンBの全合成は1992年に発表された(非特許文献1及び特許文献1)。ハリコンドリンBは、チューブリン重合、微小管集合、ベータチューブリン架橋、チューブリンへのGTP及びビンブラスチンの結合、並びにチューブリン依存性GTP加水分解をin vitroで示し、且つin vitro及びin vivoにおいて抗腫瘍活性を示す。
【0003】
抗腫瘍活性又は抗有糸分裂活性(有糸分裂阻害活性)などの医薬活性をもつハリコンドリンBのアナログ及びその合成法も発表されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、医薬活性を有するハリコンドリンBのアナログとして、下記化合物B−1939とその合成方法が開示されている。
【化3】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,338,865号明細書
【特許文献2】国際公開WO2005/118565号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Aicher, T. D. et al., J. Am. Chem. Soc., 114:3162-3164 (1992)
【非特許文献2】Protecting Groups in Organic Synthesis, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, 3rd edition, John Wiley & Sons, 1999
【非特許文献3】P. J. Kocienski, Protecting Groups, Thieme, 1994
【非特許文献4】Namba, K.; Kishi, Y. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 15382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載されたB−1939の合成経路におけるキーステップの一つは、中間体ER−118049を分子内カップリングにより環化してER−118047/048を得るステップである(特許文献2の段落00206)。このER−118049は、ER−804030の脱スルホニル化によって得られる(特許文献2の段落00205)。特許文献2に記載されたこの脱スルホニル化反応においては、還元剤としてSmIを用いている。しかし、SmIは高価であり、容易に大量に入手できる化合物ではなく、かつ、空気中の酸素に対して極めて不安定であるために取り扱いも簡単ではない。Na−Hgアマルガム、Al−Hgアマルガム、Mg−アルコール、Zn、及びZn−Cuなどの還元剤を用いる脱スルホニル化反応が知られているが、Mg−アルコール、Zn、及びZn−Cuなどの還元剤を用いたER−804030の脱スルホニル化反応は、良好な結果を与えていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、ER−804030からER−118047/048を得る反応経路として、容易に入手でき且つ取り扱いが容易な還元剤を用いて、マイルドな反応条件下でスルホニル基が還元でき、且つ良好な収率でヨウ化ビニル基とアルデヒド基との間の分子内カップリングを行うことができる新たな反応経路、その反応経路に用いる中間体化合物、及びその反応経路において用いる新たな脱スルホニル化反応、を開発することが求められていた。
【0008】
本発明者らは、以下に示す式(IV)で表される化合物の分子内カップリングによって合成される下記式(I)で表される化合物を新たな中間体とし、この中間体の脱スルホニル化反応によって下記式(III)で表される化合物を、マイルドな反応条件を用いて高収率で得ることができることを見出した。この反応経路は、国際公開WO2005/118565号パンフレットに記載されたB−1939を合成するために有用な新たな合成経路となりうる。
【0009】
本発明者らは、式(I)で表される化合物の脱スルホニル化を、溶媒中で、以下に示す式(II)の配位子の存在下に、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とによって処理することによって、以下に示す式(III)の化合物を、マイルドな反応条件下にて高収率で得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
上記3価クロム化合物として、Cr(III)Xを用いることが好ましい。ここで、式中のXはハロゲン原子を表し、Xは塩素(Cl)又は臭素(Br)原子であることが好ましい。
【0011】
本発明に用いる3価クロム化合物として、CrCl無水物、CrCl・6HO、及びCrCl・3THFからなる群から選択される1種以上を用いることが特に好ましい。
【0012】
本発明に用いる下記式(II)の配位子のR及びR1’は、t−ブチル、フェニル、又はノニルであり、かつ、R及びR2’は水素原子であるか、又はR及びR2’は一緒になって、それらが結合しているピリジン環とともに縮合環を形成していることが好ましい。
【0013】
本発明の脱スルホニル化反応には、さらにシクロペンタジエニル環を含むTi、Zr、及びHf化合物からなる群から選択されるメタロセン化合物を添加することが好ましい。メタロセン化合物を用いることによって、3価クロム化合物の使用量を低減することができる。
【0014】
本発明の脱スルホニル化反応はマイルドな条件で反応が進行する。20〜30℃で脱スルホニル化反応を行うことが好ましい。
【0015】
本発明の脱スルホニル化反応に用いる溶媒は、特に、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、メチルt-ブチルエーテル、ジメチルホルムアミド、メタノール、及びアセトニトリルからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の脱スルホニル化反応は、室温条件下において、高収率で脱スルホニル化生成物を与えることができるため、不安定な化合物を出発物質として用いた場合でも望ましい結果が得られる。また、本反応は、室温において全ての原料を溶媒中で撹拌するだけで行うことができるため、反応条件の制御も容易である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者らが今回開発した新たな反応経路をスキーム1に示す。
【0018】
スキーム1
【化4】

【0019】
本発明によれば、スキーム1に示すように、化合物(IV)の分子内カップリングによって化合物(I)が得られ、化合物(I)の脱スルホニル化によって化合物(III)が得られる。化合物(IV)の一例は、国際公開WO2005/118565パンフレット段落00203に示されたER−804030が挙げられ、その場合、上記スキーム1の反応経路によって得られる化合物(III)は、同国際公開パンフレットの段落00205に記載されたER−118047/048である。
【0020】
上記スキーム1における中間体は下記式(I)で表される化合物である。
【化5】

【0021】
以下に式(I)のR、Ar、PG、PG、及びPGの意味を説明するが、式(IV)及び(III)のR、Ar、PG、PG、及びPGも同様の意味を有する。
【0022】
式(I)中、RはR又はORを表し、Rは水素原子、ハロゲン原子、C1−4ハロゲン化脂肪族基、ベンジル、又はC1−4脂肪族基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素原子が挙げられ、特にフッ素及び塩素原子が好ましい。C1−4ハロゲン化脂肪族基としては、例えば、フルオロメチル、トリフルオロメチル、クロロメチルが挙げられるがこれらに限定されない。C1−4アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、及びt-ブチルが挙げられる。Rとしては、特にメトキシ(OMe)基が好ましい。
【0023】
式(I)中、Arは置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のヘテロアリール基を表す。
Arで表されるアリール基としては、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基が好ましく、例えば、フェニル基及びナフチル基が挙げられる。アリール基はさらに一つ以上の置換基を有していても有していなくてもよく、置換基の例としては置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、フッ素及び塩素原子などのハロゲン原子、C1−6アルコキシが挙げられるがこれらに限定されない。具体的なArの例としては、フェニル、2−メチルフェニル、4−メチルフェニル基、及びナフチル基が挙げられる。Arとして、フェニル基が特に好ましい。
Arは置換もしくは非置換のヘテロアリール基でもよい。この場合、置換基にはアリール基の置換基と同じ置換基を挙げることができる。ヘテロアリール基の例としては、キノリニル基が挙げられる。
【0024】
式(I)中のPG、PG、及びPGは、それぞれ独立して水酸基の保護基を表す。適切な水酸基の保護基は当分野では周知であり、「Protecting Groups in Organic Synthesis, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, 3rd edition, John Wiley & Sons, 1999」に記載されている保護基が挙げられる。特定の実施態様においては、PG、PG、及びPGは、これらが結合している酸素原子を含めた基として、エステル、エーテル、シリルエーテル、アルキルエーテル、アラルキルエーテル、及びアルコキシアルキルエーテルから独立して選択される。そのようなエステルの例には、ホルメート類、アセテート類、カーボネート類、及びスルホネート類が含まれる。具体例には、ホルメート、ベンゾイルホルメート、クロロアセテート、トリフルオロアセテート、メトキシアセテート、トリフェニルメトキシアセテート、p−クロロフェノキシアセテート、3−フェニルプロピオネート、4−オキソペンタノエート、4,4−(エチレンジチオ)ペンタノエート、(トリメチルアセチル)ピバロエート、クロトネート、4−メトキシ−クロトネート、ベンゾエート、p−フェニルベンゾエート、2,4,6−トリメチルベンゾエート、またはカーボネート(例えば、メチル、9−フルオレニルメチル、エチル、2,2,2−トリクロロエチル、2−(トリメチルシリル)エチル、2−(フェニルスルホニル)エチル、ビニル、アリル、及びp−ニトロベンジルカーボネート)が含まれる。上記シリルエーテル類の例には、トリメチルシリル、トリエチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリル、トリイソプロピルシリル、及びその他のトリアルキルシリル−エーテルが含まれる。アルキルエーテル類には、メチル、ベンジル、p−メトキシベンジル、3,4−ジメトキシベンジル、トリチル、t−ブチル、アリル、及びアリルオキシカルボニルエーテルもしくはそれらの誘導基が含まれる。アルコキシアルキルエーテル類には、メトキシメチル、メチルチオメチル、(2−メトキシエトキシ)メチル、ベンジルオキシメチル、β−(トリメチルシリル)エトキシメチル、及びテトラヒドロピラニルエーテルなどのエーテル類が含まれる。アリールアルキルエーテル類の
例には、ベンジル、p−メトキシベンジル(MPM)、3,4−ジメトキシベンジル、O−ニトロベンジル、p−ニトロベンジル、p−ハロベンジル、2,6−ジクロロベンジル、p−シアノベンジル、2−及び4−ピコリル−エーテルが含まれる。特定の態様では、PG、PG、及びPGの1つ以上がシリルエーテル類又はアリールアルキルエーテル類である。別の態様ではPG、PG、及びPGの1つ以上がt−ブチルジメチルシリル又はベンゾイルである。特に好ましい態様では、PG、PG、及びPGがt−ブチルジメチルシリルである。
【0025】
別の態様によれば、PG及びPG、並びに2つのPGは、それぞれ、それらが結合した酸素原子とともに、アセタール又はケタールなどのジオール保護基を形成してもよい。ジオール保護基には、メチレン、エチリデン、ベンジリデン、イソプロピリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンチリデン、並びにジ−t−ブチルシリレン及び1,1,3,3−テトライソプロピルシロキサニリデンなどのシリレン誘導基、環状カーボネート、及び環状ボロネートが含まれる。水酸基の保護基の付加及び除去の方法、及び追加の保護基は、上述したT. W. Greeneらの「Protecting Groups in Organic Synthesis」及びP. J. Kocienski, Protecting Groups, Thieme, 1994を参照されたい。
【0026】
[分子内カップリング反応:式(IV)の化合物から式(I)の化合物の合成]
スキーム1に示したように、式(I)の化合物(以下、化合物Iと記す)は、式(IV)の化合物(以下、化合物IVと記す)の分子内カップリングによって合成できる。
化合物IVは、WO2005/118565に詳細に記載された合成法に基づいて入手できる。また、その合成法において、水酸基の保護基を所望の保護基に置き換えることによって、様々な水酸基の保護基を有する化合物IVを合成できる。
【0027】
化合物IVのアルデヒド基とヨウ化ビニル基との分子内カップリングによって、化合物Iが得られる。このカップリング反応は、上記特許文献1及びWO2005/118565の段落00206に記載されているように、Ni(II)−Cr(II)を用いて行うことができる。
【0028】
[脱スルホニル化反応:化合物Iから式(III)の化合物の合成]
スキーム1に示したように、化合物Iの脱スルホニル化によって、式(III)の化合物(以下、化合物IIIと記す)が合成できる。本発明者らは、特定の配位子の存在下に、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とにより化合物Iを処理することによって、マイルドな条件下において脱スルホニル化が進行し、高収率で化合物IIIが得られることを発見した。
【0029】
すなわち、化合物Iの脱スルホニル化は、溶媒中において、化合物Iを、下記式(II):
【化6】

で表される配位子の存在下で、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とによって処理して行うことができる。具体的には、この処理は、溶媒中にて、式(II)の配位子の存在下で、原料である有機スルホン化合物と、3価クロム化合物と、マンガン金属及び/又は亜鉛金属とを混合することによって行うことができる。
【0030】
上記式(II)中、R及びR1’は、独立して、C3−12アルキル基、または非置換もしく置換基を有するフェニル基を表す。C3−12アルキル基としては、直鎖状又は分枝状又は環状のアルキル基が含まれ、例えば、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、及びドデシル基、並びにそれらの異性体、などが挙げられる。これらの中でも、t−ブチル及びノニル基が特に好ましい。フェニル基が有する置換基としては、ハロゲン(例えば、フッ素及び塩素原子)、C1−12アルキル基(例えば、直鎖状、分枝状、及び環状のアルキル基)、及びC1−6アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ)などの基が挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましい非置換もしくは置換基を有するフェニル基は、非置換のフェニル基である。
及びR2’は、独立して、水素原子もしくはC1−6アルキル基を表す。C1−6アルキル基としては、直鎖状又は分枝状又は環状のアルキル基が含まれ、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、及びヘキシル基、並びにそれらの異性体が挙げられる。
及びR2’は一緒になって、それらが結合している2つのピリジン環とともに縮合環を形成していてもよい。そのような縮合環としては、例えば、1,10−フェナントロリン、5,6−ジメチル−1,10−フェナントロリン、及び5,6−ジヒドロ−1,10−フェナントロリン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンが挙げられる。
式(II)で表される化合物(以下、配位子IIと記す)のうち、特に好ましいものは、4,4’−ジ−t−ブチル−2,2’−ビピリジル、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、4,4’−ジフェニル−2,2’−ビピリジル、及び4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジルである。
【0031】
上記脱スルホニル化反応に用いる溶媒としては、脱スルホニル化反応を妨げない限り、どのような溶媒を用いることもできる。溶媒は単独で、または二種以上の溶媒を混合して用いることができる。好ましい溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、メチルt-ブチルエーテル(MTBE)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、及びアセトニトリルなどが挙げられ、これらから選択される一種の溶媒又は二種以上の溶媒の混合物を用いることが好ましい。
【0032】
公知の3価クロム化合物を、本発明の脱スルホニル化反応に用いることができる。3価クロム化合物としては、公知の有機クロム化合物及び無機クロム化合物を用いることができるが、無機クロム化合物が好ましい。特に好ましい3価クロム化合物は、Cr(III)X(式中、Xはハロゲン原子を表す。)で表されるハロゲン化クロム(III)である。XはCl(塩素)又はBr(臭素)であることが好ましい。特に好ましい3価クロム化合物は、CrCl無水物及びCrCl・6HOである。CrCl・3THFも、好ましい。
【0033】
本発明の脱スルホニル化反応においては、上記3価クロム化合物とともに、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される1種又は2種の金属を用いる。反応速度を高めることができるので、粉末マンガン及び粉末亜鉛を用いることが好ましい。
【0034】
脱スルホニル化生成物を高収率で得るためには、出発原料である有機スルホン化合物に対して、3価クロム化合物を1モル当量以上、特に1〜10当量、好ましくは2〜5当量用いてよいが、3価クロム化合物の使用量はこれらの量に限定されない。特に、後で説明するように、ジルコノセンジクロリドなどから選択されるメタロセン化合物を少量添加することによって、3価クロム化合物の使用量を著しく減らすことができる。
【0035】
3価クロム化合物とともに用いるマンガン金属及び/又は亜鉛金属は、出発原料である有機スルホン化合物に対して、1モル当量以上、特に1〜100モル当量、好ましくは3〜30モル当量、さらに好ましくは5〜20モル当量を用いてよい。通常は、用いる3価クロム化合物のモル当量よりも多いモル当量のマンガン金属及び/又は亜鉛金属を用いることが好ましい。
【0036】
本発明の脱スルホニル化反応は5〜50℃、特に好ましくは20〜30℃で行うことができるが、反応温度は特に限定されない。本発明の脱スルホニル化反応は、室温で行うことができることが大きな特徴である。しかし、室温(20〜30℃)より高い温度又は低い温度で脱スルホニル化反応を行うこともできる。所望の反応温度において、反応混合物を撹拌混合することによって、目的とする脱スルホニル化生成物が得られる。
【0037】
また、脱スルホニル化反応は、不活性ガス、例えば、窒素又はアルゴン雰囲気下で行うことが好ましい。
【0038】
さらに、本発明者らは、本発明の脱スルホニル化反応においてメタロセン化合物を3価クロム化合物とともに用いることによって、3価クロム化合物の使用量が有機スルホン化合物に対して1モル当量未満であっても、脱スルホニル化反応生成物が高収率で得られることを発見した。例えば、有機スルホン化合物に対して1モル当量のジルコノセンジクロリド(CpZrCl)を用いることによって、有機スルホン化合物に対して1モル当量未満、例えば、0.2モル当量、の3価クロム化合物を用いた場合でも高収率で脱スルホニル化生成物が得られる。したがって、メタロセン化合物の添加によって、3価クロム化合物の使用量を大きく低減することができる。脱スルホニル化反応に使用するメタロセン化合物と3価クロム化合物のそれぞれの量は、所望する脱スルホニル化生成物が所望する収率で得られるように適切な量を定めることができる。
【0039】
メタロセン化合物としては、シクロペンタジエニル環を有する周期律表第4族遷移金属(Ti、Zr、及びHf)からなる群から選択される化合物が挙げられる。このような化合物は公知であって、例えば、特開2006−63158号公報(段落0024〜0031)に記載された様々なメタロセン化合物が挙げられる。メタロセン化合物の例には、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド;ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムクロリド及びビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムクロリドなどのビス(モノ又はポリアルキル置換シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド;ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド;及び、ビス(モノ又はポリアルキル置換インデニル)ジルコニウムジクロリド、などのジルコニウム化合物、さらにこれらの化合物のジルコニウム原子をチタン又はハフニウム原子に置き換えた化学構造を有するチタン化合物及びハフニウム化合物が含まれる。本発明の脱スルホニル化反応に用いるメタロセン化合物としては、特にZr化合物が好ましく、中でもビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドが特に好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
以下の実施例で用いるER−804030は国際公開WO2005/118565号パンフレットの実施例に記載されている方法に従って合成した。反応に用いた配位子II、3価クロム化合物、マンガン金属、ジルコノセンジクロリド、及び溶媒などは、市販されているものを購入して用いた。実施例中、THFはテトラヒドロフラン、DMEはジメトキシエタン、ACNはアセトニトリル、HPLCは高速液体クロマトグラフィー、TLCは薄層クロマトグラフィー、TBSはt-ブチルジメチルシリル、Cpはシクロペンタジエニル基、をそれぞれ意味する。
以下の実施例で用いたCrCl3/4,4’-ジ-t-ブチル-ビピリジル触媒、及びNiCl2/2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン触媒は、Namba, K.; Kishi, Y. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 15382に記載された方法にしたがって調製した。
【0041】
NiCl2/2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン触媒の調製は以下のように行った。
反応容器にNiCl2-DME錯体 (660 mg, 3.0 mmol, 1.0当量)、2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン(Neocuproine;659 mg, 3.0 mmol, 1.0当量)を量り取り、反応容器内を減圧し窒素で置換後、無水アセトニトリル(40 ml)を添加し、内容物をよく混合する。得られた反応液に1分間、超音波を当てた後、20分間静置する。上澄み液を除去し、黄色沈殿物を減圧乾燥して668 mgの黄色粉末を得た(収率65.9%)。
【0042】
[実施例1]ER-413207の製造例1
【化7】

【0043】
反応容器に4,4’-ジ-t-ブチル-ビピリジル (3.4 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)、CrCl3 (2.0 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)、マンガン粉末 (27.7 mg, 0.504 mmol, 4.0当量)、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド(55.2 mg, 0.189 mmol, 1.5 当量)を量り取り、続いて反応容器内を窒素ガスで置換した。反応容器にTHF (2.0 ml, 無水, 無安定剤)を添加し、室温で90分攪拌した。ここへ、窒素雰囲気下、2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン(2.6 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)及びNiCl2-DME錯体 (2.8 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)を加え、さらに室温で30分攪拌した。得られた反応液にER-804030(200 mg)のTHF溶液(10 ml)を加え、室温で2時間攪拌した。HPLCで反応の終了を確認後、反応液にヘキサン(6.0 ml)を加え、上澄みを分液ロートへ移した。有機層を10%クエン酸水溶液(6.0ml)で洗浄して有機層を分離した。水層をヘキサン(3.0 ml)で再抽出し、ヘキサン層を有機層に混合した。有機層にヘキサン(2.0 ml)を加え、10%食塩水(4.0 ml)で洗浄後、有機層を濃縮して、ER-413207粗生成物213mgを得た。粗生成物をシリカゲル (17 g)を用いてカラムクロマトグラフィーで精製し(溶出液:ヘプタン/酢酸エチル)、152.5 mg (収率82.8%)の精製品を白色固体として得た。
TLC (Hexane / EtOAc = 4/1), Rf = 0.2, 0.4, 発色剤:アニスアルデヒド
1H NMR (400 MHz, CDCl3) 7.96 (dd, 1H, J = 8.8, 1.6 Hz), 7.82 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 7.68 (t, 1H, J = 7.2 Hz), 7.59 (d, 1H, J = 8.4), 7.55 (d, 1H, J = 7.6 Hz), 6.10-5.95 (m, 1H), 5.80-5.65 (m, 1H), 5.05-4.90 (m, 2H), 4.85-4.70 (m, 4H), 4.55-4.40 (m, 2H), 4.35-4.25 (m, 1H), 4.25-4.12 (m, 3H), 4.12-3.95 (m, 2H), 3.95-3.75 (m, 5H), 3.75-3.35 (m, 9H), 3.21 (s, 3H), 3.30-2.45 (m, 6H), 2.25-2.00 (m, 5H), 2.00-1.20 (m, 9H), 1.10-1.00 (m, 3H), 1.00-0.80 (m, 45H), 0.20-0.00 (m, 30H) MS m/z 1484 (M+Na)+ (ESI Positive)
【0044】
[実施例2]ER-413207の製造例2
【化8】

【0045】
窒素雰囲気下で、CrCl3/4,4’-ジ-t-ブチル-ビピリジル触媒(5.4 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)、NiCl2/2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン触媒(4.3 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)、マンガン粉末 (27.7 mg, 0.504 mmol, 4.0当量)、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド(55.2 mg, 0.189 mmol, 1.5当量)を50 mlナスフラスコに量り取り、無水THF(8.0 ml, 40 μl/mg, 無安定剤, モレキュラーシーブス4Aで乾燥したもの)を添加して、得られた反応液を30分間攪拌した。この反応液中へER-804030 (200 mg, 0.126 mmol)の無水THF溶液(4.0 ml)を加え、得られた混合物を窒素雰囲気下で室温(25℃)において6時間攪拌した。HPLCで反応の終了を確認後、空気下にて酢酸エチル(100 ml)で希釈した。得られた溶液を、シリカゲル(16 g)を通して濾過し、シリカゲルを酢酸エチル(40 ml)、ヘプタン(40 ml)の順でリンスした。濾液と洗浄液を合わせて濃縮しER-413207粗生成物を得た。収率91.2%(HPLC定量値)。粗生成物をシリカゲル (11 g)を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製し(溶出液:ヘプタン / 酢酸エチル)、159.6 mg (収率86.7%)のER-413207を白色固体として得た。
【0046】
[実施例3]ER-413207の製造例3
【化9】

【0047】
本実施例は、国際公開WO2005/118565号パンフレット記載の実施例(段落00206)を参照して行った。
反応容器にER-807063 (1.9g, 6.40 mmol) を量り取り、アセトニトリル (27 ml) を添加して溶解した。得られた反応溶液にCrCl2 (800 mg, 6.51 mmol)及びトリエチルアミン (0.8ml, 6.00 mmol) を加え、約30 ℃で3時間撹拌した。反応容器を15 ℃に冷却し、NiCl2 (100mg, 0.771 mmol) を投入後、予め調製したER-804030 のTHF-ACN混合溶液 (THF/ACN=84/16, 31mL) を30分かけて反応溶液に滴下して加えた。ER-804030溶液の添加終了後、徐々に昇温しながら、15℃から21℃の範囲で反応混合物を3時間撹拌後、ヘプタン(25 ml) をその中へ投入した。反応混合物をセライトパッド上でろ過し、ヘプタン(10ml) 及びアセトニトリル(10ml) でセライトパッドをリンスした。得られた溶液の上層 (ヘプタン層) を分離後、下層(アセトニトリル層)をヘプタン(30 ml) で抽出した。合わせたヘプタン層をアセトニトリル(10ml) で二回洗浄後、濃縮してER-413207粗生成物766mg を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘプタン/酢酸エチル)により精製し、673.3 mg (76.7%, 0.460mmol) のER-413207を無色固体として得た。
【0048】
[実施例4]ER-413207の製造例4
【化10】

【0049】
反応容器に4,4’-ジ-t-ブチル-ビピリジル (3.4 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)、CrCl3 (2.0 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)、マンガン粉末 (27.7 mg, 0.504 mmol, 4.0当量)を量り取り、続いて反応容器内を窒素ガスで置換した。反応容器にTHF (2.0 ml, 無水, 無安定剤)を添加し、室温終、夜攪拌した。窒素雰囲気下、この反応液へNiCl2 / 2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン錯体 (4.3 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)を加え室温で30分攪拌した。この反応液にER-804030(200 mg)のTHF溶液(5 ml)、クロロトリメチルシラン( 15.0 mg, 0.139 mmol, 1.1 当量)の順に加え、室温で3時間攪拌した。HPLCでER-804030の消失を確認後、反応液を氷浴で冷却し、塩酸水溶液(0.5N, 6.0 ml)を加えた。50分攪拌後、ヘプタン(7.0 ml)を加え5分間攪拌し、窒素雰囲気下で水層を分離した。窒素雰囲気で水層をヘプタン(2.0 ml)で抽出して有機層に混合し、炭酸カリウム水溶液(20 wt%, 2.0 ml)で洗浄した。有機層を濃縮、酢酸エチルで共沸乾燥し、MTBE溶液としてHPLC分析を行った。収率94.0%(HPLC定量収率)
【0050】
[実施例5]ER-118047/048の製造例1
【化11】

【0051】
反応容器中で、アルゴン雰囲気下、ER-413207(50.4 mg, 純度93.7wt%, 0.0323 mmol)、4,4’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビピリジル (10.2 mg, 0.0382 mmol)、CrCl3・6H2O (11.0 mg, 0.0413 mmol)、粉状マンガン (10.1 mg, 0.184 mmol) の固体混合物へ、室温 (21.2 oC) でTHF (1 mL) を加え、さらに1時間撹拌した。反応混合物にヘプタン(約1mL) を添加し、反応を停止させた後、メタノール (約1mL) を加え、さらに20 分間反応混合物を撹拌した。反応混合物を濃縮後、再度、メタノールを加え撹拌後、濃縮して、目的化合物であるER-118047/048をジアステレオマー混合物として得た。得られた粗生成物をHPLC外部標準法により定量して収率を求めた。収率:93.6%。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘプタン/酢酸エチル)により精製し、精製品を無色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) 6.06 (dd, 1H, J = 16.4, 7.2 Hz), 5.75 (dd, 1H, J = 15.6, 4.4 Hz), 4.95 (s, 2H), 4.89 (s, 1H), 4.78 (s, 2H), 4.24 (brs, 2H), 4.06 (s, 1H), 4.04-3.98 (m, 1H), 3.94-3.68 (m, 7H), 3.63-3.52 (m, 3H), 3.47 (dd, 1H, J = 10.4 Hz, J = 5.2 Hz), 3.41 (d, 1H, J = 3.6 Hz), 3.26 (s, 3H), 2.90 (dd, 1H, J = 9.6 Hz, 2.4 Hz), 2.80 (dd, 1H, J = 15.6 Hz, 6.4 Hz), 2.68-2.44 (m, 4H), 2.40-2.18 (m, 3H), 2.00 (t, 2H, J = 6.0 Hz), 1.98-1.20 (m, 17H), 1.07 (d, 3H, J = 6.4 Hz), 0.95 (s, 9H), 0.92 (s, 9H), 0.87 (s, 9H), 0.87 (s, 9H), 0.83 (s, 9H), 0.12 (s, 6H), 0.11 (s, 3H), 0.09 (s, 3H), 0.06 (s, 3H), 0.05 (s, 3H), 0.03 (s, 3H), 0.02 (s, 3H), 0.01 (s, 3H), -0.01 (s, 3H) MS m/z 1344 (M+23)
【0052】
[実施例6]ER-118047/048 の製造例2
【化12】

【0053】
反応容器中、アルゴン雰囲気下にて、ER-413207 (10.1 mg, 純度85.0wt%, 0.00587 mmol)、4,4’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビピリジル (11.0 mg, 0.0410 mmol)、CrCl3・3THF (15.4 mg, 0.0411 mmol)、粉状亜鉛 (8.95 mg, 0.137 mmol) の固体混合物へ、室温 (23 oC付近) でTHF (0.3 mL) を添加し、得られた反応混合物を約19時間撹拌した。この混合物にヘプタン(約0.5 ml)を添加して反応を停止させた後、反応混合物をHPLC外部標準法により分析して目的とする生成物を定量し、目的物の収率を求めた。収率:88.7% (ジアステレオマー混合物)
【0054】
[実施例7]ER-118047/048 の製造例3
【化13】

【0055】
フラスコ中、アルゴン雰囲気下にて、ER-413207 (10.4 mg, 87.5wt%, 0.00622 mmol)、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(Bathophenanthroline)(15.1 mg, 0.0454 mmol)、CrCl3・3THF (17.0 mg, 0.0454 mmol)、粉状マンガン (8.31 mg, 0.1513 mmol) の固体混合物へ、室温 (23 oC付近) でTHF (0.3 mL) を加え、得られた反応混合物を約14時間撹拌した。ヘプタン (約0.5ml)を反応混合物に投入して反応を停止させた後、HPLC外部標準法により反応混合物中の目的生成物を定量し、その収率を求めた。収率:>99% (ジアステレオマー混合物)
【0056】
[実施例8]ER-118047/048 の製造例4
【化14】

【0057】
反応容器中、アルゴン雰囲気下にて、ER-413207 (49.9 mg, 85.0wt%, 0.0290 mmol)、4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ビピリジル (1.84 mg, 0.0068 mmol)、CrCl3・3THF (2.56 mg, 0.0068 mmol)、ジシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド(Cp2ZrCl2) (12.0 mg, 0.0410 mmol)、粉状マンガン (9.39 mg, 0.171 mmol) の固体混合物へ、室温 (23 oC付近) でTHF (1 mL) を添加し、得られた反応混合物を14時間程度撹拌した。ヘプタン(約1 mL)を反応混合物に投入して反応を停止させた後、HPLC外部標準法により反応混合物中の目的生成物を定量して、その収率を求めた。収率:90.8% (ジアステレオマー混合物)
【0058】
[実施例9]ER-118047/048 の製造例5
【化15】

【0059】
反応容器に4,4’-ジ-t-ブチル-ビピリジル (10.1 mg, 0.0378 mmol, 0.10当量)、CrCl3 (6.0 mg, 0.0378 mmol, 0.10当量)、マンガン粉末 (83.0 mg, 1.51 mmol, 4.0当量)、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド(122 mg, 0.416 mmol, 1.1 当量)を量り取り、続いて反応容器内を窒素ガスで置換した。反応容器にTHF (6.0 ml, 無水, 無安定剤)を添加し、室温で3時間攪拌した。窒素雰囲気下、この反応液へNiCl2 / 2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン錯体 (12.8 mg, 0.0378 mmol, 0.10当量)を加え室温で30分攪拌した。この反応液にER-804030(600 mg)のTHF溶液(15 ml)を15分かけて加え、室温で2時間攪拌した。HPLCでER-804030の消失を確認後、反応液にメタノール(76.4 μL, 1.89 mmol, 5.0 当量)、マンガン粉末 (125 mg, 2.27 mmol, 6.0当量)、4,4’-ジ-t-ブチル-ビピリジル (203 mg, 0.756 mmol, 2.0当量)、CrCl3 (120 mg, 0.756 mmol, 2.0当量)の順に加えた。反応液を室温終夜攪拌後、HPLCでER-413207の消失を確認し、ヘプタン(21.0 ml)、メタノール(9.0 ml)を加え15分攪拌した。窒素雰囲気のまま反応液を塩酸水溶液で2回、分液洗浄し(0.5N, 18.0 ml, 6.0 ml)、窒素雰囲気下、混合した水層をヘプタン(6.0 ml)で再抽出した。再抽出したヘプタン層を有機層に混合し、炭酸カリウム水溶液(5wt%, 9.0 ml)を加えて洗浄、分液した。有機層を濃縮し酢酸エチルで共沸乾燥し、MTBE溶液としてHPLC分析を行った。HPLC分析後、MTBE溶液を濃縮し、ER-118047/048粗生成物513.9mgを得た。収率85.1%(HPLC定量収率。ジアステレオマー混合物)。
【0060】
[実施例10]ER-118046の製造例
【化16】

【0061】
反応容器中、ER-118047/048 (50.3 mg, 97.2 wt%, 0.0377 mmol) と(ジアセトキシヨード)ベンゼン(30.5 mg, 0.0945 mmol) との固体混合物へ、予め調製したTEMPO (2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシル, フリーラジカル) のトルエン溶液 (0.0378M, 0.5 mL) を室温 (25 oC) で加え、更にH2O (17μL, 0.945 mmol) を加え、得られた反応液を約20時間撹拌した。HPLC外部標準法により定量して、反応液中の目的生成物の収率を求めた。収率:92.6%。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘプタン/MTBE)により精製し、精製品を無色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) 6.33 (d, 1H, J = 16.4 Hz), 5.03-4.93 (m, 2H), 4.87 (s, 1H), 4.82 (s, 1H), 4.77 (s, 1H), 4.22 (brs, 1H), 4.10-3.98 (m, 3H), 3.91-3.74 (m, 5H), 3.68 (m, 1H), 3.55 (dd, 2H, J = 10.4, 5.2 Hz), 3.47 (dd, 1H, J = 10.4, 5.2 Hz), 3.43-3.36 (m, 2H), 3.29 (s, 3H), 2.93 (dd, 1H, J = 9.6, 2.4 Hz), 2.84 (dd, 1H, J = 15.6, 7.2 Hz), 2.77-2.58 (m, 4H), 2.55-2.40 (m, 3H), 2.32-2.19 (m, 2H), 2.03 (dd, 1H, J = 12.8, 7.6 Hz), 1.98-1.18 (m, 16H), 1.06 (d, 3H, J = 6.4 Hz), 0.96 (s, 9H), 0.93 (s, 9H), 0.87 (s, 9H), 0.86 (s, 9H), 0.86 (s, 9H), 0.18 (s, 3H), 0.13 (s, 3H), 0.11 (s, 6H), 0.06 (s, 3H), 0.04 (s, 3H), 0.03 (s, 3H), 0.02 (s, 6H), -0.06 (s, 3H) MS m/z 1342 (M+23)
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の脱スルホニル化反応によれば、室温条件下において、高収率で脱スルホニル化生成物を与えることができるため、不安定な化合物を出発物質として用いた場合でも望ましい結果が得られる。また、本反応は、室温において全ての原料を溶媒中で撹拌するだけで行うことができるため、反応条件の制御も容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、RはR又はORを表し、Rは水素原子、ハロゲン原子、C1−4ハロゲン化脂肪族基、ベンジル、又はC1−4脂肪族基を表し;Arは置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のヘテロアリール基を表し;PG、PG、及びPGは、それぞれ互いに独立して水酸基の保護基を表す)
で表される化合物。
【請求項2】
下記式(I):
【化2】

(式中、RはR又はORを表し、Rは水素原子、ハロゲン原子、C1−4ハロゲン化脂肪族基、ベンジル、又はC1−4脂肪族基を表し;Arは置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のヘテロアリール基を表し、PG、PG、及びPGは、それぞれ互いに独立して水酸基の保護基を表す)
で表される化合物を、溶媒中において、下記式(II):
【化3】

(式中、R及びR1’は、独立して、C3−12アルキル基、または非置換もしくは置換基を有するフェニル基を表し;R及びR2’は、独立して、水素原子もしくはC1−6アルキル基を表し、またはR及びR2’は一緒になって、それらが結合しているピリジン環とともに縮合環を形成していてもよい)
で表される配位子の存在下に、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とによって処理することによる、
下記式(III):
【化4】

(式中、R、PG、PG、及びPGは上記式(I)で定義された意味を有する)
で表される化合物の製造方法。
【請求項3】
前記3価クロム化合物がCr(III)X(式中、Xはハロゲン原子を示す。)である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記XがCl又はBrである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記3価クロム化合物が、CrCl無水物、CrCl・6HO、及びCrCl・3THFからなる群から選択される1種以上である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記式(II)中のR及びR1’が、t−ブチル、フェニル、又はノニルであり、かつ、R及びR2’は水素原子であるか、又はR及びR2’は一緒になって、それらが結合しているピリジン環とともに縮合環を形成している、請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
さらにシクロペンタジエニル環を含むTi、Zr、及びHf化合物からなる群から選択されるメタロセン化合物を添加する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記処理を20〜30℃で行う、請求項2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒が、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、メチルt-ブチルエーテル、ジメチルホルムアミド、メタノール、及びアセトニトリルからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である、請求項2に記載の製造方法。

【公表番号】特表2011−504166(P2011−504166A)
【公表日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519043(P2010−519043)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【国際出願番号】PCT/JP2008/071167
【国際公開番号】WO2009/064029
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】