説明

ハロゲン化ピナコール誘導体及びその製造方法

【課題】低屈折率かつ低表面張力を有する、二官能のハロゲン化ピナコール誘導体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】式(I):


(式中、R1は水素原子又はメチル基、X1はハロゲン原子である)
で表されるハロゲン化ピナコール誘導体、並びにハロゲン化ピナコールと、(メタ)アクリル酸ハライドとを、塩基の存在下、溶媒中で反応させる、式(I)で表されるハロゲン化ピナコール誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜や光ファイバーのクラッド材料等に有用な低屈折率ポリマー、また、潤滑剤や離型剤などの表面改質剤として有用な低表面張力ポリマー、防汚剤、ナノインプリンティングなどに用いられるハロゲン化ピナコール誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素原子は大きな電気陰性度と小さな分極率を有するため、フッ素と他原子間の結合は外界電場による動的分極が小さく、フッ素原子を含む化合物は低い屈折率を示す。また、構造上分子表面にペルフルオロアルキル基を有すると小さな分極率の影響で分子間凝集力が小さくなり表面張力が低くなる。よって、低屈折率性、低表面張力性を有するフッ素化合物が盛んに応用されているが、その多くが低屈折率に抑える観点から単官能である。そのために、反応性の面で劣り非架橋性である(例えば、特許文献1参照)。これを解決すべく、2つ以上の官能基を持つ含フッ素アクリレートを合成している報告があるが生成物を精製するためにカラムクロマトグラフィーを用いるなど煩雑な操作が必要であり生産性の面で欠ける(例えば、特許文献2、3参照)。また、多官能とすることで重合収縮が大きくなるため、官能基密度が上昇し、ポリマーとした際の単位当りの屈折率が高くなってしまうといった問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04-356444公報
【特許文献2】特開平09−301925公報
【特許文献3】特開平10−182558公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、前記従来技術に鑑み、架橋性を有したうえで、より低い屈折率及び表面張力を有する二官能含フッ素アクリレートについて検討した。
【0005】
そこで、二官能モノマーで屈折率及び表面張力が低くなるようにトリフルオロメチル基が分子表面を覆うように分子設計を検討した結果、ハロゲン化ピナコールのジアクリレート体が候補として挙がったが、この化合物は新規であり、また一般的な既存のモノマー合成法である脱水法やエステル交換法では反応しなかった。
【0006】
本発明の課題は、低屈折率かつ低表面張力を有する、二官能のハロゲン化ピナコール誘導体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
〔1〕 式(I):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1は水素原子又はメチル基、X1はハロゲン原子である)
で表されるハロゲン化ピナコール誘導体、並びに
〔2〕 式(II):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、X1はハロゲン原子である)
で表されるハロゲン化ピナコールと、式(III):
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、X2はハロゲン原子である)
で表される(メタ)アクリル酸ハライドとを、塩基の存在下、溶媒中で反応させる、式(I):
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R1及びX1は同一である)
で表されるハロゲン化ピナコール誘導体の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハロゲン化ピナコール誘導体は、低屈折率かつ低表面張力を有するという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のハロゲン化ピナコール誘導体は、式(I):
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、R1は水素原子又はメチル基、X1はハロゲン原子である)
で表される化合物である。
【0020】
式(I)において、X1で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、本発明においては、低屈折率の観点から、フッ素原子が好ましい。
【0021】
式(I)で表されるハロゲン化ピナコール誘導体は、式(II):
【0022】
【化6】

【0023】
(式中、X1は前記と同じ)
で表されるハロゲン化ピナコールと、式(III):
【0024】
【化7】

【0025】
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、X2はハロゲン原子である)
で表される(メタ)アクリル酸ハライドとを、塩基の存在下、溶媒中で反応させることにより、得ることができる。
【0026】
式(III)において、X2で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、反応性及び取り扱いの観点から、塩素原子が好ましい。
【0027】
式(III)で表される(メタ)アクリル酸ハライドの使用量は、式(II)で表されるハロゲン化ピナコール1モルに対して、1.2〜3.0モルが好ましく、2.0〜3.0モルがより好ましい。
【0028】
塩基としては、トリエチルアミン、ピリジン、ジアザビシクロウンデセン、ジメチルアニリン等が挙げられ、これらの中では、反応性、及び後述の後処理工程の簡便さの観点から、トリエチルアミンが好ましい。
【0029】
塩基の使用量は、式(II)で表されるハロゲン化ピナコール1モルに対して、3〜5モルが好ましく、3.2〜4.2モルがより好ましいが、反応が完結していなければ完結するまで追加することが好ましい。
【0030】
溶媒としては、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン等の非反応性溶媒が挙げられ、これらの中では、原料や製品の溶解性の観点から、トルエンが好ましい。
【0031】
溶媒の使用量は、式(II)で表されるハロゲン化ピナコールの2.0〜5.0重量倍が好ましく、3.0〜4.0重量倍がより好ましい。
【0032】
式(II)で表されるハロゲン化ピナコールと式(III)で表される(メタ)アクリル酸ハライドとの反応は、例えば、式(II)で表されるハロゲン化ピナコール、溶媒及び式(III)で表される(メタ)アクリル酸ハライドの混合物に、塩基を滴下することにより行うことができる。なお、ハロゲン化ピナコールは融点が高く、常温で固体であることが多いため、あらかじめハロゲン化ピナコールを溶媒に溶解させた混合物に、(メタ)アクリル酸ハライドを添加することが好ましい。また、ハロゲン化ピナコールの融点が高い場合は、あらかじめ溶媒に溶解させておくことが好ましい。また、(メタ)アクリル酸ハライド及び生成物の重合を阻止する観点から、反応時や濃縮時、蒸留時等に適宜、ヒンダートフェノール系やNオキシラジカル系の重合防止剤を添加することが好ましい。ヒンダートフェノール系の重合防止剤としては、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等が挙げられる。Nオキシラジカル系の重合防止剤としては、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ベンゾオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル等が挙げられる。
【0033】
反応溶液の温度は、-10〜10℃が好ましく、0〜5℃の範囲がより好ましい。反応時間は、塩基による生成物の分解を防止する観点から、可能な限り短時間であることが好ましい。
【0034】
反応の際の雰囲気は、大気中でも可能であるが、水分との接触を避けるため窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下が望ましい。また、ハロゲン化ピナコール、(メタ)アクリル酸ハライドの揮発性が高いため、窒素ガス等を系内に吹き込む際の流量はなるべく抑えることが好ましい。
【0035】
反応の進行及び終点は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)等により確認することができる。
【0036】
反応終了後は、ハロゲン化ピナコール誘導体の分解を抑制する観点から、反応で副生した塩を濾過によって除去した後、残存する過剰の塩基を酸で中和し、中和塩を濾過によって除去することが好ましく、ろ液や沈殿物の洗浄には、トルエン等の有機溶媒を使用することが好ましい。ろ液と洗浄液を濃縮することで、得られたハロゲン化ピナコール誘導体が得られる。さらに、ガラスチューブオーブン、カラムクロマトグラフィー等の通常の方法により、精製することができるが、本発明では、バッチ蒸留等の簡便な方法でも高純度なハロゲン化ピナコール誘導体を得ることができる。
【0037】
本発明のハロゲン化ピナコール誘導体は、屈折率及び表面張力が低い点に特徴を有している。また、二官能であるため反応性が高く生産性の面で優れているが、多官能にもかかわらずポリマー化に際しての重合収縮が小さいため、低屈折率及び低表面張力を維持することができる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
実施例1
【0040】
【化8】

【0041】
窒素ガスにて置換を行い、流量計を用いて1ml/minに流量を調整した窒素を流している状態の3リットル容のナスフラスコ中で、ペルフルオロピナコール350g(1.05モル)とトルエン1225gの混合物にアクリル酸クロリド237.07g(2.62モル)を添加した。反応溶液をメカニカルスターラーとガラス製の攪拌棒により340r/minで攪拌しながら、ハイドロキノンモノメチルエーテル140mgを添加した後、反応溶液を-3.0℃まで冷却した。反応溶液の温度が4.0℃を超えないように調整しながら、トリエチルアミン371.06g(3.67モル)を1時間かけて滴下ロートからゆっくり滴下し、反応終点まで、反応溶液を-5℃で1時間保持した。ガスクロマトグラフィーで反応初期にみられるピークが消失した時点を反応終点とした。
【0042】
得られた反応液をろ過して副生成物であるトリエチルアミン塩酸塩を除去し、ろ液をトルエン100gで洗浄した。ろ液と洗浄液を合わせ、シュウ酸264.14g(2.93モル)を添加し、残存するトリエチルアミンを中和した。中和物をろ過により除去し、残存した沈殿物をトルエン100gで洗浄し、ろ液と洗浄液を合わせて濃縮することにより、淡黄色透明液体状の粗生成物1827g(収率54%、GC純度13.8%)を得た。その後、ハイドロキノン652mgを添加した後にバッチ蒸留を行うことで無色透明液体179g(収率39%、GC純度99.0%、沸点:50℃[6.7kPa])を得た。得られた無色透明液体が式(Ia)で表される化合物であることを、GC-MS、1H-NMR、及び13C-NMRにより確認した。
【0043】
GC-MS:C12H6F12O4:分子量442.測定結果442(親ピーク), 387(脱アクリロイル基), 69(-CF3)
1H-NMR(500MHz, CDCl3)δ5.56(dd,1H), 5.95-6.08(m,1H), 6.30-6.47(m,1H)全てアクリロイル基のピーク
13C-NMR(500MHz, CDCl3)δ88(CF3), 116.5, 118.8, 121.2, 123.5, 127.0, 129.8, 133.5,161.1(全てアクリロイル基)
【0044】
得られた式(Ia)で表される化合物の屈折率及び表面張力を以下の方法により測定した結果、屈折率は1.36、表面張力は20.2dyne/cmであった。
【0045】
〔屈折率〕
アタゴ株式会社製の精密アッベ屈折計3Tを用い、あらかじめ機器の温度を25℃に設定して測定する。なお、測定前に和光純薬工業株式会社の蒸留水の屈折率を測定し、測定値に問題がないことを確認する。
【0046】
〔表面張力〕
協和界面科学株式会社製の表面張力計CBVP-A3を用い、あらかじめ室温を25℃に設定して測定する。なお、測定前に和光純薬工業株式会社の蒸留水の表面張力を測定し、測定値に問題がないことを確認する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のハロゲン化ピナコール誘導体は、反射防止膜、光ファイバーのクラッド材料等に有用な低屈折率用途、また、潤滑剤や離型剤などの表面改質剤として有用な低表面張力用途、防汚剤、ナノインプリンティング等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、X1はハロゲン原子である)
で表されるハロゲン化ピナコール誘導体。
【請求項2】
式(II):
【化2】

(式中、X1はハロゲン原子である)
で表されるハロゲン化ピナコールと、式(III):
【化3】

(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、X2はハロゲン原子である)
で表される(メタ)アクリル酸ハライドとを、塩基の存在下、溶媒中で反応させる、式(I):
【化4】

(式中、R1及びX1は同一である)
で表されるハロゲン化ピナコール誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2012−36107(P2012−36107A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175252(P2010−175252)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】