説明

ハロゲン化脂肪族炭化水素を含む排ガスの処理方法

【課題】 非ハロゲン化脂肪族炭化水素およびハロゲン化脂肪族炭化水素を含む排ガス中の非ハロゲン化脂肪族炭化水素とハロゲン化脂肪族炭化水素の両方を効率的に分解するための方法を提供する。
【解決手段】 非ハロゲン化脂肪族炭化水素およびハロゲン化脂肪族炭化水素を含む排ガスを、白金および/またはパラジウムの金属またはその酸化物を含む触媒(a)と275〜475℃の温度範囲で接触させた後、チタン酸化物とタングステン酸化物とを含み、且つ、貴金属を含まない触媒(b)と300〜550℃の温度範囲で接触させ、更に、パラジウム金属またはその酸化物を含む触媒(c)と300〜550℃の温度範囲で接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタン、エチレン、アセチレン、プロピレン、ブタン等のハロゲン化されていない脂肪族炭化水素(以下、「非ハロゲン化脂肪族炭化水素」ともいう。)が混在した、1,2−ジクロロエタンや塩化ビニルモノマー等のハロゲン化された脂肪族炭化水素(以下、「ハロゲン化脂肪族炭化水素」ともいう。)を含む排ガスの新規な処理方法に関する。詳しくは、上記排ガス中の非ハロゲン化脂肪族炭化水素とハロゲン化脂肪族炭化水素の両方を効率的に分解するための方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
有機塩素化合物製造設備や各種産業プロセスから排出される排ガス中には、1,2−ジクロロエタン(EDC)、塩化ビニルモノマー(VCM)、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化メチル、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン、塩化ビニリデン等のハロゲン化脂肪族炭化水素が一般に含まれている。これらのハロゲン化脂肪族炭化水素は、有害性がある場合が多く、環境規制により、これら物質の大気中への放出を低減・防止することが求められている。
【0003】
上記ハロゲン化脂肪族炭化水素を含有するハロゲン化脂肪族炭化水素含有排ガスの代表的な処理方法としては、プロパンやブタン等の燃料を用いて、800℃以上の高温でハロゲン化脂肪族炭化水素含有排ガス中のハロゲン化脂肪族炭化水素を燃焼させる直接燃焼法式、活性炭やシリカゲル等の吸着剤を用いて、ハロゲン化脂肪族炭化水素を回収する吸着方式、触媒を用い、比較的低温でハロゲン化脂肪族炭化水素を酸化分解させる触媒酸化方式等がある。
【0004】
しかしながら、ハロゲン化脂肪族炭化水素含有排ガスの処理方法として、これまで比較的多く採用されてきた直接燃焼方式は、ガス流を800℃以上の所定温度まで昇温させるのに大量の燃料を必要とし、設備費・比例費共に高価な処理方法となる。また、吸着方式に関しては、吸着によりハロゲン化脂肪族炭化水素含有排ガス中のハロゲン化脂肪族炭化水素を完全に回収することが難しく、結局、低濃度で残留するハロゲン化脂肪族炭化水素については、焼却設備等の後処理により除去する必要があるといった問題がある。
【0005】
上記直接燃焼方式に対して、前記触媒酸化方式は、比較的低コストで、処理後の排出ガス中被処理物濃度を低減でき、低濃度の有機物含有ガスを大量に処理する方法として有利である。
【0006】
従来、触媒酸化方式による方法として、共沈法により調整された、チタンとタングステンの酸化物と白金、パラジウム、ロジウムおよびルテニウム等の貴金属またはその酸化物を含有させることで、高い酸化性能を有し、ハロゲン化脂肪族炭化水素の分解活性の向上が図られた分解方法が開示されている。(特許文献1参照)。
【0007】
ところが、前記触媒酸化方式において使用される貴金属を含む触媒は、その強力な酸化力ゆえに、ハロゲン化脂肪族炭化水素の分解において、ハロゲンガスが副生するという問題を有する。そして、上記副生したハロゲンガスは、前記触媒酸化方式による目的の分解物であるハロゲン化水素に比べて中性の水への溶解度が低いため、苛性ソーダ水溶液等の塩基性水溶液に吸収させる必要があり、しかも、吸収により生じた次亜ハロゲン酸をさらに重亜硫酸ソーダ等により分解(還元)する必要があった。
【0008】
また、工業的に、前記ハロゲン化脂肪族炭化水素を含有する排ガスには、非ハロゲン化脂肪族炭化水素が含まれるケースが多い。例えば、塩化ビニルモノマーの製造プラントにおいては、原料のエチレンが、また、酸化プロピレンの製造方法の一つであるクロルヒドリン法においては、原料のプロピレンが、更に、クロロホルムの製造においては、原料のメタノールや副生するジメチルエーテルが、各ハロゲン化脂肪族炭化水素と共に、排ガス中に含有される。
【0009】
上記非ハロゲン化脂肪族炭化水素とハロゲン化脂肪族炭化水素とを含む排ガスに対して、ハロゲンガスを発生させないために酸化力の低い触媒を用いると、非ハロゲン化脂肪族炭化水素は、完全に分解されない。そのため、後段でハロゲン化水素と反応し、新たにハロゲン化脂肪族炭化水素を発生してしまうという問題が生じる。例えば、非ハロゲン化脂肪族炭化水素がエチレンである場合、塩化水素との反応により、塩化ビニルが副生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−79112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、ハロゲン化脂肪族炭化水素と非ハロゲン化脂肪族炭化水素とを含有する排ガスを、ハロゲンガスの発生を抑制しつつ、新たなハロゲン化脂肪族炭化水素を生成すること無く、無害化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、前記対象とする排ガスに対して、作用の異なる触媒を特定の条件で段階的に作用させることが有効であることを見出した。即ち、ハロゲン化脂肪族炭化水素と非ハロゲン化脂肪族炭化水素とを含有する排ガスに対して、先ず、特定の触媒を用い、比較的低く抑えられた温度条件で酸化反応を行うことによって、非ハロゲン化脂肪族炭化水素を優先的に分解(酸化)し、次いで、貴金属を含有しない、特定の酸化触媒を用いて、上記分解後の排ガス中のハロゲン化脂肪族炭化水素の分解を行うことにより、除害が困難なハロゲンガスの生成を抑制しつつ、ハロゲン化脂肪族炭化水素の分解を行い、更に、上記反応において副生する一酸化炭素を、特定の酸化触媒を使用して二酸化炭素に変換することにより、ハロゲン化脂肪族炭化水素と非ハロゲン化脂肪族炭化水素とを含有する排ガスを、ハロゲンガスの発生を抑制しつつ、新たなハロゲン化脂肪族炭化水素を生成すること無く分解、無害化できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は、非ハロゲン化脂肪族炭化水素およびハロゲン化脂肪族炭化水素を含む排ガスを、以下の(A)〜(C)の工程を含む方法によって処理することを特徴とする排ガス処理方法。
【0014】
(A)前記排ガスを、白金および/またはパラジウムの金属またはその酸化物を含む触媒(a)と275〜475℃の温度範囲で接触させる工程、
(B)上記(A)工程より得られるガスを、チタン酸化物とタングステン酸化物とを含み、且つ、貴金属を含まない触媒(b)と300〜550℃の温度範囲で接触させる工程、
及び
(C)上記(B)工程より得られるガスを、パラジウム金属またはその酸化物を含む触媒(c)と300〜550℃の温度範囲で接触させる工程。
【0015】
また、本発明においては、前記(A)〜(C)の工程によって十分な排ガスの処理性能を達成できるが、上記(C)工程に続いて、更に、以下の(D)工程を行うことによって、前記(A)工程で非ハロゲン化脂肪族炭化水素が残存し、(C)工程におけるハロゲン化により、微量生じる虞のあるハロゲン化脂肪族炭化水素の分解を行うことができ、より一層高度な排ガスの処理を行うことができる。
(D)上記(C)工程より得られるガスを、触媒(d)と300〜550℃の温度範囲となるように接触させる工程。
【0016】
また、工程(B)において使用される触媒(b)及び工程(D)において使用される触媒(d)は、更に、バナジウム酸化物を含んでいてもよい。
【0017】
上記本発明は、非ハロゲン化脂肪族炭化水素として、炭素数が1から4のものを含有する排ガスに対して特に有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、前記工程(A)〜(C)を順次行うことにより、工程(A)では、非ハロゲン化脂肪族炭化水素およびハロゲン化脂肪族炭化水素を含む排ガス中の非ハロゲン化脂肪族炭化水素を、ハロゲンガスの発生を抑制しながら、選択的に分解することができ、また、工程(B)では、非ハロゲン化脂肪族炭化水素が分解除去された状態で、ハロゲン化脂肪族炭化水素を、ハロゲンガスの発生を抑制しながら、選択的に分解することができ、更に、工程(C)では、上記工程(B)で生成する一酸化炭素を無害な二酸化炭素に効率的に変換することができる。
【0019】
従って、以上の工程の組み合わせにより、前記排ガス中のハロゲン化脂肪族炭化水素及び非ハロゲン化脂肪族炭化水素を、ハロゲンガスの発生を抑制しつつ、新たなハロゲン化脂肪族炭化水素を生成すること無く、分解処理することが可能である。
【0020】
本発明の排ガスの処理方法は、一酸化炭素等の有害なガスを発生せず、且つ、塩素の発生を抑制することが可能であるため、後段に設けられる除害塔等の設備において、苛性ソーダ等のアルカリや、重亜硫曹等の還元剤を大幅に削減可能で、その工業的価値は、極めて高いものであるといえる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(対象とする排ガス)
本発明の分解方法の対象とする排ガスは、ハロゲン化脂肪族炭化水素と非ハロゲン化脂肪族炭化水素とが混在する排ガスである。
【0022】
かかるハロゲン化脂肪族炭化水素は、脂肪族系の炭化水素分子構造中にハロゲン元素である塩素、フッ素、臭素、ヨウ素の内、少なくとも1種の元素を1つ以上有する鎖状又は脂環式化合物である。
【0023】
本発明は、これらハロゲン化脂肪族炭化水素の中でも、分子内に少なくとも1個の塩素原子を有する脂肪族系の塩素化炭化水素を効率良く分解することができる。具体的に、C1の塩素化合物としては、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、C2の塩素化合物としては、ジクロロエタン、塩化ビニルモノマー、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、C3の塩素化合物としては、クロロプロパン、ジクロロプロパン、トリクロロプロパン、テトラクロロプロパン、ペンタクロロプロパン、ヘキサクロロプロパン、ヘプタクロロプロパン、オクタクロロプロパン、クロロプロペン、ジクロロプロペン、トリクロロプロペン、テトラクロロプロペン、ペンタクロロプロペン、ヘキサクロロプロペン等が挙げられる。
【0024】
また、前記非ハロゲン化脂肪族炭化水素としては、炭素数が1から4のものを好適に分解することが可能であり、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、エチレン、プロピレン、ブテン、アセチレン等の不飽和炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド類が挙げられる。
【0025】
上記の如き非ハロゲン化脂肪族炭化水素及びハロゲン化脂肪族炭化水素を含有する排ガスとしては、有機ハロゲン化合物やその誘導体を製造する際に生じる排ガスが挙げられる。例えば、1,2‐ジクロロエタン(EDC)を製造するオキシクロリネーション反応では、エチレンと塩化水素、酸素を原料としており、プラントから排出されるガス中には、上記EDCと共に、原料のエチレンが含まれることになる。
【0026】
本発明の排ガス処理方法において排ガス中に含まれる、ハロゲン化脂肪族炭化水素の濃度としては、吸着法やプラズマ法、直接燃焼法等の他の処理方法に比して触媒酸化法のメリットが充分に得られるという点で、少なくともハロゲン化脂肪族炭化水素の濃度が1ppm以上の排ガスの処理に適用することが好ましく、10ppm以上の排ガスの処理に適用することがより好ましい。
【0027】
また、排ガス中の非ハロゲン化脂肪族炭化水素の濃度としては、少なくとも非ハロゲン化脂肪族炭化水素の濃度が1ppm以上の排ガスの処理に適用することが好ましく、10ppm以上の排ガスの処理に適用することがより好ましい。
【0028】
また、前記排ガス中に含まれる脂肪族ハロゲン化脂肪族炭化水素、非ハロゲン化脂肪族炭化水素の濃度が低い場合には、吸着装置等を用いて、排ガスを濃縮することが望ましい。
【0029】
一方、ハロゲン化脂肪族炭化水素と非ハロゲン化脂肪族炭化水素の濃度の上限は、分解反応で発生する燃焼熱によるガスの温度上昇を勘案し、それぞれの工程において設けている反応温度範囲内になるようにする必要がある。従って、かかる濃度が高い場合は、反応に影響を与えない空気等の希釈ガスにより希釈して、本発明の処理に供することが望ましい。
【0030】
本発明の方法は、一般に、非ハロゲン化脂肪族炭化水素の濃度が1〜20000ppm、好ましくは10〜10000ppm、より好ましくは100〜5000ppm、ハロゲン化脂肪族炭化水素の濃度が、1〜20000ppm、好ましくは10〜20000ppm、より好ましくは100〜20000ppmの濃度である排ガスに対して好適に適用することができる。
【0031】
尚、本明細書において、ガス中の各成分の濃度はいずれも体積濃度である。
【0032】
(工程(A))
本発明において、工程(A)は、非ハロゲン化脂肪族炭化水素及びハロゲン化脂肪族炭化水素を含有する排ガスを、白金および/またはパラジウムの金属またはその酸化物を含む触媒(a)と、275〜475℃の温度範囲で接触させることを特徴とする。
【0033】
かかる工程(A)は、非ハロゲン化脂肪族炭化水素を優先的に分解する工程であり、触媒として、白金および/またはパラジウムの金属またはその酸化物を含む触媒(a)が使用される。即ち、触媒(a)は、ハロゲン化脂肪族炭化水素よりも非ハロゲン化脂肪族炭化水素に対して高い酸化力を持つ触媒であり、非ハロゲン化脂肪族炭化水素を、ハロゲン化脂肪族炭化水素よりも低温度で優先的に分解(酸化)させることができる。
【0034】
上記白金やパラジウムの金属またはその酸化物を含む触媒(a)としては、揮発性有機化合物(VOC)の処理によく用いられている酸化触媒が使用できる。パラジウムや白金の金属は、卑金属であるコバルト、銅、クロム、マンガン等よりも低温での酸化活性に優れており、また、少ない担持量でも高活性を示すため、装置をコンパクトにすることができる。本発明において、かかる触媒(a)は、VOC処理等の用途に使用される公知の触媒が使用されるが、特に、チタン酸化物に担持させたものが、非ハロゲン化脂肪族炭化水素をより選択的に二酸化炭素に分解することができ好ましい。即ち、金属酸化物の場合は、担体と活性成分との相互作用が大きく、担体を変えれば触媒作用自体が大きく変わるという現象がよくある。また、本発明のように、排ガス中に、ハロゲン化脂肪族炭化水素を含む場合、工程(A)においても、該ハロゲン化脂肪族炭化水素の一部が分解して、ハロゲン化水素を生じるが、かかるハロゲン化水素が共存するガス条件下において、チタン酸化物は、他の担体、例えば、シリカやアルミナより触媒(a)の酸化能を高く維持することができる。さらに、チタン酸化物は、耐酸性にも優れ、使用環境下での寿命も長いという特徴を有する。
【0035】
上記のチタン酸化物としては、ルチル型やアナタース型、あるいは非晶質のものを用いることができるが、好ましくは、アナタース型である。
【0036】
上記触媒(a)は、形状についても特に制限はなく、球状や円柱状等のペレット状、円筒状、ハニカム状、波板状、網状等の所望の形状に成型して使用できる。より好ましくは、ペレット状が望ましい。ペレット状触媒では、ハニカム状触媒よりも圧力損失は増加するが、ガスと触媒上活性点との接触効率が高くなることで反応効率が増し、結果的に使用する白金やパラジウム量を減らすことができる。
【0037】
また、前記触媒(a)担体のBET比表面積の値についても特に限定されないが、好ましくは10〜200m/gであり、更に好ましくは30〜150m/gである。
【0038】
上記触媒(a)に含有される、Pt(白金)やPd(パラジウム)の量は、触媒(a)全体の質量に対して、それぞれ0.01〜5質量%、好ましくは0.01〜3質量%、より好ましくは0.05〜2質量%の濃度で担持させることが好ましい。即ち、前記触媒量は、ある程度までは多い方が酸化性能が良好となるが、必要以上多くしても酸化能の向上がさほど向上せず、経済的に不利であり、上記範囲が好ましい。
【0039】
また、担体上に担持されたPtやPdの深さ方向の分布としては、均一担持、外層担持、内層担持、中心担持のどの様式でも特に制限はされないが、好ましくは、外層担持である。本反応は、触媒の表面上において特に反応速度が大きいので、PtやPdを担体の外層に担持することで、その酸化性能を少量で最大限に引き出すことが可能になる。
【0040】
本発明における前記PtやPdを担体に担持する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば含浸法等の一般的に用いられる方法が使用できる。具体的には、白金としては、塩化白金(IV)酸、塩化白金(IV)酸アンモニウム、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸などを用い、また、パラジウムとしては、硝酸パラジウム溶液等の硝酸塩、塩化パラジウム溶液等の塩化物、その他アンモニウム塩溶液等を用いて、担体に対して所望の量を含浸、焼成し、その後、還元剤で塩を還元することで、金属白金、金属パラジウムとすることができる。上記還元剤の例としては、エタノールやグリコール等のアルコール類、水素、ヒドラジン、ホルムアミド、エタノールアミン、クエン酸等が挙げられる。
【0041】
本発明の工程(A)において、触媒(a)の使用量は、用いる触媒の形状、排ガス中のハロゲン化脂肪族炭化水素、非ハロゲン化脂肪族炭化水素の濃度等にもよるが、通常、空間速度が3000〜30000hr−1となる量とすることが好ましい。
【0042】
本発明の工程(A)において、触媒(a)は、前述したように、その高い酸化力により、温度によっては、ハロゲン化水素をも酸化し、塩素等のハロゲンガスを生成する。そこで、本発明においては、触媒(a)によって、ハロゲン化脂肪族炭化水素よりも分解され易い非ハロゲン化脂肪族炭化水素を、ハロゲン化水素が酸化され、ハロゲンガスを発生することのない低い温度条件を採用し、塩素等のハロゲンガスの生成を抑制する。
【0043】
即ち、本発明において、工程(A)における反応温度は、275〜475℃、好ましくは300〜450℃である。即ち、かかる反応温度が475℃より高い場合、ハロゲンガスの副生を伴うハロゲン化脂肪族炭化水素の分解が起こり易くなり、新たなハロゲン化脂肪族炭化水素が副生すると行った問題が生じる。また、前記反応温度が、275℃より低い場合、非ハロゲン化脂肪族炭化水素の分解が不十分となる。
【0044】
また、上記触媒(a)は、ガス中に塩化水素が共存すると、非ハロゲン化脂肪族炭化水素の分解(酸化)性能が低下するので、ハロゲン化脂肪族炭化水素の分解により生成するハロゲン化水素が存在していない状態、即ち、排ガスの最初の処理段階で用いると最大の効果を発揮する。
【0045】
(工程(B))
本発明において、工程(B)は、上記(A)工程より得られるガスを、チタン酸化物とタングステン酸化物を含み、且つ、貴金属を含まない触媒(b)と300〜550℃の温度範囲で接触させることを特徴とする。
【0046】
かかる工程(B)は、ハロゲン化脂肪族炭化水素を分解する工程であり、触媒として、チタン酸化物とタングステン酸化物を含み、且つ、貴金属を含まない触媒(b)が使用される。即ち、触媒(b)は、ハロゲン化脂肪族炭化水素に対して高い分解能力を持つ触媒であるが、その分解で発生したハロゲン化水素を酸化し、ハロゲンガスを生成することを抑制できるという、適度の酸化能力を持つ触媒である。
【0047】
本発明において、かかる触媒(b)は、チタン酸化物及びタングステン酸化物を含み、且つ、貴金属を含まない触媒であることが極めて重要である。貴金属が金属あるいは酸化物、塩化物状態で含まれる場合には酸化力が強すぎ、ハロゲン化脂肪族炭化水素を充分に分解する条件下では、塩素等のハロゲンガスが生じ、前述したような様々な問題を生じてしまう。
【0048】
上記本発明で用いる触媒(b)は、ハロゲンによる被毒により触媒寿命が短くなるか、あるいは、充分なハロゲン化脂肪族炭化水素の分解性能を得られないといった問題を解決し、充分なハロゲン化脂肪族炭化水素の分解性能と寿命とを得ることのできる、チタン酸化物及びタングステン酸化物が主成分である触媒を用いる必要がある。これらチタン酸化物及びタングステン酸化物の双方を含まない場合には、上記の如く触媒寿命が短くなるか、あるいは、充分なハロゲン化脂肪族炭化水素の分解性能を得られない。
【0049】
上記触媒(b)は、その全体の重量に対して、チタン酸化物が97〜60質量%であり、タングステン酸化物が3〜30質量%であることが好ましい。特にタングステン酸化物の含量を上記範囲とすることにより、高い耐久性と分解活性を得ることができる。
【0050】
これらチタン酸化物及びタングステン酸化物は、各々独立した酸化物の混合体として存在していてもよいし、或いは、例えば特許第3760090号に記載されているように、共沈法により調整された、チタンとタングステンとを含有する酸化物として存在してもよい。特に、後者の共沈法により調整された触媒が好ましい。
【0051】
また、前記触媒(b)には、酸化物としての状態であれば、チタン及びタングステン以外の金属が含まれていても良い。当該チタン及びタングステン以外の金属の酸化物としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ニオブ酸化物、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物等が挙げられる。なかでもバナジウム酸化物は、単独酸化物としても、複合酸化物としても、酸化性を示すので、成分として含まれていてもよい。しかし、バナジウム酸化物の含有量が多くなるにつれて、触媒の耐熱性が低下する傾向があるため、触媒(b)におけるバナジウム酸化物の含有量は、触媒(b)全体の質量に対して、30質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.1〜15質量%である。
【0052】
上記触媒(b)は、形状についても特に制限はなく、ハニカム状、波板状、網状、円筒状、球状や円柱状等のペレット状等の所望の形状に成形して使用できる。より好ましくは、ガスの通過の際の圧力損失を低減するために、ハニカム状等の形状が望ましい。
【0053】
また、触媒(b)のBET比表面積は特に限定されないが、好ましくは10〜150m/gであり、更に好ましくは30〜100m/gである。
【0054】
本発明の工程(B)において、触媒(b)の使用量は、その触媒形状や、処理する排ガス中のハロゲン化脂肪族炭化水素やその他の有機物の濃度にもよるが、通常、空間速度が1500〜10000hr−1となる量とすることが好ましい。
【0055】
本発明において、工程(B)における反応温度は、300〜550℃、好ましくは320〜550℃である。即ち、かかる反応温度が550℃より高い場合、触媒の耐熱温度上好ましくなく、触媒寿命が短くなってしまうといった問題が生じる。また、前記反応温度が、300℃より低い場合、ハロゲン化脂肪族炭化水素の分解が不十分となる。
【0056】
(工程(C))
本発明において、工程(C)は、上記(B)工程より得られるガス、即ち、ハロゲン化水素及び一酸化炭素を含有する排ガスを、パラジウムの金属またはその酸化物を含む触媒(c)と、300〜550℃の温度範囲で接触させることを特徴とする。
【0057】
かかる工程(C)は、ハロゲンガスを発生させずに、一酸化炭素を酸化し、二酸化炭素とする工程であり、触媒として、パラジウムの金属またはその酸化物を含む触媒(c)が使用される。即ち、触媒(c)は、ハロゲン化水素が多量に共存する環境下でも、ハロゲンガスを発生させずに一酸化炭素を酸化させることができる。
【0058】
上記パラジウムの金属またはその酸化物を含む触媒(c)としては、一般的にCO酸化処理用の触媒として用いられているものが使用できる。一般的なCO酸化処理用の触媒としては、白金触媒も広く用いられているが、本発明の使用条件では、白金触媒では酸化力が強すぎハロゲンガスが生成してしまうので、使用に適さない。
【0059】
本発明において、かかる触媒(c)は、チタン酸化物にパラジウムを担持させたものが、一酸化炭素を二酸化炭素に、特に効率良く酸化することができ好ましい。即ち、金属酸化物の場合は、担体と活性成分との相互作用が大きく、担体を変えれば触媒作用自体が大きく変わるという現象がよくある。本発明のように、排ガス中のハロゲン化脂肪族炭化水素が分解して、ハロゲン化水素を生じるが、かかるハロゲン化水素が共存するガス条件下において、チタン酸化物は、他の担体、例えば、シリカやアルミナより触媒(c)の酸化能を高く維持することができる。さらに、チタン酸化物は、耐酸性にも優れ、使用環境下での寿命も長いという特徴を有する。
【0060】
上記本発明で用いるチタン酸化物としては、ルチル型やアナタース型、あるいは非晶質のものを用いることができるが、好ましくは、アナタース型である。
【0061】
上記触媒(c)は、形状についても特に制限はなく、球状や円柱状等のペレット状、円筒状、ハニカム状、波板状、網状等の所望の形状に成型して使用できる。より好ましくは、ペレット状が望ましい。ペレット状触媒では、ハニカム状触媒よりも圧力損失は増加するが、ガスと触媒上活性点との接触効率が高くなることで反応効率が増し、結果的に使用するパラジウム量を減らすことができる。
【0062】
また、前記触媒(c)担体のBET比表面積の値についても特に限定されないが、好ましくは10〜200m/gであり、更に好ましくは30〜150m/gである。
【0063】
上記触媒(c)に含有される金属Pd(パラジウム)量は、触媒(c)全体の質量に対して、0.01〜5質量%、好ましくは0.01〜3質量%、より好ましくは0.05〜2質量%である。
前記パラジウムの含有量は、上記下限より少ない場合、酸化が不十分となる。また、パラジウムの含有量は、多いほうが酸化性能が良好となるが、上記上限を超えて多くしても酸化能の向上がさほど望めず、経済的に不利である。
【0064】
また、担体上に担持されたPdの深さ方向の分布としては、均一担持、外層担持、内層担持、中心担持のどの様式でも特に制限はされないが、好ましくは、外層担持である。本反応は、触媒の表面上において特に反応速度が大きいので、Pdをチタン酸化物の外層に担持することで、その酸化性能を少量で最大限に引き出すことが可能になる。
【0065】
本発明における前記触媒(c)を担体に担持する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば含浸法等の一般的に用いられる方法が使用でき、硝酸パラジウム溶液等の硝酸塩、塩化パラジウム溶液等の塩化物、その他アンモニウム塩溶液等を用いて、チタニア担体に対して所望の量を含浸、焼成し、その後種々の還元剤で塩化パラジウムを還元することで、金属Pdとすることができる。還元剤の例としては、エタノールやグリコール等のアルコール類、水素、ヒドラジン、ホルムアミド、エタノールアミン、クエン酸等が挙げられる。
【0066】
本発明の工程(C)において、触媒(c)の使用量は、用いる触媒の形状、触媒担体の種類にもよるが、通常、空間速度が3000〜30000hr−1となる量とすることが好ましい。
本発明において、工程(C)における反応温度は、300〜550℃、好ましくは350〜550℃、より好ましくは400〜550℃である。かかる反応温度の上限を550℃としているのは、前段の工程(B)における触媒(b)の温度上限を考慮しているからである。また、前記反応温度が、300℃より低い場合、一酸化炭素の酸化が不十分となる。一酸化炭素の酸化は、一般的なガス条件、即ち、ハロゲン化炭化水素やハロゲンガスが共存しない条件では、150℃程度以上で進行するとされているが、本発明の条件のような、ハロゲン化炭化水素が共存する系においては、少なくとも300℃以上の反応温度が、一酸化炭素の酸化に必要となる。
【0067】
(工程(D))
本発明において、工程(D)は、上記(C)工程より得られるガスを、チタン酸化物とタングステン酸化物を含み、且つ、貴金属を含まない触媒(d)と300〜550℃の温度範囲で接触させることを特徴とする。
【0068】
かかる工程(D)は、(A)工程処理後に微量の非ハロゲン化炭化水素が残存する場合、又は、(B)工程処理後に微量の非ハロゲン化炭化水素が副生する場合において、(C)工程にて、その非ハロゲン化炭化水素がハロゲン化されることにより発生する微量のハロゲン化脂肪族炭化水素を分解し、最終的に得られる処理ガス中のハロゲン化脂肪族炭化水素をより一層減少せしめるために有効である。
【0069】
上記工程触媒(D)で使用される触媒としては、チタン酸化物とタングステン酸化物を含み、且つ、貴金属を含まない触媒(d)が使用される。
【0070】
上記触媒(d)は、その全体の重量に対して、チタン酸化物が97〜60質量%であり、タングステン酸化物が3〜30質量%であることが好ましい。特にタングステン酸化物の含量を上記範囲とすることにより、高い耐久性と分解活性を得ることができる。
【0071】
これらチタン酸化物及びタングステン酸化物は、各々独立した酸化物の混合体として存在していてもよいし、或いは、例えば特許第3760090号に記載されているように、共沈法により調整された、チタンとタングステンとを含有する酸化物として存在してもよい。特に、後者の共沈法により調整された触媒が好ましい。
【0072】
また、触媒(d)には、酸化物としての状態であれば、チタン及びタングステン以外の金属が含まれていても良い。当該チタン及びタングステン以外の金属の酸化物としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ニオブ酸化物、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物等が挙げられる。なかでもバナジウム酸化物は、単独酸化物としても、複合酸化物としても、酸化性を示すので、成分として含まれていてもよい。しかし、バナジウム酸化物の含有量が多くなるにつれて、触媒の耐熱性が低下する傾向があるため、触媒(d)におけるバナジウム酸化物の含有量は、触媒(d)全体の質量に対して、30質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.1〜15質量%である。
【0073】
工程(D)において使用される触媒(d)の形状について特に制限はなく、ハニカム状、波板状、網状、円柱状、円筒状、球状、ペレット状等の所望の形状に成形して使用できる。より好ましくは、ガスの通過の際の圧力損失を低減するために、ハニカム状等の形状が望ましい。
【0074】
また、触媒(d)のBET比表面積は特に限定されないが、好ましくは10〜150m/gであり、更に好ましくは30〜100m/gである。
【0075】
本発明の工程(D)において、触媒(d)の使用量は、その触媒形状や、処理する排ガス中のハロゲン化脂肪族炭化水素やその他の有機物の濃度にもよるが、通常、空間速度が1500〜10000hr−1となる量とすることが好ましい。
【0076】
本発明において、工程(D)における反応温度は、300〜550℃、好ましくは350〜550℃、より好ましくは400〜550℃である。即ち、かかる反応温度が550℃より高い場合、触媒の耐熱温度上好ましくなく、触媒寿命が短くなってしまうといった問題が生じる。また、前記反応温度が、300℃より低い場合、前記ハロゲン化脂肪族炭化水素の分解が不十分となる。
【0077】
(反応方式について)
本発明の排ガス処理方法において、非ハロゲン化脂肪族炭化水素とハロゲン化脂肪族炭化水素を含む排ガスを、上述した工程における各触媒と順次接触させる必要がある。かかる接触を行うための装置は特に限定されず、公知の排ガス処理装置を適用すればよい。この場合、例えば、本発明における、工程(A)における触媒(a)と工程(B)における触媒(b)、工程(C)における触媒(c)、工程(D)における触媒(d)を、ガスの流れ方向に、同一の反応器内に順次充填したものを用いてもよいし、各々を別々の反応器に充填し、これらを直列に接続したものを用いてもよい。経済的には、それら触媒層を同一の反応器内に充填した方が、装置がコンパクトになり、放熱も少なくなるので好ましい。
【0078】
本発明の、非ハロゲン化脂肪族炭化水素およびハロゲン化脂肪族炭化水素を含む排ガスの処理方法においては、エネルギー効率の点で、工程(C)における触媒(c)の後、または、工程(D)における触媒(d)を設置した場合には、その後の被処理ガスを熱交換器と接触させて熱回収を行い、この回収熱により、工程(A)における触媒(a)との接触の前に、排ガスを予熱することが好ましい。該熱交換機としては、プレート式やシェル&チューブ型等の一般的に用いられる熱交換器を用いることができる。なお通常は、回収熱だけでは充分な予熱ができない場合が多いため、その場合には前述したようなバーナーや電気ヒーターによる予熱を併用することが必要である。
【0079】
(反応温度)
尚、本発明において、前記工程(A)を始めとする本発明の各工程における反応は、酸化反応であるため、発熱を伴いガス温度が上昇する。例えば、同一の反応器内に各触媒層を充填した場合には、工程が進むにしたがって、ガス温度が上昇する。本発明において、各工程の反応温度は、最高温度となる、触媒と接触処理後の排ガスの温度のことを示している。
【0080】
具体的には、触媒と排ガスとの接触は、それぞれの触媒によって形成された触媒層に排ガスを通過させる方法(固定床)、また、排ガスによって触媒を流動化させることによって接触させる方法(流動床)など公知の接触方法が採用されるが、かかる接触方法において、触媒層の出口を前記反応温度とする。
【0081】
(その他)
本発明において、触媒の反応温度の調整は、触媒反応器の前段にバーナーや電気ヒーター等の加熱器を用いて、任意の温度になるようにLPGやプロパン等の燃料の量、又は電力量を変化させる方法、反応器の加熱温度を調整する方法等を適宜採用することができる。通常は、任意の反応温度となるように触媒の入口温度を制御することで、好適に反応温度の調整をおこなうことができる。
【0082】
上記本発明の排ガス処理方法により、ハロゲン化脂肪族炭化水素が分解され、生成したハロゲン化水素は、公知の方法、例えば、吸収塔や吸着塔により除去した後、通常は実質的に有害な物質を含まないために、そのまま大気放出できる。但し、その他に除去が必要な物質が含まれる場合には、該物質に適した除害方法を、本発明の排ガス処理方法を適用する前あるいは後に適用し、その後に大気放出を行うことが望ましい。
【0083】
前述したように、非ハロゲン化脂肪族炭化水素やハロゲン化脂肪族炭化水素を分解する反応の多くは酸化反応であり、発熱を伴いガス温度が上昇する。工程(A)では、上記特徴を生かし、非ハロゲン化脂肪族炭化水素を優先的に酸化させることで生じる燃焼熱によりガス温度を上昇させ、その温度上昇分を、工程(B)でハロゲン化脂肪族炭化水素の分解に必要な温度まで昇温させる手段として、有効に活用するという狙いがある。これにより結局、触媒反応器の入口温度を下げることが可能となり、排ガスを所定の温度まで昇温させるための燃料の消費量を低減することができるという大きな利点がある。
【0084】
本発明において、ハロゲン化脂肪族炭化水素を触媒により分解すると、ハロゲン化水素が発生し、300℃以上の高温という反応条件も組み合わせることから、ダイオキシン類が合成される場合がある。ダイオキシン類の合成は、ガス中にハロゲン化水素が比較的多く共存する条件下では、高温のガス(300℃以上)が通過する配管途中でも起こり得る。そのような合成を防ぐために、本発明における工程(C)或いは(D)の後に熱交換器を設置、ガスを急冷することは、ダイオキシン類生成の抑制に対して、極めて有効である。更に、その熱交換器による排ガスの急冷に加え、常温の大気や窒素ガス等を追加導入し、排ガスを冷却することで、ダイオキシン類の生成をより抑制することができる。
【0085】
分解後のガス中に含まれるダイオキシン類濃度を更に低減する場合には、ダイオキシン類を分解する工程を、本発明における工程(C)または(D)の後に設置することが有効である。ダイオキシンの分解は、公知の方法により行うことができ、その処理方法の一つとして、触媒を用いて、酸化分解する方法がある。その触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウムなどの貴金属やバナジウム、タングステン、モリブデン、マンガン、銅などの金属酸化物を活性成分とし、酸化チタン、アルミナ、シリカ、ジルコニア、ゼオライト、活性炭などを担体とする触媒、また、酸化バナジウム(V)−酸化チタン(TiO)系触媒があり、更に、TiO−V系触媒にWOやMoOを添加した触媒が高活性で、耐久性のある触媒として実用化されている。
【0086】
例えば、TiO−V−WO触媒を用いる場合の反応温度条件としては、ダイオキシン類の再合成や触媒への熱的負荷を低減するため、150〜350℃の範囲で触媒と接触させるのが好ましい。また、その触媒の使用量は、用いる触媒の形状にもよるが、空間速度が1000〜5000hr−1程度となる量とすることが好ましい。
ダイオキシン類を分解するための工程は、前述したように、上記工程(C)或いは工程(D)の触媒と接触させた直後に行ってもよいし、それら工程の後に、熱交換器を設け入口ガスと熱交換させ、排ガスを冷却させた後に実施しても構わない。
【0087】
本発明において、ダイオキシン類は、通常1〜10ng−TEQ/Nm程度含まれているが、上述したダイオキシン類分解触媒に接触させることにより、0.002ng−TEQ/Nm程度まで分解することができる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を更に具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
尚、各実験例において、EDC、VCM、クロロホルム、エチレンの各濃度は、ガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製、商品名:GC2014、検出器:FID)で分析した。一酸化炭素濃度は、検知管式気体測定器(株式会社ガステック製)に、ガス検知管No.1M及びNo.1La、No.1LL(株式会社ガステック製)を、対象ガスの濃度に合わせて適宜選択し、分析を行った。又、塩素濃度についても、一酸化炭素と同様の検知管式気体測定器を用い、ガス検知管No.8La及びNo.8H、No.8HH(株式会社ガステック製)を適宜選択し、分析を行った。
【0090】
なお、ガスクロマトグラフによる、EDC及びクロロホルム濃度の検出下限は1ppm、VCMの検出下限は5ppmであった。ガス検知管による一酸化炭素濃度の検出下限は5ppm、又、塩素濃度の検出下限は0.5ppmであり、これら検出下限値以下であった場合には「N.D.」と表記した。
【0091】
(実施例1)
エチレン、EDC、VCM、クロロホルムを含む排ガス600Nm/hを、以下に示す工程(A)〜(C)の触媒(a)〜(c)の三つの触媒層を縦方向に順次配置した反応塔に通過させ、処理実験を行った。それら触媒層は、同一の反応塔内に配置した。排ガスは上部から下部に通過させ、上部から触媒(a)、(b)、(c)の順で各触媒層を充填した。
【0092】
工程(A)の触媒(a)として、球状φ2〜4mmで、0.5質量%の金属Pt(白金)をTiO担体に外層担持した触媒を、縦450mm×横450mmの触媒層部に20kg充填したものを用いた。
工程(B)の触媒(b)としては、共沈法で調整された、ピッチ3.3mmのハニカム状で縦450mm×横450mm×高さ1000mmに成形された、貴金属元素を含まないTiO−WO複合酸化物よりなる触媒を用いた。また、触媒(b)の組成は、TiOが84質量%、WOが16質量%である。
【0093】
また、工程(C)の触媒(c)としては、球状φ2〜4mmで、0.5質量%の金属PdをTiO担体に外層担持した触媒を、縦525mm×横525mmの触媒層部に40kg充填したものを用いた。
【0094】
上記触媒層(a)〜(c)を配置した反応塔に、空気中にエチレン:2×10ppm、EDC:5×10ppm、VCM:5×102ppm、クロロホルム:3×10ppmを含む排ガスを、工程(A)の入口温度が325℃となるように供給し、各触媒層の出口温度は、表1に示すようにして反応を行った。
【0095】
尚、触媒(a)へ通過させる前の排ガス中の水分量は、2vol%程度である。
【0096】
各工程後のガス中のEDC、VCM、クロロホルム、エチレン、一酸化炭素、塩素濃度について、それぞれ分析した。結果を表1に纏めて示す。
【0097】
(実施例2)
工程(A)〜(C)の後に、工程(D)を行った以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。上記工程(D)の触媒(d)としては、ピッチ3.3mmのハニカム状で縦450mm×横450mm×高さ1000mmのTiO−WO触媒を用いた。
【0098】
尚、触媒(d)の組成は、TiOが84質量%、WOが16質量%である。結果を表1に纏めて示す。
【0099】
(実施例3)
工程(A)の触媒(a)として、球状φ2〜4mmで、0.5質量%の金属Pd(パラジウム)をTiO担体に外層担持した触媒を、縦450mm×横450mmの触媒層部に50kg充填したものを用いた以外は、実施例2と同様の条件で実験を行った。結果を表1に纏めて示す。
【0100】
(比較例1)
工程(A)を行わないこと、そして、工程(B)の入口温度を350℃とした以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。結果を表1に纏めて示す。
【0101】
(比較例2)
工程(C)で用いる触媒として、球状φ2〜4mmで、0.5質量%の金属Pt(白金)をTiO担体に外層担持した触媒を、縦525mm×横525mmの触媒層部に40kg充填したものを用いた以外は、比較例1と同様の条件で実験を行った。結果を表1に纏めて示す。
【0102】
(比較例3)
工程(A)の入口温度を375℃とした以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。結果を表1に纏めて示す。
【0103】
【表1】

【0104】
(実施例4)
排ガスを工程(A)〜(C)の触媒(a)〜(c)の三つの触媒層を順次配置した反応塔に通過させた後、熱回収率50%の熱交換器を通過させ、入口ガスと熱交換を行うことで冷却した後、ダイオキシン類分解用の触媒を配置した反応塔(A)を設け、該反応塔(A)の入口温度が250℃となるように排ガスを加熱して供給した以外、実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0105】
尚、ダイオキシン類分解用の触媒としては、ピッチ3.3mmのハニカム状で縦450mm×横450mm×高さ500mmのTiO−V−WO複合酸化物よりなる触媒を用いた。
【0106】
尚、ダイオキシン類分解用触媒の組成は、TiOが79質量%、WOが17質量%、Vが4質量%であった。
【0107】
反応塔(A)前後でのガス中のダイオキシン類濃度の測定結果を表2に示す。
【0108】
(実施例5)
排ガスを工程(A)〜(C)の触媒(a)〜(c)の三つの触媒層を順次配置した反応塔に通過させた後、熱回収率50%の熱交換器を通過させ、入口ガスと熱交換を行うことで冷却した後、ファンで空気を約140Nm/h系内に導入することで、ガスを更に冷却し、ダイオキシン類分解用の触媒を配置した反応塔(A)を設け、該反応塔(A)の入口温度が約200℃となるように調整した以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。このファンでの空気の導入により、反応塔(A)へのガスの流入量は、約740Nm/hとなる。
【0109】
反応塔(A)前後でのガス中のダイオキシン類濃度の測定結果を表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
(実施例6)
空気中にエチレン:7×102ppm、EDC:1×10ppm、VCM:2×102ppm、クロロホルム:8×102ppmを含む排ガスを、工程(A)の入口温度が290℃となるように供給した以外は実施例1と同様にして、エチレン、EDC、VCM、クロロホルムを含む排ガスの処理を行った。実施例1と同様の測定項目について、測定した結果を表3に併せて示す。
【0112】
(実施例7)
空気中にエチレン:5×102ppm、EDC:7×10ppm、VCM:6×102ppm、クロロホルム:4×103ppmを含む排ガスを、工程(A)の入口温度が280℃となるように供給した以外は実施例1と同様にして、エチレン、EDC、VCM、クロロホルムを含む排ガスの処理を行った。実施例1と同様の測定項目について、測定した結果を表3に併せて示す。
【0113】
(実施例8)
空気中にエチレン:2×103ppm、EDC:8×10ppm、VCM:8×102ppm、クロロホルム:5×103ppmを含む排ガスを、工程(A)の入口温度が310℃となるように供給した以外は実施例2と同様にして、エチレン、EDC、VCM、クロロホルムを含む排ガスの処理を行った。実施例2と同様の測定項目について、測定した結果を表3に併せて示す。
【0114】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ハロゲン化脂肪族炭化水素およびハロゲン化脂肪族炭化水素を含む排ガスを、以下の(A)〜(C)の工程を含む方法によって処理することを特徴とする排ガス処理方法。
(A)前記排ガスを、白金および/またはパラジウムの金属またはその酸化物を含む触媒(a)と275〜475℃の温度範囲で接触させる工程、
(B)上記(A)工程より得られるガスを、チタン酸化物とタングステン酸化物とを含み、且つ、貴金属を含まない触媒(b)と300〜550℃の温度範囲で接触させる工程、
及び
(C)上記(B)工程より得られるガスを、パラジウム金属またはその酸化物を含む触媒(c)と300〜550℃の温度範囲で接触させる工程。
【請求項2】
非ハロゲン化脂肪族炭化水素の炭素数が、1から4であることを特徴とする請求項1記載の排ガスの処理方法。
【請求項3】
前記触媒(b)が、さらにバナジウム酸化物を含む触媒である請求項1、2記載の排ガス処理方法。
【請求項4】
上記(C)工程より得られるガスを、更に下記(D)工程により処理することを特徴とする請求項1〜3記載の排ガスの処理方法。
(D)チタン酸化物とタングステン酸化物とを含み、且つ、貴金属を含まない触媒(d)と300〜550℃の温度範囲となるように接触させる工程。

【公開番号】特開2011−83731(P2011−83731A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239709(P2009−239709)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】