説明

ハンドドリル

【課題】被穿孔物に穿孔する際に生じるデラミネーションを抑制することができるとともに、小型化することができるハンドドリルを提供することである。
【解決手段】ハンドドリル1は、ベース部材2と、ダンパー3と、ドリル本体4と、ドリル刃5とを有する。ベース部材2は、被穿孔物に当接させる当接面6Aを有し、ドリルブッシュ8を備える。ダンパー3は、ピストンロッド31と、シリンダ32とを備え、自己の軸方向に沿って伸縮する。ピストンロッド31の先端部は、ベース部材2に固定される。ドリル本体4は、シリンダ32に固定され、シリンダ32とともに変位する。ドリル刃5は、ドリル本体4にダンパー3の軸方向と略平行に取り付けられる。また、ドリル刃5の先端は、ダンパー3が伸長した状態において、ドリルブッシュ8の先端に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドドリルに関し、特にドリル刃の送り速度を制御するためのダンパーを有するハンドドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハンドドリルに固定された2つのガイドロッドのそれぞれにダンパーを設けてドリル刃の送り速度を制御することによって、被穿孔物に穿孔する際に生じるデラミネーションを抑制することが開示されている。具体的には、各ガイドロッドは、ドリル刃の送り方向に沿って伸縮自在に構成され、その伸縮速度は、ダンパーによって制御される。各ガイドロッドの先端は、1枚の当接プレートに固定されている。この当接プレートには、ドリル刃を通過させるための貫通孔が形成されている。被穿孔物に穿孔する際には、当接プレートを被穿孔物に当接させた状態において、ハンドドリルを当接プレートに向かって押し込む。これによって、ドリル刃は、貫通孔を介して突出し、被穿孔物に穿孔する。この際、ハンドドリルは、各ガイドロッドに固定されているので、各ガイドロッドとともに変位する。したがって、ドリル刃の送り速度は、各ガイドロッドに設けられたダンパーによって制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−149432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ハンドドリルには、2つのガイドロッドが取り付けられているので、装置全体が大型化するという問題がある。これに対して、ガイドロッドを1つにすることによって、装置全体の小型化を図る場合には、当接プレートと、ガイドロッドとを1点で固定しなければならいないので、当接プレートの貫通孔に対するドリル刃の位置決めが困難になるという問題がある。また、当接プレートと、ガイドロッドとの固定方法によっては、ガイドロッドの軸を中心に当接プレートが回転するという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、被穿孔物に穿孔する際に生じるデラミネーションを抑制することができるとともに、小型化することができるハンドドリルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決すべく、本発明は、ベース部材と、ダンパーと、ドリル本体と、ドリル刃とを有するハンドドリルを提供する。ベース部材は、被穿孔物に当接させる当接面と、当接面まで貫通して形成された貫通部とを有する。ダンパーは、ベース部材に先端部が固定されたピストンロッドと、ピストンロッドを進退自在に支持するシリンダとを備え、自己の軸方向に沿って伸縮する。ドリル本体は、シリンダに固定され、シリンダとともに変位する。ドリル刃は、ドリル本体にダンパーの軸方向と略平行に取り付けられるとともに、ダンパーが伸長した状態において、貫通部に挿入される。
【0007】
ここで、本発明において、貫通部は、ドリル刃と滑合することが好ましい。また、貫通部は、ドリル刃をガイドするドリルブッシュをベース部材に固定することによって形成され、ドリルブッシュの先端部は、当接面から突出することが好ましい。さらに、ドリル刃の先端は、ダンパーが伸長した状態において、貫通部の開口端に位置することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ドリル本体は、シリンダに固定されているので、シリンダとともに変位する。ピストンロッドの先端部は、ベース部材に固定されているので、ベース部材の当接面を被穿孔物に当接させた状態において、ドリル本体をベース部材に向かって押し込むことによって、ドリル刃の送り速度を制御することができる。したがって、被穿孔物に穿孔する際に生じるデラミネーションを抑制することができる。また、ドリル刃は、ダンパーが伸長した状態において、ベース部材の貫通部に挿入されているので、ドリル刃の位置決めをする必要がない。さらに、ダンパーを1つにした場合において、ダンパーの軸を中心とするベース部材の回転をドリル刃によって規制することができるので、2つのガイドロッドを必要とする特許文献1に記載の発明と比較してハンドドリルを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るハンドドリルの外観模式図
【図2】プレートをドリル本体側から見た外観図
【図3】ドリルブッシュをプレートに固定した状態をドリル本体側から見た外観図
【図4】ベース部材を当接面側から見た外観図
【図5】コネクタをドリル本体側から見た外観図
【図6】ハンドドリルを用いて被穿孔物を穿孔するときの説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るハンドドリルの外観模式図である。ハンドドリル1は、ベース部材2と、ダンパー3と、ドリル本体4と、ドリル刃5とを有する。図1では、後に詳述するベース部材2の近傍を断面図で示し、それ以外の部分を外観図で示している。ダンパー3は、ピストンロッド31と、シリンダ32とを備える。ピストンロッド31は、先端部がベース部材2に固定される。シリンダ32は、ピストンロッド31を内部に収納するとともに、ピストンロッド31をダンパー3の軸方向に沿って進退自在に支持する。すなわち、ダンパー3は、自己の軸方向に沿って伸縮し、伸縮方向に作用する外力への抵抗として機能する。なお、図1は、ダンパー3が伸長した状態を示す図である。以下の図面においても同様である。
【0011】
ドリル本体4は、作業者の手によって把持される把持部41を有し、この把持部41に設けられたボタン42を押下することによって、ドリル刃5を軸周りに回転させる電動ハンドドリルである。このドリル本体4は、2本のバンド4Aによって、矩形板状に形成された2枚のスペーサ4B,4Cを介してシリンダ32に固定される。スペーサ4Bは、ダンパー3と当接する面にダンパー3の外周面に対応する凹部を有する。スペーサ4Cは、ドリル本体4と当接する面にドリル本体4の外周面に対応する凹部を有する。そして、各スペーサ4B,4Cの厚さを調整することによって、ダンパー3と、ドリル本体4との間隔を調整することができる。ドリル刃5は、ドリル本体4にダンパー3の軸方向と略平行に取り付けられる。
【0012】
ベース部材2は、プレート6と、コネクタ7と、ドリルブッシュ8とを備える。プレート6は、被穿孔物(図示略)に当接する当接面6Aを有する。コネクタ7は、2本のネジ7Aによってプレート6に固定され、ピストンロッド31の先端部と接続する。ドリルブッシュ8は、円筒状のライナーブッシュ8Aを介してプレート6に固定される。
【0013】
図2は、プレート6をドリル本体4側から見た外観図である。プレート6は、径方向の外側に向かって突出する突出部を有する円盤状に形成される。この突出部には、2つのネジ穴61が形成される。各ネジ穴61には、コネクタ7を固定するための各ネジ7Aが挿入される(図1参照)。プレート6の中心には、ライナーブッシュ8Aを圧入するための貫通孔62が形成される。この貫通孔62の近傍には、ネジ穴63が形成される。
【0014】
図3は、ドリルブッシュ8をプレート6に固定した状態をドリル本体4側から見た外観図である。貫通部としてのドリルブッシュ8は、略円筒状に形成され、その先端部をライナーブッシュ8Aの内部に差し込むことによって固定される(図1参照)。ドリルブッシュ8の基端部は、先端部よりも大きい外径を有している。基端部の外周面には、切欠きが形成されている。この切欠きは、ネジ穴63に螺合された止めネジ8Bと当接することによって、ドリルブッシュ8の回転(図3における時計回りの回転)及びドリル本体4側への浮き上がりを規制する。
【0015】
図4は、ベース部材2を当接面6A側から見た外観図である。ドリルブッシュ8は、ドリル刃5と滑合する内径を有し、ドリル刃5をガイドする。ここで、滑合とは、2つの部材が滑り合うことをいう。具体的には、ドリルブッシュ8の内径は、ドリル刃5の外径よりも僅かに大きく設計されている。また、ドリルブッシュ8の先端部は、当接面6Aから突出する。ドリル刃5の先端は、ダンパー3が伸長した状態において、ドリルブッシュ8の先端(開口端)に位置する。
【0016】
図5は、コネクタ7をドリル本体4側から見た外観図である。コネクタ7は、プレート6に固定するための固定部71と、ピストンロッド31の先端部と接続するための接続部72とを有する矩形板状に形成される。固定部71には、2つのネジ穴71Aが形成される。このネジ穴71Aには、プレート6のネジ穴61を介してネジ7Aが螺合される。これによって、コネクタ7は、プレート6に固定される。接続部72は、表裏面を貫通する貫通孔72Aと、図3における上側の側面から貫通孔72Aまで長手方向に沿って略直線状に切り欠かれた切欠部72Bと、短手方向に沿って切欠部72Bの両側に形成されたネジ穴72Cとを有する。この接続部72は、ネジ穴72Cにネジ73(図4参照)を螺合して締め付けることによって、切欠部72Bの幅を調整することができ、ひいては貫通孔72Aの内径を拡縮させることができる。ピストンロッド31は、その先端部を貫通孔72Aに挿入し、その先端をプレート6に当接させた状態において、ネジ73を締め付けることによって、ベース部材2に固定される。
【0017】
図6は、ハンドドリル1を用いて被穿孔物を穿孔するときの説明図である。型板9は、ドリルブッシュ8と嵌合する内径に形成された複数の貫通孔91を有する。各貫通孔91は、被穿孔物Wを穿孔すべき位置に対応して形成されている。ハンドドリル1を用いて被穿孔物Wを穿孔するときには、この型板9を被穿孔物Wに併せた状態で行う。まず、ドリルブッシュ8の先端部を貫通孔91に嵌合させるとともに、ベース部材2の当接面6Aを型板9に当接させる。次に、ボタン42を押下することによってドリル刃5を回転させてドリル本体4をベース部材2に押し込む。これによって、ドリル刃5は、ドリルブッシュ8から突出し、被穿孔物Wに穿孔する。この際、ドリル本体4は、シリンダ32に固定されているので、シリンダ32とともに変位する。したがって、ドリル刃5の送り速度はダンパー3によって制御される。
【0018】
ここで、ドリル刃5の先端は、ダンパー3が伸長した状態において、ドリルブッシュ8の先端に位置するので、ドリル刃5の先端がドリルブッシュ8の内部に位置する場合と比較して、被穿孔物Wに穿孔するときのドリル本体4の押し込み量を小さくすることができる。
【0019】
このように、本実施形態によれば、ベース部材2の当接面6Aを被穿孔物Wに当接させた状態において、ドリル本体4をベース部材2に向かって押し込むことによって、ドリル刃5の送り速度を制御することができる。したがって、被穿孔物Wに穿孔する際に生じるデラミネーションを抑制することができる。また、ドリル刃5は、ダンパー3が伸長した状態において、ベース部材2のドリルブッシュ8に挿入されているので、ドリル刃5の位置決めをする必要がない。さらに、ダンパー3の軸を中心とするベース部材2の回転をドリル刃5によって規制することができるので、2つのガイドロッドを必要とする特許文献1に記載の発明と比較してハンドドリル1を小型化することができる。
【0020】
また、一般的には、ハンドドリルを用いて被穿孔物を穿孔するときには、ドリルブッシュを型板の貫通孔に予め嵌合させた状態において、ドリル刃をドリルブッシュの内部に挿入することによって行う。このため、ドリル刃は、ドリルブッシュに接触して欠けてしまう場合があるという問題がある。これに対して、本実施形態では、ドリル刃5は、予めドリルブッシュ8に挿入されているので、このような問題は生じない。
【0021】
なお、上述した実施形態では、ドリルブッシュ8は、ドリル刃5と滑合する内径を有していたが、ドリル刃と滑合する内径を有していなくてもよい。ドリルブッシュは、ドリル刃の外径よりも大きい径を有していればよい。また、ドリルブッシュ8の先端部は、当接面6Aから突出していたが、突出していなくてもよい。
【0022】
また、上述した実施形態では、貫通部は、ドリルブッシュ8をプレート6に固定することによって形成されていたが、例えば、ベース部材に形成された貫通孔としてもよい。貫通部は、当接面まで貫通してベース部材に形成されていればよい。
【0023】
また、上述した実施形態では、ドリル刃5の先端は、ダンパー3が伸長した状態において、ドリルブッシュ8の先端に位置していたが、ドリルブッシュ8の内部に位置していてもよい。ドリル刃は、ダンパーが伸長した状態において、貫通部に挿入されていればよい。
【0024】
また、上述した実施形態では、ベース部材と、ダンパーと、ドリル本体と、ドリル刃とは、別体として構成されていたが、一体として構成されていてもよい。さらに、ドリル本体4として電動ハンドドリルを例示したが、ドリル本体として手動ハンドドリルを採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上のように、本発明は、ドリル刃の送り速度を制御するためのダンパーを有するハンドドリルに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 ハンドドリル
2 ベース部材
3 ダンパー
4 ドリル本体
4A バンド
4B,4C スペーサ
5 ドリル刃
6 プレート
6A 当接面
7 コネクタ
7A ネジ
8 ドリルブッシュ
8A ライナーブッシュ
8B 止めネジ
9 型板
31 ピストンロッド
32 シリンダ
41 把持部
42 ボタン
61 ネジ穴
62 貫通孔
71 固定部
71A ネジ穴
72 接続部
72A 貫通孔
72B 切欠部
72C ネジ穴
73 ネジ
91 貫通孔
W 被穿孔物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドドリルにおいて、
被穿孔物に当接させる当接面と、前記当接面まで貫通して形成された貫通部とを有するベース部材と、
前記ベース部材に先端部が固定されたピストンロッドと、前記ピストンロッドを進退自在に支持するシリンダとを備え、自己の軸方向に沿って伸縮するダンパーと、
前記シリンダに固定され、前記シリンダとともに変位するドリル本体と、
前記ドリル本体に前記ダンパーの軸方向と略平行に取り付けられるとともに、前記ダンパーが伸長した状態において、前記貫通部に挿入されたドリル刃とを有することを特徴とするハンドドリル。
【請求項2】
前記貫通部は、前記ドリル刃と滑合することを特徴とする請求項1に記載されたハンドドリル。
【請求項3】
前記貫通部は、前記ドリル刃をガイドするドリルブッシュを前記ベース部材に固定することによって形成され、
前記ドリルブッシュの先端部は、前記当接面から突出することを特徴とする請求項1または2に記載されたハンドドリル。
【請求項4】
前記ドリル刃の先端は、前記ダンパーが伸長した状態において、前記貫通部の開口端に位置することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載されたハンドドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−121089(P2012−121089A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272829(P2010−272829)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】