説明

ハンマーシャンク、及び、その製造方法

【課題】 軽くて型崩れしないハンマーシャンクを提供する。
【解決手段】 ハンマーシャンク31は、シャンクフレンジ30との接続部分であるフレンジ部31bに合成樹脂が含浸されているため、フレンジ部31bが水分を吸収して膨張することが防止される。そのため、このハンマーシャンク31を用いれば、フレンジ部31b、とりわけ腕部31cの膨張・変形により、配置部30aとの間などで、ハンマーシャンク31とシャンクフレンジ30との摩擦が大きくなって、ハンマー3が回動し難くなることが防止される。また、ハンマーシャンク31全体を合成樹脂で構成した場合に比べ、飛躍的に重量を軽くすることが可能となる。その結果、このハンマーシャンクを用いれば、押鍵から打弦までのレスポンスが遅くなることを確実に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアノに組み込まれるハンマーシャンク、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピアノのハンマーシャンク100は、図5に示すように、略棒状に形成され、その長手方向の一端側が他の部分(シャンク棒部101)よりも厚手に形成されている。そして、この厚手に形成された部分(フランジ部102)の端部には、二股に分かれた腕部103が形成されている。また、このハンマーシャンク100は、腕部103が形成された側とは反対側の長手方向の端部にハンマーヘッドが取り付けられている。
【0003】
そして、このハンマーシャンク100は、ピアノ本体に固定されたシャンクフレンジ200の長手方向の先端に形成された配置部201を腕部103で挟み、この腕部103及び配置部201にピン104を通すことで、シャンクフレンジ200に対して回動可能に固定されている。
【0004】
ピアノでは、押鍵されると、図示しないアクションを介して上述したハンマーシャンク100が持ち上げられる。このときハンマーシャンク100は、シャンクフレンジ200に対して回動しながら持ち上げられる。そして、この回動によってハンマーヘッドが上方に向かって移動し、ハンマーヘッドの上方にあるピアノ線を打弦し、この打弦されたピアノ線が響板を響かせて音が出る構造となっている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−242427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ピアノは多くの部材が木材で構成されており、上述したハンマーシャンク100も木材で構成されることが多い。
【0007】
しかし、木製のハンマーシャンク100は、腕部103が水分を吸うなどして膨張・変形等の型崩れをすると、腕部103と、シャンクフレンジ200の配置部201との間の摩擦が大きくなってしまうことがある。
【0008】
そして、このように摩擦が大きくなると、押鍵からハンマーヘッドがピアノ線を叩く打弦までのレスポンスタイムが遅くなってしまうという問題があった。
【0009】
そのため、ハンマーシャンク100を木材ではなく、型崩れの問題が木材に比べて少ない合成樹脂で構成することも考えられた。
【0010】
しかし、ハンマーシャンク100を合成樹脂で構成すると、ハンマーシャンク100を木材で構成した場合に比べ重くなってしまうため、押鍵から打弦までのレスポンスタイムが遅くなってしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、上記点に鑑み、軽くて型崩れしないハンマーシャンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した問題を解決するためになされた発明である請求項1に記載のハンマーシャンクは、二股に分かれた腕部を有するフレンジ部が長手方向の一端に形成された、ピアノ用の木製のハンマーシャンクであって、前記フレンジ部に合成樹脂が含浸されていることを特徴とする。
【0013】
この木製のハンマーシャンクは、シャンクフレンジとの接続部分であるフレンジ部に合成樹脂を含浸させているため、このフレンジ部分が水分を吸収して膨張・変形するなどして型崩れすることを防止することができる。そのため、このハンマーシャンクを用いれば、シャンクフレンジとの間の摩擦が、この型崩れによって大きくなることはない。
【0014】
また、このハンマーシャンクは、合成樹脂を含浸させているものの体積の多くは木材なので、ハンマーシャンク全体を合成樹脂で構成した場合に比べてはるかに軽いものとなっている。しかも、このハンマーシャンクは、一部(フレンジ部)にしか合成樹脂を含浸させていないので、樹脂を含浸させていない木製のハンマーシャンクに対する重量の増加は、ハンマーシャンク全体を合成樹脂で構成した場合に比べて、わずかである。
【0015】
従って、本発明のハンマーシャンクを用いれば、軽くて型崩れしないので、ハンマーシャンクとシャンクフレンジとの間の摩擦や、ハンマーシャンクの重量増加による、押鍵から打弦までのレスポンスの遅れを防止することができる。
【0016】
尚、ハンマーシャンクは、略同径の棒状に形成されていてもよいが、請求項2に記載されたハンマーシャンクのように、シャンク棒部の長手方向の一端にフレンジ部が形成され、フレンジ部は、各腕部の並び方向にシャンク棒部より厚手に形成されていてもよい。
【0017】
次に、請求項3に示したように、上述したハンマーシャンクは、以下の製造方法により製造することが好ましい。
【0018】
その製造方法は、二股に分かれた腕部が一辺に沿って形成され、この一辺に対して直交する方向に沿って切断すると複数のハンマーシャンクを切り出し可能な木製のハンマーシャンク材を準備する準備工程と、ハンマーシャンク材のうち、切り出されたときにフレンジ部を形成するフレンジ部相当部分を除くコート部分を目止めする目止工程と、フレンジ部相当部分に合成樹脂を含浸する含浸工程と、コート部分の目止めを除去する目止除去工程と、ハンマーシャンク材を切断して、複数のハンマーシャンクを切り出す切出工程とを有するものであることが好ましい。
【0019】
この製造方法によれば、上述したハンマーシャンクを非常に簡素化された工数で複数製造することができる。
【0020】
尚、請求項4に記載したように、目止工程では、シーラー剤をコート部分に塗布し、目止除去工程では、コート部分に塗布したシーラー剤を削り加工により除去するようにするとよい。このようにすると、確実に目止めを行って、フレンジ部分だけに合成樹脂を含浸させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態のアクション2及びハンマー3の側面図である。
【図2】本実施形態のハンマー3の斜視図である。
【図3】本実施形態のハンマーシャンク31をシャンクフレンジ30に揺動可能に取り付けるための構造を示す分解斜視図である。
【図4】本実施形態のハンマーシャンク材5の斜視図を用い、ハンマーシャンク31の製造工程の一部を順に示すもので、(a)は準備工程、(b)は目止工程、(c)は含浸工程、(d)は目止除去工程、(e)は切出工程を説明する説明図である。
【図5】従来のハンマーシャンクをシャンクフレンジに揺動可能に取り付けるための構造を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明が適用された実施形態を図面と共に説明する。
【0023】
[全体構造]
グランドピアノのうち、演奏者の押鍵操作により各音階のピアノ線を打弦する部分の全体構想について説明する。
【0024】
ここで図1は、アクション2及びハンマー3の側面図である。
【0025】
グランドピアノは、演奏者から見て左右方向に並んだ多数の鍵で構成された鍵盤を備えている。この鍵盤の各鍵は、演奏者の前後方向に沿って延設され、その長手方向の略中央で棚板上の筬に立設されたバランスピンを中心として、揺動可能に支持されている。
【0026】
アクション2は、図1に示すように、鍵1の揺動中心よりも前方側の部分の上方に設置され、そして、ハンマー3は、このアクション2のさらに上方に設置されている。
【0027】
これらアクション2及びハンマー3はそれぞれ揺動可能に構成され、鍵1の後方側が押鍵されると前方側が持ち上がってアクション2を持ち上げ、さらにハンマー3を持ち上げて上方に向かって跳躍させ、ハンマー3の上方に架線されたピアノ線からなる弦Sを打弦する構造となっている。
【0028】
以下、このように構成されたアクション2及びハンマー3について詳細に説明する。
【0029】
尚、以下の説明では、左右方向、前後方向という用語を用いることがあるが、これらはそれぞれグランドピアノの演奏者からみた左右方向(図1の紙面に垂直な方向:図1では左方向を向く矢印で示している)、及び、この演奏者の前後方向(図1の紙面の左右方向:図1では左右両方向を指す矢印で示している)を意味する。
【0030】
[アクション2]
アクション2は、ウィッペン20、ジャック21およびレペティションレバー22を主に備えている。
【0031】
ウィッペン20は、前後方向に沿って延設され、前方側の端部がウィッペンフレンジ20aに回動可能に支持されている。
【0032】
このウィッペンフレンジ20aは、上下方向に沿って延設され、左右方向に間隔を隔てて配置された複数のブラケット10(図1では1つのみ図示)に渡されたウイッペンレール11にねじ止めされている。
【0033】
また、このウィッペンフレンジ20aには、その上端部に、二股状の左右2つの腕部20b(図1では左側のもののみ図示)が設けられている。
【0034】
ウィッペン20は、その前端部を両腕部20b間に挿入し、これらウィッペン20の前端部と両腕部20bにセンターピン20cを水平に通すことで、このセンターピン20cを中心として、ウィッペンフレンジ20aに対し揺動可能に支持される。
【0035】
また、ウィッペン20は、前後方向の中央部に、下方に突出するヒール部20dを備えている。ウィッペン20は、このヒール部20d、及び、鍵1の後部に設けられたキャプスタンスクリュー1aを介して、鍵1上に載置されている。
【0036】
また、ウィッペン20は、後端部に、ジャック21が接続されている。
【0037】
ジャック21は、上下方向に延びるハンマー突上げ部21aと、その下端部から前方にほぼ直角に延びるレギュレーティングボタン当接部21bとにより、側面形状がL字状に形成されている。
【0038】
ウィッペン20の後端部には、二股状の左右2つの腕部20f(図1では左側のもののみ図示)が設けられ、これらの両腕部20f間にジャック21の角部が配置され、これら両腕部20f及びジャック21の角部にセンターピン21cが水平に通されている。これにより、ジャック21は、センターピン21cを中心として、ウィッペン20の後端部に回動自在に支持されている。
【0039】
また、ハンマー突上げ部21aの上端部は、レペティションレバー22の後述するジャック案内孔22bに係合するとともに、レペティションレバー22上に載置された後述するシャンクローラ36と若干の間隔を存して対向している。
【0040】
さらに、ジャック21は、後述するレペティションスプリング24によって、復帰方向(図1の反時計方向)に付勢されている。
【0041】
レペティションレバー22は、斜め後ろ上がりに前後方向に延び、ウィッペン20の前後方向の中央部から上方に突出するレバーフレンジ部20eに支持されている。
【0042】
このレバーフレンジ部20eの上端部には、二股状の左右2つの腕部20g(図1では左側のもののみ図示)が設けられている。
【0043】
これらの両腕部20gの間には、レペティションレバー22の中央部が配置され、これら両腕部20g及びレペティションレバー22にセンターピン22aが水平に通されている。
【0044】
これにより、レペティションレバー22は、センターピン22aを中心として、レバーフレンジ部20eの上端部に回動自在に支持されている。
【0045】
また、レペティションレバー22は、レバーフレンジ部20eに取り付けられたレペティションスプリング24によって、復帰方向(図1の反時計方向)に付勢されている。
【0046】
さらに、レペティションレバー22には、その後部に、上下方向に貫通するジャック案内孔22bが形成され、上面のジャック案内孔22b付近に当接するシャンクローラ36を介して、ハンマー3が載置されている。
【0047】
[ハンマー3]
ハンマー3は、シャンクフレンジ30、ハンマーシャンク31、ハンマーヘッド32を主に備えている。
【0048】
ここで、図2は、ハンマー3の斜視図、図3は、ハンマーシャンク31をシャンクフレンジ30に揺動可能に取り付けるための構造を示す分解斜視図である。
【0049】
シャンクフレンジ30は、合成樹脂で構成されており、図1に示すように、複数のブラケット10の間に渡されたハンマーシャンクレール12の上面にねじ止めされている。尚、このハンマーシャンクレール12の下方には、レギュレーティングボタン4が取り付けられている。
【0050】
また、このシャンクフレンジ30は、前後方向に延び、図2に示すように、断面が矩形状に形成されている。
【0051】
シャンクフレンジ30の前端部には、ハンマーシャンク31の後述する両腕部31c間の寸法よりも若干小さい幅を有するとともに前方に突出し、両腕部31c間に配置可能な配置部30aが設けられている。
【0052】
この配置部30aには、図3に示すように、左右方向に貫通するピン取付孔30bが形成されている。また、この配置部30aの下面には、ボタン30cが設けられている(図1参照)。
【0053】
そして、配置部30aが、両腕部31c間に、それらの内側面との間に若干の隙間をもって配置された状態で、センターピン31dが、軸受31eおよびこれらの間のピン取付孔30bに通されている。
【0054】
センターピン31dは、その中央部がピン取付孔30bに固定されるとともに、両端部が軸受31eに対し回動自在になっている。
【0055】
これにより、ハンマー3は、シャンクフレンジ30と一体のセンターピン31dを介して、シャンクフレンジ30に回動自在に支持されている。
【0056】
ハンマーシャンク31は、細長い棒状の木材で構成されており、その後端部は、左右方向の幅が後述する腕部31cの並び方向に他の部分よりも厚くなっている。この幅が厚い部分をフレンジ部31b、その他の部分をシャンク棒部31aと以下呼ぶ。
【0057】
ハンマーシャンク31は、シャンクフレンジ30に取り付けられる側のフレンジ部31bの後端部に、二股状の左右2つの腕部31cが形成されている。
【0058】
これら両腕部31cは、図3に示すように、互いに左右方向に所定の間隔を隔てて対向し、後方に向かって平行に延びている。
【0059】
そして、これら各腕部31cには、左右方向に貫通したピン孔31fが形成されており、このピン孔31fに、羊毛で構成された円筒状の軸受31eが取り付けられている。
【0060】
また、フレンジ部31bには、シャンク棒部31a寄りの下面にシャンクローラ36が取り付けられている。
【0061】
そして、フレンジ部31bには、合成樹脂が含浸されている。
【0062】
[ 動作 ]
以上の構成を備えるグランドピアノでは、鍵1が押鍵されると、ウィッペン20が、キャプスタンスクリュー1aを介して突き上げられることにより、センターピン20cを中心として上方に回動するとともに、ジャック21およびレペティションレバー22も回動し、レペティションレバー22を介してシャンクローラ36を押し上げる。
【0063】
さらに回転すると、レペティションレバー22の前方側の端部がボタン30cに当って押し下げられ、レペティションレバー22がセンターピン22aを中心に回動し、ジャック21の上端がシャンクローラ36に当たって、シャンクローラ36をさらに押し上げる。
【0064】
そして、ジャック21のレギュレーティングボタン当接部21bがレギュレーティングボタン4に当接し、ジャック21がセンターピン21cを中心に回転すると、ジャック21の先端に当接しているシャンクローラ36との当接が解かれる。
【0065】
すると、このジャック21とシャンクローラ36との当接が解かれるまでに勢いがつけられたハンマー3はさらに上昇を続け、ピアノ線からなる弦Sを打弦し、それによりピアノ音が発生する。
【0066】
[ハンマーシャンク31の製造方法]
次に、ハンマーシャンク31の製造方法について説明する。
【0067】
ここで、図4は、ハンマーシャンク材5の斜視図を用い、ハンマーシャンク31の製造工程の一部を順に示すもので、(a)は準備工程、(b)は目止工程、(c)は含浸工程、(d)は目止除去工程、(e)は切出工程を説明する説明図である。
【0068】
本実施形態のハンマーシャンク31を製造するに当たっては、図4(a)に示すように、まず、ハンマーシャンク材5を準備する(準備工程)。
【0069】
このハンマーシャンク材5は、原木(本実施形態では、カバ材、カエデ材、シデ材)から切り出され、切削加工などにより略平板形状に形成されたものである。このハンマーシャンク材5は、具体的には、四辺のうち一辺に沿って二股に分かれた腕部50が形成され、この腕部50が設けられた一辺に沿って、この一辺に隣接する部分が他の部分よりも厚手に形成されている。
【0070】
尚、この厚手に形成された部分が、ハンマーシャンク材5からハンマーシャンク31が切り出されたときにフレンジ部となるので、この厚手に形成された部分を、以下フレンジ部相当部分51と呼ぶ。
【0071】
次に、図4(b)に示すように、このハンマーシャンク材5のうち、フレンジ部相当部分51を除くコート部分52を目止めする(目止工程)。この際、図4(b’)に示すように、コート部分52の前木口52aまで行き渡るように目止めを行う。この前木口の部分から後述する合成樹脂が含浸しやすいので、この含浸を確実に防止するためである。
【0072】
この目止工程は、具体的には、フレンジ部相当部分51をマスキングして、図4(b)及び図4(b’)中に右上がり斜線で示したコート部分52にシーラー剤をスプレー塗布する作業が行われる。
【0073】
次に、図4(c)に示すように、図4(c)中の右下がり斜線で示したフレンジ部相当部分51に合成樹脂を含浸する(含浸工程)。
【0074】
この含浸工程は、WPC(Wood Plastic Composite)、すなわち、木材とプラスチックスの複合材料を製造する方法によって、合成樹脂の含浸が行われる。
【0075】
具体的には、(1)注入缶にハンマーシャンク材5を入れ、樹脂液(モノマー+開始剤)を導入したときに、浮かないように設置する。
【0076】
(2)真空ポンプで空気を排気し、注入缶体内を減圧状態にする。このとき、目止めされた部分、すなわちコート部分52からは空気が抜かれた状態にならない。
【0077】
(3)減圧状態を保持した注入缶体内は樹脂液を徐々に導入し、木材を完全に浸し所定時間浸漬する。この時、コート部分52には処理液が入って行かない。
【0078】
(4)所定時間後、空気もしくは窒素ガスを導入して注入缶体内を大気圧に戻す。ハンマーシャンク材5の注入性の難易度に応じて、この後加圧と減圧を繰り返し、ハンマーシャンク材5内へ樹脂液を注入する。
【0079】
(5)徐々に解圧する。
【0080】
(6)樹脂液の揮発を防ぐため、ポリエチレン、アルミ拍でラッピングした後、50℃〜80℃の温度で加熱(プレス)する。加熱時間は0.5〜20時間である。加熱の温度と時間は用いた樹脂液及び添加した開始剤の種類によって異なる。この(6)の工程で、ハンマーシャンク材5に注入した樹脂の重合を行う。
【0081】
次に、図4(d)に示すように、コート部分52に施された目止めを除去する(目止除去工程)。
【0082】
具体的には、コート部分52に塗布したシーラー剤を削り加工により除去する。
【0083】
次に、図4(e)に示すように、ハンマーシャンク材5を切断して、複数のハンマーシャンクを切り出す(切出工程)。
【0084】
この切り出しは、具体的には、図4(e)中で一点鎖線で示したように、腕部50が形成された一辺に対して直交する方向に沿って切断して、ハンマーシャンク材5から切り出す。
【0085】
このとき、ハンマーシャンク材5からは、腕部50に相当する部分が腕部31cとなり、フレンジ部相当部分51に相当する部分がフレンジ部31b、コート部分に相当する部分がシャンク棒部31aとなるハンマーシャンク31が切り出される。
【0086】
[ 効果 ]
上述した製造方法により製造されたハンマーシャンク31は以下のような性能を有する。
【0087】
本実施形態のハンマーシャンク31は、シャンクフレンジ30との接続部分であるフレンジ部31bに合成樹脂を含浸させているため、このフレンジ部31bが水分を吸収して膨張・変形するなどして型崩れすることを防止することができる。そのため、このハンマーシャンク31を用いれば、シャンクフレンジ30との間の摩擦が、この型崩れによって大きくなることはない。
【0088】
また、このハンマーシャンク31は、合成樹脂を含浸させているものの体積の多くは木材なので、ハンマーシャンク31全体を合成樹脂で構成した場合に比べてはるかに軽いものとなっている。しかも、このハンマーシャンク31は、一部(フレンジ部31b)にしか合成樹脂を含浸させていないので、樹脂を含浸させていない木製のハンマーシャンク31に対する重量の増加は、ハンマーシャンク31全体を合成樹脂で構成した場合に比べて、わずかである。
【0089】
従って、本実施形態のハンマーシャンク31を用いれば、軽くて型崩れしないので、ハンマーシャンク31とシャンクフレンジ30との間の摩擦や、ハンマーシャンク31の重量増加による、押鍵から打弦までのレスポンスの遅れを防止することができる。
【0090】
また、本実施形態のハンマーシャンク31は、シャンク棒部31aは合成樹脂が含浸されておらず、打弦するときのしなりが失われないので、本実施形態のハンマーシャンク31を備えたピアノは、合成樹脂を含浸させない木製のハンマーシャンクを用いたピアノに比べほとんど遜色がない弾き心地を実現できる。
【0091】
尚、目止工程で用いられるシーラー剤としては、例えば、素地木材に対する付着性に優れるポリオール硬化型(2液硬化型)を用い、ロールコーター等を用いて突板の表面に塗布してもよいし、ポリウレタン樹脂系シーラー剤以外のシーラー剤を用いても良い。
【0092】
含浸工程で用いられる樹脂液のうち、モノマーとしては、重合性樹脂モノマー(重合性モノマー、オリゴマーおよび/またはプレポリマー)を使用すればよいが、ここに、重合性モノマーの例を挙げると、ビニル系モノマー、アクリル系モノマーを例示することができる。ビニル系モノマー、アクリル系モノマーの具体例としては、スチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリルなどのビニルモノマー類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル,メタクリル酸2−エチルヘキシル,メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸エチレングリコ−ル、メタクリル酸ブチレングリコ−ル、トリメタクリル酸トリメチロ−ルプロパンなどのメタクリル酸系モノマーが挙げられる。重合性オリゴマーの例としては、これら重合性モノマーの低重合体例えば分子量が100以下のオリゴマーを挙げることができる。重合性プレポリマーとして、例えば、ポリメタクリル酸メチルのようなカスティング用樹脂を部分的に重合させたプレポリマーを挙げることができる。本発明では、低コストの為には、ビニル系モノマーの量を増加させることが好ましい。各重合性モノマー、重合性オリゴマーおよび重合性プレポリマーは、一種または二種以上を使用することができる。又、当該重合性樹脂モノマーは、重合性モノマー、重合性オリゴマーおよび重合性プレポリマーから成る群から選択された一種または二種以上を使用することができる。
【0093】
含浸工程で用いられる樹脂液のうち、開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)等の過酸化物、アゾイソブチルニトリル(AIBN)等のアゾ系化合物等を挙げることができる。開始剤は、触媒量論的量で足り、通常1%以下添加すればよい。
【0094】
尚、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0095】
1…鍵、1a…キャプスタンスクリュー、2…アクション、3…ハンマー、4…レギュレーティングボタン、5…ハンマーシャンク材、10…ブラケット、11…ウイッペンレール、12…ハンマーシャンクレール、20…ウィッペン、20a…ウィッペンフレンジ、20b…腕部、20c…センターピン、20d…ヒール部、20e…レバーフレンジ部、20f…腕部、20g…腕部、21…ジャック、21a…ハンマー突上げ部、21b…レギュレーティングボタン当接部、21c…センターピン、22…レペティションレバー、22a…センターピン、22b…ジャック案内孔、24…レペティションスプリング、30…シャンクフレンジ、30a…配置部、30b…ピン取付孔、30c…ボタン、31…ハンマーシャンク、31a…シャンク棒部、31b…フレンジ部、31c…腕部、31d…センターピン、31e…軸受、31f…ピン孔、32…ハンマーヘッド、36…シャンクローラ、50…腕部、51…フレンジ部相当部分、52…コート部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二股に分かれた腕部を有するフレンジ部が長手方向の一端に形成された、ピアノ用の木製のハンマーシャンクであって、
前記フレンジ部に合成樹脂が含浸されていることを特徴とするハンマーシャンク。
【請求項2】
シャンク棒部の長手方向の一端に前記フレンジ部が形成され、
該フレンジ部は、前記各腕部の並び方向に前記シャンク棒部より厚手に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のハンマーシャンク。
【請求項3】
請求項1,2の何れか記載のハンマーシャンクの製造方法であって、
二股に分かれた前記腕部が一辺に沿って形成され、該一辺に対して直交する方向に沿って切断すると複数のハンマーシャンクを切り出し可能な木製のハンマーシャンク材を準備する準備工程と、
前記ハンマーシャンク材のうち、切り出されたときに前記フレンジ部を形成するフレンジ部相当部分を除くコート部分を目止めする目止工程と、
前記フレンジ部相当部分に合成樹脂を含浸する含浸工程と、
前記コート部分の目止めを除去する目止除去工程と、
前記ハンマーシャンク材を切断して、複数のハンマーシャンクを切り出す切出工程と
を有することを特徴とするハンマーシャンクの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のハンマーシャンクの製造方法において、
前記目止工程では、シーラー剤を前記コート部分に塗布し、
前記目止除去工程では、前記コート部分に塗布した前記シーラー剤を削り加工により除去することを特徴とするハンマーシャンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−181542(P2010−181542A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23652(P2009−23652)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)