説明

ハードディスクドライブ用キャリッジの評価装置

【課題】測定データの波形が複雑である場合であっても、キャリッジ100の振動特性を正確に評価する。
【解決手段】 キャリッジ100を、所定範囲の複数の加振周波数で順次加振する時の所定の測定ポイントの周波数、振動変位、位相を含む振動特性データを取得し、振動特性データに基づいて共振周波数を抽出し、キャリッジモデルの所定の測定ポイントに係る固有周波数、基準振動変位及び基準位相を含む1又は2以上の固有モードを参照し、これらを比較して固有周波数、基準振動変位、基準位相のそれぞれの値と共振周波数及び当該共振周波数に対応する振動変位、位相の各値との差が閾値未満である固有モードを、振動特性データに対応する固有モードとして特定し、固有モードの特定結果に基づいて、キャリッジ100の振動特性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動モード解析の結果に基づいて、ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を評価する評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、レーザドップラー計を用いてハードディスクドライブ用キャリッジの共振特性を測定する手法が知られており(特許文献1参照)、測定されたデータに基づくモード解析は、目視にて、各周波数に対するゲイン(振動変位)のピークを抽出し、各ピークの位相を比較することにより行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2003/096345号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、目視によるモード解析は、正確性に欠けるばかりでなく、測定データの波形が複雑になると判断ができないという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、測定データの波形が複雑である場合であっても、ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を正確に評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、 ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を評価する評価装置であって、前記ハードディスクドライブ用キャリッジを、所定範囲の複数の加振周波数で、順次加振させる加振手段と、前記加振手段による加振時において、所定の測定ポイントで測定された周波数、振動変位、位相を含む振動特性データを前記加振周波数ごとに取得するデータ取得手段と、所定の検索周波数領域に属する振動特性データに基づいて、ピーク値であるとともに前記加振周波数に応じた位相の変化が所定値以上である周波数を、前記測定ポイントに係る共振周波数として抽出する共振周波数抽出手段と、ハードディスクドライブ用キャリッジモデルの所定の測定ポイントに係る固有周波数、基準振動変位及び基準位相を含む1又は2以上の固有モードを記憶する記憶手段と、前記固有モードの固有周波数、基準振動変位及び基準位相と、前記抽出された振動特性データの共振周波数及び当該共振周波数に対応する振動変位と位相とを比較し、前記固有周波数、基準振動変位、基準位相のそれぞれの値と共振周波数及び当該共振周波数に対応する振動変位、位相の各値との差が閾値未満である固有モードを、前記振動特性データに対応する固有モードとして特定する固有モード特定手段と、前記固有モードの特定結果に基づいて、前記ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を評価する評価手段と、を備えることにより、上記課題を解決する。
【0007】
上記発明において、前記評価手段は、前記固有モードが特定された場合は、前記ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を正常と評価し、前記固有モードが特定されない場合は、前記ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を異常と評価することができる。
【0008】
上記発明において、前記固有モードが特定されない場合であって、前記固有モード特定手段が、前記抽出された複数の共振周波数のそれぞれの値と前記固有モードの固有周波数との差分が第1設定値未満である固有モードを特定したときは、前記評価手段は、前記ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性の異常が前記データ取得手段の振動特性データの測定異常によるものであると評価することができる。
【0009】
上記発明において、前記固有モードが特定されない場合であって、前記固有モード特定手段は、前記抽出された複数の共振周波数のそれぞれの値と前記固有モードの固有周波数との差分が第1設定値未満である固有モードを特定したときは、前記固有モードを特定する際に用いる前記共振周波数と前記固有振動数の閾値をその絶対値が大きくなるように補正し、固有モードの特定処理を再度実行することができる。
【0010】
上記発明において、前記固有モードが特定されない場合であって、前記固有モード特定手段が、前記抽出された複数の共振周波数のそれぞれに対応する振動変位、位相と、前記固有モードの固有周波数に対応する基準振動変位、基準位相との差分が第2設定値未満である固有モードを特定したときは、前記評価手段は、前記ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性の異常が前記データ取得手段の振動特性データの測定異常によるものであると評価することができる。
【0011】
上記発明において、前記固有モードが特定されない場合に、前記固有モード特定手段が、前記抽出された複数の共振周波数のそれぞれに対応する振動変位、位相と、前記固有モードの固有周波数に対応する基準振動変位、基準位相との差分が第2設定値未満である固有モードを特定したときは、前記固有モードを特定する際に用いる前記振動変位と前記基準振動変位との閾値及び/又は前記位相と前記基準位相との閾値をその絶対値が大きくなるように補正し、固有モードの特定処理を再度実行することができる。
【0012】
上記発明において、前記固有モード特定手段は、前記位相が50°〜120°である場合は、前記基準位相と前記共振周波数に対応する位相の差が閾値未満であると判断することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加振時において取得された振動特性データからピーク値であるとともに加振周波数に対する位相の変化が所定値以上となる共振周波数を抽出し、予め取得された固有モードを参照して測定に係る振動特性データに対応する固有モードの特定結果に基づいてハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を評価するので、振動特性データが複雑であってもハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る評価装置の構成図である。ある。
【図2】図1の評価装置で取得される振動特性データの一例を示す図である。
【図3】図1の評価装置で取得される振動特性データの他の例を示す図である。
【図4】第1の固有モード(Bending mode)を説明するためのコイル部の背面図(図1の矢視A)である。
【図5】第2の固有モード(Torsion mode)を説明するためのコイル部の背面図(図1の矢視A)である。
【図6】第3の固有モード(Cup mode)を説明するためのコイル部の背面図(図1の矢視A)である。
【図7】第4の固有モード(Horizontal mode)を説明するためのコイル部の平面図である。
【図8】固有モードの特定手法を説明するための図である。
【図9】図1の評価装置における制御手順を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、HDD(ハードディスクドライブ)のアクチュエータに組み込まれるキャリッジ100の振動特性を評価する評価装置10について説明する。アクチュエータは、キャリッジ100のほか、リニアモータ(VCM:Voice Coil Motor)、サスペンション、磁気ヘッド、ベアリングを備えており、評価対象となるキャリッジ100は、リニアモータ(VCM)に電流が印加されると駆動可能となり、目的のセクタに移動し、データの読み取りを開始する。キャリッジのように周期的外力が印加されている物体は、固有振動数で共振するが、アクチュエータで共振が発生するとヘッドによる位置決めが困難になる。このため、キャリッジ単体での固有振動数の管理を厳しくする要請がある。本例の評価装置10はキャリッジ単体での固有振動数の管理を行うため、振動モード解析による製品評価を行うものである。
【0016】
図1は、本実施形態の評価装置10の構成図である。図1に示すように、評価装置10は、キャリッジ100の評価処理を実行するためのプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)3と、このROMに格納されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)1と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)2と、を備えている。
【0017】
また、本実施形態の評価装置10は、評価処理を実行するために、データ取得機能と、共振周波数抽出機能と、固有モード記憶機能と、固有モード特定機能と、評価機能とを有している。なお、評価処理に用いられる振動特性データは外部から取得し、評価結果はスピーカなどの報知装置200又は記憶装置300へ出力される。
【0018】
以下において、これらの各機能を実行する評価装置10について説明する。
【0019】
まず、評価装置10のデータ取得機能について説明する。評価装置10は、キャリッジ100を、所定範囲の複数の加振周波数で順次加振させ、この加振時において、所定の測定ポイントで測定された周波数、振動変位、位相を含む振動特性データを加振周波数ごとに取得する。
【0020】
具体的に、図1に示すキャリッジ100は、不図示の治具によって固有されており、リニアモータVCMに電流を印加することにより加振される。評価装置10は、例えば図2の横軸に示す588〜19850Hzといった所定範囲の複数の加振周波数で順次キャリッジ100を振動させつつレーザドップラー振動計(Laser Doppler Vibrometer ; LDV)を用いて振動モード解析を行う測定ポイント(例えば図1に示すT1〜T4)の変位量・速度を測定する。得られた測定値は、FFTアナライザによりフーリエ変換されて周波数伝達係数とされ、振動特性データとして評価装置10へ送出される。
【0021】
これにより、評価装置10は、所定の測定ポイントで測定された周波数、振動変位、位相を含む振動特性データを、加振周波数ごとに取得することができる。図2に振動特性データの一例を示し、図3に振動特性データの他の例を示す。図2及び図の上側に示すグラフは一の測定ポイント(例えば図1のT1)において測定された振動特性データであり、下側に示すグラフは他の測定ポイント(例えば図1のT3)において測定されたおける振動特性データである。
【0022】
図2は、一の測定ポイント(例えば図1のT1)における各加振周波数と各加振周波数における振動変位(gain(dB))とが対応づけられたデータであり、図3は、他の測定ポイント(例えば図1のT3)各加振周波数と各加振周波数における位相振動変位(phase(°))とが対応づけられたデータである。
【0023】
次に、評価装置10の共振周波数抽出機能について説明する。評価装置10は、所定の検索周波数領域に属する振動特性データに基づいて、ピーク値であるとともに加振周波数に応じた位相の変化が所定値以上である周波数を、測定ポイントに係る共振周波数として抽出する。
【0024】
共振周波数の抽出処理が行われる所定の検索周波数領域は、予め任意に設定することができる。加振周波数のすべてを検索周波数領域としてもよいし、予め共振周波数が出現する可能性の高い一部の周波数を求めておき、これを検索周波数領域としてもよい。
【0025】
具体的に、まず、評価装置10は、加振周波数に対応する振動変位の隣り合う2つの値を比較する。前後の加振周波数に対応する振動変位よりも大きい値の振動変位が測定された加振周波数は共振周波数の候補(ピーク周波数)となる。さらに、共振周波数の候補となった加振周波数に応じた位相の変化を観察し、共振周波数の候補を絞り込む。具体的には、ピーク周波数であり、かつ加振周波数における位相の変化が所定値180°に近い値、例えば所定値140°以上180°以下である場合に、その周波数は測定ポイントに係る共振周波数の候補として抽出することができる。なお、測定環境によっては位相の変化が正確に測定されず、測定値が鈍ることがあるので、位相の所定値を50°〜120°と低く設定することも可能である。ちなみに、図2、図3に示す振動特性データにおいて、A,A´B,B´,C,C´で示すピークは、抽出された共振周波数に相当する。
【0026】
続いて、評価装置が記憶する固有モードについて説明する。固有モードは、キャリッジモデルの所定の測定ポイント(図1のT1〜T4に対応する場所)に係る固有周波数、基準振動変位及び基準位相を含む。固有モードは、系固有の振動の形(モード)である。一般に、物体は単一の固有モードで振動することは稀であり、複数の固有モードが混ざり合って一の振動の形を示す。つまり、振動の形は実際の構造物によって異なる。このため、固有モードは、モデル化された目的の構造物について、有限要素解析などの処理を経て予め算出する。
【0027】
なお、本実施形態のキャリッジモデルに関しては、複数の固有モードが定義されており、さらに、各固有モードはキャリッジモデルの各部位(ヘッド部4、アーム部5、コイル部6)のそれぞれについて定義することができる。
【0028】
以下、図4〜図7に基づいて、固有モードの一例を説明する。図4は第1の固有モード(Bending mode)を、図5は第2の固有モード(Torsion mode)を、図6は第3の固有モード(Cup mode)を説明するためのコイル部の背面図(図1の矢視A)であり、図7は第4の固有モード(Horizontal mode)を説明するためのコイル部の平面図である。
【0029】
図4に示すように、第1の固有モード(Bending mode)は、キャリッジモデルのコイル部6の両端が図中下側へ向かって変形する振動の形である。つまり、T1において測定された固有周波数の基準位相と、T2において測定された固有周波数の基準位相とは、いずれも負の値(同位相)となる。
【0030】
図5に示すように、第2の固有モード(Torsion mode)は、キャリッジモデルのコイル部6の一端が図中下側へ向かって変形するとともに他端が図中上側へ向かって変形する振動の形である。つまり、T1において測定された固有周波数の基準位相と、T2において測定された固有周波数の基準位相とは、正負が逆(逆位相)になる。
【0031】
図6に示すように、第3の固有モード(Cup mode)は、キャリッジモデルのコイル部6の両端が図中上側へ向かって変形する振動の形である。つまり、T1において測定された固有周波数の基準位相と、T2において測定された固有周波数の基準位相とは、いずれも正の値(同位相)となる。
【0032】
また、図7に示すように、第4の固有モード(Horizontal mode)は、キャリッジモデルのコイル部6の両端が左右に変形し、図中上下方向には変形しない振動の形である。
【0033】
なお、固有モードは特に限定されず、任意に定義及び算出することができる。
【0034】
次に、評価装置10の固有モード特定機能について説明する。評価装置10は、測定された振動特性データと所定の共通性を備える固有モードを特定する。そのために、評価装置10は、振動特性データを構成するファクタと、固有モードを構成するファクタをそれぞれ比較する。
【0035】
具体的に、評価装置10は、固有モードの固有周波数、基準振動変位及び基準位相と、抽出された振動特性データの共振周波数及びこの共振周波数に対応する振動変位と位相とを比較する。そして、評価装置10は、固有周波数、基準振動変位、基準位相のそれぞれの値と共振周波数及びこの共振周波数に対応する振動変位、位相の各値との差が閾値未満である固有モードを、振動特性データに対応する固有モードとして特定する。
【0036】
例えば、固有周波数と共振周波数との差が閾値未満であり、近似した値であること、基準振動変位と共振周波数に対応する振動変位との差が閾値未満であり、近似した値であること、基準位相の正負と共振周波数に対応する位相の正負が共通し、その差が閾値未満であることなどを条件に、固有モードを選択する。
【0037】
なお、共通性を判断するにあたって用いる固有周波数と共振周波数との差に対する閾値、基準振動変位と共振周波数に対応する振動変位との差に対する閾値、基準位相と共振周波数に対応する位相との差に対する閾値はそれぞれ個別に定義される。
【0038】
図8は、図2及び図3に示す振動特性データについて固有モードを特定する処理を説明するための図である。図8に示すように、観測ポイントT1に係るピークA、T3に係るピークA´は、いずれも第1の固有モード(Bending mode)の固有周波数2675Hz近傍に共振周波数を示し、かつ位相が何れも負の同位相である。したがって、評価対象のキャリッジ100は、第1の固有モード(Bending mode)と共通の振動特性を示す。
【0039】
また、同図に示すように、観測ポイントT1に係るピークB、T3に係るピークB´は、いずれも第2の固有モード(Torsion mode)の固有周波数11413Hz近傍に共振周波数を示し、かつ位相の一方が正、他方が負の逆位相である。したがって、評価対象のキャリッジ100は、第2の固有モード(Torsion mode)と共通の振動特性を示す。
【0040】
さらに、同図に示すように、観測ポイントT1に係るピークC、T3に係るピークC´は、いずれも第1の固有モード(Bending mode)の固有周波数15813Hz近傍に共振周波数を示し、かつ位相が何れも負の同位相である。したがって、評価対象のキャリッジ100は、第1の固有モード(Bending mode)の振動特性を示す。
【0041】
以上のとおり、評価対象のキャリッジ100は、その振動特性データに対応する固有モードを特定することができたので、評価装置10は、評価対象のキャリッジ100は、固有モードが特定可能なワークであると判断する。
【0042】
最後に、評価装置10の評価機能について説明する。評価装置10は、固有モードの特定結果に基づいて、ハードディスクドライブ用キャリッジ100の振動特性を評価する。
【0043】
具体的に評価装置10は、固有モードが特定された場合は、ハードディスクドライブ用キャリッジ100の振動特性を正常と評価し、固有モードが特定されない場合は、ハードディスクドライブ用キャリッジ100の振動特性を異常と評価する。評価結果は、スピーカやディスプレイなどの報知装置200を介して音声や文字でオペレータに通知される。また、評価結果は記憶装置300に記憶され、次のキャリッジ100の設計などの情報として活用される。
【0044】
本実施形態の評価装置10は、取得した振動特性データに所定の共通性を有する固有モードが特定できたか否かに基づいてキャリッジ100の振動特性を自動的に評価することができる。さらに、振動特性データの値に基づいて固有モードを特定するので、測定データの波形が複雑である場合であっても、キャリッジ100の振動特性を正確に評価することができる。
【0045】
ところで、振動特性データの取得においては、測定タイミングのずれ、測定機の感度不良などの測定異常が原因で、振動特性データの周波数に一定の周期のずれが生じる場合や、振動特性データの振動変位の値が低く測定される場合や、位相の変化が本来の値よりも低い値に測定される場合がある。
【0046】
このような場合において、一律に処理を進行させると、測定処理に問題があり、キャリッジ100の振動特性には問題が無いにもかかわらず、固有モードが特定されないことによってキャリッジ100の振動特性に異常があるという誤判断がなされる場合がある。
【0047】
本実施形態では、このような誤判断を防止するための処理が可能である。具体的に、本実施形態では、図2、図3に示す振動特性データの横軸である周波数がずれた場合と、図2、図3に示す振動特性データの縦軸である振動変位の値が減少(又は増加)した場合及び位相の値が減少(又は増加)した場合の処理を行う。
【0048】
まず、周波数がずれた場合における処理を説明する。周波数がずれると、共振周波数の抽出数は、固有モードの固有周波数と同じ数だけ出現するが、その出現する周波数の値が異なる。また、周波数がずれているだけなので、共振周波数と固有周波数の差は、すべて略等しい値(本実施形態の第1設定値に対応する値)となる。
【0049】
つまり、複数の共振周波数の大部分乃至全部が、固有周波数から同じだけずれている場合は、キャリッジ100の振動特性に異常があるのではなく、測定処理に問題があると予測することができる。
【0050】
本実施形態の評価装置10は、固有モードが特定されない場合に、抽出された複数の共振周波数のそれぞれの値と固有モードの固有周波数との差分が第1設定値未満である固有モードを特定したときは、測定に係る振動特性データの周波数がシフトしている(ずれている)と判断し、キャリッジ100の振動特性の異常が振動特性データの測定異常によるものであると評価する。
【0051】
本処理を行うことにより、正常な振動特性を有するキャリッジ100を誤って異常であると判断することを防止することができるとともに、測定装置や測定環境に測定異常の原因があることを予測し、それを報知することができるので、測定条件を正常状態に維持することができる。
【0052】
また、本実施形態の評価装置10は、固有モードが特定されない場合に、抽出された複数の共振周波数のそれぞれの値と固有モードの固有周波数との差分が第1設定値未満である固有モードを特定したときは、測定に係る振動特性データの周波数がシフトしている(ずれている)と判断し、固有モードを特定する際に用いる共振周波数と固有振動数の閾値をその絶対値が大きくなるように補正し、固有モードの特定処理を再度実行する。
【0053】
この補正は、固有周波数から値が離れた周波数までをも判断対象とする趣旨であり、広い域値において固有周波数と共通の周波数を検索してもよいし、域値は増加させずに閾値の上限値及び下限値をシフトさせて固有周波数と共通の周波数を検索してもよい。
【0054】
本処理を行うことにより、異なる周波数域において再度検索することにより、正常な振動特性を有するキャリッジ100を誤って異常であると判断することを防止することができる。
【0055】
ちなみに、上述した測定異常のアラームを報知する処理と、閾値を補正する処理とは、いずれも複数の共振周波数のそれぞれの値と固有モードの固有周波数との差分が第1設定値未満である固有モードを特定することを条件としているが、第1設定値が副次設定値よりも大きい場合、すなわち周波数のズレが大きい場合には測定異常のアラームを報知する処理を行い、第1設定値が副次設定値未満である場合、すなわち周波数のズレが小さい場合には敷値を補正する処理を行うことができる。
【0056】
測定環境の異常が原因で固有モードが特定できない場合は、周波数のズレが大きくなる傾向があるのに対して、固有周波数と共振周波数の閾値の設定が適切でないことが原因で固有モードが特定できない場合は、周波数のズレが小さくなる傾向があるからである。このように、固定周波数と共振周波数との比較結果に基づいて、固有モードの特定不能の原因を推測し、原因に応じた処理(報知又は閾値の補正)を実行することができる。
【0057】
次に、振動変位、位相の測定精度が悪い場合における対策を説明する。何らかの理由で振動変位が正確に測定されず、低い値となってしまう場合がある。このような場合は、基準振動変位との差が閾値以上となるため、固有モードは特定されない。また、本来であれば共振周波数においては180°程度の位相変化が見られるはずのところ、共振周波数における振動変位が低い値になると位相の変化も鈍くなり、位相と基準位相の差が閾値以上となるため、固有モードが特定されない場合がある。
【0058】
本実施形態の評価装置10は、固有モードが特定されない場合に、抽出された複数の共振周波数のそれぞれに対応する振動変位、位相と、固有モードの固有周波数に対応する基準振動変位、基準位相との差分が第2設定値未満である固有モードを特定したときは、測定に係る振動特性データの振動変位、位相が正確な値ではないと判断し、キャリッジ100の振動特性の異常が振動特性データの測定異常によるものであると評価する。なお、第2設定値は、閾値よりも大きい値である。
【0059】
本処理を行うことにより、正常な振動特性を有するキャリッジ100を誤って異常であると判断することを防止することができるとともに、測定装置や測定環境に測定異常の原因があることを予測し、それを報知することができるので、測定条件を正常状態に維持することができる。
【0060】
また、本実施形態の評価装置10は、固有モードが特定されない場合に、抽出された複数の共振周波数のそれぞれに対応する振動変位、位相と、固有モードの固有周波数に対応する基準振動変位、基準位相との差分が第2設定値未満である固有モードを特定したときは、固有モードを特定する際に用いる振動変位と基準振動変位との閾値及び/又は位相と基準位相との閾値をその絶対値が大きくなるように補正し、固有モードの特定処理を再度実行する。なお、第2設定値は、閾値よりも大きい値である。
【0061】
本来、共振周波数における位相は約180°となるが、測定感度が鈍いなど測定異常がある場合には、位相が50°〜120°程度になる場合がある。本実施形態では、位相が50°〜120°の範囲内にある場合は、基準位相と共振周波数に対応する位相の差が閾値未満であると判断し、周波数や振動変位に基づいて固有モードの特定処理を行う。
【0062】
本処理を行うことにより、位相の測定値の鈍化により正常な振動特性を有するキャリッジ100を誤って異常であると判断することを防止することができる。
【0063】
次に動作手順を説明する。図9は本実施形態の評価装置の制御手順を示すフローチャート図である。
【0064】
まず、ステップS101において、評価装置10は、加振時において、所定の測定ポイントで測定された周波数、振動変位、位相を含む振動特性データを加振周波数ごとに取得する。
【0065】
次のステップS102において、評価装置10は、加振周波数と振動特性データを対応づけてRAM2に記憶する。
【0066】
続いて、ステップS103において、評価装置10は、モード判定に必要な測定ポイントを特定し、必要な測定ポイントに係る振動特性データが取得されたか否かを判断する。なお、測定ポイントは、固有モードごとに対応づけて記憶されている。例えば、第1の固有モード(Bending mode)では、図1に示す測定ポイントT1とT3である。モード判定に必要な測定ポイントの測定が完了し、振動特性データが得られるまでステップS101からステップS103を繰り返す。
【0067】
ステップS104に進んだら、評価装置10は、予め設定された検索周波数領域に属する振動特性データに基づいて、測定ポイントに係る共振周波数として抽出する。具体的に評価装置10は、前後の周波数を比較して前後の周波数よりも高い周波数をピーク周波数と判断し、さらに、加振周波数に応じた位相の変化が所定値以上(例えば150°以上)であるピーク周波数を抽出する。抽出されたピーク周波数は、対応する振動変位及び位相と対応づけて記憶する。
【0068】
次に、ステップS105において、評価装置10は、固有周波数とピーク周波数とを比較し、その差が閾値未満となるピーク周波数を共振周波数の候補として抽出する。
【0069】
続くステップS106において、評価装置10は、固有モードの特定処理に用いられる閾値を取得し、周波数の比較により固有モードを判定する処理を開始する。
【0070】
まず、ステップS107において、評価装置10は、固有モードにおいて定義されているすべての固有周波数に対応する共振周波数が存在するか否かを判断する。同じ振動特性を有する場合は、同じピーク周波数を有するからである。すべての固有周波数に対応する共振周波数が存在する場合は、ステップS108へ進み、そうでない場合はステップS121へ進む。
【0071】
ステップS108において、評価装置10は、ステップS105で抽出された共振周波数の振動変位と位相とを読み込む。
【0072】
続くステップS109において、評価装置10は、一致する固有周波数の基準振動変位と共振周波数の変位とを比較し、その共通性を判断する。評価装置10は、固有モードの固有周波数における基準振動変位と、共振周波数の振動変位との差が閾値未満である場合は、測定に係るキャリッジ100の振動特性はその固有モードに対応すると判断し、固有モードを特定する。
【0073】
さらに、評価装置10は、一致する固有周波数の基準位相と共振周波数の位相とを比較し、その共通性を判断する。評価装置10は、固有モードの固有周波数における基準位相と、共振周波数の位相との差が閾値未満である場合は、測定に係るキャリッジ100の振動特性はその固有モードに対応すると判断し、固有モードを特定する。なお、位相の差が閾値未満である場合は、その位相の正負も共通する。
【0074】
ステップ109において固有モードが特定されたらステップS112へ進む。ステップS112において、評価装置10は、測定対象のキャリッジ100の振動特性は正常であると判断する。
【0075】
次のステップS113では、評価装置10は、判断を試みるすべての固有モードの特定処理が終了したか否かを判断し、終了していなければステップS105以降の処理を繰り返し、終了していれば評価処理を終了させる。
【0076】
ステップS109に戻り、固有モードが特定できない場合は、ステップS110へ進む。ステップS110において、評価装置10は、抽出された複数の共振周波数のそれぞれに対応する振動変位、位相と、固有モードの固有周波数に対応する基準振動変位、基準位相との差分が第2設定値未満である固有モードを特定したときは、キャリッジ100の振動特性の異常が振動特性データの測定異常によるものであると判断し、測定異常のアラームを報知装置200から出力させる。
【0077】
さらに、ステップS110と独立又は並行して、評価装置10は、閾値の補正を行う。評価装置10は、抽出された複数の共振周波数のそれぞれに対応する振動変位、位相と、固有モードの固有周波数に対応する基準振動変位、基準位相との差分が第2設定値未満である固有モードを特定したときは、振動特性データが正確に測定されていないと予測し、固有モードを特定する際に用いる振動変位と基準振動変位との閾値及び/又は位相と基準位相との閾値をその絶対値が大きくなるように補正し、固有モードの特定処理を再度実行する。
【0078】
なお、位相にあっては、位相が50°〜120°である場合は、基準位相と共振周波数に対応する位相の差が閾値未満であるとみなして処理してもよい。位相の変化は鈍く測定されてしまうことがあるからである。
【0079】
次に、ステップS121以降の処理を説明する。ステップS121以降の処理は、ステップS107において、すべての固有周波数に対応する共振周波数が存在しないと判断された場合であって、固有周波数に対応する共振周波数が全く無い場合の処理である。
【0080】
続くステップS122において、評価装置10は、抽出された複数の共振周波数のそれぞれの値と固有モードの固有周波数との差分が第1設定値未満であるか否かを判断し、そのような固有モードを特定したときはステップS122へ進む。そして、このような場合は設定された周波数にずれが生じていると推測し、固有モードが特定できなかったのは測定異常によるものであると判断し、ステップS123において測定異常のアラームを報知装置200から出力させる。
【0081】
さらに、ステップS123と独立又は並行して、評価装置10は、閾値の補正を行う。評価装置10は、抽出された複数の共振周波数のそれぞれの値と固有モードの固有周波数との差分が第1設定値未満である固有モードを特定したときは、測定された周波数にずれが生じていると推測し、固有モードを特定する際に用いる共振周波数と固有振動数の閾値をその絶対値が大きくなるように補正し、広い範囲でその共通性を検証しなおすべく、固有モードの特定処理を再度実行する。
【0082】
また、ステップS122戻り、評価装置10は、抽出された複数の共振周波数のそれぞれの値と固有モードの固有周波数との差分が第1設定値未満でない場合は、ステップS125へ進む。ステップS125において、評価装置10は、固有モードを特定することは不能であると判断し、測定対象のキャリッジ100の振動特性は異常であると評価する。
【0083】
次に、ステップS128以降の処理を説明する。ステップS128以降の処理は、ステップS107で、すべての固有周波数に対応する共振周波数が存在しないと判断された場合であって、固有周波数の一部に対応する共振周波数が存在しない場合の処理である。この場合は、対応する固有モードを特定することはできないので、評価装置10は、測定異常のアラームを報知装置200から出力させる。この場合は、再度処理を行ってもよい。
【0084】
本実施形態の評価装置10によれば、測定データの波形が複雑である場合であっても、キャリッジ100の振動特性を正確に評価することができる。
【0085】
また、固有モードが特定できない場合であっても、振動特性データの周波数、振動変位及び位相と固有モードの固有周波数、基準変位及び基準位相との相関関係に基づいて、測定異常を予測し、アラームや閾値の補正など適切な対応を自動的にすることができる。
【0086】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0087】
10…評価装置
1…CPU
2…RAM
3…ROM
100…(ハードディスクドライブ用)キャリッジ
4…ヘッド部
5…アーム部
6…コイル部
200…報知装置(スピーカ、ディスプレイ)
300…記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を評価する評価装置であって、
前記ハードディスクドライブ用キャリッジを、所定範囲の複数の加振周波数で順次加振させるとともに、この加振時において、所定の測定ポイントで測定された周波数、振動変位、位相を含む振動特性データを前記加振周波数ごとに取得するデータ取得手段と、
所定の検索周波数領域に属する振動特性データに基づいて、ピーク値であるとともに前記加振周波数に応じた位相の変化が所定値以上である周波数を、前記測定ポイントに係る共振周波数として抽出する共振周波数抽出手段と、
ハードディスクドライブ用キャリッジモデルの所定の測定ポイントに係る固有周波数、基準振動変位及び基準位相を含む1又は2以上の固有モードを記憶する記憶手段と、
前記固有モードの固有周波数、基準振動変位及び基準位相と、前記抽出された振動特性データの共振周波数及び当該共振周波数に対応する振動変位と位相とを比較し、前記固有周波数、基準振動変位、基準位相のそれぞれの値と共振周波数及び当該共振周波数に対応する振動変位、位相の各値との差が閾値未満である固有モードを、前記振動特性データに対応する固有モードとして特定する固有モード特定手段と、
前記固有モードの特定結果に基づいて、前記ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を評価する評価手段と、を有するハードディスクドライブ用キャリッジの評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の評価装置であって、
前記評価手段は、前記固有モードが特定された場合は、前記ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を正常と評価し、前記固有モードが特定されない場合は、前記ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性を異常と評価することを特徴とする評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載の評価装置であって、
前記固有モードが特定されない場合に、前記固有モード特定手段が、前記抽出された複数の共振周波数のそれぞれの値と前記固有モードの固有周波数との差分が第1設定値未満である固有モードを特定したときは、前記評価手段は、前記ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性の異常が前記データ取得手段の振動特性データの測定異常によるものであると評価することを特徴とする評価装置。
【請求項4】
請求項2に記載の評価装置であって、
前記固有モードが特定されない場合に、前記固有モード特定手段は、前記抽出された複数の共振周波数のそれぞれの値と前記固有モードの固有周波数との差分が第1設定値未満である固有モードを特定したときは、前記固有モードを特定する際に用いる前記共振周波数と前記固有振動数の閾値をその絶対値が大きくなるように補正し、固有モードの特定処理を再度実行することを特徴とする評価装置。
【請求項5】
請求項2〜4の何れか一項に記載の評価装置であって、
前記固有モードが特定されない場合に、前記固有モード特定手段が、前記抽出された複数の共振周波数のそれぞれに対応する振動変位、位相と、前記固有モードの固有周波数に対応する基準振動変位、基準位相との差分が第2設定値未満である固有モードを特定したときは、前記評価手段は、前記ハードディスクドライブ用キャリッジの振動特性の異常が前記データ取得手段の振動特性データの測定異常によるものであると評価することを特徴とする評価装置。
【請求項6】
請求項2〜4の何れか一項に記載の評価装置であって、
前記固有モードが特定されない場合に、前記固有モード特定手段が、前記抽出された複数の共振周波数のそれぞれに対応する振動変位、位相と、前記固有モードの固有周波数に対応する基準振動変位、基準位相との差分が第2設定値未満である固有モードを特定したときは、前記固有モードを特定する際に用いる前記振動変位と前記基準振動変位との閾値及び/又は前記位相と前記基準位相との閾値をその絶対値が大きくなるように補正し、固有モードの特定処理を再度実行することを特徴とする評価装置。
【請求項7】
請求項6に記載の評価装置であって、
前記固有モード特定手段は、前記位相が50°〜120°である場合は、前記基準位相と前記共振周波数に対応する位相の差が閾値未満であると判断することを特徴とする評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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