説明

バイアスギャップインダクタとその製造方法

【課題】改善されたバイアスギャップインダクタとその製造方法を提供する。
【解決手段】バイアスギャップインダクタ30は、第1強磁性体プレート12、第2強磁性体プレート14、第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレートの間に挟まれたコンダクタ18、および、第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレートの間の接着剤を有する。接着剤は、磁性粉を含み、少なくとも一つの磁気ギャップを形成する。インダクタの製造方法は、第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレート、およびコンダクタを供給する処理と、第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレートの間にコンダクタを配置する処理と、接着剤と磁性粉を含む組成物32によって、磁気ギャップを形成するように第1強磁性体プレートを第2強磁性体プレートに接着する処理と、インダクタを磁化する処理を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアスギャップインダクタとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高さ寸法(プロファイル)が約10mm以下のインダクタとして定義されるロープロファイルインダクタは、独特の幾何学形状を有するフェライトや鉄圧粉体の周囲にコイルを巻回して形成されている。フェライトベースのロープロファイルインダクタは、比較的低電流において固有の磁気飽和限界を有する。磁気飽和を生ずると、インダクタンス値は著しく低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
圧粉体インダクタは、フェライトインダクタよりも高い入力電流を実現するが、(200kHz超の周波数などの)高周波において高いコアロスを生じるという制限がある。高入力電流を実現するように高周波でインダクタンスを提供するための有効な方法が必要とされている。
【0004】
したがって、本発明の第1の目的、特徴、あるいは効果は、この技術分野の状況を改善することである。
本発明の他の目的、特徴、あるいは効果は、薄型パッケージにおいて高リプル電流(>5A)と高周波(>200kHz)で低コアロスであり、かつ、飽和電流特性の高い鉄粉末を有するインダクタを提供することである。
本発明の他の目的、特徴、あるいは効果は、接着フィルム厚または磁石粒径を用いてインダクタンス特性を調整することである。
本発明の他の目的、特徴、あるいは効果は、インダクタ性能を向上させてインダクタンスを維持しながら直流電流をより有効に操作可能とすることである。
本発明のこれらの、あるいは他の目的、特徴、あるいは効果は、本明細書の以下の記載から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの態様によれば、バイアスギャップインダクタは、第1強磁性体プレート、第2強磁性体プレート、第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレートの間に挟まれたコンダクタ、および、第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレートの間の接着剤を有している。接着剤は、硬質磁性粉を含み、少なくとも一つの磁気ギャップを形成する。接着剤の厚みは、500μm未満であり、より好ましくは100μm未満である。磁性粉の粒径は、部品のインダクタンスレベルを設定するために利用可能である。また、磁性粉の量によって部品の特性を変更可能であり、所望の性能を実現できる。
【0006】
本発明の別の態様によれば、インダクタの製造方法は、第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレート、およびコンダクタを供給する処理と、第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレートの間にコンダクタを配置する処理と、接着剤と磁性粉を含む組成物によって、磁気ギャップを形成するように第1強磁性体プレートを第2強磁性体プレートに接着する処理と、インダクタを磁化する処理を有する。組成物の厚みは、500μm未満であり、より好ましくは100μm未満である。
【0007】
本発明の別の態様によれば、バイアスギャップインダクタが提供される。このインダクタは、第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレートを有する。第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレートの間にコンダクタが配置される。100μm未満の厚みを持つ磁性材料が第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレートの間に使用され、少なくとも一つの磁気ギャップを形成する。磁性材料の厚みは、インダクタのインダクタンス特性を設定するために利用される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】磁束チャネル化していない従来インダクタを示す断面図である。
【図2】本発明の磁束チャネル化インダクタの1つの実施形態を示す断面図である。
【図3】直流電圧とBHループとの関係、およびバイアスギャップによる動作レンジの拡大を示す図である。
【図4】2つの磁気ギャップを有するシングルコンダクタインダクタを示す図である。
【図5】インダクタの多極構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、従来装置を示す図であり、2つのフェライト部品間に銅製のシングルストリップを配置してインダクタを構成している。この構成は、低インダクタンス値の高周波インダクタの作製に有効であるが、インダクタが飽和せずに処理可能な入力電流量を制限する。飽和の要因は、銅によって誘導される全ての磁束が狭い断面積中を流れるという事実から生じる。図1は、銅製のシングルストリップインダクタにおける磁束パターンを示している。図1において、インダクタ10は、第1強磁性体プレート12と第2強磁性体プレート14を備えている。第1強磁性体プレート12と第2強磁性体プレート14の間には、間隙16が設けられている。シングルストリップ銅コンダクタ18を通過する電流によって誘導される磁束は、プレート12,14の間で分割される。入力電流20は、電流がページの表面から裏面に向かって流れることを示す記号を用いて示されている。矢印22,24,26,28は、コンダクタ18を通過する電流20によって誘導される磁束の方向を示している。なお、銅コンダクタ18中の電流によって誘導される磁束の全ては、狭い断面積部分22,26を通過するため、それによって飽和の要因となる。
【0010】
本発明は、低コストでインダクタの動作レンジを2倍に拡大可能とする方法を提供する。本発明においては、磁性粉を充填した接着剤を強磁性体部品間のギャップに導入する。図2は、本発明の1つの実施形態を示す。図示されているインダクタ30は、第1強磁性体プレート12と第2強磁性体プレート14から形成されている。第1強磁性体プレート12と第2強磁性体プレート14は、接着剤と磁性粉を含む組成物32を介して機械的に接合されている。矢印22,26,38,40は、コンダクタ18を通過する電流20によって誘導される磁束の方向を示している。矢印34,36,42,44は、磁気誘導された「逆」磁束の方向を示している。
【0011】
組成物32は、エポキシと磁性粉を所定の比率で混合して生成可能である。磁性粉を含む接着剤の使用は、誘導性部品のアセンブリにおいて二重の役割を有する。まず、磁性体粒子の粒径を変化させることにより、部品のインダクタンスを上昇または低下させることができる。磁性粉の粒径が小さい場合には、高インダクタンスレベルを有する薄型のギャップインダクタが生成される。磁性粉の粒径が大きい場合には、ギャップサイズが増大する結果、部品のインダクタンスが低下する。したがって、磁性粉の粒径を選択することにより、部品のインダクタンスを特定の用途に適合させることができる。すなわち、磁性粉の粒径を利用して、部品のインダクタンスレベルを設定することができる。また、使用する磁性粉の量によって、部品の特性を変更して所望の性能を実現することができる。接着剤の第2の役割は、部品同士を永続的に結合させて機械的負荷に対して頑強なアセンブリを実現することである。好ましい実施形態において、磁性粉層の厚みは約0〜100μmである。さらに、磁性粉の厚みとしては、約0〜500μmの間のより大きな値を使用してもよい。
【0012】
磁性粉は、球形状または不規則形状の材料によって構成可能である。セラミック磁性粉を磁性粉として使用してもよい。好ましい材料は、ネオジム鉄ボロン系、またはサマリウムコバルト系の磁性粉などの、球形状の希土類磁性材料であるが、これらに限定されない。その1つの理由は、球形状の粒子は、プレート間の特定の距離を実現するために寸法を合わせやすいからである。第2の理由は、希土類磁性材料が、応用における耐消磁性を発揮するのに十分に高い固有保磁力を有するからである。
【0013】
強磁性体プレートは、フェライト、モリパーマロイ(MPP)、センダスト、ハイフラックス、または鉄圧粉体などの磁気的に軟質な材料から作製可能であるが、これらに限定されない。他の材料も使用可能であるが、フェライトは、高周波数において低コアロスであり、他の材料に比べて概して安価であるため、好ましい材料である。フェライトは、磁気飽和抵抗が低いため、磁気バイアス導入の利点がある。
【0014】
本発明においては、強磁性体プレートの間に磁性粉を充填した接着剤を付加する。接着剤を十分に硬化させた後、磁性材料がインダクタを流れる電流による誘導方向と対向する方向の定常磁場を印加するように、部品を磁化する。
【0015】
図2は、コンダクタによる誘導磁束と定常磁束を示している。図3は軟質の強磁性体フェライトプレートの仮定的なB−Hループを示している。コンダクタへの入力直流電流ゼロ点において、強磁性体材料は、その磁場が負の最大飽和点の近傍となるように極性化またはバイアスされる。直流電流が印加された場合に、この負の磁場は強磁性体材料の磁束密度がゼロになるまで段階的に降下する。直流電流がさらに増大すると、磁場は正となり磁気飽和が起こるまで上昇する。したがって、ギャップ内に磁気材料を導入することによって、強磁性体材料の耐飽和性を向上させることができ、それにより、その動作レンジを、例えば2倍にするなど、実質的に拡大できる。
【0016】
図4は、2つの磁気ギャップを有するシングルコンダクタインダクタ50を示す斜視図である。図4において、2つの強磁性体プレート52,53は、磁性体粒子の粒径によって設定された距離をあけて一体的に結合されている。磁性粉とエポキシを混合して構成された組成物56が、図4に示すような強磁性体プレート52の片面上にスクリーン印刷されている。組成物56が塗布された各領域には、磁気ギャップが設けられている。第2強磁性体プレート53は、第1強磁性体プレート52上に配置されており、接着剤を熱硬化させることで永続的に一体接合され、アセンブリを構成している。これらの部品は硬化した後、磁化される。図4は、後続の磁性材料の極性化処理を示しており、この処理においては、2つの強磁性体プレートの間の磁場が互いの磁束方向に加わるようにしている。誘導磁束の極性化は、コンダクタへの直流電流入力によって生じる誘導磁束と反対方向となるように行われる。
【0017】
図5は、3つの磁気ギャップを有する1つの実施形態を示す斜視図であり、磁気ギャップの各々は、磁性粉と好ましくはエポキシなどの接着剤とを含む混合物によって形成されている。この混合物は、スクリーン印刷によって塗布可能であり、3つの分離箇所70A,70B,70Cに磁性粉を塗布した磁性体フィルムを用いることが考えられる。図示されている構成は、多極構成である。外側の磁性体フィルム70A,70Bは、同じ方向に極性化されており、中央の磁性体フィルム70Cは、反対方向に極性化されている。この極性化は、3つの磁性体フィルムの全てに印加される磁場を形成するために行われる。インダクタ60は、第1強磁性体プレート62と第2強磁性体プレート64を有する。第1強磁性体プレート62には、溝63が設けられている。溝63は、第1強磁性体プレート62の一端から第1強磁性体プレート62の対向端に向かって伸びるように設けられている。コンダクタ65が示されている。コンダクタ65は、第2強磁性体プレート64側に設けられたセグメント66,68を有しており、第2強磁性体プレート64の周囲に沿って曲げられ、磁性体フィルムを接着する3つの面70A,70B,70Cを形成している。強磁性体プレート62,64を配置した後に、接着剤を熱硬化させ、その後、デバイス60を磁化する。図5においては、外側の磁性体フィルムを同じ方向に極性化し、中央の磁性体フィルムを反対方向に極性化することによって、多極構成を実現する。この結果、3つの磁性体フィルムの全てに印加される磁場が形成される。誘導磁束の極性化は、コンダクタへの直流電流入力によって生じる誘導磁束と反対方向となるように行われる。
【0018】
このように、本発明によれば、改善されたインダクタとその製造方法が提供可能である。本発明の変形例としては、使用する材料の種類、適用する製造手法等において多様な変形例が考えられ、それ以外にも、本発明の範囲内で多種多様な変形例が考えられる。
【符号の説明】
【0019】
12…第1強磁性体プレート
14…第2強磁性体プレート
18…コンダクタ
20…電流
30…インダクタ
32…組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアスギャップインダクタにおいて、
第1強磁性体プレート、
第2強磁性体プレート、
前記第1強磁性体プレートと前記第2強磁性体プレートの間に挟まれたコンダクタ、
前記第1強磁性体プレートと前記第2強磁性体プレートの間の接着剤
を備え、
前記接着剤は、磁性粉を含むことで少なくとも1つの磁気ギャップを形成しており、500μm未満の厚みを有する
ことを特徴とするバイアスギャップインダクタ。
【請求項2】
前記接着剤はエポキシであることを特徴とする請求項1に記載のバイアスギャップインダクタ。
【請求項3】
前記磁性粉は、球形状の希土類磁性体粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載のバイアスギャップインダクタ。
【請求項4】
前記球形状の希土類磁性体粒子は、ネオジム鉄ボロン系合金を含むことを特徴とする請求項3に記載のバイアスギャップインダクタ。
【請求項5】
前記球形状の希土類磁性体粒子は、サマリウムコバルト系合金を含むことを特徴とする請求項3に記載のバイアスギャップインダクタ。
【請求項6】
前記第1強磁性体プレートと前記第2強磁性体プレートは、フェライトを含むことを特徴とする請求項1に記載のバイアスギャップインダクタ。
【請求項7】
前記コンダクタは、銅を含むことを特徴とする請求項1に記載のバイアスギャップインダクタ。
【請求項8】
前記コンダクタは、多重ループ構成で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のバイアスギャップインダクタ。
【請求項9】
前記接着剤は、前記第1強磁性体プレートと前記第2強磁性体プレートの間に付加された接着剤フィルムを含み、この接着剤フィルムの厚みが、インダクタのインダクタンス特性を設定するために利用されている
ことを特徴とする請求項1に記載のバイアスギャップインダクタ。
【請求項10】
前記厚みは100μm未満であることを特徴とする請求項1に記載のバイアスギャップインダクタ。
【請求項11】
インダクタの製造方法において、
第1強磁性体プレートと第2強磁性体プレート、およびコンダクタを供給する処理と、
前記第1強磁性体プレートと前記第2強磁性体プレートの間に前記コンダクタを配置する処理と、
接着剤と磁性粉を含む組成物によって、磁気ギャップを形成するように前記第1強磁性体プレートを前記第2強磁性体プレートに接着する処理と、
前記インダクタを磁化する処理
を有し、
前記組成物は、500μm未満の厚みを有する
ことを特徴とするインダクタの製造方法。
【請求項12】
前記接着する処理は、前記接着剤を硬化させる処理を含むことを特徴とする請求項11に記載のインダクタの製造方法。
【請求項13】
前記接着剤はエポキシであることを特徴とする請求項11に記載のインダクタの製造方法。
【請求項14】
前記磁性粉は、球形状の希土類磁性体粒子を含むことを特徴とする請求項11に記載のインダクタの製造方法。
【請求項15】
前記磁性粉は、球形状のセラミック粒子を含むことを特徴とする請求項11に記載のインダクタの製造方法。
【請求項16】
前記インダクタの所望の特性に基づいて、磁性粉の粒径を含む磁性粉の種類を決定することを特徴とする請求項11に記載のインダクタの製造方法。
【請求項17】
前記接着する処理は、前記組成物をスクリーン印刷する処理を含むことを特徴とする請求項11に記載のインダクタの製造方法。
【請求項18】
前記厚みは100μm未満であることを特徴とする請求項11に記載のインダクタの製造方法。
【請求項19】
バイアスギャップインダクタにおいて、
第1強磁性体プレート、
第2強磁性体プレート、
前記第1強磁性体プレートと前記第2強磁性体プレートの間に挟まれたコンダクタ、
少なくとも1つの磁気ギャップを形成するように、前記第1強磁性体プレートと前記第2強磁性体プレートの間に付加された100μm未満の厚みを有する接着剤
を備え、
前記厚みが、前記インダクタのインダクタンス特性を設定するために利用されている
ことを特徴とするバイアスギャップインダクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−238892(P2012−238892A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−174322(P2012−174322)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【分割の表示】特願2010−524066(P2010−524066)の分割
【原出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(510060327)ヴィシェイ デール エレクトロニクス インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】