説明

バイオエタノールの製造方法

【課題】廃棄バイオマスや未利用バイオマスを利用し、バイオエタノールを安全かつ低コストで製造する方法を提供すること。
【解決手段】(A)セルロース含有材料をセルラーゼで処理してグルコースを得る工程、及び(B)工程(A)で得られたグルコースにエタノール発酵酵母を作用させてエタノールを生成する工程を含むバイオエタノールの製造方法において、
(C)セルロース含有材料が、植物の非食用部分、紙、綿製品、再生繊維、木材からなる群から選ばれる少なくとも1種であること、
(D)セルラーゼが、細菌、糸状菌、又は原生生物由来のセルラーゼであること、及び
(E)エタノール発酵酵母がSaccharomyces cerevisiaeであることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオエタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年以降、地球温暖化問題が懸念され始め、循環型社会構築の取り組みを通じてバイオマスが脚光を浴びている。バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す概念であり、再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものと定義付けられている。このバイオマスは化石資源と比較して二酸化炭素の排出を抑えることができる。
化石資源からエネルギーを取り出す場合は、数億年という時間をかけて蓄えられたエネルギーが一気に消費されるため、その際大気中に放出される多大な二酸化炭素を我々のライフサイクルの中で植物などが再び吸収することは不可能である。一方、バイオマスからエネルギーを取り出す場合、燃焼などの過程で放出される二酸化炭素は生物の成長過程で光合成により空気中から吸収したものと考えられる。つまり、バイオマスからエネルギーを取り出す場合、ライフサイクルの中で大気中の二酸化炭素を増加させないという意味でカーボンニュートラルという特性を有している。
【0003】
近年、京都議定書における二酸化炭素排出量の削減などを背景として石油代替燃料となる燃料用エタノールが注目されている。主たる利用法としてE3(エタノール3 %混合)ガソリンが認証されており、国内自動車へのガソリン供給を全て代替した場合、約6600万kl(内エタノール約200万kl)程度が見込まれている。製造原料として直接エタノール醗酵が可能なサトウキビなどの糖質は、国内では食用との競合により製造コストの面で不利であるため、無償もしくは逆有償の建築廃材等廃棄物系バイオマスが対象とされているが、糖化醗酵技術の改良および供給インフラなどの整備に伴い、将来的には稲わらなどの未利用資源系バイオマスや資源作物に関しても利用が見込まれており(非特許文献1及び2)、これらの利用に関する研究は今後重要になるものと考えられる。
【0004】
現在はトウモロコシやサトウキビのような食用可能な植物原料からのバイオエタノール生産が実用化されている。しかし、人口増加による食糧不足への危惧から、草・木・古紙等の食用としない植物原料からのエタノール生産技術の開発が求められている。しかし、このような非食用バイオマスからのエタノール製造においては、原料の分解・発酵にかかるコストが高くなることや、分解過程で使用する化学薬品による環境負荷が生じることなどが問題とされている。
このため、廃棄バイオマスや未利用バイオマスを有効利用するために亜臨界水・超臨界水で処理する研究も多く行われている(非特許文献3)。
また、酵母を遺伝子操作して、遺伝子操作をしていない酵母よりもエタノール生産効率の高い遺伝子組換え酵母の研究も進められている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
しかしこれらの方法は、いずれも高コストであり、亜臨界水・超臨界水で処理する方法は特別の設備を必要とし、また遺伝子組換え酵母を使用する方法は安全性の点に懸念がある。
【0005】
【特許文献1】特開2008−086310
【特許文献2】特表2006−525029
【非特許文献1】愛媛県平成16年度愛媛衛環研年報7(2004)
【非特許文献2】バイオマス・ニッポン 小宮山宏ら著 日刊工業新聞社(2003)
【非特許文献3】原田修「水だけで分解する」亜臨界水・超臨界水のバイオマスへの利用、生物工学第84巻第1号第16頁(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、未利用資源系バイオマスや資源作物からエタノールを製造する方法を提供することである。
本発明の他の目的は、廃棄バイオマスや未利用バイオマスを利用し、バイオエタノールを安全にかつ低コストで製造する方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、例えば、廃棄バイオマスや未利用バイオマスを材料として利用し、かつ従来汎用の装置、汎用のセルラーゼ、汎用の酵母を使用して、バイオエタノールを安全に、低コストで、かつ高効率で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示すバイオエタノールの製造方法を提供するものである。
1.(A)セルロース含有材料をセルラーゼで処理してグルコースを得る工程、及び
(B)工程(A)で得られたグルコースにエタノール発酵酵母を作用させてエタノールを生成する工程を含むバイオエタノールの製造方法において、
(C)セルロース含有材料が、植物の非食用部分、紙、綿製品、再生繊維、及び木材からなる群から選ばれる少なくとも1種であること、
(D)セルラーゼが、細菌、糸状菌、又は原生生物由来のセルラーゼであること、及び
(E)エタノール発酵酵母がSaccharomyces cerevisiaeであることを特徴とする方法。
2.植物の非食用部分が、葉、茎、幹又は根である上記1記載の方法。
3.植物が、ササ、タケ、アシ、カヤ、ワタ、イネ、ムギ、トウモロコシ、サトウキビ、牧草(オーチャードグラス、メドフェクス、クローバー)、及び雑草からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記2記載の方法。
4.セルロース含有材料が、古紙、ぼろ布、廃木材、朽木、もみがら、及びイネわらからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1記載の方法。
5.セルラーゼが、糸状菌由来のセルラーゼである上記1〜4のいずれか1項記載の方法。
6.糸状菌が、Chaetomium globosum, Chaetomium indicum, Trichoderma viride、Trichoderma reesei、Aspergillus clavatus, Aspergillus giganteus, Aspergillus niger, Penicillium thomii, Penicillium soppi, Penicillium janthinellum, Gliocladium roseum, Gliocladium catenulatum, Fusarium sp., Mycelia sterilia及びClostridium thermocellumからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記5記載の方法。
7.糸状菌が、Trichoderma viride、Trichoderma reesei、Aspergillus clavatus,及びPenicillium soppiからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記6記載の方法。
8.エタノール醗酵酵母が、Saccharomyces cerevisiaeである上記1〜7のいずれか1項記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、廃棄バイオマスや未利用バイオマスを利用し、バイオエタノールを安全かつ低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、(A)セルロース含有材料をセルラーゼで処理してグルコースを得る工程、及び(B)工程(A)で得られたグルコースにエタノール発酵酵母を作用させてエタノールを生成する工程を含むバイオエタノールの製造方法において、
(C)セルロース含有材料として、植物の非食用部分、紙、綿製品、再生繊維、木材、牧草(オーチャードグラス、メドフェクス、クローバー)、及び雑草からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用すること、
(D)セルラーゼとして、細菌、糸状菌、又は原生生物由来のセルラーゼを使用すること、及び
(E)エタノール発酵酵母としてSaccharomyces cerevisiaeを使用することを特徴とする方法である。
特に、本発明は、セルロース含有材料として植物の葉、茎、幹、根等の非食用部分を使用することが好ましい。
【0010】
好ましい植物は、ササ、タケ、アシ、カヤ、ワタ、イネ、ムギ、トウモロコシ、サトウキビ、牧草(オーチャードグラス、メドフェクス、クローバー)、雑草等の葉、茎、幹、根が特に好ましい。これらの中でも、ササ、アシ、カヤは、特に播種しなくても自然に大量に自生し、栽培の必要がなく、葉や茎を採取しても根を残しておけば短期間に再度採取が可能であり、特に好ましい材料である。
本発明のセルロース含有材料としてはさらに、古紙、ぼろ布(綿製品、綿混紡製品)、廃木材、朽木、もみがら、イネわら等、セルロースを多量に含有する材料が好ましい。これらの多くは従来いずれも特定の有益な用途を有するものではなく、逆に廃棄物として燃焼その他の廃棄処理がなされていたものである。
【0011】
本発明に使用するセルラーゼはセルロースを加水分解して糖化する能力を有するものであれば特に限定されず、各種の既知のセルラーゼを使用することができる。特に、糸状菌由来のセルラーゼが、入手が容易であり、価格も安く、糖化効率も高いものが多いことから望ましい。これらの中でも、Chaetomium globosum, Chaetomium indicum, Trichoderma viride、Trichoderma reesei、Aspergillus clavatus, Aspergillus giganteus, Aspergillus niger, Penicillium thomii, Penicillium soppi, Penicillium janthinellum, Gliocladium roseum, Gliocladium catenulatum, Fusarium sp., Mycelia sterilia又はClostridium thermocellum由来のもの、特にTrichoderma viride、Trichoderma reesei、Aspergillus clavatus又はPenicillium soppi由来のものが好ましい。
エタノール醗酵酵母としては典型的なSaccharomyces cerevisiaeを使用することができる。
【0012】
セルロース含有材料は、好ましくは、乾燥し、カッターミル等で粉末状にする。
さらに、好ましくは、脂肪族アルコール、ケトン、エーテル、エステル、芳香族炭化水素あるいはこれらの混合溶媒、例えば、エタノール/ベンゼン=2 / 1混合溶媒等に浸漬処理等を施し、例えば、セルロース含有材料の固形分100 gに溶媒2.5〜3.0 Lを加えて、室温程度で7〜10日程度浸漬処理し、油脂、色素、樹脂、精油などの有機溶媒可溶分を抽出し、これを濾過して抽出成分を除去後、不溶分を完全に乾燥させることが望ましい。
【0013】
こうして、好ましくは、予め有機溶媒可溶分を抽出、除去したセルロース含有材料をセルラーゼで処理してグルコースを得る工程、及び得られたグルコースにエタノール発酵酵母を作用させてエタノールを生成する工程は、いずれも既知の方法と同じで良い。
例えば、セルロース含有材料100 gを水4.5〜5 Lを加え、セルラーゼを1.0〜1.5 g加えて、37〜38℃で10〜12時間程度糖化処理を行う。次いで、グルコース溶液5Lに対して、濁度1.0〜1.5程度のエタノール発酵酵母液を500〜600 ml加え、25〜30℃で1〜2時間程度、必要により攪拌しながら発酵処理を行い、エタノールを得る。
得られたエタノールは蒸留その他の精製処理により精製する。
以下実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0014】
実施例1
(1)本発明者は、未利用資源系バイオマスとしてのササの可能性について検討した。まず始めにセルロースとともにヘミセルロース、リグニンの定量を行った。その後、実際に糖化醗酵試験を行い、ササからのバイオエタノール生産を試みた。
(2)一般操作:
カッターミルは大阪ケミカル株式会社 Wander Blender WB-1を使用した。紫外可視分光光度計はUV-Vis HITACHI U-4000Sを用いた。
【0015】
(3)ササの葉中に含まれるセルロース、リグニンの定量とその比較
セルロースは多数のβ-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子である。また、ヘミセルロースは植物細胞壁に含まれるセルロースを除く水に対して不溶性の多糖類の総称であり、セルロースとヘミセルロースを合わせてホロセルロースと称する。リグニンは高等植物の木化に関与する高分子のフェノール性化合物である。まず始めにササの葉に含まれる糖化醗酵原料となるセルロースと糖化醗酵工程を阻害するリグニンの定量を行った。
【0016】
(4)抽出成分の除去
カッターミルを用いて粉末状にしたササとスギの葉およびスギ、ブナの心材を試料とした。それぞれ4 g(乾燥質量)を混合溶媒(エタノール/ベンゼン=2 / 1)100 mlに1週間浸漬して油脂、色素、樹脂、精油などの有機溶媒可溶分を抽出した。これを濾過して抽出成分を除去後、不溶分を完全に乾燥させた。3.6 gの抽出残渣が得られた。
(5)ホロセルロースの定量(ワイズ法;リグニンを溶出除去してホロセルロースを残渣として定量する方法)
(4)で抽出処理した残渣2.0 gに蒸留水150 mlを加えた。次いで亜塩素酸ナトリウム1.0 g、酢酸0.2 mlを加え、軽く攪拌しながら70-80℃の湯浴中で1時間加熱した。さらに冷却することなく再び亜塩素酸ナトリウム1.0 g、酢酸0.2 mlを加えて反復処理した。この操作をササとスギの葉では2回、ブナの心材では3回、スギの心材では4回行った。内容物が白色化したことを確認し、濾過して蒸留水およびアセトンで順次洗浄した。この濾過残渣を完全に乾燥後、秤量してホロセルロース量とした。
【0017】
(6)セルロースの定量(クロス・ビバンセルロース法;アルカリに溶けやすいヘミセルロースを溶出除去しセルロースを定量する方法)
(5)で調製した各試料のホロセルロース1.0 gに17.5 %水酸化ナトリウム水溶液25 mlを加え、30分間静置した。これを5分間攪拌し、そこに蒸留水25 ml加えて5分間静置した。これを濾過して蒸留水および10 %酢酸で順次洗浄した。この濾過残渣を完全に乾燥後、秤量してセルロース量とした。
(7)ヘミセルロースの定量
ホロセルロース量からセルロース量を減じることで算出した。
(8)リグニンの定量(クラーソン法;ホロセルロースを溶出除去し、リグニンを縮合反応させて残渣として定量する方法)
(4)で抽出処理した残渣1.0 gに72 %硫酸20 mlを加え、均一になるよう攪拌した後、4時間静置した。これに蒸留水765 mlで希釈(硫酸濃度約3 %)し、4時間還流した。放冷後、濾過して熱蒸留水で洗浄した。この濾過残渣を完全に乾燥後、秤量してリグニン量とした。
(9)セルロースとヘミセルロースおよびリグニンの定量結果を表1にまとめて示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1よりササの葉抽出残渣はスギの葉抽出残渣と比較して糖化醗酵原料となるセルロースの割合が高く、分解過程を阻害するリグニンの割合は低かった。また、スギおよびブナの心材の抽出残渣と比べるとセルロースの割合は低いが、リグニンの割合も低かった。この結果よりササの葉抽出残渣は比較的バイオエタノール原料に適していると判断した。
【0020】
実施例2
ササの葉抽出残渣の糖化試験
(1)実施例1の定量結果よりササの葉抽出残渣はセルロース量が多く、リグニン量が少ないことから比較的バイオエタノール原料として適していることがわかった。この実施例では、実際にバイオエタノール生産を試みた。その第1段階として糖化試験を行った。糖化試験はセルラーゼによる酵素分解で行った。
(2)セルラーゼによるセルロース分解ではα-、β-グルコースがともに生じる。そのためグルコースの定量はα-、β-グルコースが両方検出できるムタロターゼ・GOD法を用い、糖化率を算出した。グルコース定量法の原理は、まず試料中のグルコースをムタロターゼの作用によりα型からβ型へすみやかに変換する。β-D-グルコースは、グルコースオキシターゼ(GOD)の作用を受けて酸化され、同時に過酸化水素を生じる。生成した過酸化水素は、ペルオキシターゼ(POD)の作用により4-アミノアンチピリンとフェノールとを定量的に酸化縮合させ、赤色色素を生成させる。この赤色色素の吸光度(505 nm)を測定することにより試料中のグルコース濃度を求めるというものである。
【0021】
(3)混合溶媒(エタノール/ベンゼン=2 / 1)で抽出成分を除去したササの葉抽出残渣5 gに蒸留水250 ml加え、よく攪拌した。そこにセルロシンT2(糸状菌(Trichoderma viride)を起源とするセルラーゼ製剤;HBI株式会社)50 mgを加え、攪拌しながら37℃にてセルロースの分解を行った。時間毎にサンプリングしてムタロターゼ・GOD法にてグルコースを定量し、糖化率を算出した。結果を図1に示す。
実施例1の結果からササの葉抽出残渣には約40 %のセルロースが含有している。そのセルロースが完全に加水分解され、全てグルコースとなった時を糖化率100 %とし、糖化率を計算した。図1から10時間までは1次関数的に糖化率が上昇し、その後は約98 %とほぼ一定となった。したがってセルラーゼによるセルロース分解の最適時間を10時間に設定した。
(4)塩酸や硫酸による酸加水分解も検討したが、加熱や中和作業など極めて煩雑であった。
この実施例では、市販の酵素セルラーゼを用いて糖加水分解を行い、37℃、10時間の反応という穏和な条件でほぼ定量的に糖化が完了し、中和や脱塩処理作業などを必要とせず、次のアルコール醗酵工程に用いられる糖化液を調製することができた。
【0022】
実施例3
ササの葉抽出残渣糖化液のエタノール醗酵試験
(1)この実施例ではエタノール醗酵酵母であるSaccharomyces cerevisiae NBRC 0216を用いて糖化液のエタノール醗酵を行い、醗酵率を算出した。また、ササの葉抽出残渣からのバイオエタノール変換効率についても算出した。
(2)エタノールの定量は次のように行った。
まず生成されたエタノールをアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)でアセトアルデヒドに変換する。この時、同時に酸化型NADが還元型NADへと変換される。その後、アセトアルデヒドはアルデヒドデヒドロゲナーゼ(Al-DH)により酢酸へと変換され、また同時に還元型NADも生成される。このようにアルコール醗酵の逆反応を行い間接的にNADHを定量することで醗酵率を算出した。NADHの定量は、紫外部吸光法を用い、340 nmで測定した。
(3)まず、Yeast Malt Agarを用いてSaccharomyces cerevisiae NBRC 0216を前培養した。菌液は濾過したササの葉抽出残渣の糖化液200 mlに対して菌液20 ml(濁度1.3程度)加え、30℃にて攪拌しながら醗酵させた。時間毎にサンプリングし、醗酵率を算出した。結果を図2に示す。
ササの葉抽出残渣に約40 %含有しているセルロースが98 %糖化された。そのグルコースが完全にアルコール醗酵され、全てエタノールへと変換された時を醗酵率100 %とし、醗酵率を計算した。図2から30分までは1次関数的に醗酵率が上昇し、その後は18 %とほぼ一定となった。グルコースの定量も行ったところ、30分時点ですでに全て消費されていた。
(4)ササの葉から抽出成分を除去した抽出残渣をセルラーゼによって98 %糖化し、そのうち18 %がアルコール醗酵によりエタノールに変換された。すなわち、ササの葉抽出残渣からの変換効率17.5 %でバイオエタノールを生産したことになる。
これはササの葉(乾燥質量)からの変換効率15.5 %でバイオエタノールを生産したことになる。
【0023】
実施例4
種々の材料中のセルロース、ヘミセルロース及びリグニン含有量をP.J.Van Soest らの方法(Proc. Nutr. Soc., 32, 123(1973))により調べた。結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

これらの材料はリグニンの含有量が低く、本発明のバイオエタノールの製造原料として好適であることがわかる。
【0025】
実施例5
種々の材料を、72%硫酸中、室温で1時間攪拌後、4%硫酸、オートクレーブ中(121℃)、1時間加水分解し、材料中の糖組成を調べた。結果を表3にまとめて示す。
【0026】
【表3】

【0027】
実施例6
綿と新聞紙の糖化試験結果
綿(セルロース94.3%:日本食品分析センター調べ)と新聞紙(セルロース81.5%:日本食品分析センター調べ)各々2 gに蒸留水100 mlを加え、よく攪拌した。そこにセルロシンT2(糸状菌(Trichoderma viride)を起源とするセルラーゼ製剤;HBI株式会社)20 mgを加え、攪拌しながら37℃にてセルロースの分解を行った。時間毎にサンプリングしてムタロターゼ・GOD法にてグルコースを定量した。
結果を図1に示す。横軸に糖化時間(分)、縦軸に産出されたグルコースの量(mg)を示す。新聞紙の糖化率(糖化前に含有するセルロース量÷糖化後産出させたグルコースの量)が17%、綿(布)の糖化率が21%であった。
【0028】
実施例7
雑草(セルロース13.3%:日本食品分析センター調べ)および牧草(セルロース36.7%:日本食品分析センター調べ)を細かく粉砕し、各々4 gづつを混合溶液(エタノール/ベンゼン=2 / 1)100 mlに1週間浸漬し、抽出成分(植物色素、油脂など)の除去を行った。その後、濾過し、乾燥させて、各々の抽出残渣を得た。雑草の抽出残渣は3.57 g、牧草の抽出残渣は3.75 gであった。この抽出残渣を後のサンプルとした。
【0029】
混合溶液(エタノール/ベンゼン=2 / 1)で脂溶性成分を除去した各々のサンプル(抽出残渣)2 gに蒸留水100 ml加え、よく攪拌した。そこにセルロシンT2(糸状菌(Trichoderma viride)を起源とするセルラーゼ製剤;HBI株式会社)20 mgを加え、攪拌しながら37℃にてセルロースの分解を行った。時間毎にサンプリングしてムタロターゼ・GOD法にてグルコースを定量した。
結果を図1に示す。横軸に糖化時間(分)、縦軸に産出されたグルコースの量(mg)を示す。
笹の葉の抽出残渣は徐々に糖化されるのに対し、雑草および牧草の抽出残渣ではほぼ2時間以内に糖化が完了する。セルロース含量から計算した糖化率は雑草の抽出残渣が78%、牧草の抽出残渣が75%で笹の葉の抽出残渣98%であった。産出されるグルコースの量は笹の葉の抽出残渣の方が多いが雑草、牧草もグルコースの供給源となりアルコール発酵の原料として用いられる事を確認した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例2、6及び7において、種々の材料をセルラーゼ処理した際の処理時間と糖化率の関係を示すグラフである。
【図2】実施例3において、ササの葉抽出残渣の糖化液に発酵酵母を作用させてアルコール発酵させた際の発酵時間と醗酵率の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロース含有材料をセルラーゼで処理してグルコースを得る工程、及び
(B)工程(A)で得られたグルコースにエタノール発酵酵母を作用させてエタノールを生成する工程を含むバイオエタノールの製造方法において、
(C)セルロース含有材料が、植物の非食用部分、紙、綿製品、再生繊維、及び木材からなる群から選ばれる少なくとも1種であること、
(D)セルラーゼが、細菌、糸状菌、又は原生生物由来のセルラーゼであること、及び
(E)エタノール発酵酵母がSaccharomyces cerevisiaeであることを特徴とする方法。
【請求項2】
植物の非食用部分が、葉、茎、幹、又は根である請求項1記載の方法。
【請求項3】
植物が、ササ、タケ、アシ、カヤ、ワタ、イネ、ムギ、トウモロコシ、サトウキビ、牧草、及び雑草からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項2記載の方法。
【請求項4】
セルロース含有材料が、古紙、ぼろ布、廃木材、朽木、もみがら、及びイネわらからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の方法。
【請求項5】
セルラーゼが、糸状菌由来のセルラーゼである請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
糸状菌が、Chaetomium globosum, Chaetomium indicum, Trichoderma viride、Trichoderma reesei、Aspergillus clavatus, Aspergillus giganteus, Aspergillus niger, Penicillium thomii, Penicillium soppi, Penicillium janthinellum, Gliocladium roseum, Gliocladium catenulatum, Fusarium sp., Mycelia sterilia及びClostridium thermocellumからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5記載の方法。
【請求項7】
糸状菌が、Trichoderma viride、Trichoderma reesei、Aspergillus clavatus,及びPenicillium soppiからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項6記載の方法。
【請求項8】
エタノール醗酵酵母が、Saccharomyces cerevisiaeである請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−291154(P2009−291154A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149783(P2008−149783)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(594155551)
【Fターム(参考)】