説明

バイオエタノール製造方法

【課題】糖質原料やデンプン質原料とは別のバイオマス原料からエタノールを製造可能なバイオエタノール製造方法の提供。
【解決手段】第1の工程S1でセルロースを含有するバイオマス原料を砕いて第1の処理物M1をつくり、第2の工程S2で第1の処理物M1に硫酸Aを噴霧して撹拌して第2の処理物M2をつくり、第3の工程S3で第2の処理物M2に水を加えセルロースを加水分解して第3の処理物M3をつくり、第4の工程S4で第3の処理物M3から固形物Sを除去して第4の処理物M4をつくり、第5の工程S5で第4の処理物M4から硫酸Aを除去して第5の処理物M5をつくり、第6の工程S6で麹菌により第5の処理物M5の糖度を上げて第6の処理物M6をつくり、第7の工程S7でエタノール発酵菌により第6の処理物M6から発酵もろみM7をつくり、第8の工程S8で発酵もろみM7からエタノールM8を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースを含有するバイオマス原料からエタノールを製造するバイオエタノール製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化への対策として、石油の使用量を減らし、エタノールを燃料として使用する動きが顕著になってきている。これまで工業用エタノールの生産は主にエチレンの水和反応によりなされていた。しかし、最近になってバイオマス原料から製造されるエタノールが増えつつある。
現在、エタノールを製造するために広く使われているバイオマス原料には、糖質原料とデンプン質原料がある。糖質原料の主なものはサトウキビの搾り汁であり、デンプン質原料の主なものはトウモロコシである。
【0003】
糖質原料は酵母を接種するだけで発酵するので、エタノールが簡単に得られる。デンプン質原料にあっては、先ず、酵素によってデンプン質を糖化し、その後、酵母による発酵を行う。
これまでに、糖質原料やデンプン質原料からエタノールを生産する技術は色々と提唱されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−65695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、エタノールを製造するために用いられる糖質原料やデンプン質原料は、生物の食料としても重要な資源である。特に食糧危機が取りざたされている昨今では、糖質原料やデンプン質原料から燃料を製造することが問題視されつつある。
本発明は、上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、糖質原料やデンプン質原料とは別のバイオマス原料からエタノールを製造するバイオエタノール製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、その課題を解決するために以下のような構成をとる。請求項1の発明に係るバイオエタノール製造方法は、セルロースを含有するバイオマス原料を砕き第1の処理物を得る第1の工程と、前記第1の処理物に硫酸を噴霧して撹拌し、バイオマス原料に由来するセルロースを非結晶化して第2の処理物をつくる第2の工程と、前記第2の処理物に水を加え、前記第2の処理物中の硫酸を希釈し、この希釈した硫酸中で、前記第2の工程でセルロースが非結晶化してできた生成物を加水分解して単糖類にし、リグニンを含む固形物と、硫酸及び単糖類を含む糖液と、からなる第3の処理物をつくる第3の工程と、前記第3の処理物を、リグニンを含む固形物と、硫酸及び単糖類を含むと糖液と、に分離し、この分離した糖液を第4の処理物とする第4の工程と、前記第4の処理物から、硫酸を分離し、この硫酸を分離した糖液を第5の処理物とする第5の工程と、前記第5の処理物に麹菌を接種し、前記第5の処理物中の糖度を上げて第6の処理物とする第6の工程と、前記第6の処理物にエタノール発酵菌を接種し、前記第6の処理物中でエタノール発酵を行い、エタノール発酵を終えた前記第6の処理物を発酵もろみとする第7の工程と、前記発酵もろみ中のエタノールを蒸留して取り出す第8の工程と、からなる。
【0007】
このバイオエタノール製造方法においては、セルロースを含有するバイオマス原料からエタノールが製造される。セルロースを含有するバイオマス原料として、木、草、農作物の残渣がある。具体的には、例えば、建築廃材、間伐材、麦わら、サトウキビの搾りかす、トウモロコシの茎や葉等がセルロースを含有するバイオマス原料になる。
第1の工程において、セルロースを含有するバイオマス原料が砕かれて第1の処理物になる。バイオマス原料を砕くことによって、次の第2の工程における第1の処理物と硫酸との接触面積が増大する。
【0008】
第2の工程において、第1の処理物に硫酸を噴霧して撹拌すると、硫酸によってバイオマス原料に由来するセルロースが非結晶化する。こうして得られたものが第2の処理物である。
第3の工程において、第2の処理物に水を加えると、第2の処理物中の硫酸が希釈される。第2の処理物中のセルロースが非結晶化してできた生成物は、希釈された硫酸によって加水分解され、単糖類になる。セルロースを含有するバイオマス原料は、リグニンを含んでいる。このリグニンは第2の工程及び第3の工程において分解せず、そのまま存在する。したがって、第3の処理物中には、硫酸及び単糖類を含む糖液と、リグニン等の固形物が存在している。
【0009】
第4の工程において、第3の処理物から、硫酸及び単糖類を含む糖液と、リグニン等の固形物とを分離する。そして、固形物を分離して得られる糖液が第4の処理物である。なお、第4の工程での分離は遠心分離によって行ってもよいし、比重沈降を用いてもよい。また、フィルタやメッシュを用いて第3の処理物をろ過してもよい。
第5の工程において、第4の処理物から硫酸を分離すると、単糖類を含む糖液が得られる。こうして得られる糖液が第5の処理物である。
【0010】
第6の工程において、第5の処理物に麹菌を接種すると、麹菌の働きによって第5の処理物の糖度が上昇する。糖度が上昇した第5の処理物が第6の処理物である。
第7の工程において、第6の処理物にエタノール発酵菌を接種すると、エタノール発酵菌の働きによって第6の処理物中でエタノール発酵が起こり、第6の処理物は発酵もろみとなる。
第8の工程において、発酵もろみ中のエタノールを蒸留し、エタノールを取り出すことができる。得られたエタノールを必要に応じて濃縮し、脱水する。
【0011】
請求項2の発明に係るバイオエタノール製造方法は、請求項1に記載のバイオエタノール製造方法であって、前記第1の工程に供給するバイオマス原料の含水率が15wt%以下である。
第1の工程に供給されるバイオマス原料の含水率が高い場合、事前にバイオマス原料の乾燥を行うことが好ましい。バイオマス原料が多量の水分を含んでいると、第7の工程で得られる発酵もろみ中の水分が多くなる。この結果、発酵もろみ中のエタノールの濃度が低下してしまう。第8の工程で発酵もろみからエタノールを効率よく蒸留する観点からすると、第1の工程に供給されるバイオマス原料の含水率は15wt%以下であることが好ましい。
バイオマス原料の乾燥方法は、バイオマス原料にあわせて適宜選択すればよい。例えば、天日干しでバイオマス原料を乾燥させてもよいし、乾燥機を用いてバイオマス原料を乾燥させてもよい。第4の工程において分離された固形物を燃やして乾燥機の熱源とすることが可能である。
【0012】
請求項3の発明に係るバイオエタノール製造方法は、請求項1又は請求項2に記載のバイオエタノール製造方法であって、前記第1の工程において、バイオマス原料を開き目が2〜3mmのメッシュを通過する粒子径まで砕く。
バイオマス原料を開き目が2〜3mmのメッシュを通過する粒子径まで砕くことにより、第2の工程において、硫酸と接触する第1の処理物の表面積が増大する。
【0013】
第1の処理物が、3mmよりも大きな開き目のメッシュを通過する粒子径を有する場合、第2の工程において、硫酸と接触する第1の処理物の表面積が充分に広いとは言えず、セルロースの非結晶化に時間がかかりすぎる。また、第1の処理物が、2mm未満の開き目のメッシュを通過する粒子径を有する場合、第1の工程に要する時間がかかりすぎる。したがって、第2の工程において、硫酸と接触する第1の処理物の表面積の広さの観点と、第1の工程に要する時間の観点から、第1の処理物は2〜3mmの開き目のメッシュを通過する粒子径を有することが好ましい。
【0014】
請求項4の発明に係るバイオエタノール製造方法は、請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法であって、前記第2の工程で噴霧する硫酸の濃度が70〜75wt%であり、前記第2の工程で噴霧する硫酸の質量からこの硫酸に含まれる水の質量を引いた値を、前記第2の工程に送られる前記第1の処理物の質量で除した値が、0.9〜1.1である。
【0015】
第2の工程で噴霧する硫酸の濃度が70〜75wt%であれば、バイオマス原料に由来するセルロースが非結晶化し、硫酸中に可溶化する。噴霧する硫酸の濃度が75wt%を超えると、セルロースがすぐに炭化してしまう。噴霧する硫酸の濃度が70wt%未満であると、セルロースの非結晶化に要する時間が長くなりすぎたり、セルロースが充分に非結晶化しなかったりする。したがって、第2の工程で噴霧する硫酸の濃度は70〜75wt%であることが好ましい。
【0016】
第2の工程で噴霧する硫酸の質量からこの硫酸中に含まれる水の質量を引いた値を、第2の工程に送られる第1の処理物の質量で除した値が、0.9〜1.1であれば、セルロースの非結晶化が効率よく行われる。この値が1.1を超えていても、セルロースの非結晶化が特に促進されるわけではなく、硫酸を無駄に使うだけである。また、この値が0.9未満であれば、セルロースの非結晶化が不充分なものになるおそれが生じる。したがって、この値は0.9〜1.1であることが好ましい。試行錯誤して発明者が得た知見によれば、この値は1.0であることが最も好ましい。
【0017】
請求項5の発明に係るバイオエタノール製造方法は、請求項1から請求項4のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法であって、前記第3の工程において、前記第2の処理物に水を加えて希釈した硫酸の濃度が20〜30wt%であり、この希釈した硫酸の温度を30〜40℃とし、セルロースが非結晶化した前記生成物をこの希釈した硫酸中で3〜5分間加水分解する。
【0018】
第2の処理物に水を加えて得られる硫酸の濃度が20〜30wt%であれば、第2の処理物中のセルロースが非結晶化してできた生成物は、充分に加水分解されて単糖類になる。硫酸の濃度が30wt%を超えていても、この生成物の加水分解が工業的に有意に促進されるわけではない。また、硫酸の濃度が20wt%未満であれば、生成物の加水分解に要する時間が長くなりすぎたり、生成物の加水分解が不充分なものになるおそれがある。したがって、第2の処理物に水を加えて得られる硫酸の濃度は20〜30wt%であることが好ましい。
【0019】
第2の処理物に水を加えて得られる硫酸の温度が30〜40℃であれば、セルロースが非結晶化してできた生成物の加水分解は、3〜5分間で完了する。硫酸の温度を30〜40℃とするには、第2の処理物に温めた水を加えればよい。また、第2の処理物に常温の水を加えて加熱してもよい。この加熱に当たっては、第4の工程において分離された固形物を燃やして加熱の熱源とすることが可能である。
硫酸の温度が40℃を超えていても、生成物の加水分解が、工業的に有意に促進されるわけではない。また、硫酸の温度が30℃未満であれば、生成物の加水分解に要する時間が長くなりすぎる。したがって、第2の処理物に水を加えて得られる硫酸の温度は30〜40℃であることが好ましい。
【0020】
請求項6の発明に係るバイオエタノール製造方法は、請求項1から請求項5のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法であって、前記第5の工程において、前記第4の処理物から硫酸を分離するために陰イオン交換樹脂を用いる。
陰イオン交換樹脂を用いることによって、第4の処理物を、硫酸を含む液体と硫酸を含まない液体とに分離できる。例えば、陰イオン交換樹脂によるクロマトグラフィを利用して第4の処理物中の硫酸イオンを捕捉すればよい。
第4の処理物から分離した硫酸の濃度を高めれば、第2の工程において第1の処理物に噴霧する硫酸として再利用できる。硫酸の濃度を高める場合、硫酸中の水分を蒸発させてもよいし、硫酸を一度熱分解してから合成してもよい。
【0021】
請求項7の発明に係るバイオエタノール製造方法は、請求項1から請求項6のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法であって、前記第6の工程において、前記第5の処理物に接種する麹菌の質量が、前記第5の処理物の質量の5〜10%であり、麹菌を接種した前記第5の処理物を30〜40℃の温度で360〜390分間保つ。
第5の処理物に接種する麹菌の質量が第5の処理物の質量の10%を超えていても、10%の場合と比べて、第5の処理物における糖度の増加速度が特に速くなるわけではないし、第6の処理物の糖度が特に高くなるわけでもない。また、第5の処理物に接種する麹菌の質量が、第5の処理物の質量の5%未満であれば、第5の処理物における糖度の増加速度が遅くなりすぎる。したがって、第5の処理物に接種する麹菌の質量は、第5の処理物の質量の5〜10%であることが好ましい。
【0022】
麹菌を接種した第5の処理物の温度が40℃を超える場合、接種した麹菌が死んでしまうので好ましくない。麹菌を接種した第5の処理物の温度が30℃未満である場合、麹菌の活動が充分に行われないのでやはり好ましくない。
また、麹菌を接種した第5の処理物を30〜40℃の温度に保つ時間が390分間を超えると、第5の処理物中の糖度の上昇速度は非常に遅くなり、糖度の上昇量も非常に小さくなってしまう。麹菌を接種した第5の処理物を30〜40℃の温度に保つ時間が360分間未満である場合、第5の処理物中の糖度の上昇速度は遅く、糖度も充分に上昇しない。したがって、麹菌を接種した第5の処理物を30〜40℃の温度に保つ時間は360〜390分間であることが好ましい。
第5の処理物を30〜40℃の温度に保つために熱源が必要な場合、第4の工程において分離された固形物を燃やしてその熱源とすることが可能である。
【0023】
請求項8の発明に係るバイオエタノール製造方法は、請求項1から請求項7のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法であって、前記第7の工程において、エタノール発酵が回分発酵であり、エタノール発酵菌がサッカロミセスセルビシエであり、エタノール発酵菌を接種した前記第6の処理物のpHを4.0〜4.5とするとともに、温度を30〜35℃に保つ。
サッカロミセスセルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を用いてエタノール発酵を行う場合、その発酵が活発に行われる条件として、pHが4.0〜4.5であり温度が30〜35℃である環境が必要である。
【0024】
サッカロミセスセルビシエ以外のエタノール発酵菌を使うことも可能である。しかし、発明者が行った試験によれば、エタノールの収率の観点からサッカロミセスセルビシエによる発酵が最も好ましい。なお、サッカロミセスセルビシエ以外に使用できるエタノール発酵菌として、例えば、マンノース等の6単糖やキシロース等の5単糖の発酵能を付与した遺伝子組み換えジモモナスモビリス(Zymomonas mobilis)を挙げることができる。
【0025】
請求項9の発明に係るバイオエタノール製造方法は、請求項1から請求項8のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法であって、セルロースを含有するバイオマス原料がジャトロファの果肉である。
ジャトロファはジャラックともいう植物であり、その学名はナンヨウアブラギリである。ジャトロファの種子は油分に富み、石鹸や医薬品等の原料にもなるほかバイオディーゼル油の原料として利用されている。そして、東南アジアではジャトロファを栽培する農園が増えつつある。
【0026】
しかし、現状では、ジャトロファの果肉はほとんど利用されずに廃棄されている。ジャトロファを栽培する農園の近隣にジャトロファの果肉からバイオエタノールを製造する設備を設けることにより、廃棄されていたジャトロファの果肉を有効利用することができる。そして、流通コストや原料費の点で非常に有利なバイオエタノールを製造することができる。また、ジャトロファから製造したバイオエタノールを燃料として使用することにより、二酸化炭素排出量の削減に寄与することも可能になる。
なお、ジャトロファの果肉をバイオマス原料とした場合、第7の工程においてサッカロミセスセルビシエを用いると、エタノール発酵が最も効率よく行われる。
【発明の効果】
【0027】
上記のようなバイオエタノール製造方法であるので、糖質原料やデンプン質原料とは別のバイオマス原料からエタノールを製造することができる。そして、食料や飼料として利用する糖質原料やデンプン質原料の量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】バイオエタノール製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係るバイオエタノール製造方法を図1を参照しつつ説明する。
バイオエタノール製造設備1は、乾燥機10、粉砕機12、槽14、固液分離装置16、硫酸分離装置20、硫酸濃縮装置22、槽24、蒸留装置26を有している。そして、バイオエタノール製造設備1はジャトロファを栽培する農園に隣接して設けられている。
乾燥機10は燃焼室(図示略)と乾燥室(図示略)を有しており、燃焼室で燃料を燃やすときに発生する熱により乾燥室内に入っているものを乾燥可能に構成されている。
【0030】
粉砕機12は内部に破砕刃(図示略)を有しており、バイオマス原料を開き目が3〜2mmのメッシュを通過する粒子径になるまで砕くことを可能に構成されている。
槽14は中空容器であり、槽14内のものを撹拌するインペラ(図示略)を有する。
固液分離装置16は内部にフィルタ(図示略)を有しており、このフィルタによって固液分離装置16に入る液体から固体を分離可能に構成されている。
【0031】
槽18は中空容器である。
硫酸分離装置20は陰イオン交換樹脂を充填したカラム(図示略)を有し、このカラムを通る液体中から硫酸をイオン交換クロマトグラフィによって分離可能に構成されている。
硫酸濃縮装置22は硫酸の濃度を硫酸から水分を蒸発させることにより濃縮可能に構成されている。
槽24は中空容器である。
蒸留装置26はもろみ塔(図示略)と濃縮塔(図示略)と脱水塔(図示略)とを有する。
バイオエタノール製造設備1は上記した構成を有する。次に、バイオエタノール製造設備1を用いてセルロースを含有するバイオマス原料からエタノールを製造する方法について述べる。
【0032】
農園において収穫されたジャトロファの実から種子と果肉Fが分離され、種子はバイオディーゼル油の製造工場に搬送され、果肉Fがバイオエタノール製造設備1に搬送される。この果肉Fがセルロースを含有するバイオマス原料である。農園から搬出された果肉Fの含水率はおよそ60wt%である。バイオエタノール製造設備1は農園に隣接しているので、果肉Fの搬送コストは非常に安い。
【0033】
バイオエタノール製造設備1において、果肉Fは乾燥機10の乾燥室に投入される。そして、乾燥機10が果肉Fの乾燥を行い、果肉Fの含水量は15wt%となる。
次いで、含水量が15%になった果肉Fは粉砕機12に投入され、粉砕機12が果肉Fを開き目が3〜2mmのメッシュを通過する粒子径になるまで砕く。粉砕機12で砕かれた果肉Fが第1の処理物M1である。
【0034】
乾燥機10による果肉Fの乾燥から粉砕機12によって果肉Fを第1の処理物M1にするまでの工程が第1の工程S1である。
なお、第1の工程S1で得られた第1の処理物M1に、他のセルロースを含有するバイオマス原料を粉砕して加えてもよい。この場合、第1の処理物M1中において、他のセルロースを含有するバイオマス原料の質量が、果肉Fの質量の10〜20%であることが好ましい。
【0035】
第1の工程S1で得られた第1の処理物M1は、槽14に投入される。槽14内において、第1の処理物M1に70〜75wt%の硫酸Aが噴霧される。第1の処理物M1に噴霧する硫酸Aの質量からこの硫酸A中に含まれる水の質量を引いた値は、槽14に投入した第1の処理物M1の質量と同じ値である。
そして、硫酸Aを噴霧された第1の処理物M1は、インペラによって槽14内で3〜5分間撹拌される。この撹拌によって、硫酸Aが第1の処理物M1の表面に満遍なく接触する。3〜5分間第1の処理物M1と硫酸Aを撹拌すると、第1の処理物M1中の果肉Fに由来するセルロースは非結晶化し、槽14内のものが第2の処理物M2となる。
【0036】
槽14内に第1の処理物M1を投入してから槽14内で第2の処理物M2を得るまでの工程が第2の工程S2である。
第2の工程S2が終わったら、槽14内の第2の処理物M2に温水Wを加え、槽14内の硫酸Aの濃度を20〜35wt%にする。温水Wの温度は、温水Wを投入した後に槽14内で硫酸Aの温度を30〜40℃に維持可能な温度である。温水Wを投入すると槽14内で加水分解反応が始まる。そして、第2の処理物M2中のセルロースが非結晶化してできた生成物は単糖類になる。加水分解により生じる単糖類はグルコース等のC5単糖類やC6単糖類である。
【0037】
なお、ここまでの処理において、果肉F中に存在していたリグニンは変化せずにそのまま存在している。そして、槽14内には、リグニンを含む固形物Sと、硫酸A及び単糖類を含む糖液とが、存在しており、これらが第3の処理物M3となる。
第2の処理物M2に温水Wを加えてから第3の処理物M3を得るまでの工程が第3の工程S3である。
第3の工程S3が終わったら、槽14内の第3の処理物M3を固液分離装置16のフィルタに通し、リグニンを含む固形物Sと、硫酸A及び単糖類を含む糖液とを分離する。第3の処理物M3から固形物Sを分離して得られる糖液が第4の処理物M4である。分離した固形物Sは乾燥機10の燃焼室に送られて燃やされ、果実Fを乾燥する際の熱源として利用される。
【0038】
第3の処理物M3を固液分離装置16に通して第4の処理物M4を得る工程が第4の工程S4である。
第4の工程S4が終わったら、第4の処理物M4を硫酸分離装置20に送り、第4の処理物M4を陰イオン交換樹脂を充填したカラムに通す。第4の処理物M4中の硫酸Aは陰イオン交換樹脂に捕捉され、第4の処理物M4は硫酸Aと単糖類を含む糖液とに分離される。硫酸Aを分離した糖液が第5の処理物M5である。
分離された硫酸Aは硫酸濃縮装置22に送られ、70〜75wt%の濃度に濃縮される。硫酸濃縮装置22で濃縮された硫酸Aは第2の工程S2に戻され、再び、第1の処理物M1に噴霧される。
第4の処理物M4を硫酸分離装置20に通して第5の処理物M5を得るまでの工程が第5の工程S5である。
【0039】
第5の工程S5が終わったら、第5の処理物M5を槽24に投入し、槽24内の第5の処理物M5に麹菌B1を接種する。接種する麹菌B1の質量は、槽24に投入した第5の処理物M5の質量の5〜10%である。そして、槽24内で第5の処理物M5を30〜40℃の温度に360〜390分間保つ。麹菌B1の働きによって第5の処理物M5の糖度が上昇する。糖度が上昇した第5の処理物M5が第6の処理物M6である。
第5の処理物M5を槽24に投入してから第6の処理物M6を得るまでの工程が第6の工程S6である。
なお、発明者の知見によれば、糖度が15〜18wt%である第5の処理物M5は、第6の工程S6を経ることによって糖度が20〜22wt%である第6の処理物M6となる。
【0040】
第6の工程S6が終わったら、槽24内の第6の処理物M6にサッカロミセスセルビシエB2を接種し、第6の処理物M6のpHを4.0〜4.5とし、第6の処理物M6の温度を30〜35℃に保つ。サッカロミセスセルビシエB2の働きにより、槽24内でエタノール発酵が起こり、第6の処理物M6は発酵もろみM7となる。
第6の処理物M6にサッカロミセスセルビシエB2を接種してから発酵もろみM7を得るまでの工程が第7の工程S7である。なお、第7の工程S7におけるエタノール発酵は回分発酵である。
【0041】
第7の工程S7が終わったら、発酵もろみM7を蒸留装置26に送る。蒸留装置26では、先ず、もろみ塔において発酵もろみM7中のエタノールM8が濃縮される。そして、もろみ塔の塔頂液が濃縮塔に送られ、濃縮塔の塔頂から約95vol%のエタノールM8が取り出される。96vol%以上の濃度のエタノールM8が必要な場合は、さらに脱水塔においてベンゼンやシクロヘキサン等の溶媒を加えてエタノールM8から水を分離する。
蒸留装置26において発酵もろみM7からエタノールM8を得る工程が第8の工程S8である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
上記のようなバイオエタノール製造方法であるので、非可食性のセルロースを含有するバイオマス原料からバイオエタノールを製造できる。
【符号の説明】
【0043】
1 バイオエタノール製造設備
10 乾燥機
12 粉砕機
14、24 槽
16 固液分離装置
20 硫酸分離装置
22 硫酸濃縮装置
26 蒸留装置
F ジャトロファの果肉
A 硫酸
W 温水
S 固形物
B1 麹菌
B2 サッカロミセスセルビシエ
M1、M2、M3、M4、M5、M6 処理物
M7 発酵もろみ
M8 エタノール
S1、S2、S3、S4、S5、S6、S7、S8 工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを含有するバイオマス原料を砕き第1の処理物を得る第1の工程と、
前記第1の処理物に硫酸を噴霧して撹拌し、バイオマス原料に由来するセルロースを非結晶化して第2の処理物をつくる第2の工程と、
前記第2の処理物に水を加え、前記第2の処理物中の硫酸を希釈し、この希釈した硫酸中で、前記第2の工程でセルロースが非結晶化してできた生成物を加水分解して単糖類にし、リグニンを含む固形物と、硫酸及び単糖類を含む糖液と、からなる第3の処理物をつくる第3の工程と、
前記第3の処理物を、リグニンを含む固形物と、硫酸及び単糖類を含むと糖液と、に分離し、この分離した糖液を第4の処理物とする第4の工程と、
前記第4の処理物から、硫酸を分離し、この硫酸を分離した糖液を第5の処理物とする第5の工程と、
前記第5の処理物に麹菌を接種し、前記第5の処理物中の糖度を上げて第6の処理物とする第6の工程と、
前記第6の処理物にエタノール発酵菌を接種し、前記第6の処理物中でエタノール発酵を行い、エタノール発酵を終えた前記第6の処理物を発酵もろみとする第7の工程と、
前記発酵もろみ中のエタノールを蒸留して取り出す第8の工程と、からなることを特徴とするバイオエタノール製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程に供給するバイオマス原料の含水率が15wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載のバイオエタノール製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、バイオマス原料を開き目が2〜3mmのメッシュを通過する粒子径まで砕くことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバイオエタノール製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程で噴霧する硫酸の濃度が70〜75wt%であり、
前記第2の工程で噴霧する硫酸の質量からこの硫酸に含まれる水の質量を引いた値を、前記第2の工程に送られる前記第1の処理物の質量で除した値が、0.9〜1.1であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法。
【請求項5】
前記第3の工程において、前記第2の処理物に水を加えて希釈した硫酸の濃度が20〜30wt%であり、この希釈した硫酸の温度を30〜40℃とし、セルロースが非結晶化した前記生成物をこの希釈した硫酸中で3〜5分間加水分解することを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法。
【請求項6】
前記第5の工程において、前記第4の処理物から硫酸を分離するために陰イオン交換樹脂を用いることを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法。
【請求項7】
前記第6の工程において、前記第5の処理物に接種する麹菌の質量が、前記第5の処理物の質量の5〜10%であり、麹菌を接種した前記第5の処理物を30〜40℃の温度で360〜390分間保つことを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法。
【請求項8】
前記第7の工程において、エタノール発酵が回分発酵であり、エタノール発酵菌がサッカロミセスセルビシエであり、エタノール発酵菌を接種した前記第6の処理物のpHを4.0〜4.5とするとともに、温度を30〜35℃に保つことを特徴とする請求項1から請求項7のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法。
【請求項9】
セルロースを含有するバイオマス原料がジャトロファの果肉であることを特徴とする請求項1から請求項8のうちのいずれかの請求項に記載のバイオエタノール製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−244700(P2011−244700A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118053(P2010−118053)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(510143309)
【出願人】(510143310)
【出願人】(510143321)株式会社フロンティアライフ (1)
【出願人】(510143332)
【Fターム(参考)】