説明

バイオセンサ、及びその製造方法

【課題】本発明は、測定値が安定するバイオセンサ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】絶縁体から成る基板と、互いに一定間隔を空けて基板上に設けられた一対の電極と、電極上に設けられ酸化還元酵素及びメディエータから成る反応部と、検体を反応部まで導入する供給口と、を備えたバイオセンサにおいて、電極が、基板上に形成した銀パターンに対して無電解メッキして構成した。よって、電極以外は、従来のバイオセンサと同様の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中の特定成分を検出するバイオセンサ、及びその製造方法に関する。
【0002】
従来から、検体の血糖値等を測定するバイオセンサ及びその製造方法が案出されている。このバイオセンサの一例として、バイオセンサ1を図4に示す。このバイオセンサ1は、絶縁体から成る基板2と、互いに一定間隔を空けて基板2上に設けられた一対の電極3と、電極3上に設けられた反応部4と、検体を反応部4まで導入する供給口5と、備え、反応部4が供給口5から導入された検体中の特定成分と反応し、特定成分を定量分析できるように構成されている。
【0003】
このバイオセンサ1において、電極3の面積に応じた電流が得られるため、精度よく測定するためには、電極パターンの精度を高める必要があった。また、電極そのものが反応すると溶解電流が生じるために測定誤差の原因となる。このため、測定値が安定するバイオセンサ、及びその製造方法が求められており、スクリーン印刷などによる電極形成からレーザーなどによるスリット形成やインクジェットにより形成されたパターンへのめっき、エッチングにより形成した銅箔パターンへのめっきなど、高精度に電極パターンを形成する種々の案出がなされている。しかし、これらの方法は電極を個々に形成する手法でありパターン形成に時間がかかることや、工程が複雑になるなどの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3365184号
【特許文献2】特開2008−045875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者は、このような課題の原因を究明してこのような課題を解決するべく、鋭意研究を重ねた結果、本発明に至ったのである。
【0006】
すなわち、本発明は、工程が少なく高精度な電極を一括して形成でき、測定精度の高いバイオセンサ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバイオセンサは、絶縁体から成る基板と、互いに一定間隔を空けて該基板上に設けられた一対の電極と、該電極上に設けられ酸化還元酵素及びメディエータから成る反応部と、検体を該反応部まで導入する供給口と、を備えたバイオセンサにおいて、前記電極が、前記基板上にハロゲン化銀乳剤を用いて露光現像により形成した銀を含むパターンに対して無電解めっきして構成されたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明のバイオセンサは、前記バイオセンサにおいて、前記検体が血液であり、前記メディエータがフェリシアン化カリウムであり、前記無電解めっきが無電解ニッケルめっきであることを特徴とする。
【0009】
本発明のバイオセンサの製造方法は、絶縁体から成る基板と、互いに一定間隔を空けて該基板上に設けられた一対の電極と、該電極上に設けられ酸化還元酵素及びメディエータから成る反応部と、検体を該反応部まで導入する供給口と、を備えたバイオセンサの製造方法において、前記基板上に形成した銀パターンに対して無電解めっきするステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバイオセンサ及びその製造方法によれば、電極に無電解めっきを施しているため、血液の検査に使用しても、血液中の塩化ナトリウムによる作用によって腐食することなく、グルコース濃度に応じた電流積分値が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のバイオセンサ及びその製造方法を説明するための図であり、同図(a)は第1層を形成した時の平面図であり、同図(b)は第1層を形成した時の断面図であり、同図(c)は第2層を形成した時の平面図であり、同図(d)は第2層を形成した時の断面図である。
【図2】本発明のバイオセンサ実施例及び比較例におけるグルコース濃度と電流の積分値との関係を示すグラフである。
【図3】図3(a)は、ニッケル無電解めっきした電極を0.56mMのフェリシアン化カリウムの生理食塩水溶液に1分間浸漬した場合の浸漬部の表面写真であり、図3(b)は、ニッケル電解めっきした電極を0.56mMのフェリシアン化カリウムの生理食塩水溶液に1分間浸漬した場合の浸漬部の表面写真である。
【図4】従来のバイオセンサの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係るバイオセンサ及びその製造方法について、図面に基づいて詳しく説明する。
【0013】
本発明に係るバイオセンサは、絶縁体から成る基板と、互いに一定間隔を空けて基板上に設けられた一対の電極と、電極上に設けられ酸化還元酵素及びメディエータから成る反応部と、検体を反応部まで導入する供給口と、を備えたバイオセンサにおいて、電極が、基板上に形成した銀パターンに対して無電解めっきして構成されている。よって、電極以外は、図4に示す従来のバイオセンサと同様の構成である。このため、電極以外についての詳細な説明は省略する。
【0014】
この電極を製造する場合、まず、図1に示す基板10上に少なくとも1層のハロゲン化銀乳剤層を含有する銀塩感光材料を銀パターン材料前駆体として作製し、パターン露光を行う。パターン露光を行った後の現像処理方法としては、(1)銀塩拡散転写法に従う現像処理、(2)直接現像後に定着する現像処理、(3)硬化現像法に従う現像処理、の3つに代表される現像処理方法がある。(1)の方法は例えば特公昭42−23745号公報に記載される方法であり、(2)の方法は例えば USP6706165B2に記載の方法であり、(3)の方法は例えばJ.Photo.Sci.誌11号 p 1、A.G.Tull著(1963)或いは「The Theory of the photographic Process(4th edition,p326−327)」、T.H.James著等に記載されている。これらのいずれかの現像処理方法により導電性パターン12を形成する。さらに、導電性パターン12に対してニッケル無電解めっき14を施し、電極16を形成した。
【0015】
次に、GOD(グルコース酸化酵素)2.55%(安定化剤約50%含む)及びCMC(カルボキシメチルセルロース)1.0%を含む水溶液0.76μlを電極16上に滴下し、40℃で6分間乾燥させることにより、図1(a)及び(b)に示すように、第1層18を形成した。更に、微粒子化したフェリシアン化カリウム(メディアン径3.9μm)をPVP(ポリビニルピロリドン)1.3%のエチルセロソルブ溶液中に27.6%になるように分散した0.76μlの溶液を、第1層18上に滴下して、図1(c)及び(d)に示すように、第2層20を形成した。このようにして第1層18及び第2層20から成る反応部22を形成した。
【0016】
このような電極16は、ニッケル無電解めっきを施しているため、リンやホウ素が数%含まれている。
【0017】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はその他の態様でも実施できる。例えば、電極の形状及び数量は特に限定されない。また、反応部の形成方法は酸化還元酵素及び電子受容体を含んで形成されれば特に限定されない。その他、本発明の技術的範囲には、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様も含まれる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、いずれかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
図1に従って上述した方法で、電極16及び反応部22を形成した。なお、電極16の寸法は、φ2.7mmで中心部の隙間0.1mmであった。めっき厚さは1μmとした。
【0019】
(比較例1)
電極は、基板10上に、電極16と同様に銀パターンを形成し、この銀パターンに対してニッケル電解めっきして形成した。電極16の寸法は、φ2.7mmで中心部の隙間0.1mmであった。反応部としては、図1に示す上述の反応部22を形成した。めっき厚さ1μmと5μmとについて試験した。
【0020】
(比較例2)
電極は、基板10上に、電極16と同様に銀パターンを形成し、この銀パターンに対してめっき処理せずに形成した。電極16の寸法は、φ2.7mmで中心部の隙間0.1mmであった。反応部としては、図1に示す上述の反応部22を形成した。
【0021】
(評価方法)
実施例1、比較例1及び比較例2の場合について、グルコース水溶液、全血、及び、生理食塩水にグルコースを溶解した液を用いて、グルコース濃度と電流積分値との関係を求めた。グルコース水溶液を用いた場合の試験結果を図2(a)に、全血を用いた場合の試験結果を図2(b)に、グルコースを溶解した生理食塩水を用いた場合の試験結果を図2(c)に示す。
ここで、電流積分値とは、測定検体を吸入した後に電極間の電位を0V→―0.2V→0V→+0.2Vを50mV/secの速度で変化させ、−0.1V→+0.2V電圧走査時に電極間に流れる電流を電圧に変化して、0.1秒ごとに60回A/D変換した結果を積算したものである。評価方法はこれに限らず、電極間に一定電圧を印加して、所定時間経過後の電流値、あるいは電流の積算値を用いても良い。
【0022】
実施例1の場合には、図2(a)〜図2(c)に示すように、グルコース水溶液、全血、及び、生理食塩水を用いた全ての場合において、グルコース濃度に略応じた電流積分値が得られた。すなわち、電流積分値がグルコース濃度に略比例する結果が得られた。これに対して、比較例1の場合には、グルコース水溶液を用いた場合のみ、グルコース濃度に略応じた電流積分値が得られ、全血を用いた場合、及び生理食塩水を用いた場合には、グルコース濃度に略応じた電流積分値が得られなかった。比較例2の場合には、グルコース水溶液を用いた場合、及び、全血を用いた場合において、グルコース濃度に略応じた電流積分値が得られなかった。
【0023】
ニッケル電解めっきして形成した比較例1の電極について、全血を用いた場合、及び生理食塩水を用いた場合に、グルコース濃度に略応じた電流積分値が得られなかった原因は、塩化ナトリウムの作用によると考えられる。
【0024】
この比較例1の電極について、より詳細な検討をするため、電極だけを生理食塩水、フェリシアン化カリウム水溶液、それらの混合液に浸漬したところ、生理食塩水とフェリシアン化カリウムの混合液に浸漬した場合だけ電極に腐食が見られた。つまり、生理食塩水や全血でグルコース濃度に応じた出力が得られなかったのは、メディエータに用いているフェリシアン化カリウム及び検体に含まれる塩化ナトリウムによって、電極が溶解しためであるといえる。塩素イオンとナトリウムイオンのどちらの影響であるかは、酵素安定化剤としてグルタミン酸ナトリウムを含んでいてもグルコース水溶液を検体とした場合に正常な出力が得られていることから、ナトリウムイオンではなく、塩素イオンの影響であるといえる。
【0025】
なお、図3(a)は、ニッケル無電解めっきした電極を0.56mMのフェリシアン化カリウムの生理食塩水溶液に1分間浸漬した場合の浸漬部の表面写真であり、図3(b)は、ニッケル電解めっきした電極を0.56mMのフェリシアン化カリウムの生理食塩水溶液に1分間浸漬した場合の浸漬部の表面写真である。ニッケル電解めっきした電極の方が、ニッケル無電解めっきした電極よりも、明らかに侵食部が多く且つ大きい。
【0026】
以上のように、ニッケル電解めっきした電極を用いた場合は、フェリシアン化カリウムと塩素イオンによる電極溶解が起こるため、センサー用電極として用いることができず、さらに貴金属などのめっきが必要となる。これに対してニッケル無電解めっきした電極の場合は、リンやホウ素が数%含まれており、フェリシアン化カリウムと生理食塩水溶液に浸漬しても、電解ニッケル電極よりも腐食しにくいことが確認できた。よって、フェリシアン化カリウムをメディエータに用いる血液中の成分を測定する電極としては、ニッケル無電解めっきした電極が適しているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のバイオセンサ及びその製造方法によれば、工程が少なく高精度な電極を一括して形成でき、血液の検査に使用しても、グルコース濃度に応じた電流積分値が得られ、精度の高い血糖値の測定が行なえる。このため、血糖値の測定等のために広く利用できる。
【符号の説明】
【0028】
10:基板
12:導電性パターン
14:ニッケル無電解めっき
16:電極
18:第1層
20:第2層
22:反応部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体から成る基板と、互いに一定間隔を空けて該基板上に設けられた一対の電極と、該電極上に設けられ酸化還元酵素及びメディエータから成る反応部と、検体を該反応部まで導入する供給口と、を備えたバイオセンサにおいて、
前記電極が、前記基板上にハロゲン化銀乳剤を用いて露光現像により形成した銀を含むパターンに対して無電解めっきして構成されたバイオセンサ。
【請求項2】
前記検体が血液であり、前記メディエータがフェリシアン化カリウムであり、前記無電解めっきが無電解ニッケルめっきである請求項1に記載するバイオセンサ。
【請求項3】
絶縁体から成る基板と、互いに一定間隔を空けて該基板上に設けられた一対の電極と、該電極上に設けられ酸化還元酵素及びメディエータから成る反応部と、検体を該反応部まで導入する供給口と、を備えたバイオセンサの製造方法において、
前記基板上にハロゲン化銀乳剤を用いて露光現像により形成した銀を含むパターンに対して無電解めっきするステップを含むバイオセンサの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−17534(P2011−17534A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160336(P2009−160336)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)