説明

バイオセンサ、及び当該バイオセンサを有する測定装置

【課題】バイオセンサにおいて試料の温度を正確且つ迅速に測定することが可能な手段を提供することを目的とする。
【解決手段】バイオセンサ11は、一対の第1電極24及び第2電極26と、第2電極26の領域38に固定されて試料中の被検出物質と反応する酵素と、第2電極26の領域38の近傍に接点45を有する熱電対42と、を具備する。第1電極24又は第2電極26の試料が接触される領域の近傍に接点45を有する熱電対42が設けられたので、試料の温度を正確且つ迅速に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の第1電極及び第2電極の少なくともいずれか一方に、試料中の被検出物質と反応する酵素が固定されたバイオセンサ、及び当該バイオセンサを有する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖尿病の患者が各国において増加している。糖尿病の治療としては、例えば、インスリン療法がある。インスリンは血糖値をコントロールする薬物として知られており、糖尿病の治療薬として糖尿病患者に投与されている。インスリンを投与する必要性は、糖尿病患者の血糖値に基づいて判断される。このため、糖尿病患者にとって、血糖値の把握が重要である。血糖値とは、血液中のグルコース濃度である。糖尿病患者自らが自分の血糖値を簡易に測定できることを目的として、簡易な血糖測定装置が開発されている。
【0003】
前述された血糖測定装置として、バイオセンサが用いられるものが知られている(特許文献1〜4)。バイオセンサは、血糖と反応する酵素が固定された電極を有する。血糖値の測定に用いられる酵素として、グルコースオキシターゼ(以下、「GOD」と略されることがある。)やグルコースデヒドロゲナーゼ(以下、「GDH」と略されることがある。)が知られている。バイオセンサにおいて、酵素が固定された電極が作用極と称され、試料中に電子を供給する電極が対極と称される。
【0004】
試料である血液がバイオセンサに導入され、その血液中のグルコースに作用極のGODが反応すると、グルコースがグルコン酸及び過酸化水素に分解され、その過酸化水素が水及び電子に分解される。このようにして発生した電子が作用極に伝達される。一方、対極からは血液中に電子が供給される。このようにして、GODとグルコースとの反応によって、作用極と対極との間に電流が流れる。そして、流れた電流値に基づいて、血液中のグルコース濃度、つまり血糖値が算出される。また、作用極には、電子を伝達する物質が固定されることがある。この物質は、電子メディエータと称される。電子メディエータとして、例えば、フェリシアン化カリウム、ヘキサアンミンルテニウムやキノン誘導体類等の有機化合物、又は有機−金属錯体などが挙げられる。
【0005】
前述されたバイオセンサによるグルコースの測定において、温度が測定値に影響を及ぼすことが知られている。温度の影響の原因として、バイオセンサに流れる電流を電圧に変換するための抵抗の温度特性や、酵素の反応速度の温度依存性、メディエータの拡散速度の温度依存性などが指摘されている。
【0006】
グルコース測定値への温度の影響を回避することを目的として、バイオセンサが装着される測定装置に温度センサを設け、その温度センサの測定値に基づいてグルコース測定値を補正する構成が公知である(特許文献5〜7)。また、バイオセンサにおいて血液が導入される箇所を測定装置の一部に接触させて、その接触する一部に温度センサを用いた構成が公知である(特許文献8)。また、バイオセンサに熱伝導層を設けて、その熱伝導層を通じて、バイオセンサに導入された血液の温度を測定する構成が公知である(特許文献9,10)。また、バイオセンサに、グルコース以外の物質に対して酸化還元反応を生ずる電極対を別途に設けて、その酸化還元反応により得られた電流値に基づいて、グルコース測定値を補正する構成が公知である(特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−97877号公報
【特許文献2】特開2005−43280号公報
【特許文献3】特開2005−37335号公報
【特許文献4】特開2002−107325号公報
【特許文献5】特許第3494564号公報
【特許文献6】特許第4124513号公報
【特許文献7】特開2007−10317号公報
【特許文献8】国際公開2003−062812号パンフレット
【特許文献9】特開2001−235444号公報
【特許文献10】特開2003−156469号公報
【特許文献11】特開2009−250806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5〜7に開示されるように、測定装置に温度センサを設けたとしても、測定される温度は測定装置内あるいは測定装置周辺のものなので、バイオセンサに導入される血液の温度が正確に測定されるわけではない。そのため、例えば、血液が比較的体温に近い状態で導入された場合や、バイオセンサが測定装置に装着されるまでに手の温もりなどで暖められた場合では、測定装置の温度センサにより測定された温度と、バイオセンサに導入された血液の温度とが大きく解離し、適切な温度補正が実現されずに不正確な測定結果となるおそれがある。
【0009】
また、特許文献8に開示されるように、測定装置の温度センサを、バイオセンサにおける血液導入箇所に合致させるには、バイオセンサの血液導入箇所が測定装置の一部と重なるように配置される必要がある。そうすると、指などから直接にバイオセンサへ血液を導入する作業がしづらくなったり、測定装置に血液が付着したりするおそれがある。
【0010】
また、特許文献9,10に開示されるように、バイオセンサに設けられた熱伝導層を通じて血液の温度を測定する構成では、熱伝導層が比較的短ければ、血液から温度センサまで熱伝導層を通じて迅速に温度が伝わるが、熱伝導層が長ければ、血液の温度が温度センサまで伝わるに要する時間を待って、温度補正がなされた測定結果が表示されるので、全体として測定時間が長くなるおそれがある。また、熱伝導層の途中の環境温度が測定結果に影響するおそれもある。
【0011】
また、特許文献11に開示されるように、バイオセンサにおいて、被検出物質と反応する電極対の他に、別途に電極対を設ける構成では、バイオセンサが大型化し、かつコストアップも避けられない。また、2つの酸化還元反応があらゆる温度範囲において再現性よく相関するとは限らないので、別途の電極対における酸化還元反応の種類を最適とするために多くの労力を要する。
【0012】
本発明は、前述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、バイオセンサにおいて試料の温度を正確且つ迅速に測定することが可能な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るバイオセンサは、一対の第1電極及び第2電極と、上記第1電極又は上記第2電極の少なくともいずれか一方であって、試料が接触される領域に固定されて当該試料中の被検出物質と反応する酵素と、上記第1電極又は上記第2電極の上記領域の近傍に接点を有する熱電対と、を具備する。
【0014】
バイオセンサは、生体試料中の被検出物質を電気化学的に検出するためのものである。生体試料としては、血液や唾液、尿などの主として液体が挙げられる。例えば、生体試料が血液であれば、被検出物質として、血糖やコルチゾール、コレステロール、中性脂肪、ヘモグロビン、ビリルビン並びに銅、亜鉛及び鉄等の微量金属などが挙げられる。生体試料がバイオセンサの電極と接触されることにより、生体試料と酵素とが混合されて、被検出物質が酵素反応を起こす。その酵素反応の過程において生成される電荷が電極に流れることによって、被検出物質が電気的に検出可能となる。
【0015】
第1電極又は第2電極に固定される酵素は、前述された被検出物質の電気的な検出のために被検出物質又は反応生成物と反応するものであれば特に限定されないが、例えば、被検出物質が血液中のグルコースであれば、グルコースオキシダーゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼが挙げられる。
【0016】
第1電極又は第2電極には、更にメディエータが固定されていてもよい。メディエータとは、前述された酵素反応の過程において生成される電子を伝達する物質をいう。GODやGDHに用いられるメディエータとしては、フェリシアン化カリウム、ヘキサアンミンルテニウムやキノン誘導体類等の有機化合物、又は有機−金属錯体などが挙げられる。
【0017】
熱電対とは、異なる材料の2本の金属線が電気的に接続されて1つの回路が形成されたものである。2本の金属線の接点と当該接点の反対側において開放された2本の金属線の端との温度差により、熱電対には熱起電力が生じる。この熱起電力が、開放された2本の金属線の端の間の電位差として検出される。熱電対に採用される2本の金属線の材料の組み合わせは、例えば、ニッケル及びクロムを主とした合金(クロメル)とニッケルを主とした合金(アルメル)との組み合わせ、鉄と銅及びニッケルを主とした合金(コンスタンタン)との組み合わせ、銅と銅及びニッケルを主とした合金(コンスタンタン)との組み合わせ、ニッケル及びクロムを主とした合金(クロメル)と銅及びニッケルを主とした合金(コンスタンタン)の組み合わせ、ニッケル、クロム及びシリコンを主とした合金(ナイクロシル)とニッケル及びシリコンを主とした合金(ナイシル)との組み合わせなどのJIS規格に規定されている組み合わせが一例として挙げられる。
【0018】
本発明に係るバイオセンサは、装置本体に対して装着可能である。この装置本体は、バイオセンサの酵素が被検出物質と反応することにより第1電極と第2電極との間に流れた電流に基づいて、試料中の被検出物質を定量する定量手段と、熱電対に生じた熱起電力に基づいて熱電対の接点の温度を演算する温度演算手段と、温度演算手段により演算された温度に基づいて、定量手段が定量した被検出物質の定量値を補正する補正手段と、温度補正手段により補正された被検出物質の定量値を表示する表示手段と、を具備する。これにより、酵素が固定された第1電極又は第2電極の領域における試料の温度を直接測定して、当該温度に基づく定量値の補正を行うことができる。
【0019】
本発明に係るバイオセンサは、第1電極及び第2電極が、試料が導入される空間を介して対向配置されており、当該バイオセンサが、全体として細長なシート形状のものであってもよい。熱電対によって、第1電極又は第2電極において酵素が固定されている領域の温度を熱起電力として検出するので、バイオセンサが細長なシート形状であっても、熱伝導による損失や外部環境温度の影響を受けることがない。
【0020】
また、バイオセンサにおいて試料が導入される空間が、細長な方向における第1端側に配置されており、当該第1端と反対側の第2端に、第1電極、第2電極及び熱電対の接続端子がそれぞれ配置されていてもよい。バイオセンサは、第2端側を装置本体に挿入するようにして装着される。この装着状態において、バイオセンサの第1端は装置本体から突出される。この第1端側に試料が導入される空間が配置されているので、当該空間の周囲に装置本体が存在せず、当該空間への試料の導入や容易である。また、試料が装置本体に付着する可能性が低減される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、バイオセンサにおいて、第1電極又は第2電極の試料が接触される領域の近傍に接点を有する熱電対が設けられたので、試料の温度を正確且つ迅速に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る血糖測定装置10の外観を示す斜視図である。
【図2】図2は、バイオセンサ11の分解斜視図である。
【図3】図3は、血糖測定装置10の内部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、適宜図面が参照されて、本発明の好ましい実施形態が説明される。なお、以下に説明される各実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態が適宜変更できることは言うまでもない。
【0024】
[血糖測定装置10]
図1に示されるように、血糖測定装置10は、バイオセンサ11と装置本体12とを有する。バイオセンサ11が装置本体12の接続部13に差し込まれることによって、バイオセンサ11と装置本体12とが電気的に接続される。バイオセンサ11は、1回の血糖測定毎に取り替えられるものである。このバイオセンサ11が、本発明におけるバイオセンサに相当する。血糖測定装置10が、本発明に係る測定装置に相当する。
【0025】
[装置本体12]
図1に示されるように、装置本体12は、筐体50に電子部品が収容された電子装置である。筐体50の表側には、液晶ディスプレイ51及び操作キー52,53,54が配置されている。操作キー52,53,54は、ユーザの操作に基づいて対応するコマンドを発生させるためのものである。液晶ディスプレイ51は、装置本体12の状態や測定結果、エラー表示などを行う。液晶ディスプレイ51が、本発明における表示手段に相当する。装置本体12の内部構造については後述される。
【0026】
[バイオセンサ11]
図1に示されるように、バイオセンサ11は、細長なシート形状である。バイオセンサ11の長手方向101の一端が、装置本体12の接続部13に差し込まれることによって、バイオセンサ11が装置本体12に装着される。装着されたバイオセンサ11は、装置本体12から長手方向101へ突出される。また、バイオセンサ11が長手方向101に引き抜かれることによって、バイオセンサ11が装置本体10から取り外される。バイオセンサ11において、接続部13に差し込まれる側が本発明における第2端に相当し、その反対側が本発明における第1端に相当する。
【0027】
バイオセンサ11の表裏は相対的な関係なので、いずれが表であっても裏であってもよい。本実施形態においては、図1に現れる側が表と称され、図1に現れない側が裏と称される。つまり、バイオセンサ11は、第1面21及び第2面22が表裏面をなすシート形状である。
【0028】
図2に示されるように、バイオセンサ11は、主として、第1基板23、第1電極24、熱電対42、スペーサ25、第2電極26、第3電極27及び第2基板28を有する。図2における上側、つまり表側から順に、第1基板23、第1電極24及び熱電対42、スペーサ25、第2電極26及び第3電極27、第2基板28の順に積層されて、長手方向101に細長なシート形状のバイオセンサ11が構成されている。
【0029】
[第1基板23]
図2に示されるように、第1基板23は、平面視がバイオセンサ11と概ね同じ形状のシートである。第1基板23は、電気絶縁性の材料からなる。この電気絶縁性の材料として、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のポリエステルや、フッ素樹脂及びポリカーボネイト、ガラスなどが挙げられる。
【0030】
第1基板23の一方の面は、第1面21を構成する。後述されるように、第1面21と反対側の面32には第1電極24及び熱電対42が設けられている。第1基板23において、装置本体12の接続部13に差し込まれる長手方向101の一端側は、長手方向101と直交する方向102に沿った幅が狭い幅狭部29とされている。
【0031】
第1基板23の第1面21には、方向102の両端に一対の着色部30,31が形成されている。着色部30,31は、第1面21と色分けされたものである。着色部30,31は、後述される試料導入口41の位置の視認を容易にするためのものである。したがって、着色部30,31は、試料導入口41の直上に配置されている。
【0032】
[第1電極24]
図2に示されるように、第1電極24は、第1基板23における第1面21と反対側の面32に設けられている。第1電極24は、第1基板23の面32において方向102の片側半分程度を占めている。第1電極24としては、例えば、銀/塩化銀、金、パラジウム、白金などが挙げられる。第1電極24は、第1基板23に対して、スクリーン印刷法、インクジェット法、スパッタリング、真空蒸着、ゾルゲル法、クラスタビーム蒸着又はPLDなどの手法によって面32に積層されている。第1電極24において、第1基板23の幅狭部29に対応する部分は、装置本体12の接続部13に挿入される接続端子33である。
【0033】
[熱電対42]
図2に示されるように、熱電対42は、第1基板23における第1面21と反対側の面32に設けられている。熱電対42は、第1基板23の面32において第1電極24と重複しないように配置されている。熱電対42は、第1金属線43及び第2金属線44を有する。第1金属線43及び第2金属線44は、互いに異なる材質であり、その組み合わせとして、クロメルとアルメル、鉄とコンスタンタン、銅とコンスタンタン、クロメルとコンスタンタン、ナイクロシルとナイシルなどが挙げられる。第1金属線43及び第2金属線44は、第1基板23に対して、スクリーン印刷法、インクジェット法、スパッタリング、真空蒸着、ゾルゲル法、クラスタビーム蒸着又はPLDなどの手法によって面32に積層されている。
【0034】
第1金属線43及び第2金属線44は、長手方向101に沿って電気的に独立されて延出されており、空間40に対応する位置において接点45が設けられている。第1金属線43及び第2金属線44において、第1基板23の幅狭部29に対応する部分は、装置本体12の接続部13に挿入される接続端子46,47である。
【0035】
[第2基板28]
図2に示されるように、第2基板28は、平面視がバイオセンサ11と概ね同じ形状のシートである。第2基板28は、電気絶縁性の材料からなる。この電気絶縁性の材料として、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のポリエステルや、フッ素樹脂及びポリカーボネイト、ガラスなどが挙げられる。
【0036】
第2基板28の一方の面は、第2面22を構成する。後述されるように、第2面22と反対側の面34には第2電極26及び第3電極27が設けられている。第2基板28において、装置本体12の接続部13に差し込まれる長手方向101の一端側は、方向102に沿った幅が狭い幅狭部35とされている。
【0037】
各図には現れていないが、第2基板28の第2面22には、着色部30,31と同様の着色部が形成されている。
【0038】
[第2電極26]
図2に示されるように、第2電極26は、第2基板28における第2面22と反対側の面34に設けられている。第2電極26は、第2基板28の面34の周縁以外の大半を占めているが、後述される空間40に対応する位置において、方向102の幅が狭くなるように凹欠部36が形成されている。第2電極26の素材としては、例えば、カーボンが挙げられる。第2電極26にカーボンが用いられることによって、銀/塩化銀、金、パラジウム、白金などが採用される第1電極23の抵抗値が、カーボン製の第2電極26の抵抗値より低くなるので、空間40の血液に電子が供給されやすくなる。
【0039】
第2電極26において、第2基板28の幅狭部35に対応する部分は、装置本体12の接続部13に挿入される接続端子37である。接続端子37には、スペーサ25や第1電極24、熱電対42、第1基板23のいずれもが対向されておらず、バイオセンサ11の外部に対して露出されている。第2電極26は、第2基板28の面34側に形成されているので、接続端子37はバイオセンサ11の第1面21側にのみ露出されている。
【0040】
各図には現れていないが、第2電極26において、空間40に対応する領域38には、GOD及びメディエータが固定されている。メディエータとしては、例えば、ルテニウムやオスミニウム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルト等の遷移金属を含む化合物が挙げられる。GOD及びメディエータは、GOD及びメディエータが含まれる液が第2電極26に塗布されて乾燥させることにより固定されている。
【0041】
[第3電極27]
図2に示されるように、第3電極27は、第2基板28における第2面22と反対側の面34に設けられている。第3電極27は、第2基板28の面34において、長手方向101に細長く延出されて、その一端が第2電極26の凹欠部36に入り込むように屈曲されている。第3電極27の素材としては、例えば、銀/塩化銀、金、パラジウム、白金などが挙げられる。第3電極27は、空間40へ血液が導入されたか否かを検出するための電極である。
【0042】
第3電極27において、第2基板28の幅狭部35に対応する部分は、装置本体12の接続部13に挿入される接続端子39である。接続端子39には、スペーサ25や第1電極24、熱電対42、第1基板23のいずれもが対向されておらず、バイオセンサ11の外部に対して露出されている。第3電極27は、第2基板28の面34側に形成されているので、接続端子39はバイオセンサ11の第1面21側にのみ露出されている。
【0043】
[スペーサ25]
図2に示されるように、スペーサ25は、平面視がバイオセンサ11と概ね同じ形状のシートである。スペーサ25としては、電気絶縁性を有する両面テープが好適に用いられる。スペーサ25が第1基板23と第2基板28との間に介在されることによって、第1電極24と第2電極26及び第3電極27とが電気的に絶縁される。スペーサ25は、着色部30,31に対応する位置に、方向102へ延びる空間40を有する。つまり、スペーサ25は、長手方向101に対して空間40によって分断された2枚のシートから構成されている。空間40によって、第1電極24及び熱電対42と第2電極26及び第3電極27との間に、スペーサ25の厚み分の試料空間が形成される。つまり、空間40が試料空間となる。空間40には、第1電極24の一部、熱電対42の接点45、第2電極26の一部及び第3電極27の一部がそれぞれ露出されている。
【0044】
第1電極24及び熱電対42と、第2電極26及び第3電極27とは、空間40においてバイオセンサ11の厚み方向に隔てられて対向される。図1に示されるように、空間40は、バイオセンサ11の端に開口されており、この開口が試料導入口41となる。なお、図1には現れていないが、試料導入口41と対向する位置においても空間40が開口されている。試料導入口41が血液に曝されると、毛細管作用によって血液が空間40に流れ込む。
【0045】
[装置本体12の内部構成]
図3に示されるように、装置本体12の接続部13には、5つの接続端子61〜65が設けられている。各接続端子61〜65は、第1電極24の接続端子33、熱電対42の接続端子46,47、第2電極26の接続端子37、第3電極27の接続端子39に対応しており、接続部13にバイオセンサ11が装着されることによって、それぞれが電気的に接続される。なお、図3においては、バイオセンサ11の第1電極24、熱電対42、第2電極26及び第3電極27が模式的に同一面に表されている。
【0046】
装置本体12には、制御部70が設けられている。制御部70は、各種演算を行うためのCPU、各種プログラムが格納されるROM、各種演算のためのデータを一時保存するRAM、データを電送するバスなどによって構成される演算装置である。この制御部70に対して、血糖定量部71、試料検知部72、温度演算部73、補正部74、液晶ディスプレイ51及び操作キー51,52,53が、電気信号を送受信可能に接続されている。制御部70によって、血糖定量部71、試料検知部72、温度演算部73、補正部74、液晶ディスプレイ51の各動作が制御される。
【0047】
血糖定量部71は、バイオセンサ11の第1電極24と第2電極26との間に流れた電流値に基づいて血糖値を演算するものであり、第1電極24と第2電極26との間に流れた電流を電圧に変換したり、電圧により表される電気信号を整形したり、数値表現されたデジタル信号に変換したりする回路を有する。また、第1電極24と第2電極26との間に流れた電流値に基づいて血糖値を演算するプログラムを有する。このプログラムは、制御部70に格納されていてもよい。演算された血糖値を示す電気信号は、制御部70のRAMに格納される。血糖定量部71が、本発明における定量手段に相当する。
【0048】
試料検知部72は、第1電極24と第3電極27との間に流れた電流値に基づいて、空間40へ試料が導入されたか否かを判定するものであり、第1電極24と第3電極27との間に流れた電流を電圧に変換したり、電圧により表される電気信号を整形したり、数値表現されたデジタル信号に変換したりする回路を有する。また、第1電極24と第3電極27との間に流れた電流値に基づいて試料の有無を判定する閾値を有する。この閾値は、制御部70に格納されていてもよい。制御部70は、試料検知部72が試料有りと判定したことを条件として、血糖定量部71に血糖値の演算を要求し、温度演算部73に温度の演算を要求する。
【0049】
温度演算部73は、熱電対42の第1金属線43と第2金属線44との間に生じた電位差に基づいて接点45(測温接点)の温度を演算するものである。接続端子62,63と温度演算部73とは補償導線で接続されている。温度演算部73は、基準接点の温度を測定する温度センサを有し、基準接点の温度による熱起電力と基準接点における熱起電力とから、接点45の温度を演算する。演算された温度を示す電気信号は、制御部70のRAMに格納される。温度演算部73が、本発明における温度演算手段に相当する。
【0050】
補正部74は、制御部70のRAMに格納されている血糖値及び温度を示す各電気信号に基づいて、血糖値の温度補正を行う。補正部74は、温度と補正係数との関係を示すテーブルを有する。補正部74は、制御部70のRAMに格納されている温度に対応する補正係数を選択し、RAMに格納されている血糖値に補正係数を乗じて補正後の血糖値を演算する。補正後の血糖値を示す電気信号は、制御部70のRAMに格納される。補正部74が、本発明における補正手段に相当する。
【0051】
[血糖測定装置10の動作]
以下に、血糖測定装置10の動作が説明される。
【0052】
被測定者は、バイオセンサ11を装置本体12の接続部13に装着する。これにより、各接続端子61〜65と、第1電極24の接続端子33、熱電対42の接続端子46,47、第2電極26の接続端子37、第3電極27の接続端子39とがそれぞれ電気的に接続される。
【0053】
被測定者は、自らの血液を採取する。血液の採取は、例えばランセットを用いて、被測定者自らが行うことができる。この血液が、本発明における試料に相当する。採取された血液は試料としてバイオセンサ11の試料導入口41から空間40へ導入される。試料導入口41に血液が付着されると、毛細管現象によって空間40へ血液が導かれる。空間40に血液が満たされると、第1電極24と第3電極27との間に電流が生じ、この電流に基づいて試料検知部72が試料有りと判定する。
【0054】
空間40に導入された血液は、第1電極24と第2電極26との間に保持されて電気化学的反応を起こす。この電気化学的反応により第1電極24と第2電極26との間に血糖値に相関する電流が発生する。制御部70は、試料検知部72が試料有りと判定したことを条件として、血糖定量部71に、第1電極24と第2電極26との間に流れた電流に基づいて血糖値を演算させる。
【0055】
空間40に導入された血液は、熱電対42の接点45と接触する。これにより、接点45は、血液と同じ温度となる。接点45と温度演算部73の基準接点との温度差によって熱電対42に熱起電力が生じる。制御部70は、試料検知部72が試料有りと判定したことを条件として、温度演算部72に、熱電対42に生じた熱起電力に基づいて接点45の温度を演算させる。
【0056】
制御部70は、血糖値及び温度が取得されたことを条件として、補正部74に血糖値の温度補正を行わせる。そして、制御部70は、得られた補正後の血糖値を液晶ディスプレイ51に表示する。
【0057】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態によれば、バイオセンサ11に、空間40において接点45を有する熱電対42が設けられたので、空間40に導入される血液の温度を正確且つ迅速に測定することができる。また、装置本体12においては、空間40に導入された血液の温度を直接測定して、当該温度に基づく血糖値の補正を行うことができる。
【0058】
また、バイオセンサ11として、第1電極24と第2電極26とが空間40を介して対向配置されており、全体として細長なシート形状のものが用いられていても、熱電対42によって、熱伝導による損失や外部環境温度の影響を受けることなく、空間40に導入された血液の温度が測定される。
【0059】
また、装置本体12の接続部13に接続される側と反対側に、空間40及び試料導入口41が配置されているので、装置本体12から突出したバイオセンサ11の先端側において血液を導入することができ、空間40への血液の導入や容易となり、また、血液が装置本体12に付着する可能性が低減される。
【0060】
[変形例]
なお、本実施形態では、試薬に含まれる酵素がGODであるが、本発明における酵素がGODに限定されないことは言うまでもない。例えば、血糖測定に用いられるバイオセンサであれば、GODに代えてGDHが酵素として試薬に含まれてもよい。
【0061】
また、本実施形態で示されたバイオセンサ11の構成は、本発明に係るバイオセンサのの構成の一態様に過ぎない。したがって、バイオセンサ11のようにスペーサ25を介して第1電極24と第2電極26とが対向された立体型のものに代えて、同一の基板上に作用極と対極とが配置された平面型としてバイオセンサが実現されてもよい。
【0062】
また、本発明に係るバイオセンサは、血糖測定装置10のように携帯型の血糖測定装置に限定されるものではない。したがって、血液中の他の成分の測定にバイオセンサが用いられる場合に、その測定に必要な酵素が含まれる試薬が電極に固定される態様においても利用可能である。また、試料も血液に限定されず、尿や唾液などの生体試料であってもよいし、被検出物質が含まれる水溶液であってもよい。
【0063】
また、本実施形態では、バイオセンサ11の空間40に血液が導入された後に、熱電対42及び温度演算部73によって血液の温度が測定されることとしたが、バイオセンサ11が装置本体12に装着されたときに、熱電対42及び温度演算部73によって空間40の温度が測定されてもよい。この場合、血液の温度が直接に測定されるわけではないが、空間40の温度が測定されるので、装置本体12に温度センサが設けられた構成よりも、より血液に近い温度が測定されることとなる。
【符号の説明】
【0064】
10・・・血糖測定装置(測定装置)
11・・・バイオセンサ
12・・・装置本体
24・・・第1電極
26・・・第2電極
33,37,39,46,47・・・接続端子
38・・・領域
40・・・空間
42・・・熱電対
45・・・接点
51・・・液晶ディスプレイ(表示手段)
71・・・血糖定量部(定量手段)
73・・・温度演算部(温度演算手段)
74・・・補正部(補正手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の第1電極及び第2電極と、
上記第1電極又は上記第2電極の少なくともいずれか一方であって、試料が接触される領域に固定されて当該試料中の被検出物質と反応する酵素と、
上記第1電極又は上記第2電極の上記領域の近傍に接点を有する熱電対と、を具備するバイオセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオセンサと、
上記バイオセンサが装着可能な装置本体と、
上記装置本体に設けられており、上記酵素が被検出物質と反応することにより上記第1電極と上記第2電極との間に流れた電流に基づいて、上記試料中の当該被検出物質を定量する定量手段と、
上記装置本体に設けられており、上記熱電対に生じた熱起電力に基づいて上記熱電対の接点の温度を演算する温度演算手段と、
上記装置本体に設けられており、上記温度演算手段により演算された温度に基づいて、上記定量手段が定量した被検出物質の定量値を補正する補正手段と、
上記装置本体に設けられており、上記温度補正手段により補正された被検出物質の定量値を表示する表示手段と、を具備する測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−137767(P2011−137767A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299042(P2009−299042)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)