説明

バイオセンサ

【課題】バイオセンサにおいて、測定感度をより一層向上させうる手段を提供する。
【解決手段】絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成された、作用極および対極を含む電極系と、前記電極系の上部または近傍に形成された、酸化還元酵素および電子受容体を含む反応層と、を備え、前記電極系に流れる電流値に基づいて前記酸化還元酵素の基質の濃度を測定するための、バイオセンサにおいて、電極系の上層に、略矩形の開口部を有する絶縁層を形成し、対極の前記開口部からの露出面積を、作用極の前記開口部からの露出面積の1.2〜3.0倍とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサに関する。詳細には、本発明は、生体試料などに含まれる成分の濃度を測定するためのバイオセンサの精度を向上させるための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオセンサが医療などの分野において応用されている。バイオセンサの測定対象は低分子から高分子に至るまでの様々な化学物質であり、測定対象に応じて、種々の機能を有するバイオセンサの開発が進められている。
【0003】
なかでも、酵素センサは、酵素の基質認識能と触媒能とを利用したバイオセンサであり、酸化還元酵素および電子受容体を含む反応層が電極系の表面に形成されてなる構造を有する。
【0004】
酵素センサの例としては、グルコースセンサがある。グルコースセンサは、臨床検査の現場などにおいて血糖値を測定する目的で利用されている。以下、グルコースセンサの作動原理を簡単に説明する。
【0005】
グルコースセンサに試料溶液(血液試料など)が滴下されると、電極系(作用極および対極)の表面に形成された反応層が溶解し、酵素(グルコースオキシダーゼ)と試料溶液中のグルコースとが反応して、下記化学反応式(1)で表される反応が進行する。
【0006】
【化1】

【0007】
上記反応式(1)により生成した過酸化水素は、反応層中の電子受容体(例えば、フェリシアンイオン)に電子を供与することで当該電子受容体を還元し、自身は酸化されて酸素となる。かような反応が充分に進行した後、還元された電子受容体を電気化学的に酸化し、この際に測定される酸化電流の値から、試料溶液中のグルコース濃度を算出する。
【0008】
このようなグルコースセンサとしては、例えば、特許文献1に記載のものがある。当該文献に記載のセンサでは、電極系およびリード部を特定の材料で構成することで、基質濃度と測定値との間の線形性を向上させ、測定感度の改善を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平6−10662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記文献に記載のバイオセンサを用いた場合であっても、充分に満足のいく測定感度が得られているとは言えず、バイオセンサの測定感度をより一層向上させるための手段の開発が強く望まれているのが現状である。
【0011】
そこで本発明は、バイオセンサにおいて、測定感度をより一層向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、酸化電流値の測定時における対極での酸化還元反応の飽和が、センサの測定感度の低下に何らかの関与をしているとの知見を得た。かような知見に基づき、本発明者らは、センサの測定感度をより一層向上させるべく、電極系を構成する各電極の露出面積を制御することを試みた。具体的には、対極の露出面積を作用極の露出面積よりもある程度大きくすることにより、センサの測定感度を向上させうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成された、作用極および対極を含む電極系と、前記電極系の上部または近傍に形成された、酸化還元酵素および電子受容体を含む反応層と、を備え、前記電極系に流れる電流値に基づいて前記酸化還元酵素の基質の濃度を測定するための、バイオセンサであって、前記電極系の上層に、略矩形の開口部を有する絶縁層が形成され、前記対極の前記開口部からの露出面積が、前記作用極の前記開口部からの露出面積の1.2〜3.0倍であることを特徴とする、バイオセンサである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバイオセンサによれば、酸化電流値の測定時における対極での酸化還元反応の飽和が抑制され、センサの測定感度の低下が防止されうる。よって、本発明によれば、より一層測定感度の高いバイオセンサが提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のバイオセンサの各構成要素の形成パターンを示す平面図である。(a)は、絶縁性基板上でのリード部およびコネクタ部の形成パターンを示す平面図である。(b)は、電極系を構成する参照極の形成パターンを示す平面図である。(c)は、電極系を構成する作用極および対極の形成パターンを示す平面図である。(d)は、絶縁層の形成パターンを示す平面図である。(e)は、スペーサおよび反応層の形成パターンを示す平面図である。
【図2】図1の各図に示す各構成要素の積層順序を示す分解斜視図である。
【図3】図1および図2の各図に示す各構成要素が形成されてなるバイオセンサを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好ましい一実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには制限されない。
【0017】
本発明は、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成された、作用極および対極を含む電極系と、前記電極系の上部または近傍に形成された、酸化還元酵素および電子受容体を含む反応層と、を備え、前記電極系に流れる電流値に基づいて前記酸化還元酵素の基質の濃度を測定するための、バイオセンサであって、前記電極系の上層に、略矩形の開口部を有する絶縁層が形成され、前記対極の前記開口部からの露出面積が、前記作用極の前記開口部からの露出面積の1.2〜3.0倍であることを特徴とする、バイオセンサである。
【0018】
図1は、本発明のバイオセンサ10の各構成要素の形成パターンを示す平面図である。なお、図1の各図においては、各図により説明するための構成要素に加えて、絶縁性基板20の外形を示す仮想線が図示されている。図1(a)は、絶縁性基板20上でのリード部30およびコネクタ部32の形成パターンを示す平面図である。図1(b)は、電極系40を構成する参照極42の形成パターンを示す平面図である。図1(c)は、電極系40を構成する作用極44および対極46の形成パターンを示す平面図である。図1(d)は、絶縁層50の形成パターンを示す平面図である。図1(e)は、スペーサ60および反応層70の形成パターンを示す平面図である。図2は、図1の各図に示す各構成要素の積層順序を示す分解斜視図である。図3は、図1および図2の各図に示す各構成要素が形成されてなるバイオセンサ10を示す平面図である。図2および図3に示すように、バイオセンサ10においては、絶縁性基板20上に、一体化されたリード部30およびコネクタ部32、電極系40、絶縁層50、スペーサ60および反応層70が、絶縁層基板20の側からこの順に積層されている。なお、バイオセンサ10は、カバーによりさらに覆われた状態で使用および貯蔵される場合があるが、図1〜図3においてはかようなカバーの図示は省略されている。また、説明の都合上、図面の寸法比率は誇張されており、図示する形態が実際とは異なる場合がある。
【0019】
バイオセンサ10は、体液などの試料溶液中の特定成分(以下、「基質」とも称する)の濃度を測定するための装置である。以下、バイオセンサ10を構成する各部材について詳細に説明する。
【0020】
バイオセンサ10は、その基体として絶縁性基板20を備える。絶縁性基板20は、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン等の樹脂やガラス等のセラミックス、紙などの従来公知の絶縁性材料により構成されうる。絶縁性基板20の形状やサイズについては、特に制限されない。
【0021】
絶縁性基板20上には、図1〜図3に示すように、リード部(30a、30b、30c)およびコネクタ部(32a、32b、32c)が形成されている。コネクタ部(32a、32b、32c)は、後述する電極系40とバイオセンサ10外部とを電気的に接続するための手段として機能し、リード部(30a、30b、30c)を介して電極系40と電気的に接続されている。リード部(30a、30b、30c)は、図1〜図3に示すように、コネクタ部(32a、32b、32c)から、電極系40の位置まで延長されており、電極系40の各電極(42、44、46)の下地層を構成する。リード部(30a、30b、30c)およびコネクタ部(32a、32b、32c)を構成する材料は特に制限されず、バイオセンサのリード部およびコネクタ部の形成に従来用いられている材料が適宜用いられうる。ただし、バイオセンサ10の応答感度をより一層向上させるという観点から、リード部(30a、30b、30c)およびコネクタ部(32a、32b、32c)は、10μmの厚さにおいて50mΩ/□以下、より好ましくは40mΩ/□以下の表面抵抗値を有する材料から構成されることが好ましい。表面抵抗値が上記の範囲よりも大きい材料を用いてリード部およびコネクタ部を構成すると、基質濃度と応答値との間の線形性が低下し、本発明による測定感度の向上効果が充分に得られない虞がある。一方、当該材料の表面抵抗値の下限については特に制限はないが、リード部30およびコネクタ部32と基板との接着性を確保するためにバインダを添加することを考慮すると、リード部30およびコネクタ部32の表面抵抗値は、10μmの厚さにおいて0.1mΩ/□以上程度となることが予想される。ただし、リード部30およびコネクタ部32が、これらの範囲を外れる表面抵抗値を有する材料から構成されても、勿論よい。上述した好ましい表面抵抗値を有する材料としては、例えば、銀、金、白金、およびパラジウムなどの金属が挙げられる。各リード部(30a、30b、30c)および各コネクタ部(32a、32b、32c)を構成する材料は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。ただし、低コストという観点から、リード部およびコネクタ部は、いずれも銀により構成されることが好ましい。リード部およびコネクタ部の形成方法は特に制限されず、スクリーン印刷法やスパッタリング法などの従来公知の手法により形成されうる。この際、リード部およびコネクタ部を構成する材料は、ポリエステル等の樹脂バインダを含むペーストの形態で提供されうる。上記の手法により塗膜を形成した後には、塗膜を硬化させる目的で、50〜200℃程度の温度で加熱処理を施すとよい。
【0022】
図1〜図3に示すように、リード部(30a、30b、30c)が延長されてなる下地層の上層には、電極系40が形成されている。この電極系40は、バイオセンサ10の使用時において、後述する反応層70中の試料溶液に電圧を印加するための電圧印加手段、および、試料溶液中に流れる電流を検出するための電流検出手段として機能する。
【0023】
図示する形態において、電極系40は、参照極42、作用極44、および対極46の3極からなる。すなわち、図示する形態のバイオセンサ10は、3電極式センサである。ただし、本発明のバイオセンサは3電極式のみに制限されず、参照極を含まない電極系を備えた2電極式センサであってもよい。なお、電極系40における電圧の制御がより高精度で行われるという観点からは、2電極式よりも3電極式が好ましく用いられうる。
【0024】
作用極44および対極46は、バイオセンサ10の使用時に一対となって、後述する反応層70中の試料溶液に電圧を印加した際に流れる酸化電流(応答電流)を測定するための電流測定手段として機能する。バイオセンサ10の使用時には、参照極42と作用極46との間に所定の電圧が印加される。各電極を構成する材料は特に制限されず、バイオセンサの電極系の形成に従来用いられている材料が適宜用いられうる。ただし、バイオセンサ10の応答感度をより一層向上させるという観点から、電極系40は、10μmの厚さにおいて100Ω/□以下、より好ましくは80Ω/□以下の表面抵抗値を有する材料から構成されることが好ましい。表面抵抗値が上記の範囲よりも大きい材料を用いて電極系40を構成すると、基質濃度と応答値との間の線形性が低下し、本発明による測定感度の向上効果が充分に得られない虞がある。一方、当該材料の表面抵抗値の下限については特に制限はない。各電極(42、44、46)を構成する材料は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。ただし、耐腐食性およびコストの観点から、各電極(42、44、46)は、いずれもカーボンにより構成されることが好ましい。ただし、場合によっては、種々の金属等のカーボン以外の材料により、電極系40が構成されてもよい。電極系40の形成方法は特に制限されず、スクリーン印刷法やスパッタリング法などの従来公知の手法により形成されうる。この際、電極系を構成する材料は、ポリエステル等の樹脂バインダを含むペーストの形態で、提供されうる。上記の手法により塗膜を形成した後には、塗膜を硬化させる目的で、50〜200℃程度の温度で加熱処理を施すとよい。
【0025】
本発明のバイオセンサ10において、電極系40を構成する各電極(42、44、46)は、図3に示すように、電極系40の上層に形成された絶縁層50の有する略矩形の開口部から、露出している。そして、前記開口部からの作用極44および対極46の露出面積の比の値が、所定の範囲内に制御されている点に特徴を有する。なお、絶縁層50の詳細については、後述する。
【0026】
本発明のバイオセンサ10において、具体的には、対極46の前記開口部からの露出面積は、作用極44の前記開口部からの露出面積の1.2〜3.0倍である。対極46の露出面積が作用極44の露出面積の1.2倍未満であると、酸化電流値の測定時における対極46での酸化還元反応の飽和が充分に抑制されず、バイオセンサ10の測定感度を向上させるという本発明の効果が充分に得られない虞がある。一方、対極46の露出面積が作用極44の露出面積の3.0倍を超えると、バイオセンサ10の小型化が困難となる虞がある。
【0027】
絶縁性基板20上に形成されたリード部(30a、30b、30c)およびコネクタ部(32a、32b、32c)、並びに電極系40の上層には、図1〜図3に示すように、絶縁層50が形成されている。上述したように、絶縁層50は、略矩形の開口部を有しており、電極系40を構成する各電極(42、44、46)が露出している。絶縁層50は、電極系40を構成する各電極間の短絡を防止するための絶縁手段として機能する。絶縁層50を構成する材料は特に制限されないが、例えば、レジストインクなどにより構成されうる。絶縁層50の形成方法について特に制限はないが、作用極44および対極46の、開口部からの露出面積をより厳密に制御するという観点からは、スクリーン印刷法を用いて絶縁層50を形成するとよい。
【0028】
電極系40および絶縁層50の上層には、図1〜図3に示すように、スペーサ60および反応層70が形成されている。バイオセンサ10の使用時には、反応層70において、後述する酵素反応が進行する。また、スペーサ60を設けることで、バイオセンサ10の使用時における反応層70および試料溶液の漏出が防止される。図示する形態において、スペーサ60には、電極系40に対応する部位に、円形の孔が設けられており、この孔に反応層70が設けられている。ただし、反応層70の形状は円形のみに制限されず、任意の形状が用いられうる。スペーサ60を構成する材料は特に制限されないが、例えば、PETやポリエチレン等の樹脂、ガラス、セラミックス、紙などにより構成されうる。スペーサ60および反応層70の形成方法は特に制限されず、例えば、所定の部位に孔を有するスペーサ60を載置し、この孔に反応層70を形成するための溶液を滴下して、乾燥させるという手法が用いられうる。
【0029】
反応層70は1層のみからなる層であってもよいし、2層以上からなる層であってもよい。反応層70が2層からなる形態としては、例えば、電子受容体を含み、酸化還元酵素を実質的に含まない第1反応層と、前記第1反応層の上層に形成された、酸化還元酵素を含み、電子受容体を実質的に含まない第2反応層とから、反応層70が構成される形態が挙げられる。
【0030】
また、図示する形態において、反応層70は電極系40の上層に形成されているが、場合によっては、図示する形態とは異なり、電極系40の近傍に反応層70を形成し、電極系40と反応層70とが直接接触しない形態としてもよい。なお、反応層70が電極系40の「近傍」に形成される形態としては、電極系40と反応層70との間に空間やフィルタが介在する形態や、試料供給口と電極系40との間に反応層70が形成される形態などが例示される。
【0031】
反応層70は、酸化還元酵素および電子受容体を含む。
【0032】
酸化還元酵素は、バイオセンサ10の使用時において、試料溶液中の基質を酸化するという機能を有する。酸化還元酵素の種類は特に制限されず、測定を希望する成分に応じて、適宜選択されうる。反応層70に含まれる酸化還元酵素の一例を挙げると、グリセロールオキシダーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、フルクトースオキシダーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、アルコールオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、グルタミン酸オキシダーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼなどが例示されうる。また、種々の目的で改良が施された改良型の酵素が用いられてもよい。反応層70における酸化還元酵素の含有量についても特に制限はなく、測定を希望する成分の種類や試料溶液の添加量などに応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、通常は0.001〜100活性単位、好ましくは0.01〜10活性単位、より好ましくは0.01〜5活性単位の酸化還元酵素が反応層70に含まれるとよい。
【0033】
電子受容体は、バイオセンサ10の使用時において、酸化還元酵素の作用によって生成した電子を受け取る、すなわち還元される。そして、還元された電子受容体は、酵素反応終了後に電極系40に流される電流によって電気化学的に酸化される。この際に流れる電流(酸化電流と称する)の大きさから、試料溶液中の所望の成分の濃度が算出されうる。電子受容体の種類についても特に制限はなく、従来公知の電子受容体が適宜選択されうる。一例を挙げると、フェリシアンイオン、p−ベンゾキノンおよびその誘導体、フェナジニウムメチルサルフェートおよびその誘導体、メチレンブルー、チオニン、インジゴカーミン、ガロシアニン、α−ナフトキノンおよびその誘導体、並びにサフラニンからなる群から選択される1種または2種以上の電子受容体が例示される。また、p−ベンゾキノン誘導体、フェナジニウムメチルサルフェート誘導体、α−ナフトキノン誘導体としては、p−ベンゾキノン、フェナジニウムメチルサルフェート、α−ナフトキノンに炭素数1または2のアルキル基、炭素数1または2のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子等が結合したものなどが挙げられる。反応層70における電子受容体の含有量についても特に制限はなく、試料溶液の添加量などに応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、0.5〜10μLの試料溶液を添加して用いるバイオセンサ10の反応層70には、通常は0.01〜1000μg、好ましくは0.1〜100μg、より好ましくは1〜50μgの電子受容体が含まれるとよい。
【0034】
本発明のより好ましい形態において、反応層70は、酸化還元酵素として補酵素であるピロロキノリンキノン(PQQ)依存型のグリセロールデヒドロゲナーゼを含む。この際、電子受容体としてはフェナジニウムメチルサルフェート誘導体である1−メトキシ−5−フェナジニウムメチルサルフェートを含むことがより好ましい。さらに好ましくは、反応層70がリポプロテインリパーゼをさらに含む。ここで、PQQ依存型グリセロールデヒドロゲナーゼは溶液中の電子受容体のみを反応に使用し、溶存酸素の影響を受けない。従って、上記のより好ましい形態によれば、還元型の電子受容体の酸化電流を測定することにより、試料溶液中の中性脂肪濃度がより正確に測定されうる。
【0035】
本発明のバイオセンサ10において、反応層70は、酸化還元酵素および電子受容体に加えて、他の成分を含んでもよい。反応層70に含まれうる他の成分としては、例えば、高分子、酵素安定化剤などが挙げられる。高分子としては、例えば、セルロース、グアーガム、スターチ、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、グアーガム、ゼラチン、タンニン酸、ペクチン、カゼイン、カラギナン、ファーセレラン、プルラン、コラーゲン、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、リグニンスルホン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、およびこれらの誘導体などが挙げられる。これらの高分子が反応層70に含まれることにより、反応層70の成膜性が向上する。また、これらの高分子を含むことで、電極系40表面からの反応層70の剥離や、反応層70の割れも効果的に防止され、バイオセンサの信頼性が向上しうる。さらに、電極系に吸着しうるタンパク質などの吸着性物質が試料溶液中に含まれる場合には、上記の高分子の作用によって、吸着性物質の電極系への吸着が抑制されうる。このため、反応層70が上述したような高分子を含むと、バイオセンサ10の測定感度の向上により一層貢献しうる。なお、吸着性物質の吸着抑制効果に優れる高分子としては、タンニン酸、ペクチン、カゼイン、およびこれらの誘導体が挙げられる。よって、血液などの体液を試料溶液として用いる場合には、これらの高分子を反応層70に含めるとよい。なお、上記の高分子は、1種のみが単独で反応層70に含まれてもよいし、2種以上が併せて反応層70に含まれてもよい。
【0036】
反応層70における高分子の含有量については特に制限はなく、反応層70のサイズなどに応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、0.5〜10μLの試料溶液を添加して用いるバイオセンサ10の反応層70には、通常は0.01〜1000μg、好ましくは0.1〜100μg、より好ましくは0.3〜50μgの高分子が含まれる。
【0037】
以上、本発明のバイオセンサ10の構成について詳細に説明したが、上記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の知見を適宜参照して、バイオセンサ10の構成に種々の改良を施すことも可能である。従来公知の知見としては、例えば、特開平2−062952号公報、特開平5−87768号公報、特開平11−201932号公報などが挙げられる。
【0038】
続いて、本発明のバイオセンサ10の動作について説明する。
【0039】
まず、濃度の測定を希望する成分を含む試料溶液の所定量を、バイオセンサ10の反応層70に供給する。試料溶液の具体的な形態は特に制限されず、バイオセンサ10に用いられる酸化還元酵素の基質を含む溶液が適宜用いられうる。試料溶液としては、例えば、血液、尿、唾液などの生体試料、果物、野菜、加工食品原料などの食品等が用いられうる。ただし、その他の溶液が試料として用いられてもよい。また、試料溶液は原液がそのまま用いられてもよいし、粘度などを調節する目的で適当な溶媒で希釈された溶液が用いられてもよい。試料溶液に含まれる基質についても特に制限はなく、上述した酸化還元酵素と反応しうる物質であればよい。基質としては、例えば、グルコースなどの糖類、グリセロール、ソルビトール、アラビトールなどの多価アルコール、中性脂肪、コレステロールなどの脂質、グルタミン酸や乳酸などの有機酸類、クレアチン、クレアチニンなどが挙げられる。試料溶液を反応層70へ供給する形態は特に制限されず、所定量の試料溶液を反応層70に対して垂直に直接滴下することにより供給してもよいし、別途設けた試料溶液供給手段により、反応層70に対して水平方向から試料溶液を供給してもよい。
【0040】
反応層70へと試料溶液が供給されると、試料溶液中の所望の成分は、反応層70に含まれる酸化還元酵素の作用によって酸化され、自身の酸化と同時に電子を放出する。基質から放出された電子は、電子受容体に捕捉され、これに伴って電子受容体は酸化型から還元型へと変化する。試料溶液の添加後、バイオセンサ10を所定時間放置することにより、酸化還元酵素によって基質が完全に酸化され、一定量の電子受容体が酸化型から還元型へと変換される。基質と酵素との反応を完結させるための放置時間については特に制限はないが、試料溶液添加後、通常は0〜5分間、好ましくは0〜1分間、バイオセンサ10を放置すればよい。
【0041】
その後、還元型の電子受容体を酸化する目的で、電極系40を介して、作用極44と対極46との間に、所定の電圧を印加する。これにより、反応層70中に電流(本明細書中、「酸化電流」とも称する)が流れ、この電流によって還元型の電子受容体が電気化学的に酸化され、酸化型へと変換される。この際に測定される酸化電流の値から、電圧印加前の還元型の電子受容体の量が算出され、さらに、酵素と反応した基質の量が定量されうる。ここで、本発明のバイオセンサ10においては、酸化電流測定時に利用される対極46の面積が、作用極44と比較してある程度大きい。このため、従来のバイオセンサを用いた酸化電流値の測定時の測定感度の低下に関与していたことが予想される、対極46での酸化還元反応の飽和が、効果的に抑制されうる。よって、本発明によれば、測定感度がより一層向上したバイオセンサ10が提供されうる。なお、酸化電流を流す際に印加される電圧の値は特に制限されず、従来公知の知見を参照して適宜調節されうる。一例を挙げると、−200〜700mV程度、好ましくは0〜500mVの電圧を、参照極42と作用極44との間に印加すればよい。電圧を印加するための電圧印加手段についても特に制限はなく、従来公知の電圧印加手段が適宜用いられうる。
【0042】
酸化電流値の測定、および当該電流値から基質濃度への換算の手法としては、所定の電圧を印加してから一定時間後の電流値を測定するクロノアンペロメトリー法が用いられてもよいし、クロノアンペロメトリー法による電流応答を時間で積分して得られる電荷量を測定するクロノクーロメトリー法が用いられてもよい。簡単な装置系により測定されるという点で、クロノアンペロメトリー法が好ましく用いられうる。
【0043】
以上、還元型の電子受容体を酸化する際の電流(酸化電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態を例に挙げて説明したが、場合によっては、還元されずに残存している酸化型の電子受容体を還元する際の電流(還元電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態が採用されてもよい。かような形態においても、本発明のバイオセンサ10によれば、上述したのと同様のメカニズムによって、還元電流測定時の対極46における酸化還元反応の飽和が抑制され、バイオセンサ10の測定感度の低下が効果的に抑制されうる。
【実施例】
【0044】
次に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、下記の実施例は本発明の技術的範囲に何ら影響を及ぼすことはない。
【0045】
<実施例>
以下の手法により、図1〜図3に示す形態のバイオセンサ10の電極系40を作製した。
【0046】
まず、絶縁性基板20として、ポリエステル製シートを準備した。次いで、銀を主成分とするペーストであるLS−411AW(株式会社アサヒ化学研究所製)を、スクリーン印刷法により塗布し、120℃にて30分間加熱硬化処理を行って、図1(a)に示すような形成パターンを有するリード部30およびコネクタ部32を形成した。その後、参照極42に対応するリード部30aの先端部位に、銀/塩化銀を主成分とするペーストであるDB92342(日本アチソン株式会社製)を、スクリーン印刷法により塗布し、120℃にて30分間加熱硬化処理を行って、図1(b)に示すような形成パターンを有する参照極42を形成した。一方、作用極44および対極46に対応するリード部(30b、30c)の先端部位に、カーボンを主成分とするペーストであるFTU−40CA(株式会社アサヒ化学研究所製)を、スクリーン印刷法により塗布し、120℃にて30分間加熱硬化処理を行って、図1(c)に示すような形成パターンを有する作用極44および対極46を形成した。次いで、リード部30および電極系40が形成された基板上に、絶縁性材料であるレジストを主成分とするペーストであるCR−18G−KT1(株式会社アサヒ化学研究所製)を、スクリーン印刷法により塗布し、120℃にて30分間加熱硬化処理を行って、図1(d)に示すような形成パターンを有する絶縁層50を形成した。ここで、絶縁層50は矩形の開口部を有しているが、当該開口部からの作用極44の露出面積は8.75cmであり、対極46の露出面積は15.25cmであった。よって、対極46の露出面積は、作用極44の露出面積の1.74倍であった。
【符号の説明】
【0047】
10 バイオセンサ、
20 絶縁性基板、
30、30a、30b、30c リード部、
32、32a、32b、32c コネクタ部、
40 電極系、
42 参照極、
44 作用極、
46 対極、
50 絶縁層、
60 スペーサ、
70 反応層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板と、
前記絶縁性基板上に形成された、作用極および対極を含む電極系と、
前記電極系の上部または近傍に形成された、酸化還元酵素および電子受容体を含む反応層と、
を備え、前記電極系に流れる電流値に基づいて前記酸化還元酵素の基質の濃度を測定するための、バイオセンサであって、
前記電極系の上層に、略矩形の開口部を有する絶縁層が形成され、前記対極の前記開口部からの露出面積が、前記作用極の前記開口部からの露出面積の1.2〜3.0倍であることを特徴とする、バイオセンサ。
【請求項2】
前記電極系をバイオセンサ外部へと電気的に導通させるためのリード部およびコネクタ部をさらに備え、
前記電極系を構成する材料が、10μmの厚さにおいて100Ω/□以下の表面抵抗値を有するカーボンを主成分とする材料であり、前記リード部および前記コネクタ部を構成する材料が、10μmの厚さにおいて50mΩ/□以下の表面抵抗値を有する金属を主成分とする材料である、請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記金属が、銀、金、白金、およびパラジウムからなる群から選択される1種または2種以上の金属である、請求項2に記載のバイオセンサ。
【請求項4】
前記酸化還元酵素がPQQ依存型グリセロールデヒドロゲナーゼであり、前記電子受容体が1−メトキシ−5−フェナジニウムメチルサルフェートであり、前記反応層がリポプロテインリパーゼをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−149960(P2011−149960A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104642(P2011−104642)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【分割の表示】特願2005−96425(P2005−96425)の分割
【原出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)