バイオデバイスのための細胞輸送器
バイオデバイス(10)の輸送経路(70/206)を通して複数の細胞(80)を輸送すること、及び細胞の輸送中に輸送経路内で各細胞の実質的に自由な個々の動きを保持することを包含する、細胞を輸送する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、いずれも本願と同日に出願され、本願の譲受人に譲渡される、「METHOD OF SORTING CELLS ON A BIODEVICE」と題された米国特許出願第 号(代理人整理番号第200314152号)並びに「METHOD OF SORTING CELLS IN SERIES」と題された米国特許出願第 号(代理人整理番号第200314139号)に関連しており、参照することでそれらを本明細書に取り入れることとする。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、特にそれらの製造及び組立における急速な小型化によって、医療産業は一変した。詳細には、体液中の細胞及び他の成分の取扱いや試験は、従来の試験管から、バイオチップのような他のデバイスへと移行した。ラボオンチップ(Lab-on-a-chip)とも称されるバイオチップは、試験及び他の目的のために、電気的及び/又は化学的に生物学的物質と相互作用し得る小型の電子デバイス上に生物学的物質を配置したものを指す。
【0003】
バイオチップ分野では、電界の印加によって、細胞の移動、分離、特性判定等をはじめとする、細胞の操作を行うべく、多大な努力がなされてきた。電界を用いた細胞の操作に関し数多くの試みがなされたにもかかわらず、細胞の操作能は、細胞のサイズ、細胞の凝集、細胞の分極性等の細胞の種々の特性によって依然として制限される。例えば、細胞を輸送しようとしている最中に、細胞は凝集する傾向がある。バイオチップ上での細胞の輸送が妨げられることによって、バイオチップ上で細胞に関して他の機能(例えば、選別、分離、単離、分析物試験等)を実行する能力が妨げられる。
【0004】
特にこれらの理由から、バイオチップデバイスの広範な使用が制限されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
【課題を解決するための手段】
【0006】
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下の詳細な説明では、本明細書の一部を構成し且つ本発明を実施し得る具体的な実施形態を例示する、添付の図面を参照する。これに関し、「上」、「下」、「正面」、「背面」、「前方」、「後方」等の方向に関する用語を、記載される図面の向きを参照しつつ用いる。本発明の実施形態の構成要素は種々の向きに配置し得るため、その方向に関する用語は例示目的で用いるものであり、決して限定の意はない。本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用し得ること、並びに構造的又は論理的な変更を実施し得ることを理解されたい。最後に、本願の図面のフローチャートには特定の実施順序を示しているが、その実施順序は、示した順序とは異なるようにすることもできる。従って、以下の詳細な説明に限定の意はなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。
【0008】
本発明の実施形態は、輸送時に細胞が凝集するのを防ぎながら、バイオデバイス上で細胞を輸送するための方法に関する。バイオデバイスは、細胞の分離及び/又は試験等をはじめとする生物学的物質の操作を実施するのに用いられる小型で独立型の電子デバイス(例えばバイオチップ)であり、それは、細胞を分離し、収集し、且つ/又は試験するためにバイオデバイス上のステーション間で細胞を輸送するための機構を備える。バイオデバイスは、当該バイオデバイスの異なる操作部(例えば、分離、収集及び/又は試験するためのステーション)間において細胞を輸送する際に、それらの細胞が凝集するのを阻止又は防止する凝集防止機構を備え、それによって細胞は凝集していない状態でこれらのステーションに到着することができる。当該輸送機構及び凝集防止機構は、バイオデバイスの輸送経路(即ち、輸送時に細胞に対して選別、濾過、試験等の他の機能を果たさないバイオデバイスの一部)において用いられる。従って、凝集防止機構は、細胞(又は細胞群)を互いに永久に分離するように働いたり、細胞若しくは細胞タイプを別の細胞タイプから単離するように働いたりはしない。その代わり、凝集防止機構は、個々の細胞が自由に流れるのを促進し、それによって、細胞がその目的地(例えば、バイオデバイスの次のステーション/機能)に到着するときに、各細胞が他の細胞に関して自由に利用可能であり、結果、細胞に対し実施すべき全ての操作を円滑に進行させることができる。
【0009】
バイオデバイスの輸送機構は、輸送時に、バイオデバイス上の輸送経路に沿った細胞の一次運動をもたらす。この一次運動は、輸送経路に沿った流体流れの圧力降下によって、又は輸送経路に沿った細胞運動を引き起こす進行波誘電泳動場の印加によって、実現される。この誘電泳動場は、輸送経路に沿ってバイオデバイス上に配置されている1つ又は複数の電極アレイによって印加され、それに関しては後にさらに詳細に説明する。
【0010】
バイオデバイスの凝集防止機構は、細胞輸送時に、細胞の二次運動をもたらす。二次運動とは、一次運動の動きの方向とは全体として異なる方向を有し、且つ細胞の一次運動を妨げないような距離及び強度を有する、細胞若しくは粒子の1つ又は複数の方向性を有する動きである。詳細には、この二次運動によって各細胞が動く距離は、一次輸送運動によって動く距離に対して比較的短いが、二次運動における各細胞の動きの強度は、一般に、その運動がなければ細胞の凝集を誘発することになる細胞間の引力や接着力を阻害若しくは無効化するのに十分である。一般的に言うと、二次運動の役割は、細胞間の接着若しくは凝集を最初に破壊したり、既に分散している細胞の凝集を防止したりすることである。二次運動は、細胞が凝集し、互いに接着するのが困難となるように、規則的に、即ち繰返し、各細胞を迅速に動かす。幾つかの実施形態では、この二次運動は激しくすることができ、即ち、その強度、距離及び/又は方向が不規則となる(制限はあるが)ように各細胞を迅速に動かすことができる。
【0011】
凝集防止機構によって引き起こされる二次運動は、電界、音波又は超音波によって、回転力、振動力、中央寄せ力(centering force)等を印加することにより実現される。凝集防止機構によって印加される電界は、細胞に電気回転効果をもたらし且つ/又は細胞に誘電泳動場をもたらす電極配列によって印加され、それに関しては後にさらに説明する。
【0012】
これらの各力は、印加される力の性質によって、並びに二次運動のパラメータを制御する信号発生器の能力によって、脱凝集効果を引き起こすのに十分であるが、それでも細胞の一次運動を中断させることのない程度の強度にて印加することができる。例えば、信号発生器は、これらの場を生成する信号の極性/位相を迅速に変化させることによって、二次運動における各細胞の動きの方向や移動距離を変更することができる。最後に、二次運動における細胞の方向性の動きは、或る平面内における二次元の動きとしたり、三次元の(例えば、3つの運動軸に沿った)動きとしたりすることができる。
【0013】
バイオデバイスによって誘電泳動場を印加して、一次運動(輸送機構による)及び/又は二次運動(凝集防止機構による)をもたらすことができる。この誘電泳動場は、空間的に変化する電界、又は粒子(例えば細胞)に印加される場合には不均一である電界、と定義することができる。粒子(例えば細胞)が媒体(例えばプラズマ)よりも分極しやすく、結果として、その粒子が、電界強度の高い領域に向かって引き寄せられるようになるときに、正の誘電泳動が生じる。このように作動しているシステムは、正の誘電泳動モードにおいて作動していると言うことができる。粒子が媒体よりも分極しにくく、結果として、その粒子が、電界強度の低い領域に向かって引き寄せられるようになるとき、負の誘電泳動が生じる。このように作動しているシステムは、負の誘電泳動モードにおいて作動していると言うことができる。
【0014】
第一に、2つ以上の電極間に電圧を印加することによって、これらの電界が生成される。フィールド電極は、印加される電界が不均一となるか、又は空間的に変化するような幾何学的関係で互いに対し配置、配列され、それによって、誘電泳動効果が生み出される。従って、フィールド電極の幾何学的関係を選択的に変化させることで、誘電泳動場内における所望の細胞の動きを生じさせることができる。
【0015】
第二に、フィールド電極に経時的に変化する電圧を印加することによって、経時的に変化する電界を生成することができる。この経時変化は、流動性媒体及び粒子の分極に異なる影響を及ぼす傾向があり、それ故、流動性媒体と粒子との間の相対的な分極に影響を及ぼすであろう。従って、誘電泳動場の経時変化を選択的に適用することによって、細胞粒子を所望のように動かすことができる。
【0016】
多くの場合、特にその変化が正弦波である場合、経時変化は特性周波数を有する。媒体に対する粒子の相対的な分極は、通常、適用される周波数によって影響を受ける。周波数の変化を大きくすることにより、負の誘電泳動モードにおいて作動することから正の誘電泳動モードにおいて作動するように、システムを十分に変更することができる。例えば、或る周波数では、細胞は、電界強度の高い領域に向かって動き(正の誘電泳動モード)、他の周波数では、細胞は、電界強度の高い領域から離れるように動くことができる(負の誘電泳動モード)。本発明の実施形態では、正負いずれかの誘電泳動を用いることで、バッファー又はプラズマのような流動性媒体内において細胞を動かすことができる。
【0017】
第三に、3つ以上のフィールド電極を用いる場合、電圧差を有する電極対を選択的にシフトすることによって、又は振幅変調法を利用することによって、或る特定のタイプの運動を引き起こすことができる。例えば、交互に配置され且つ独立した4つのフィールド電極から成る配列は、粒子に「進行波誘電泳動」応答を誘発することができ、それによって、粒子を制御しながら平行移動させることができる。この「進行波」効果を用いることで、バイオデバイスの輸送器を通して細胞又は粒子を輸送するための一次運動をもたらすことができる。
【0018】
輸送機構及び凝集防止機構の作動は、輸送制御ユニット又はコントローラによって制御される。輸送制御ユニットは、一次運動及び二次運動の所望の組み合わせを達成すべく、様々な持続時間にて、同時又は交互に輸送機構及び凝集防止機構の起動及び停止を指示する。
【0019】
図1記載の一実施形態では、バイオデバイス10は、流体内の細胞サンプルを受容し、それらの細胞を輸送、選別し、その後、それらの細胞を標的細胞及び他の細胞(例えば、非標的細胞)として収集するように指示される。図1に示すように、バイオデバイス10は、サンプル受容器12、選別器アセンブリ15、細胞収集器16、及びコントローラ19を備えたシステム制御電子回路18を含んで成る。選別器アセンブリ15は、輸送器40及び選別器42を含む。選別器アセンブリ15の輸送器40は、一次運動付与器52及び二次運動付与器54を備える運動付与器50を含んで成る。細胞収集器16は、標的細胞30及び他の細胞/流体32を含む。
【0020】
バイオデバイス10のシステム制御電子回路18は、サンプル受容器12、選別器アセンブリ15及び細胞収集器16と電気的に接続されている。システム制御電子回路18は、輸送器40によって印加されるべき種々の電気的、音波的、超音波的な場/力を指示するように構成されたコントローラ19の運転をはじめとする、バイオデバイス10の種々の機能を指示する。図2に関連してさらに説明するように、コントローラ19は、選択可能な強度(例えば電圧)、周波数、位相及び極性(例えば、負又は正の周波数)にて作動し得る波形(経時変化する波形及び経時変化しない波形)を出力することのできる波形発生器を備える。幾つかの実施形態では、この波形発生器は、DCから数GHzまでの範囲の信号周波数を生成することができる。
【0021】
バイオデバイス10のサンプル受容器12は、流体源(複数可)13及び細胞源(複数可)14を含む。流体源(複数可)13は、バイオデバイス10において用いるための1つ又は複数の種類の流体及び/又は流動性媒体を受容し、一方、細胞源(複数可)14は、バイオデバイス10において取り扱い、試験するのに適する1つ又は複数の種類の細胞を受容する。バイオデバイス10の流体源(複数可)13としては、限定はしないが、懸濁液、血液及び血液製剤、試薬溶液等の、1つ又は複数の流動性媒体源が挙げられる。バイオデバイス10内の細胞源(複数可)14としては、限定はしないが、ヒト細胞、動物細胞等、及び細胞小器官、分析物、細菌、ウイルス等の他の粒子、並びにそれらの組み合わせをはじめとする、1つ又は複数の細胞源が挙げられる。幾つかの実施形態では、細胞源(複数可)14には、互いに凝集する傾向があり且つバイオデバイスにおいて輸送されている際に凝集する傾向のある分子等の他の粒子も含まれる。
【0022】
選別器アセンブリ15の選別器42は、互いから、並びに粒子を搬送している流動性媒体から、種々のタイプの粒子を分離するように構成された任意の1つ又は複数の粒子選別モジュールを備える。幾つかの実施形態では、選別器42は、濾過、試験、濃縮、単離、又はバイオデバイス上の生物学的物質に作用するのに適する他の操作等の他の機能及びステーションも含む。
【0023】
選別器アセンブリ15の輸送器40は、意図しない細胞の凝集を防止しつつ、バイオデバイス10上の第1の場所からバイオデバイス10上の第2の場所まで、流動性媒体内の細胞を移動させるように構成された運動付与器50を備える。これら第1の場所及び第2の場所、並びに他の場所は、選別器42によって表される。一次運動付与器52は、輸送器40の中で細胞を動かすための役割を果たし、一方、二次運動付与器54は、それら細胞が一次運動する際に細胞の二次運動を誘発し、細胞が互いに凝集する傾向を相殺するための役割を果たす。
【0024】
サンプル受容器12からの流体/細胞サンプルを選別器アセンブリ15が処理すると、細胞収集器16は、標的細胞30及び他の細胞32(例えば、非標的細胞)を収集する。
【0025】
図2は、バイオデバイス10の輸送器40の一実施形態を示している。図2に示すように、輸送器40は、システム制御電子回路18(図1)のコントローラ19と協動する運動付与器50を備える。運動付与器50は、第1の基材72及び第2の基材74によって画定され、流動性媒体76内の細胞80を搬送するための導管70(例えば、輸送経路)を備える。例示のために、各細胞80は、方向指示子Pによって指示される一次運動と、方向指示子Sによって指示される二次運動とを有するように示されている。一次運動Pは、細胞80が導管70を通って、輸送器40の長手方向の軸Aに概ね平行である方向に動くことを示している。二次運動Sは、回転及び/又は振動による運動のような、一次運動P以外の方向(複数可)及び/又は向き(複数可)に細胞80が動くことを示している。
【0026】
輸送機構82は、第2の基材74内に収容されており、電界90の輸送力(方向指示子FTによって表される)を適用することにより一次運動をもたらす。この電界は、先に説明したように、進行波誘電泳動場である。輸送機構82は、図4〜図11に関連してさらに説明するように、幾つかの態様にて実施することができる。
【0027】
凝集防止機構84(84A、84B及び/又は84Cとして示す)は、細胞80に二次運動をもたらし、輸送時に細胞80が互いに凝集する性質を無効とする。凝集防止機構84は、電界、超音波及び/又は音波によって、三次元方向の一連の力92を適用して、二次運動をもたらす。凝集防止機構84は、輸送機構82の鉛直上方に輸送機構82とは離隔して配置された凝集防止機構84Aとして、第1の基材72内に実装することができる。幾つかの実施形態では、凝集防止機構84は、凝集防止機構84Bとして、輸送機構82の下方の第2の基材74内に配置される。他の実施形態では、凝集防止機構84は、凝集防止機構84Cとして実装され、それは輸送機構82と概ね同じ平面内に輸送機構82と並んで、又は組み合わせて下側基材74内に配置される。最後に、凝集防止機構84A、84B、84Cのうちの2つ以上を1つの実施形態において実装することもできる。凝集防止機構84A、84B、84Cの実装に関しては、図4〜図11に関連して、後にさらに詳細に説明する。
【0028】
図2にさらに示すように、システム制御電子回路18(図1)のコントローラ19は、輸送モジュール95、凝集防止モジュール96及びタイマー97を有する波形発生器94を備える。信号発生器94の輸送モジュール95は、一次運動Pを引き起こすのに適する波形を生成するように構成されており、一方、凝集防止モジュール96は、二次運動Sを引き起こし、輸送時に細胞が凝集するのを相殺するための物理的な場を生成するように構成される。コントローラ19はまた、タイマー97も備えており、それによって輸送モジュール95及び凝集防止モジュール96を選択的に起動及び停止して、モジュール95、96が互いに対して同時に又は交互に作動できるようにする。コントローラ19のタイマー97によって制御される作動モードは、図9に関連して、後にさらに詳細に説明する。
【0029】
図2に示すように、使用時、バイオデバイス10の輸送器40は、輸送機構82によって生成される輸送力FTを適用することによって、導管70中を一次運動Pにて細胞80を動かす。この細胞輸送時に、1つ又は複数の凝集防止機構84A、84B、84Cを配置して細胞80に二次運動Sをもたらすことによって、輸送時にそれら細胞が凝集するのを防止することができる。輸送機構82及び凝集防止機構84A、84B、84Cの実施形態は、図4〜図11に関連して、さらに詳細に説明する。
【0030】
図3は、細胞分離、細胞濾過、細胞試験等のバイオデバイスの他の機能又はステーション間で、バイオデバイス上にある細胞を実質的に凝集させることなく輸送するための方法100のフローチャートである。図1、図2、図4〜図10に関連して説明するシステム及びデバイスは、方法100を実施するのに適している。
【0031】
図3の枠102に示すように、方法100は、電界を印加することによって、バイオデバイスの異なるステーション/機能間で、1つの経路に沿って一次運動にて複数の細胞を輸送することを包含する。一実施形態では、一次運動は、電界と組み合わせて、流体流れの圧力降下を適用して、細胞を動かすことによって達成される。他の実施形態では、一次運動は、電界を用いることなく、流体流れの圧力降下のみによってもたらされる。
【0032】
方法100はまた、枠104に示すように、細胞に二次運動をもたらして、一次運動による輸送中に、細胞同士の実質的に自由な動きを維持させることを包含する。枠106に示すように、方法100は、信号制御ユニットを操作して、細胞に一次運動及び二次運動を同時に又は交互にもたらすことも包含する。
【0033】
図4〜図11は、一次運動及び/又は二次運動をもたらして、バイオデバイスの輸送経路に沿って比較的凝集しないように細胞を輸送するための、電極アレイ及び/又は素子と他のデバイス(例えば、超音波デバイス)との種々の組み合わせを示している。
【0034】
図4は、第2の基材74の表面に注目した、図2記載の輸送器40の断面図であり、第2の基材74(図2)の輸送機構82の一実施形態を示している。図4に示すように、第2の基材74は、表面110と、導電性素子114から成る電極アレイ112とを備えており、電極アレイ112は、輸送機構82としての役割を果たす。電極アレイ112は、流体76(図2)内の細胞80に電界を、詳細には、細胞80に進行波誘電泳動場を印加して、一次運動Pをもたらし、力の方向指示子Fに対して概ね平行に細胞80を動かすように構成される。
【0035】
図4に示すように、電極アレイ112は、電極素子114の直線配列から構成される。幾つかの実施形態では、アレイ112の素子114は、交互に又は互いに咬み合うようなパターンにて配列される。幾つかの実施形態では、電極アレイ112は、第2の基材74の表面110上に露出しており、他の実施形態では、電極アレイ112は、第2の基材74の表面110の直下に配置される。
【0036】
電極アレイ112は、先述した誘電泳動場を進行波として印加して、第2の基材74の概ね全長にわたって、これらの細胞又は粒子を動かすように構成される。一実施形態では、電極素子を4個毎接続して、信号チャネル(例えば、チャネルA)を形成し、単一のユニットとして、これらの接続された素子を起動及び停止できるようにすることにより、電極アレイ112を用いて、この進行波効果を達成することができる。この配列を繰り返すことにより、全ての電極素子114が4つの作動セットに割り当てられ、4つの作動セットをそれぞれ個別に駆動するために、各セットが1つのチャネルを決定し、4つの個別の信号チャネル(例えば、チャネルA、B、C、D)が電極アレイ112に適用されるようにする。このようにして、電極アレイ112は、空間的に変化する電界の進行波を印加して、バイオデバイス10(図2)の輸送器40の導管70を通して、細胞80に一次運動をもたらすことができる。
【0037】
図5は、図2記載の輸送器40の断面図であり、凝集防止機構84の一実施形態を概略的に例示している。詳細には、図5は、第2の基材74内にある輸送機構82の鉛直上方に輸送機構82とは離隔して第1の基材72内に配置された凝集防止機構84Aを表す、輸送器40の一実施形態を示す。
【0038】
図5に示すように、第1の基材72は、凝集防止機構84A(図2)としての役割を果たす電極素子122のアレイ121を有する表面120を備える。アレイ121の電極素子122は、互いに対して概ね平行に、且つ第1の基材72の長手方向の軸に対して概ね平行に配列される。個々の素子122間に負の誘電泳動場を印加することにより、細胞80は、チャネル124A、124B及び124Cのうちの1つに保持されたまま、二次運動にて素子122から離れるように動かされ、それによって一次運動Pの方向に進行する際に細胞80が凝集するのが防止される。言い換えると、電極アレイ120によって印加される負の誘電泳動場は、細胞80に、一次運動Pを横断する方向の二次運動を誘発し、各チャネル124A、124B、124C内の細胞80を中央に寄せる(center)傾向がある。
【0039】
この実施形態では、細胞80が輸送器40(図2)を通って独立した平行な経路(素子122によって画定される)を進行することによって、輸送時の細胞80の自由運動が維持される。さらに、付加的な素子122を追加して、細胞80が進行する独立した平行な経路の数を増やすことにより、3つのチャネル124A、124B、124Cより多い数のチャネルを画定することができ、それにより、細胞の輸送中に細胞80が凝集するのを防ぐための機会を増やすことができる。
【0040】
一実施形態では、チャネル124A、124B、124Cは、壁が個々の細胞を物理的に分離する物理的なチャネルではなく、物理的な壁があるかのように、主に負の誘電泳動場によって個々の素子122間に留まるように細胞80が拘束される仮想的なチャネルである。これらの実施形態では、電極素子122は表面120の直ぐ下に配置することができる。他の実施形態では、これらのチャネル124A、124B、124Cは電極素子122によって画定され、電極素子122が表面120よりも高くなっているときのように、物理的な境界としての役割も果たす。
【0041】
従って、バイオデバイス10(図2)の輸送器40の一実施形態は、図4に示すように、細胞80に一次運動をもたらすための輸送機構82と、それと組み合わせて、図5に示すように、細胞80に二次運動をもたらすための凝集防止機構84Aとを備える。
【0042】
図6は、凝集防止機構84B(細胞80に二次的な脱凝集運動をもたらす)が、細胞80に一次輸送運動をもたらすための輸送機構82の下に配置されている、図2に記載の実施形態を表す、バイオデバイス10(図2)の輸送器40に関する他の実施形態を示している。図6に示すように、輸送器150は、一次運動誘発器152、二次運動誘発器154、及び支持基材156を備える。一次運動誘発器152は、二次運動誘発器154上に積層された第1の薄膜デバイスから成り、二次運動誘発器154は、第2の薄膜デバイスから成る。
【0043】
幾つかの実施形態では、バイオデバイス10(図1)の輸送器40は、図6に示す、一次運動誘発器152及び二次運動誘発器154のような1つ又は複数の導電性要素から成る薄膜メタライゼーションの層を備えた基材として構成される。
【0044】
他の実施形態では、バイオデバイス10(図1)の輸送器40は、半導体微細加工法を用いて構成される。例えば、図6に示すような輸送器40の基材156は、プラスチック、ガラス又はセラミック材料から構成され、他の部分の担体としての役割を果たし、一方、一次運動誘発器152及び/又は二次運動誘発器154の部分は、アモルファスシリコン又は多結晶シリコン材料から形成される。電極素子、電極パッド、入力/出力パッド、接続用トレース等の、一次運動誘発器152及び/又は二次運動誘発器の他の部分は、銅、金、プラチナ、パラジウム、グラファイト等の導電性トレース材料から形成された、堆積メタライゼーション層から成る。
【0045】
図1〜図5及び図7〜図11に関連して説明するバイオデバイス10の1つ又は複数の実施形態を実施するために、図6に関連して説明する薄膜技法を用いることもできる。
【0046】
輸送器150の一次運動誘発器152は、図6に示すように、進行波誘電泳動場を印加して、選別器アセンブリ(例えば、図1記載の選別器アセンブリ15)内の輸送器150を通って細胞を動かすように構成される。従って、一実施形態では、一次運動誘発器152は、図4の電極アレイ112においてもたらされる輸送機構82と概ね同じ特性及び機構を有する。
【0047】
二次運動誘発器154は、細胞に種々の力を印加するよう構成されており、それによって輸送器150内での一次輸送運動時に細胞が凝集するのを防ぐことができる。輸送器150の二次運動誘発器154には、限定はしないが、薄膜デバイスとして構成することができ、細胞の一次運動を概ね中断することのない強度にて、平行移動、回転、振動又は他の運動を細胞にもたらす、任意の電気的に駆動可能なデバイスが含まれる。一実施形態では、二次運動誘発器154には、細胞に超音波力又は音波力を印加して、二次運動をもたらし、細胞が凝集するのを防ぐように構成された圧電デバイスが含まれる。
【0048】
図7は、図6記載の輸送器150の一実施形態の平面図であり、輸送器170として表している。図7に示すように、輸送器170は、表面171と、一次運動誘発器152(図6)としての役割を果たす素子173から成る電極アレイ172とを備え、一方、超音波デバイス174が二次運動誘発器154(図6)としての役割を果たす。一実施形態では、電極アレイ172は、図4記載の電極アレイ112と概ね同じように作動し、一次運動(力の方向指示子FPによって表される)をもたらすための進行波誘電泳動場を印加することができる。詳細には、複数の電極素子173は、4セットの電極として構成され、ここで、各セットは個別に駆動され、4つの個別の信号チャネルのうちの1つに対応する。
【0049】
一実施形態では、二次運動付与器174は、細胞80に超音波力(Fs)又は音波力を印加するための圧電デバイスを備える。従って、電極アレイ172は、進行波誘電泳動場を印加して(図2のコントローラ19による)、細胞を(一次力FPとして)一次運動の方向に動かし、一方、デバイス174は、超音波を印加して、二次力Fsとして二次運動(例えば、回転、振動等)をもたらし、細胞が一次運動している間に細胞が凝集するのを防止する。
【0050】
図8は、第2の基材74の表面に注目した、図2記載の輸送器40の断面図であり、第2の基材74内に輸送器200として実装された輸送機構82の一実施形態を示している。輸送器200の本実施形態は、凝集防止機構84C(細胞80に二次的な脱凝集運動をもたらす)が、細胞80に一次輸送運動をもたらすための輸送機構82と並んで配置されている図2記載の実施形態に対応する。
【0051】
図8に示すように、バイオデバイスの輸送器200は、導管206を画定する表面202及び壁204を備える。また輸送器200は、電極素子210A、210B、210Cから成る第1の外側アレイ208と、電極素子212A、212B、212Cから成る第2の外側アレイ211とを備える。一実施形態では、一次運動(力の方向指示子FPによって表される)をもたらす進行波誘電泳動場を印加することができるようにするために、素子222から成る中央電極アレイ220は、図4の電極アレイ112と概ね同じように作動する。詳細には、複数の電極素子222は、4セットの電極として構成され、ここで、各セットは個別に駆動され、4つの個別の信号チャネルのうちの1つに対応する。
【0052】
第1の外側電極アレイ208及び第2の外側電極アレイ211は、第2の基材74によって画定される輸送経路に沿って作用する電気回転力(FS)によって、細胞80(図2)に二次運動をもたらすように構成される。第1の外側電極アレイ208及び第2の外側電極アレイ211の各素子210A〜C、212A〜Cは、コントローラ19(図1及び図2)の波形発生器94によって個別に駆動することができ、漸進的な起動(又はオン/オフの繰返し)によって隣接する電極素子(210A〜C、212A〜C)間に誘電泳動場を印加して、細胞80の電気回転を達成又は誘発することができるようにする。従って、図8の輸送器200は、一次運動及び二次運動の両方を印加して、凝集を最小限に抑えて細胞を動かす。
【0053】
一実施形態では、電極アレイ220を起動する代わりに(又は、なくして)、導管206に沿った流体の圧力降下によって一次運動をもたらし、一方、電気回転の二次運動をもたらすためには、電極アレイ208及び211をそのまま用いる。他の実施形態では、アレイ220を配置又は備え付け、第2の基材74にわたる流体の圧力降下と併用して、又は併用することなく、一次運動をもたらす。
【0054】
図8は、バイオデバイス10の第2の基材74の輸送経路に関する例示的な断面である。従って、輸送器200は、図示するものよりも長くすることができ、それに応じて、アレイ208及び211内に、図示する3つの電極素子よりも多くの外側電極素子を有することができる。
【0055】
図9は、輸送時間中の、バイオデバイス上のコントローラ19(図1及び図2)の作動図を示している。コントローラ19は、1つには輸送制御ユニットとしての役割を果たしており、バイオデバイスの輸送経路において細胞の二次運動をもたらす1つ又は複数の第1サイクル252の凝集防止運動、並びにバイオデバイスの輸送経路において細胞の一次運動をもたらす1つ又は複数の第2サイクル254の輸送運動を引き起こす。第3サイクル256は、細胞の凝集防止運動及び輸送運動の両方を含み、第1サイクル252及び第2サイクル254を同時に実行して、一次運動及び二次運動の両方が同時にもたらされるようにする。
【0056】
凝集防止サイクル(複数可)252及び輸送サイクル(複数可)254の持続時間、順序、組み合わせを種々選択することで、輸送効果及び凝集防止効果を所望のように最適化することができる。図9記載の図によって表される作動モードは、図1〜図8及び図10〜図11に関連して説明するデバイス及び装置に適用することができる。最後に、図10に関連して後にさらに詳細に説明する中央寄せサイクル等の、他の態様の凝集防止サイクル252を、輸送サイクル254と同時又は交互に実施することができる。
【0057】
凝集防止効果及び輸送効果の種々の順序、組み合わせ及び持続時間を用いることができるが、これらの全てのサイクル252、254、256を合わせて行うとき、バイオデバイス10において、細胞がバイオデバイスの異なる操作機能/ステーション間で(選別、単離、試験等を行うことなく)輸送される際の単位輸送時間となる。
【0058】
図10は、第2の基材74の表面を注目した、図2の輸送器40の断面図であり、第2の基材74内にある輸送器300について、輸送機構82の一実施形態を例示している。この輸送器300の実施形態は、凝集防止機構84C(細胞80に二次的な脱凝集運動をもたらす)が、細胞80に一次輸送運動をもたらすための輸送機構82と並んで配置されている、図2記載の実施形態に対応する。
【0059】
図10は、バイオデバイス10の輸送器300の平面図である。輸送器300は、表面302、素子311から成る第1の外側電極アレイ310、素子313から成る第2の外側電極アレイ312、及び素子322から成る第3の中央電極アレイ320を含む。第3の中央電極アレイ320は、進行波誘電泳動場を印加して、輸送経路に沿って一次運動にて細胞を動かす(方向指示子FPによって表される)。一実施形態では、第3の中央電極アレイ320は、図4記載の電極アレイ112と概ね同じように作動し、一次運動(力の方向指示子FPによって表される)をもたらす進行波誘電泳動場を印加することができる。詳細には、複数の電極素子322は、4セットの電極として構成され、ここで各セットは個別に駆動され、4つの個別の信号チャネルのうちの1つに対応する。
【0060】
中央電極アレイ320に隣接させて中央電極アレイ320と概ね同じ平面内に第1の電極アレイ310及び第2の電極アレイ312を配置することは、図2記載のバイオデバイス10における輸送器40の輸送機構82と凝集防止機構84Cの組み合わせに相当する。
【0061】
第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、3つの異なるモードにて作動することができる。各モードは単独で、又は中央電極アレイ320と組み合わせて用いることができる。
【0062】
第1のモードでは、第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、二次運動として細胞80の電気回転を誘発するための誘電泳動場を印加する。一実施形態では、外側電極アレイ310及び312は、図8に関して先述した電極アレイ208、211と概ね同じように作動する。この第1の動作モードでは、第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、一次運動をもたらす進行波誘電泳動場を生成することには寄与しない。しかしながら、第1のモードにおいて作動する場合、第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、中央電極アレイ320による進行波の印加と同時に作動することができる。
【0063】
第2のモードでは、第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、第3の中央電極アレイ320と協同して作動する。一実施形態では、図10に示すように、中央電極アレイ320の各素子322はそれぞれ、外側電極アレイ310、312の素子311、313のうちの1つに対応する。素子322のうちの1つが、図4の電極アレイ112に関し説明したのと概ね同じようにして、進行波の一部として起動されるとき、外側電極アレイ310、312の対応する素子311、313が中央素子322と同時に起動され、それによって、3つの電極素子322、311、313の全ては、進行波をもたらすべく、4つのチャネル信号セット(例えば、チャネルA、B、C、D)のうちの、ただ1つのチャネル(例えば、チャネルA)のための信号ユニットとして一緒に作動することができる。
【0064】
第3のモードでは、第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、中央電極アレイ320とは別個に作動し、交互に(例えば、180°の位相差にて)バイアスをかけられ、細胞80を導管の外壁から離れるように、即ち、導管の中央に向かって動かす負の誘電泳動場を生成する(中央に寄せる力FCを生み出す)。この中央寄せ効果によって、輸送経路を画定する導管の壁に細胞が接着するのを防止することができる。この交互にバイアスをかけられる電界は、図2に示すコントローラ19の波形発生器94によって生成される。この中央寄せ効果は、細胞を輸送経路の中央へと集めるが、それは、細胞を進行波誘電泳動場の中央部に保持することによって一次輸送運動に寄与すると共に、細胞が輸送経路の壁に接着するのを防ぐことによって二次運動にも寄与する。
【0065】
図11は、中央に寄せる力を達成すべく、第3のモードにおいて一緒に作動している電極アレイ310及び312の一部を概略的に示している。図11に示すように、このモードでは、電極アレイ310の隣接する素子311A、311B及び電極アレイ312の隣接する素子313A、313Bは、互いに対して位相差があるように示される。さらに、素子311Aは、素子313Aと位相が180°ずれており、素子311Bは、素子313Bと位相が180°ずれている。これらの位相を繰返し入れ替えることによって、個々の電極素子は、個々の電極素子間の中央の位置に細胞を動かす傾向がある負の誘電泳動場を生成する。
【0066】
外側電極アレイ310、312に、第1の作動モード、第2の作動モード及び第3の作動モードの種々の組み合わせを適用することで、異なる効果を得ることができる。一実施形態では、外側電極アレイ310、312を第2のモードで用いることで、中央電極アレイ320が進行波誘電泳動場を印加して細胞に一次運動をもたらすのを支援することができる。その後、中央電極アレイ320が進行波を印加し続けている間に、外側電極アレイ310、312を第1のモード又は第3のモードに切り替えることで、細胞に二次運動をもたらすことができる。さらに、コントローラ19(図2)によって第1のモードと第3のモードとを切り替えて、電気回転と中央寄せを交互に行うことができ、その間、中央電極アレイ320は進行波を保持する。従って、この実施形態では、ただ1つの電極配列(外側電極アレイ310、312及び中央電極アレイ320の両方)により、細胞の一次運動及び二次運動の両方がもたらされる。
【0067】
他の実施形態では、中央電極アレイ320を、図9記載の作動サイクルと同じように、外側電極アレイ310、312と交互に起動することができる。詳細には、中央電極アレイ320が休止状態にある間に、外側電極アレイ310、312を凝集防止サイクルのために起動させる。次に、外側電極アレイ320を停止させて凝集防止サイクルを中止し、中央電極アレイ320を輸送サイクルのために起動させる。この交互のパターンは、繰り返すことができ、且つ/又は順序を変更することができる。最後に、図9記載のタイミング図のサイクル256は、凝集防止サイクルと輸送サイクルの同時作動を示しており、それは、中央電極アレイ320が進行波を印加して細胞に一次輸送運動をもたらす間に、二次的な脱凝集運動をもたらすために、第1のモード及び第3のモードのうちの1つ又は複数にて外側電極アレイ310、312を起動することによって、任意の時点において実施することができる。
【0068】
本発明の実施形態は、バイオデバイスの選別操作と他の機能との間のバイオデバイス部にわたって、細胞及び粒子を比較的凝集することなく輸送することを可能とする。この凝集を最小限に抑えた細胞輸送は、一次運動及び二次運動を種々の組み合わせにて両方もたらすことにより達成される。
【0069】
本明細書では特定の実施形態について例示、説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、例示、説明した特定の実施形態の代わりに、種々の代替の実施態様及び/又は等価の実施態様を利用し得ることは当業者には理解されよう。本願は、本明細書において説明する特定の実施形態のあらゆる改良や変更を包含するよう意図されている。それ故、本発明は、特許請求の範囲及びその等価物によってのみ限定されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態による、バイオデバイスのブロック図
【図2】本発明の一実施形態による、バイオデバイスの細胞輸送器を示す概略的な部分断面図及びブロック図
【図3】本発明の一実施形態による、細胞輸送法のブロック図
【図4】本発明の一実施形態による、図2の線4−4に沿って切り取った、細胞輸送器の断面図
【図5】本発明の一実施形態による、図2の線5−5に沿って切り取った、細胞輸送器の断面図
【図6】本発明の一実施形態による、別の細胞輸送器の概略図
【図7】本発明の一実施形態による、図6の細胞輸送器における基材の平面図
【図8】本発明の一実施形態による、別の細胞輸送器における基材の平面図
【図9】本発明の一実施形態による、細胞輸送器の作動タイミング図
【図10】本発明の一実施形態による、別の細胞輸送器における基材の平面図
【図11】本発明の一実施形態による、細胞中央寄せ機構の概略図
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、いずれも本願と同日に出願され、本願の譲受人に譲渡される、「METHOD OF SORTING CELLS ON A BIODEVICE」と題された米国特許出願第 号(代理人整理番号第200314152号)並びに「METHOD OF SORTING CELLS IN SERIES」と題された米国特許出願第 号(代理人整理番号第200314139号)に関連しており、参照することでそれらを本明細書に取り入れることとする。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、特にそれらの製造及び組立における急速な小型化によって、医療産業は一変した。詳細には、体液中の細胞及び他の成分の取扱いや試験は、従来の試験管から、バイオチップのような他のデバイスへと移行した。ラボオンチップ(Lab-on-a-chip)とも称されるバイオチップは、試験及び他の目的のために、電気的及び/又は化学的に生物学的物質と相互作用し得る小型の電子デバイス上に生物学的物質を配置したものを指す。
【0003】
バイオチップ分野では、電界の印加によって、細胞の移動、分離、特性判定等をはじめとする、細胞の操作を行うべく、多大な努力がなされてきた。電界を用いた細胞の操作に関し数多くの試みがなされたにもかかわらず、細胞の操作能は、細胞のサイズ、細胞の凝集、細胞の分極性等の細胞の種々の特性によって依然として制限される。例えば、細胞を輸送しようとしている最中に、細胞は凝集する傾向がある。バイオチップ上での細胞の輸送が妨げられることによって、バイオチップ上で細胞に関して他の機能(例えば、選別、分離、単離、分析物試験等)を実行する能力が妨げられる。
【0004】
特にこれらの理由から、バイオチップデバイスの広範な使用が制限されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
【課題を解決するための手段】
【0006】
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下の詳細な説明では、本明細書の一部を構成し且つ本発明を実施し得る具体的な実施形態を例示する、添付の図面を参照する。これに関し、「上」、「下」、「正面」、「背面」、「前方」、「後方」等の方向に関する用語を、記載される図面の向きを参照しつつ用いる。本発明の実施形態の構成要素は種々の向きに配置し得るため、その方向に関する用語は例示目的で用いるものであり、決して限定の意はない。本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用し得ること、並びに構造的又は論理的な変更を実施し得ることを理解されたい。最後に、本願の図面のフローチャートには特定の実施順序を示しているが、その実施順序は、示した順序とは異なるようにすることもできる。従って、以下の詳細な説明に限定の意はなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。
【0008】
本発明の実施形態は、輸送時に細胞が凝集するのを防ぎながら、バイオデバイス上で細胞を輸送するための方法に関する。バイオデバイスは、細胞の分離及び/又は試験等をはじめとする生物学的物質の操作を実施するのに用いられる小型で独立型の電子デバイス(例えばバイオチップ)であり、それは、細胞を分離し、収集し、且つ/又は試験するためにバイオデバイス上のステーション間で細胞を輸送するための機構を備える。バイオデバイスは、当該バイオデバイスの異なる操作部(例えば、分離、収集及び/又は試験するためのステーション)間において細胞を輸送する際に、それらの細胞が凝集するのを阻止又は防止する凝集防止機構を備え、それによって細胞は凝集していない状態でこれらのステーションに到着することができる。当該輸送機構及び凝集防止機構は、バイオデバイスの輸送経路(即ち、輸送時に細胞に対して選別、濾過、試験等の他の機能を果たさないバイオデバイスの一部)において用いられる。従って、凝集防止機構は、細胞(又は細胞群)を互いに永久に分離するように働いたり、細胞若しくは細胞タイプを別の細胞タイプから単離するように働いたりはしない。その代わり、凝集防止機構は、個々の細胞が自由に流れるのを促進し、それによって、細胞がその目的地(例えば、バイオデバイスの次のステーション/機能)に到着するときに、各細胞が他の細胞に関して自由に利用可能であり、結果、細胞に対し実施すべき全ての操作を円滑に進行させることができる。
【0009】
バイオデバイスの輸送機構は、輸送時に、バイオデバイス上の輸送経路に沿った細胞の一次運動をもたらす。この一次運動は、輸送経路に沿った流体流れの圧力降下によって、又は輸送経路に沿った細胞運動を引き起こす進行波誘電泳動場の印加によって、実現される。この誘電泳動場は、輸送経路に沿ってバイオデバイス上に配置されている1つ又は複数の電極アレイによって印加され、それに関しては後にさらに詳細に説明する。
【0010】
バイオデバイスの凝集防止機構は、細胞輸送時に、細胞の二次運動をもたらす。二次運動とは、一次運動の動きの方向とは全体として異なる方向を有し、且つ細胞の一次運動を妨げないような距離及び強度を有する、細胞若しくは粒子の1つ又は複数の方向性を有する動きである。詳細には、この二次運動によって各細胞が動く距離は、一次輸送運動によって動く距離に対して比較的短いが、二次運動における各細胞の動きの強度は、一般に、その運動がなければ細胞の凝集を誘発することになる細胞間の引力や接着力を阻害若しくは無効化するのに十分である。一般的に言うと、二次運動の役割は、細胞間の接着若しくは凝集を最初に破壊したり、既に分散している細胞の凝集を防止したりすることである。二次運動は、細胞が凝集し、互いに接着するのが困難となるように、規則的に、即ち繰返し、各細胞を迅速に動かす。幾つかの実施形態では、この二次運動は激しくすることができ、即ち、その強度、距離及び/又は方向が不規則となる(制限はあるが)ように各細胞を迅速に動かすことができる。
【0011】
凝集防止機構によって引き起こされる二次運動は、電界、音波又は超音波によって、回転力、振動力、中央寄せ力(centering force)等を印加することにより実現される。凝集防止機構によって印加される電界は、細胞に電気回転効果をもたらし且つ/又は細胞に誘電泳動場をもたらす電極配列によって印加され、それに関しては後にさらに説明する。
【0012】
これらの各力は、印加される力の性質によって、並びに二次運動のパラメータを制御する信号発生器の能力によって、脱凝集効果を引き起こすのに十分であるが、それでも細胞の一次運動を中断させることのない程度の強度にて印加することができる。例えば、信号発生器は、これらの場を生成する信号の極性/位相を迅速に変化させることによって、二次運動における各細胞の動きの方向や移動距離を変更することができる。最後に、二次運動における細胞の方向性の動きは、或る平面内における二次元の動きとしたり、三次元の(例えば、3つの運動軸に沿った)動きとしたりすることができる。
【0013】
バイオデバイスによって誘電泳動場を印加して、一次運動(輸送機構による)及び/又は二次運動(凝集防止機構による)をもたらすことができる。この誘電泳動場は、空間的に変化する電界、又は粒子(例えば細胞)に印加される場合には不均一である電界、と定義することができる。粒子(例えば細胞)が媒体(例えばプラズマ)よりも分極しやすく、結果として、その粒子が、電界強度の高い領域に向かって引き寄せられるようになるときに、正の誘電泳動が生じる。このように作動しているシステムは、正の誘電泳動モードにおいて作動していると言うことができる。粒子が媒体よりも分極しにくく、結果として、その粒子が、電界強度の低い領域に向かって引き寄せられるようになるとき、負の誘電泳動が生じる。このように作動しているシステムは、負の誘電泳動モードにおいて作動していると言うことができる。
【0014】
第一に、2つ以上の電極間に電圧を印加することによって、これらの電界が生成される。フィールド電極は、印加される電界が不均一となるか、又は空間的に変化するような幾何学的関係で互いに対し配置、配列され、それによって、誘電泳動効果が生み出される。従って、フィールド電極の幾何学的関係を選択的に変化させることで、誘電泳動場内における所望の細胞の動きを生じさせることができる。
【0015】
第二に、フィールド電極に経時的に変化する電圧を印加することによって、経時的に変化する電界を生成することができる。この経時変化は、流動性媒体及び粒子の分極に異なる影響を及ぼす傾向があり、それ故、流動性媒体と粒子との間の相対的な分極に影響を及ぼすであろう。従って、誘電泳動場の経時変化を選択的に適用することによって、細胞粒子を所望のように動かすことができる。
【0016】
多くの場合、特にその変化が正弦波である場合、経時変化は特性周波数を有する。媒体に対する粒子の相対的な分極は、通常、適用される周波数によって影響を受ける。周波数の変化を大きくすることにより、負の誘電泳動モードにおいて作動することから正の誘電泳動モードにおいて作動するように、システムを十分に変更することができる。例えば、或る周波数では、細胞は、電界強度の高い領域に向かって動き(正の誘電泳動モード)、他の周波数では、細胞は、電界強度の高い領域から離れるように動くことができる(負の誘電泳動モード)。本発明の実施形態では、正負いずれかの誘電泳動を用いることで、バッファー又はプラズマのような流動性媒体内において細胞を動かすことができる。
【0017】
第三に、3つ以上のフィールド電極を用いる場合、電圧差を有する電極対を選択的にシフトすることによって、又は振幅変調法を利用することによって、或る特定のタイプの運動を引き起こすことができる。例えば、交互に配置され且つ独立した4つのフィールド電極から成る配列は、粒子に「進行波誘電泳動」応答を誘発することができ、それによって、粒子を制御しながら平行移動させることができる。この「進行波」効果を用いることで、バイオデバイスの輸送器を通して細胞又は粒子を輸送するための一次運動をもたらすことができる。
【0018】
輸送機構及び凝集防止機構の作動は、輸送制御ユニット又はコントローラによって制御される。輸送制御ユニットは、一次運動及び二次運動の所望の組み合わせを達成すべく、様々な持続時間にて、同時又は交互に輸送機構及び凝集防止機構の起動及び停止を指示する。
【0019】
図1記載の一実施形態では、バイオデバイス10は、流体内の細胞サンプルを受容し、それらの細胞を輸送、選別し、その後、それらの細胞を標的細胞及び他の細胞(例えば、非標的細胞)として収集するように指示される。図1に示すように、バイオデバイス10は、サンプル受容器12、選別器アセンブリ15、細胞収集器16、及びコントローラ19を備えたシステム制御電子回路18を含んで成る。選別器アセンブリ15は、輸送器40及び選別器42を含む。選別器アセンブリ15の輸送器40は、一次運動付与器52及び二次運動付与器54を備える運動付与器50を含んで成る。細胞収集器16は、標的細胞30及び他の細胞/流体32を含む。
【0020】
バイオデバイス10のシステム制御電子回路18は、サンプル受容器12、選別器アセンブリ15及び細胞収集器16と電気的に接続されている。システム制御電子回路18は、輸送器40によって印加されるべき種々の電気的、音波的、超音波的な場/力を指示するように構成されたコントローラ19の運転をはじめとする、バイオデバイス10の種々の機能を指示する。図2に関連してさらに説明するように、コントローラ19は、選択可能な強度(例えば電圧)、周波数、位相及び極性(例えば、負又は正の周波数)にて作動し得る波形(経時変化する波形及び経時変化しない波形)を出力することのできる波形発生器を備える。幾つかの実施形態では、この波形発生器は、DCから数GHzまでの範囲の信号周波数を生成することができる。
【0021】
バイオデバイス10のサンプル受容器12は、流体源(複数可)13及び細胞源(複数可)14を含む。流体源(複数可)13は、バイオデバイス10において用いるための1つ又は複数の種類の流体及び/又は流動性媒体を受容し、一方、細胞源(複数可)14は、バイオデバイス10において取り扱い、試験するのに適する1つ又は複数の種類の細胞を受容する。バイオデバイス10の流体源(複数可)13としては、限定はしないが、懸濁液、血液及び血液製剤、試薬溶液等の、1つ又は複数の流動性媒体源が挙げられる。バイオデバイス10内の細胞源(複数可)14としては、限定はしないが、ヒト細胞、動物細胞等、及び細胞小器官、分析物、細菌、ウイルス等の他の粒子、並びにそれらの組み合わせをはじめとする、1つ又は複数の細胞源が挙げられる。幾つかの実施形態では、細胞源(複数可)14には、互いに凝集する傾向があり且つバイオデバイスにおいて輸送されている際に凝集する傾向のある分子等の他の粒子も含まれる。
【0022】
選別器アセンブリ15の選別器42は、互いから、並びに粒子を搬送している流動性媒体から、種々のタイプの粒子を分離するように構成された任意の1つ又は複数の粒子選別モジュールを備える。幾つかの実施形態では、選別器42は、濾過、試験、濃縮、単離、又はバイオデバイス上の生物学的物質に作用するのに適する他の操作等の他の機能及びステーションも含む。
【0023】
選別器アセンブリ15の輸送器40は、意図しない細胞の凝集を防止しつつ、バイオデバイス10上の第1の場所からバイオデバイス10上の第2の場所まで、流動性媒体内の細胞を移動させるように構成された運動付与器50を備える。これら第1の場所及び第2の場所、並びに他の場所は、選別器42によって表される。一次運動付与器52は、輸送器40の中で細胞を動かすための役割を果たし、一方、二次運動付与器54は、それら細胞が一次運動する際に細胞の二次運動を誘発し、細胞が互いに凝集する傾向を相殺するための役割を果たす。
【0024】
サンプル受容器12からの流体/細胞サンプルを選別器アセンブリ15が処理すると、細胞収集器16は、標的細胞30及び他の細胞32(例えば、非標的細胞)を収集する。
【0025】
図2は、バイオデバイス10の輸送器40の一実施形態を示している。図2に示すように、輸送器40は、システム制御電子回路18(図1)のコントローラ19と協動する運動付与器50を備える。運動付与器50は、第1の基材72及び第2の基材74によって画定され、流動性媒体76内の細胞80を搬送するための導管70(例えば、輸送経路)を備える。例示のために、各細胞80は、方向指示子Pによって指示される一次運動と、方向指示子Sによって指示される二次運動とを有するように示されている。一次運動Pは、細胞80が導管70を通って、輸送器40の長手方向の軸Aに概ね平行である方向に動くことを示している。二次運動Sは、回転及び/又は振動による運動のような、一次運動P以外の方向(複数可)及び/又は向き(複数可)に細胞80が動くことを示している。
【0026】
輸送機構82は、第2の基材74内に収容されており、電界90の輸送力(方向指示子FTによって表される)を適用することにより一次運動をもたらす。この電界は、先に説明したように、進行波誘電泳動場である。輸送機構82は、図4〜図11に関連してさらに説明するように、幾つかの態様にて実施することができる。
【0027】
凝集防止機構84(84A、84B及び/又は84Cとして示す)は、細胞80に二次運動をもたらし、輸送時に細胞80が互いに凝集する性質を無効とする。凝集防止機構84は、電界、超音波及び/又は音波によって、三次元方向の一連の力92を適用して、二次運動をもたらす。凝集防止機構84は、輸送機構82の鉛直上方に輸送機構82とは離隔して配置された凝集防止機構84Aとして、第1の基材72内に実装することができる。幾つかの実施形態では、凝集防止機構84は、凝集防止機構84Bとして、輸送機構82の下方の第2の基材74内に配置される。他の実施形態では、凝集防止機構84は、凝集防止機構84Cとして実装され、それは輸送機構82と概ね同じ平面内に輸送機構82と並んで、又は組み合わせて下側基材74内に配置される。最後に、凝集防止機構84A、84B、84Cのうちの2つ以上を1つの実施形態において実装することもできる。凝集防止機構84A、84B、84Cの実装に関しては、図4〜図11に関連して、後にさらに詳細に説明する。
【0028】
図2にさらに示すように、システム制御電子回路18(図1)のコントローラ19は、輸送モジュール95、凝集防止モジュール96及びタイマー97を有する波形発生器94を備える。信号発生器94の輸送モジュール95は、一次運動Pを引き起こすのに適する波形を生成するように構成されており、一方、凝集防止モジュール96は、二次運動Sを引き起こし、輸送時に細胞が凝集するのを相殺するための物理的な場を生成するように構成される。コントローラ19はまた、タイマー97も備えており、それによって輸送モジュール95及び凝集防止モジュール96を選択的に起動及び停止して、モジュール95、96が互いに対して同時に又は交互に作動できるようにする。コントローラ19のタイマー97によって制御される作動モードは、図9に関連して、後にさらに詳細に説明する。
【0029】
図2に示すように、使用時、バイオデバイス10の輸送器40は、輸送機構82によって生成される輸送力FTを適用することによって、導管70中を一次運動Pにて細胞80を動かす。この細胞輸送時に、1つ又は複数の凝集防止機構84A、84B、84Cを配置して細胞80に二次運動Sをもたらすことによって、輸送時にそれら細胞が凝集するのを防止することができる。輸送機構82及び凝集防止機構84A、84B、84Cの実施形態は、図4〜図11に関連して、さらに詳細に説明する。
【0030】
図3は、細胞分離、細胞濾過、細胞試験等のバイオデバイスの他の機能又はステーション間で、バイオデバイス上にある細胞を実質的に凝集させることなく輸送するための方法100のフローチャートである。図1、図2、図4〜図10に関連して説明するシステム及びデバイスは、方法100を実施するのに適している。
【0031】
図3の枠102に示すように、方法100は、電界を印加することによって、バイオデバイスの異なるステーション/機能間で、1つの経路に沿って一次運動にて複数の細胞を輸送することを包含する。一実施形態では、一次運動は、電界と組み合わせて、流体流れの圧力降下を適用して、細胞を動かすことによって達成される。他の実施形態では、一次運動は、電界を用いることなく、流体流れの圧力降下のみによってもたらされる。
【0032】
方法100はまた、枠104に示すように、細胞に二次運動をもたらして、一次運動による輸送中に、細胞同士の実質的に自由な動きを維持させることを包含する。枠106に示すように、方法100は、信号制御ユニットを操作して、細胞に一次運動及び二次運動を同時に又は交互にもたらすことも包含する。
【0033】
図4〜図11は、一次運動及び/又は二次運動をもたらして、バイオデバイスの輸送経路に沿って比較的凝集しないように細胞を輸送するための、電極アレイ及び/又は素子と他のデバイス(例えば、超音波デバイス)との種々の組み合わせを示している。
【0034】
図4は、第2の基材74の表面に注目した、図2記載の輸送器40の断面図であり、第2の基材74(図2)の輸送機構82の一実施形態を示している。図4に示すように、第2の基材74は、表面110と、導電性素子114から成る電極アレイ112とを備えており、電極アレイ112は、輸送機構82としての役割を果たす。電極アレイ112は、流体76(図2)内の細胞80に電界を、詳細には、細胞80に進行波誘電泳動場を印加して、一次運動Pをもたらし、力の方向指示子Fに対して概ね平行に細胞80を動かすように構成される。
【0035】
図4に示すように、電極アレイ112は、電極素子114の直線配列から構成される。幾つかの実施形態では、アレイ112の素子114は、交互に又は互いに咬み合うようなパターンにて配列される。幾つかの実施形態では、電極アレイ112は、第2の基材74の表面110上に露出しており、他の実施形態では、電極アレイ112は、第2の基材74の表面110の直下に配置される。
【0036】
電極アレイ112は、先述した誘電泳動場を進行波として印加して、第2の基材74の概ね全長にわたって、これらの細胞又は粒子を動かすように構成される。一実施形態では、電極素子を4個毎接続して、信号チャネル(例えば、チャネルA)を形成し、単一のユニットとして、これらの接続された素子を起動及び停止できるようにすることにより、電極アレイ112を用いて、この進行波効果を達成することができる。この配列を繰り返すことにより、全ての電極素子114が4つの作動セットに割り当てられ、4つの作動セットをそれぞれ個別に駆動するために、各セットが1つのチャネルを決定し、4つの個別の信号チャネル(例えば、チャネルA、B、C、D)が電極アレイ112に適用されるようにする。このようにして、電極アレイ112は、空間的に変化する電界の進行波を印加して、バイオデバイス10(図2)の輸送器40の導管70を通して、細胞80に一次運動をもたらすことができる。
【0037】
図5は、図2記載の輸送器40の断面図であり、凝集防止機構84の一実施形態を概略的に例示している。詳細には、図5は、第2の基材74内にある輸送機構82の鉛直上方に輸送機構82とは離隔して第1の基材72内に配置された凝集防止機構84Aを表す、輸送器40の一実施形態を示す。
【0038】
図5に示すように、第1の基材72は、凝集防止機構84A(図2)としての役割を果たす電極素子122のアレイ121を有する表面120を備える。アレイ121の電極素子122は、互いに対して概ね平行に、且つ第1の基材72の長手方向の軸に対して概ね平行に配列される。個々の素子122間に負の誘電泳動場を印加することにより、細胞80は、チャネル124A、124B及び124Cのうちの1つに保持されたまま、二次運動にて素子122から離れるように動かされ、それによって一次運動Pの方向に進行する際に細胞80が凝集するのが防止される。言い換えると、電極アレイ120によって印加される負の誘電泳動場は、細胞80に、一次運動Pを横断する方向の二次運動を誘発し、各チャネル124A、124B、124C内の細胞80を中央に寄せる(center)傾向がある。
【0039】
この実施形態では、細胞80が輸送器40(図2)を通って独立した平行な経路(素子122によって画定される)を進行することによって、輸送時の細胞80の自由運動が維持される。さらに、付加的な素子122を追加して、細胞80が進行する独立した平行な経路の数を増やすことにより、3つのチャネル124A、124B、124Cより多い数のチャネルを画定することができ、それにより、細胞の輸送中に細胞80が凝集するのを防ぐための機会を増やすことができる。
【0040】
一実施形態では、チャネル124A、124B、124Cは、壁が個々の細胞を物理的に分離する物理的なチャネルではなく、物理的な壁があるかのように、主に負の誘電泳動場によって個々の素子122間に留まるように細胞80が拘束される仮想的なチャネルである。これらの実施形態では、電極素子122は表面120の直ぐ下に配置することができる。他の実施形態では、これらのチャネル124A、124B、124Cは電極素子122によって画定され、電極素子122が表面120よりも高くなっているときのように、物理的な境界としての役割も果たす。
【0041】
従って、バイオデバイス10(図2)の輸送器40の一実施形態は、図4に示すように、細胞80に一次運動をもたらすための輸送機構82と、それと組み合わせて、図5に示すように、細胞80に二次運動をもたらすための凝集防止機構84Aとを備える。
【0042】
図6は、凝集防止機構84B(細胞80に二次的な脱凝集運動をもたらす)が、細胞80に一次輸送運動をもたらすための輸送機構82の下に配置されている、図2に記載の実施形態を表す、バイオデバイス10(図2)の輸送器40に関する他の実施形態を示している。図6に示すように、輸送器150は、一次運動誘発器152、二次運動誘発器154、及び支持基材156を備える。一次運動誘発器152は、二次運動誘発器154上に積層された第1の薄膜デバイスから成り、二次運動誘発器154は、第2の薄膜デバイスから成る。
【0043】
幾つかの実施形態では、バイオデバイス10(図1)の輸送器40は、図6に示す、一次運動誘発器152及び二次運動誘発器154のような1つ又は複数の導電性要素から成る薄膜メタライゼーションの層を備えた基材として構成される。
【0044】
他の実施形態では、バイオデバイス10(図1)の輸送器40は、半導体微細加工法を用いて構成される。例えば、図6に示すような輸送器40の基材156は、プラスチック、ガラス又はセラミック材料から構成され、他の部分の担体としての役割を果たし、一方、一次運動誘発器152及び/又は二次運動誘発器154の部分は、アモルファスシリコン又は多結晶シリコン材料から形成される。電極素子、電極パッド、入力/出力パッド、接続用トレース等の、一次運動誘発器152及び/又は二次運動誘発器の他の部分は、銅、金、プラチナ、パラジウム、グラファイト等の導電性トレース材料から形成された、堆積メタライゼーション層から成る。
【0045】
図1〜図5及び図7〜図11に関連して説明するバイオデバイス10の1つ又は複数の実施形態を実施するために、図6に関連して説明する薄膜技法を用いることもできる。
【0046】
輸送器150の一次運動誘発器152は、図6に示すように、進行波誘電泳動場を印加して、選別器アセンブリ(例えば、図1記載の選別器アセンブリ15)内の輸送器150を通って細胞を動かすように構成される。従って、一実施形態では、一次運動誘発器152は、図4の電極アレイ112においてもたらされる輸送機構82と概ね同じ特性及び機構を有する。
【0047】
二次運動誘発器154は、細胞に種々の力を印加するよう構成されており、それによって輸送器150内での一次輸送運動時に細胞が凝集するのを防ぐことができる。輸送器150の二次運動誘発器154には、限定はしないが、薄膜デバイスとして構成することができ、細胞の一次運動を概ね中断することのない強度にて、平行移動、回転、振動又は他の運動を細胞にもたらす、任意の電気的に駆動可能なデバイスが含まれる。一実施形態では、二次運動誘発器154には、細胞に超音波力又は音波力を印加して、二次運動をもたらし、細胞が凝集するのを防ぐように構成された圧電デバイスが含まれる。
【0048】
図7は、図6記載の輸送器150の一実施形態の平面図であり、輸送器170として表している。図7に示すように、輸送器170は、表面171と、一次運動誘発器152(図6)としての役割を果たす素子173から成る電極アレイ172とを備え、一方、超音波デバイス174が二次運動誘発器154(図6)としての役割を果たす。一実施形態では、電極アレイ172は、図4記載の電極アレイ112と概ね同じように作動し、一次運動(力の方向指示子FPによって表される)をもたらすための進行波誘電泳動場を印加することができる。詳細には、複数の電極素子173は、4セットの電極として構成され、ここで、各セットは個別に駆動され、4つの個別の信号チャネルのうちの1つに対応する。
【0049】
一実施形態では、二次運動付与器174は、細胞80に超音波力(Fs)又は音波力を印加するための圧電デバイスを備える。従って、電極アレイ172は、進行波誘電泳動場を印加して(図2のコントローラ19による)、細胞を(一次力FPとして)一次運動の方向に動かし、一方、デバイス174は、超音波を印加して、二次力Fsとして二次運動(例えば、回転、振動等)をもたらし、細胞が一次運動している間に細胞が凝集するのを防止する。
【0050】
図8は、第2の基材74の表面に注目した、図2記載の輸送器40の断面図であり、第2の基材74内に輸送器200として実装された輸送機構82の一実施形態を示している。輸送器200の本実施形態は、凝集防止機構84C(細胞80に二次的な脱凝集運動をもたらす)が、細胞80に一次輸送運動をもたらすための輸送機構82と並んで配置されている図2記載の実施形態に対応する。
【0051】
図8に示すように、バイオデバイスの輸送器200は、導管206を画定する表面202及び壁204を備える。また輸送器200は、電極素子210A、210B、210Cから成る第1の外側アレイ208と、電極素子212A、212B、212Cから成る第2の外側アレイ211とを備える。一実施形態では、一次運動(力の方向指示子FPによって表される)をもたらす進行波誘電泳動場を印加することができるようにするために、素子222から成る中央電極アレイ220は、図4の電極アレイ112と概ね同じように作動する。詳細には、複数の電極素子222は、4セットの電極として構成され、ここで、各セットは個別に駆動され、4つの個別の信号チャネルのうちの1つに対応する。
【0052】
第1の外側電極アレイ208及び第2の外側電極アレイ211は、第2の基材74によって画定される輸送経路に沿って作用する電気回転力(FS)によって、細胞80(図2)に二次運動をもたらすように構成される。第1の外側電極アレイ208及び第2の外側電極アレイ211の各素子210A〜C、212A〜Cは、コントローラ19(図1及び図2)の波形発生器94によって個別に駆動することができ、漸進的な起動(又はオン/オフの繰返し)によって隣接する電極素子(210A〜C、212A〜C)間に誘電泳動場を印加して、細胞80の電気回転を達成又は誘発することができるようにする。従って、図8の輸送器200は、一次運動及び二次運動の両方を印加して、凝集を最小限に抑えて細胞を動かす。
【0053】
一実施形態では、電極アレイ220を起動する代わりに(又は、なくして)、導管206に沿った流体の圧力降下によって一次運動をもたらし、一方、電気回転の二次運動をもたらすためには、電極アレイ208及び211をそのまま用いる。他の実施形態では、アレイ220を配置又は備え付け、第2の基材74にわたる流体の圧力降下と併用して、又は併用することなく、一次運動をもたらす。
【0054】
図8は、バイオデバイス10の第2の基材74の輸送経路に関する例示的な断面である。従って、輸送器200は、図示するものよりも長くすることができ、それに応じて、アレイ208及び211内に、図示する3つの電極素子よりも多くの外側電極素子を有することができる。
【0055】
図9は、輸送時間中の、バイオデバイス上のコントローラ19(図1及び図2)の作動図を示している。コントローラ19は、1つには輸送制御ユニットとしての役割を果たしており、バイオデバイスの輸送経路において細胞の二次運動をもたらす1つ又は複数の第1サイクル252の凝集防止運動、並びにバイオデバイスの輸送経路において細胞の一次運動をもたらす1つ又は複数の第2サイクル254の輸送運動を引き起こす。第3サイクル256は、細胞の凝集防止運動及び輸送運動の両方を含み、第1サイクル252及び第2サイクル254を同時に実行して、一次運動及び二次運動の両方が同時にもたらされるようにする。
【0056】
凝集防止サイクル(複数可)252及び輸送サイクル(複数可)254の持続時間、順序、組み合わせを種々選択することで、輸送効果及び凝集防止効果を所望のように最適化することができる。図9記載の図によって表される作動モードは、図1〜図8及び図10〜図11に関連して説明するデバイス及び装置に適用することができる。最後に、図10に関連して後にさらに詳細に説明する中央寄せサイクル等の、他の態様の凝集防止サイクル252を、輸送サイクル254と同時又は交互に実施することができる。
【0057】
凝集防止効果及び輸送効果の種々の順序、組み合わせ及び持続時間を用いることができるが、これらの全てのサイクル252、254、256を合わせて行うとき、バイオデバイス10において、細胞がバイオデバイスの異なる操作機能/ステーション間で(選別、単離、試験等を行うことなく)輸送される際の単位輸送時間となる。
【0058】
図10は、第2の基材74の表面を注目した、図2の輸送器40の断面図であり、第2の基材74内にある輸送器300について、輸送機構82の一実施形態を例示している。この輸送器300の実施形態は、凝集防止機構84C(細胞80に二次的な脱凝集運動をもたらす)が、細胞80に一次輸送運動をもたらすための輸送機構82と並んで配置されている、図2記載の実施形態に対応する。
【0059】
図10は、バイオデバイス10の輸送器300の平面図である。輸送器300は、表面302、素子311から成る第1の外側電極アレイ310、素子313から成る第2の外側電極アレイ312、及び素子322から成る第3の中央電極アレイ320を含む。第3の中央電極アレイ320は、進行波誘電泳動場を印加して、輸送経路に沿って一次運動にて細胞を動かす(方向指示子FPによって表される)。一実施形態では、第3の中央電極アレイ320は、図4記載の電極アレイ112と概ね同じように作動し、一次運動(力の方向指示子FPによって表される)をもたらす進行波誘電泳動場を印加することができる。詳細には、複数の電極素子322は、4セットの電極として構成され、ここで各セットは個別に駆動され、4つの個別の信号チャネルのうちの1つに対応する。
【0060】
中央電極アレイ320に隣接させて中央電極アレイ320と概ね同じ平面内に第1の電極アレイ310及び第2の電極アレイ312を配置することは、図2記載のバイオデバイス10における輸送器40の輸送機構82と凝集防止機構84Cの組み合わせに相当する。
【0061】
第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、3つの異なるモードにて作動することができる。各モードは単独で、又は中央電極アレイ320と組み合わせて用いることができる。
【0062】
第1のモードでは、第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、二次運動として細胞80の電気回転を誘発するための誘電泳動場を印加する。一実施形態では、外側電極アレイ310及び312は、図8に関して先述した電極アレイ208、211と概ね同じように作動する。この第1の動作モードでは、第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、一次運動をもたらす進行波誘電泳動場を生成することには寄与しない。しかしながら、第1のモードにおいて作動する場合、第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、中央電極アレイ320による進行波の印加と同時に作動することができる。
【0063】
第2のモードでは、第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、第3の中央電極アレイ320と協同して作動する。一実施形態では、図10に示すように、中央電極アレイ320の各素子322はそれぞれ、外側電極アレイ310、312の素子311、313のうちの1つに対応する。素子322のうちの1つが、図4の電極アレイ112に関し説明したのと概ね同じようにして、進行波の一部として起動されるとき、外側電極アレイ310、312の対応する素子311、313が中央素子322と同時に起動され、それによって、3つの電極素子322、311、313の全ては、進行波をもたらすべく、4つのチャネル信号セット(例えば、チャネルA、B、C、D)のうちの、ただ1つのチャネル(例えば、チャネルA)のための信号ユニットとして一緒に作動することができる。
【0064】
第3のモードでは、第1の外側電極アレイ310及び第2の外側電極アレイ312は、中央電極アレイ320とは別個に作動し、交互に(例えば、180°の位相差にて)バイアスをかけられ、細胞80を導管の外壁から離れるように、即ち、導管の中央に向かって動かす負の誘電泳動場を生成する(中央に寄せる力FCを生み出す)。この中央寄せ効果によって、輸送経路を画定する導管の壁に細胞が接着するのを防止することができる。この交互にバイアスをかけられる電界は、図2に示すコントローラ19の波形発生器94によって生成される。この中央寄せ効果は、細胞を輸送経路の中央へと集めるが、それは、細胞を進行波誘電泳動場の中央部に保持することによって一次輸送運動に寄与すると共に、細胞が輸送経路の壁に接着するのを防ぐことによって二次運動にも寄与する。
【0065】
図11は、中央に寄せる力を達成すべく、第3のモードにおいて一緒に作動している電極アレイ310及び312の一部を概略的に示している。図11に示すように、このモードでは、電極アレイ310の隣接する素子311A、311B及び電極アレイ312の隣接する素子313A、313Bは、互いに対して位相差があるように示される。さらに、素子311Aは、素子313Aと位相が180°ずれており、素子311Bは、素子313Bと位相が180°ずれている。これらの位相を繰返し入れ替えることによって、個々の電極素子は、個々の電極素子間の中央の位置に細胞を動かす傾向がある負の誘電泳動場を生成する。
【0066】
外側電極アレイ310、312に、第1の作動モード、第2の作動モード及び第3の作動モードの種々の組み合わせを適用することで、異なる効果を得ることができる。一実施形態では、外側電極アレイ310、312を第2のモードで用いることで、中央電極アレイ320が進行波誘電泳動場を印加して細胞に一次運動をもたらすのを支援することができる。その後、中央電極アレイ320が進行波を印加し続けている間に、外側電極アレイ310、312を第1のモード又は第3のモードに切り替えることで、細胞に二次運動をもたらすことができる。さらに、コントローラ19(図2)によって第1のモードと第3のモードとを切り替えて、電気回転と中央寄せを交互に行うことができ、その間、中央電極アレイ320は進行波を保持する。従って、この実施形態では、ただ1つの電極配列(外側電極アレイ310、312及び中央電極アレイ320の両方)により、細胞の一次運動及び二次運動の両方がもたらされる。
【0067】
他の実施形態では、中央電極アレイ320を、図9記載の作動サイクルと同じように、外側電極アレイ310、312と交互に起動することができる。詳細には、中央電極アレイ320が休止状態にある間に、外側電極アレイ310、312を凝集防止サイクルのために起動させる。次に、外側電極アレイ320を停止させて凝集防止サイクルを中止し、中央電極アレイ320を輸送サイクルのために起動させる。この交互のパターンは、繰り返すことができ、且つ/又は順序を変更することができる。最後に、図9記載のタイミング図のサイクル256は、凝集防止サイクルと輸送サイクルの同時作動を示しており、それは、中央電極アレイ320が進行波を印加して細胞に一次輸送運動をもたらす間に、二次的な脱凝集運動をもたらすために、第1のモード及び第3のモードのうちの1つ又は複数にて外側電極アレイ310、312を起動することによって、任意の時点において実施することができる。
【0068】
本発明の実施形態は、バイオデバイスの選別操作と他の機能との間のバイオデバイス部にわたって、細胞及び粒子を比較的凝集することなく輸送することを可能とする。この凝集を最小限に抑えた細胞輸送は、一次運動及び二次運動を種々の組み合わせにて両方もたらすことにより達成される。
【0069】
本明細書では特定の実施形態について例示、説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、例示、説明した特定の実施形態の代わりに、種々の代替の実施態様及び/又は等価の実施態様を利用し得ることは当業者には理解されよう。本願は、本明細書において説明する特定の実施形態のあらゆる改良や変更を包含するよう意図されている。それ故、本発明は、特許請求の範囲及びその等価物によってのみ限定されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態による、バイオデバイスのブロック図
【図2】本発明の一実施形態による、バイオデバイスの細胞輸送器を示す概略的な部分断面図及びブロック図
【図3】本発明の一実施形態による、細胞輸送法のブロック図
【図4】本発明の一実施形態による、図2の線4−4に沿って切り取った、細胞輸送器の断面図
【図5】本発明の一実施形態による、図2の線5−5に沿って切り取った、細胞輸送器の断面図
【図6】本発明の一実施形態による、別の細胞輸送器の概略図
【図7】本発明の一実施形態による、図6の細胞輸送器における基材の平面図
【図8】本発明の一実施形態による、別の細胞輸送器における基材の平面図
【図9】本発明の一実施形態による、細胞輸送器の作動タイミング図
【図10】本発明の一実施形態による、別の細胞輸送器における基材の平面図
【図11】本発明の一実施形態による、細胞中央寄せ機構の概略図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送時間中に細胞(80)を輸送するための、バイオデバイス(10)の輸送器(40)であって:
前記バイオデバイスの他の作動部分の間で、前記バイオデバイスの輸送経路(70/206)に沿って前記細胞の輸送を引き起こすように構成された運動誘発装置であって、前記細胞に不均一な電界を印加するように構成された電極配列(112/121/172/208/211/220/320/350)を含む運動誘発装置と;
前記細胞の輸送を制御するべく前記運動誘発装置に接続されており、且つ前記輸送時間中に前記運動誘発装置に制御信号を与えて、前記輸送経路に沿った前記細胞の輸送を引き起こす細胞の一次運動を誘発すると共に、細胞の輸送中に細胞の凝集を防止する細胞の二次運動を誘発する、輸送制御ユニット(19)と
を含んで成る、輸送器。
【請求項2】
前記輸送時間中に前記一次運動と前記二次運動とが同時又は交互の少なくとも一方にて生じるように、前記輸送制御ユニットが前記運動誘発装置を操作するよう構成されている、請求項1に記載の輸送器。
【請求項3】
前記運動誘発装置が、前記一次運動を誘発する第1の装置(52)と、前記二次運動を誘発する第2の装置(54)とを備える、請求項1に記載の輸送器。
【請求項4】
前記第1の装置及び前記第2の装置が、互いに対して鉛直に配置されており、前記第2の装置が第1の基材(72)上にあり、前記第1の装置が第2の基材(74)上にあり、
前記第1の装置と前記第2の装置との間に前記輸送経路が概ね平行に延在するように、前記第1の基材及び前記第2の基材が互いに対し離隔して配置されている、請求項3に記載の輸送器。
【請求項5】
前記第1の装置が、前記電極配列の第1の部分を含み、前記第1の装置が、前記不均一な電界の進行波をもたらすように構成されており、
前記第2の装置が、前記電極配列の第2の部分を含み、前記第2の装置が、前記輸送経路に沿って前記一次運動の方向に概ね平行に配列された複数の細長い電極素子(122)を含み、
ここで、前記細長い電極素子が、前記素子間に非進行波の、空間的に変化する電界を印加して、前記輸送経路内に複数のチャネルを画定し、前記輸送経路に沿って細胞が凝集するのを防ぐように構成されている、請求項4に記載の輸送器。
【請求項6】
前記第1の装置及び前記第2の装置が、互いに対して鉛直に配置されており、前記第1の装置が、単一の基材内にある前記第2の装置上に配置され、前記第1の装置及び前記第2の装置の両方が、前記輸送経路の下に配置され、
ここで、前記第2の装置が、前記輸送時間中に前記細胞が凝集するのを防ぐために細胞に振動力を印加するように構成された超音波デバイス(174)を含む、請求項3に記載の輸送器。
【請求項7】
前記第2の装置が、上側基材及び下側基材のうちの少なくとも一方の上に配列された複数の電極素子(208、211)であり、
前記複数の電極素子が、電極素子(210A〜210C)から成る第1の外側セット(208)及び電極素子(212A〜212C)から成る第2の外側セット(211)を含み、
前記第1の外側セットが前記輸送経路の第1の側に配列され、前記第2の外側セットが前記輸送経路の第2の側に配列され、
ここで、前記第1の外側セット及び前記第2の外側セットの各々において、電極素子の各々が、前記輸送経路に沿って互いに長手方向に離隔して配置されており、
前記電極配列が、前記電極素子の前記第1の外側セットと前記第2の外側セットとの間の中央且つ前記輸送経路の下に配列された、電極素子(222)から成る中央電極アレイ(220)をさらに含む、請求項3に記載の輸送器。
【請求項8】
前記第2の装置が、上側基材及び下側基材のうちの少なくとも一方の上に配列された複数の電極素子であり、
前記複数の電極素子が、電極素子(311)から成る第1の外側セット(310)及び電極素子(313)から成る第2の外側セット(312)を含み、
前記第1の外側セットが前記輸送経路の第1の側に配列され、前記第2の外側セットが前記輸送経路の第2の側に配列され、
ここで、前記第1の外側セット及び前記第2の外側セットの各々において、電極素子の各々が、前記輸送経路に沿って互いに長手方向に離隔して配置されており、
前記電極配列が、前記電極素子の前記第1の外側セット(310)と前記第2の外側セット(312)との間の中央且つ前記輸送経路の下に配列された、電極素子(322)から成る中央電極アレイ(320)をさらに含み、
前記中央電極アレイ(320)の前記電極素子(322)の各々が、前記電極素子の前記第1の外側セット及び前記第2の外側セットの各々の1つの電極素子(311、313)に対応し且つ概ね平行に位置合わせされており、
前記第1の外側セット及び前記第2の外側セットの電極素子が、前記中央電極アレイの前記対応する電極素子の両側に配置される、請求項3に記載の輸送器。
【請求項9】
前記輸送制御ユニットが、3つの作動モードのうちの少なくとも1つにて前記電極素子の前記第1の外側セット及び前記第2の外側セットを操作する、請求項8に記載の輸送器であって、前記3つの作動モードには:
前記中央電極アレイと協動して前記不均一な電界の第1の進行波を印加する第1のモード;
第2の不均一な電界を印加して、電気回転力として、前記細胞に二次運動をもたらす第2のモード;及び
前記輸送経路内で前記細胞に第3の不均一な電界を印加して、細胞を前記輸送経路の中央に向かって動かす第3のモード
が含まれる、輸送器。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の装置を用いて細胞を輸送する方法であって:
バイオデバイス(10)の輸送経路(70/206)を通して複数の細胞(80)を輸送すること;及び
前記細胞の輸送中に、前記輸送経路の中で各細胞の実質的に自由な個々の動きを維持すること
を包含する、方法。
【請求項1】
輸送時間中に細胞(80)を輸送するための、バイオデバイス(10)の輸送器(40)であって:
前記バイオデバイスの他の作動部分の間で、前記バイオデバイスの輸送経路(70/206)に沿って前記細胞の輸送を引き起こすように構成された運動誘発装置であって、前記細胞に不均一な電界を印加するように構成された電極配列(112/121/172/208/211/220/320/350)を含む運動誘発装置と;
前記細胞の輸送を制御するべく前記運動誘発装置に接続されており、且つ前記輸送時間中に前記運動誘発装置に制御信号を与えて、前記輸送経路に沿った前記細胞の輸送を引き起こす細胞の一次運動を誘発すると共に、細胞の輸送中に細胞の凝集を防止する細胞の二次運動を誘発する、輸送制御ユニット(19)と
を含んで成る、輸送器。
【請求項2】
前記輸送時間中に前記一次運動と前記二次運動とが同時又は交互の少なくとも一方にて生じるように、前記輸送制御ユニットが前記運動誘発装置を操作するよう構成されている、請求項1に記載の輸送器。
【請求項3】
前記運動誘発装置が、前記一次運動を誘発する第1の装置(52)と、前記二次運動を誘発する第2の装置(54)とを備える、請求項1に記載の輸送器。
【請求項4】
前記第1の装置及び前記第2の装置が、互いに対して鉛直に配置されており、前記第2の装置が第1の基材(72)上にあり、前記第1の装置が第2の基材(74)上にあり、
前記第1の装置と前記第2の装置との間に前記輸送経路が概ね平行に延在するように、前記第1の基材及び前記第2の基材が互いに対し離隔して配置されている、請求項3に記載の輸送器。
【請求項5】
前記第1の装置が、前記電極配列の第1の部分を含み、前記第1の装置が、前記不均一な電界の進行波をもたらすように構成されており、
前記第2の装置が、前記電極配列の第2の部分を含み、前記第2の装置が、前記輸送経路に沿って前記一次運動の方向に概ね平行に配列された複数の細長い電極素子(122)を含み、
ここで、前記細長い電極素子が、前記素子間に非進行波の、空間的に変化する電界を印加して、前記輸送経路内に複数のチャネルを画定し、前記輸送経路に沿って細胞が凝集するのを防ぐように構成されている、請求項4に記載の輸送器。
【請求項6】
前記第1の装置及び前記第2の装置が、互いに対して鉛直に配置されており、前記第1の装置が、単一の基材内にある前記第2の装置上に配置され、前記第1の装置及び前記第2の装置の両方が、前記輸送経路の下に配置され、
ここで、前記第2の装置が、前記輸送時間中に前記細胞が凝集するのを防ぐために細胞に振動力を印加するように構成された超音波デバイス(174)を含む、請求項3に記載の輸送器。
【請求項7】
前記第2の装置が、上側基材及び下側基材のうちの少なくとも一方の上に配列された複数の電極素子(208、211)であり、
前記複数の電極素子が、電極素子(210A〜210C)から成る第1の外側セット(208)及び電極素子(212A〜212C)から成る第2の外側セット(211)を含み、
前記第1の外側セットが前記輸送経路の第1の側に配列され、前記第2の外側セットが前記輸送経路の第2の側に配列され、
ここで、前記第1の外側セット及び前記第2の外側セットの各々において、電極素子の各々が、前記輸送経路に沿って互いに長手方向に離隔して配置されており、
前記電極配列が、前記電極素子の前記第1の外側セットと前記第2の外側セットとの間の中央且つ前記輸送経路の下に配列された、電極素子(222)から成る中央電極アレイ(220)をさらに含む、請求項3に記載の輸送器。
【請求項8】
前記第2の装置が、上側基材及び下側基材のうちの少なくとも一方の上に配列された複数の電極素子であり、
前記複数の電極素子が、電極素子(311)から成る第1の外側セット(310)及び電極素子(313)から成る第2の外側セット(312)を含み、
前記第1の外側セットが前記輸送経路の第1の側に配列され、前記第2の外側セットが前記輸送経路の第2の側に配列され、
ここで、前記第1の外側セット及び前記第2の外側セットの各々において、電極素子の各々が、前記輸送経路に沿って互いに長手方向に離隔して配置されており、
前記電極配列が、前記電極素子の前記第1の外側セット(310)と前記第2の外側セット(312)との間の中央且つ前記輸送経路の下に配列された、電極素子(322)から成る中央電極アレイ(320)をさらに含み、
前記中央電極アレイ(320)の前記電極素子(322)の各々が、前記電極素子の前記第1の外側セット及び前記第2の外側セットの各々の1つの電極素子(311、313)に対応し且つ概ね平行に位置合わせされており、
前記第1の外側セット及び前記第2の外側セットの電極素子が、前記中央電極アレイの前記対応する電極素子の両側に配置される、請求項3に記載の輸送器。
【請求項9】
前記輸送制御ユニットが、3つの作動モードのうちの少なくとも1つにて前記電極素子の前記第1の外側セット及び前記第2の外側セットを操作する、請求項8に記載の輸送器であって、前記3つの作動モードには:
前記中央電極アレイと協動して前記不均一な電界の第1の進行波を印加する第1のモード;
第2の不均一な電界を印加して、電気回転力として、前記細胞に二次運動をもたらす第2のモード;及び
前記輸送経路内で前記細胞に第3の不均一な電界を印加して、細胞を前記輸送経路の中央に向かって動かす第3のモード
が含まれる、輸送器。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の装置を用いて細胞を輸送する方法であって:
バイオデバイス(10)の輸送経路(70/206)を通して複数の細胞(80)を輸送すること;及び
前記細胞の輸送中に、前記輸送経路の中で各細胞の実質的に自由な個々の動きを維持すること
を包含する、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−530037(P2007−530037A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504980(P2007−504980)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/006992
【国際公開番号】WO2005/102527
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/006992
【国際公開番号】WO2005/102527
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】
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