説明

バイオデバイス

【課題】基板上で脂質二分子膜の成長を任意に制御する技術、あるいはその脂質二分子膜に埋め込んだ分子・粒子の運動を制御する技術、あるいはそれらの技術を用いて作製したバイオデバイスを提供する。
【解決手段】本発明のバイオデバイスは、基板と、基板表面に設けられ、脂質二分子膜を自発展開させるための親水部と、親水部に設けられた第1ナノギャップ電極と、第1ナノギャップ電極に対し、脂質二分子膜が通過する幅のナノギャップを有して親水部に設けられた第2ナノギャップ電極とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子間相互作用の解明や分析技術に用いられるバイオデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンに代表される半導体材料の微細加工技術に基づき、ナノテクノロジーにおける加工レベルは、今や10ナノメートルオーダーまで到達している。このため、ナノテクノロジーは現代産業におけるマクロデバイスやマイクロマシンの製造技術の核となってきている。
近年、このナノテクノロジーとバイオテクノロジーとを融合させた、新しい技術分野としての、いわゆるナノバイオテクノロジーの動きが急速に展開してきている。このナノバイオテクノロジーは、環境・医療・創薬・予知診断等、様々な方面への応用が期待されている。特に、今後訪れる高齢化社会へ向けて、在宅であっても迅速かつ簡便に、生体検査のできる小型のナノバイオデバイスの需要はますます高まっていくと考えられる。
【0003】
また、ナノバイオテクノロジーは、これらの産業応用だけではなく、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)やタンパク質等の生体分子の分子レベルでの相互作用や機能解明をするための手段として、基礎研究の立場からも大きな期待が持たれている分野である。
従来、タンパク質等の生体分子を半導体基板上に配置する方法としては、最も簡単な方法としては、目的とする生体分子を基板上に散布する方法があった。
しかしながら、この方法は生体分子と基板表面との相互作用の強さに依存し、強い場合には生体分子本来の形態から大きく変容してしまい、弱い場合には基板上に載らない可能性が示唆された。
【0004】
また、タンパク質等の生体分子を半導体基板上に配置する方法としてビオチン−ストレプトアビジン間の特異的な親和性を利用した方法も広く用いられている。
この方法は、まず、末端を修飾したビオチン分子を基板上に固定化し、該ビオチン分子に、ビオチンを特異的に認識するストレプトアビジンを結合させ、該ストレプトアビジンに、ビオチン化されたタンパク質を結合させる方法が用いられる。
しかしながら、この方法は、反応効率やタンパク質をビオチン化しなければならないこと等を考慮するとその適用範囲は限定的なものとなる。
【0005】
さらに、有機分子(例えばチオール分子)の自己組織化膜を利用する方法がある。しかし、この方法も、基板材料(チオール分子では金)が限定され、また、タンパク質を固定化するまでに複雑な化学合成過程を経る必要があるために実用的な方法とは言い難い。
また、上記で述べた有機分子の自己組織化膜を利用する方法では、生体分子が基板に強く結合しているために、生体分子の流動性がなくなり、生体分子が本来持っている生理機能が損なわれるという大きな問題がある。
【0006】
上述したように、生体分子を固体基板上に物理吸着あるいは化学結合を用いて配置する方法においては、その反応過程が複雑であったり、固定した生体分子の流動性が損なわれたりと多くの問題があった。
それらの問題を克服するために近年注目されているのが、脂質二分子膜を利用する方法である。この脂質二分子膜とは、生体膜を構成する基本要素であり、膜タンパク質をはじめ生体分子のホストとなる。
【0007】
また、この脂質二分子膜は、固体基板上に単層の膜(基板支持脂質二分子膜)を形成することができ、膜内での流動性も保持していることが知られている。
このため、脂質二分子膜を半導体基板と生体分子とのインターフェースとして用いる方法が注目を浴びている。
現在主に用いられている方法として、二つの方法が挙げられる。一つは気液界面で脂質の単分子膜を2層形成させる、いわゆるLangmuir-Blodgett法を利用した方法である(例えば、非特許文献1参照)。他の一つの方法は、ベシクル融合法であり、基板表面への脂質小胞の吸着と開裂過程を含む方法である(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
これらの方法は、脂質分子の適用範囲が広く、手法も簡便なため広く用いられているが、はじめに基板全体を脂質二分子膜が覆ってしまう。このため、上述した各方法においては、脂質分子あるいは脂質二分子膜に埋め込まれる生体分子の種類を異ならせて、複数の種類の脂質二分子膜を、同一基板上で作り別けることは原理的に困難である。
このことは、将来的なバイオデバイス(バイオチップ)への応用展開を考えると大きな欠点となりうる。
【0009】
この問題を改善する方法として、自発展開法を用いた脂質二分子膜の作製が報告されている。この方法は、基板上に付着した脂質分子を水溶液中に浸漬させると、脂質分子の自己組織化によって二分子膜が成長していく、いわゆる脂質二分子膜の自発展開特性を利用したものである。
また、脂質二分子膜は疎水表面上では成長せず、親水表面上だけで成長することから、親水パターン及び疎水パターンを表面に形成した基板を用いて、脂質二分子膜の成長位置を制御することが可能である。
【0010】
さらに、任意の場所に任意の成分を含む脂質二分子膜を作製することも可能であるし、脂質二分子膜を担体として、二分子膜内に含まれた試料分子を輸送することも可能である(例えば、非特許文献3を参照)。
この方法は、上記のように脂質二分子膜の成長をリアルタイムで観測することができ、特にダイナミックな特性を調べるのに非常に適した方法である。
しかし、脂質分子の自己組織化により膜が逐次形成されていくために、脂質二分子膜の成長の停止または進行を任意に制御することは不可能であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】L. K. Tamm, H. M. McConnell著、Biophysical Journal誌、第47巻、105頁(1985年)
【非特許文献2】J. T. Groves, N. Ulman, P. S. Cremer, S. G. Boxer著、Langmuir誌、第14巻、3347頁(1998年)
【非特許文献3】K. Furukawa, H. Nakashima, Y. Kashimura, K. Torimitsu著、Lab on a Chip誌、第6巻、1001頁(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、従来の基板支持脂質二分子膜の作製方法においては、はじめに基板表面を脂質二分子膜で覆ってしまう方法(Langmuir−Blodgett(ラングミュア・ブロジェット)法、ベシクル融合法)や脂質二分子膜の自発展開特性を利用して、パターン基板上での成長方向を制御する方法(自発展開法)が用いられてきた。
しかしながら、これらの方法では、脂質二分子膜の成長自体を任意に制御することはできない。将来的なナノバイオデバイスへの応用を考えると、脂質二分子膜の任意の成長制御は極めて重要な要素技術であり、その確立は大きな課題である。
【0013】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであって、半導体基板上で脂質二分子膜の成長を任意に制御する技術、あるいはその脂質二分子膜に埋め込んだ分子・粒子の運動を制御する技術、あるいはそれらの技術を用いて作製したバイオデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は上述した課題を解決するためになされたもので、本発明のバイオデバイスは、基板と、前記基板表面に設けられ、脂質二分子膜を自発展開させるための親水部と、前記親水部に設けられた第1ナノギャップ電極と、前記第1ナノギャップ電極に対し、前記脂質二分子膜が通過する幅のナノギャップを有して前記親水部に設けられた第2ナノギャップ電極とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明のバイオデバイスは、前記第1ナノギャップ電極及び前記第2ナノギャップ電極間への電圧印加の有無により、自発展開による前記脂質二分子膜の前記ナノギャップの通過を制御することを特徴とする。
【0016】
本発明のバイオデバイスは、前記第1ナノギャップ電極及び前記第2ナノギャップ電極の間に印加する電圧値により、前記ナノギャップを通過する前記脂質二分子膜の通過量を制御することを特徴とする。
【0017】
本発明のバイオデバイスは、前記親水部には、両側面に疎水部からなる疎水パターンが設けられた案内部を有し、前記第1ナノギャップ電極と前記第2ナノギャップ電極とが前記案内部に設けられ、前記脂質二分子膜が前記ナノギャップを介し、前記案内部において自発展開することを特徴とする。
【0018】
本発明のバイオデバイスは、前記ナノギャップを有する前記案内部が複数設けられ、当該複数の案内部の一方の端部が、前記親水部に設けられた反応検出部に接続されていることを特徴とする。
【0019】
本発明のバイオデバイスは、前記脂質二分子膜には有機分子、ナノ粒子及び生体分子から選択される少なくとも1種が含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、第1ナノギャップ電極及び第2ナノギャップ電極間に電圧を印加することにより、自発展開して形成された脂質二分子膜に対し、ナノギャップを通過するか否かの制御を行うことが可能となり、脂質二分子膜の成長の停止及び進行を制御し、かつ進行させた場合、成長速度を印加する電圧値により容易に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の一実施形態によるバイオデバイスの構造例を示す図である。
【図2】図1のバイオデバイスにおいて、ナノギャップ構造間に電圧を印加しない場合の、脂質二分子膜が自発展開する様子を時間ごとに示す平面図である。
【図3】図1のバイオデバイスにおいて、ナノギャップ構造間に直流電圧50mVを印加した場合の、脂質二分子膜が自発展開する様子を時間ごとに示す平面図である。
【図4】図1のバイオデバイスにおいて、ナノギャップ構造間に印加する直流電圧を変化させた場合、脂質二分子膜の先端の成長速度と印加電圧との関係を示すグラフである。
【図5】案内部に2つのナノギャップ構造を有するバイオデバイスにおいて、2種類の異なる分子を脂質二分子膜によって輸送し、任意のタイミングでそれらを会合させ、分子間相互作用を調べる素子の概念を示す図である。
【図6】複数の案内部とナノギャップ構造を有するバイオデバイスの構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、この発明の一実施形態によるバイオデバイス1の構成例を示す概念図である。図1(a)はバイオデバイス1の平面図を示している。図1(b)は、後述するナノギャップ構造の部分の斜視図を示している。基板11としては、表面に酸化膜を有するシリコンウェハ(シリコン基板)、石英ガラスのウェハ、パイレックス(登録商標)、サファイア(アルミナ)、マイカ(雲母)等などの材料を用いることができる。また、この基板11として、基板表面に対し、チオリピッドやシランカップリング剤等の有機分子で表面修飾したものを用いてもよい。
【0023】
本実施形態においては、基板11として、表面に酸化膜を有するシリコンウェハを用いてバイオデバイス1を構成した場合について説明する。また、シリコンウェハとして、市販の面指数(100)の結晶の方向指数を表面とするシリコンウェハを用いたが、面指数(111)の結晶の方向指数を表面とするシリコンウェハや、さらに高指数の方向指数を表面とするシリコンウェハを用いてもよい。
この基板11の表面には、フォトリソグラフィや電子線リソグラフィの手法で、金属のナノギャップ構造(電極)12及び13が作製されている。ナノギャップ構造12及び13は、例えば、一端が三角形状の突起部12e、13eを有して形成されている。それぞれの突起部12eと13eとが距離dの間隙(ナノギャップ)30を有して対向するように、基板11表面に配置されている。この間隙30の距離dは、20nm以下であることが好ましい。また、間隙30の距離dは、脂質二分子膜が通過することが可能な幅以上である必要がある。
【0024】
また、ナノギャップ構造12及び13の作製に用いる金属材料としては、金、白金、銀、アルミニウム、チタン等や、ニッケル等の磁性金属を用いることができる。ナノギャップ構造12、13の各々は、他端がそれぞれ金属パッド14、15に接続され、金属パッド14、15は、ナノギャップ構造12及び13の間隙30に対する電圧印加用の電極として用いられる。
この金属パッド14及び15の間に、電源20から直流電圧あるいは交流電圧を印加し、間隙30に対して任意の電界を生じさせる構成となっている。
【0025】
案内部17は、基板11の表面に対して疎水膜16を形成し、この疎水膜16をフォトリソグラフィや電子線リソグラフィの手法で、幅w、長さLの矩形状(帯状)に除去して、親水性の基板11の表面を露出して形成されている。疎水膜の材質としては有機フォトレジストやポリイミドなどの絶縁性の樹脂が好適である。
また、案内部17は、図1(a)に示すように、ナノギャップ構造12及び13の間隙30に平面視で重なるように形成されている。すなわち、間隙30は、基板11の親水性の面を露出した案内部17内に配置されている。
【0026】
収容部18及び19は、案内部17と同様に、疎水膜16をフォトリソグラフィや電子線リソグラフィの手法で除去し、基板11の親水性の表面を露出させることで形成している。本実施形態においては円形に形成されているが、これに限定されず、例えば矩形や多角形であってもよく、脂質二分子膜などの材料を収容できればどのような形状でもよい。
また、収容部18には案内部17の長さ方向の一端が接続され、収容部19には案内部17の長さ方向の他端が接続されている。
ここで、案内部17、収容部18及び19は、後述するように、脂質二分子膜の成長方向を制御するためのものであり、作製することが好ましい。しかしながら、案内部17、収容部18及び19を形成しない場合においても本発明が実施可能であることを述べておく。
【0027】
次に、上述の構成を有する本実施形態のバイオデバイス1における脂質二分子膜の成長の制御について説明する。また、本実施形態においては、脂質二分子膜のみでも実行することは可能であるが、脂質二分子膜に試料として(生体)分子やナノ粒子を混合させ、脂質二分子膜と共に輸送させることがより好ましい。
この試料としては、脂質二分子膜を光学的方法で観測するための蛍光プローブ分子、Qドット(Quantum dot;量子ドット)や金コロイド等のナノ粒子、有機分子あるいは膜タンパク質やDNA等の生体分子など、脂質二分子膜と共に輸送されるものであればその制限はない。試料の混合方法としては、試料を脂質分子に混入させた混合物をあらかじめ作製しても、脂質二分子膜の成長時に試料を結合させてもよいが、以下ではより実行の容易な前者の方法について説明する。
【0028】
バイオデバイス1の案内部17、収容部18及び19においては、ナノギャップ構造12、13の配置されている部分を除き、基板11表面が露出している。この基板11表面は、すでに述べたように親水性であるため、当該表面に脂質二分子膜を成長させることができる。
脂質分子としては、脂質二分子膜を形成可能なものであればよく、従来から脂質二分子膜を形成する際に用いられている材料を使用することができる。例えば、フォスファチジルコリン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンなどが挙げられる。
【0029】
本実施形態においては、基板11の表面に、上述した脂質分子から脂質二分子膜を形成する際、ナノギャップ構造12及び13の間隙30を介して、案内部17に脂質二分子膜を成長させる。すなわち、この脂質二分子膜は自発展開によって成長し、案内部17を流路として試料を輸送することになる。
【0030】
まず、試料と、脂質二分子膜を形成する脂質分子とを混合させた脂質混合物を作製する。
そして、作製した脂質混合物を、収容部18または19のいずれか一方、例えば収容部18に付着させる。この状態でバイオデバイス1をバッファー水溶液中に浸漬させ、バッファー水溶液中に静置する。
すると付着した脂質混合物の基板11表面に形成された裾野から、基板11表面上に沿って、脂質分子の自己組織化によって、脂質二分子膜の単一膜が形成されていく。この脂質分子の自己組織化による脂質二分子膜の成長を脂質二分子膜の自発展開と呼ぶ。
脂質二分子膜は、疎水的な上面を有する金属のナノギャップ構造12及び13や疎水膜16の部分には成長せず、親水的な基板11表面にのみ成長する。すなわち、脂質二分子膜の単一膜は、収容部18から案内部17に入り、案内部17に沿って、収容部19方向に自発展開することにより成長していく。
【0031】
そして、脂質二分子膜は、案内部17において自発展開により成長していき、案内部17の経路内に配置されたナノギャップ構造12及び13の間隙30に到達する。
このとき、脂質二分子膜は脂質分子に混合した試料を含んで、間隙30を介して成長することにより、成長に伴って、含んだ試料を成長方向に輸送することになる。
このとき、電源20によりナノギャップ構造12及び13間に電圧が印加されていない場合、脂質二分子膜はナノギャップ構造12及び13の間隙30を通過し、もう一方の収容部19に収容されることになる。ここで、脂質分子に混合した試料も、脂質二分子膜の成長と共に輸送されるため、間隙30を通過し、脂質二分子膜とともに収容部19に収容されることになる。
【0032】
一方、電源20によりナノギャップ構造12及び13間に電圧が印加されている場合、脂質二分子膜の成長は以下に説明する状態となる。
一般に、電解質溶液(上記バッファー水溶液)中に電極等の金属を浸漬させると、その界面に電気二重層が形成される。この電気二重層の厚さは、電解質溶液の濃度に依存し、脂質二分子膜の自発展開が可能となる濃度範囲において、約1〜10nm程度となる。
【0033】
このため、間隙30の距離dが電気二重層の厚さより大きい場合、電気二重層の外側においては、ナノギャップ構造12及び13間に印加した電圧が、バッファー水溶液に含まれるカウンターイオンによって遮蔽される。この遮蔽効果により、間隙30を通過する脂質二分子膜に対して有効な電圧が掛からない。
【0034】
また、間隙30の距離dが十分に小さく、例えば電気二重層の厚さより小さい場合、ナノギャップ構造12の突起部12eと、ナノギャップ構造13の突起部13eとのそれぞれから形成される電気二重層同士が重なりを有する。この電気二重層が重なることにより、ナノギャップ構造12及び13の間隙30における脂質二分子膜に対して有効な電圧が掛かるようになる。
例えば、間隙30の距離dが10nmである場合、電源20によりナノギャップ構造12及び13間に印加される電圧が100mV程度でも、間隙30において10V/mと極めて大きな電界強度が得られる。
【0035】
この間隙30の距離dが、突起部12e及び突起部13eの各々から電圧印加時に成長する電気二重層の合わせた厚さに近い状態において、適当な脂質二分子膜の成長条件下では、ナノギャップ構造12及び13間に電圧を印加しない場合のように、間隙30内に入った脂質分子がそのまま通過することができず、間隙30内にトラップすることが可能となる。
間隙30内での脂質分子のトラップされ易さは、ナノギャップ構造12及び13間に印加される電圧の電圧値に依存することになる。このとき、ナノギャップ構造12及び13間の印加電圧の電圧値を変化させることによって、間隙30の脂質分子の通り易さを制御(間隙30を通過させる脂質二分子の量を制御)することができる。
【0036】
すなわち、ナノギャップ構造12及び13間における印加電圧が大きい場合、脂質分子が突起部12e及び13e間の電界によってトラップされ、脂質二分子膜の自発展開が間隙30において停止することになる。
一方、ナノギャップ構造12及び13間における印加電圧が小さくなるにともない、徐々に脂質二分子膜が間隙30を通過することができるようになる。つまり、ナノギャップ構造12及び13間における印加電圧の電圧値の大きさにより、脂質二分子膜の成長速度をも制御することが可能となる。
ここで、電源20によりナノギャップ構造12及び13間に印加する電圧は直流または交流のいずれであってもよい。また、直流を用いる場合には、ナノギャップ構造12及び13の対向する面における電気化学反応(例えば、水の電気分解)を抑制するため、100mV以下に留めることが好ましい。
【0037】
<バイオデバイス1の製造>
本実施形態におけるバイオデバイス1の製造方法について以下に説明する。以下に述べるプロセスを経て、図1に示すバイオデバイス1を得た。
まず、基板11(例えば、4インチのシリコンウェハ)の表面に対し、CVD(Chemical Vapor Deposition)あるいはスパッタリングなどにより、1μmの厚さの酸化膜を形成する。
【0038】
そして、基板11の酸化膜の上部に金属膜を形成し、金属膜上部にフォトレジストを塗布して、電子線リソグラフィの工程を経て、フォトレジストを現像することにより、ナノギャップ構造12及び13と、電圧印加用の金属パッド14及び15とに対応するフォトレジストパターンを形成する。このフォトレジストパターンをマスクとして金属膜のエッチングを行い、ナノギャップ構造12及び13と、電圧印加用の金属パッド14及び15とを形成する。
本実施形態においては、ナノギャップ構造12及び13と、金属パッド14及び15との金属材料としては金を用いた。金の薄膜の膜厚は30nmである。また、基板11の表面との密着性を向上させるため、金の薄膜と基板11の表面との間に、1nmのチタンの層をCVDあるいはスパッタリングにより形成した。
【0039】
次に、ナノギャップ構造12及び13と、金属パッド14及び15とが形成された基板11上部に有機フォトレジスト(例えば、TSMR−V3(登録商標)、東京応化工業株式会社)を塗布する。すなわち、回転支持台に基板11を固定して、その基板11の上にフォトレジストを滴下する。そして、回転支持台を駆動して基板11を高速回転させ、スピンコートにより有機フォトレジストの層を形成する。そして、スピンコートの後、120℃で90秒間加熱するベーキングを行い、含まれた溶剤を揮発させて、有機フォトレジストの膜を固化させる。これにより、基板11上に均一な膜厚を有する有機フォトレジストの薄膜が形成される。
【0040】
次に、電子線リソグラフィにより、この有機フォトレジストの層に対し、所定のパターン、すなわち案内部17、収容部18及び19を形成するパターンを露光する。
さらに、現像液によって現像を行うことで、露光された案内部17、収容部18及び19を形成するパターンの有機フォトレジスト薄膜を除去し、案内部17、収容部18及び19を形成した。
【0041】
また、有機フォトレジストと基板11の表面との密着性をよくするために、再度の加熱として、200℃で1時間のベーキング処理を行った。
このとき、レジスト薄膜が残された部分が疎水膜16となり、有機フォトレジスト薄膜が除去された部分では酸化膜が露出、すなわち基板11の親水性の表面が露出する。
作製された案内部17の、幅wは10μm、高さhは1μmであった。上述したプロセスにより、図1に示すバイオデバイス1が得られた。
【0042】
次に、ナノギャップ構造12及び13の間隙30の距離dが20nm以下(走査型電子顕微鏡の観察で確認)に作製されたバイオデバイス1を以下の実験に用いた。
また、実験に使用する際、作製したバイオデバイス1は、純水(>18MΩ・cm)で15分、40%フッ化アンモニウム水溶液で2分、最後に純水で15分洗浄した。
【0043】
<脂質二分子膜の自発展開>
上述したプロセスにて作製したバイオデバイス1における、脂質二分子膜の自発展開の実験を説明する。
卵黄から抽出した脂質分子のフォスファチジルコリン(L−α−PC、平均分子量770)と、卵黄から抽出した脂質分子のフォスファチジルグリセロール(L−α−PG、平均分子量771)とをモル比7:3の割合で混合して、この混合した脂質分子を脂質二分子膜を形成する材料とした。
【0044】
また、この混合した脂質分子に対し、試料としてテキサスレッド色素が結合した1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−フォスフォエタノールアミン(テキサスレッド−DHPE)を、少量のクロロホルムに溶解させて混合し、脂質分子と試料との混合物(混合脂質)を生成した。このとき、この混合物において、テキサスレッド濃度が混合脂質に対して1mol%となるように、脂質分子と試料とを混合した。
この混合物に対し、アルゴンガス流を吹き付けて、テキサスレッドとともに加えたクロロホルムを揮発させて除去し、これを一晩真空乾燥したところ、粘張性を有する赤色固体を得た。
【0045】
この赤色固体を、ガラスキャピラリーの尖端に取り、基板11の一方の収容部、例えば収容部18に付着させた。
そして、この赤色固体の脂質分子の自己組織化による脂質二分子膜の自発展開の状態を調べるため、バイオデバイス1をレーザ共焦点顕微鏡を用いて観察した。このとき、自発展開を行わせるためには、収容部18に赤色固体が付着されたバイオデバイス1を、バッファー水溶液中に浸漬させ、バッファー水溶液中に静置する必要がある。
このため、レーザ共焦点顕微鏡の対物レンズと、バイオデバイス1との間に、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン10mM、NaCl 100mMの濃度で塩酸によりpH7.6に調製されたバッファー水溶液を満たすことによって、脂質二分子膜の自発展開を開始させた。
【0046】
図2は、上記の混合物及びバッファー水溶液を用いる成長条件において、ナノギャップ構造12及び13間に電圧印加しないで、脂質二分子膜を自発展開させた時の経時変化を示した図である。
この図2の各イメージはバイオデバイス1表面を直上から平面視において観察したものであり、図2(a)〜(g)の各図のほぼ中央に間隙30(ナノギャップ)が配置されている。
すなわち、間隙30を形成するナノギャップ構造12及び13の配列方向に対し、垂直方向に(間隙30を横切るように)、バイオデバイス1の案内部17の長さ方向が形成されている。
この図2においては、自発展開する脂質二分子膜が間隙30に到達した時点を、時刻t=t0(秒)としている。このため、図2(a)がt0−300秒、図2(b)がt0−150秒、図2(c)がt0秒、図2(d)がt0+50秒、図2(e)がt0+200秒、図2(f)がt0+400秒、図2(g)がt0+700秒における脂質二分子膜の案内部17での成長状態を示している。
【0047】
自発展開を開始させると、収容部18に付着させた脂質分子の塊(赤色固体)から、等方的に脂質二分子膜の単一膜が成長する。
脂質二分子膜は、成長の進行に伴い、収容部18からから案内部17に入り、案内部17に沿って、収容部18から収容部19への方向に(図2において、左から右へと)、図2の時刻経過に示すように成長していく。
図2中の帯状に伸びて行く部分が、脂質二分子膜の単一膜であって、試料に含まれるテキサスレッド色素からの蛍光発光を示している。この蛍光発光をレーザ共焦点顕微鏡で観察することにより、脂質二分子膜の成長過程が図2のように検出される。
【0048】
そして、時刻t=t0(秒)に、脂質二分子膜が間隙30に到達すると、脂質二分子膜がその間隙30を通過し、間隙30を中心として半円状(等方的)に成長する。
間隙30を通過した脂質二分子膜は、収容部19の方向に、案内部17を自発展開により成長していくことになる。
この実験において、脂質分子や色素分子がバッファー水溶液中に溶け出したり、ナノギャップ構造12及び13などの金属部分や、疎水膜16上への脂質二分子膜の成長は確認されなかった。
すなわち、脂質二分子膜およびそれと共に輸送されてきた試料分子は、必ず、ナノギャップ構造12及び13の間隙30を通過することを示している。
また、間隙30の手前(収容部19方向における手前)において、脂質二分子膜の成長が停止したり、間隙30内に詰まったりという振る舞いは観察されなかった。
間隙30を通過する自発展開による脂質二分子膜の成長は、間隙30の距離d(<8nm〜20nm)によらず観測された。
【0049】
<実施例1:ナノギャップ構造12及び13間への直流電圧印加>
次に、図3は、ナノギャップ構造12及び13間に適宜電圧印加して、脂質二分子膜を自発展開させた時の脂質二分子膜成長の経時変化を示した図である。すなわち、図3は、上記成長条件にて、図1に示すバイオデバイス1の金属パッド14、15間に定電圧直流電源20を接続し、ナノギャップ構造12及び13間に直流電圧50mVを印加して、脂質二分子膜を自発展開させた際の、脂質二分子膜の成長の経時変化を示した図である。
【0050】
この図3においても、自発展開する脂質二分子膜が間隙30に到達した時点を、時刻t=t0(秒)としている。このため、図3(a)がt0−1320秒、図3(b)がt0−720秒、図3(c)がt0秒、図3(d)がt0+300秒、図3(e)がt0+360秒、図3(f)がt0+660秒、図3(g)がt0+1380秒、図3(h)がt0+2130秒、図3(i)がt0+2580秒、図3(j)がt0+2880秒、図3(k)がt0+3480秒、図3(l)がt0+4380秒における脂質二分子膜の案内部17での成長状態を示している。図3(a)から図3(b)までと、図3(e)から図3(g)までと、図3(k)から図3(l)までとにおいては、ナノギャップ構造12及び13間に電圧を印加していない。一方、図3(c)から図3(d)までと、図3(h)から図3(j)までとにおいては、ナノギャップ構造12及び13間に電圧を印加している。
このとき用いたバイオデバイス1の間隙30の距離dは、8nm以下(走査型電子顕微鏡の分解能以下)である。
【0051】
ナノギャップ構造12及び13間に電圧を印加しない場合と同様に、脂質二分子膜がナノギャップ構造12及び13の間隙30に到達するまでは、脂質二分子膜は収容部18から案内部17に入り、案内部17に沿って図3の左から右へと、収容部19の方向に成長していく。
そして、図3(c)に示すように、直流電圧50mVをナノギャップ構造12及び13間に印加した状態において、脂質二分子膜はナノギャップ構造12及び13の間隙30に到達すると、脂質二分子膜が間隙30を通過することはなく、脂質二分子膜の自発展開が停止する。ここで、直流電圧50mVを、ナノギャップ構造12及び13間に印加している図3(c)から図3(d)までの期間、すなわち、電圧印加状態で約5分間、脂質二分子膜がナノギャップ構造で止まっている様子が観察された。
【0052】
次に、図3(e)に示すように、ナノギャップ構造12及び13間に印加する電圧を0Vに戻すと、再び脂質二分子膜の成長が開始された。図3(e)のt=t0+360秒から図3(g)のt=t0+1380秒まで、脂質二分子膜が自発展開して成長している。
そして、図3(h)に示すように、ナノギャップ構造12及び13間の印加電圧を50mVに戻すことにより、脂質二分子膜の成長を再び停止させることが可能であった。このとき、図3(h)から図3(j)に示すように、ナノギャップ構造12及び13間に電圧印加中の時刻t=t0+2130からt=t0+2880秒の間、脂質二分子膜の自発展開による成長は停止したままであることが観察された。
【0053】
さらに、図3(k)に示すように、再度、ナノギャップ構造12及び13間に印加する電圧を0Vにすると、三度、時刻t=t0+3480秒から、脂質二分子膜の成長が開始された。
この結果は、脂質二分子膜の自発展開の停止/進行が、電圧印加の有無と明らかに対応しており、ナノギャップ構造12及び13間に対する電圧印加により、脂質二分子膜の自発展開による成長を任意に制御できることを示している。
【0054】
<実施例2:ナノギャップ構造12及び13間への交流電圧印加>
実施例1においては、電源20により直流電圧をナノギャップ構造12及び13間に印加し、自発展開による脂質二分子膜の成長の進行及び停止を制御することを示した。
本実施例2においては、ナノギャップ構造12及び13間に、交流電圧を印加することによっても、自発展開による脂質二分子膜の成長の進行及び停止の制御が可能であることを説明する。
実験に用いたバイオデバイス1の構造及び脂質二分子膜の成長条件は実施例1と同様とし、電源20からナノギャップ構造12及び13間に印加する電圧のみを交流電圧に変更した。交流電圧を印加した場合も、直流電圧を印加した場合と同様の効果を得ることができた。
【0055】
実施例1のように、直流電圧を用いると電極表面(ナノギャップ構造表面)において水の電気分解等の電気化学反応が起きることが危惧される。
一方、交流を用いる場合には電極表面における化学反応が抑制され、電気泳動による脂質分子の局在化も最小化される。このため、直流電圧を用いた場合に比し、交流電圧を用いた場合には、より長時間にわたる脂質二分子膜の自発展開の停止あるいは進行の制御が可能となる。
また、交流電圧を用いた場合には、最大振幅、周波数の大きさによっても制御でき、制御電圧としての交流電圧の波形としては、正弦波、矩形波、三角波等が選択できる。
【0056】
<実施例3:脂質二分子膜の成長速度の制御>
実施例1においては、直流電圧印加による脂質二分子膜の成長の停止/進行の制御を説明した。
一方、電圧値を任意に選択して、適当な電圧値の直流電圧をナノギャップ構造12及び13間に印加することにより、脂質二分子膜の成長の速度を制御することができる。
図4は、図1に示すバイオデバイス1を用い、定電圧直流電源である電源20の出力電圧を調整してナノギャップ構造12及び13間に印加する直流電圧の電圧値を変えた際における、直流電圧の電圧値毎の脂質二分子膜の先端の成長速度を示す図である。
この図4において、ナノギャップ構造12及び13間に印加する直流電圧の電圧値は、時刻0から時刻t1間が50mVであり、時刻t1から時刻t2間が5mVであり、時刻t2から時刻t3間が5μVであり、時刻t3以降が50mVである。
【0057】
脂質二分子膜の自発展開の先端部が間隙30に到達するまで(時刻0から時刻t0まで)、脂質二分子膜の自発展開は実施例1と同じ状況下にあり、ナノギャップ構造12及び13間に印加されている直流電圧の影響を受けることなく成長していく。
間隙30に自発展開による脂質二分子膜の先端が到達した後、ナノギャップ構造12及び13間に直流電圧を印加していない場合には、脂質二分子膜の自発展開による成長が進行するが、直流電圧を50mVとして印加している場合には、実施例1と同じく脂質二分子膜の成長が完全に止まる。すなわち、時刻t0において、脂質二分子膜が間隙30に到達している状態において、ナノギャップ構造12及び13間に50mVの直流電圧が印加されていることにより、間隙30が新たに自発展開された脂質二分子膜を収容部19方向へ通過させないため、脂質二分子膜の成長の進行が停止する。
【0058】
印加電圧が50mVの場合には間隙30における強い電場の影響により、間隙30の通過が停止させられていたが、時刻t1において、印加電圧を5mVにすると、トラップする力が弱くなり、脂質分子がトラップされずに脂質二分子膜が通過できるようになる。これにより、間隙30において止まっていた脂質二分子膜の成長が再び開始される。
ただし、脂質二分子膜の自発展開による成長速度は、印加電圧が0Vの時と比べると1/5程度であった。
【0059】
また、時刻t2において、ナノギャップ構造12及び13間に印加する電圧の電圧値を5μVにすると、電圧値5mVの場合に比してさらに脂質二分子膜の自発展開による成長速度が増加し、印加電圧が0Vの際の1/2程度となった。
さらに、時刻t3において、ナノギャップ構造12及び13間に印加する電圧の電圧値を50mVにすると、時刻t0から時刻t1間と同様に、脂質二分子膜の自発展開による成長が停止した。
【0060】
ナノギャップ構造12及び13間に印加する電圧により成長速度が変化するという振る舞いの原因は、印加電圧の調整により、間隙30間に脂質分子をトラップする電界の強さが変化するためであると考えられる。
例えば、ナノギャップ構造12及び13間に印加する電圧値を減少させると、間隙30間に脂質分子をトラップするための電界が弱まり、脂質二分子膜の成長が進行するものと考えられる。
したがって、本実施形態によれば、ナノギャップ構造12及び13間に印加する直流電源の電圧値を調整することにより、間隙30通過後に案内部17での収容部18から収容部19方向への脂質二分子膜の自発展開による成長の進行及び停止、さらに進行させる際の成長速度の制御が可能となる。
【0061】
<実施例4:ナノギャップ構造を複数持つバイオデバイスの例(試料分析デバイス)>
図5は実施例4のバイオデバイス100の構成例を示す図である。一の収容部(不図示)と他の収容部(不図示)との間を結ぶ案内部37に対し、一の収容部と他の収容部とを結ぶ案内部37に平行に、間隙50及び60を直列に配置している。
間隙50はナノギャップ構造32と42との対向部分により構成され、間隙60はナノギャップ構造31と41との対向部分により構成されている。
【0062】
これにより、案内部37内において、ナノギャップ構造32及び42と、ナノギャップ構造31及び41とに挟まれた、すなわちナノギャップ構造32及び42と、ナノギャップ構造31及び41とに区切られた反応検出部38が設けられることになる。ここで、案内部37、一の収容部、他の収容部、ナノギャップ構造32、42、31、41を有するバイオデバイス100の構造は、すでに説明したバイオデバイス1と同様である。
このバイオデバイス100の構造により、すでに説明した間隙30による自発展開の制御を、本実施例の間隙50及び60に適用することにより、一の収容部及び他の収容部の各々から、自発展開により成長する脂質二分子膜に含まれる複数の試料を、任意のタイミングで、反応検出部38にて会合させることができる。
【0063】
図5に示すように、一の収容部から自発展開する脂質二分子膜35に含まれる分子33と、他の収容部から自発展開する脂質二分子膜36に含まれる分子34とを反応検出部38にて会合させる。
すなわち、バイオデバイス100により、2種類の異なる分子33及び34を、脂質二分子膜35、36によって輸送し、反応検出部38において任意のタイミングで分子33及び34を会合させ、分子間相互作用を調べることができる。
【0064】
図1に示すバイオデバイス1と異なり、バイオデバイス100には、反応検出部38を構成するため、間隙60を構成するナノギャップ構造31及び41の組と、間隙50を構成するナノギャップ構造32及び42の組とが、案内部37の長尺方向(一の収容部から他の収容部に向かう方向)に沿って、案内部37内に2つ設けられている。
ナノギャップ構造31及び41の組と、ナノギャップ構造32及び42の組とは、案内部37の長尺方向に10μm離れて配置されており、間隙50の距離、間隙60の距離の各々はどちらも10nmである。
【0065】
一の収容部に試料分子(分子33)を含む脂質分子、他の収容部に検出用試薬(分子34)を含む脂質分子を付着させ、それぞれの収容部から脂質二分子膜の自発展開を開始させることにより、案内部37の両端からそれぞれ試料分子、検出用試薬を含む脂質二分子膜が成長してくる。
この時、ナノギャップ構造31及び41間、ナノギャップ構造32及び42間の各々に対して50mVの直流電圧を印加しておくと(図5(a)及び(b))、間隙60、50において、脂質二分子膜36、35の各々の成長を停止させることができる。75及び76の各々は、脂質二分子膜35、36それぞれの成長方向における端部である。
【0066】
そして、適当なタイミング(検出開始タイミング)において、ナノギャップ構造31及び41間、ナノギャップ構造32及び42間の各々の印加電圧を0Vとする(図5(c))ことにより、案内部37の両端から、再び成長してきた脂質二分子膜が反応検出部38で会合する。
この結果、試料分子(分子33)と、検出用試薬(分子34)との分子間相互作用を蛍光像観察等の既知の方法で調べることができる。
したがって、本実施例のバイオデバイス100によれば、ナノギャップ構造31及び41と、ナノギャップ構造32及び42との各々に印加する電圧値を調整することにより、自発展開する脂質二分子膜35及び36の各々の成長を、それぞれ独立に制御することが可能となり、任意に調整した量により試料分子と検出用試薬の反応を分子レベルで追跡することが可能であるので、必要となる試料は極めて少量(数μl)で十分である。
【0067】
<実施例5:ハイスループット化の例>
実施例4においてナノギャップ構造の組を2つ持つバイオデバイス100(試料分析デバイス)を示した。このナノギャップ構造の組を3つ以上の複数個備えることによって、試料分析をハイスループット化することもできる。
図6は、基板400の表面に形成されたバイオデバイスのパターンを示す図である。この図において、基板400の中央部に収容部401が設けられ、この収容部401を取り囲むようにスター型に反応部(反応検出部)402、403、404、405、406、407、408及び409が配置されている。収容部401及び反応部402から409の構造は、実施例1のバイオデバイス1における収容部18及び19と同様である。
【0068】
収容部401と反応部402とが案内部412により接続され、収容部401と反応部403とが案内部413により接続され、収容部401と反応部404とが案内部414により接続され、収容部401と反応部405とが案内部415により接続され、収容部401と反応部406とが案内部416により接続され、収容部401と反応部407とが案内部417により接続され、収容部401と反応部408とが案内部418により接続され、収容部401と反応部409とが案内部419により接続されている。案内部412から419は、バイオデバイス1の案内部17と同様の構造であり、脂質二分子膜が自発展開するように、親水的な表面を有している。
【0069】
また、案内部412において、この案内部412の長尺方向に対して垂直な方向に、ナノギャップ構造4022及び4024が配置されている。このナノギャップ構造4022及び4024は、各々の一の端部の対向により間隙4025を構成している。ナノギャップ構造4022の他の端部が金属パッド4021に接続され、ナノギャップ構造4024の他の端部が金属パッド4023に接続されている。この構成により、ナノギャップ構造4022及び4024間に直流電圧を印加し、収容部401から反応部402への脂質二分子膜の成長の制御を、間隙4025による脂質二分子膜の通過の制御により行う。
【0070】
同様に、案内部413において、この案内部413の長尺方向に対して垂直な方向に、ナノギャップ構造4032及び4034が配置されている。このナノギャップ構造4032及び4034は、各々の一の端部の対向により間隙4036を構成している。ナノギャップ構造4032の他の端部が金属パッド4031に接続され、ナノギャップ構造4034の他の端部が金属パッド4033に接続されている。この構成により、ナノギャップ構造4032及び4034間に直流電圧を印加し、収容部401から反応部403への脂質二分子膜の成長の制御を、間隙4036による脂質二分子膜の通過の制御により行う。
【0071】
また、案内部414において、この案内部414の長尺方向に対して垂直な方向に、ナノギャップ構造4042及び4044が配置されている。このナノギャップ構造4042及び4044は、各々の一の端部の対向により間隙4046を構成している。ナノギャップ構造4042の他の端部が金属パッド4041に接続され、ナノギャップ構造4044の他の端部が金属パッド4043に接続されている。この構成により、ナノギャップ構造4042及び4044間に直流電圧を印加し、収容部401から反応部404への脂質二分子膜の成長の制御を、間隙4046による脂質二分子膜の通過の制御により行う。
【0072】
また、案内部415において、この案内部415の長尺方向に対して垂直な方向に、ナノギャップ構造4052及び4054が配置されている。このナノギャップ構造4052及び4054は、各々の一の端部の対向により間隙4056を構成している。ナノギャップ構造4052の他の端部が金属パッド4051に接続され、ナノギャップ構造4054の他の端部が金属パッド4053に接続されている。この構成により、ナノギャップ構造4052及び4054間に直流電圧を印加し、収容部401から反応部405への脂質二分子膜の成長の制御を、間隙4056による脂質二分子膜の通過の制御により行う。
【0073】
また、案内部416において、この案内部416の長尺方向に対して垂直な方向に、ナノギャップ構造4062及び4064が配置されている。このナノギャップ構造4062及び4064は、各々の一の端部の対向により間隙4066を構成している。ナノギャップ構造4062の他の端部が金属パッド4061に接続され、ナノギャップ構造4064の他の端部が金属パッド4063に接続されている。この構成により、ナノギャップ構造4062及び4064間に直流電圧を印加し、収容部401から反応部406への脂質二分子膜の成長の制御を、間隙4066による脂質二分子膜の通過の制御により行う。
【0074】
また、案内部417において、この案内部417の長尺方向に対して垂直な方向に、ナノギャップ構造4072及び4074が配置されている。このナノギャップ構造4072及び4074は、各々の一の端部の対向により間隙4076を構成している。ナノギャップ構造4072の他の端部が金属パッド4071に接続され、ナノギャップ構造4074の他の端部が金属パッド4073に接続されている。この構成により、ナノギャップ構造4072及び4074間に直流電圧を印加し、収容部401から反応部407への脂質二分子膜の成長の制御を、間隙4076による脂質二分子膜の通過の制御により行う。
【0075】
また、案内部418において、この案内部418の長尺方向に対して垂直な方向に、ナノギャップ構造4082及び4084が配置されている。このナノギャップ構造4082及び4084は、各々の一の端部の対向により間隙4086を構成している。ナノギャップ構造4082の他の端部が金属パッド4081に接続され、ナノギャップ構造4084の他の端部が金属パッド4083に接続されている。この構成により、ナノギャップ構造4082及び4084間に直流電圧を印加し、収容部401から反応部408への脂質二分子膜の成長の制御を、間隙4086による脂質二分子膜の通過の制御により行う。
【0076】
また、案内部419において、この案内部419の長尺方向に対して垂直な方向に、ナノギャップ構造4092及び4094が配置されている。このナノギャップ構造4092及び4094は、各々の一の端部の対向により間隙4096を構成している。ナノギャップ構造4092の他の端部が金属パッド4091に接続され、ナノギャップ構造4094の他の端部が金属パッド4093に接続されている。この構成により、ナノギャップ構造4092及び4094間に直流電圧を印加し、収容部401から反応部409への脂質二分子膜の成長の制御を、間隙4096による脂質二分子膜の通過の制御により行う。
【0077】
上述したバイオデバイスの構成のもと、収容部401に試料分子を導入した脂質分子を付着させ、反応部402から409の各々にそれぞれ異なる検出用試薬を導入すれば、反応部の数だけ試料分子の供給量を調整し、試料分子と検出用試薬との間の分子間相互作用の分析を行うことができる。
また、本実施例のバイオデバイスは、反応部402から409の各々の案内部412、…、419それぞれに、収容部401との間に各ナノギャップ構造が設けられている。
【0078】
したがって、本実施例によれば、各間隙に対応するナノギャップ構造間に印加する電圧値を制御することにより、任意のタイミングにおいて、試料分子と検出用試薬との間の反応を開始させる制御を行うことができる。
また、本実施例によれば、各間隙に対応するナノギャップ構造間に印加する電圧値を制御することにより、脂質二分子膜の自発展開による成長速度を調整することが可能であるため、成長速度の制御により、各反応部に対する試料分子の輸送量を調整することができ、試料の拡散も最小限に抑えられる。なお、本実施例では、各ナノギャップ構造間に印加する電圧を直流電圧としたが、交流電圧であっても良い。
【0079】
上述したように、本実施例のバイオデバイスを用いた試料分析では、試料分子の必要量は極めて少量で済み、反応の進行もナノギャップ構造間に印加する電圧値の調整によって自由に制御できるので、効率的な反応の観察・分析を行うことが可能となる。
なお、本実施例のバイオデバイスのパターンは適宜変更可能である。すなわち、収容部や反応部の形状及び数は試料の種類に応じて柔軟に変更可能である。
【0080】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1,100…バイオデバイス
11,400…基板
12,13、31,32,41,42,4022、4024,4032,4034,4042,4044,4052,4054,4062,4064,4072,4074,4082,4084,4092,4094…ナノギャップ構造
12e,13e…突起部
14,15、4021,4023,4031,4033,4041,4043,4051,4053,4061,4063,4071,4073,4081,4083,4091,4093…金属パッド
16…疎水膜
17,37,412,413,414,415,416,417,418,419…案内部
18,19、401…収容部
20…電源
30,50,60,4025,4036,4046,4056,4066,4076,4086,4096…間隙
33,34…分子
35,36…脂質二分子膜
38…反応検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板表面に設けられ、脂質二分子膜を自発展開させるための親水部と、
前記親水部に設けられた第1ナノギャップ電極と、
前記第1ナノギャップ電極に対し、前記脂質二分子膜が通過する幅のナノギャップを有して前記親水部に設けられた第2ナノギャップ電極と
を備えることを特徴とするバイオデバイス。
【請求項2】
前記第1ナノギャップ電極及び前記第2ナノギャップ電極間への電圧印加の有無により、自発展開による前記脂質二分子膜の前記ナノギャップの通過を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のバイオデバイス。
【請求項3】
前記第1ナノギャップ電極及び前記第2ナノギャップ電極の間に印加する電圧値により、前記ナノギャップを通過する前記脂質二分子膜の通過量を制御することを特徴とする請求項2に記載のバイオデバイス。
【請求項4】
前記親水部には、
両側面に疎水部からなる疎水パターンが設けられた案内部を有し、
前記第1ナノギャップ電極と前記第2ナノギャップ電極とが前記案内部に設けられ、前記脂質二分子膜が前記ナノギャップを介し、前記案内部において自発展開することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のバイオデバイス。
【請求項5】
前記ナノギャップを有する前記案内部が複数設けられ、当該複数の案内部の一方の端部が、前記親水部に設けられた反応検出部に接続されている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のバイオデバイス。
【請求項6】
前記脂質二分子膜には有機分子、ナノ粒子及び生体分子から選択される少なくとも1種が含まれている
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載のバイオデバイス。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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