説明

バイオナノカプセルの効率的な精製法

【課題】バイオナノカプセルを簡単で工業的に製造可能な方法により精製及び保存する
【解決手段】真核細胞を用いて得られたタンパク質を主成分とする耐熱性バイオナノカプセルの精製法であって、真核細胞の破砕液を熱処理して夾雑タンパク質を除去後、クロマトグラフィー処理を行うことを特徴とする精製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオナノカプセルの効率的な精製法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内での物質運搬体として使用可能なバイオナノカプセルとして、例えばB型肝炎ウイルス粒子などのウイルスタンパク由来の粒子が利用できることが知られている。
例えば、遺伝子組換え酵母でB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)Lタンパク質を発現させることにより、酵母由来の脂質二重膜に多数の同タンパク質が埋め込まれた楕円状中空粒子が形成されることを、本発明者らは報告している(非特許文献1)。このような粒子は、HBVゲノムを全く含まないので、ウィルスとしては機能せず、人体への安全性が極めて高い。
【0003】
一方、このようなバイオナノカプセルは、ヒト以外の真核細胞で製造されているため、破砕液からバイオナノカプセルを得るために多くの夾雑タンパク質を除去する必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1では、B型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質(HBsAg)を組換え酵母で発現させてHBsAg粒子(バイオナノカプセル)を製造し、次いで菌体破砕、塩化セシウム密度勾配超遠心、透析、スクロース密度勾配超遠心などを組み合わせてバイオナノカプセルの精製を行っている。
【0005】
しかしながら、密度勾配超遠心による精製法は、時間およびコストの両面から大量生産は困難であり、バイオナノカプセルのより効率的な精製法が必要とされている。
【特許文献1】特開2004−2313
【非特許文献1】J. Biol. Chem., Vol.267, No.3, 1953-1961, 1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、バイオナノカプセルを簡単で工業的に製造可能な方法により精製及び保存することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、真核細胞により製造されたバイオナノカプセルを熱処理することにより、夾雑粒子が熱変性して沈殿し、目的とするバイオナノカプセルが容易に精製可能であることを見出した。
【0008】
さらに、熱処理後のバイオナノカプセルを硫酸化セルロファインクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーにより精製することにより、酵母などの真核細胞由来の夾雑タンパク質を分離できることを見出した。
【0009】
本発明は、以下の耐熱性バイオナノカプセルの精製方法および保存方法を提供するものである。
1. 真核細胞を用いて得られたタンパク質を主成分とする耐熱性バイオナノカプセルの精製法であって、真核細胞の破砕液を熱処理して夾雑タンパク質を除去後、クロマトグラフィー処理を行うことを特徴とする精製法。
2. クロマトグラフィー処理が、アフィニティクロマトグラフィーおよび/またはゲル濾過クロマトグラフィー処理を含む、項1に記載の精製法。
3. アフィニティクロマトグラフィーが硫酸基を有する担体から構成される硫酸化セルロファインクロマトグラフィーである、項2に記載の精製法。
4. アフィニティクロマトグラフィーがHBsAg粒子を抗原として作製された抗HBsAg抗体を結合させた担体から構成される抗体アフィニティクロマトグラフィーである、項2に記載の精製法。
5. アフィニティクロマトグラフィーがハイドロキシアパタイトを担体とするクロマトグラフィーである、項2に記載の精製法。
6. 耐熱性バイオナノカプセルがB型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質(HBsAg)を主成分とするカプセルである、項1〜5のいずれかに記載の精製法。
7. 熱処理を65〜90℃で行うことを特徴とする、項1〜6のいずれかに記載の精製法。
8. 中空ナノ粒子を凍結し、その後、真空下にて乾燥を行うことを特徴とする耐熱性バイオナノカプセルの保存方法。
9. 中空ナノ粒子を糖質とともに急速凍結することを特徴とする、項8に記載の保存方法。
10. 急速凍結時の温度が−80℃以下である項8又は9に記載の保存方法。
【発明の効果】
【0010】
真核細胞で製造したタンパク質を主成分とする耐熱性バイオナノカプセルは、粒子状の不純物と、真核細胞由来の夾雑タンパク質の両方を含んでいる。
【0011】
これらの不純物のうち、熱処理により粒子状の不純物の大部分は除去することができ、夾雑タンパク質についてもかなりの程度除去することができ、バイオナノカプセルの純度を大幅に向上することが可能である。
【0012】
また、熱処理後のバイオナノカプセルについて、担体として、硫酸化セルロファイン、ハイドロキシアパタイト、抗HBsAg抗体を結合させた担体などを用いたアフィニティクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーをさらに組み合わせることにより、(塩化セシウムおよびショ糖)密度勾配超遠心法を採用することなく目的とするバイオナノカプセルを高純度で得ることができ、バイオナノカプセルの工業規模で実施可能な精製法を確立することができた。
【0013】
さらに、耐熱性バイオナノカプセルを急速凍結および/または糖質の存在下で凍結乾燥することにより、バイオナノカプセルの保存安定性を大幅に向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
タンパク質を製造するための真核細胞としては、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞などが挙げられ、好ましくは酵母が例示される。酵母としては、清酒酵母、焼酎酵母、ビール酵母、ワイン酵母、パン酵母などのSaccharomyces属、Kluyveromyces属、Pichia属等の酵母が挙げられ、特にビール酵母、パン酵母が好ましい。
【0015】
耐熱性バイオナノカプセルは、50℃以上、好ましくは55℃以上、特に60℃以上の熱処理で安定である。耐熱性バイオナノカプセルとしては、熱処理可能な耐熱性タンパク質から構成されるナノカプセルであれば特に限定されないが、例えばB型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質(HBsAg)を主成分とするナノカプセルが例示される。具体的には、HBsAgを主成分とするナノカプセルとしては、HBsAgタンパク70〜85重量%と脂質10〜15重量%からなるナノカプセルが例示され、これら以外にB型肝炎ウイルスコア抗原タンパク質(HBcAg)等の他のタンパク質を含んでいてもよい。HBsAgは、Sタンパク質、Mタンパク質、Lタンパク質などの天然のタンパク質あるいはその改変体が広く包含される。
【0016】
真核細胞の破砕方法は、細胞を破砕できれば特に限定はなく、例えば、自己消化法、酵素分解法、酸分解法、超音波破砕法、ホモジナイザー法、圧力破砕法、ビーズ衝撃法、摩砕法、凍結融解法などが例示され、好ましくはビーズ衝撃法、圧力破砕法などが例示される。
【0017】
破砕された真核細胞培養液は、透析によりバイオナノカプセルを含む画分から水溶性物質や低分子量物質(例えば糖類、アミノ酸、オリゴペプチド、無機塩類)を除去した後に熱処理工程を行うのが好ましい。
【0018】
真核細胞破砕液の透析を行う場合には、例えば1mM EDTAのようなキレート剤の存在下に行うことができる。
【0019】
真核細胞の破砕の際、真核細胞(例えば酵母)由来のプロテアーゼを阻害して、耐熱性バイオナノカプセルの分解を防ぐのが好ましい。このような目的で使用されるプロテアーゼ阻害剤としては、尿素を好ましく例示できる。尿素は、精製過程中の粒子表面に提示する分子を安定化するために好ましい。プロテアーゼ阻害剤は、効率的な熱処理のために熱処理工程前に、例えば透析により除去するのが好ましい。
【0020】
次に、必要に応じて透析処理された破砕液は、熱処理により真核細胞由来の夾雑タンパク質を沈殿除去することができる。熱処理の温度としては、65〜90℃程度、好ましくは65〜85℃程度、より好ましくは70〜80℃程度である。
【0021】
熱処理の温度が低すぎると処理に時間がかかり、温度が高すぎると、抗原量が減少し、バイオナノカプセルの性質に悪影響が出る可能性がある。
【0022】
熱処理の時間は、夾雑タンパク質が変性して沈殿除去される限り特に限定されないが、例えば10〜60分間程度が挙げられる。
【0023】
例えば特開平5- 252976号公報は、HBsAgタンパク質の精製を熱処理を用いて行っているが、その熱処理温度は、45〜60℃の温度範囲が用いられ、50℃が好ましい温度として例示されている。また、特開平5-76370号公報には、HBsAgタンパク質の精製のために、30〜40℃、好ましくは37℃にて1〜6時間加熱処理することが開示されている。
【0024】
一般的にウイルスは60℃の熱処理により不活化され、1992年のWHOの世界血液安全性イニシアチブ第II章「血液と血液製剤のウイルス不活化」に関する報告書、371-398頁にも、ウイルスの不活化の主要な方法は、60℃で10時間以上加熱することであり、液状で60℃の加熱処理を行うと大部分のタンパクは変性することが記載されている。
【0025】
一方、本発明の熱処理は65℃以上の高温で行い、バイオナノカプセルを得ている。熱処理温度を60℃以下の温度で行うと、夾雑タンパク質の分離が不十分になるため好ましくない。
【0026】
熱処理後は、遠心分離により変性した夾雑タンパク質を沈降分離し、バイオナノカプセルを上清として回収することができる。このような遠心分離条件としては、例えば4〜8℃程度の温度下に、20〜60分間、〜34780g程度の重力下に行うことができる。
【0027】
次に、得られた上清由来のバイオナノカプセル粒子をクロマトグラフィーにより精製する。クロマトグラフィーとしては、アフィニティクロマトグラフィーとゲル濾過クロマトグラフィーが好ましく使用される。
【0028】
アフェニティー樹脂としては硫酸化セルロファイン 、ヘパリンセルロファイン、ヘパリンセファロースCL6B(ファルマシア社)等の硫酸基(硫酸エステル)を有する樹脂あるいはハイドロキシアパタイトもしくはHBsAg粒子を抗原として作成した抗HBsAg抗体を結合させた樹脂が好ましいものとして挙げられる。アフィニティクロマトグラフィーとゲル濾過クロマトグラフィーは、常法に従い実施できる。
【0029】
本発明の耐熱性バイオナノカプセルは、凍結乾燥するのが、保存安定性の向上のために好ましい。凍結乾燥は、例えば-20℃程度あるいはそれより低い温度下で凍結(好ましくは急速凍結)後、実施するのが好ましい。急速凍結は、例えば液体窒素、ドライアイス−アルコール(エタノール、メタノール、プロパノール等)、ドライアイス−アセトンなどの−70℃以下、好ましくは−80℃以下の冷却媒体で冷却するのが好ましく、液体窒素が特に好ましい。
【0030】
凍結前の耐熱性バイオナノカプセルの媒体としては、水が使用でき、好ましくは緩衝液が使用される。緩衝液としては、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液などが挙げられ、リン酸緩衝液が好ましい。また、該緩衝液には、NaClなどの塩類を含むことができる。
【0031】
緩衝液のpHは6〜8程度が好ましく、より好ましくは6.5〜7.5程度の範囲が例示される。
【0032】
凍結乾燥の際には、バイオナノカプセル粒子に安定剤を併用するのが好ましい。このような安定剤としては、単糖、二糖、オリゴ糖、糖アルコール、グリコール、多価アルコールが挙げられ、具体的には、グルコース、マンノース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、グリセリン、エリトリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。グルコースのような単糖類、スクロースのような二糖類が特に望ましい。
【0033】
安定剤は、凍結乾燥前のバイオナノカプセル溶液に添加する。その濃度は5〜40%程度が例示され、望ましくは5〜20%がよりよい保存状態を実現するために好ましい。
【0034】
安定剤の配合量は、バイオナノカプセル粒子100重量部に対し、1〜30重量部程度、好ましくは5〜20重量部程度である。
【0035】
凍結乾燥は、常法に従い、例えば真空下において一昼夜、例えば16時間以上行うことにより有利に実施することができる。
【0036】
凍結乾燥後のバイオナノカプセルは、10℃以下での保存が望ましく、より望ましくは4℃以下で保存することがよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0038】
実施例で使用した材料の調製法を以下に記載する。
(i) 0.2 M PMSF液
PMSF 1.7149 g
特級エタノールで 50 mLになるようにメスアップする。−20 ℃保存。
使用前にフィルター(0.22μm)を通す。
析出が見られる場合は、使用前に超音波洗浄機で完全に溶解して使用すること。
【0039】
(ii) 10% Tween 80
Tween 80 5.0 mL
MilliQ-水で50m Lになるようメスアップする。4 ℃で保存、4 ℃で使用する。
使用前にフィルター(0.22 μm)を通す。
【0040】
(iii) Buffer A (w/o Tween 80)
Urea (生化学用、Sigma 32-0291-8) 7.5 M 450.45 g
TRIZMA BASE 0.1 M 12.11 g
NaH2PO4-2H2O 50 mM 7.2 g
EDTA-2Na 15 mM 5.58 g
MilliQ-水を0.9 Lになるよう加え、1N HClでpHを7.4に調整した後、
1Lにメスアップ。4 ℃で保存、4 ℃で使用する。
使用前にフィルター(0.22 μm)を通す。
また、使用前にプロテアーゼ阻害剤として、PMSF (使用濃度; 2 mM) を加えること。
【0041】
(iv) PBS (× 10)
NaCl 80 g
Na2HPO4-12H2O 28.9 g
KCl 2 g
KH2PO4 2 g
MilliQ-水で1 Lになるようメスアップする。
【0042】
(v) 0.2 M Na2HPO4
Na2HPO4-12H2O 35.82 g
MilliQ-水で0.5 Lになるようメスアップする。
【0043】
(vi) 0.2 M NaH2PO4
NaH2PO4-2H2O 15.6 g
MilliQ-水で0.5 Lになるようメスアップする。
【0044】
(vii) 0.1 M リン酸緩衝液 ( pH 7.2 )
0.2 M Na2HPO4 72 ml
0.2 M NaH2PO4 28 ml
MilliQ-水で200 mlになるようメスアップする。
【0045】
(viii) Buffer A (+ Tween 80) 用時調製 (菌体破砕用Buffer)
Buffer A (w/o Tween 80) 500 mL
10% Tween 80 0.1% 5 mL
使用前にプロテアーゼ阻害剤として、PMSF (使用濃度; 2 mM)、APMSF(使用濃度; 100 μg/ml)を加える。使用前にフィルター(0.22 μm)を通す。
【0046】
(ix) PBS, 1 mM EDTA (透析用Buffer)
PBS (× 10) 100 ml
EDTA-2Na 1 mM 0.37 g
MilliQ-水で1 Lになるようメスアップする。
使用前にフィルター(0.22 μm)を通す。
【0047】
(x) 10 mM リン酸緩衝液 pH 7.2(硫酸化セルロファイン用Buffer)
0.1 M リン酸緩衝液 ( pH 7.2 ) 10 mM 100 ml
MilliQ-水で1 Lになるようメスアップする。
使用前にフィルター(0.22 μm)脱気する。
【0048】
(xi) 10 mM リン酸緩衝液 pH 7.2 + 2 M NaCl
(硫酸化セルロファイン用溶出Buffer)
0.1 M リン酸緩衝液 ( pH 7.2 ) 10 mM 100 ml
NaCl 2 M 116.88 g
MilliQ-水で1 Lになるようメスアップする。
使用前にフィルター(0.22 μm)脱気する。
【0049】
(xii) PBS, 1 mM EDTA(ゲル濾過用Buffer)
PBS (×10) 100 ml
EDTA-2Na 1 mM 0.37 g
MilliQ-水で1 Lになるようメスアップする。
使用前にフィルター(0.22 μm)脱気する。
【0050】
実施例1
以下の手順に従って、HBsAg粒子の精製を行った。
【0051】
精製法の概略を図1に示す。
(1)菌体破砕
加えるバッファー、ビーズ、容器は使用前に 4 ℃に冷やして用いる。−80 ℃で保存しておいた菌体、15 〜 25g(約1 L培養分)を160 ml Buffer A(+ Tween80 + PMSF 4 mM + APMSF 100 μg/ml) でピペッティングにより懸濁し、175 mlガラスビーズ(直径0.5 mm)と共にBEAD-BEATER 用容器(350 ml 容量 BioSpec Products,Inc.)に加え、氷中で2分間破砕 → 1分間冷却 → 2分間破砕 → 1分間冷却 → 1分間破砕した後、 容器の熱が取れるまで冷却する。上清を回収した後、少量(40ml程度)のBuffer Aでビーズを洗い回収する操作を2度繰り返す。回収液を遠心(34,780 × g、30 min、4 ℃)後、上清を回収する。
菌体破砕後およびその上清のSDS-PAGEの結果を図2に示す。
【0052】
(2)透析
低温室にてサンプルの約20倍量の外液 ( PBS, 1 mM EDTA ) で1時間透析後、同量の外液に交換し、1時間透析を行う。これを計4度(合計4時間)繰り返し、その後、同じく約20倍量の外液に交換し2時間透析を行う。
透析後のSDS-PAGEの結果を図2に示す。
【0053】
(3)熱処理
透析後のサンプルを約40 ml ずつ遠沈管に分注し、予め70 ℃ にしておいた恒温槽中で20分間熱処理する。熱処理後、遠心(34,780 × g、30 min、4 ℃)し、上清を回収する。
【0054】
同様に、70℃で30分、40分、50分、さらに80℃で20分、30分、40分および50分間熱処理し、熱処理前後のタンパク質量(mg)、抗原量(Unit)を測定した。結果を表1に示す。また、各条件での熱処理後のSDS-PAGEの結果を図2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
(4)硫酸化セルロファインクロマトグラフィー
AKTA System( Amersham Biosciences Corp.) を使用した。
【0057】
熱処理後のサンプルを0.45 μm のフィルターに通した後、10 mM リン酸緩衝液 pH 7.2 + 0.15 M NaClで平衡化しておいた硫酸化セルロファインカラム(カラム径1.6 × 20 cm、担体 CHISSO CORP.、流速 4 ml/min )に添加する。カラム容量の2倍量のBuffer で非吸着画分を洗浄した後、10 mM リン酸緩衝液 pH 7.2 + 1 M NaCl でステップワイズ溶出させ、4 ml ずつ分画する。溶出液は 280 nmと 260 nm の吸収を測定する。各フラクションの HBs抗原量をIMx (ABBOTT JAPAN CO., LTD)で確認し、HBs抗原を含むフラクションを回収する。
【0058】
硫酸化セルロファインクロマトグラフィーの結果を図3に示す。なお、図3のChartの矢印の部分を回収し、ゲル濾過カラムに通した。
【0059】
クロマトグラフィー条件は、以下の通りである。
【0060】
Column : 硫酸化セルロファイン ( 1.6 × 20 cm )
Buffer : 10 mM リン酸Na (pH 7.2)
Elution buffer : 10 mM リン酸Na (pH 7.2), 2 M NaCl
Flow Rate : 4 ml/min
Gradient : 0.15 → 0.5 M NaCl ( Step )
0.5 → 2 M NaCl( Step )
Fraction : 5 ml/tube
【0061】
(5)限外濾過
硫酸化セルロファイン後のサンプルをゲル濾過カラム体積の 5 % 以下まで濃縮( Amicon Ultra ; NMWL 100K, MILLIPORE )する。
【0062】
(6)ゲル濾過クロマトグラフィー
AKTA System( Amersham Biosciences Corp.)を使用した。
濃縮したサンプルを0.45 μm のフィルターに通した後、PBS, 1 mM EDTAで平衡化しておいたゲル濾過カラム( カラム径1.6 × 60 cm、担体 Sephacryl S-500 HR ; Amersham Biosciences Corp.、流速 0.5 ml/min)に添加し、同Bufferで溶出させ、5 mlずつ分画する。溶出液は 280 nmと 260 nm の吸収を測定する。各フラクションの HBs抗原量をIMx (ABBOTT JAPAN CO., LTD)で確認し、SDS-PAGEの結果も考慮して、HBs抗原を含むフラクションを回収する。
【0063】
クロマトグラフィー条件を以下に示す:
Column : Sephacryl S-500 HR ( 1.6 × 70 cm )
Buffer : PBS, 1 mM EDTA
Flow Rate : 0.5 ml/min
Fraction : 5 ml/tube
ゲル濾過クロマトグラフィーの結果を図4に示す。
【0064】
(7)限外濾過とフィルター滅菌
ゲル濾過後のサンプルをタンパク濃度が0.2 mg/ml以上になるように濃縮( AmiconUltra ; NMWL 100K, MILLIPORE )する。図4のChartの矢印部分のフラクションの濃縮サンプルを回収し、0.45 μm のフィルターで滅菌を行い精製標品とする。
【0065】
(8)結果
精製結果を以下の表2に示し、工程全体のSDS-PAGEの結果を図5に示す。図5において、銀染色は粒子が写りやすく、CBB染色では夾雑タンパク質が写りやすい為、2種類の染色方法で確認した。
【0066】
さらに、粒子の保存性に関し、ゲル濾過後のフラクションを4℃と37℃で一晩放置し、プロテアーゼによる分解を見た。結果を図6に示す。図6の結果から、熱処理をしていないサンプルでは分解が進行しているが、熱処理をしたものは分解せず、本発明の精製法がプロテアーゼによる分解を受けにくいナノカプセルの取得に有用であることが示された。
【0067】
また、従来法との平均値の比較を表3に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
※1 総抗原量の計算式
総抗原量(Unit) = (サンプル量:ml)×(IMx RATE値)×(IMxの希釈倍率) / 1000
※2 回収率の計算式
回収率(%) = (各工程での総抗原量) / (破砕後の総抗原量) ×100
※3 透析後の数値が破砕後上清よりも高くなっているのは、透析によってサンプルの液量が増えたためで、誤差範囲である
【0070】
【表3】

【0071】
実施例2:
精製した中空ナノ粒子(濃度500 μg/ml)を1.5 mlチューブへ400 μl分注し、そこへグルコースを最終濃度が5重量%になるように加えた。ついで、予め用意した液体窒素へ1.5 mlチューブを浸して急速凍結を行った。チューブ内の中空ナノ粒子が十分に凍結したことを確認した後、真空乾燥機にて、一昼夜、乾燥を行った。乾燥後のサンプルは4℃下にて保存した。
【0072】
また、グルコースに代えてシュクロース及びトレハロースを各々最終濃度10重量%になるように溶液に加え、同様に凍結乾燥した。
【0073】
これらの凍結乾燥物及び糖を配合していないコントロールの凍結乾燥物を4℃で凍結乾燥した。結果を図7に示す。
【0074】
図7の結果から、糖類を配合することで、凍結乾燥物の保存安定性が高まることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の精製法の概略を示す。
【図2】熱処理前後のSDS-PAGEの結果を示す。
【図3】硫酸化セルロファインクロマトグラフィーの結果を示す。
【図4】ゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す。
【図5】工程全体のSDS-PAGEの結果を示す
【図6】粒子の保存性の結果を示す。
【図7】凍結乾燥物の4℃での保存安定性の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核細胞を用いて得られたタンパク質を主成分とする耐熱性バイオナノカプセルの精製法であって、真核細胞の破砕液を熱処理して夾雑タンパク質を除去後、クロマトグラフィー処理を行うことを特徴とする精製法。
【請求項2】
クロマトグラフィー処理が、アフィニティクロマトグラフィーおよび/またはゲル濾過クロマトグラフィー処理を含む、請求項1に記載の精製法。
【請求項3】
アフィニティクロマトグラフィーが硫酸基を有する担体から構成される硫酸化セルロファインクロマトグラフィーである、請求項2に記載の精製法。
【請求項4】
アフィニティクロマトグラフィーがHBsAg粒子を抗原として作製された抗HBsAg抗体を結合させた担体から構成される抗体アフィニティクロマトグラフィーである、請求項2に記載の精製法。
【請求項5】
アフィニティクロマトグラフィーがハイドロキシアパタイトを担体とするクロマトグラフィーである、請求項2に記載の精製法。
【請求項6】
耐熱性バイオナノカプセルがB型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質(HBsAg)を主成分とするカプセルである、請求項1〜5のいずれかに記載の精製法。
【請求項7】
熱処理を65〜90℃で行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の精製法。
【請求項8】
中空ナノ粒子を凍結し、その後、真空下にて乾燥を行うことを特徴とする耐熱性バイオナノカプセルの保存方法。
【請求項9】
中空ナノ粒子を糖質とともに急速凍結することを特徴とする、請求項8に記載の保存方法。
【請求項10】
急速凍結時の温度が−80℃以下である請求項8又は9に記載の保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−209307(P2007−209307A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35666(P2006−35666)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(503100821)株式会社ビークル (12)
【Fターム(参考)】