説明

バイオマス成分の分離プロセス

本発明は、バイオマス成分をセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンなどの個々の成分に分離するプロセス、およびシステムを提供する。また、本発明は、リグニンを自然型で分離するプロセスを提供する。本発明のプロセスにより取得されたセルロースは、糖化への高い反応性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスの、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンなどの個別成分への分離プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的変換を商業的成功させるために不可欠な高生産量を実現するために、リグノセルロースバイオマスは前処理されなければならない。適切な前処理により、高価な酵素の使用量を減らすことができるので、プロセスは経済的に価値のあるものとなる。したがって、これらの操作の相互作用についての深い理解を得ること、およびコストを下げるバイオマス変換技術を進化させるため、その深い理解を応用することにより注目すべきである。多くの生物学的、化学的、および物理的方法が長年にわたり試みられてきたが、全体的なコストが従来の汎用の燃料や化合物のコストと競合できるようになるには、なお前処理の進化が必要である。
【0003】
製紙業界においては、セルロースの調製にはアルカリパルプ化法が標準的である。十分な連続操作を行うことができるパルプ化設備が存在する。使用されるパルプ廃液には、他の化合物とともにアルカリ(NaOH)が非常に高い割合で含まれる。このプロセスは環境に負担がかかり、処理後のアルカリの回収に非常に費用がかかるため、このアプローチにはいくつかの問題点がある。パルプ廃液はヘミセルロースを損傷し、糖分解産物を形成する。黒液からのリグニンの回収には酸性化が必要であり、コストがかかる。回収されたリグニンもまた分解されているため、自然型ではない。このプロセスではまた、一部のセルロースが失われる。したがって、このパルプ化法はバイオ精製所プラットフォームには使用できない。
【0004】
近年、他の公知の前処理プロセスと比較して、アンモニア前処理に新たな関心を集まっている。
【0005】
Bruce Daleらによる米国特許出願公開第2008/0008783号明細書は、セルロースバイオマス由来の多糖類の接触性/消化性を改善するために、加圧下で高濃度水酸化アンモニウム水溶液を使用する前処理プロセスが開示している。ここではまた、無水アンモニアと高濃度水酸化アンモニウム水溶液を組み合わせたものを使用している。
【0006】
Dunsonらによる米国特許出願公開第2007/0031918号明細書は、比較的高濃度のバイオマスが、バイオマスの乾燥重量と比べて比較的低濃度のアンモニアで処理されるプロセスが開示されている。アンモニアで処理されたバイオマスは、その後、糖化酵素により消化され、発酵性の糖を生じる。このプロセスでは、アンモニアをより浸透させて回収するために真空を利用し、軟化させるために可塑剤を用いている。
【0007】
Bredereckらの米国特許第5,473,061号明細書(1995)は、セルロースを圧力容器の中で大気圧より高い圧力下で液体アンモニアと接触させ、続いて、圧力を大気圧まで迅速に低下させて膨張させることにより、その後の化学反応においてセルロースを活性化させるプロセスを開示している。
【0008】
米国特許第4,600,590号明細書および同第5,037,663号明細書において、Daleは、よく知られたAFEX(Ammonia Fiber Expansion)処理(アンモニア凍結またはアンモニア繊維爆砕)により、特に、アンモニア等の物質を含有するセルロースを処理するため、様々な揮発性の化学薬品を使用することを開示している。
【0009】
Holtzappleらの米国特許第5,171,592号明細書(1992)は、バイオマスが液体アンモニアまたは任意の適切な膨張剤で処理されて爆砕され、膨張剤と処理されたバイオマスが回収されるAFEX処理を開示している。
【0010】
米国特許第5,366,588号明細書では、バッチリアクタを使用する向流プロセスにおいてヘミセルロース糖とセルロース糖を加水分解するために2段式を使用し、鉱酸を使用して少量のグルコースとキシロースを得る。しかし、プロセスのスキームは複雑であり、発酵用の安価な糖を得るため大規模での経済性は乏しい。
【0011】
米国特許第5,188,673号明細書では、濃酸加水分解を採用しており、バイオマスの高転化の利点を有するが、分解と、酸の回収および再利用の必要性により、低い生産量の問題がある。使用される硫酸濃度は、100℃未満の温度では30〜70重量%である。
【0012】
Elianらの米国特許第2,734,836号明細書には、酢酸を使用して五炭糖を抽出するリグノセルロース材料の前処理に酸が使用されるプロセスが開示されている。材料は酸と混合され、80〜120℃に加熱され、酸はセルロース繊維を維持した状態でかまを通じて再利用される。残存材料は従来のパルプ化に使用される。
【0013】
Eickemeyerの米国特許第3,787,241号明細書は、木材を複数の部分に分解するパーコレーター容器を開示している。第1段階は1%の硫酸を使用するヘミセルロースのキシロースへの加水分解であり、次いで、セルロースの酸加水分解が起こり、リグニンは加水分解の間中、反応器の中に留まり、最後に回収される。
【0014】
Wrightの米国特許第4,615,742号明細書は、一連の加水分解反応器が開示されている。これらのいくつかは前加水分解反応器であり、ヘミセルロースを取り出すためにものであり、他は加水分解のためのものである。一連の容器を内容物が移動するので、個々の工程に要する時間は同じである。このプロセスでは固体からリグニンは取り出されず、複数の反応器が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0008783号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0031918号明細書
【特許文献3】米国特許第5,473,061号明細書
【特許文献4】米国特許第4,600,590号明細書
【特許文献5】米国特許第5,037,663号明細書
【特許文献6】米国特許第5,171,592号明細書
【特許文献7】米国特許第5,366,588号明細書
【特許文献8】米国特許第5,188,673号明細書
【特許文献9】米国特許第2,734,836号明細書
【特許文献10】米国特許第3,787,241号明細書
【特許文献11】米国特許第4,615,742号明細書
【発明の概要】
【0016】
(発明の目的)
本発明の主目的は、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンなどのバイオマス成分を分離する処理プロセスを提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、処理時間を短縮し、フルフラール誘導体などの糖分解産物の形成を排除することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、リグノセルロース材料中のヘミセルロースを五炭糖へと加水分解するプロセスを提供することである。
(発明の要旨)
【0019】
本発明は、特別に設計された前処理設定においてスイートソルガムバガス、稲藁、小麦藁、甘蔗バガス、トウモロコシ茎葉、ススキ属の植物、スイッチグラス、および様々な農業廃棄物などの様々な供給源に由来するリグノセルロースバイオマスを、その主要な成分、すなわち、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンに、分離するためのプロセスを提供する。上記プロセスには以下の工程を含む:(i)リグニンを溶解して回収するため、所定の温度および圧力下において、本明細書中に記載されるバイオマスを、バイオマスの中に含まれる本質的なリグニンを溶解できるアルカリ化剤と接触させ、;(ii)ヘミセルロースを加水分解するために、所定の温度および圧力下において、弱酸を工程(i)で残存した残渣と反応させ、続いて、バイオマスから取り出す;(iii)残存固体には、極く少量のヘミセルロースとリグニンの不純物を含む反応性セルロースが自然型で含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に従うバイオマス成分を分離するシステムの例示的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(発明の詳細な説明)
したがって、本発明は、バイオマス成分、すなわち、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンを分離するプロセスを提供する。上記プロセスには以下の工程が含まれる。
a)アンモニア溶液中において、加圧下でリグニンを溶解して回収するため、所定の温度および圧力下で、前記バイオマス中の本質的なリグニンを溶解させることができるアルカリ化剤にバイオマスを接触させる工程。
b)ヘミセルロースを加水分解するために、工程(a)で残存した残渣と弱酸を、所定の温度および圧力下で反応させ、続いてバイオマスからこれを取り出す工程。
c)残存するバイオマスから高反応性セルロースを得る工程。
【0022】
本発明の一態様においては、アルカリ化剤は、アンモニアおよびアンモニア誘導体(例えば、アミン)を含む群より選択される。
【0023】
本発明の別の態様においては、アルカリ化剤は、90℃〜200℃の温度範囲でバイオマスと接触させる。
【0024】
本発明の別の態様においては、所定の圧力範囲は、7.5〜25Barである。
【0025】
本発明の別の態様においては、アルカリ化剤は、1〜30分間、好ましくは、5〜10分間バイオマスと接触させる。
【0026】
本発明のさらなる態様においては、アンモニア水の濃度は10%〜30%の範囲である。
【0027】
本発明の別の態様においては、溶解したリグニンは、アンモニア溶液中において加圧下で分離される。
【0028】
本発明の別の態様においては、弱酸は、0.25%〜2%の濃度を有する鉱酸を含む群より選択される。
【0029】
本発明の別の態様においては、弱酸は、残存するバイオマスと、120℃〜200℃の温度範囲で反応させる。
【0030】
本発明の別の態様においては、弱酸は、残存するバイオマスと1.5〜20Barの圧力範囲で反応させる。
【0031】
本発明の別の態様においては、弱酸は、残存するバイオマスと15分間まで反応させる。
【0032】
本発明のさらなる態様においては、ヘミセルロースは五炭糖の形態で得られる。
【0033】
本発明のさらなる態様においては、リグニンは自然型で存在する。
【0034】
本発明の別の有利な態様においては、糖分解産物の形成は大幅に排除される。
【0035】
本発明の別の態様においては、得られる残渣は酵素糖化に適している。
【0036】
本発明はまた、バイオマスの分離システムを提供する。
(a)少なくとも1つの注入口と少なくとも1つの排出口を有している、バイオマスを収容するための反応チャンバー。
(b)アルカリ化剤を貯蔵する少なくとも1つのシリンダであって、リグニンを溶解させるために反応チャンバーにアルカリ化剤を供給する反応チャンバーの注入口と流体連結されるシリンダ、
(c)水および/または弱酸の収容に適したリザーバであって、ヘミセルロースを加水分解するために水および/または酸を反応チャンバーに供給する反応チャンバーの注入口と流体連結されるリザーバ、
(d)反応チャンバーから、溶解したリグニンまたは加水分解されたヘミセルロースを受け取る、反応チャンバーの排出口に接続されたレシーバを備え、
反応チャンバーの注入口とバンクシリンダ、リザーバおよびボイラとの間の流体連結が、並列に操作されるよう構成されている。
【0037】
本発明の別の実施形態においては、ボイラは、反応チャンバーに蒸気を供給する反応チャンバーの注入口に流体連結されている。
【0038】
本発明のなお別の実施形態においては、レシーバはボイラと流体連結されている。
【0039】
アンモニア吸収システムを備える本発明の別の実施形態においては、アンモニアを回収し再利用するための、サージタンク、流体サイクロン、および2つの吸収体を備えている。
【0040】
好ましい実施形態においては、本発明は、リグノセルロースバイオマスが2段階の処理プロセスに供されるプロセスに関する。
(i)バイオマスの中に存在するリグニンのほとんどが、加圧濾過プロセスにより溶解、回収されるアンモニア処理。
(ii)糖分解産物を形成せずにバイオマス中のヘミセルロースのほとんどを五炭糖として加水分解し、ほとんどが高反応性のセルロースからなる残渣を得るための第1の工程により得られた残渣の酸処理。
【0041】
本発明のプロセスでは、スイートソルガムバガス、稲藁、小麦藁、甘蔗バガス、トウモロコシ茎葉、ススキ属の植物、スイッチグラス、および様々な農業廃棄物等のリグノセルロースバイオマスが利用される。材料は処理前に粒子状に細分化されることが好ましい。
【0042】
以下の表に、典型的なバイオマスの組成を示す。
【0043】
典型的なバイオマスの組成
【表1−0】

【0044】
本発明のプロセスにおいては、バイオマスは、加圧下でリグニンを溶解させるために、所定の温度および圧力下でアルカリ化剤で処理される。アルカリ化剤は、リグニンを溶解させることができるものであれば適切なアルカリ化剤を用いることができる。アルカリ化剤は、例えば、アンモニアや、アミンのようなアンモニア誘導体である。アルカリ化剤は、バイオマスを90℃〜200℃の温度範囲、かつ7.5−25Barの圧力範囲で処理する。アルカリ化剤によるバイオマスの処理時間は1〜30分の範囲である。アルカリ化剤によるバイオマスの処理は5〜10分の範囲であることが好ましい。本発明の好ましい実施形態においては、アンモニア水が10〜30%の範囲の濃度でアルカリ化剤として使用できる。高温高圧下では、バイオマスのリグニンは、アルカリ化剤の中で溶解する。その後、アルカリ化剤は高圧濾過プロセスにより高圧下で濾過される。
【0045】
アルカリ化剤処理またはアンモニア処理後に得られた残存バイオマスは、所定の温度および圧力において、弱酸または水と反応する。弱酸または水はヘミセルロースを加水分解する。水または任意の鉱酸をヘミセルロースの加水分解に使用することができる。0.25%〜2%の範囲の濃度を有する鉱酸を使用することが好ましい。残存バイオマスは、120℃〜200℃の温度範囲、かつ1.5〜20Barの圧力範囲で、弱酸により処理される。バイオマスは、1〜30分間、好ましくは10〜15分間、酸で処理される。大部分のヘミセルロースは五炭糖に加水分解される。
【0046】
本発明の有利一な態様においては、このように得られたセルロースは酵素糖化に高い反応性を示す。
【0047】
先行技術に開示されている従来のアンモニア処理プロセスでは、リグノセルロースバイオマスは高圧下で高濃度/低濃度のアンモニア水または無水アンモニアで処理され、その後、圧力が迅速に開放し(膨張)、高反応性の残渣を得る。これらのプロセスにおいては、リグニンはバイオマスの中に再度沈殿し、分離されない。一方、本発明の好ましい実施形態においては、リグノセルロースバイオマスは高圧下でアンモニア水で処理され、このプロセスにおいて溶解したリグニンは特有の加圧濾過プロセスによりアンモニア溶液とともに分離される。それにより、リグニンの再沈殿が回避される。
【0048】
本発明の一実施形態によれば、リグノセルロース材料は、少なくとも10%、好ましくは30%の濃度を有しているアンモニア水で処理される。アンモニア処理の反応温度は、90℃〜200℃の間、好ましくは、120℃である。アンモニア処理の間の圧力は、7.5Bar〜22Barの間であるが、15Barの圧力が好ましい。
【0049】
リグノセルロースバイオマスが反応器に入れられ、アンモニア溶液が、好ましくは15%の固形物濃度が得られるまで添加され、そしてボイラからの直接蒸気注入により必要な条件となるまで加熱される。所望の条件での保持時間、好ましくは10分間の経過後、溶解したリグニンが含まれたアンモニア溶液が加圧濾過される。残存する残渣はほとんどがセルロースとヘミセルロースからなる。溶液中のアンモニアがアンモニア吸収システムを使用して回収される場合は、リグニンは沈殿する。
【0050】
加圧濾過プロセスにおけるアンモニア処理により得られたリグニンは、ごくわずかしか修飾されていない。言い換えると、このように得られたリグニンは天然型で存在している。
【0051】
従来のヘミセルロースの加水分解プロセスでは、高温下で濃酸処理または弱酸処理のいずれかが利用される。これらのプロセスにより、糖分解産物の形成が生じる。本発明のプロセスにおいては、工程1の後で得られた残渣は、残渣中のほとんどのヘミセルロースが短時間、高温で弱酸処理にさらされるので、分解産物の形成を最少限に抑えながら、五炭糖に加水分解する。
【0052】
本発明のプロセスでは、ヘミセルロースの加水分解に酸水溶液(硫酸、塩酸、または硝酸、あるいはpH2をもたらす任意の強酸)が利用される。硫酸が好ましく、硫酸が酸触媒として使用される場合には、酸濃度は0.25%〜2%の間、通常は1%の酸濃度であることが好ましい。
【0053】
工程1(アンモニア処理)後に得られた残渣は、好ましくは1%の硫酸とともに添加され、直接蒸気注入により120℃〜200℃、好ましくは145℃の温度に加熱される。内容物は、上記条件で10分〜30分間維持される。好ましい時間は15分である。保持時間の経過後、内容物は加圧濾過され、高反応性セルロースを多く含む残渣と、そのほとんどが五炭糖としてのヘミセルロースを含む濾液が得られる。特有の加圧濾過プロセスは、迅速な冷却を補助するので、糖分解産物の形成を減少させる。
【0054】
本発明特有の2段階の前処理プロセス後に得られた前処理材料には、酵素糖化への感受性から明らかな反応性セルロースが多く含まれる。
【0055】
図1を参照して、以下に本発明の反応システムを説明する。
【0056】
図1に示されるように、本発明のバイオマス成分の分離システムは、反応チャンバーを備えている。上記反応チャンバーは、酸加水分解、蒸気爆砕、溶媒処理などに適している万能消化槽(D4)である。処理されるバイオマスは反応チャンバーまたは万能消化槽中に蓄えられる。反応チャンバーは、少なくとも1つの注入口と少なくとも1つの排出口を有する。反応チャンバーの注入口は、アルカリ化剤を貯蔵するシリンダと流体連結される。1以上のシリンダがアルカリ化剤の貯蔵に使用される。アルカリ化剤の貯蔵設備は、アンモニアガスを貯蔵する中心設備(C101)として図1に示されている。この設備は、反応チャンバーの中にアルカリ化剤を供給するために使用される。
【0057】
さらに、反応チャンバーには、水および/または弱酸を反応チャンバーに供給するための注入口が設けられている。図示されていない別のリザーバまたは貯蔵設備が、水および/または弱酸を貯蔵するために設けられている。上記リザーバは、反応チャンバーの中に、ヘミセルロースを加水分解するための水および/または弱酸を供給する反応チャンバーの注入口と流体連結されている。ボイラ(102)は、所定の温度および圧力で蒸気を供給する反応チャンバーの注入口に連結される。反応チャンバーから溶解したリグニンおよび/または加水分解されたヘミセルロースを回収するレシーバが設けられている。上記レシーバは反応チャンバーの排出口に連結されている。
【0058】
本発明のプロセスにおいて、アンモニアがアルカリ化剤として使用される場合には、アンモニアを回収し、再利用するアンモニア吸収システムが設けられる。アンモニア吸収システムは、サージタンク、流体サイクロン、および2つの吸収体を備えている。
【実施例】
【0059】
実施例1
−処理時間の増加に伴うスイートソルガムバガスに対する異なるアンモニア濃度の効果
約100gのスイートソルガムバガスが前処理反応器に充填されている。使用されるバガス粒子の大きさは、0.5〜1mmの範囲である。このバイオマスに対して、10%、または20%、または30%の異なる濃度のアンモニアが添加された。濃度が15%の最終固形物が得られるように、異なる量のアンモニア溶液を添加した。その後、反応器を、全ての場合において7.5Barの圧力に達するまで加熱した。10%、20%、および30%のアンモニアについて達した温度は、それぞれ、140℃、120℃、および90℃であった。反応器を加熱するため、直接蒸気注入を採用した。反応器中の内容物をさらに30分間、上記条件で保持した。保持時間経過後、内容物を加圧濾過され、加水分解物がレシーバに回収された。加水分解物/濾液は、糖分析によりセルロースとヘミセルロースの存在が分析された。得られた残渣は、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンについて分析した。結果を表3に示す。
【0060】
表1−1は、出発材料と比較した場合の、異なる前処理を施した残渣中のセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンの回収率(%)を示す。
【0061】
【表1−1】

実施例2−高温における硫酸処理
【0062】
バイオマス(100g)、0.5〜1mmの粒径のスイートソルガムバガスを前処理反応器に充填し、これに1%(v/v)の硫酸を添加して15%の最終濃度とした。反応器中の内容物は直接蒸気注入により140℃または160℃に加熱した。内容物を上記温度で10分間保持した。その後、内容物を加圧濾過して、酸加水分解物と残渣を得た。加水分解物/濾液は、糖分析によりセルロースとヘミセルロースの存在が分析された。得られた残渣を、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンについて分析した。結果を表2に示す。
【0063】
表2は、出発物質と比較した場合の、前処理を施した残渣中のセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンの回収率(%)を示す。
【0064】
【表2】

実施例3
−バイオマス成分分離のための2段階プロセス
【0065】
前処理反応器の中に、0.5mm〜1mmの大きさのl00gのスイートソルガムバガスが充填された。これに30%のアンモニア溶液を添加して、濃度が15%の最終固形物が得られるようにした。その後、反応器の内容物を、直接蒸気注入により120℃の温度(その温度での相当圧は15Barであった)に達するまで加熱した。内容物をその温度で10分間保持し、その後、加圧濾過した。加水分解物はレシーバの中に回収された。
【0066】
加圧濾過プロセスの後、残留アンモニアを除去するため、残渣が蒸気で洗浄され、その後反応器は、被覆構造中に冷水を通すことにより冷却された。反応器の冷却後、濃度が15%の固形物が得られるよう、1%の硫酸を注ぎ込んだ。内容物は、直接蒸気注入により140℃または160℃まで加熱された。内容物は上記温度で10分間保持され、その後、加圧濾過された。酸加水分解物は別々に回収された。
【0067】
加水分解物/濾液は、糖分析によりセルロースとヘミセルロースの存在について分析された。得られた残渣はセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンについて分析された。結果を表3に示す。
【0068】
表3は、出発物質と比較した場合の、前処理を施した残渣中のセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンの回収率(%)を示す。
【0069】
【表3】

実施例4
−より大規模におけるバイオマス成分分離のための2段階プロセス
【0070】
前処理反応器の中に、0.5mm〜1mmの大きさの1000gのスイートソルガムバガスを充填した。これに30%のアンモニア溶液を添加して、濃度が15%の最終固形物が得られるようにした。その後、反応器の内容物を、直接蒸気注入により120℃の温度(その温度での相当圧は15Barであった)に達するまで加熱した。内容物をその温度で10分間保持し、その後、加圧濾過した。加水分解物はレシーバの中に回収された。
【0071】
加圧濾過プロセスの後、残存アンモニアを除去するため、残渣が蒸気で洗浄され、その後反応器は、被覆構造の中に冷水を通すことにより冷却された。反応器の冷却後、濃度が15%の固形物が得られるよう、1%の硫酸を注ぎ込んだ。内容物は、直接蒸気注入により140℃に加熱された。内容物は上記温度で15分間保持され、その後、加圧濾過された。酸加水分解物は別々に回収された。
【0072】
加水分解物/濾液は、糖分析によりセルロースとヘミセルロースの存在について分析された。得られた残渣は、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンについて分析された。結果を表4に示す。
【0073】
表4は、出発材料と比較した場合の、前処理を施した残渣の中のセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンの回収率(%)を示す。
【0074】
【表4】

実施例5
−酵素糖化に対する前処理を施した残渣の感受性
【0075】
実施例6の2段階の前処理プロセス後に得られた最終的な前処理を施した残渣は、酵素糖化に対する残渣の感受性をチェックするために、市販のセルロース酵素調製物である酵素で消化された。10%のスラリが調製され、これに60FPU/gの酵素が充填された。内容物は、50℃、pH4.5で24時間インキュベートされた。インキュベーション時間経過後、糖の糖化率が評価された。24時間で85.3%の糖化であり、これは、前処理を施した残渣のセルロース酵素に対する感受性を明らかに示している。
【0076】
本発明の利点:
1.本発明のアンモニア処理プロセスでは破砕工程は使用されないので、アンモニアの回収は極めて容易である。
2.本発明のプロセスは、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンなどの全ての成分を一度に分離し、ヘミセルロースは五炭糖に変換する。
3.本発明のプロセスには超臨界アンモニアは必要ない。
4.本発明のプロセスは、リグニン、セルロース、および五炭糖などの3種類の成分全てを高純度で分離する。
5.本発明のプロセスにおいては、成分の質は損なわれない。
6.本発明のプロセスにおいては、糖分解産物の形成は最小限である。
7.本発明のプロセスにおいて使用されるアルカリ化剤溶液は極めて容易に回収することができる。
8.本発明のプロセスにおいて使用されるアルカリ化剤溶液はリグニンの分離に適しているので、高純度のセルロースが得られる。
9.本発明のプロセスにより回収されたリグニンは極めて高純度であり、溶解したリグニンが加圧下で回収されるので、再堆積することはない。
10.本発明では、リグニンは他のバイオマス成分に影響を与えることなく回収される。
11.本発明で得られたセルロースは極めて反応性が高い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)加圧下でリグニンを溶解して回収するため、所定の温度および圧力下で、前記バイオマス中の本質的なリグニンを溶解させることができるアルカリ化剤を前記バイオマスに接触させる工程と、
b)ヘミセルロースを加水分解するために、工程(a)により残存した残渣と、弱酸または水を、所定の温度および圧力下で反応させ、続いてバイオマスからこれを取り出す工程と、
c)前記残存バイオマスから高反応性セルロースを得る工程と、
を備えるバイオマス成分、すなわち、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンを分離するプロセス。
【請求項2】
前記アルカリ化剤が、アンモニアまたはその誘導体を含む群より選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記アルカリ化剤が、90℃〜200℃の温度範囲、かつ7.5Bar〜25Barの圧力範囲でバイオマスと接触する、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記アルカリ化剤が、1分〜30分、好ましくは5分〜10分の範囲時間で前記バイオマスと接触する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記アンモニア濃度が、10%〜30%の範囲である、請求項1から4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記弱酸が、0.25%〜2%の濃度を有する鉱酸を含む群より選択される、請求項1から5のいずれかの1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記弱酸は、120℃〜200℃の温度範囲、かつ1.5Bar〜20Barの圧力範囲で前記残存バイオマスと反応する、請求項1から6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
(a)少なくとも1つの注入口と少なくとも1つの排出口を有している、バイオマスを収容する反応チャンバーと、
(b)アルカリ化剤を貯蔵する少なくとも1つのシリンダであって、リグニンを溶解させるために反応チャンバーにアルカリ化剤を供給する反応チャンバーの注入口と流体連結されるシリンダと、
(c)水および/または弱酸の収容に適したリザーバであって、ヘミセルロースを加水分解するために水および/または酸を反応チャンバーに供給する反応チャンバーの注入口と流体連結されるリザーバと、
(d)反応チャンバーから、溶解したリグニンまたは加水分解されたヘミセルロースを受け取る、反応チャンバーの排出口に接続されたレシーバと、
を備え、
前記反応チャンバーの前記注入口とシリンダバンク、リザーバおよびボイラとの間の前記流体連結が、並列に操作されるよう構成されている、バイオマスの分離システム。
【請求項9】
前記ボイラが、前記反応チャンバーに蒸気を供給する前記反応チャンバーの前記注入口に流体連結される、請求項17に記載のシステム。
【請求項10】
前記レシーバが、前記ボイラと流体連結される、請求項17に記載のシステム。
【請求項11】
アンモニアを回収し再利用するためのサージタンク、流体サイクロン、および2つの吸収体を備えたアンモニア吸収システムを備える、請求項17に記載のシステム。


【図1】
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【公表番号】特表2010−531215(P2010−531215A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512800(P2010−512800)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際出願番号】PCT/IB2008/001605
【国際公開番号】WO2008/155639
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509308997)ナーガルジュナ エナジー プライベート リミテッド (6)
【Fターム(参考)】