説明

バッキング材、およびバッキング材の製造方法、並びに超音波プローブ

【課題】超音波の吸収性能を維持しつつ、所望の周波数帯域幅を得る。
【解決手段】超音波プローブ11に内蔵された超音波トランスデューサ31には、常温接合技術を応用した技術を用いて作製され、薄膜パターン52が積層されてなる3次元構造体51と、3次元構造体51が埋設される母材50とからなるバッキング材40が具備されている。バッキング材40は、所定の真空度となった真空槽70内にて、液体状の母材50に3次元構造体51を浸漬させ、母材50を固化させることにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波トランスデューサの圧電素子が載置されるバッキング材、およびその製造方法、並びに超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野において、超音波画像を利用した医療診断が実用化されている。超音波画像は、超音波プローブから体腔内の被観察部位に超音波を照射し、そのエコー信号を電気的に検出することによって得られる。
【0003】
また、超音波を走査しながら照射することにより、超音波断層画像を得ることも可能で、バッキング材、圧電素子、電極、および音響整合層からなる超音波トランスデューサを機械的に回転あるいは揺動、もしくはスライドさせるメカニカルスキャン機構を備えた超音波プローブや、複数の超音波トランスデューサをアレイ状に配列し、駆動する超音波トランスデューサを電子スイッチなどで選択的に切り替える電子スキャン走査方式の超音波プローブも知られている。
【0004】
上記のようにして得られた超音波断層画像を利用して医療診断を行う場合、生体には固体差(例えば、脂肪量の差)や組織によって超音波の伝播特性が違うため、その深さ方向に応じた周波数の超音波を照射しなければ、的確な診断に供する超音波断層画像を得ることができない。このため、従来から、超音波の周波数の帯域幅を広げ、生体の浅部から深部まで幅広い範囲を観察可能にする試みがなされている。
【0005】
超音波の周波数帯域幅を広げる試みの一例として、バッキング材の音響インピーダンスを圧電素子の音響インピーダンスに近付ける方法がある(特許文献1参照)。特許文献1に記載の手法では、シリコーンゴムやウレタン樹脂などの中にタングステンやタングステンカーバイト、およびガラス製マイクロバルーンや樹脂製マイクロバルーンの粒子を添加し、この複合体をエポキシ樹脂などからなるバッキング材に混入している。
【特許文献1】特開2003−190162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、所望の周波数帯域幅を得るためには、圧電素子の音響インピーダンス20〜40Mraylに対して、バッキング材の音響インピーダンスを10Mrayl以上とすることが、一般的な数値計算やシミュレーションにより知られている。しかしながら、特許文献1に記載のバッキング材に粉末を混入する手法では、物理的に混入量に限界があるため、音響インピーダンスが精々5〜6Mraylにしかならず、上記要件を満たすことができなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、超音波の吸収性能を維持しつつ、所望の周波数帯域幅を得ることができるバッキング材、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、生体の浅部から深部まで幅広い範囲が観察可能な超音波プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、超音波トランスデューサの圧電素子が載置されるバッキング材であって、薄膜パターンが積層されてなる3次元構造体と、前記3次元構造体が埋設され、前記3次元構造体を形成する部材とは異なる音響インピーダンスを有する母材とからなることを特徴とする。
【0010】
前記3次元構造体は、前記薄膜パターンを接合して作製されることが好ましく、また、前記3次元構造体は、基板上に形成された前記薄膜パターンを離型し、離型された薄膜パターンを転写して作製されることが好ましい。さらには、前記3次元構造体は、分子・原子拡散型接合技術、表面活性型接合技術、媒介物質による極性型接合技術、媒介物質による分子間力型接合技術、媒介物質による物理接合型接合技術、および媒介物質による化学反応型接合技術のいずれかの貼り合わせ接合により作製されることが好ましい。
【0011】
液体状の前記母材に前記3次元構造体を浸漬させ、前記母材を固化させて作製されることが好ましい。
【0012】
前記3次元構造体の形状または/および密度を変化させ、前記圧電素子が載置される面から対向する面に向かって、音響インピーダンスが漸減するように作製されることが好ましい。
【0013】
前記圧電素子が載置される面側に、前記3次元構造体が片寄せして配置されていることが好ましい。また、前記圧電素子が載置される面から対向する面に向かって、前記薄膜パターンの密度が疎となるように、前記3次元構造体が作製されていることが好ましい。
【0014】
前記3次元構造体は、井桁形状を有することが好ましい。
【0015】
前記3次元構造体は、前記圧電素子が載置される面の法線に対して、45°以下の傾斜面を有することが好ましい。
【0016】
前記圧電素子に対する音響インピーダンスの比が、0.3以上1.4以下であることが好ましい。
【0017】
請求項12に記載の発明は、超音波トランスデューサの圧電素子が載置されるバッキング材の製造方法であって、薄膜パターンを積層して3次元構造体を作製する工程と、前記3次元構造体を形成する部材とは異なる音響インピーダンスを有する母材に前記3次元構造体を埋設する工程とを備えたことを特徴とする。
【0018】
前記3次元構造体を、前記薄膜パターンを接合して作製することが好ましく、また、前記3次元構造体を、基板上に形成された前記薄膜パターンを離型し、離型された薄膜パターンを転写して作製することが好ましい。さらには、前記3次元構造体を、分子・原子拡散型接合技術、表面活性型接合技術、媒介物質による極性型接合技術、媒介物質による分子間力型接合技術、媒介物質による物理接合型接合技術、および媒介物質による化学反応型接合技術のいずれかの貼り合わせ接合により作製することが好ましい。
【0019】
前記母材に前記3次元構造体を埋設する工程では、液体状の前記母材に前記3次元構造体を浸漬させ、前記母材を固化させることが好ましい。
【0020】
前記3次元構造体の形状または/および密度を変化させ、前記圧電素子が載置される面から対向する面に向かって、音響インピーダンスが漸減するように作製することが好ましい。
【0021】
前記圧電素子が載置される面側に、前記3次元構造体を片寄せして配置することが好ましい。また、前記圧電素子が載置される面から対向する面に向かって、前記薄膜パターンの密度が疎となるように、前記3次元構造体を作製することが好ましい。
【0022】
前記3次元構造体を、井桁形状に作製することが好ましい。
【0023】
前記3次元構造体を、前記圧電素子が載置される面の法線に対して、45°以下の傾斜面を有するように作製することが好ましい。
【0024】
前記圧電素子に対する音響インピーダンスの比が、0.3以上1.4以下となるようにすることが好ましい。
【0025】
請求項23に記載の発明は、超音波プローブであって、請求項1ないし11のいずれかに記載のバッキング材を有する超音波トランスデューサを内蔵したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明のバッキング材、およびその製造方法によれば、薄膜パターンが積層されてなる3次元構造体を作製し、3次元構造体を形成する部材とは異なる音響インピーダンスを有する母材に3次元構造体を埋設するようにしたので、超音波の吸収性能を維持しつつ、所望の周波数帯域幅を得ることができる。
【0027】
また、本発明の超音波プローブによれば、請求項1ないし11のいずれかに記載のバッキング材を有する超音波トランスデューサを内蔵したので、所望の周波数帯域幅が得られ、生体の浅部から深部まで幅広い範囲が観察可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1において、超音波診断装置2は、内視鏡10と、超音波プローブ11と、超音波観測器12とからなる。内視鏡10は、軟性部材からなり、体腔内に挿入される挿入部13と、挿入部13の基端部分に連設された操作部14と、内視鏡用モニタ(図示せず)に接続されるコード15とを備えている。挿入部13の先端13aには、体腔内撮影用のカメラ(図示せず)が内蔵されており、このカメラで撮影した画像を内視鏡用モニタを介して観察することが可能となっている。
【0029】
超音波プローブ11は、内視鏡10の鉗子孔16に挿通され、挿入部13と同様に軟性部材からなるシース17と、後述するモータ49など(図3参照)が内蔵されたトランスレータ18と、超音波観測器12に接続されるコード19とを備えている。超音波観測器12は、超音波画像を表示するモニタ20を備えている。なお、内視鏡用モニタとモニタ20とを兼用してもよい。
【0030】
図2において、シース17の先端17aには、ポリエチレンを材質とするキャップ30が取り付けられており、このキャップ30内には、超音波トランスデューサ31が内蔵されている。超音波トランスデューサ31は、コントロールケーブル32が連結された台座33に載置されている。コントロールケーブル32は、フレキシブルシャフト32aと、フレキシブルシャフト32aを被覆する可撓チューブ32bとからなる。フレキシブルシャフト32aの先端は台座33に連結され、その基端はトランスレータ18内に延長されており、トランスレータ18に内蔵されたモータ49(図3参照)により、所定の回転速度(例えば10〜40回転/秒)で回転駆動される。これにより、超音波トランスデューサ31は、フレキシブルシャフト32aを回転軸として所定の回転速度で回転される。
【0031】
キャップ30により密閉された空間内には、超音波伝達媒体34が充填されている。超音波伝達媒体34は、超音波の伝達効率を向上させるとともに、超音波トランスデューサ31の回転を円滑にする潤滑油として働く。なお、超音波伝達媒体34としては、水、カルボキシルメチルセルロース(CMC)水溶液、生理食塩水、ひまし油、流動パラフィンなどを用いることができる。
【0032】
図3に示すように、超音波トランスデューサ31は、台座33側から順に、バッキング材40、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の薄膜からなる圧電素子41、およびエポキシ樹脂製の音響整合層42からなり、圧電素子41を電極43a、43bで挟み込んだ構成となっている。
【0033】
両電極43a、43bには、配線44a、44bがそれぞれ接続されている。配線44bは、アースに接続されている。一方、配線44aは、コントロールケーブル32内に挿通され、トランスレータ18内の送受信切替回路45に接続されている。
【0034】
送受信切替回路45は、超音波トランスデューサ31による超音波の送受信切り替えを所定の時間間隔で行う。送受信切替回路45には、パルス発生回路46および電圧測定回路47が接続されている。パルス発生回路46は、超音波トランスデューサ31から超音波を発生させる際(超音波の送信時)に、パルス電圧を圧電素子41に印加する。これにより、超音波トランスデューサ31は、所定の周波数(例えば3〜10MHz。したがって、超音波の波長特性に影響を与えない程度の薄膜パターン52(後述、図4参照。)のピッチは、10μm〜20μm以下となる。)を有する超音波を発生する。
【0035】
電圧測定回路47は、生体からのエコー信号を超音波トランスデューサ31で受信した際(超音波の受信時)に、圧電素子41に発生する電圧を測定する。電圧測定回路47は、この測定結果をコントローラ48に送信する。コントローラ48は、電圧測定回路47から送信された測定結果を、所望の周波数帯域幅を得るために適当なフィルタでフィルタリングして、これを超音波画像に変換し、超音波観測器12に送信する。
【0036】
バッキング材40は、圧電素子41から台座33側に発せられる超音波を吸収する。図4において、バッキング材40は、母材50と、3次元構造体51とからなる。母材50は、圧電素子41の形状に合わせて、直方体形状に形成されている。母材50には、例えば、ブチルゴムやシリコーン樹脂(例えば、信越化学工業株式会社製、商品名:信越シリコーン1204、音響インピーダンス=1.39Mrayl)が用いられており、その内部に3次元構造体51が埋め込まれている。
【0037】
3次元構造体51は、延べ板状の複数の薄膜パターン52が井桁状に組まれた構造を有する。薄膜パターン52には、例えば、音響インピーダンスが約40Mraylのアルミナが用いられている。
【0038】
本実施形態では、バッキング材40の製造にあたっては、常温接合を応用した技術を用いて、3次元構造体51を作製する。この技術は、特許第3161362号に記載されているように、3次元構造体の各断面形状を有する薄膜パターンをドナー基板(シリコンウェハなど)上に一括作製し、ターゲット基板(ステンレス、アルミニウム合金など)に転写し、常温で薄膜パターン同士を接合し、積層する一種の積層造形法である。この技術によれば、金属や誘電体などの様々な材料を用いて、任意の3次元形状を有する部品をnm単位の精度で一括して作製することが可能となる。
【0039】
以下、図5〜図8の(A)〜(H)を参照して、3次元構造体51の作製手順を簡単に説明する。まず、図5(A)に示すように、シリコンウェハからなるドナー基板60上に離型層として熱酸化膜61を成膜し、その上にアルミナ薄膜62を成膜する。
【0040】
次に、(B)に示すように、フォトリソグラフィー法、集束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)法、および電子ビーム直接描画法などを用いて、3次元構造体51の各断面形状に対応した複数の薄膜パターン52をアルミナ薄膜62に形成する。
【0041】
薄膜パターン52の形成後、図6(C)に示すように、所定の真空度とされた真空槽63内にて、第1層の薄膜パターン52aの表面と、ターゲット基板64の表面とにアルゴン原子ビーム65を照射するFAB(Fast Atom Bombardment)処理を施し、薄膜パターン52aおよびターゲット基板の表面の酸化膜や不純物を除去して清浄化する。
【0042】
FAB処理後、(D)に示すように、ドナー基板60をターゲット基板64側に移動させ、ターゲット基板64の表面の所定位置に第1層の薄膜パターン52aの表面を接触させ、所定の荷重で所定時間押し付け、ターゲット基板64の表面に第1層の薄膜パターン52aの表面を接合する。
【0043】
次いで、図7(E)に示すように、ドナー基板60を元の位置に戻し、第1層の薄膜パターン52aをドナー基板60側から剥離させ、ターゲット基板64側に転写する。
【0044】
第1層の薄膜パターン52aの転写後、図7(F)に示すように、第2層の薄膜パターン52bの表面と、第1層の薄膜パターン52aの裏面(転写前までドナー基板60に接合されていた面)にFAB処理を施し、清浄化する。
【0045】
その後、図8(G)に示すように、ドナー基板60をターゲット基板64側に移動させ、第1層の薄膜パターン52aの裏面の所定位置に第2層の薄膜パターン52bの表面を接合し、(H)に示すように、第2層の薄膜パターン52bをドナー基板60側から剥離させ、第1層の薄膜パターン52aの裏面側に転写する。
【0046】
上記一連の処理(FAB処理、接合、および転写)を全層分繰り返し行った後、最後に、作製された3次元構造体51をターゲット基板64から分離する。なお、さらに詳細な3次元構造体51の作製手順については、特許第3161362号の記載を参照されたい。
【0047】
続いて、図9を参照して、バッキング材40の製造手順について説明する。まず、(A)に示すように、作製された3次元構造体51を真空槽70内の鋳型71に載置した後、所定の真空度となるまで真空引きする。
【0048】
そして、(B)に示すように、母材50の液体が貯留された母材タンク72から、母材注入口73を介して母材50の液体を鋳型71に流し込み、母材50の液体を固化させる。これにより、3次元構造体51の内部および周囲が、母材50で充填される。母材50の充填後、鋳型71から成形物を取り出し、母材50の余分な部分を研磨などによりカットして形状を整え、図4に示すバッキング材40を得る。
【0049】
体腔内の超音波画像を取得する際には、超音波プローブ11を鉗子孔16に挿通した内視鏡10の挿入部13を体腔内に挿入し、内視鏡用モニタにより体腔内を観察しながら体腔内の被観察部位を探索する。
【0050】
体腔内の被観察部位にシース17の先端17aが到達し、超音波画像を取得する指示がなされると、フレキシブルシャフト32aを回転軸として、超音波トランスデューサ31が所定の回転速度で回転される。そして、送受信切替回路45により超音波トランスデューサ31の超音波の送受信が切り替えられながら、パルス発生回路46からのパルス電圧の印加により、超音波トランスデューサ31から超音波が発せられ、キャップ30を介して被観察部位に超音波が走査される。また、被観察部位からのエコー信号が超音波トランスデューサ31で受信され、電圧測定回路47により圧電素子41に発生した電圧が測定される。
【0051】
電圧測定回路47の測定結果はコントローラ48に送信され、コントローラ48で超音波画像に変換される。変換された超音波画像は、コード19を介して超音波観測器12に送信され、超音波観測器12のモニタ20に表示される。
【0052】
以上、詳細に説明したように、常温接合を応用した技術を用いて作製された3次元構造体51を母材50に埋設してバッキング材40を製造したので、所望の周波数帯域幅となるようにバッキング材40の音響インピーダンスを調節することが可能となる。つまり、母材50と3次元構造体51の材料を適宜選択することで、音響インピーダンスが10Mrayl以上50Mrayl以下のバッキング材40を得ることができる。また、本実施形態では、圧電素子の材料としてPZTを用いているが、PZTの音響インピーダンスは約34Mraylであるので、圧電素子の音響インピーダンスに対するバッキング材の音響インピーダンスの比が0.3以上1.4以下となるように、バッキング材を圧電素子の音響インピーダンスに近い構造とすることができる。したがって、バッキング材40を備えた超音波プローブ11は、所望の周波数帯域幅で超音波を送受信することができる。
【0053】
なお、図10および図11に示すバッキング材80、90を用いてもよい。図10に示すバッキング材80は、圧電素子が載置される面80a側に3次元構造体81が片寄せして配置されている。また、図11に示すバッキング材90は、圧電素子が載置される面90aから対向する面90bにかけて、薄膜パターン92の密度が疎となった3次元構造体91が埋め込まれている。このように、3次元構造体の形状または/および密度を変化させ、圧電素子が載置される面から対向する面に向かって、音響インピーダンスが漸減するようにバッキング材を製造すれば、バッキング材の超音波吸収性能が向上し、バッキング材自体の厚みを薄くすることができる。
【0054】
上記実施形態では、3次元構造体51の作製とバッキング材40の製造とを、別々の真空槽63、70内で行っているが、同一の真空槽内で行うようにしてもよい。
【0055】
なお、3次元構造体51の形状は、上記実施形態で挙げた井桁状に限らず、三角格子状やハニカム形状などを用いてもよい。また、3次元構造体51は、非対称な構造であってもよい。この場合、例えば、図12に示す3次元構造体101を有するバッキング材100を用いることが好ましい。
【0056】
3次元構造体101は、紙面垂直方向に厚みをもち、傾斜面102を有する構造となっている。傾斜面102は、バッキング材100の圧電素子が載置される面100aの法線Nに対する角度θが、45°以下となるように形成されている。この3次元構造体101は、先述の常温接合を応用した技術を用いて、薄膜パターン52の形状を変更することで作製することが可能である。
【0057】
このように、音響インピーダンスが異なる3次元構造体101と母材103との界面を傾斜面102とすることで、圧電素子からの超音波USが図に示す如く傾斜面102で反射されて減衰するので、バッキング材100による超音波吸収性能を向上させることができる。実際に、3次元構造体101の材料、構成などを適宜選択することで、−20dB以上の減衰係数を達成することが可能である。
【0058】
ここで、バッキング材に粉末を混入する従来の方法では、粉末の混入量を増やせば音響インピーダンスが大きくなって周波数帯域幅を広げることができるが、粉末の混入量が増えると超音波吸収性能が低下するため、その分バッキング材を厚くする必要があった。これに対して、バッキング材100は、音響インピーダンスを高めると同時に超音波吸収性能を向上させることができるので、所望の周波数帯域幅を得られるとともに、その厚みを薄くすることができる。
【0059】
上記実施形態では、常温接合を応用した技術を用いて3次元構造体を作製しているが、他の常温接合技術、例えば、分子・原子拡散型接合技術、表面活性型接合技術、媒介物質による極性型接合技術、媒介物質による分子間力型接合技術、媒介物質による物理接合型接合技術、および媒介物質による化学反応型接合技術のいずれかの貼り合わせ接合、具体的には、紫外線などの光照射によって硬化する光硬化性樹脂を用いた光造形法や、粉体層にレーザー光を照射することにより所望の形状の薄膜パターンに焼結する粉末法などを採用してもよい。
【0060】
以下、上記で挙げた常温接合技術を簡単に説明する。まず、分子・原子拡散型接合技術は、接合する部材同士の表面を数原子または数分子単位で粗く平坦化して付き合わせ、加熱または加圧などにより互いの部材の表面原子または表面分子同士を相互もしくは一方に拡散させることで接合するものである。表面活性型接合技術は、接合する部材同士の表面を数原子または数分子単位で粗く平坦化し、その表面にエネルギー照射(分子線、イオン線、レーザー光、プラズマ放電など)を行って表面エネルギーを活性化させた後に付き合わせ、加熱または加圧などにより互いの部材の表面原子または表面分子同士を相互もしくは一方に拡散、あるいは分子間力・極性結合などの相互作用により接合するものである。
【0061】
媒介物質による極性型接合技術は、接合する部材同士の間に、その部材間距離をできる限り短くするような部材を挿入し、互いの部材の表面間に生じる極性分子間力(水素結合など)を利用して接合するものである。媒介物質による分子間力型接合技術は、接合する部材同士の間に、その部材間距離をできる限り短くするような部材を挿入し、互いの部材の表面間に生じる分子間力(ファンデルワールス結合)を利用して接合するものである。
【0062】
媒介物質による物理接合型接合技術は、接合する部材同士の間に、その部材表面の凹凸によく侵入する部材を挟み、その部材によるアンカリング効果により接合するものである。媒介物質による化学反応型接合技術は、接合する部材同士の間に、その部材表面と化学結合反応を生じる、もしくは反応能を有する部材を挟み、その部材の介添えにより接合するものである。
【0063】
上記実施形態では、フレキシブルシャフト32aを回転軸として超音波トランスデューサ31を回転させる超音波プローブ11を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、超音波トランスデューサ31を揺動、あるいはスライドさせて生体に超音波を走査する超音波プローブについても適用することができる。
【0064】
また、メカニカルスキャン機構を備えた超音波プローブに限らず、複数の超音波トランスデューサをアレイ状に配列し、駆動する超音波トランスデューサを電子スイッチなどで選択的に切り替える電子スキャン走査方式の超音波プローブについても、本発明を適用することが可能である。
【0065】
さらに、本発明は、上記実施形態で例示した内視鏡の鉗子孔に挿通するタイプの超音波プローブ11に限らず、体腔内撮影用のカメラと超音波トランスデューサとが先端に配置された、いわゆる超音波内視鏡に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】超音波診断装置の構成を示す概略図である。
【図2】超音波プローブの先端の構造を示す拡大断面図である。
【図3】超音波トランスデューサの構成およびトランスレータの電気的構成を示す説明図である。
【図4】バッキング材の構成を示す斜視図である。
【図5】常温接合を応用した技術を用いた3次元構造体の作製手順を示す図であり、(A)は、ドナー基板に熱酸化膜およびアルミナ薄膜を形成した状態、(B)は、アルミナ薄膜に薄膜パターンを形成した状態をそれぞれ示す。
【図6】常温接合を応用した技術を用いた3次元構造体の作製手順を示す図であり、(C)は、第1層の薄膜パターンの表面と、ターゲット基板の表面とにFAB処理を施す様子、(D)は、ターゲット基板の表面に第1層の薄膜パターンの表面を接合した状態をそれぞれ示す。
【図7】常温接合を応用した技術を用いた3次元構造体の作製手順を示す図であり、(E)は、第1層の薄膜パターンをターゲット基板側に転写した状態、(F)は、第2層の薄膜パターンの表面と、第1層の薄膜パターンの裏面にFAB処理を施す様子をそれぞれ示す。
【図8】常温接合を応用した技術を用いた3次元構造体の作製手順を示す図であり、(G)は、第1層の薄膜パターンの裏面に第2層の薄膜パターンの表面を接合した状態、(H)は、第2層の薄膜パターンを第1層の薄膜パターンの裏面側に転写した状態をそれぞれ示す。
【図9】バッキング材の製造手順を示す図であり、(A)は、3次元構造体を真空槽内の鋳型に載置し、所定の真空度となるまで真空引きした状態、(B)は、母材の液体を鋳型に流し込み、母材の液体を固化させた状態をそれぞれ示す。
【図10】バッキング材の別の実施形態を示す斜視図である。
【図11】バッキング材のさらに別の実施形態を示す斜視図である。
【図12】バッキング材のさらに別の実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0067】
2 超音波診断装置
10 内視鏡
11 超音波プローブ
12 超音波観察器
31 超音波トランスデューサ
40、80、90、100 バッキング材
41 圧電素子
48 コントローラ
50、103 母材
51、81、91、101 3次元構造体
52、82、92 薄膜パターン
70 真空槽
102 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波トランスデューサの圧電素子が載置されるバッキング材であって、
薄膜パターンが積層されてなる3次元構造体と、
前記3次元構造体が埋設され、前記3次元構造体を形成する部材とは異なる音響インピーダンスを有する母材とからなることを特徴とするバッキング材。
【請求項2】
前記3次元構造体は、前記薄膜パターンを接合して作製されたことを特徴とする請求項1に記載のバッキング材。
【請求項3】
前記3次元構造体は、基板上に形成された前記薄膜パターンを離型し、離型された薄膜パターンを転写して作製されたことを特徴とする請求項1または2に記載のバッキング材。
【請求項4】
前記3次元構造体は、分子・原子拡散型接合技術、表面活性型接合技術、媒介物質による極性型接合技術、媒介物質による分子間力型接合技術、媒介物質による物理接合型接合技術、および媒介物質による化学反応型接合技術のいずれかの貼り合わせ接合により作製されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のバッキング材。
【請求項5】
液体状の前記母材に前記3次元構造体を浸漬させ、前記母材を固化させて作製されたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のバッキング材。
【請求項6】
前記3次元構造体の形状または/および密度を変化させ、前記圧電素子が載置される面から対向する面に向かって、音響インピーダンスが漸減するように作製されたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のバッキング材。
【請求項7】
前記圧電素子が載置される面側に、前記3次元構造体が片寄せして配置されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のバッキング材。
【請求項8】
前記圧電素子が載置される面から対向する面に向かって、前記薄膜パターンの密度が疎となるように、前記3次元構造体が作製されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のバッキング材。
【請求項9】
前記3次元構造体は、井桁形状を有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のバッキング材。
【請求項10】
前記3次元構造体は、前記圧電素子が載置される面の法線に対して、45°以下の傾斜面を有することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載のバッキング材。
【請求項11】
前記圧電素子に対する音響インピーダンスの比が、0.3以上1.4以下であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載のバッキング材。
【請求項12】
超音波トランスデューサの圧電素子が載置されるバッキング材の製造方法であって、
薄膜パターンを積層して3次元構造体を作製する工程と、
前記3次元構造体を形成する部材とは異なる音響インピーダンスを有する母材に前記3次元構造体を埋設する工程とを備えたことを特徴とするバッキング材の製造方法。
【請求項13】
前記3次元構造体を、前記薄膜パターンを接合して作製したことを特徴とする請求項12に記載のバッキング材の製造方法。
【請求項14】
前記3次元構造体を、基板上に形成された前記薄膜パターンを離型し、離型された薄膜パターンを転写して作製したことを特徴とする請求項12または13に記載のバッキング材の製造方法。
【請求項15】
前記3次元構造体を、分子・原子拡散型接合技術、表面活性型接合技術、媒介物質による極性型接合技術、媒介物質による分子間力型接合技術、媒介物質による物理接合型接合技術、および媒介物質による化学反応型接合技術のいずれかの貼り合わせ接合により作製したことを特徴とする請求項12ないし14のいずれかに記載のバッキング材の製造方法。
【請求項16】
前記母材に前記3次元構造体を埋設する工程では、液体状の前記母材に前記3次元構造体を浸漬させ、前記母材を固化させることを特徴とする請求項12ないし15のいずれかに記載のバッキング材の製造方法。
【請求項17】
前記3次元構造体の形状または/および密度を変化させ、前記圧電素子が載置される面から対向する面に向かって、音響インピーダンスが漸減するように作製したことを特徴とする請求項12ないし16のいずれかに記載のバッキング材の製造方法。
【請求項18】
前記圧電素子が載置される面側に、前記3次元構造体を片寄せして配置したことを特徴とする請求項12ないし17のいずれかに記載のバッキング材の製造方法。
【請求項19】
前記圧電素子が載置される面から対向する面に向かって、前記薄膜パターンの密度が疎となるように、前記3次元構造体を作製したことを特徴とする請求項12ないし18のいずれかに記載のバッキング材の製造方法。
【請求項20】
前記3次元構造体を、井桁形状に作製したことを特徴とする請求項12ないし19のいずれかに記載のバッキング材の製造方法。
【請求項21】
前記3次元構造体を、前記圧電素子が載置される面の法線に対して、45°以下の傾斜面を有するように作製したことを特徴とする請求項12ないし20のいずれかに記載のバッキング材の製造方法。
【請求項22】
前記圧電素子に対する音響インピーダンスの比が、0.3以上1.4以下となるようにしたことを特徴とする請求項12ないし21のいずれかに記載のバッキング材の製造方法。
【請求項23】
請求項1ないし11のいずれかに記載のバッキング材を有する超音波トランスデューサを内蔵したことを特徴とする超音波プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−202953(P2007−202953A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28304(P2006−28304)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】