説明

バッテリー測定・監視制御システム

【課題】湿式バッテリーの特性を遠方から測定・監視し、必要に応じてバッテリーや充電方式を切換え可能として労力の軽減や低コスト化を図る。
【解決手段】鉄道踏切監視制御機器100A,100Bのバックアップ用電源としての湿式バッテリーの特性を測定・監視するシステムにおいて、複数台のバッテリー10A,10Bと、その特性として電解液の比重及びバッテリー温度を少なくとも測定するバッテリー測定装置50と、その測定結果を通信装置60を介し遠方から監視してバッテリーの状態を判断する監視・制御装置71と、監視・制御装置71から通信装置60を介して送られた指令により、監視制御機器100A,100Bへの電源供給を、異常なバッテリーから正常なバッテリーに切換える支援回路20を備え、必要に応じて、バッテリー10A,10Bを充電し、充電方式を切換可能な充電制御装置30A,30Bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の踏切監視制御機器のバックアップ用電源として使用される湿式バッテリー(以下、単にバッテリーともいう)の特性を遠方から測定・監視し、使用するバッテリーや充電方式の自動的な切換等を可能にしたバッテリー測定・監視制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道の踏切監視制御機器には、列車の接近を検知して警報を発したり、踏切遮断機を動作させるための電源として、主電源のほかにバックアップ用電源として湿式バッテリーを備えたものがある。
通常、この種のバッテリーは踏切近くの屋外など、悪環境に設置されることが多いため、その寿命は比較的短い。従って、定期的な点検作業によって電解液の比重、バッテリーの温度、電圧などの特性を測定したり、場合によってはバッテリーを交換する必要があり、これらのメンテナンス作業に多くのコストや労力を費やしていた。
【0003】
ここで、特許文献1には、踏切内の障害物(車両など)や軌道上を通過する列車を検知して遠方の監視局に無線通信するようにした鉄道用無線通信装置が記載されている。
また、特許文献2には、踏切制御子または踏切バックアップ装置の故障を検知して遠方の集中監視装置に通報するようにした故障検知装置が記載されている。
【0004】
更に、特許文献3には、太陽電池パネルや風力発電機及びバッテリーからなる独立電源を交通信号機に設置し、バッテリーの抵抗や比重をデータロガーにより収集して遠方の管理装置に伝送するようにした交通信号システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−198439号公報(段落[0017]〜[0028]、図1〜図6等)。
【特許文献2】特開平11−310133号公報(段落[0013]〜[0027]、図1等)。
【特許文献3】特開2005−310079号公報(請求項3、段落[0031],[0032]、図3等)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載された従来技術によれば、踏切内の障害物や通過列車、踏切制御子の故障などの様々な事象を検知して遠方に伝送することにより、いわゆる遠隔監視が可能であるが、これらの特許文献には、鉄道踏切監視制御機器のバックアップ用バッテリーの比重、温度等の特性を検出して遠方から監視・制御する手段については何ら言及されていない。
また、特許文献3に記載された従来技術によれば、バッテリーの特性を遠方から監視することが可能であるが、例えば電解液の比重に異常が検出されたとしても、対応策としては保守のために作業員が直ちに現場に出向くしか方法がなく、メンテナンスの労力を軽減するには未だ不十分であった。
【0007】
そこで本発明の解決課題は、鉄道踏切監視制御機器のバックアップ用電源に用いられる湿式バッテリーの特性を遠方から測定・監視し、必要に応じて使用するバッテリーや充電方式を自動的に切り換えて労力の軽減や低コスト化を可能にしたバッテリー測定・監視制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、鉄道の踏切監視制御機器のバックアップ用電源として用いられる湿式バッテリーの特性を測定・監視するシステムにおいて、
複数台のバッテリーと、
前記バッテリーの特性として、電解液の比重及びバッテリー温度を少なくとも測定するバッテリー測定装置と、
前記バッテリー測定装置による測定結果を、通信装置を介して遠方から監視することによりバッテリーの状態を判断する監視・制御装置と、
前記監視・制御装置から前記通信装置を介して送られた指令により、前記踏切監視制御機器への電源供給を、前記監視・制御装置により異常と判断されたバッテリーから正常なバッテリーに切り換えるための支援回路
を備えたことを特徴とする。
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載した測定・監視するシステムにおいて、前記監視・制御装置から前記通信装置を介して送られた指令により、複数台のバッテリーをそれぞれ充電し、かつ、充電方式を切り換えるように制御する充電制御装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数台の湿式バッテリーの比重や温度を測定してこれらの特性を遠方の監視局から常時監視すると共に、測定・監視結果を表示、記録して警報出力等を行うことが可能である。
また、複数台のバッテリーの相互間でバックアップが可能であるから、あるバッテリーが異常であっても、支援回路を動作させて正常なバッテリーから鉄道踏切監視制御機器に電源を供給することができる。更に、必要に応じて充電制御装置により充電方式を切り換え、バッテリーの寿命を延長させることもできる。
総じて、本発明によれば、バッテリーの特性の測定、監視、メンテナンス作業を省力化し、これらの作業に要する労力及びコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るバッテリー測定・監視制御システムの構成図である。
【図2】図1における比重センサの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、図1は、本実施形態に係るバッテリー測定・監視制御システムの主要部を示す構成図である。
図1において、10A,10Bは、それぞれ鉄道踏切監視制御機器100A,100Bのバックアップ用電源としての湿式バッテリーである。鉄道踏切監視制御機器100A,100Bは、列車の接近を検知して警報を発生する機能や踏切遮断機を動作させる機能を備えているが、これらの鉄道踏切監視制御機器100A,100B自体は本発明の要旨ではないため、ここでは詳述を省略する。
【0012】
バッテリー10A,10Bには、内部の電解液の比重を測定するための比重センサ11A,11Bと、バッテリー10A,10Bの温度を測定するための温度センサ12A,12Bが取り付けられている。
各センサ11A,11B及び12A,12Bは両バッテリー10A,10B共に同一であり、ここでは、特に比重センサ11A,11Bの構成及び取付構造を図2に基づいて説明する。なお、図2では、比重センサの符号を11としてある。
【0013】
図2において、比重センサ11は、バッテリー容器の蓋13に設けられた孔部13aに取り付けられる。ここで、孔部13aは、電解液を補充するための注入口を利用してもよいし、比重センサ11の取付専用に設けてもよい。
バッテリー容器内の電解槽には電解液14が充填され、この電解液14に電極板15が浸漬されている。
【0014】
比重センサ11は、LED等の光源11a、プリズム11b、集光用のレンズ11c及びセンサ本体11dを備えており、少なくともプリズム11bが電解液14に接している。この比重センサ11は、光源11aからプリズム11bを介してレンズ11cに入射する光の屈折率と電解液14の比重との間に一定の相関関係があることを利用したものであり、詳細な比重測定原理は、例えば、特開昭54−54244号公報「光学式電池電解液比重測定装置」や実開昭62−12270号公報「蓄電池電解液比重、温度測定装置」等に記載されている。
蓋13の上方に配置されたセンサ本体11dは、レンズ11cによって集光した光を電気信号に変換するためのものである。
ここで、比重センサ11は、測定精度を高めるために、バッテリー1個単位ではなく、バッテリー内のセルごとに設けて各セル内の電解液の比重を測定することが望ましい。
【0015】
再び図1において、バッテリー10Aの電圧出力端子は充電制御装置30Aに接続されていると共に、支援回路20を介して鉄道踏切監視制御機器100Aに接続されている。同様に、バッテリー10Bの出力端子は充電制御装置30Bに接続されていると共に、支援回路20を介して鉄道踏切監視制御機器100Bに接続されている。なお、鉄道踏切監視制御機器は1台でもよく、その場合には、支援回路20を介してバッテリー10Aまたは10Bの何れか一方から電源が供給されるように構成される。
支援回路20は、鉄道踏切監視制御機器100A,100Bにそれぞれ接続されるバッテリー10A,10Bを、リレーや電磁接触器等(以下、スイッチ手段という)によって切り換える機能を備えている。
また、充電制御装置30A,30Bは、AC電源の交流電力を直流電力に変換してバッテリー10A,10Bをそれぞれ充電するためのものであり、その充電方式(浮動充電及び均等充電)を切換可能となっている。これらの充電制御装置30A,30Bは、必要に応じて設けられるものである。
【0016】
充電制御装置30A,30Bには、バッテリー測定装置50が接続されている。このバッテリー測定装置50には、前記比重センサ11A,11Bの検出信号を比重変換器40によりレベル変換してなる信号と、前記温度センサ12A,12Bの出力信号とが入力されており、これらの信号に基づいてバッテリー10A,10Bの特性、すなわち、少なくとも電解液の比重及びバッテリーの温度が測定される。
ここで、バッテリー測定装置50には、必要に応じてバッテリー10A,10Bの端子電圧や液面を測定する機能を付加してもよい。
【0017】
60は通信装置であり、上記バッテリー測定装置50と遠方の監視局70との間でデータや指令を無線または有線にて送受信するためのものである。ここで、バッテリー測定装置50は、通信装置60からの指令に応じて、充電制御装置30A,30Bとの間で充電開始・終了等の制御指令や充電方式の切換指令を送受信可能であり、また、支援回路20との間で、支援回路20内部のスイッチ手段の切換指令やスイッチ手段の状態信号を送受信可能である。
なお、バッテリー測定装置50、充電制御装置30A,30B、支援回路20がそれぞれ通信機能を備え、各装置または回路が個別に監視局70との間で通信を行ってもよい。
【0018】
監視局70には、バッテリー測定装置50により測定したバッテリー10A,10Bの電解液の比重、バッテリーの温度をモニタし、バッテリーの状態(正常、異常)を判断すると共に、充電制御装置30A,30Bに対する充電方式の切換指令や支援回路20内のスイッチ手段に対する切換指令を生成する監視・制御装置71が設置されている。この監視・制御装置71はコンピュータシステムによって構成されており、演算機能、判断機能、記憶機能、表示機能、警報出力機能、通信機能等を備えている。
図示されていないが、バッテリー測定装置50にもモニタ機能を設け、比重、温度、バッテリーの状態等を現場でも確認可能にするとよい。
【0019】
次に、この実施形態の動作を説明する。
バッテリー測定装置50は、バッテリー10A,10Bの電解液の比重、バッテリー10A,10Bの温度を常時測定しており、これらの測定値を、通信装置60を介して監視局70内の監視・制御装置71に送信している。監視・制御装置71は、各バッテリー10A,10Bについて、正常時の比重や許容温度等のデータを予めデータベースとして記憶しており、各測定値をこれらのデータベースと突き合わせてバッテリー10A,10Bの正常、異常を判断する。
【0020】
いま、支援回路20内のスイッチ手段が図1に示すように開放されており、バッテリー10Aが鉄道踏切監視制御機器100Aに接続され、バッテリー10Bが鉄道踏切監視制御機器100Bに接続されているとする。
このとき、監視・制御装置71が、バッテリー測定装置50から送信された比重、温度の測定値に基づいて、例えばバッテリー10Aが異常と判断した場合には、その旨を表示または警報出力すると共に、記憶装置に記録する。
この場合、他方のバッテリー10Bが正常であって、バッテリー10Bの容量により両方の鉄道踏切監視制御機器100A,100Bの運転が可能であれば、監視・制御装置71からの指令により、通信装置60及びバッテリー測定装置50を介して支援回路20内のスイッチ手段を閉じ、鉄道踏切監視制御機器100A,100Bの電源として正常なバッテリー10Bを接続する。
【0021】
なお、支援回路20内のスイッチ手段を閉じることで、バッテリー10Bからバッテリー10Aに至る充電経路が形成されるが、異常であるバッテリー10Aにバッテリー10Bからの充電電流が流入しないようにすることが必要である。そのためには、例えば、充電制御装置30Aからの切り離し指令によって、スイッチ等のハードウェアまたはソフトウェア的な処理により、バッテリー10Aを前記充電経路から切り離せばよい。この切り離し指令は、監視・制御装置71から通信装置60、バッテリー測定装置50を介して送られる指令に基づくものである。
【0022】
上述したように、例えばバッテリー10Aの電解液の減少や劣化によりその比重が異常値となった場合でも、作業員が直ちに点検に出向く必要はなく、正常なバッテリー10Bによりバックアップしておいて都合のよいときにバッテリー10Aの電解液の補充や交換など、所定のメンテナンス作業を行えばよい。
なお、逆にバッテリー10Bが異常であってバッテリー10Aが正常である場合には、正常なバッテリー10Aから電源を供給するように動作させることができる。
【0023】
また、監視・制御装置71は、バッテリー10A,10Bの寿命を延長させるため、通信装置60及びバッテリー測定装置50を介して指令を送り、充電制御装置30A,30Bを介して、一定期間ごとにバッテリー10A,10Bの均等充電を行わせてもよい。これにより、バッテリー10A,10Bの交換周期を長くしてコストを削減することも可能である。
【0024】
一般に、鉄道部門に採用されている信号保安装置の多くは、フェールセーフの原則から、電源が断たれれば故障となる。このような場合の瞬停、停電対策として、バッテリーによるバックアップを採用している。バッテリーの充電方式として、浮動充電方式では、バッテリーの自己放電や、交流電源からの充電、停電時や大電流使用時におけるバッテリーからの給電というように、常に充電と放電とを繰り返している。これに対し、均等充電方式は、バッテリーが充電と放電を繰り返す際に起こるバッテリー容量や電圧のばらつきを補正する充電方式である。
すなわち、浮動充電を続けていると、バッテリーのセルごとに充電容量が異なってしまい、セル間の電位差による循環電流などによる悪影響が懸念されるため、最低でも3〜6ヶ月に1回の均等充電を行ってバッテリーの品質を確保することが必要である。
現状では、均等充電を現地にて手動操作により行っていることが多く、集中監視装置では、停電になって初めてバッテリーの機能低下による警報出力を行っている。
従って、本発明のように、遠隔地にてバッテリーの比重、温度、電圧、液面等を常に把握しておき、一定期間ごとに自動的にバッテリーを均等充電する方式を採用すれば、バッテリーの品質や特性の維持、寿命の延長、コストの低減に寄与することができる。
【0025】
以上のように、この実施形態によれば、バッテリーの特性の測定、監視、充電制御及び異常時のバックアップを自動的かつ遠隔制御によって実現することができ、これらの作業に伴う労力を軽減すると共に、バッテリーの寿命延長を可能にしてシステム全体の低コスト化を図ることができる。
【符号の説明】
【0026】
10A,10B:バッテリー
11,11A,11B:比重センサ
11a:光源
11b:プリズム
11c:レンズ
11d:センサ本体
12A,12B:温度センサ
13:蓋
13a:孔部
14:電解液
15:電極板
20:支援回路
30A,30B:充電制御装置
40:比重変換器
50:バッテリー測定装置
60:通信装置
70:監視局
71:監視・制御装置
100A,100B:鉄道踏切監視制御機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道踏切監視制御機器のバックアップ用電源として用いられる湿式バッテリーの特性を測定・監視するシステムにおいて、
複数台のバッテリーと、
前記バッテリーの特性として、電解液の比重及びバッテリー温度を少なくとも測定するバッテリー測定装置と、
前記バッテリー測定装置による測定結果を、通信装置を介して遠方から監視することによりバッテリーの状態を判断する監視・制御装置と、
前記監視・制御装置から前記通信装置を介して送られた指令により、前記鉄道踏切監視制御機器への電源供給を、前記監視・制御装置により異常と判断されたバッテリーから正常なバッテリーに切り換えるための支援回路
を備えたことを特徴とするバッテリー測定・監視制御システム。
【請求項2】
前記監視・制御装置から前記通信装置を介して送られた指令により、複数台のバッテリーをそれぞれ充電し、かつ、充電方式を切り換えるように制御する充電制御装置を備えたことを特徴とする請求項1に記載のバッテリー測定・監視制御システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−86735(P2013−86735A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231298(P2011−231298)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】