説明

バラスト水処理装置

【課題】生物・微生物の破断効果のあるフィルタを有するバラスト水処理装置を提供する。
【解決手段】バラスト水中の生物・微生物を除去・殺滅するバラスト水処理装置1である。バラスト水が通されるろ過フィルタ6と、バラスト水中の生物・微生物の殺滅を図る殺滅装置8とを備える。ろ過フィルタ6の下流に、角を有する断面を持つ線材で構成された異形線フィルタ7を備える。ろ過フィルタ6を変形してすり抜けた生物・微生物を、異形線フィルタ7にて破断または損傷させる。損傷を受けた生物・微生物は、殺滅装置8にて容易に死滅する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト水中の生物・微生物を除去・殺滅するバラスト水処理装置に関し、特に、ろ過フィルタをすり抜けた生物・微生物を破断または損傷させる異形線フィルタを有するバラスト水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶は、積荷がないか積荷が少ない場合、プロペラを所望の水深まで沈めたり、船の重心を適正まで下げたりするために、バラスト水と呼ばれる水(海水、淡水または汽水)が船内に取り込まれる。典型的には、船舶は、荷揚港で積荷を降ろすと重心が上がるので、周囲の水を取り込んで重心を下げ、そのバラスト水は荷積港で周囲に排出される。
【0003】
ところが、荷揚港で取り込んだバラスト水が荷積港で排出されるので、バラスト水中に含まれる生物・微生物に起因して、周囲の生態系を破壊するという問題がある。そこで、次亜塩素酸や紫外線により、バラスト水中の生物・微生物を殺滅するバラスト水処理装置が知られている。
【0004】
また、下記特許文献1に開示されるように、液中の微生物を殺減させる液中微生物殺減装置が提案されている。この特許文献1に開示される液中微生物殺減装置(1)は、微生物を含んだ液体が通されるパイプ(2)内に、細長いスリット開口孔を有するスリット板(3)を設け、このスリット板によりせん断力を生じさせて、液中の微生物を破壊して殺減する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−200156号公報(請求項1、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に開示される液中微生物殺減装置では、水中のプランクトンやバクテリアをスリットによるせん断力のみで殺滅するには、すり抜けの防止とせん断力を大きくする必要があるので、開口幅を小さくしなければならず、目詰まりが生じやすい。スリット板を前後に動かして目詰まりを解消するにしても、その動作工程中は処理ができなくなるため、連続処理が難しい。
【0007】
さらに、スリット板の場合、スリット開口孔を通過する際の圧力損失が非常に大きくなる。そのため、バラスト水をくみ上げるためのポンプは、スリット板がない場合と比較して、揚程の大きなものを使用する必要がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、簡易な構成で生物・微生物の破断効果のあるフィルタを有するバラスト水処理装置を提供することにある。また、フィルタの目詰まりを防止できると共に圧力損失も低減できるフィルタを有するバラスト水処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、バラスト水中の生物・微生物を除去・殺滅するバラスト水処理装置であって、バラスト水が通されるろ過フィルタと、バラスト水中の生物・微生物の殺滅を図る殺滅装置とを備え、前記ろ過フィルタの下流に、角を有する断面を持つ線材で構成された異形線フィルタを備えることを特徴とするバラスト水処理装置である。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、角を有する断面を持つ線材で構成することにより、生物・微生物の破断効果のあるフィルタとすることができる。また、この異形線フィルタは、ろ過フィルタの下流に設けられるので、フィルタの目詰まりを防止することができる。さらに、異形線フィルタは、スリット板で構成した場合に比べて、圧力損失を小さくすることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記異形線フィルタは、前記ろ過フィルタと前記殺滅装置との間に設置され、前記異形線フィルタは、前記ろ過フィルタと同一のメッシュサイズであることを特徴とする請求項1に記載のバラスト水処理装置である。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、異形線フィルタは、それより上流に配置されたろ過フィルタと同一のメッシュサイズとされるので、異形線フィルタの目詰まりを確実に防止することができる。また、バラスト水中の生物・微生物は、ろ過フィルタで捕捉されるが、ろ過フィルタを変形してすり抜けたとしても、異形線フィルタで破断または損傷を受けることになる。そして、傷ついた生物・微生物は、下流の殺滅装置にて容易に殺滅させることができる。さらに、ろ過フィルタや異形線フィルタを通過する生物・微生物は、そもそも小さくて弱いため、殺滅装置にて容易に殺滅させることができる。このようにして、バラスト水中の生物・微生物の除去・殺滅を確実に図ることができる。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、複数本の異形線が隙間を空けて平行に配置された異形線群を複数備え、これらの異形線群同士は、それぞれを構成する異形線同士が交わるように重ね合わされて前記異形線フィルタを構成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のバラスト水処理装置である。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、異形線から簡易にメッシュ構造のフィルタを構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡易な構成で生物・微生物の破断効果のあるフィルタを有するバラスト水処理装置を実現することができる。また、フィルタの目詰まりを防止できると共に圧力損失も低減できるフィルタを有するバラスト水処理装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のバラスト水処理装置の一実施例を示す概略図である。
【図2】図1のバラスト水処理装置の異形線フィルタの一例を示す概略正面図であり、異形線フィルタの一部を抜き出して拡大して示している。
【図3】図2におけるIII−III端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明のバラスト水処理装置1の一実施例を示す概略図である。
【0018】
本実施例のバラスト水処理装置1は、船外からバラストタンク2への給水路3に、ポンプ4、給水弁5、ろ過フィルタ6、異形線フィルタ7、殺滅装置8、流量センサ9およびタンク入口弁10を順に備える。さらに、給水路3には、タンク入口弁10の上流側において、船外への排水路11が分岐するよう設けられており、この排水路11には排水弁12が設けられている。
【0019】
船外の水(海水、淡水または汽水)は、バラスト水として給水路3を介してバラストタンク2へ供給され貯留される。給水路3に設けたろ過フィルタ6は、バラスト水が通されることで、バラスト水中に含まれる夾雑物を捕捉する。これにより、ろ過フィルタ6において、バラスト水中の生物・微生物の除去を図ることができる。
【0020】
図2および図3は、異形線フィルタ7の一例を示す概略図であり、図2は一部を抜き出して拡大して示す正面図、図3は図2におけるIII−III端面図である。異形線フィルタ7は、角を有する断面を持つ線材13,13,…で構成されたフィルタである。本実施例では、異形線フィルタ7は、断面ひし形の線材13を用いて、網状に構成されている。この際、各線材13は、少なくとも一つの角(特に鋭角が好ましい)を通水方向上流側へ向けて配置するのがよい。
【0021】
異形線フィルタ7は、ろ過フィルタ6と同一のメッシュサイズとするのがよい。各フィルタ6,7の目の粗さを同じにしつつ、異形線フィルタ7をろ過フィルタ6より下流に配置することで、異形線フィルタ7の目詰まりを防止することができる。なお、ろ過フィルタ6、および所望により異形線フィルタ7は、水、蒸気、温水などで適宜、逆洗可能に構成されてもよい。
【0022】
バラスト水中の生物・微生物は、ろ過フィルタ6を変形してすり抜けることがあるが、そのようにしてろ過フィルタ6をすり抜けた生物・微生物を、異形線フィルタ7にて破断または損傷させることができる。
【0023】
殺滅装置8は、バラスト水中の生物・微生物を殺滅する装置であり、その構成を特に問わないが、たとえば電解装置または紫外線照射装置である。また、バラスト水処理装置1は、殺滅装置8として、電解装置と紫外線照射装置との双方を備えていてもよい。
【0024】
電解装置は、くみ上げた海水中に含まれる塩分によって次亜塩素酸を発生させ、それによりバラスト水中の生物・微生物を殺滅する装置である。一方、紫外線照射装置は、バラスト水が通され、バラスト水に紫外線を照射して、バラスト水中の生物・微生物を殺滅する装置である。
【0025】
流量センサ9は、そこを通過するバラスト水の流量を監視する。流量を監視することで、次亜塩素酸や紫外線による所期の殺滅能力を発揮できる流量であるか否かを把握することができる。
【0026】
バラストタンク2は、船舶の水深を適正に保つために、バラスト水を貯留する。バラストタンク2には、船外からバラスト水が供給される給水路3の他、船外へバラスト水を排出する排水路(図示省略)が接続されている。
【0027】
次に、本実施例のバラスト水処理装置1の運転について説明する。
船外からバラスト水をくみ上げてバラストタンク2へ給水するには、給水弁5とタンク入口弁10とを開ける一方、排水弁12を閉じた状態で、ポンプ4および殺滅装置8を作動させればよい。但し、殺滅装置8が紫外線照射装置である場合、紫外線照射装置は、紫外線ランプに通電しても、殺滅処理に用いるための所定照度になるまで、ある程度の時間を要するので、それまではタンク入口弁10を閉じる一方、排水弁12を開けておくのがよい。これにより、くみ上げた水は、バラストタンク2へ供給せずに、排水路11を介して排水される。そして、紫外線ランプが所定照度になれば、排水弁12を閉じる一方、タンク入口弁10を開けて、バラスト水をバラストタンク2へ供給すればよい。
【0028】
バラストタンク2への給水中、バラスト水中の夾雑物をろ過フィルタ6で除去すると共に、ろ過フィルタ6をすり抜けた生物・微生物を異形線フィルタ7で破断または損傷させることができる。また、バラスト水は、さらに殺滅装置8に通されるので、殺滅装置8にて、生物・微生物を殺滅することができる。
【0029】
サイズの大きな(概ね50μm以上)生物は、殺滅装置8における化学的処理によって短時間に死滅させることが難しいため、まずろ過フィルタ6で除去する。そして、ろ過フィルタ6で捕捉できなかった生物・微生物Xを、異形線フィルタ7で破断または損傷させる。異形線フィルタ7で殺滅できなくても、異形線フィルタ7で傷つけることで、殺滅装置8にて容易に殺滅させることができる。また、バラスト水中の生物・微生物は、ろ過フィルタ6や異形線フィルタ7を通過する大きさ(図2および図3における生物・微生物Y)の場合もあるが、その場合はそもそもきわめて小さく弱いため、殺滅装置8にて容易に殺滅することができる。このようにして、バラスト水中の生物・微生物の除去・殺滅を確実に図ることができる。
【0030】
本発明のバラスト水処理装置1は、前記実施例の構成に限らず適宜変更可能である。特に、異形線フィルタ7を構成する線材13の断面形状や、線材13の配置、異形線フィルタ7のメッシュサイズは、適宜に変更可能である。たとえば、前記実施例では、異形線フィルタ7を構成する線材13の断面は、ひし形とされたが、角を有する断面であれば、長方形、正方形、三角形、六角形、その他の多角形など、適宜に変更可能である。いずれの場合も、異形線フィルタ7を構成する線材13は、その角部でバラスト水中の生物・微生物が破断または損傷を受けるように、角部の配置が設定される。典型的には、前記実施例のように、少なくとも一つの角(特に鋭角が好ましい)を通水方向上流側へ向けて配置するのがよい。
【0031】
また、異形線フィルタ7は、複数本の縦線と横線とを編み込む以外に、複数本の縦線を隙間を空けて平行に配置したものと、複数本の横線を隙間を空けて平行に配置したものとを重ね合わせて構成してもよい。つまり、複数本の異形線が隙間を空けて平行に配置された異形線群を複数備え、これらの異形線群同士は、それぞれを構成する異形線同士が交わるように重ね合わされて異形線フィルタ7を構成してもよい。
【0032】
さらに、前記実施例では、異形線フィルタ7は、ろ過フィルタ6と殺滅装置8との間に設置したが、場合により殺滅装置8の入口側に設置してもよい。たとえば、殺滅装置8が紫外線照射装置の場合、バラスト水が通される紫外線照射装置のケースの入口部に、異形線フィルタ7を設置してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 バラスト水処理装置
2 バラストタンク
3 給水路
4 ポンプ
5 給水弁
6 ろ過フィルタ
7 異形線フィルタ
8 殺滅装置
9 流量センサ
10 タンク入口弁
11 排水路
12 排水弁
13 線材(異形線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラスト水中の生物・微生物を除去・殺滅するバラスト水処理装置であって、
バラスト水が通されるろ過フィルタと、バラスト水中の生物・微生物の殺滅を図る殺滅装置とを備え、
前記ろ過フィルタの下流に、角を有する断面を持つ線材で構成された異形線フィルタを備える
ことを特徴とするバラスト水処理装置。
【請求項2】
前記異形線フィルタは、前記ろ過フィルタと前記殺滅装置との間に設置され、
前記異形線フィルタは、前記ろ過フィルタと同一のメッシュサイズである
ことを特徴とする請求項1に記載のバラスト水処理装置。
【請求項3】
複数本の異形線が隙間を空けて平行に配置された異形線群を複数備え、
これらの異形線群同士は、それぞれを構成する異形線同士が交わるように重ね合わされて前記異形線フィルタを構成する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のバラスト水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−43144(P2013−43144A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183911(P2011−183911)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】