説明

バランス装置

【課題】胴体の傾斜角を基準方向に回復する動作を補助する。
【解決手段】バランス装置は、センサと少なくとも1個のフライホイールとコントローラを備える。センサは、基準方向に対する胴体の傾斜角を検出する。少なくとも1個のフライホイールは、人に装着されたときに、軸線が胴体のヨー軸と非平行となるようにバランス装置に配置されている。胴体のヨー軸とは、胴体の長手方向に相当する。また、ヨー軸は、人が直立したときに基準方向に一致する。コントローラは、センサによって検出される傾斜角に基づいてフライホイールの回転速度を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライホイールを用いて人のバランス能力を補助する技術、或いはバランス能力向上のための訓練のための技術に関する。なお、本明細書において、「バランス能力」とは、典型的には、傾いた胴体を定められた基準方向に回復する能力を意味する。
【背景技術】
【0002】
発明者らの知る限りにおいて、人のバランス能力を補助する装着型の装置は現在までほとんど研究されていない。なお、後述するように本明細書が開示する新規な技術はフライホイールを利用する。そこで、フライホイールを利用したロボット技術に関する2つの背景技術を以下に列挙する。
【0003】
(1)特許文献1:特許文献1に開示されている脚式ロボットは、 胴体と脚の少なくとも一方にフライホイールを利用したコントロールモーメントジャイロを搭載している。その脚式ロボットは、コントロールモーメントジャイロによって胴体の姿勢を変化させる。
【0004】
(2)特許文献2:特許文献2には、フライホイールを利用した歩行補助装置が開示されている。その歩行補助装置は、大腿に取り付ける第1装着部と下腿に取り付ける第2装着部を備える。夫々の装着部はフライホイールを有している。その歩行補助装置は、フライホイールの反力トルクを、脚の動作を補助するために利用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−9205号公報
【特許文献2】特開2009−254741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
障害や怪我によってバランス能力が低下してしまうことがある。しかしながら、前述したように、発明者らの知る限りにおいて、人のバランス能力を補助する装着型の装置は、現在までほとんど研究されていない。バランス能力が低下した人のために、バランス能力を補助する装着型の装置が望まれている。なお、装着型のバランス補助装置は、バランス能力向上のための訓練装置にも用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する一つの技術は、人の胴体に装着されるバランス装置を提供する。このバランス装置は、センサと少なくとも1個のフライホイールとコントローラを備える。センサは、定められた基準方向に対する胴体の傾斜角を検出する。基準方向の一例は、鉛直方向である。基準方向は、バランス装置を所望の向きに傾け、センサが出力する傾斜角をゼロにリセットすることによって定めることができる。この場合、センサが傾斜角ゼロを出力するときのバランス装置の傾斜方向が基準方向に相当する。少なくとも1個のフライホイールは、人に装着されたときに、軸線が胴体のヨー軸と非平行となるようにバランス装置に配置されている。胴体のヨー軸とは、胴体の長手方向に相当する。また、ヨー軸は、人が直立したときに鉛直方向に一致する。コントローラは、センサによって検出される傾斜角に基づいてフライホイールの回転速度を変更する。
【0008】
上記のバランス装置は、フライホイールの回転速度変化によって生じる反力トルクを利用して人のバランス能力を補助する。ここで、反力トルクとは、フライホイールから胴体が受けるトルクを意味する。以下、フライホイールの回転速度変化によって生じる反力トルクを単に「反力トルク」と称する。また、上記のバランス装置は、傾斜角とフライホイールの回転速度変化との関係を適宜に変更することによって、人のバランス能力向上のための訓練装置として利用することができる。上記のバランス装置は、胴体の傾斜角を基準方向に戻す向きの反力トルクを発生するように制御すればバランス補助装置として機能する。他方、上記のバランス装置は、胴体の傾斜角を増大する向き(基準方向から離れる向き)の反力トルクを発生するように制御すればバランス訓練装置として機能する。
【0009】
1個のフライホイールを有するバランス装置の場合、傾斜角の方向とフライホイールの回転方向と反力トルクの方向の関係は次の通りである。フライホイールの回転軸と交差する面内での胴体の傾斜角を仮定する。胴体が基準方向から時計回り方向に傾斜している場合、フライホイールの時計回り方向の回転速度を増加すると、胴体に反時計回り方向の反力トルク、即ち、胴体の傾斜角を基準方向に回復する向きの反力トルクが発生する。複数のフライホイールを有する場合は、各フライホイールが発生する反力トルクの合成トルクが、胴体の傾斜角を基準方向へ戻す方向に作用するように各フライホイールの回転速度を変化させる。合成トルクの向きや大きさは、各フライホイールの幾何学的配置によって定まる。
【0010】
上記のバランス装置をバランス能力の補助装置として用いる一つの実施形態を説明する。バランス装置のコントローラは、傾斜角が基準方向を含む予め定められた第1範囲内にあるときには、反力トルクが予め定められた反力閾値以下となるようにフライホイールの回転速度を制御し、傾斜角が第1範囲外を超えた場合に、反力トルクが反力閾値以上で傾斜角を基準方向に戻す方向に生じるようにフライホイールの回転速度を変化させる。
【0011】
1個のフライホイールを有するバランス装置の場合、コントローラは、傾斜角が第1範囲外にある場合、傾斜方向と同じ回転方向に回転速度を増加させるようにフライホイールを制御する。フライホイールのそのような回転角速度(回転速度の変化)は、胴体の傾斜角を基準方向に戻す方向に作用する反力トルクを発生する。
【0012】
上記のバランス装置をバランス補助装置として用いる他の実施形態では、コントローラは、傾斜角が増大している場合に、反力トルクが反力閾値以上で傾斜角を基準方向に戻す方向に生じるようにフライホイールの回転速度を変化させ、傾斜角が減少している場合は反力トルクが反力閾値以下となるようにフライホイールの回転速度を制御する。
【0013】
前者の場合は、傾斜角の基準方向からのずれが大きくなった場合に、傾斜角を基準方向に戻す方向の反力トルクが胴体に加えられる。後者の場合は、胴体の傾斜角が増大している場合に、傾斜角を基準方向に戻す方向の反力トルクが胴体に加えられる。そのような動作によって、バランス装置は人のバランス能力を補助する。いずれの場合も、反力閾値は、人のバランスに影響を与えないような小さな値に予め設定される。反力閾値は実質的にゼロであることが好ましい。
【0014】
検出される傾斜角の範囲の条件と、傾斜角の変化方向の条件を組み合わせてフライホイールの回転速度を変更するように構成することも好適である。例えば、コントローラは、以下の3つの条件の下でフライホイールの回転速度を変化させることが好ましい。(条件1)傾斜角が第1範囲内にある場合、傾斜角の変化にかかわらずに反力トルクが反力閾値以下となるようにフライホイールの回転速度を制御する。(条件2)傾斜角が第1範囲外にあり、かつ、傾斜角が増大している場合、反力トルクが反力閾値以上で傾斜角を基準方向に戻す方向に生じるようにフライホイールの回転速度を変化させる。(条件3)傾斜角が第1範囲外にあり、かつ、傾斜角が減少している場合、反力トルクが反力閾値以下となるようにフライホイールの回転速度を変化させる。
【0015】
上記3つの条件の意味を説明する。傾斜角が第1範囲内にある場合、ユーザがバランスを維持しているので、反力トルクは必要ない(条件1)。傾斜角が減少しているということは、ユーザが自力でバランスを回復していることを示しているので、傾斜角が第1範囲外であっても反力トルクは必要ない(条件3)。傾斜角が第1範囲外であり、かつ、傾斜角が増大している場合だけ、ユーザがバランスを回復できない可能性が高いので、反力トルクによってバランス回復を補助する(条件2)。このように、検出される傾斜角の範囲の条件と傾斜角の変化方向の条件を組み合わせることによって、一層適切にバランス回復の補助が可能となる。
【0016】
本明細書が開示する新規な技術の一実施形態では、コントローラは、反力トルクが反力閾値以下となるようにフライホイールの回転速度を制御しながら、フライホイールの回転速度をゼロまで低下させることが好ましい。そのような構成のバランス装置は、胴体の傾斜角が鉛直に近い場合に、別言すればユーザがバランスを維持している場合に、フライホイールの回転速度をゼロまで低下させる。そのようなバランス装置は、ユーザがバランスを維持している間にフライホイールの回転が止まればジャイロ効果が生じることがなく、胴体がふらついたときに無用なジャイロトルクを与えることがない。また、フライホイールの回転速度をゼロまで低下させることによって、回転数の飽和を防止することができる。なお、ジャイロトルクとは、回転しているフライホイールの軸線を変化させることに起因して生じるトルクである。ジャイロトルクは、一定速度で回転しているフライホイールであっても生じ得る。
【0017】
コントローラは、フライホイールのメカニカルな摩擦抵抗によって回転速度をゼロまで低下させてもよい。そのようなバランス装置は、電力消費抑制することができる。
【0018】
上記のバランス装置をバランス能力向上の訓練装置として用いる一つの実施形態を説明する。コントローラは、傾斜角が基準方向を含む予め定められた第2範囲内にあるときには、反力トルクが傾斜角を増大させる方向に生じるようにフライホイールの回転速度を変化させる。またコントローラは、傾斜角が第2範囲の外側の第3範囲内にあるときには、反力トルクが反力閾値以下となるようにフライホイールの回転速度を制御する。
【0019】
上記のバランス装置は、胴体の向きが基準方向に近い場合、別言すればユーザがバランスを維持しているときに、胴体の傾斜角を増大させる方向の反力トルクを加える。バランス装置のユーザは、反力トルクに抗してバランスを維持しようと試みる。そのような動作を繰り返すことによって、ユーザのバランス能力が訓練される。
【0020】
さらに上記バランス装置のコントローラは、傾斜角が第3範囲よりも大きい場合に、反力トルクが反力閾値以上で傾斜角を基準方向に戻す方向に生じるようにフライホイールの回転速度を変化させることが好ましい。そのようなバランス装置は、訓練中であっても胴体が大きく傾いた場合にはユーザのバランス能力を補助し、ユーザの傾斜角を速やかに回復させることができる。
【0021】
コントローラは傾斜角が第3範囲内にあるときには、反力トルクが反力閾値以下となるようにフライホイールの回転速度を制御しながら、フライホイールの回転速度をゼロまで低下させることも好ましい。フライホイールの回転速度をゼロまで減じることで、無用なジャイロトルクの発生を抑制することができる。コントローラは、フライホイールのメカニカルな摩擦抵抗によって回転速度をゼロまで低下させてもよい。そのようなバランス装置は、消費電力を抑制できる。
【0022】
1個のフライホイールを有するバランス装置は、1軸回りの傾斜角の変化に対応することができる。軸線が非平行の2つのフライホイールを有するバランス装置は、2軸周りの傾斜角に対応することができる。特殊な相互関係で配置された3つのフライホイールを有するバランス装置は、胴体のヨー軸に交差する2軸回りの傾斜角の変化と、ヨー軸回りの胴体の旋回角の変化に対応することができる。「特殊は相互関係」とは、3個のフライホイールの夫々の軸線が互いに非平行であるとともに3本の軸線が一平面上に配置されていない関係に相当する。そのような特殊な相互関係を有するバランス装置は、胴体の傾斜角のみならず旋回角についてもユーザの能力を補助/訓練することができる。
【0023】
バランス装置の上記した機能は、典型的には、バランス装置のコントローラに実装されるプログラムによって実現されてよい。
【発明の効果】
【0024】
本明細書が開示する一つの新規な技術によれば、人のバランス能力を補助する装置、或いは、バランス能力向上のための訓練装置を提供することができる。特に、上記した所定の場合にフライホイールの回転速度をゼロにまで低下させるように構成したバランス装置は、無用なジャイロトルクをユーザに与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施例のバランス装置の模式的3面図である。
【図2】バランス装置のブロック図である。
【図3】コントローラのハードウエア構成を示す図である。
【図4】バランス補助装置としての動作を説明する模式図である。
【図5】バランス装置が実行する処理のフローチャートである。
【図6】バランス訓練装置としての動作を説明する模式図である。
【図7】第2実施例のバランス装置の模式的斜視図である。
【図8】第2実施例のバランス装置の模式的平面図である。
【図9】第2実施例のバランス装置の模式的部分側面図である。
【図10】第3実施例のバランス装置の模式的平面図である。
【実施例1】
【0026】
図面を参照して第1実施例のバランス装置10を説明する。バランス装置10は、胴体の傾斜角を鉛直方向に回復するユーザの動作を補助する。バランス装置10は、ユーザの胴体(腰)に取り付けるためのコルセット12とフライホイール20を備えている。フライホイール20は、バランス装置10をユーザHが装着したときにユーザHの背面に位置する。
【0027】
図1に、ユーザHが装着したときのバランス装置10の3面図を示す。図1(A)は正面図を示しており、図1(B)は側面図を示しており、図1(C)は平面図を示している。なお、図1(C)では、ユーザHを楕円で模式化して描いている。また、フライホイール20はユーザHの背面側に位置するため、図1(A)はユーザHの背面が描かれている。
【0028】
以後の説明で用いる座標系を説明する。ユーザHの前方がX軸に相当し、ユーザHの側方がY軸に相当し、X軸とY軸に直交する方向がZ軸に相当する。ロボット工学においては、そのようなX軸、Y軸、及びZ軸は、それぞれロール軸、ピッチ軸、及びヨー軸と呼ばれる。本明細書でも主に、ロール軸、ピッチ軸、及びヨー軸との呼称を用いる。ヨー軸は、胴体の長手方向に一致する。より具体的には、ヨー軸は、胴体の中心を通り胴体の長手方向に伸びる直線に相当する。
【0029】
コルセット12にはモータ14が取り付けられている。そのモータ14がフライホイール20を回転させる。なお、フライホイール20は、カバーに覆われている。フライホイール20は、ユーザHがバランス装置10を装着したときに、その回転軸線sがユーザHの胴体のヨー軸と交差するように配置されている。以下、回転軸線sを単に軸線sと称する。本実施例のバランス装置10の場合、フライホイール20の軸線sは、ユーザHのロール軸方向に沿って伸びる。
【0030】
なお、フライホイール20は、ユーザHがバランス装置10を装着したときに、その回転軸線sがヨー軸と非平行となるように配置されていればよい。そのような配置によって、バランス装置は、ヨー軸と交差する直線周りに反力トルクを発生することができ、傾斜角を補助することができる。
【0031】
さらにコルセット12には、コントローラ16とバッテリ17と傾斜角センサ18が内蔵されている。傾斜角センサ18は、基準方向に対するコルセット12の傾斜角、即ちユーザHの胴体の傾斜角を計測する。基準方向は、バランス装置10を所望の方向に向けておきながら、傾斜角センサ18が傾斜角ゼロを出力するように傾斜角センサ18をリセットすることによって定まる。以下では、バランス装置10をユーザが装着し、ユーザの胴体のヨー軸が鉛直方向に一致したときに、傾斜角センサ18をリセットする。即ち本実施例では、胴体のヨー軸が鉛直方向に一致している場合が傾斜角ゼロに相当する。別言すれば、傾斜角は、鉛直線とヨー軸との間の角度に相当する。コントローラ16は、傾斜角センサ18によって検出される傾斜角に基づいてフライホイール20の回転速度を制御する。バッテリ17は、コントローラ16、傾斜角センサ18、及びモータ14に電力を供給する。
【0032】
図2に、バランス装置10のブロック図を示す。コントローラ16は、詳細には、上位コントローラ16aとサーボコントローラ16bを含む。上位コントローラ16aは、傾斜角センサ18が出力する傾斜角θと、エンコーダ15によって計測されるモータ14の回転数(回転速度)に基づいて、所望の反力トルク「−T」を発生するようにモータ14への指令回転数n(rpm)をサーボコントローラ16bに出力する。ここで、反力トルク「−T」を発生するには、モータ14がトルクTでフライホイール20の回転を加速すればよい。モータ14への指令回転数nを変化させることによって、モータ14がトルクを発生する。モータ14がフライホイール20にトルクTを加えると、反力トルク「−T」がモータ14を介してユーザHに加わる。反力トルクについては後に詳しく説明する。サーボコントローラ16bは、モータ14の回転数が指令された回転数nに追従するようにモータ14をフィードバック制御する。サーボコントローラ16bは、回転数nと電流iの2重のフィードバックループでモータ14を制御する。
【0033】
図3にコントローラ16のハードウエア構成の一実施形態を示す。コントローラ16は、CPU31、メモリ32、DA変換器33、パルスカウンタ34、及び、RS232C回路35(シリアル通信回路)を備える。DA変換器33、パルスカウンタ34、及び、RS232C回路35は、PCIバスによってCPU31と接続されている。メモリ32には、CPU31が実行するプログラム、及び、反力閾値(後述)などのパラメータが記憶されている。DA変換器33は、サーボコントローラ16bへ回転数指令値を送信する。この実施例では、サーボコントローラ16bは、入出力がアナログ信号であるため、DA変換器33が、CPU31が算出した指令値のデジタル値をアナログ値に変換して出力する。パルスカウンタ34は、エンコーダ15が出力するパルスを係数する。エンコーダ15が出力するパルスが、モータ14の回転数(即ちフライホイールの回転数)に相当する。RS232C回路35は、傾斜センサ18が出力するデータを受信し、CPU31へ送る。良く知られているように、RS232Cは、米国のEIA(The Electric Industrial Alliance)が制定したシリアル通信の規格である。
【0034】
バランス装置10の動作概要を説明する。モータ14がフライホイール20の回転を加速(減速)すると、モータ14がフライホイール20に加えるトルクの反力トルクがユーザHに加わる。フライホイール20の軸線sはロール軸方向に伸びているので、反力トルクはロール軸回りに加わる。即ち、このバランス装置10は、フライホイール20の回転速度を変化させることによって、ユーザHにロール軸回りのトルク(フライホイール20の反力トルク)を加えることができる。バランス装置10は、フライホイール20の制御ルールを適宜に選択することによって、ユーザHの胴体のロール軸(X軸)回りの傾斜角を減少させる方向に反力トルクを加えることもできれば、傾斜角を増大させる方向に反力トルクを加えることもできる。前者の場合、バランス装置10はユーザの胴体のヨー軸を鉛直方向に戻すバランス補助装置として機能する。後者の場合、バランス装置10はユーザのバランス能力向上のための訓練装置として機能する。
【0035】
図4を参照して、バランス補助装置としてのバランス装置10の動作を説明する。図4は、ユーザHを模式的に線で表している。H1はユーザHの脚に相当し、H2は腰に相当し、H3及びH4は胴体に相当する。H4は、胴体のヨー軸(長手方向)が鉛直方向に沿っている場合を示しており、H3は、ヨー軸が鉛直方向から角度θだけ傾いている場合を示している。角度θが胴体の傾斜角θに相当する。
【0036】
符号「P1」は、ロール軸(X軸)周りの角度範囲を示している。第1範囲P1は、鉛直方向を含む。第1範囲P1は、ユーザHが自力でバランスを維持することができる角度範囲に設定される。第1範囲P1は、予め定められており、コントローラ16に記憶されている。第1範囲P1は、例えば鉛直から両側に2度づつ、トータルで4度に設定される。
【0037】
バランス装置10は、ユーザHの胴体の傾斜角θが第1範囲P1を超えた場合に、反力トルクが傾斜角θを鉛直に戻す方向に生じるようにフライホイール20の回転速度を制御する。なお、フライホイール20の慣性モーメントと角加速度を夫々符号Iw、dwで表すと、モータ14がフライホイール20に加えるトルクTは、T=Iw・dwで表される。モータ14が加えるトルクTの逆向きのトルクがユーザHに加わるので、図4では反力トルクは「−T」で表されている。図4に示すように、時計回りの角加速度dwが加わるとき、反時計回りの反力トルク「−T」が発生する。即ち、バランス装置10のコントローラ16は、モータがトルクTを出力するとき、反力トルク「−T」を発生することができる。
【0038】
傾斜角θに応じてモータ14に発生させるべきトルクTを決定する制御ルールは次の(数1)で与えられる。
【0039】
【数1】

【0040】
符号Kdは制御ゲインを表している。符号dθは、フライホイール20の回転速度を示している。(数1)を、フライホイール20の角加速度目標値dwを決定する制御ルールに変換すると、次の(数2)となる。
【0041】
【数2】

【0042】
コントローラ16は、(数2)で定まる角加速度目標値dwでフライホイール20の回転速度を変更する。
【0043】
(数1)と(数2)の制御ルールにおいて、条件1は、傾斜角θが第1範囲P1内にある場合を示している。コントローラ16は、条件1が成立するとき、角加速度dw=ゼロ、即ち、反力トルクがゼロとなるようにフライホイール20を制御する。条件2は、傾斜角θが第1範囲P1を超えた場合を示している。コントローラ16は、胴体の傾斜角速度dθに比例する大きさの反力トルク「−T=Kd・dθ」が生じるようにフライホイール20を制御する。反力トルク「−T」は前述したように、傾斜角θを鉛直に戻す方向に発生する。従って別言すれば、コントローラ16は、傾斜角θが第1範囲P1を超えた場合には、反力トルクが傾斜角θを鉛直方向に戻す方向に生じるようにフライホイールの回転速度を変化させる。なお、傾斜角速度dθは、センサ18によって得られる傾斜角θの時間差分から得られる。
【0044】
(数2)の制御ルールを採用した場合、バランス装置10のコントローラ16は、胴体の傾斜角θが第1範囲P1内にあるときには、反力トルクがゼロとなるようにフライホイール20の回転速度を制御する。他方、コントローラ16は、傾斜角θが第1範囲P1を超えた場合に、反力トルクが傾斜角θを鉛直方向に戻す方向に生じるようにフライホイール20の回転速度を変化させる。そのような制御ルールによって、バランス装置10は、ユーザ胴体のロール軸回りの傾斜角θを鉛直方向に回復するトルクを与える。
【0045】
(数2)の代替制御ルールを説明する。バランス装置10は、(数2)に代えて次の(数3)の制御ルールを採用してもよい。
【0046】
【数3】

【0047】
(数3)の制御ルールは、条件3が(数2)の場合と異なる。θ・dθ>0は、θ>0かつdθ>0、と、θ<0かつdθ<0を意味している。角度θの正負は、図4に示す座標系で定まる。条件3は、傾斜角θが増大していることを示している。別言すれば、条件3は、傾斜角θが倒れていくことを示している。即ち、(数3)の制御ルールを採用した場合、コントローラ16は、傾斜角θが増大している場合に、フライホイール20の回転速度変化によって生じる反力トルクが傾斜角θを鉛直方向に戻す方向に生じるようにフライホイール20の回転速度を変化させる。またコントローラ16は、傾斜角が減少している場合は、反力トルクがゼロとなるようにフライホイールの回転速度を制御する。
【0048】
(数3)の制御ルールを採用した場合、バランス装置10は、傾斜角θの大きさに関わらずに、傾斜角θが増大している場合に傾斜角θを鉛直に戻す方向の反力トルクを与える。
【0049】
(数2)のさらに他の代替制御ルールを説明する。バランス装置10は、(数2)に代えて次の(数4)の制御ルールを採用してもよい。
【0050】
【数4】

【0051】
(数4)の制御ルールにおける条件1と条件2は(数2)の場合と同じである。(数4)の制御ルールに基づくコントローラ16の処理を図5に示す。図5のフローチャートにおいて、傾斜角θと角加速度dwの正負の向きは、図4に示すロール軸(X軸)を基準とする。即ち、傾斜角θの正の向きは、図4の反時計回り方向に相当する。角加速度dwの正の向きも、反時計回り方向に相当する。
【0052】
コントローラ16は、傾斜角センサ18から、胴体の傾斜角θを取得する(S2)。コントローラ16は、傾斜角θが第1角度範囲P1内であるか否かを判定する(S4)。傾斜角θが第1角度範囲P1内であるとき(S4:YES)、コントローラ16は、フライホイール20の回転速度をゼロまで低下させる(S6)。(数4)と図5において、Tminは、反力閾値を示す。即ち、コントローラ16は、傾斜角θが第1範囲P1内にあるときには、フライホイール20の回転速度変化によって生じる反力トルクTが予め定められた反力閾値Tmin以下となるようにフライホイール20の回転速度を制御する。反力閾値Tminは、反力トルクがユーザに影響を与えないように小さな値に設定される。コントローラ16は、dw(絶対値)<(Tmin/Iw)の条件を満たしつつ、フライホイール20の回転速度を停止するように回転速度を制御することが好ましい。即ちバランス装置10は、傾斜角θが第1範囲P1内にあるとき、すなわち、ユーザが胴体のバランスを保っている間に、フライホイール20の回転速度をゼロまで下げる。フライホイール20の回転速度をゼロまで下げることによって、バランス装置10がユーザに不要なトルクを加えることがない。回転しているフライホイールの軸線の向きが変化することによって生じるジャイロトルクが、「不要なトルク」に相当する。
【0053】
他方、傾斜角θが第1角度範囲P1外であるとき(S4:NO)、コントローラ16は、傾斜角θの向きに応じて、フライホイール20の角加速度を制御する(S8)。傾斜角θ>0の場合(S8:YES)、コントローラ16は、正の角加速度でフライホイール20の回転速度を変化させる(S10)。傾斜角θ<0の場合(S8:NO)、コントローラ16は、負の角加速度でフライホイール20の回転速度を変化させる(S12)。図5のステップS10とS12では、条件を簡略化して示している。ステップS10とS12におけるdwの条件は、上記した条件2に相当することに留意されたい。即ち、ステップS10とS12では、反力トルクTの大きさが反力閾値Tminよりも大きくなるようにフライホイール20の角加速度dwを決定する。ステップS10とS12の処理は、傾斜角θが第1範囲P1を超えた場合に、反力トルクが反力閾値Tmin以上で傾斜角θを鉛直方向に戻す方向に生じるようにフライホイールの回転速度を変化させることに相当する。図5の処理は、コントローラ16に実装されたプログラムによって実現される。
【0054】
(数2)の制御ルールは、(数4)の制御ルールにおいてTmin=0の場合に相当する。また、(数4)の制御ルールで導入した反力閾値Tminは、(数3)の制御ルールに適用することも好適である。その場合、コントローラ16は、傾斜角θが増大していく場合に、反力トルクが反力閾値Tmin以上で傾斜角θを鉛直方向に戻す方向に生じるようにフライホイールの回転速度を変化させる。またコントローラ16は、傾斜角θが減少していく場合は反力トルクが反力閾値Tmin以下となるようにフライホイールの回転速度を制御する。特に、傾斜角θが減少していく場合、コントローラ16は、dw(絶対値)<(Tmin/Iw)の条件を満たしつつ、フライホイール20の回転速度を停止するように回転速度を制御することが好ましい。その場合の利点は、前述した通りである。
【0055】
(数2)のさらに他の代替制御ルールを説明する。バランス装置10は、(数2)に代えて、次の(数5)の制御ルールを採用してもよい。
【0056】
【数5】

【0057】
(数5)の制御ルールは、(数2)が表す傾斜角の範囲に依存した条件と、(数3)が示す傾斜角の変化方向に依存した条件を組み合わせている。条件1は、(数2)の制御ルールの場合と同じである。この制御ルールにおける条件1は、傾斜角が第1範囲P1内にある場合は、傾斜角θの変化方向にかかわらずに反力トルクが反力閾値以下となるようにフライホイールの回転速度を制御することを表している。傾斜角θが第1範囲P1内であれば、ユーザは自力でバランスを回復できる可能性が高いので、バランス装置10は、反力トルクを出力しない。
【0058】
条件5は、傾斜角θが第1範囲P1外にあり、かつ、傾斜角θが増大している場合、コントローラ16は、反力トルクが反力閾値Tmin以上で傾斜角θを鉛直方向に戻す方向に生じるようにフライホイール20の回転速度を変化させる。条件5は、ユーザが自力ではバランスを回復することができない可能性が高いことを示している。そのような場合は、バランス装置10が、バランスを回復するのを補助する反力トルクを発生する。
【0059】
傾斜角θが減少している場合、ユーザが自力でバランスを回復していることを示しているので、傾斜角θが第1範囲外であっても、バランス装置10は反力トルクを発生しない(条件6)。(数5)の制御ルールを採用するバランス装置10は、ユーザが自力ではバランスの回復が困難である可能性が高いときにだけ、反力トルクを出力する。
【0060】
バランス装置10は、モータ14とフライホイール20のメカニカルな摩擦抵抗によってフライホイール20の回転速度をゼロまで下げることも好適である。動力を使わずに回転速度をゼロまで下げることによって、電力消費を抑えることができる。
【0061】
次に、図6を参照して、バランス訓練装置としてのバランス装置10の動作を説明する。バランス訓練装置は、胴体の傾斜角θをユーザHが自力で鉛直付近に維持している間に、意図的に外乱トルクを与える。傾斜角θを増大させる方向の反力トルクが、「外乱トルク」に相当する。ユーザは、外乱トルクに抗して傾斜角θを回復しようと試みる。その試みが、バランス能力を向上させる訓練に相当する。
【0062】
図6における符号P2、P3、及びP4は、ロール軸回りの角度範囲を示している。第2範囲P2は、鉛直方向を含む。第2範囲P2は、ユーザHが自力で安定して立っていることのできる角度範囲に設定される。符号P3は、第2範囲P2の境界の外側に設定された角度範囲(第3範囲)を示している。符号P4は、第3範囲P3よりも傾斜角が大きい範囲(第4範囲)を示している。
【0063】
バランス訓練装置としてバランス装置10が実行する制御ルールを(数6)に示す。
【数6】

【0064】
ここで、「sgn(θ)」は、傾斜角θの正負を表す関数である。図6に示すように、傾斜角θが正値の場合、コントローラ16は、ロール軸(X軸)の負の方向(反時計回り)にフライホイール20を加速させる。その結果、反力トルクは時計回り、即ち、傾斜角θを増大させる方向となる。コントローラ16は、条件7が成立する場合、即ち、傾斜角θが第2範囲P2内にあるとき、反力トルクが反力閾値以上で傾斜角θを増大させる向きに生じるようにフライホイール20の回転速度を変化させる。そうすると、ユーザに外乱トルクが加えられ、傾斜角θが乱れる。ユーザは傾斜角θを鉛直方向に回復させようと試みる。その試みがバランス能力を向上させる訓練である。
【0065】
なお、条件7成立時の「sgn(θ)cos(θ)」の項は、一例であり、「sgn(θ)cos(θ)」に代えて、例えば、定数や傾斜角θを採用してもよい。
【0066】
条件8が成立する場合、即ち、傾斜角θが第2範囲の外側の第3範囲内にあるときには、コントローラ16は、反力トルクが反力閾値Tmin以下となるようにフライホイール20の回転速度を制御する。バランス装置10は不要な反力トルクをユーザに与えない。ユーザは、自らの力で傾斜角θを鉛直方向へ回復させようと試みる。
【0067】
条件8が成立する場合、コントローラ16は、dw(絶対値)<(Tmin/Iw)の条件を満たしつつ、フライホイール20の回転速度を停止するように回転速度を制御することが好ましい。フライホイール20の回転が停止すれば、ジャイロトルクが発生することがなく、不要なトルクがユーザに加わらない。さらに、メカニカルな摩擦抵抗によって回転速度を減じれば、消費電力を抑えることができる。
【0068】
条件9が成立する場合、即ち、傾斜角θが第3範囲を超えて大きくなった場合、コントローラ16は、反力トルクが反力閾値Tmin以上で傾斜角θを鉛直方向に戻す方向に生じるようにフライホイール20の回転速度を変化させる。即ち、バランス装置10は、傾斜角θが第3範囲を超えて大きくなった場合、バランス回復を補助する。
【0069】
(数6)の制御ルールにおいて反力閾値Tminをゼロに設定してもよい。(数6)の制御ルールよりもさらにきめ細かい代替制御ルールを(数7)に示す。
【0070】
【数7】

【0071】
条件10における「θ・dθ≧0」の条件は、傾斜角θが増大している場合を表す。即ち、傾斜角θが第2範囲P2内にあり、傾斜角θが増大している場合、バランス装置10は、傾斜角θを増大させる方向の反力トルク(外乱トルク)を発生する。なお、第2範囲P2は、胴体の傾斜角θが鉛直に近く、上体のバランスが安定する範囲に予め定められる。
【0072】
条件11が成立する場合、即ち、傾斜角θが第2範囲内で減少している場合(即ちユーザが傾斜角を鉛直に戻そうとしている場合)、及び、傾斜角θが第3範囲内にあるときには、バランス装置10は反力トルクを発生しない。
【0073】
条件12が成立する場合、即ち、傾斜角θが第4範囲P4内であり傾斜角θが増加している場合、バランス装置10は傾斜角θを鉛直方向に戻す方向の反力トルクを発生する。上記以外の場合(条件13)、バランス装置10は反力トルクを発生しない。(数7)の制御ルールを採用することによって、効果的なバランス訓練が可能となる。
【実施例2】
【0074】
次に、第2実施例のバランス装置200を説明する。図7は、ユーザHに装着されたバランス装置200の模式的斜視図を示す。バランス装置200は、3個のフライホイール20a、20b、及び20cを備える。3個のフライホイールは、コルセット12によってユーザに装着される。フライホイール20bはユーザHの後方に配置され、残りのフライホイールは、ユーザHの前方左右にそれぞれ配置される。後述するように、3個のフライホイールは、夫々のフライホイールの軸線が互いに非平行であるとともに3本の軸線が一平面上に位置しないように配置されている。そのように配置することによってバランス装置200は、3軸夫々の周りに独立に反力トルクを発生することができる。このバランス装置200は、ロール軸周りとピッチ軸周りの傾斜角の回復補助ができるだけなく、胴体のヨー軸回りにも所望のヨー角へ胴体を向ける補助を行うことができる。或いはそのようなバランス装置200は、ロール軸周りとピッチ軸周りの傾斜角のバランス訓練を提供するだけなく、胴体のヨー軸回りのバランス訓練も提供することができる。
【0075】
図8と図9を参照して、バランス装置200が発生することのできる反力トルクについて説明する。図8は、バランス装置200の模式的平面図である。第1実施例のバランス装置10と同様に、第2実施例のバランス装置200も、フライホイールを保持するコルセット12に傾斜角を計測するセンサ18とコントローラ16が内蔵されている。コルセット12には、モータ14a、14b、及び14cを介して3個のフライホイール20a、20b、20cが取り付けられている。図中の符号s1、s2、及びs3は、各フライホイールの回転軸線を示す。フライホイール20bはユーザHの後方に配置されている。残りのフライホイール20a、20cは、平面視において方位角αでロール軸(X軸)の両側に取り付けられている。方位角αは、XY平面におけるロール軸(X軸)と軸線の間の角度を意味する。平面視において、3本の回転軸線s1、s2、及びs3はユーザの胴体内の略中央で交差する。
【0076】
図9は、XZ平面におけるフライホイール20bの取り付け角度を示している。フライホイール20bは、XZ平面においてロール軸(X軸)から仰角βだけ下方に傾けて取り付けられている。他の2個のフライホイールも同様に仰角βで取り付けられている。即ち、3個のフライホイールは、夫々のフライホイールの軸線が互いに非平行であるとともに3本の軸線が一平面上に位置しないように配置されている。
【0077】
XYZ座標系における3本の回転軸線s1、s2、及びs3の向きは、次の(数8)で与えられる。なお、(数8)におけるs1、s2、及びs3は、回転軸線の向きを表す単位ベクトルである。
【0078】
【数8】

【0079】
R(α、β)は、ヨー軸(Z軸)周りの角度αの回転変換とピッチ軸(Y軸)周りの角度βの回転変化の積を意味する関数である。回転変換の関数は良く知られている。
【0080】
夫々のフライホイールが発生する反力トルクをT1、T2、及びT3とすると、それら反力トルクの合成反力トルクTdはTd=T1・s1+T2・s2+T3・s3で表される。ここでも、s1、s2、及びs3は上述した単位ベクトルである。発明者らは、方位角αと仰角βと各軸回り発生する反力トルクの関係を調べた。合成反力トルクTdをロール軸周りの分力トルクTx、ピッチ軸周りの分力トルクTy、及びヨー軸回りの分力トルクTzに分解して調査した。その結果、以下の知見を得た。
【0081】
ピッチ軸周りのトルクTyが最大となるとき、方位角αと仰角βに依存せずに、トルクTxとTyはゼロである。ヨー軸回りのトルクTzが最大となるとき、方位角αと仰角βに依存せずに、トルクTyはゼロである。このとき、トルクTxは、方位角αに依存する。方位角α=60度のとき、Txはほぼゼロである。ロール軸回りのトルクTxが最大となるとき、方位角αと仰角βに依存せずに、トルクTyはゼロである。このとき、トルクTzは方位角αと仰角βに依存する。仰角β=0度のとき、Tzはほぼゼロである。仰角βが増加すると、トルクTx、Tyは減少するが、トルクTzは増大する。
【0082】
上記の調査から、方位角α=60度を採用し、仰角βを可変とすることで、任意の軸回りに反力トルクを発生させることが可能であることが判明した。なお、図8と図9に示すバランス装置200は、方位角α=60度を採用している。
【実施例3】
【0083】
第3実施例のバランス装置300を図10に示す。バランス装置300は、第2実施例のバランス装置200の変形例である。図10のバランス装置300は、1個のフライホイール20bをコルセット12の後方(ユーザの後方)に配置し、残りの2個のフライホイール20a、20cを方位角α120度で配置している。図10のバランス装置300も、仰角βを可変とすることによって、任意の軸周りに反力トルクを発生させることができる。
【0084】
バランス装置200、300は、3個のフライホイール20a、20b、及び20cが発生する反力トルクの合成トルクが、第1実施例の1個のフライホイール20と同様の機能を果すように、各フライホイールの回転速度を制御する。即ち、このバランス装置200をバランス補助装置として用いる場合、バランス装置200、300は、所定の条件の下、合成トルクが反力閾値以上で傾斜角を基準方向に戻す向きに作用するように各フライホイールの回転速度を制御する。他の条件では、バランス装置200、300は、合成トルクが閾値以下となるように各フライホイールの回転速度を制御する。具体的な制御ルール(回転速度を変化させる条件は)、第1実施例の場合と同様でよい。このバランス装置200、300をバランス訓練装置として用いる場合も、第1実施例で示したバランス訓練装置の場合と同様である。
【0085】
実施例のバランス装置が有する他の技術的特徴を列挙する。
(1)平面視したときに、3個のフライホイールが略120度間隔で胴体の周囲に配置されている。
(2)3個のフライホイールの回転軸線が、ユーザがバランス装置を装着したときにユーザの胴体内部の略一点で交わるように3個のフライホイールが配置されている。
(3)コントローラは、胴体が傾いていくときの傾斜角速度が大きいほどフライホイールの回転角速度を大きくする。
【0086】
上記説明したバランス装置についての留意点を以下に述べる。発明者らが試験的に作成したバランス装置の緒元を示しておく。フライホイール20は、直径が概ね30cmであり、質量は概ね1.5kgである。モータ14は、ブラシレスモータを用いた。モータの出力は60Wであり、最大出力トルクは9Nmである。最大回転数は2000rpmである。ギア比は3:2である。そのようなバランス装置を用いて試験を行った結果、ユーザの傾斜角を回復する効果があることが確かめられた。
【0087】
第1実施例のバランス装置10では、軸線がロール軸方向を向くようにフライホイールが配置されている。バランス装置は、軸線がピッチ軸方向を向くようにフライホイールを配置してもよい。その場合は、胴体のピッチ軸周りの傾斜角に対して、バランス補助を提供することができる。或いは、そのようなバランス装置は、ピッチ軸周りのバランス訓練を提供することができる。
【0088】
バランス装置は、ピッチ軸とロール軸が形成する平面内で互いの回転軸線が交差する2つのフライホイールを有していてもよい。そのように配置された2個のフライホイールは、ピッチ軸とロール軸が形成する平面内で任意の方向の直線周りの反力トルクを発生することができる。即ち、そのような2個のフライホイールを有するバランス装置は、ピッチ軸周りとロール軸回りの傾斜角に対して補助を行うことができ、或いは訓練を提供することができる。
【0089】
傾斜角センサは、脚の各関節の角度を計測する角度センサと接地センサで代替することができる。接地している脚の各関節の角度から胴体の傾斜角を算出することができるからである。
【0090】
反力閾値Tminは、反力トルクがユーザに影響を与えないように小さな値に設定されればよい。反力閾値Tminは、実質的にゼロであることが好ましい。コントローラ16は、反力トルクが反力閾値Tmin(実質的にゼロとみなせる小さな値)以下となることを満たしながら、フライホイール20の回転速度を停止するように回転速度を制御することが好ましい。
【0091】
実施例のバランス装置は、フライホイールの回転速度を検知し、所望の反力トルクを得るために回転速度をフィードバックするフィードバック制御を構成している(例えば図2参照)。モータは、電流制御によって所望のトルクを出力するように制御することもできる。本明細書が開示するバランス装置は、回転速度フィードバックを採用せずに、電流フィードバック制御によって所望の反力トルクを得るように構成することも好適である。なお、フライホイールの角加速度と出力トルク、及び、モータへの供給電流は比例関係にあるため、所望の反力トルクを出力する観点では、電流フィードバック制御は回転速度フィードバックと等価であることに留意されたい。
【0092】
なお、回転速度フィードバックには、次の利点があることに留意されたい。回転速度フィードバックは、フライホイールの回転速度をゼロに維持する制御が可能である。回転速度フィードバックは、最大許容回転速度以下に抑える制御が可能である、
【0093】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0094】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0095】
10:バランス装置
12:コルセット
14:モータ
16:コントローラ
18:傾斜角センサ
20:フライホイール
200、300:バランス装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の胴体に装着されるバランス装置であり、
定められた基準方向に対する胴体の傾斜角を検出するセンサと、
人に装着されたときに、軸線がヨー軸と非平行となるように配置されている少なくとも一つのフライホイールと、
前記センサによって検出される前記傾斜角に基づいて前記フライホイールの回転速度を変更するコントローラと、
を備えていることを特徴とするバランス装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記傾斜角が前記基準方向を含む予め定められた第1範囲内にある場合には、前記フライホイールの前記回転速度の変化によって生じる反力トルクが予め定められた反力閾値以下となるように前記フライホイールの前記回転速度を制御し、
前記傾斜角が前記第1範囲外にある場合には、前記反力トルクが前記反力閾値以上で前記傾斜角を前記基準方向に戻す方向に生じるように前記フライホイールの前記回転速度を変化させることを特徴とする請求項1に記載のバランス装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記傾斜角が増大している場合に、前記フライホイールの前記回転速度の変化によって生じる前記反力トルクが前記反力閾値以上で前記傾斜角を前記基準方向に戻す方向に生じるように前記フライホイールの前記回転速度を変化させ、
前記傾斜角が減少している場合は前記反力トルクが前記反力閾値以下となるように前記フライホイールの前記回転速度を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のバランス装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記反力トルクが前記反力閾値以下となるように前記フライホイールの前記回転速度を制御しながら、前記フライホイールの前記回転速度をゼロまで低下させることを特徴とする請求項2又は3に記載のバランス装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記傾斜角が前記基準方向を含む予め定められた第2範囲内にあるときには、前記フライホイールの前記回転速度の変化によって生じる前記反力トルクが前記傾斜角を増大させる方向に生じるように前記フライホイールの前記回転速度を変化させ、
前記傾斜角が前記第2範囲の外側の第3範囲内にあるときには、前記反力トルクが前記反力閾値以下となるように前記フライホイールの前記回転速度を制御することを特徴とする請求項1に記載のバランス装置。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記傾斜角が前記第3範囲よりも大きい場合に、前記反力トルクが前記反力閾値以上で前記傾斜角を前記基準方向に戻す方向に生じるように前記フライホイールの前記回転速度を変化させることを特徴とする請求項5に記載のバランス装置。
【請求項7】
前記コントローラは前記傾斜角が前記第3範囲内にあるときには、前記反力トルクが前記反力閾値以下となるように前記フライホイールの前記回転速度を制御しながら、前記フライホイールの前記回転速度をゼロまで低下させることを特徴とする請求項5又は6に記載のバランス装置。
【請求項8】
3個のフライホイールを備えており、夫々の前記フライホイールの軸線が互いに非平行であるとともに3本の軸線が一平面上に位置しないように前記3個のフライホイールが配置されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のバランス装置。
【請求項9】
人の胴体の装着されたときに軸線がヨー軸と非平行となるように配置される少なくとも1個のフライホイールを有するバランス装置によって実行されるバランス補助方法であり、
定められた基準方向に対する前記胴体の傾斜角を計測するステップと、
前記傾斜角が前記基準方向を含む予め定められた第1範囲内にあるか否かを判定するステップと、
前記傾斜角が前記第1範囲内にある場合には前記フライホイールの回転速度の変化によって生じる反力トルクが予め定められた反力閾値以下となるように前記フライホイールの前記回転速度を制御し、前記傾斜角が前記第1範囲外にある場合には前記反力トルクが前記反力閾値以上で前記傾斜角を前記基準方向に戻す方向に生じるように前記フライホイールの前記回転速度を変化させるステップと、
を備えることを特徴とするバランス補助方法。
【請求項10】
人の胴体の装着されたときに軸線がヨー軸と非平行となるように配置される少なくとも1個のフライホイールを有するバランス装置によって実行されるバランス訓練方法であり、
定められた基準方向に対する前記胴体の傾斜角を計測するステップと、
前記傾斜角が前記基準方向を含む予め定められた第2範囲内にあるか否かを判定するステップと、
前記傾斜角が前記第2範囲内にある場合には前記フライホイールの回転速度の変化によって生じる反力トルクが前記傾斜角を増大させる方向に生じるように前記フライホイールの前記回転速度を変化させ、前記傾斜角が前記第2範囲外にある場合には前記反力トルクが前記反力閾値以下となるように前記フライホイールの前記回転速度を制御するステップと、
を備えることを特徴とするバランス訓練方法。
【請求項11】
人の胴体の装着されたときに軸線がヨー軸と非平行となるように配置される少なくとも1個のフライホイールを有するバランス装置によって実行されるプログラムであり、バランス装置のコントローラに、
定められた基準方向に対する前記胴体の傾斜角を計測するステップと、
前記傾斜角が前記基準方向を含む予め定められた第1範囲内にあるか否かを判定するステップと、
前記傾斜角が前記第1範囲内にある場合には前記フライホイールの回転速度の変化によって生じる反力トルクが予め定められた反力閾値以下となるように前記フライホイールの前記回転速度を制御し、前記傾斜角が前記第1範囲外にある場合には前記反力トルクが前記反力閾値以上で前記傾斜角を前記基準方向に戻す方向に生じるように前記フライホイールの前記回転速度を変化させるステップと、
を実行させるためのバランス補助用プログラム。
【請求項12】
人の胴体の装着されたときに軸線がヨー軸と非平行となるように配置される少なくとも1個のフライホイールを有するバランス装置によって実行されるプログラムであり、バランス装置のコントローラに、
定められた基準方向に対する前記胴体の傾斜角を計測するステップと、
前記傾斜角が前記基準方向を含む予め定められた第2範囲内にあるか否かを判定するステップと、
前記傾斜角が前記第2範囲内にある場合には前記フライホイールの回転速度の変化によって生じる反力トルクが前記傾斜角を増大させる方向に生じるように前記フライホイールの回転速度を変化させ、前記傾斜角が前記第2範囲外にある場合には前記反力トルクが前記反力閾値以下となるように前記フライホイールの前記回転速度を制御するステップと、
を実行させるためのバランス訓練用プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−125400(P2011−125400A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284387(P2009−284387)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)