説明

バランス訓練装置

【課題】足裏に特殊パターンの振動刺激を与えることでバランス感覚に関する感覚受容器及び神経系の機能回復を図るバランス訓練装置を提供する。
【解決手段】使用者の足を乗せる足置き台と、足置き台に設けられ、足裏位置決め部によって位置決めされた足裏の前後にそれぞれ振動を印加する前側振動子211及び後側振動子221を有する振動発生部と、振動発生部で生じる振動を制御する制御部250とからなり、制御部が、前側振動子及び後側振動子のそれぞれから使用者の足裏前後に与える振動刺激の大小関係を交互に変化させるように振動発生状態を切り替えるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊なパターンの振動を足裏に与えることでバランス感覚に関する感覚受容器及び神経系の機能回復を図るバランス訓練装置に関する。
【背景技術】
【0002】
足型に複数の超音波振動子を装着して、足裏のつぼを刺激して健康の維持及び増進を図る超音波足裏マッサージ器は従来から知られている。このような超音波足裏マッサージ器の一例として、例えば特許文献1に記載の足裏マッサージ器が開示されている。
【0003】
かかる特許文献1に記載の足裏マッサージ器は、筺体の上面に左右の足型を付けた傾斜面を形成し、この左右足型の前後にそれぞれ超音波振動子を備えている。また、筺体の上面に左側の足型の各超音波振動子を同時にオン・オフする第1のスイッチを備えると共に、右側の足型の各超音波振動子を同時にオン・オフする第2のスイッチを備え、更に、周波数、振幅及び発振回数を調整する第1、第2、第3のツマミを備えている。そして、筺体に装着した超音波振動子の上に足を乗せて、第1、第2、第3の調節ツマミを操作することにより、身体に超音波振動を与えて足裏のツボを刺激するようになっている。
【特許文献1】特開2000−135263号公報(2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の足裏マッサージ器によって解決できる課題、即ち、使用者の足裏をマッサージしてツボを刺激し、下半身及びその他の身体部位のこりをほぐしてリラックス効果を得たいという課題と異なる課題の解決が近年要望されている。この新たな課題は、近年、転倒によって骨折し、寝たきりや介護が必要になる高齢者が増えて社会問題化していることに起因しており、高齢者のバランス感覚や歩行能力の向上を図ってこのような社会問題を低減したいという課題である。
【0005】
かかる高齢者のバランス感覚や歩行能力を低減させる要因として、図28に見られるように、加齢に伴い体力は全体的に低下していくが、とりわけバランス能力が急激に低下している点が挙げられる。その理由としては、筋量の減少及びこれに伴う筋力の低下も考えられるが、それよりもこれらの筋肉に繋がる感覚受容器及び神経回路の機能低下が主な原因と考えられている。そして、バランス能力が失われると転倒により骨折したり寝たきりになったりする危険性が高まるため、バランス能力を回復することが重要である。
【0006】
なお、上述した特許文献1に記載の足裏マッサージ器は、単に足裏に振動を与えてマッサージを行うマッサージ装置であり、感覚受容器及び神経系の機能回復を図るものではない。また、この足裏マッサージ器は、足裏の左右片足毎に振動をオン・オフするマッサージ装置であるが、左右片足毎の振動では姿勢の変化は殆ど起こらず、感覚受容器及び神経系の機能回復の効果は後述する実施の形態の欄で詳細に説明するように見込めない。
【0007】
一方、近年、転倒予防に向け、フィットネスクラブなどに設置されたトレーニング機器を用いた筋力トレーニングが盛んに行われているが、この筋力トレーニングだけでは単に筋力を向上させるのに役立つだけで、バランス能力をつかさどる感覚受容器及び神経系を活性化してこれらの機能回復を実現して本発明特有の課題の根本的解決を図るには難しい。
【0008】
本発明の目的は、足裏に特殊パターンの振動刺激を与えることでバランス感覚に関する感覚受容器及び神経系の機能回復を図るバランス訓練装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明にかかるバランス訓練装置は、
使用者の足を乗せる足置き台と、
前記足置き台に設けられ、足裏の前後にそれぞれ振動を印加する前側振動子及び後側振動子を有する振動発生部と、
前記振動発生部で生じる振動を制御する制御部とからなり、
前記制御部が、前記前側振動子及び後側振動子のそれぞれから使用者の足裏前後に与える振動刺激の大小関係を交互に変化させるように振動発生状態を切り替えることを特徴としている。
【0010】
足裏の左右片足毎に振動をオン・オフするマッサージ装置による振動では、マッサージ装置に乗った使用者の姿勢の変化は殆ど起こらず、バランス感覚に関する感覚受容器及び神経系の機能回復の効果は見込めない。しかしながら、本発明のようなバランス訓練装置を用いることで、足裏前後への刺激が交互に変化する振動を介して足裏に刺激を与えることができる。
【0011】
即ち、振動刺激を足裏へ擬似荷重として与えることができる。通常、人間の姿勢制御において、荷重により生じる足裏の圧分布を検出することは非常に重要であり、身体が前傾後傾した場合など、足裏の圧分布が生じたときに、この圧力差分を算出することでバランスを保持していることが知られている。従って、振動による擬似荷重により足裏への圧分布を意図的に作ることで、姿勢が変化していることを錯覚させ、それを戻す方向への筋の活動を促すことができる。これを繰り返すことにより、鈍っていた感覚器の機能を向上させることができる。更に、姿勢変化の錯覚から筋活動までを促すことができるので、バランスを保つための神経回路をも働かせ、その神経回路の促通性を向上させることができる。
【0012】
このように足裏前後への刺激の差分が足裏前後に交互に作用することで、バランス感覚に関する感覚受容器及びこれに至る神経系の機能回復を図ることができる。
【0013】
また、このような足裏の感覚受容器の認識力向上とその反応を伝える神経回路の促通性向上の効果に加えて、バランス訓練装置使用中に使用者の姿勢が常に変化することで、筋活動による下肢筋の訓練も同時に行うことができる。
【0014】
なお、立位状態にある人間の足の左右方向への姿勢変化が生じても、人間の骨格の構造上これに十分耐えることができるが、足の前後方向への姿勢変化が生じた場合、これを骨格で支えることはできず、足首の筋肉だけで姿勢変化に対応しなければならないので、このような足裏左右ではなく足裏前後に交互に大きい刺激を積極的に与える意義は大きい。
【0015】
また、本発明の請求項2に記載のバランス訓練装置は、請求項1に記載のバランス訓練装置において、
前記制御部が、前記使用者の足裏前後に与える振動発生部からの振動刺激の大小関係の切り替え時間を変化させるようにしたことを特徴としている。
【0016】
切り替え時間を徐々に長くしたり短くしたり、突然変化させたりするなど切り替え時間のタイミングを変えることで、使用者のバランス感覚に関する感覚受容器及び神経系が振動刺激に対して順化するのを防止する。
【0017】
また、本発明の請求項3に記載の浴槽装置は、請求項1又は請求項2に記載のバランス訓練装置において、
前記振動発生部が足裏前後に与える刺激の交互の切り替えは、振動の強さをなす振動の振幅又は周波数の少なくとも何れか一つを前記制御部により変化させて行われることを特徴としている。
【0018】
振動の振幅又は周波数の少なくとも何れか一つを変化させることで、使用者のバランス感覚に関する感覚受容器及び神経系が振動刺激に対して順化するのを防止する。
【0019】
また、本発明の請求項4に記載のバランス訓練装置は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載のバランス訓練装置において、
前記前側振動子及び後側振動子を左右の足裏前後にそれぞれ対応するように少なくとも合計4個設けたことを特徴としている。
【0020】
左右の足裏前後にこのような振動子がそれぞれ独立して接することで、足裏前後への刺激の大小が交互に変化する刺激を左右の足裏により確実に与えることができる。
【0021】
また、本発明の請求項5に記載のバランス訓練装置は、請求項4に記載のバランス訓練装置において、
前記各振動子が発生する振動のうち最も強い振動が前記バランス訓練装置に乗った使用者の体軸周りに右回転するように変化するか、左回転するように変化するように各振動子の振動の大きさを前記制御部で制御することを特徴としている。
【0022】
このような振動刺激を使用者の左右の足裏前後に与えることで、使用者の体軸回りの回転に対応する筋肉を鍛えることができ、重心が体軸回りに回転した場合にもふらついたり転倒したりしないようにする。
【0023】
具体的には、回転することにより、股関節までの運動をさせることができ、それによって、足関節周りの筋肉だけでなく、股関節周りの筋肉を訓練することが可能である。
【0024】
また、本発明の請求項6に記載のバランス訓練装置は、請求項1乃至請求項5の何れかに記載のバランス訓練装置において、
前記前側振動子と後側振動子の間に当該前側振動子の振動が後側振動子に伝わるのを抑制しかつ後側振動子の振動が前側振動子に伝わるのを抑制する防振手段を備えたことを特徴としている。
【0025】
このような防振手段を備えることで、足裏前後に伝わる振動が互いに干渉しないようにし、これによって足裏前後に伝わるそれぞれの振動刺激を分離しつつ、足裏前後がこれらの刺激を交互に確実に受けるようにし、バランス感覚の向上をより効率的に達成する。
【0026】
また、本発明の請求項7に記載のバランス訓練装置は、請求項1乃至請求項6の何れかに記載のバランス訓練装置において、
使用者の足裏を足置き台上面の所定位置に位置決めする足裏位置決め手段を備えたことを特徴としている。
【0027】
足の位置決め手段を備えているので、確実に足の位置を決めることができ、前用振動子と後用振動子の振動をそれぞれ足裏の前と後に確実に伝えることができる。これによって、足裏の前後に確実に圧分布を発生させることができるので、バランス訓練を効果的に行うことができる。
【0028】
また、本発明の請求項8に記載のバランス訓練装置は、請求項1乃至請求項7の何れかに記載のバランス訓練装置において、
前記前用振動子及び後用振動子を、使用者の足裏の前後の位置に調整する位置調整手段を備えたことを特徴としている。
【0029】
足置き台に適当に立った状態でも、振動子の位置を調整して、足裏の前後に当てるようにすることができるので、足裏の前後に確実に振動を与えることができる。
【0030】
また、足の大きい人や小さい人でも、足の大きさに合った位置に振動子の位置を調整できるので、どのような体格の人が使っても、足裏の前後に確実に振動を与えることができる。
【0031】
また、本発明の請求項9に記載のバランス訓練装置は、請求項1乃至請求項8の何れかに記載のバランス訓練装置において、
前記足置き台には、使用者の立つ方向を指示する方向指示手段をそなえたことを特徴としている。
【0032】
このような使用者が立つ方向を指示する方向指示手段を備えていることで、前用振動子及び後用振動子に足裏の前後が来る方向に使用者を確実に立たせることできて、足裏の前後に振動を与えることが可能となる。
【0033】
また、本発明の請求項10に記載のバランス訓練装置は、請求項1乃至請求項9の何れかに記載のバランス訓練装置において、
前記前用振動子及び後用振動子には、それぞれ振動伝達板を備えたことを特徴としている。
【0034】
振動子の振動を振動伝達板に伝え、更に振動伝達板から足裏に伝えることができるので、振動伝達板の形状を自由に変えつつ足裏前側の領域全体に振動を与えるなど、足裏前後への振動の伝達を広範囲に広げることができる。
【0035】
また、少ない振動子で左右両方に振動を効率的に与えることもできるようになる。また、足裏前側の振動伝達板と足裏後側の振動伝達板があるので、足裏の前後に確実に振動を与えることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によると、足裏に特殊パターンの振動刺激を与えることでバランス感覚に関する感覚受容器及び神経系の機能回復を図るバランス訓練装置を提供することができる。
【0037】
より具体的には、本発明のようなバランス訓練装置を用いることで、足裏前後への刺激が交互に変化する振動を介して足裏に刺激を与えることができる。即ち、足裏前後への刺激の差分が足裏前後に交互に作用することで、バランス感覚に関する感覚受容器及びこれに至る神経系の機能回復を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の第1の実施形態にかかるバランス訓練装置について説明する。本発明の第1の実施形態にかかるバランス訓練装置1は、図1、図2及び図4に示すように、家庭内で使用するヘルスメーター(体重計)と同等の形状を有する足置き台100と、それぞれが振動伝達板212,222を介して使用者の足裏前後に独立して振動を伝達する前側振動子211及び後側振動子221からなる振動発生部200と、振動発生部200の前側振動子211及び後側振動子221からの振動が使用者の足裏前後に効率良く伝わるように左右の足裏を位置決めする足裏位置決め部311,312を備えている。
【0039】
足置き台100は、バランス訓練装置1の使用者の体重に十分耐える強度を有する樹脂等でできており、その上面には後述する前側振動子211と後側振動子221を収容する凹み部111,121(図2参照)と、各振動子211,221に連結された振動伝達板212,222を足置き台100との間で一定の隙間を確保しながら足置き台上面とほぼ面一に保持する凹み部112,122が形成されている。
【0040】
また、足置き台上面の後側振動子221の近傍には、これを挟むようにバランス訓練装置1の足裏位置決め部311,312が備わっている。足裏位置決め部311,312はそれぞれ、図2に示すように、使用者の踵の外郭にほぼ一致する踵当て部を有した凸条の突起部からなり、足置き台上面に突出形成されている。
【0041】
また、振動発生部200は、足裏位置決め部311,312に位置決めされた使用者の足裏間の前後に配置され、それぞれが10Hz〜200Hzの周波数を発生させるトランスデューサからなる前側振動子211及び後側振動子221からなる。そして、これら振動子211,221に振動伝達板212,222がねじ等の適当な締結具によってそれぞれ連結されている。なお、振動子211,221としてトランスデューサを使用することには限定されず、人間が反応するといわれる10Hz〜200Hzの周波数を発生させる振動モータなどを用いても良い。なお、ここで言うトランスデューサとは、電気−機械振動変換器のことである。
【0042】
振動伝達板212,222は、例えば一定の厚さを有した金属板でできており、その両端部は足裏位置決め部311,312によって位置決めされた使用者の左右足裏の前後所定位置に対応する長さを有している。
【0043】
なお、ここでいう足裏の前側とは、図4に示すように、足裏の指及び指の付け根並びにその近傍領域を指し、足裏の後側とは、足裏の踵部及びその近傍領域を指す。より具体的には足裏の前側と後側で健常な成人の歩行時に圧力分布を構成する各領域をいう。
【0044】
足置き台内部には、図3に示すように、前側振動子211及び後側振動子221に所定の周期のパルスを伝達するパルス発生器240と、前側振動子211と後側振動子221を所定のパターンで振動制御する制御部250を備え、パルス発生器240に接続された外部からの交流電源又は足置き台内部に収容されたバッテリーなどの直流電源を介して振動発生部200を振動させるようになっている。
【0045】
制御部250は、前側振動子211の振動の強さと後側振動子221の振動の強さを交互に切り替えるようになっている。具体的には、図5に示すように、予め決まった秒数ごとに前側振動子211を作動すると共に後側振動子221を非作動とする状態と、前側振動子211を非作動とすると共に後側振動子221を作動する状態を交互に繰り返し、前側振動子211と後側振動子221から足裏の前後に交互に振動を伝達し、これら交互に伝達する振動から足裏前後が受ける刺激の差分を足裏前後で交互に変化させるようになっている。
【0046】
また、足置き台100の上面又は側面には、図1乃至図4では図示しないが、バランス訓練装置1を作動させるための電源スイッチや、前側振動子211及び後側振動子221で交互に発生する振動の周期や大きさを調整する調整ノブが備わっている。なお、このような電源スイッチや調整ノブを足置き台自体に備える代わりに、使用者が手に持ったまま操作可能とする操作用リモコンを介してバランス訓練装置を立ったままの姿勢で操作できるようにしても良い。
【0047】
続いて、このような構成を有するバランス訓練装置1の実際の使用方法と作用について説明する。使用者は最初に足裏位置決め部311,312に足の踵を当てながらバランス訓練装置1に乗る。この際、図2に示す足裏位置決め部311,312に左右の足の踵を当てるだけで前側振動子211の振動伝達板212の両側端部を足裏の前側に合致させ、後側振動子221の振動伝達板222の両側端部を足裏後側に合致させることができる。
【0048】
次いで、バランス訓練装置1のスイッチを入れ、バランス訓練を開始する。これによって、パルス発生器240(図3参照)によって発生したパルスが制御部250によって前側振動子211及び後側振動子221に交互に伝達される。
【0049】
そして、制御部250の制御によって、図5に示すように、前側振動子211と後側振動子221が所定の周期で交互に振動する。なお、本実施形態の場合、同図に示すように、3秒ごとに前側振動子211と後側振動子221が交互に振動するようになっているが、必ずしもこの時間に限定されるものではない。
【0050】
前側振動子211と後側振動子221をこのように交互に振動させることによって、前側の振動伝達板212と後側の振動伝達板222が3秒ごとに交互に振動する。その結果、前側の振動伝達板212の両側端部に接した使用者の足裏前側と後側の振動伝達板222の両側端部に接した足裏後側が、前側振動子211及び後側振動子221からの振動刺激を3秒ごとに交互に受ける。
【0051】
足裏前後がこのような各振動子211,221からの交互の振動刺激を受けることによって、使用者のバランス感覚に関する感覚受容器及びこれに至る神経系の機能回復を図ることができ、バランス感覚向上の訓練を効率良く行うことが可能となる。
【0052】
ここで、本発明にかかるバランス訓練装置1によって使用者の足裏前後が交互に刺激を受けることでバランス感覚を向上させる理由について詳細に説明する。バランス能力とは、図29に示すように外的情報を感覚器(前庭系、視覚、体性感覚)を通じて取り込み、中枢神経回路内で情報を統合し、最終的に身体の姿勢を最適な状態に保持する為に筋肉を駆動させる一連の機能を総称して記述している。ここで、体性感覚が備える機能は、深部受容器と皮膚受容器の2つに分類できる。なお、深部受容器は筋紡錘やゴルジ腱器官など筋肉の張力などの動きを検知してこれに反応し、筋の張力を均等に保っている。一方、皮膚受容器に関しては足底の圧を感知するパチニ小体などが大きく関係している。バランス能力に関しては、特に、身体が前傾後傾した場合に発生する足底の圧力差分を算出することでバランスを保持することが知られている。
【0053】
このように足裏の圧受容器はバランス能力に大きく関係している。そして、高齢者はこの圧受容器の感度が鈍くなり、自分の姿勢がどの状態にあるのかを正確に認識しづらくなると言われている。
【0054】
続いて、足裏の圧受容器についてより詳細に説明する。バランス能力に関して足裏の圧受容器は非常に敏感である。具体的には、図30に示すように、足底に対して前部、後部、右足、左足の4つの方向から振動刺激を与えると、その振動刺激に対して圧受容器が反応する。足裏前部(拇指球)のみに振動刺激を与えると感覚受容器は重心が前部に傾いていると錯覚する。その傾きを検出し姿勢の安定性をはかるために身体が無意識のうちに後に倒れるようにフィードバックされる。同様に、後部、右足、左足に刺激を与えるとそれぞれの刺激に対し傾きを検出し、この振動刺激に対して負のフィードバック(これらの刺激を打ち消す方向への姿勢変化)を行う反応を示す。
【0055】
更に、人の立位姿勢における重心動揺を考えた場合、図31に示すように前額面から観察される両足からなる2支点の側方動揺よりも、矢状面から観察される足関節1支点からの縦方動揺が大きく、また、足関節は1軸性の蝶番関節であり、その構造上足関節の側方への可動は殆ど行われず、主に背屈及び底屈の機能を有している。その結果、立位状態にある人間の足の左右方向への姿勢変化が生じても、人間の骨格の構造上これに十分耐えることができるが、足の前後方向への姿勢変化が生じた場合、これを骨格で支えることはできず、足首の筋肉だけで姿勢変化に対応しなければならない。
【0056】
従って、バランス能力に伴う感覚受容器の機能回復と神経系の賦活化を目的とした訓練を考えた場合、これら立位支点や足関節の特性から、図31(a)及び図31(b)に示すように、矢状面から観察される縦方向(前後)への活動を誘発する刺激を与えると動揺が大きくなるため、訓練の効果も大きくなると考えられる。また、前後方向への重心の移動が多いということは、その分重心が安定しなくなるため、転倒する危険性も高く、前後方向の圧分布の認識力が重要であるといえる。
【0057】
従って、転倒やこれに伴う骨折を未然に防ぐために、足裏の圧受容器に着目して本発明のように足裏前後が前側振動子と後側振動子から受ける刺激の差分を足裏前後で交互に変化させて圧分布を与えることで、圧受容器の機能回復を図ると共にその反応を伝える神経系の促通性を高めるとバランス感覚の維持や向上を図ることが可能であると本出願人は思い至った。
【0058】
そのため、本発明にかかるバランス訓練装置は、従来の足裏振動マッサージ器のように左右の足裏に交互に振動を伝達するものとは本質的に異なり、これら従来の足裏振動マッサージ器が有さない効果、即ち、前後方向で圧分布を認識できる程度まで足裏の前後に交互に刺激の状態を変えることで足裏前後に立位状態での姿勢変化時に生じる擬似荷重を交互に与えるようになり、バランス能力に伴う感覚受容器の機能回復と神経回路(フィードバック機構)の賦活化を図ることを可能としている。
【0059】
以上の説明から明らかなように、本発明の第1の実施形態におけるバランス訓練装置1は、使用者を立位状態で乗せる足置き台100と、足置き台上面に備わり、使用者の足裏を足置き台上面の所定位置に位置決めする足裏位置決め部311,312と、足置き台100に設けられ、足裏位置決め部311,312によって位置決めされた足裏の前後にそれぞれ対応して振動を印加する前側振動子211及び後側振動子221を有する振動発生部200を備え、振動伝達板211,222を介して前側振動子211及び後側振動子221のそれぞれから足裏前後が受ける振動刺激の大小関係を交互に変化するように振動発生状態を切り替えるようになったことで、足裏前後に交互に異なる大きさの刺激を与え、これによって使用者のバランス感覚を向上させることができる。
【0060】
特に高齢者の場合、例えばバス乗車中や路面凍結時に誤って転倒して大怪我をすることがあるので、このようなバランス訓練装置を用いることでバランス感覚を無理なく向上させることができるので、そのメリットは大きい。
【0061】
なお、上述の実施形態において、図6に示すように、前側振動子211と後側振動子221の振動切り替え時に両振動子211,221が全く振動しない時間、即ち、足裏前後への無刺激時間を設けるようにしても良い。
【0062】
このように切り替え時に無刺激状態を積極的に設けることで、かかる無刺激状態により足裏への刺激を切り替えるごとにリセットできるので、刺激の無い状態も使用者の神経伝達回路及び中枢神経への刺激となり、これによって圧受容器がより敏感に反応すると共に姿勢の変化を大きくし、バランス感覚向上のトレーニング効果が大きくなる。
【0063】
また、このような無刺激状態を設けることで、使用者の神経伝達回路をリセットして、再度刺激を受けたときに新たな刺激が神経伝達回路に効率的に伝達するようにし、順化(使用者の神経伝達回路や中枢神経が同じように繰り返す振動刺激に慣れてしまうこと)を防止し、バランス感覚向上のトレーニング効果が低下しないようにする。
【0064】
また、上述の実施形態において、図7に示すように、前側振動子211と後側振動子221の振動切り替え時に両振動子211,221が共に振動する時間、即ち、足裏前後への振動刺激切り替え時に足裏前後を同時に刺激する時間を設けるようにしても良い。
【0065】
このように足裏前後への振動刺激の切り替え時に振動刺激のオーバーラップ状態を積極的に設けることで、使用者の姿勢を後ろに反った姿勢からいきなり前のめり姿勢にすることなく、若干後ろに反った姿勢から中立姿勢を経て若干前のめり姿勢になるようにゆっくりと姿勢変化させることができる。これにより、使用者が急激な姿勢変化に驚くことなくバランス感覚向上の訓練を行うことができる。
【0066】
なお、前用振動伝達板の色と後用振動伝達板の色を例えばそれぞれ青と赤などに変えて、立つ方向を指示しても良い。
【0067】
また、上述した足裏位置決め部の変形例として、図8に示すように、左右の足裏の両側部に対応する足裏側方位置決め用突起321〜324を前側振動伝達板と後側の振動伝達板との間に設けた形態の足裏位置決め部としても良い。このような足裏側方位置決め用突起321〜324を設けることで、使用者の足裏の位置及び向きを各振動伝達板212,222に対して最適な状態に位置決めすることができ、前側の振動伝達板212の両端部及び後側の振動伝達板222の両端部から使用者の足裏前後の適所に振動を伝達することができるようになる。
【0068】
また、足裏位置決め部の更なる変形例として、図9に示すように、足置き台上面における左右の足の土踏まずに対応する位置に足裏位置決め部331,332を設けた形態としても良い。このような足裏位置決め部を設けることで、足裏の位置決めと同時に土踏まずを足裏位置決め部331,332で押圧して本発明の主な目的であるバランス感覚の向上の他にマッサージ効果を使用者に与えることができる。
【0069】
また、足裏位置決め部の更に別の変形例として、図10に示すように、使用者の左右の足裏形状に対応する足形状の凹み部341,342を足置き台上面に設けた形態の足裏位置決め部としても良い。このような凹み部341,342で足裏位置決め部を形成することで、使用者が例えば視覚障害者の場合であっても、バランス訓練装置の適所に足裏を位置決めすることが簡単にできるようになる。なお、このような凹み部341,342を設ける代わりに使用者の足形に相当するシールを足置き台上面に貼布してこの足裏位置決め部を形成しても良い。
【0070】
続いて、上述した第1の実施形態の第1変形例にかかるバランス訓練装置1Aについて説明する。なお、この第1変形例にかかるバランス訓練装置1Aの基本的構成は、制御部250の制御パターンを除いて第1の実施形態と同様であるので、共通する構成についての説明を省略する。なお、図11の左側の足型における図形のハッチング部分はこの第1変形例にかかるバランス訓練装置1Aによって刺激を受ける足裏前後の領域を示したものであり、図5に示す第1の実施形態の場合に対応して示したものである。
【0071】
この第1変形例にかかるバランス訓練装置1Aは、図11に示すように、制御部250による前側振動子211と後側振動子221の振動パターンに特徴を有している。
【0072】
具体的には、図11に示すように、前側振動子211の振動時間と振動停止時間(図中上段)及び後側振動子221の振動時間と振動停止時間(図中下段)が装置使用開始からの経過時間に応じて変化するようになっている。
【0073】
即ち、図11においては、前側振動子211及び後側振動子221の振動時間と振動停止時間が共に装置使用開始からの経過時間に応じて長くなっている。しかしながら、これとは異なり、元々長く設定された前側振動子211及び後側振動子221の振動時間と振動停止時間が共に装置使用開始からの経過時間に応じて短くなるようにしても良い。即ち、前側振動子211と後側振動子221の振動時間と振動停止時間が装置使用開始からの経過時間に応じて徐々に長くなることと徐々に短くなることを適宜繰り返せば良い。
【0074】
また、図12に示すように、前側振動子211と後側振動子221の振動時間と振動停止時間が装置使用開始からの経過時間に応じて常に不規則に変化するようにしても良い。
【0075】
制御部250がこのような制御パターンで前側振動子211と後側振動子221の振動及び振動停止を制御することで、使用者の刺激に対する順化(同じ刺激を受け続けることによりその刺激に慣れてしまうこと)が生じてバランス感覚向上のトレーニングにならなくなるのを防止することができる。
【0076】
続いて、上述した第1の実施形態の第2変形例にかかるバランス訓練装置1Bについて説明する。この第2変形例にかかるバランス訓練装置1Bは、第1の実施形態及びその第1変形例にかかるバランス訓練装置1,1Aと関連しており、制御部250による前側振動子211と後側振動子221の振動パターンに特徴を有している。従って、第1の実施形態及びその第1変形例と共通する基本的構成は図1と同様であるので、この共通する構成についての説明を省略する。
【0077】
この第2変形例にかかるバランス訓練装置1Bの前側振動子211と後側振動子221の具体的な振動パターンは、図13に示すように、装置使用開始後0秒から4秒においては前側振動子211が振動強度のレベル3、後側振動子221が振動強度のレベル1で振動する。そして、装置使用開始後4秒から8秒においては、この変動レベルが反転して後側振動子221の振動レベルが前側振動子211の振動レベルよりも大きくなり、装置使用開始後8秒から15秒においては前側振動子211が振動レベル5で振動し、後側振動子221が振動レベル1で振動する。
【0078】
このように装置開始からの経過時間に応じて異なる振動レベルの振動が前側振動子211と後側振動子221から生ずるように制御部250が制御することで、各振動子211,221を介して振動伝達板212,222から受ける刺激が足裏前後で交互に変化し、刺激に対する順化を防止することができる。
【0079】
続いて、上述した第1の実施形態の第3変形例にかかるバランス訓練装置1Cについて説明する。この第3変形例にかかるバランス訓練装置1Cは、図14に示すように、前側振動子211の振動する周波数と後側振動子221の振動する周波数を常に異ならしめることで、前側振動子211を介して振動伝達板212から使用者の足裏前後が受ける振動刺激の強さと後側振動子221を介して振動伝達板222から使用者の足裏後側が受ける振動刺激の強さを交互に変えるようになっている。このような振動パターンの制御によっても上述した効果と同等の効果を発揮する。即ち、装置使用中に使用者の足裏の前後への刺激が交互に変化する振動刺激を与えることができ、バランス感覚に関する感覚受容器及びこれに至る神経系の機能回復を図ることができる。
【0080】
なお、以上説明した様々な実施形態から明らかなように、各振動子211,221から振動伝達板212,222を介して使用者の足裏の受ける刺激の強さは各振動子211,221の振動の振幅又は周波数の大きさで規定され、この何れを利用しても本発明の作用を発揮することが可能である。
【0081】
続いて、上述した第1の実施形態の第4変形例にかかるバランス訓練装置1Dについて説明する。この第4変形例にかかるバランス訓練装置1Dは、使用者が装置使用中に掴まる手すり150を上述したバランス訓練装置に備えるとともにこの手すり150に装置操作用の操作部160を備えている。具体的には、このバランス訓練装置1Dには、図15に示すように、スチールパイプ又はアルミパイプからなり、正面視でコの字状に折り曲げられ側面視でL字状に折り曲げられた手すり150が備わっている。なお、手すり150は、両下端部が足置き台の両側面に固定され、足置き台500の前方部分近傍に補強用の連結部155を備えている。なお、図15においては説明の都合上、手すり150を図18に示す第2の実施形態に係るバランス訓練装置2に取り付けている。
【0082】
なお、この手すり150の上部両端部には使用者が装置使用中に掴むことができるグリップ部165が備わっている。また、両クリップ部165の間には表示部161及び操作ボタン162を備えた操作部160が取り付けられている。
【0083】
そして、使用者は操作部160の操作ボタン162により上述した第1の実施形態及びその各種変形例にかかる動作モードを使用者の好みに応じて選択できるようになっており、かつこの動作モード及び装置使用開始からの経過時間などを装置使用中に表示部161を介して常に確認できるようになっている。
【0084】
また、使用者が上述した第1の実施形態の操作モードを選択した場合、装置使用中であっても使用者は操作部160の操作ボタン162を操作することで、図16に示すように前側振動子211の振動時間t1及び後側振動子221の振動時間t2を適宜変更することが可能となっている。併せて、装置使用中であっても図17に示すように前側振動子211の振動レベル(振動の振幅)及び後側振動子221の振動レベル(振動の振幅)を適宜変更することも可能となっている。
【0085】
以上のような操作部付きの手すり150の備わったバランス訓練装置1Dを使用することによって、たとえば高齢者であっても手すりに掴まったままバランス訓練装置を使用することで、身体に負担をかけることなくバランス感覚向上の訓練を行うことができるようになる。また、使用者の能力や体調に応じて時間、強度、周波数を変更でき、安全かつ効果的なトレーニングを行うことができるようになる。
【0086】
また、この手すり150や操作部160は使用者がバランス訓練装置上に立つ方向を明確に指示する方向指示手段として役目を果たし、この手摺りがあることで、使用者の立つ方向を指示することができる。即ち、このような立つ方向を指示する方向指示手段を備えていることで、前用振動子及び後用振動子に足裏の前後が合致する方向に使用者を立たせることができて、足裏の前後に振動を確実に与えることが可能となる。なお、このような手すり150や操作部160の代わりに足置き台上面に前と後を明記しておいたり、矢印を入れておいたりする方向指示手段を設けても良い。
【0087】
また、上述の実施形態では操作部160を手すり150に設けたが、操作部が手すりに設けられている代わりに、足置き台に操作部が設けられていても良い。
【0088】
続いて、本発明の第2の実施形態にかかるバランス訓練装置2について説明する。なお、上述した第1の実施形態及びその変形例にかかるバランス訓練装置1,1A〜1Dと同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0089】
この第2の実施形態にかかるバランス訓練装置2は、図18に示すように、足置き台上面に使用者の左右足裏の前側及び後側に対応するように、振動発生部510としてもそれぞれ独立して振動する4個の振動子511〜514を備えている。即ち、振動発生部510は、左右の足裏位置決め部551,552にそれぞれ対応して設けられ、前側の振動発生部510が左足用の振動子512と右足用の振動子513を備えると共に、後側の振動発生部510も左足用の振動子511と右足用の振動子514を備えている。そして、上述した振動伝達板を介さずにこれらの振動子511〜514からそれぞれ左右足裏の前側及び後側に振動を直接伝達するようになっている。
【0090】
なお、各振動子511〜514は、上述の実施形態及びその変形例と同様にトランスデューサからなり、足置き台内部に収容されたパルス発生器240から発生したパルスを、制御部250を介して各振動子511〜514に伝え、本実施形態特有の振動パターンで各振動子511〜514を交互に振動させるようになっている。具体的には、図19に示すように、各振動子511〜514の発生する振動の順番が、使用者の左足踵側の振動子511、左足前側の振動子512、右足前側の振動子513、右足後側の振動子514の順番、即ち、バランス訓練装置2に乗った使用者の足裏側から見て使用者の体軸周りに左回転する(図中左側の反時計方向周りA〜Dに向かう矢印参照)ように制御部が各振動子511〜514を交互に振動させるようになっている。
【0091】
これによって、体軸回りの回転に対応する筋肉を鍛えることができ、実際の日常生活において重心が体軸回りに回転した場合にもふらついたり転倒したりしないように訓練できる。また、回転することにより、股関節までの運動をさせることができ、それによって、足関節周りの筋肉だけでなく、股関節周りの筋肉を訓練することが可能である。
【0092】
即ち、このような振動パターンによるバランス訓練を行うことによって、例えば高齢者がバスに立ったままの姿勢で乗車中にバス運行中の複雑な動きによりバランスを崩して転倒するのを効果的に防止することができる。また、日ごろからこのような特殊な振動パターンによるバランス訓練を行うことによって、高齢者が立ったままで急にめまいを感じた場合などにおいても、慌てず対処することができ、その場での転倒を防止することが可能となる。
【0093】
また、このように使用者の体軸周りに回転するように振動を順次使用者の足裏に伝えることで、使用者の身体も体軸周りに回転するように姿勢変化を起こす。それによって、足関節周りの運動だけでなく、股関節まで可動させる運動となり、より効果的にバランス能力を向上させることができるようになる。
【0094】
なお、上述の実施形態とは異なり、使用者の右足踵側の振動子514、右足前側の振動子513、左足前側の振動子512、左足後側の振動子511の順に振動を繰り返させ、即ち、バランス訓練装置に乗った使用者の足裏側から見て体軸周りに右回転するように制御部250が各振動子511〜514を交互に振動させても良い。
【0095】
また、一定時間使用者の体軸回りに右回転させた後、一定時間左回転させ、これらを交互に繰り返すようにしても良い。なお、このような振動の回転方向及びその回転方向を維持する時間については、例えば図15に示すような取っ手を使用者が握りながら操作部160の操作モードを適宜変更することによって対応するようにしても良い。
【0096】
続いて、本発明の第3の実施形態にかかるバランス訓練装置3について説明する。なお、上述した第1の実施形態及びその変形例にかかるバランス訓練装置1,1A〜1D並びに第2の実施形態にかかるバランス訓練装置2と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0097】
この第3の実施形態にかかるバランス訓練装置3は、図20に示すように、上述したバランス訓練装置2に対応する足置き台600が前側足置き台610と後側足置き台620に2分割されて、これら前側足置き台610と後側足置き台620とが防振部材630で連結されている。この防振部材630は、シリコンやNBRなど防振ゴム、
アルファゲル(登録商標)などのゲル素材、 ウレタンなどのクッション素材でできている。
【0098】
なお、防振部材630の高さは、図21に示すように、前側足置き台610と後側足置き台620の高さよりも若干高くなっている。このように足と接触するように足置き台上面よりも若干隆起した防振部材630をバランス訓練装置3の足裏前後中央部に対応する位置に設けることで、足を介して前側振動子642,643から後側振動子641,644に振動が伝わらないようにし(振動を縁切りし)かつ後側振動子641,644から前側振動子642,643にも振動が伝わらないようにすることができる。なお、この場合、バランス訓練装置3の底面全体にこのような材質でできた防振部材を取り付けることで、前側振動子642,643からの振動が床を介して後側足置き台620に伝わらないようにすると共に、後側振動子641,644からの振動が床を介して前側足置き台610に伝わらないようにすることも可能となる。
【0099】
なお、このような防振部材630を介して前側足置き台610と後側足置き台620を連結する代わりに、図22に示すように、前側足置き台610と後側足置き台620を所定の間隔だけ離間させてこれら前側足置き台610と後側足置き台620を接続パイプ635によって接続しても良い。この場合、接続パイプ635の内部に前側足置き台に備わった左右の前側振動子642,643と後側足置き台620に備わった左右の後側振動子641,644とを電気的に接続する電線を挿通することができる。
【0100】
なお、この場合も前側振動子642,643の振動が床を介して後側足置き台620に伝わったり、後側振動子641,644の振動が床を介して前側足置き台610に伝わったりしないように、前側足置き台610及び後側足置き台620の床への設置面を上述した材質の防振部材で覆っておくのが良い。
【0101】
なお、上述のようにバランス訓練装置の足置き台を前側足置き台と後側足置き台に2分割して防振部材で連結する代わりに、第2の実施形態にかかるバランス訓練装置2において、図23に示すように、例えば上述した材質でできた円環状の防振部材521〜524を介して各振動子511〜514を足置き台500の振動子取付け用の凹み部上面501〜504に支持するようにしても良い。このような防振部材521〜524を用いることによって、簡易な構成でそれぞれの振動子が発生する振動を他の振動子まで伝わらないようにし、上述した第2の実施形態の作用を確実に発揮することができるようになる。
【0102】
また、前側振動子及び後側振動子の間に防振手段としての薄肉部を設け、前側振動子と後側振動子間の振動の伝達を抑えても良い。
【0103】
また、以上説明した第1の実施形態及び第2の実施形態並びにこれらの変形例にかかるバランス訓練装置において以下に示すようなサイズ調整手段を備えていても良い。
【0104】
具体的には、このサイズ調整手段は、図24に示すように、足置き台700を上述したように前側足置き台710と後側足置き台720に分割し、かつこれら前側足置き台710と後側足置き台720が連結シャフト730で連結されたバランス訓練装置の形態を有し、連結シャフトの前側足置き台側端部にサイズ調整ネジ(図示せず)が形成され、この連結シャフト730のネジ部を介して前側足置き台710及び後側足置き台720が連結されている。そして、後側足置き台720の後端面にはドライバー差し込み口721が穿設され、例えばマイナスドライバーをドライバー差し込み口に挿入してその端部を連結シャフト端部に形成された図示しない調整スリットに係合させて適当な回数だけ回転させることで、連結シャフト730のサイズ調整ネジと前側足置き台710との螺合度合いを変え、これによって前側足置き台710と後側足置き台720との間隔を変えるようになっている。なお、ドライバーなどの工具を用いて調整する代わりに特別なクランクを用いて連結シャフト730を回転させて前側足置き台710と後側足置き台720の間隔調整を行っても良い。
【0105】
これによって、使用者の性別や年齢、体格による足の大きさに合致するように前側振動子742,743と後側振動子741,744の間隔を調整することが可能となる。
【0106】
このように使用者の足の大きさに応じて前側振動子742,743と後側振動子741,744の間隔を調整できるようにすることで、例えば1つのバランス訓練装置を年齢や性別、体格による足のサイズに応じて調整しながら共有して使用することができ、たとえば家庭内において家族の誰もが一つのバランス訓練装置を共用することができるようになる。
【0107】
なお、図25は、上述したサイズ調整手段を備えたバランス訓練装置の前側足置き台710と後側足置き台720との間に防振部材750を更に備えたバランス訓練装置を使用者がその上に乗った状態で示している。そして、図26は、このようなバランス訓練装置のサイズ調整を行った状態を示しており、左側に示すバランス訓練装置は、前側振動子742,743と後側振動子741,744との間隔を狭めるように調整し、右側に示すバランス訓練装置7は、前側振動子742,743と後側振動子741,744との間隔を広めるように調整した状態を示す斜視図である。
【0108】
続いて、このようなサイズ調整手段を備えたバランス訓練装置の変形例について説明する。この変形例にかかるバランス訓練装置は、図27に示すように、振動伝達板を備えた第1の実施形態にかかるバランス訓練装置においてサイズ調整手段を備えた変形例である。このバランス訓練装置は、同図に示すように、足置き台上面に振動伝達板212,222を受け入れる凹み部105,106が第1の実施形態よりも足裏前後方向に向けて幅広に形成されており、かつ各振動伝達板212,222と前側振動子211及び後側振動子221がスライド可能に連結されている。そして、各振動伝達板212,222は、凹み部内で足裏前後方向に移動調整可能となっている。
【0109】
そして、図27の左側に示すバランス訓練装置は、各振動伝達板212,222の間隔を狭めるように凹み部内で移動させた状態であり、足の小さい使用者向けに調整した状態を示している。また、図27の右側に示すバランス訓練装置は、各振動伝達板212,222の間隔を広めるように凹み部内で移動させた状態を示し、足の大きい使用者向けに調整した状態である。
【0110】
このようなサイズ調整付きバランス訓練装置を用いても、使用者の足のサイズに応じて前側振動子211と後側振動子221の間隔を調整できるようになり、例えば1つのバランス訓練装置を年齢や性別、体格による足の大きさに応じて調整しながら共有して使用することができ、たとえば家庭内において家族のだれもが一つのバランス訓練装置を共用することができるようになる。
【0111】
以上説明したように、従来の足裏の左右片足毎に振動をオン・オフするマッサージ装置による左右片足毎の振動では、マッサージ装置に乗った使用者の姿勢の変化は殆ど起こらず、感覚受容器及び神経系の機能回復の効果は見込めなかった。しかしながら、本発明のようなバランス訓練装置を用いることで、足裏前後への刺激が交互に変化する振動で足裏に刺激を与えることができ、足裏前後への刺激の差分が足裏前後に交互に作用することになる。その結果、バランス感覚に関する感覚受容器及びこれに至る神経系の機能回復を図ることができるようになる。
【0112】
また、振動の切り替え時間を徐々に長くしたり短くしたり、突然変化させたりするなど切り替え時間のタイミングを変えることで、使用者のバランス感覚に関する感覚受容器及び神経系が振動刺激に対して順化するのを防止することができる。
【0113】
なお、立位状態にある人間の足の左右方向への姿勢変化が生じても、人間の骨格の構造上これに十分耐えることができるが、足の前後方向への姿勢変化が生じた場合、これを骨格で支えることはできず、足首の筋肉だけで姿勢変化に対応しなければならないので、このような足裏左右ではなく足裏前後に交互に積極的に強い刺激を与える意義は大きい。
【0114】
また、前側振動子及び後側振動子を左右の足裏前後にそれぞれ対応するように設け、各振動子が発生する振動のうち最も強い振動がバランス訓練装置に乗った使用者の体軸周りに右回転するように変化するか、左回転するように変化するように各振動子の振動を制御することで、体軸回りの回転に対応する筋肉を鍛えて重心が体軸回りに回転した場合にもふらついたり転倒したりしないようにすることができる。
【0115】
また、このようなバランス訓練装置に上述したサイズ調整手段を備えることで、単一のバランス訓練装置で使用者の年齢、性別、体格に基づく様々な足の大きさに対応することができるようになり、家庭内での使用やケアホーム内での使用により適するようになる。
【0116】
なお、上述した各実施形態及びその変形例においては、使用者がバランス訓練装置を立位状態(立ったままの状態)で使用した場合について説明したが、必ずしも立位状態でない例えば椅子に腰掛けたままの座位状態でバランス訓練装置を使用しても感覚受容器や神経回路の機能向上につながり、本発明の効果を発揮し得る。但し、下肢筋の訓練は立位状態でないと難しいので、立位状態でバランス訓練装置を使用するのがより好ましいと言える。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかるバランス訓練装置を示す平面図である。
【図2】図1に示したバランス訓練装置の斜視図である。
【図3】図1に示したバランス訓練装置の全体構成図である。
【図4】図1に示したバランス訓練装置に使用者が乗った状態を示す斜視図である。
【図5】図1に示したバランス訓練装置の前側振動子及び後側振動子の動作状態を装置使用開始からの経過時間に沿って示すタイミングチャートである。
【図6】図1に示したバランス訓練装置の振動パターンの変形例を示す図5に対応するタイミングチャートである。
【図7】図6とは別の変形例を示す図5に対応するタイミングチャートである。
【図8】図2に示したバランス訓練装置の足裏位置決め部の変形例を示す斜視図である。
【図9】図8とは別の足裏位置決め部の変形例を示す斜視図である。
【図10】図8及び図9とは別の足裏位置決め部の変形例を示す斜視図である。
【図11】図1に示したバランス訓練装置の図6とは別の振動パターンの第1変形例を示す図5に対応するタイミングチャートである。
【図12】図1に示したバランス訓練装置の図11とは別の振動パターンの変形例を示す図5に対応するタイミングチャートである。
【図13】図1に示したバランス訓練装置の図11、図12とは別の振動パターンの第2変形例を示す図5に対応するタイミングチャートである。
【図14】図1に示したバランス訓練装置の図11乃至図13とは別の振動パターンの第3変形例を示す図5に対応するタイミングチャートである。
【図15】第1の実施形態のバランス訓練装置に操作部付きの手すりを備えた第4変形例にかかるバランス訓練装置を示す斜視図である。
【図16】図15に示したバランス訓練装置の操作部の操作により振動パターンを変更可能なことを示した図5に対応するタイミングチャートである。
【図17】図15に示した操作部の操作により図16とは別の振動パターンを変更可能なことを示した図5に対応するタイミングチャートである。
【図18】本発明の第2の実施形態にかかるバランス訓練装置を示す斜視図である。
【図19】図18に示した第2の実施形態にかかるバランス訓練装置の各振動子の動作状態を装置使用開始からの経過時間に沿って示すタイミングチャートである。
【図20】図18に示したバランス訓練装置に防振部材を備えた変形例を示す斜視図である。
【図21】図20に示したバランス訓練装置に使用者が乗った状態を示す斜視図である。
【図22】図20とは別の防振部材を備えたバランス訓練装置の変形例を示す斜視図である。
【図23】図20及び図22とは別の防振部材を備えたバランス訓練装置の変形例を示す斜視図である。
【図24】図18に示したバランス訓練装置にサイズ調整手段を備えた変形例を示す斜視図である。
【図25】図24に示したサイズ調整手段付きのバランス訓練装置に更に防振部材を備えたバランス訓練装置に使用者が乗った状態を示す斜視図である。
【図26】図25に示したサイズ調整手段付きバランス訓練装置において、前側振動子と後側振動子の間隔を狭めた状態の斜視図(図26(a))及び前側振動子と後側振動子の間隔を広めた状態の斜視図(図26(b))である。
【図27】図25に示したサイズ調整手段付きバランス訓練装置の変形例において、前側振動子と後側振動子の間隔を狭めた状態の斜視図(図27(a))及び前側振動子と後側振動子の間隔を広めた状態の斜視図(図27(b))である。
【図28】筋力とバランス力の加齢に伴う変化を示す図である。
【図29】バランス感覚の要因を説明する図である。
【図30】圧受容器刺激による姿勢制御を説明する図である。
【図31】人の立位姿勢における重心動揺の説明図であり、立位者の前額面、矢状面、水平面に作用する力を説明する図(図31(a))及び重心動揺範囲を説明する図(図31(b))である。
【符号の説明】
【0118】
1,1A,1B,1C,1D,2,3 バランス訓練装置
100 足置き台
105,106 凹み部
111,112,121,122 凹み部
150 手すり
155 連結部
160 操作部
161 表示部
162 操作ボタン
165 グリップ部
200 振動発生部
211 前側振動子
212 振動伝達板
221 後側振動子
222 振動伝達板
240 パルス発生器
250 制御部
311,312 足裏位置決め部
321〜324 足裏側方位置決め用突起
331,332 足裏位置決め部
341,342 凹み部
500 足置き台
501〜504 凹み部上面
510 振動部
511,512,513,514 振動子
521〜524 防振部材
551,552 足裏位置決め部
600 足置き台
610 前側足置き台
620 後側足置き台
630 防振部材
635 接続パイプ
642,643 前側振動子
641,644 後側振動子
700 足置き台
710 前側足置き台
720 後側足置き台
721 ドライバー差し込み口
730 連結シャフト
742,743 前側振動子
741,744 後側振動子
750 防振部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の足を乗せる足置き台と、
前記足置き台に設けられ、足裏の前後にそれぞれ振動を印加する前側振動子及び後側振動子を有する振動発生部と、
前記振動発生部で生じる振動を制御する制御部とからなり、
前記制御部が、前記前側振動子及び後側振動子のそれぞれから使用者の足裏前後に与える振動刺激の大小関係を交互に変化させるように振動発生状態を切り替えることを特徴とするバランス訓練装置。
【請求項2】
前記制御部が、前記使用者の足裏前後に与える振動発生部からの振動刺激の大小関係の切り替え時間を変化させるようにしたことを特徴とする、請求項1に記載のバランス訓練装置。
【請求項3】
前記振動発生部が足裏前後に与える刺激の交互の切り替えは、振動の強さをなす振動の振幅又は周波数の少なくとも何れか一つを前記制御部により変化させて行われることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のバランス訓練装置。
【請求項4】
前記前側振動子及び後側振動子を左右の足裏前後にそれぞれ対応するように少なくとも合計4個設けたことを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れかに記載のバランス訓練装置。
【請求項5】
前記各振動子が発生する振動のうち最も強い振動が前記バランス訓練装置に乗った使用者の体軸周りに右回転するように変化するか、左回転するように変化するように各振動子の振動の大きさを前記制御部で制御することを特徴とする、請求項4に記載のバランス訓練装置。
【請求項6】
前記前側振動子と後側振動子の間に当該前側振動子の振動が後側振動子に伝わるのを抑制しかつ後側振動子の振動が前側振動子に伝わるのを抑制する防振手段を備えたことを特徴とする、請求項1乃至請求項5の何れかに記載のバランス訓練装置。
【請求項7】
使用者の足裏を足置き台上面の所定位置に位置決めする足裏位置決め手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載のバランス訓練装置。
【請求項8】
前記前用振動子及び後用振動子を、使用者の足裏の前後の位置に調整する位置調整手段を備えたことを特徴とする、請求項1乃至請求項7の何れかに記載のバランス訓練装置。
【請求項9】
前記足置き台には、使用者の立つ方向を指示する方向指示手段を備えたことを特徴とする、請求項1乃至請求項8の何れかに記載のバランス訓練装置。
【請求項10】
前記前用振動子及び後用振動子には、それぞれ振動伝達板を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れかに記載のバランス訓練装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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