説明

バルバスバウ装置および船舶

【課題】設計が容易で、かつ船体の推進性能を低下させる要因を増やすことなく、満載時や軽荷時での造波抵抗を低減すること。
【解決手段】船舶における船体1の船首11にて、船体1の前側に向けて球状に突設されたバルブ21’を備えるバルバスバウ装置2’において、バルブ21’は、船体1側に対して分割され、船体1側に向く基端21a’が上下対称形状に形成されていると共に上下に180度回転して船体1に接合可能に設けられ、かつ180度回転した場合、船体1の前側に最も突出する前端21b’を自身の中央よりも上側に配置される第一形態と、前端21b’を自身の中央よりも下側に配置される第二形態とをなす態様で、前端21b’の位置が上下に片寄って形成されていると共に、船体1の船底12よりも下方に突出することなく形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルバスバウ装置および前記バルバスバウ装置が適用された船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶では、船体における船首の没水部から前側に向けて球状に突出するバルブを有したバルバスバウ装置が設けられている。このバルバスバウ装置は、船体が前進するとき、バルブがなす波を船体の船首側がなす波に干渉させることで船首側での造波抵抗を低減する。
【0003】
ところで、船体は、満載時では喫水が深く、軽荷時では喫水が浅くなる。したがって、バルバスバウ装置では、満載時から軽荷時までの間での喫水の違いによりバルブへの波の作用が変化する。例えば、満載時に造波抵抗を低減するようにバルブを設けた場合、軽荷時に喫水が浅くなるとバルブが喫水線から表出することになる。すると、軽荷時においてバルブが波を破砕して抵抗が増大するので、船体の推進性能を低下させる。一方、軽荷時に造波抵抗を低減するようにバルブを設けた場合、満載時に喫水が深くなるとバルブが喫水線の深くに位置することになる。すると、満載時において、造波抵抗を低減するバルブの機能が後退するので、船体の推進性能を低下させる。このため、従来より種々の工夫がなされている。
【0004】
従来、例えば特許文献1に示すバルバスバウ装置(バルバスバウ)では、外被と外被内に設けられた袋とで膨張および収縮可能に構成された二重構造のバルブを備えている。この特許文献1に示すバルバスバウ装置は、満載時に、袋の内部に流体を注入して外被の前端部を球状に膨張させ、満載時での造波抵抗を低減する。一方、軽荷時には、袋の内部から流体を放出して外被を痩せた形状に収縮させ、軽荷時に喫水線から表出した部分での波の破砕による抵抗を低減する。
【0005】
また、従来、例えば特許文献2に示すバルバスバウ装置(可変式バルバスバウ)では、載荷状態に応じて船首に対するバルブの位置を調整すべく、バルブの下側後部が船体の底部前側に枢着されると共に、枢着部を中心とするバルブの回動に伴ってバルブの後部を出没させる開口部が、船体の前端に形成されている。この特許文献2に示すバルバスバウ装置は、満載時に、バルブを後側に回動させて上向きに配置し、満載時の喫水に適した状態で造波抵抗を低減する。一方、軽荷時には、バルブを前側に回動させて下向きに配置すると共にバルブの後部を開口部から表出させ、軽荷時の喫水に適した状態で造波抵抗を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−175193号公報
【特許文献2】実開昭59−170095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来のバルバスバウ装置において、特許文献1の場合、袋に注入する流体として、空気や空気以外の気体、海水などの液体、スラリー、粉体、粒体などの流動物が挙げられているが、気体は船体に浮力を生じさせる一方、液体、スラリー、粉体、粒体などは重量物となる。このため、満載時に流体を袋に注入した状態や、軽荷時に流体を袋から放出した状態で、船体の前後バランスや船体の全体重量などを考慮しつつ、バルブを設計しなければならないため、設計に手間がかかり製造コストが嵩む問題がある。
【0008】
一方、上述した従来のバルバスバウ装置において、特許文献2の場合、バルブを前側に回動させて下向きに配置すると、バルブの底面が船体の底面よりも下方に突出した形態となる。このような形態では、下方に突出した部分が抵抗となって船体の推進性能を低下させるおそれがある。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するものであり、設計が容易で、かつ船体の推進性能を低下させる要因を増やすことなく、満載時や軽荷時での造波抵抗を低減することのできるバルバスバウ装置および船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、本発明のバルバスバウ装置では、船舶における船体の船首にて、船体の前側に向けて球状に突設されたバルブを備えるバルバスバウ装置において、前記バルブは、前記船体側に対して分割され、前記船体側に向く基端が上下対称形状に形成されていると共に上下に180度回転して前記船体側に接合可能に設けられ、かつ180度回転した場合、前記船体の前側に最も突出する前端を自身の中央よりも上側に配置される第一形態と、前記前端を自身の中央よりも下側に配置される第二形態とをなす態様で、前記前端の位置が上下に片寄って形成されていると共に、前記船体の船底よりも下方に突出することなく形成されていることを特徴とする。
【0011】
このバルバスバウ装置によれば、バルブは、満載時に第一形態とされ、全体が喫水線よりも下方に位置されると共に前端が自身の中央よりも上側に配置されて、好適に造波抵抗を低減する。一方、バルブは、軽荷時に第二形態とされ、上端が喫水線に位置されると共に前端が自身の中央よりも下側に配置されて、好適に造波抵抗を低減する。そして、バルブを第一形態と第二形態とに変更するには、バルブを船体に対して上下に180度回転させるだけでよい。しかも、第一形態および第二形態でのバルブは、船体の船底よりも下方に突出することがない。この結果、設計が容易で、かつ船体の推進性能を低下させる要因を増やすことなく、満載時や軽荷時での造波抵抗を低減できる。
【0012】
また、本発明のバルバスバウ装置では、前記バルブを前記船体側に接合したままの状態で上下に180度回転させる回転機構を備えることを特徴とする。
【0013】
このバルバスバウ装置によれば、回転機構によりバルブの各形態への変更を容易に行える。
【0014】
また、本発明のバルバスバウ装置では、各前記形態に配置された前記バルブの基端の上面と前記船体の前面とを滑らかな曲面で繋ぐフェアリング部材を備え、前記バルブの回転に際して前記フェアリング部材を前記バルブに対して離隔可能に設けたことを特徴とする。
【0015】
このバルバスバウ装置によれば、軽荷時に喫水線からバルブの上端が表出してもフェアリング部材により波の破砕による抵抗を低減できる。しかも、フェアリング部材を、バルブに対して離隔可能に設けたことで、バルブを各形態に変更する際、フェアリング部材をバルブから待避させてバルブへの接触を防ぐので、バルブの各形態への変更を妨げる事態を防げる。
【0016】
また、本発明のバルバスバウ装置では、前記フェアリング部材を前記バルブに対して離隔または接近させる態様で、前記船体に前記フェアリング部材をスライド移動可能に支持する支持機構を備えることを特徴とする。
【0017】
このバルバスバウ装置によれば、バルブを各形態に変更する場合に、バルブからのフェアリング部材の待避、および元の位置への復帰を容易に行える。
【0018】
また、本発明のバルバスバウ装置では、前記第一形態に配置された前記バルブの前側上部から上方に突出すると共に満載時での喫水線の下側に配置されるカバー部材を、前記バルブに着脱自在に設けたことを特徴とする。
【0019】
このバルバスバウ装置によれば、カバー部材により、第一形態でのバルブの造波抵抗の低減効果を向上できる。しかも、カバー部材は、バルブを第二形態とした場合に取り外せるので、第二形態としたバルブの下側において、船体の船底よりもカバー部材が突出することで船体の推進性能を低下させる抵抗となる事態を防げる。
【0020】
上述の目的を達成するために、本発明の船舶では、船体の船首に、上記のいずれか一つに記載のバルバスバウ装置が設けられていることを特徴とする。
【0021】
この船舶によれば、上記いずれか一つに記載のバルバスバウ装置を適用したことにより、設計が容易で、かつ船体の推進性能を低下させる要因を増やすことなく、満載時や軽荷時での造波抵抗を低減できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、設計が容易で、かつ船体の推進性能を低下させる要因を増やすことなく、満載時や軽荷時での造波抵抗を適宜低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1にかかるバルバスバウ装置を適用した船舶の船首を示す概略図である。
【図2】図2は、図1に示すバルバスバウ装置の動作を示す概略図である。
【図3】図3は、図1に示すバルバスバウ装置の動作を示す概略図である。
【図4】図4は、図1に示すバルバスバウ装置の作用を示す図である。
【図5】図5は、図1に示すバルバスバウ装置の作用を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2にかかるバルバスバウ装置を適用した船舶の船首を示す概略側面図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態3にかかるバルバスバウ装置を適用した船舶の船首を示す概略側面図である。
【図8】図8は、図7のVIII方向矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明にかかるバルバスバウ装置および船舶の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0025】
[実施の形態1]
図1〜図3に示すように、船舶における船体1の船首11下部には、バルバスバウ装置2が設けられている。バルバスバウ装置2は、船体1の前側に向けて球状に突設されたバルブ21を備えている。
【0026】
ここで、図1(a)は、本発明の実施の形態1にかかるバルバスバウ装置2を適用した船舶の船首11を示す概略側面図、図1(b)は、図1(a)で示す船舶の概略前面図である。また、図2(a)は、図1に示すバルバスバウ装置の動作を示す概略側面図、図2(b)は、図2(a)で示す船舶の概略前面図である。
【0027】
バルブ21は、船体1側に対して別体に分割された形態で、船体1に接合されている。そして、船体1側に向き、船体1側に接合される接合面であるバルブ21の基端21aの面は、上下対称形状(本実施の形態1では上下左右対称な楕円形状)に形成されている。バルブ21は、基端21aの面から、船体1の前側に最も突出する前端21bに向かうに連れて滑らかな凸曲面により窄まって形成されている。また、船体1側は、基端21aの面を接合する面から後側(船尾側)に向かうに連れて滑らかな曲面で形成されている。したがって、バルブ21は、船体1に続いて前端21bに至るまで滑らかな曲面で繋がって形成されている。
【0028】
また、バルブ21は、基端21aの面の中心を通過し前後方向に延在する軸心S廻りで上下に180度回転して船体1に対して配置できるように構成されている。上述したように基端21aの面が上下対称形状に形成されているので、上下に180度回転しても船体1とバルブ21とは滑らかな曲面で繋がる。また、バルブ21は、180度回転した場合、図1に示すように、前端21bを自身の中央よりも上側に配置し、かつ基端21aから前端21bに至り上向きに窄む形状となる第一形態と、図2に示すように、前端21bを自身の中央よりも下側に配置し、かつ基端21aから前端21bに至り下向きに窄む形状となる第二形態とをなす態様で、前端21bの位置が上下に片寄って形成されている。さらに、バルブ21は、第一形態および第二形態での配置において、図1および図2に示すように、船体1の船底12よりも下方に突出することなく基端21aから前端21bに向けて窄まって形成されており、本実施の形態1では、基端21aが船体1の船底12に連ねて形成されている。
【0029】
バルブ21の回転は、バルブ21を船体1から一旦外して行ってもよいが、本実施の形態1のバルバスバウ装置2では、バルブ21を船体1から外さずに接合したままの状態で回転できるように回転機構3を備えている。回転機構3は、バルブ21の基端21aから後側に延出し軸心Sをなす回転軸31と、回転軸31を船体1側で軸心S廻りに回転可能に支持する軸受32と、回転軸31を回転させる駆動部としてのモータ33とで構成されている。すなわち、図1および図2に示すように、モータ33の駆動により回転軸31を介してバルブ21が軸心S廻りに回転する。そして、図1に示すように、バルブ21が第一形態に配置される一方、図2に示すようにバルブ21が第二形態に配置される。なお、図には明示しないが、モータ33は、減速機構を介して回転軸31に連結されていてもよい。
【0030】
また、本実施の形態1のバルバスバウ装置2は、各形態に配置されたバルブ21の基端21aの上面と、船体1の前面とを滑らかな曲面で繋ぐフェアリング部材4を備えている。フェアリング部材4は、船体1の前進時に、バルブ21の上面と船体1の前面との間の部位での波の破砕による抵抗を低減するためのものである。このフェアリング部材4は、バルブ21の回転に際しバルブ21に対して離隔可能に設けられている。すなわち、フェアリング部材4は、バルブ21を回転する際にバルブ21に干渉しないように構成されている。
【0031】
フェアリング部材4をバルブ21に対して離隔する構成は、フェアリング部材4をバルブ21および船体1から一旦外してもよいが、本実施の形態1のバルバスバウ装置2では、フェアリング部材4を外さず船体1側に配置したままの状態でバルブ21に対して離隔または接近できるように、船体1にフェアリング部材4をスライド移動可能に支持する支持機構5を備えている。支持機構5は、フェアリング部材4から船体1側に延出された腕部51と、この腕部51が固定されたラック52と、ラック52を上下に延在した形態で上下方向に移動可能に支持するレール53と、ラック52に噛合するピニオン54を回転させる駆動部としてのモータ55とで構成されている。すなわち、図1〜図3に示すように、モータ55の駆動によりピニオン54を回転させることで、このピニオン54と噛合するラック52がレール53に沿って上下に移動すると共に、ラック52に腕部51を介して固定されたフェアリング部材4が上下方向にスライド移動する。そして、図1および図2に示すように、フェアリング部材4を下方にスライド移動することにより、フェアリング部材4がバルブ21に接近し、このフェアリング部材4でバルブ21の基端21aの上面と船体1の前面とを滑らかな曲面で繋ぐ。一方、図3に示すように、フェアリング部材4を上方にスライド移動することにより、フェアリング部材4がバルブ21から離隔し、回転するバルブ21にフェアリング部材4が干渉しなくなる。なお、図には明示しないが、支持機構5は、腕部51を上下方向に移動可能に支持するレールと、腕部51をレールに沿って移動させる駆動部としてのアクチュエータ(例えば、油圧シリンダ)とを備えた構成であってもよい。
【0032】
このように構成された実施の形態1のバルバスバウ装置2では、図1に示すように、第一形態とされたバルブ21は、前端21bが自身の中央よりも上側に配置され、かつ基端21aから前端21bに至り上向きに窄む形状となる。この第一形態のバルブ21は、船体1に荷が満載された満載時に適用される。満載時では、喫水が最も深く、喫水線W1がフェアリング部材4のほぼ上端の位置となるようにバルブ21の位置が設計される。すなわち、満載時では、バルブ21は、全体が喫水線W1よりも下方に位置すると共に、前端21bが自身の中央よりも上側に配置され、かつ基端21aから前端21bに至り上向きに窄んだ形状となる。このため、このバルブ21により満載時での船体1の前進に際して造波抵抗の低減効果を得ることが可能になる。
【0033】
一方、実施の形態1のバルバスバウ装置2では、図2に示すように、第二形態とされたバルブ21は、前端21bが自身の中央よりも下側に配置され、かつ基端21aから前端21bに至り下向きに窄む形状となる。この第二形態のバルブ21は、船体1に荷を積載していない軽荷時に適用される。軽荷時では、喫水が最も浅く、喫水線W2がバルブ21の上端の位置となるようにバルブ21の位置が設計される。すなわち、軽荷時では、バルブ21は、上端が喫水線W2に位置すると共に、前端21bが自身の中央よりも下側に配置され、かつ基端21aから前端21bに至り下向きに窄んだ形状となる。このため、このバルブ21により軽荷時での船体1の前進に際して造波抵抗の低減効果を得ることが可能になる。
【0034】
ここで、バルブ21の第一形態および第二形態での船体1の馬力と速度との関係を、図4および図5を参照して説明する。図4は、満載時での実施の形態1のバルバスバウ装置2の作用を示す図であり、実線がバルブ21の第一形態、破線がバルブ21の第二形態をあらわしている。また、図5は、バルブ21を第二形態とした場合での実施の形態1のバルバスバウ装置2の作用を示す図であり、図4と同様に、実線がバルブ21の第一形態、破線がバルブ21の第二形態をあらわしている。
【0035】
図4に示すように、満載時では、同じ馬力でも、バルブ21を第一形態としたほうがバルブ21を第二形態とするよりも速度が上がっている。すなわち、満載時では、バルブ21を第一形態としたほうが第二形態よりも造波抵抗が低減されるので、バルブ21の第一形態が満載時に適していることがわかる。
【0036】
一方、図5に示すように、軽荷時では、同じ馬力でも、バルブ21を第二形態としたほうがバルブ21を第一形態とするよりも速度が上がっている。すなわち、満載時では、バルブ21を第二形態としたほうが第一形態よりも造波抵抗が低減されるので、バルブ21の第二形態が軽荷時に適していることがわかる。
【0037】
かかる実施の形態1のバルバスバウ装置2によれば、バルブ21を、満載時に造波抵抗を好適に低減する第一形態と、軽荷時に造波抵抗を好適に低減する第二形態とに配置可能に構成したことにより、満載時や軽荷時での造波抵抗を適宜低減することが可能である。しかも、バルブ21を第一形態と第二形態とに変更するには、バルブ21を船体1に対して上下に180度回転させるだけでよいため、設計が容易である。しかも、第一形態および第二形態でのバルブ21は、船体1の船底12よりも下方に突出することがないため、船体1の推進性能を低下させる要因を増やすことがない。
【0038】
また、実施の形態1のバルバスバウ装置2では、回転機構3により、バルブ21を船体1に接合したままの状態で上下に180度回転させる。
【0039】
かかる構成によれば、バルブ21の各形態への変更を容易に行うことが可能になる。
【0040】
また、実施の形態1のバルバスバウ装置2では、各形態に配置されたバルブ21の基端21aの上面と船体1の前面とを滑らかな曲面で繋ぐフェアリング部材4を備えており、このフェアリング部材4を、バルブ21の回転に際し、バルブ21に対して離隔可能に設けている。
【0041】
かかる構成によれば、軽荷時に喫水線W2からバルブ21の上端が表出してもフェアリング部材4により波の破砕による抵抗を低減することが可能である。しかも、フェアリング部材4を、バルブ21に対して離隔可能に設けたことで、バルブ21を各形態に変更する際に、フェアリング部材4をバルブ21から待避させてバルブ21への接触を防ぐので、バルブ21の各形態への変更を妨げる事態を防ぎ、バルブ21の形態変更を容易に行うことが可能になる。
【0042】
また、実施の形態1のバルバスバウ装置2では、フェアリング部材4をバルブ21に対して離隔または接近させるように、船体1にフェアリング部材4をスライド移動可能に支持する支持機構5を備えている。
【0043】
かかる構成によれば、バルブ21を各形態に変更する場合に、バルブ21からのフェアリング部材4の待避、および元の位置への復帰を容易に行うことが可能になる。この結果、バルブ21の形態変更を容易に行うことが可能になる。
【0044】
また、実施の形態1の船舶では、上述したバルバスバウ装置2を適用したことにより、設計が容易で、かつ船体1の推進性能を低下させる要因を増やすことなく、満載時や軽荷時での造波抵抗を低減することができる。さらに、実施の形態1の船舶では、回転機構3により、バルブ21の各形態への変更を容易に行うことが可能になる。さらにまた、実施の形態1の船舶では、フェアリング部材4により波の破砕による抵抗を低減することが可能であり、かつフェアリング部材4を、バルブ21に対して離隔可能に設けたことで、バルブ21を各形態に変更する際に、フェアリング部材4をバルブ21から待避させてバルブ21への接触を防ぐので、バルブ21の各形態への変更を妨げる事態を防ぐことが可能になる。またさらに、実施の形態1の船舶では、支持機構5により、バルブ21を各形態に変更する場合に、バルブ21からのフェアリング部材4の待避、および元の位置への復帰が容易に行え、バルブ21の形態変更を容易に行うことが可能になる。
【0045】
[実施の形態2]
この実施の形態2のバルバスバウ装置2’は、上述した実施の形態1で説明した船舶に適用される。このバルバスバウ装置2’は、上述した実施の形態1で説明したバルバスバウ装置2に対し、バルブ21’の構成が異なる。したがって、本実施の形態2では、実施の形態1のバルバスバウ装置2と同等部分に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0046】
図6に示すように、バルバスバウ装置2’は、フェアリング部材4よりも船体1の前側でバルブ21’が船体1側に対して別体に分割された形態で、船体1に接合されている。そして、船体1側に向き、船体1側に接合される接合面であるバルブ21’の基端21a’の面は、上下対称形状(本実施の形態2では上下左右対称な楕円形状)に形成されている。バルブ21‘は、基端21a’の面から、船体1の前側に最も突出する前端21b’に向かうに連れて滑らかな凸曲面により窄まって形成されている。また、船体1側は、基端21a’の面を接合する面から後側(船尾側)に向かうに連れて滑らかな曲面で形成されている。したがって、バルブ21’は、船体1に続いて前端21b’に至るまで滑らかな曲面で繋がって形成されている。
【0047】
また、バルブ21’は、基端21a’の面の中心を通過し前後方向に延在する軸心S廻りで上下に180度回転して船体1側に対して配置できるように構成されている。上述したように基端21a’の面が上下対称形状に形成されているので、上下に180度回転しても船体1側とバルブ21’とは滑らかな曲面で繋がる。また、バルブ21’は、180度回転した場合、図6に実線で示すように、前端21b’を自身の中央よりも上側に配置し、かつ基端21a’から前端21b’に至り上向きに窄む形状となる第一形態と、図6に二点鎖線で示すように、前端21b’を自身の中央よりも下側に配置し、かつ基端21a’から前端21b’に至り下向きに窄む形状となる第二形態とをなす態様で、前端21b’の位置が上下に片寄って形成されている。さらに、バルブ21’は、第一形態および第二形態での配置において、図6に示すように、船体1の船底12よりも下方に突出することなく基端21a’から前端21b’に向けて窄まって形成されており、本実施の形態2では、基端21a’が船体1の船底12に連ねて形成されている。
【0048】
バルブ21’の回転は、バルブ21を船体1から一旦外して行ってもよいが、本実施の形態2のバルバスバウ装置2’では、バルブ21を船体1から外さずに接合したままの状態で回転できるように回転機構3を備えている。
【0049】
なお、本実施の形態2のバルバスバウ装置2’は、各形態に配置されたバルブ21’の基端21a’よりも船体1の後側の上面と、船体1の前面とを滑らかな曲面で繋ぐようにフェアリング部材4を備えている。すなわち、本実施の形態2のバルバスバウ装置2’では、上述した実施の形態1で説明したフェアリング部材4が船体1側に固定して設けられており、支持機構5を備えていない。
【0050】
このように構成された実施の形態2のバルバスバウ装置2’では、図6に実線で示すように、第一形態とされたバルブ21は、前端21bが自身の中央よりも上側に配置され、かつ基端21aから前端21bに至り上向きに窄む形状となる。この第一形態のバルブ21は、船体1に荷を満載した満載時に適用される。満載時では、喫水が最も深く、喫水線W1がフェアリング部材4のほぼ上端の位置となるようにバルブ21’の位置が設計される。すなわち、満載時では、バルブ21’は、全体が喫水線W1よりも下方に位置すると共に、前端21b’が自身の中央よりも上側に配置され、かつ基端21a’から前端21b’に至り上向きに窄んだ形状となる。このため、このバルブ21’により満載時での船体1の前進に際して造波抵抗の低減効果を得ることが可能になる。
【0051】
一方、実施の形態2のバルバスバウ装置2’では、図6に二点差線で示すように、第二形態とされたバルブ21’は、前端21b’が自身の中央よりも下側に配置され、かつ基端21a’から前端21b’に至り下向きに窄む形状となる。この第二形態のバルブ21’は、船体1に荷を積載していない軽荷時に適用される。軽荷時では、喫水が最も浅く、喫水線W2がバルブ21’の上端の位置となるようにバルブ21’の位置が設計される。すなわち、軽荷時では、バルブ21’は、上端が喫水線W2に位置すると共に、前端21b’が自身の中央よりも下側に配置され、かつ基端21a’から前端21b’に至り下向きに窄んだ形状となる。このため、このバルブ21’により軽荷時での船体1の前進に際して造波抵抗の低減効果を得ることが可能になる。
【0052】
ここで、バルブ21’の第一形態および第二形態での船体1の馬力と速度との関係は、上述した実施の形態1と同じく、図4に示すように、満載時では、同じ馬力でも、バルブ21’を第一形態(実線で示す)としたほうがバルブ21’を第二形態(破線で示す)とするよりも速度が上がっている。すなわち、満載時では、バルブ21’を第一形態としたほうが第二形態よりも造波抵抗が低減されるので、バルブ21’の第一形態が満載時に適していることがわかる。一方、図5に示すように、軽荷時では、同じ馬力でも、バルブ21’を第二形態(破線で示す)としたほうがバルブ21’を第一形態(実線で示す)とするよりも速度が上がっている。すなわち、満載時では、バルブ21’を第二形態としたほうが第一形態よりも造波抵抗が低減されるので、バルブ21’の第二形態が軽荷時に適していることがわかる。
【0053】
かかる実施の形態2のバルバスバウ装置2’によれば、バルブ21’を、満載時に好適に造波抵抗を低減する第一形態と、軽荷時に好適に造波抵抗を低減する第二形態とにしたことにより、満載時や軽荷時での造波抵抗を適宜低減することが可能である。しかも、バルブ21’を第一形態と第二形態とに変更するには、バルブ21’を船体1側に対して上下に180度回転させるだけでよいため、設計が容易である。しかも、第一形態および第二形態でのバルブ21’は、船体1の船底12よりも下方に突出することがないため、船体1の推進性能を低下させことがない。
【0054】
また、実施の形態2のバルバスバウ装置2’では、回転機構3により、バルブ21を船体1に接合した状態で上下に180度回転させる。
【0055】
かかる構成によれば、バルブ21’の各形態への変更を容易に行うことが可能になる。
【0056】
また、実施の形態1のバルバスバウ装置2では、各形態に配置されたバルブ21’の基端21a’よりも船体1の後側の上面と、船体1の前面とを滑らかな曲面で繋ぐフェアリング部材4を備えており、バルブ21’がフェアリング部材4よりも船体1の前側で船体1側に対して別体に分割された形態で船体1に接合されている。
【0057】
かかる構成によれば、軽荷時に喫水線W2からバルブ21’の上端が表出してもフェアリング部材4により波の破砕による抵抗を低減することが可能である。しかも、バルブ21’をフェアリング部材4よりも船体1の前側にも受けたことで、船体1側に固定されたフェアリング部材4が、各形態に変更する際のバルブ21’に対して何ら干渉することはない。このため、上述した実施の形態1のように、フェアリング部材4を移動させる必要がなくなる。この結果、フェアリング部材4を船体1側から外してバルブ21’から離隔させる構成や、フェアリング部材4をバルブ21’に対して離隔または接近させるように船体1側にフェアリング部材4をスライド移動可能に支持する支持機構5などをなくすことで、部品点数を減少させて製造コストを低減することが可能である。しかも、フェアリング部材4を移動させることなくバルブ21’の形態変更を行えるので、上述した実施の形態1と比較してバルブ21’の各形態への変更をさらに容易に行うことが可能になる。
【0058】
また、実施の形態2の船舶では、上述したバルバスバウ装置2’を適用したことにより、設計が容易で、かつ船体1の推進性能を低下させる要因を増やすことなく、満載時や軽荷時での造波抵抗を低減することができる。さらに、実施の形態2の船舶では、回転機構3により、バルブ21’の各形態への変更を容易に行うことが可能になる。さらにまた、実施の形態2の船舶では、フェアリング部材4により波の破砕による抵抗を低減することが可能であり、かつフェアリング部材4を、移動させることなく、部品点数を減少させて製造コストを低減することが可能であり、かつ上述した実施の形態1と比較してバルブ21’の各形態への変更をさらに容易に行うことが可能になる。
【0059】
[実施の形態3]
この実施の形態3のバルバスバウ装置2”は、上述した実施の形態1で説明した船舶に適用される。このバルバスバウ装置2”は、上述した実施の形態1および実施の形態2で説明したバルバスバウ装置2,2’に対し、図7および図8に示すカバー部材6をさらに備えたものである。したがって、本実施の形態2では、実施の形態1および実施の形態2のバルバスバウ装置2,2’と同等部分に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0060】
カバー部材6は、第一形態に配置されたバルブ21(21’)の前側上部から上方に突出されると共に、船体1に荷が満載された満載時での喫水線W1の下側に配置されるものである。本実施の形態3では、第一形態に配置されたバルブ21(21’)の前端21b(21b’)の上部から、フェアリング部材4の下端までの間で、実施の形態1および実施の形態2のバルブ21(21’)の前側上部から上方に突出されている。このカバー部材6は、バルブ21(21’)に対して別体に分割された形態で、バルブ21(21’)に接合されている。そして、カバー部材6は、バルブ21(21’)に接合される接合面であるカバー部材6の基端6aの面から、上側に最も突出する上端6bに向かうに連れて滑らかな凸曲面により窄まって形成されている。また、カバー部材6は、バルブ21(21’)に接合された形態で、バルブ21(21’)の表面と滑らかな曲面で繋がって形成されている。
【0061】
このカバー部材6は、バルブ21(21’)に対して着脱自在に設けられている。例えば、カバー部材6の基端6a側の周囲には、ボルト6cを挿通する孔が設けられていて、この孔に挿通したボルト6cをバルブ21(21’)に締め込むことでカバー部材6がバルブ21(21’)に取り付けられる。一方、ボルト6cを緩めることでカバー部材6がバルブ21(21’)から取り外される。本実施の形態3では、第一形態に配置したバルブ21(21’)に対してカバー部材6が取り付けられ、第二形態に配置したバルブ21(21’)からカバー部材6が取り外される。
【0062】
かかる実施の形態3のバルバスバウ装置2”によれば、第一形態に配置されたバルブ21(21’)の前側上部から上方に突出すると共に、満載時での喫水線W1の下側に配置されるカバー部材6を、バルブ21(21’)に着脱自在に設けたことにより、このカバー部材6が、第一形態でのバルブ21(21’)の造波抵抗の低減効果を向上することが可能である。しかも、カバー部材6は、バルブ21(21’)を第二形態とした場合に取り外せるので、第二形態としたバルブ21(21’)の下側で、船体1の船底12よりもカバー部材6が突出して船体1の推進性能を低下させる抵抗となる事態を防ぐことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明にかかるバルバスバウ装置および船舶は、設計が容易で、かつ船体の推進性能を低下させる要因を増やすことなく、満載時や軽荷時での造波抵抗を低減することに適している。
【符号の説明】
【0064】
1 船体
11 船首
12 船底
2,2’,2” バルバスバウ装置
21,21’ バルブ
21a,21a’ 基端
21b,21b’ 前端
3 回転機構
31 回転軸
32 軸受
33 モータ
4 フェアリング部材
5 支持機構
51 腕部
52 ラック
53 レール
54 ピニオン
55 モータ
6 カバー部材
6a 基端
6b 上端
6c ボルト
S 軸心
W1 満載時の喫水線
W2 軽荷時の喫水線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶における船体の船首にて、船体の前側に向けて球状に突設されたバルブを備えるバルバスバウ装置において、
前記バルブは、前記船体側に対して分割され、前記船体側に向く基端が上下対称形状に形成されていると共に上下に180度回転して前記船体側に接合可能に設けられ、かつ180度回転した場合、前記船体の前側に最も突出する前端を自身の中央よりも上側に配置される第一形態と、前記前端を自身の中央よりも下側に配置される第二形態とをなす態様で、前記前端の位置が上下に片寄って形成されていると共に、前記船体の船底よりも下方に突出することなく形成されていることを特徴とするバルバスバウ装置。
【請求項2】
前記バルブを前記船体側に接合したままの状態で上下に180度回転させる回転機構を備えることを特徴とする請求項1に記載のバルバスバウ装置。
【請求項3】
各前記形態に配置された前記バルブの基端の上面と前記船体の前面とを滑らかな曲面で繋ぐフェアリング部材を備え、
前記バルブの回転に際して前記フェアリング部材を前記バルブに対して離隔可能に設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のバルバスバウ装置。
【請求項4】
前記フェアリング部材を前記バルブに対して離隔または接近させる態様で、前記船体に前記フェアリング部材をスライド移動可能に支持する支持機構を備えることを特徴とする請求項3に記載のバルバスバウ装置。
【請求項5】
前記第一形態に配置された前記バルブの前側上部から上方に突出すると共に満載時での喫水線の下側に配置されるカバー部材を、前記バルブに着脱自在に設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のバルバスバウ装置。
【請求項6】
船体の船首に、前記請求項1〜5のいずれか一つに記載のバルバスバウ装置が設けられていることを特徴とする船舶。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−188953(P2010−188953A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37728(P2009−37728)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)