説明

バルブシート加工工具

【課題】より実用的なバルブシート加工工具を得る。
【解決手段】二点鎖線で示すように、リーマホルダ28を加工時における前進端位置より前方の着脱時位置へ前進させ、非円形の嵌合部256の非円形の嵌合穴96への嵌合により主体部26に対する相対回転を防止するとともに、フック340のV溝310への嵌入により軸方向の相対移動を防止する。作業者は主体部26,リーマホルダ28を一体的に回転させ、主軸32,リーマ軸232との軸方向の係合を解除してそれらから取り外し、工作機械外においてリーマホルダ28の主体部26からの取外し,取付けを行う。そのため、加工を中断することなく、リーマ262のリーマブッシュ194からの抜き出し,挿入作業を、リーマ262の刃先が損傷しないように慎重に行うことができる。作業者は、主体部26,リーマホルダ28を一体の組付体とした状態で主軸32,リーマ軸232に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのバルブシートおよびバルブガイド孔を加工するバルブシート加工工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バルブシート加工工具には、下記の特許文献1に記載されているように、バルブシートを加工する刃具およびリーマを保持し、バルブシートとバルブガイド孔とを一工程で連続的に加工する工具がある。このバルブシート加工工具は、バルブシート加工刃具が取り付けられ、バルブシートの加工を行う主体部と、リーマを保持し、バルブガイド孔の加工を行うリーマ保持部とを備え、それぞれ、主軸とリーマ軸とに軸方向に相対移動不能かつ回転伝達可能に取り付けられる。このバルブシート加工工具においては、主体部およびリーマ保持部をそれぞれ、主軸およびリーマ軸から取り外すことができ、主体部が主軸から取り外された後、リーマを保持したリーマ保持部がリーマ軸から取り外される。また、リーマを保持したリーマ保持部がリーマ軸に取り付けられた後、主体部が主軸に取り付けられる。リーマ保持部はリーマを保持した状態でリーマ軸に取付け,取外しされるため、リーマの交換や刃先位置の調整を工作機械の外で行うことができる。そのため、リーマ保持部がリーマ軸に取り付けられれば、刃先位置を調整されたリーマがリーマ軸に取り付けられた状態が直ちに得られ、リーマ軸への取付け後に刃先位置の調整が行われる場合に比較して加工中断時間が短くて済み、稼働率の低下が抑制される。バルブシート加工刃具および主体部についても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−107086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のバルブシート加工工具にも未だ改善の余地がある。例えば、主体部およびリーマ保持部をそれぞれ主軸およびリーマ軸に対して着脱する際には、リーマを主体部に設けられたリーマブッシュから抜け出させ、取付け時にはリーマブッシュにリーマを挿入するのであるが、この作業はリーマの刃先が欠損しないように慎重に行うことが必要であり、時間を要する。そして、特許文献1に記載のバルブシート加工工具においては、主体部が先に主軸から取り外され、その後、リーマ保持部がリーマ軸から取り外され、リーマ保持部がリーマ軸に取り付けられた後、主体部が主軸に取り付けられるため、リーマのリーマブッシュに対する抜き出し,挿入作業が工作機械内で行われることとなり、加工中断時間が長く、稼働率が低下する。主体部はバルブシート加工刃具の保持部や主軸と係合する係合部等が設けられて大形であり、重く、その主体部を作業者が持ち、リーマの刃先が欠損しないように主体部をリーマに嵌合し、あるいはリーマから離脱させることは容易ではなく、作業が慎重にならざるを得ず、加工中断時間が長くなって稼働率が低下することを避け得ないのである。主体部からリーマブッシュを取り外しておけば、主体部とリーマとの間に大きい隙間が得られ、主体部の取付作業が容易とはなるが、それでも未だ相当注意して行うことが必要であり、かつ、リーマブッシュの着脱作業が必要になる。
本発明は、このような実情に鑑みて、より実用的なバルブシート加工工具を得ることを課題として為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は、エンジンのバルブが着座するテーパ内周面状のバルブシートと、前記バルブを案内するバルブガイド孔とを一工程で連続的に加工するバルブシート加工工具を、(a)前記バルブシートを加工する1つ以上の刃具を保持して工作機械の主軸に着脱可能に取り付けられるとともに、リーマガイド孔を備えた主体部と、(b)前記リーマガイド孔に案内されつつ前記バルブガイド孔の内周面を加工するリーマを保持し、前記主軸の内側に軸方向に相対移動可能に配設されたリーマ軸に着脱可能に取り付けられるリーマ保持部と、(c)それら主体部およびリーマ保持部が前記主軸および前記リーマ軸に取り付けられた状態で、前記リーマ保持部の前記主体部に対する軸方向の相対移動を許容する一方、それら主体部およびリーマ保持部が前記主軸および前記リーマ軸から取り外された状態で、前記リーマ保持部の前記主体部に対する相対回転および軸方向の相対移動を防止する仮保持装置とを含むものとすることにより解決される。
主体部は、主体部の本体を成す本体部材により直接刃具を保持するものでも、本体部材に相対移動可能に保持された可動保持部材を介して刃具を保持するものでも、本体部材と可動保持部材との両方に刃具を保持するものでもよい。
【発明の効果】
【0006】
主体部およびリーマ保持部は、主軸およびリーマ軸に取り付けられた状態では軸方向に相対移動可能であり、リーマが主体部に対して前進,後退させられてバルブガイド孔の内周面を加工する。主体部およびリーマ保持部は、主軸およびリーマ軸から取り外された状態では、仮保持装置によって相対回転および軸方向の相対移動が防止されるため、一体的に主軸およびリーマ軸から取り外し、取り付けることができ、リーマが主体部に挿入されたままの状態で取付け,取外し作業を行うことができる。そのため、取外し後、作業者は仮保持装置によるリーマ保持部の保持を解いて主体部から取り外し、リーマやバルブシート加工刃具の交換,刃先位置調整等の作業を行い、リーマ保持部を再び主体部に取り付るのであるが、これらの作業は工作機械の外において行われる。したがって、作業者がリーマ保持部により保持されたリーマの主体部からの抜き出しおよび挿入を時間を掛けて慎重に行っても、加工が長く中断されることがなく、稼働率を低下させず、リーマの刃先の欠損の恐れなく、主体部に対するリーマ保持部の取付け,取外し作業を行うことができる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施形態の記載,従来技術等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、(7)項が請求項5に、(9)項が請求項6に、(13)項が請求項7にそれぞれ相当する。
【0009】
(1)エンジンのバルブが着座するテーパ内周面状のバルブシートと、前記バルブを案内するバルブガイド孔とを一工程で連続的に加工するバルブシート加工工具であって、
前記バルブシートを加工する1つ以上の刃具を保持して工作機械の主軸に着脱可能に取り付けられるとともに、リーマガイド孔を備えた主体部と、
前記リーマガイド孔に案内されつつ前記バルブガイド孔の内周面を加工するリーマを保持し、前記主軸の内側に軸方向に相対移動可能に配設されたリーマ軸に着脱可能に取り付けられるリーマ保持部と、
それら主体部およびリーマ保持部が前記主軸および前記リーマ軸に取り付けられた状態で、前記リーマ保持部の前記主体部に対する軸方向の相対移動を許容する一方、それら主体部およびリーマ保持部が前記主軸および前記リーマ軸から取り外された状態で、前記リーマ保持部の前記主体部に対する相対回転および軸方向の相対移動を防止する仮保持装置と
を含むことを特徴とするバルブシート加工工具。
(2)前記仮保持装置が、
前記主体部に設けられた第1係合部と、
前記リーマ保持部に設けられ、前記第1係合部と係合することにより、その第1係合部に対する軸方向の相対移動が不能となる第2係合部と、
それら第1係合部と第2係合部とを、それらが互いに係合する状態と係合しない状態とに変更可能な状態変更装置と、
少なくともその状態変更装置が前記第1係合部と前記第2係合部とを互いに係合する状態に保っている状態では、前記リーマ保持部の前記主体部に対する相対回転を防止する相対回転防止装置と
を含む(1)項に記載のバルブシート加工工具。
リーマ保持部の主体部に対する軸方向の相対移動が防止された状態では相対回転も防止され、主体部とリーマ保持部とを一体的に回転させることができる。また、リーマ保持部の主体部に対する位相が決められ、この決められた位相で主体部およびリーマ保持部の主軸およびリーマ軸への取付けを行うことができる。
(3)前記第2係合部が前記リーマ保持部に形成された係合凹部であり、前記第1係合部が前記主体部に対して相対移動可能に設けられた係合部材に形成され、前記係合凹部に嵌入離脱可能な係合突部であり、かつ、それら係合凹部と係合突部との形状が、係合突部が係合凹部に嵌入した状態では前記リーマ保持部の前記主体部に対する軸方向の相対移動を防止する形状とされた(2)項に記載のバルブシート加工工具。
(4)前記第2係合部が前記リーマ保持部に固定的に設けられる一方、前記第1係合部が前記主体部に対して相対移動可能に設けられた係合部材に形成され、前記状態変更装置が前記係合部材を前記第1係合部が前記第2係合部に係合する向きに付勢する係合部材付勢装置を含み、かつ、前記第1係合部と前記第2係合部との形状が、前記主体部と前記リーマ保持部とに、それらを軸方向に互いに離脱させる向きの設定力以上の力が加えられれば、前記係合部材付勢装置の付勢力に抗して前記第1係合部と前記第2係合部との係合が外れる形状に選定された(2)項または(3)項に記載のバルブシート加工工具。
第1係合部を、主体部に半径方向の成分を含む方向に移動可能に保持され、操作部材の手動操作に基づいて作動する移動装置により、第2係合部と係合する作用位置と、係合しない退避位置とに移動させられる係合部材とすることも可能であり、この場合には、操作部材および移動装置が状態変更装置を構成することとなる。しかし、本項に記載の構成を採用すれば、第1係合部と第2係合部とを係合,離脱させるための手動操作を不要とし得る効果が得られる。
(5)前記第2係合部が前記リーマ保持部に形成された係合凹部であり、前記第1係合部が前記主体部に対して相対移動可能に設けられた係合部材に形成され、前記係合凹部に嵌入離脱可能な係合突部であり、かつ、前記係合部材が、前記主体部に、その主体部の中心軸線と直角に立体交差する回動軸線のまわりに回動可能に保持されたフックであり、前記係合部材付勢装置がそのフックを前記係合凹部と係合する向きに付勢する弾性部材を含む(4)項に記載のバルブシート加工工具。
(6)前記係合凹部が前記リーマ保持部の外周面に周方向に形成されたV溝である(5)項に記載のバルブシート加工工具。
例えば、係合凹部をテーパ内周面を有するテーパ穴とし、係合部材にテーパ外周面を有するテーパ突部を設ければ、テーパ突部がテーパ穴に嵌入した状態では、リーマ保持部の主体部に対する軸方向の相対移動と相対回転との両方が防止されることとなり、係合部材とテーパ穴とに相対回転防止装置を兼ねさせることができる。
それに対し、本項におけるように係合凹部をV溝とすれば、加工精度を向上させることが容易となり、リーマ保持部と主体部との軸方向の相対位置決め精度が向上する効果が得られる。ただし、第1係合部および第2係合部とは別に相対回転防止装置を設けることが必要である。
本項に記載の特徴は、(3)項に記載のバルブシート加工工具にも適用可能である。
(7)前記第1係合部と前記第2係合部とが、前記リーマ保持部が前記主体部に対して前記バルブガイド孔の加工時における前進端位置より前方の着脱時位置にある状態で、互いに係合する相対位置に設けられた(2)項ないし(6)項のいずれかに記載のバルブシート加工工具。
加工時にはリーマ保持部を、第1,第2係合部が係合する位置と、それより後方の位置との間で移動させてもよく、その係合位置を前方へ超えた位置と、係合位置より後方の位置との間で移動させてもよい。しかし、それらの場合には、加工が行われ、リーマ保持部が前進,後退させられる毎に第1,第2係合部が係合,離脱を繰り返すため、第1,第2係合部が摩耗し、寿命が低下する。
それに対し、本項に記載のバルブシート加工工具によれば、加工時にはリーマ保持部は第1,第2係合部が係合する位置まで移動させられず、それらが係合しない範囲で往復移動させられるため、第1,第2係合部の摩耗が抑制され、寿命が向上する。
(8)前記相対回転防止装置が、前記主体部に形成された横断面形状が非円形の嵌合穴と、前記リーマ保持部に形成され、前記嵌合穴に相対回転不能に嵌合する嵌合部とを含む(2)項ないし(7)項のいずれかに記載のバルブシート加工工具。
(9)前記主体部がその主体部の本体を成す本体部材を含み、その本体部材が、前記主軸に対する特定の相対回転位相で、その主軸に設けられた主軸側係合部と軸方向に嵌合され、その相対回転位相から、加工時に作用するトルクに基づく相対回転の方向に一定角度相対回転させられることにより、前記主軸側係合部と軸方向に離脱不能に係合する本体部材側係合部を備えるとともに、前記リーマ保持部も、前記本体部材側係合部の前記主軸側係合部との係合に伴って、前記リーマ軸に設けられたリーマ軸側係合部と軸方向に離脱不能に係合するリーマ保持部側係合部を備える(1)項ないし(8)項のいずれかに記載のバルブシート加工工具。
主体部およびリーマ保持部が同時に主軸およびリーマ軸に軸方向に離脱不能に係合させられ、主体部およびリーマ保持部の主軸およびリーマ軸に対する着脱操作が簡単である。
(10)少なくとも、前記本体部材側係合部が前記主軸側係合部と軸方向に嵌合された状態においては、前記本体部材に対して前記リーマ保持部を、前記リーマ保持部側係合部が前記リーマ軸側係合部と軸方向に嵌合する向きに付勢するリーマ保持部付勢装置を含む(9)項に記載のバルブシート加工工具。
本項の構成を採用すれば、リーマまたはリーマ保持部に直接、リーマ保持部側係合部がリーマ軸側係合部と軸方向に嵌合する向きの力を加えなくても、それらが嵌合することが保証される。
リーマ保持部付勢装置は、例えば、主体部に軸方向に移動可能に保持されたスプリングリテーナと、そのスプリングリテーナをリーマ軸に接近する向きに付勢するスプリングと、そのスプリングの弾性力に基づく前記スプリングリテーナの移動限度を規定するストッパとを設け、本体部材側係合部が主軸側係合部と軸方向に嵌合された状態においては、スプリングリテーナがリーマ保持部に当接してストッパから離間し、スプリングの弾性力がスプリングリテーナを介してリーマ保持部に加えられるものとすることができる。しかし、次項に記載の構成を採用すれば、専用のリーマ保持部付勢装置を設ける必要がなくなる。
(11)前記主体部がその主体部の本体を成す本体部材を含み、その本体部材が、前記主軸に対する特定の相対回転位相で、その主軸に設けられた主軸側係合部と軸方向に嵌合され、その相対回転位相から、加工時に作用するトルクに基づく相対回転の方向に一定角度相対回転させられることにより、前記主軸側係合部と軸方向に離脱不能に係合する本体部材側係合部を備えるとともに、前記リーマ保持部も、前記本体部材側係合部の前記主軸側係合部との係合に伴って、前記リーマ軸に設けられたリーマ軸側係合部と軸方向に離脱不能に係合するリーマ保持部側係合部を備え、
前記第2係合部が前記リーマ保持部に固定的に設けられる一方、前記第1係合部が前記主体部に対して相対移動可能に設けられた係合部材に形成され、
前記状態変更装置が、前記係合部材を前記第1係合部が前記第2係合部に係合する向きに付勢する係合部材付勢装置を含み、かつ、
前記第1係合部と前記第2係合部との形状が、前記本体部材側係合部が前記主軸側係合部と軸方向に嵌合した状態では、前記係合部材付勢装置の付勢力に基づいて、前記リーマ保持部を、前記リーマ保持部側係合部が前記リーマ軸側係合部と軸方向に嵌合する向きに付勢する付勢力を発生させる形状に選定された(2)項または(3)項に記載のバルブシート加工工具。
本項に記載の係合部材付勢装置は、(10)項に記載のリーマ保持部付勢装置としても機能し、(10)項に記載のバルブシート加工工具に得られる効果が、本項に記載のバルブシート加工工具についても得られる。
(12)前記第1係合部と前記第2係合部との形状が、さらに、前記主体部と前記リーマ保持部とに、それらを軸方向に互いに離脱させる向きの設定力以上の力が加えられれば、前記係合部材付勢装置の付勢力に抗して前記第1係合部と前記第2係合部との係合が外れる形状に選定された(11)項に記載のバルブシート加工工具。
(4)項に記載のバルブシート加工工具に得られる効果が、本項に記載のバルブシート加工工具についても得られる。
(13)前記主体部が、
前記主軸に取り付けられる本体部材と、
その本体部材に、前記主体部の中心軸線に対して前方に向かうに従ってその中心軸線に接近する向きに傾斜した方向に移動可能に保持され、前記バルブシートを加工する刃具を保持する可動刃具保持部材と、
前記本体部材に軸方向に相対移動可能かつ相対回転不能に保持された駆動部材と、
その駆動部材の軸方向の運動を前記可動刃具保持部材の傾斜方向の運動に変換する運動変換機構と
を含み、かつ、前記駆動部材が、前記主軸の内側に配設された駆動軸に設けられた駆動軸側係合部と、特定の相対回転位相で軸方向に嵌合され、その相対回転位相から、加工時に作用するトルクに基づく相対回転の方向に一定角度相対回転させられることにより、前記駆動軸側係合部と軸方向に離脱不能に係合する駆動部材側係合部を備えるとともに、前記リーマ保持部も、前記駆動部材側係合部の前記駆動軸側係合部との係合に伴って、前記リーマ軸に設けられたリーマ軸側係合部と軸方向に離脱不能に係合するリーマ保持部側係合部を備える(1)項ないし(12)項のいずれかに記載のバルブシート加工工具。
主体部により保持される刃具が本体部材により直接保持される刃具のみであれば、本項に記載の駆動部材および運動変換機構は不要となり、工作機械側においては駆動軸が不要となり、バルブシート加工工具を汎用の工作機械の主軸に取り付けて加工を行わせることが可能である。
(14)前記リーマ保持部が、前記リーマ保持部側係合部が前記リーマ軸側係合部と係合して前記リーマ軸に取り付けられた状態で、加工時に切削抵抗に基づいて作用するトルクに基づく前記リーマ保持部と前記リーマ軸との正方向の相対回転を防止する正方向回転ストッパと、逆方向の相対回転を抑制する逆方向回転抑制部とを含む(9)項または(13)項に記載のバルブシート加工工具。
加工時に、被加工物からの切削抵抗に基づくトルクの作用によりリーマ保持部がリーマ軸に対して正方向に回転させられることが、正方向回転ストッパにより防止され、非加工中における回転減速時のリーマ保持部の回転慣性や、加工時にリーマに作用するトルクの変動に起因して、リーマ保持部に作用する逆方向の回転トルクによりリーマ保持部がリーマ軸に対して逆方向に回転させられることが、逆方向回転抑制部により抑制される。
(15)前記逆方向回転抑制部が、前記リーマ保持部に設けられた係合凹部であって、前記リーマ軸に半径方向内向きに付勢された状態で設けられた係合突部と係合することにより、前記加工時に作用するトルクとは逆向きのトルクが設定トルクより小さい場合にはリーマ保持部のリーマ軸に対する逆方向の相対回転を防止するが、設定トルク以上になれば前記逆方向の相対回転を許容する係合凹部を含む(14)項に記載のバルブシート加工工具。
設定トルクは、(14)項に関して説明した逆方向の回転トルクによって、リーマ保持部がリーマ軸に対して逆方向に回転させられることを防止し得る大きさに設定される。しかし、設定トルク以上の逆向きのトルクを加えれば、主体部とともにリーマ保持部をリーマ軸に対して係合時とは逆方向に回転させ、リーマ保持部とリーマ軸との係合を解くことができる。
(16)前記主体部が、その主体部の本体を成す本体部材と、その本体部材に着脱可能に保持され、前記リーマガイド孔を有するリーマブッシュとを含む(1)項ないし(15)項のいずれかに記載のバルブシート加工工具。
リーマはリーマガイド孔に軸方向に相対移動可能に嵌合され、移動を案内されるとともに補強される。リーマ保持部を主体部に対して取付け,取外しする際には、リーマをリーマブッシュと嵌合させ、離脱させることとなるが、リーマ保持部および主体部が共に主軸およびリーマ軸から外された状態で作業が行われるため、バルブシート加工工具の稼動率を低下させることなく、時間を掛けて慎重に作業を行うことができる。特に、重量の大きい主体部を支持装置に支持させ、重量の小さいリーマ保持部を手に持って嵌合,離脱を行えば、作業が一層容易になる。いずれにしても、リーマブッシュを主体部から取り外さなくてもよく、余分な作業を省略できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態であるバルブシート加工工具を示す正面断面図である。
【図2】上記バルブシート加工工具の主体部およびリーマホルダを示す正面断面図である。
【図3】上記主体部を構成する駆動部材を示す断面図であり、図4におけるIII-III断面図である。
【図4】上記駆動部材を示す左側面図である。
【図5】上記駆動部材の前端部を示す平面断面図である。
【図6】上記駆動部材を示す右側面図である。
【図7】上記バルブシート加工工具を、鋼球および逆方向回転抑制部が設けられた部分において断面にして示す図である。
【図8】上記バルブシート加工工具を、クランプ部材回転駆動装置およびキーが設けられた部分において断面にして示す図である。
【図9】上記バルブシート加工工具の駆動軸およびリーマ軸を示す左側面図であり、リーマホルダを嵌合軸部において断面にして示す図である。
【図10】上記リーマ軸を示す左側面図である。
【図11】上記リーマホルダを示す断面図であり、図12におけるXI-XI断面図である。
【図12】上記リーマホルダを示す左側面図である。
【図13】上記リーマホルダを示す右側面図である。
【図14】上記駆動部材が駆動軸に係合させられ、リーマホルダがリーマ軸に係合させられた状態を示す右側面断面図である。
【図15】上記駆動軸,リーマ軸およびリーマホルダを逆方向回転抑制部が設けられた部分において断面にして示す側面図である。
【図16】上記主体部に取り付けられるフック保持部材を示す正面断面図である。
【図17】上記フック保持部材を示す右側面図である。
【図18】上記フック保持部材にフックが取り付けられた状態を示す左側面図である。
【図19】上記駆動部材の嵌合穴にリーマホルダの嵌合部が嵌合された状態を示す左側面断面図である。
【図20】上記主体部とリーマホルダとの仮保持装置による仮保持を説明する図である。
【図21】上記主体部およびリーマホルダの主軸およびリーマ軸からの取外しを説明する図である。
【図22】上記リーマホルダの主体部からの取外しを説明する図である。
【図23】上記リーマホルダの主体部への取付けを説明する図である。
【図24】上記主体部およびリーマホルダの主軸およびリーマ軸への取付けを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、請求可能発明の実施形態を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施形態の他、上記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更を施した態様で実施することができる。
【0012】
図1に、請求可能発明の一実施形態としてのバルブシート加工工具が図示されている。本バルブシート加工工具により、エンジンのシリンダヘッドにおけるバルブシート10およびバルブガイド孔12が加工される。バルブシート10はエンジンのバルブが着座するテーパ内周面状を成し、その軸方向において互いに隣接する3箇所にそれぞれ、角度の異なるテーパ内周面14,16,18が形成される。バルブシート10の前方にバルブガイド20が形成されており、そのバルブガイド20内にバルブガイド孔12が形成され、バルブ(図示省略)を案内する。
【0013】
本バルブシート加工工具は、図1に示すように、バルブシート10を加工する刃具を保持する主体部26と、バルブガイド孔12を加工するリーマを保持するリーマ保持部としてのリーマホルダ28とを含む。主体部26は、特開2003−181706号公報に記載の主体部とほぼ同様に構成されており、簡単に説明する。主体部26は、アダプタ30を介して工作機械の主軸32の先端に着脱可能に取り付けられる。アダプタ30は段付の円筒状を成し、軸方向の中間部から半径方向外向きに延び出させられた外向きフランジ部34を備え、外向きフランジ部34より後側(主軸32側)の部分が取付部36とされ、前側(被加工物側)の部分が嵌合突部38とされている。嵌合突部38の外周面は、前方ほど直径が直線的に減少するテーパ外周面40とされている。また、外向きフランジ部34の前端面42には、横断面形状が円形を成す係合突部44が突設され、係合部を構成している。アダプタ30は、取付部36において主軸32の中心孔46の嵌合穴48に嵌合されるとともに、外向きフランジ部34が主軸32の先端面に当接させられ、同軸にかつ軸方向に位置決めされる。その状態で外向きフランジ部34を通って主軸32にボルト(図示省略)が螺合されることにより、アダプタ30が主軸32に固定されている。アダプタ30は、ボルトが緩められることにより主軸32から取り外される。
【0014】
主体部26は、図1に示すように、その本体を成す本体部材52を含み、本体部材52はアダプタ30に着脱可能に、かつ同心に取り付けられる。本体部材52はアダプタ30を介して主軸32に取り付けられるのであり、主体部26は主軸32により、主軸32の軸線と同心な回転軸線まわりに回転させられ、自身の中心軸線のまわりに回転させられる。本体部材52は、円筒状の基部54と、截頭円錐状を成すとともに、直径が複数段階に異なる先端部56とを有しており、基部54の後端面58には、図1および図7に示すように、係合部としての係合凹部62が、本体部材52の中心軸線を中心とする円弧に沿って形成されている。係合凹部62は一定の長さ、本バルブシート加工工具においては、係合凹部62が沿う円弧の中心角が45度である長さに形成されており、外向きフランジ部34の前端面42に突設された係合突部44に係合させられる。
【0015】
本体部材52は、図1に示すように、傾斜T溝66および軸方向溝68を備えている。傾斜T溝66は横断面形状が逆Т字形であり、先端部56のテーパ外周面に沿って、主体部26の中心軸線に対して前方に向かうに従ってその中心軸線に接近する向きに傾斜させられ、中心軸線に対して傾斜した傾斜方向に延びる。軸方向溝68は横断面形状が逆Т字形であり、傾斜Т溝66から主体部26の回転軸線に平行に延びている。傾斜Т溝66および軸方向溝68には、可動刃具保持部材としてのТ字形スライダ(以下、単にスライダと略称する)70が摺動可能に嵌合されている。スライダ70は、傾斜Т溝66に嵌合される傾斜部72と軸方向溝68に嵌合される軸方向部74とを備えている。傾斜部72は横断面形状が逆Т字形とされ、軸方向部74は横断面形状が矩形とされ、傾斜部72は傾斜Т溝66に、浮上がりを防止されるとともに、傾斜Т溝66の底面に沿った方向の移動のみが許容された状態で嵌合されている。
【0016】
スライダ70には、図1に示すように、軸方向部74の前部にバルブシート加工刃具としてのバイト80が主体部26の中心軸線に平行に嵌合され、固定されている。バイト80は、スライダ70の移動により、主体部26の中心軸線に対して傾斜した傾斜方向に移動させられる。バイト80は可動刃具であり、バルブシート10のテーパ内周面16を加工する。最も精度の要求される中央のテーパ内周面16(シート面)が可動刃具により切削されるのである。
【0017】
本体部材52にはまた、図2に示すように、スライダ70が設けられた部分とは位相を異にする2箇所にそれぞれ、バイト82,84が嵌合され、固定されている。バイト82,84は固定刃具であり、前記テーパ内周面14,18を加工する。バイト82,84は、図示を省略する調整装置により、本体部材52に対して移動させられ、刃先位置が調整される。この調整は加工時以外のときに行われ、バイト82,84は加工中は本体部材52に移動不能に取り付けられる。
【0018】
スライダ70は、駆動部材90の移動に基づいて傾斜T溝66の傾斜方向に移動させられる。駆動部材90は、図4に示すように、横断面形状が円形を成し、図3に示すように、軸方向の一端部である前端部は、先端ほど直径が直線的に減少させられたテーパ部92とされるとともに、テーパ部92の一部が、駆動部材90の軸線に対して、前方ほどその軸線に接近する向きに傾斜した平面において切り欠かれて着座面94が形成されている。
【0019】
駆動部材90には、図3に示すように、軸方向に貫通して嵌合穴96が形成されている。嵌合穴96は、図4に示すように、横断面形状が長方形状を成し、その長手方向が、駆動部材90の軸線を含み、前記着座面94の、テーパ部92の周方向における中央部を通る平面に対して直角となる向きに設けられている。駆動部材90にはまた、嵌合穴96の長手方向に隔たった両側面にそれぞれ開口して切欠98が形成されている。切欠98は、嵌合穴96の幅(長手方向と直角な方向の寸法)より短い幅を有し、駆動部材90を軸方向に貫通して形成されている。幅および長さの異なる2つの嵌合穴が駆動部材90の軸線において交差して形成され、長さの長い嵌合穴の両端部が長さの短い嵌合穴の両側へ突出していると考えることもできる。
【0020】
駆動部材90にはさらに、図4および図5に示すように、テーパ部92を直径方向に貫通して溝106が形成されている。溝106は、テーパ部92の先端面に開口させられ、その長手方向が、嵌合穴96の長手方向と平行となる向きに形成され、その幅(長手方向と直角な方向の寸法)は、嵌合穴96の幅と等しくされ、溝106の1対の溝側面108と、嵌合穴96の内側面とは同一平面内に位置させられている。1対の溝側面108にはそれぞれ、溝側面108に開口して凹部110が形成されている。これら凹部110の各内側面は、駆動部材90の軸線を中心線とする円筒面の一部を成す。
【0021】
駆動部材90の後端部には、図6に示すように、駆動部材90の後端面に開口して有底の嵌合穴112が形成されている。嵌合穴112は横断面形状が円形を成し、直径が嵌合穴96に外接する円の直径より大きく、2つの切欠98の最も離れた部分間の距離より小さい穴とされている。また、図3に示すように、嵌合穴112の底部には、駆動部材90の内周面に開口して円環状の溝114が形成されている。この円環状溝114の直径は、1対の切欠98の最も離れた部分間の距離以上と(図示の例では等しく)されている。
【0022】
駆動部材90の円環状溝114を画定する後側の側壁部には、図3および図6に示すように、1対の切欠98と90度位相を異にする箇所をそれぞれ軸方向に貫通して切欠116が形成されている。これら1対の切欠116は、横断面形状,寸法が切欠98と等しくされ、駆動部材90の後端部には、その後端面から円環状溝114に至る2つずつの切欠98,116が等角度間隔に形成され、それら切欠98,116の間の部分がそれぞれ、半径方向内向きの係合突部118を構成している。さらに、駆動部材90には、図3に示すように、前記着座面94に対して直角に延び、嵌合穴96を画定する周壁部を貫通する貫通孔120が形成されている。
【0023】
駆動部材90は、図1に示すように、本体部材52内に設けられた有底のガイド穴126に、軸方向に相対移動可能に嵌合され、本体部材52と同心に保持されるとともに、係合部材128によりスライダ70の傾斜部72に係合させられている。係合部材128は横断面形状が円形を成し、着座面94に着座させられ、前記貫通孔120内に配設されたボルト130が螺合されることにより、本体部材52の中心軸線に対して傾斜し、傾斜T溝66に対して直角な向きに突出する姿勢で駆動部材90に固定されている。
【0024】
係合部材128は、スライダ70の傾斜部72に、その頂面から底面へ貫通して設けられた嵌合穴132に、嵌合穴132の中心線に平行な方向に相対移動可能に嵌合されている。したがって、駆動部材90が軸方向に移動させられれば、係合部材128の傾斜により、スライダ70が傾斜T溝66の傾斜に沿って移動させられ、本体部材52の中心軸線に対して傾斜した傾斜方向に移動させられる。本実施形態においては、係合部材128および嵌合穴132が運動変換機構134を構成している。また、係合部材128の嵌合穴132への嵌合により、駆動部材90の本体部材52に対する相対回転が阻止され、駆動部材90は本体部材52により相対回転不能に保持されている。
【0025】
本体部材52には、図1に示すように、ガイド穴126より直径が大きく、後端面58に開口する有底の嵌合穴150が形成され、ガイド穴126は嵌合穴150の底面に開口させられている。嵌合穴150の内周面は、前記アダプタ30の嵌合突部38のテーパ外周面40と対応する傾斜のテーパ内周面152とされ、両テーパ面40,152がしまり嵌合させられることにより、アダプタ30と本体部材52との心出しが為され、本体部材52の後端面58が外向きフランジ部34の前端面42に当接することにより軸方向の位置が規定される。
【0026】
主体部26とアダプタ30とは、図1に示すロック機構160により固定される。ロック機構160は、アダプタ30を中心線方向に貫通して形成された嵌合穴162内に相対回転可能かつ軸方向に相対移動不能に嵌合されたクランプ部材164,クランプ部材164を回転させるクランプ部材回転駆動装置166および複数、例えば、3個以上、本実施形態においては3個の鋼球168を含む。クランプ部材164は、外周面が段付の円筒状を成し、その後部にはウォームホイール170が一体的に設けられるとともに、アダプタ30に、その中心線と直角に立体交差する軸線まわりに回転可能かつ軸方向に移動不能に嵌合されたウォーム172の一部と噛み合わされている。
【0027】
また、複数の鋼球168は、図1および図7に示すように、アダプタ30の嵌合突部38の周壁を半径方向に貫通して形成された複数、本バルブシート加工工具では3個の保持穴174の各々に、ほぼ嵌合突部38の回転軸線に直交する方向のみに移動可能に嵌合されている。これら保持穴174は等角度間隔で形成され、鋼球168は等角度間隔に配置されている。鋼球168は、嵌合突部38の内周面とテーパ外周面40との両方から突出する大きさを有する。また、クランプ部材164の外周面の複数の鋼球168にそれぞれ対応する部分には、図7に示すように、カム溝176が形成されている。カム溝176は、クランプ部材164の軸線を含む切断面における断面形状が鋼球168の半径より僅かに大きい半径の弓形とされ、周方向に沿って溝の深さが漸減させられている。
【0028】
本体部材52には、図1に示すように、そのテーパ内周面152に開口する円環状溝180が形成されている。円環状溝180の後側の溝側面は、嵌合穴150の中心軸線側ほど後方へ向かう向きに傾斜させられたテーパ内周面182とされている。本体部材52にはまた、テーパ内周面182に開口し、その後端面58から円環状溝180に至る切欠184が複数、例えば、3個以上、本実施形態では3個、等角度間隔に形成されている。主体部26を主軸32に取り付ける際には、3個ずつの切欠184と鋼球168との位相が一致する状態(この状態での本体部材52とアダプタ30との位相を嵌合位相と称する)で本体部材52がアダプタ30に嵌合されるとともに、鋼球168が切欠184に嵌合され、切欠184を通って円環状溝180に対応する位置に位置する状態とされる。この状態から主体部26が、加工時に切削抵抗に基づいて作用するトルクに基づく正方向(そのトルクを主軸32に伝達する方向)の回転方向(以後、正相対回転方向と称する)において一定角度、本バルブシート加工工具においては45度、回転させられることにより、鋼球168が切欠184から外れ、テーパ内周面182に軸方向において係合可能となる。この状態での本体部材52とアダプタ30との位相を係合位相と称する。本体部材52とアダプタ30とが嵌合位相にある状態では、前記係合凹部62および係合突部44は、係合凹部62の正相対回転方向において下流側の端部が係合突部44に嵌合される位相にある。また、本体部材52とアダプタ30とが係合位相にある状態では、係合凹部62と係合突部44とは、係合凹部62の正相対回転方向において上流側の端部が係合突部44に係合し、主軸32の回転をアダプタ30に伝達する位相となる。
【0029】
鋼球168は、前記クランプ部材164が回転させられることにより、テーパ内周面182に係合させられ、あるいは離間させられる。ウォーム172が回転操作され、ウォームホイール170が回転させられてクランプ部材164が回転させられれば、図7に実線および二点鎖線で示すように、カム溝176の鋼球168に係合する部分の深さが変化し、鋼球168の嵌合突部38のテーパ外周面40からの突出量が変化させられる。それにより、鋼球168は、図7に二点鎖線で示すように、テーパ外周面40からの突出量が少なく、アダプタ30に嵌合された本体部材52のテーパ内周面182から離れ、本体部材52とアダプタ30との軸方向の嵌合,離脱を許容する解放状態と、図7に実線で示すように、保持穴174からテーパ外周面40側への突出量が解放状態におけるより多く、テーパ内周面182に押し付けられ、斜面の作用により本体部材52をアダプタ30に押し付け、軸方向においても回転方向においても相対移動不能に固定し、主体部26が主軸32に固定されてクランプされるロック状態とに切り換えられるのである。本バルブシート加工工具においては、ウォームホイール170およびウォーム172がクランプ部材回転駆動装置166を構成し、鋼球168が主軸側係合部を構成し、切欠184と、円環状溝180の切欠184に続く部分であって、切欠184から、主体部26の主軸32に対する取付け時の回転方向において上流側へ延び出し、切欠184と共同して、本体部材52の軸線側から視た形状がL字形を成す係合凹部を構成する部分とが本体部材側係合部を構成している。
【0030】
なお、図示は省略するが、クランプ部材164の先端面には、本体部材52の嵌合穴150の底面をけり上げるけり上げ凸部が軸方向に突出して設けられており、アダプタ30から本体部材52が抜け出すことが許容された状態で、さらにクランプ部材164が回転させられることにより、けり上げ凸部が嵌合穴150の底面に係合して本体部材52をアダプタ30から押し離し、両者が強制的に離間させられる。
【0031】
さらに、本体部材52には、図1に示すように、前記ガイド穴126より径が小さく、本体部材52の先端面190からガイド穴126に至る保持孔192が形成されるとともに、リーマブッシュ194が嵌合され、固定される。リーマブッシュ194の前部には、半径方向外向きの外向きフランジ196が形成され、リーマブッシュ194は外向きフランジ196が本体部材52の先端面190に当接するまで保持孔192に嵌合され、ボルト等、適宜の固定手段によって着脱可能に固定される。リーマブッシュ194は、軸線方向に貫通して形成されたリーマガイド孔198を有し、ガイド穴126に開口させられている。
【0032】
前記駆動部材90は、図1に示す駆動軸200により移動させられる。駆動軸200は円筒状を成し、前記主軸32の中心孔46に軸方向に相対移動可能かつ相対回転不能に嵌合されており、主軸32に対して着脱可能である。駆動軸200は図示を省略する駆動軸駆動装置としてのアクチュエータにより軸方向に移動させられる。駆動軸200の主軸32に対する相対回転は、キー202のキー溝204への嵌合により阻止される。本バルブシート加工工具では、駆動軸200の直径方向に隔たった2箇所にそれぞれ、その外周面に開口し、軸方向に延びる状態でキー溝204が形成され、前記アダプタ30に固定されたキー202の先端部が嵌合されている。
【0033】
キー202は、図8に示すように、アダプタ30の直径方向に隔たった2箇所をそれぞれ、半径方向に貫通して嵌合され、固定されるとともに、クランプ部材164に形成された長穴206を通ってキー溝204に嵌合されている。長穴206は、クランプ部材164を半径方向に貫通し、周方向に延びる状態で形成されている。キー202のキー溝204への嵌合により、駆動軸200の主軸32に対する軸方向の移動が許容されるとともに、相対回転がアダプタ30を介して阻止され、主軸32の回転が駆動軸200に伝達される。また、長穴206により、クランプ部材164のアダプタ30に対する回転が許容される。それぞれ係合部の一種である係合凸部および係合凹部を構成するキー202およびキー溝204が相対回転阻止装置ないし回転伝達装置を構成している。
【0034】
駆動軸200は、図1および図2に示すように、その前部が前記クランプ部材164内に軸方向に相対移動可能に嵌合されており、前記駆動部材90に軸方向に相対移動不能に係合させられる。駆動軸200の前端部には、その外周面に開口する円環状溝210が形成されるとともに、円環状溝210を画定する前側の側壁部を軸方向に貫通して複数、本駆動軸200では4個の切欠212が等角度間隔に形成され、それら切欠212の間にそれぞれ、図9に示すように、半径方向外向きに突出する4個の係合突部214が等角度間隔に形成されている。
【0035】
駆動部材90は駆動軸200の前端部に、駆動部材90の切欠98,116と駆動軸200の係合突部214との位相が一致し、駆動部材90の係合突部118と駆動軸200の切欠212との位相が一致した状態(この状態での駆動部材90と駆動軸200との位相を嵌合位相と称する)で軸方向に接近させられて嵌合され、図2に示すように、係合突部118が駆動軸200の円環状溝210の後側の溝側面に当接するまで嵌合される。その状態では、係合突部214が駆動部材90の円環状溝114内に位置し、係合突部118が円環状溝210内に位置し、駆動部材90が駆動軸200に対して、正相対回転方向へ回転させられれば、係合突部214が切欠98,116から外れ、係合突部118が切欠212から外れ、係合突部214,118が係合させられて駆動部材90と駆動軸200とが軸方向に離脱不能に係合させられる(この状態での駆動部材90と駆動軸200との位相を係合位相と称する)。係合突部214の厚さ(駆動軸200の軸方向に平行な方向の寸法)は円環状溝114の幅より小さくされ、係合突部118の円環状溝210への嵌合を妨げない。
【0036】
本バルブシート加工工具においては、係合突部118が駆動部材側係合部を構成し、4個の切欠212と、円環状溝210の各切欠212に続く部分であって、切欠212から、駆動部材90の駆動軸200に対する取付け時の回転方向において下流側へ延び出し、切欠212と共同して、駆動軸200の軸線側から視た形状がL字形を成す係合凹部を構成する部分とが駆動軸側係合部を構成していると考えてもよく、切欠98,116と、円環状溝114の切欠98,116に続く部分であって、切欠98,116から上記取付け時の回転方向において上流側へ延び出し、切欠98,116と共同して、駆動部材90の軸線側から視た形状がL字形を成す係合凹部を構成する部分とが駆動部材側係合部を構成し、係合突部214が駆動軸側係合部を構成していると考えてもよい。
【0037】
駆動軸200は、図1に示すように、中心線方向に貫通する中心孔230を備え、その中心孔230には、リーマ軸232が軸方向に相対移動可能かつ相対回転不能に嵌合されており、駆動軸200に対して着脱可能である。駆動軸200は、主軸32の中心孔46においてリーマ軸232の外側に軸方向に相対移動可能に嵌合され、リーマ軸232は駆動軸200を介して、主軸32の中心孔46に同心にかつ本体部材52の回転軸線に平行な方向である軸方向に移動可能に保持され、主軸32に対して着脱可能に取り付けられている。
【0038】
駆動軸220とリーマ軸232との相対回転は、1対のキー溝234にキー236が嵌合させられることにより阻止されている。リーマ軸232は円筒状を成し、図1に示すように、その直径方向に隔たった2箇所にそれぞれ、外周面に開口し、軸方向に延びるキー溝234が設けられ、駆動軸200に設けられた一対のキー236(図1には一方のキー236のみが図示されている)がそれぞれ、軸方向に相対移動可能に嵌合されている。それにより、リーマ軸232の駆動軸200に対する相対回転が防止されるとともに、駆動軸200に対する軸方向の移動が案内されている。また、駆動軸200を介して主軸32の回転がリーマ軸232に伝達される。リーマ軸232の後端部は図示を省略するリーマ移動装置に連結され、軸方向に移動させられる。それぞれ係合部の一種である係合凸部および係合凹部であるキー236およびキー溝234が相対回転阻止装置ないし回転伝達装置を構成している。
【0039】
リーマ軸232の先端部には、図2に示すように、その内周面に開口して円環状の溝240が形成されている。また、リーマ軸232の先端には、図2および図10に示すように、複数、本リーマ軸232では2つの切欠242が等角度間隔で形成されている。これら切欠242は、図10に示すように、円環状溝240を画定する前側の側壁部の直径方向に隔たった2箇所をそれぞれ、軸方向に貫通するとともに、円環状溝240の前部に至る長さを有する。切欠242はリーマ軸232の軸線に直角な断面形状が扇形を成し、上記前側の側壁部の2つの切欠242の間の部分はそれぞれ、半径方向内向きの係合突部244を形成している。
【0040】
リーマ軸232には、前記リーマホルダ28が着脱可能に取り付けられる。リーマホルダ28は、図1に示すように、その先端部に設けられたコレットチャック252と、コレットチャック252より後部側の部分からリーマホルダ28の後端に至る嵌合軸部254と、コレットチャック252と嵌合軸部254との間の部分に設けられた嵌合部256(形状および機能については後述する)とを含む。リーマホルダ28は、リーマホルダ28を軸方向に貫通し、コレットチャック252から嵌合軸部254に至るリーマ挿入孔260を有し、リーマ262が挿入される。リーマ262は、前記バルブガイド孔12を加工する工具であり、そのシャンク264の後端部266は、周方向の一部が軸方向に平方に切り欠かれ、横断面形状がD字形を成し、非円形断面部が設けられている。
【0041】
リーマ挿入孔260は、横断面形状が円形を成すが、中心線方向の中間部の横断面形状は、シャンク264の後端部266の横断面形状に対応する形状であって、円の一部が切り欠かれた形状であり、ほぼD字形とされ、回転止め穴268(図11参照)が設けられており、リーマ挿入孔260に挿入されたリーマ262のシャンク264の後端部266が回転止め穴268に嵌合されることにより、リーマ262のリーマホルダ28に対する相対回転が防止される。回転止め穴268が回転防止部を構成している。リーマ挿入孔260にはまた、その後端部に雌ねじ穴270が形成されるとともに、調節ねじ272が螺合されており、リーマ挿入孔260に挿入されたリーマ262の後端に当接して、リーマ262のリーマ挿入孔260への挿入限度を規定する。調節ねじ272が挿入限度規定部を構成している。
【0042】
コレットチャック252は、図2に示すように、リーマホルダ28の先端部に設けられたチャック本体280,チャック本体280内に嵌合されたコレット282およびチャック本体280に螺合されたクランプナット284を含み、クランプナット284が作業者によって回転操作されることにより、コレット282がチャック本体280に対して軸方向に移動させられる。クランプナット284がチャック本体280にねじ込まれれば、コレット282がリーマ挿入孔260内に押し込まれ、縮径させられてリーマ262を保持し、クランプナット284の螺合が緩められれば、コレット282がリーマ挿入孔260から抜け出す方向へ移動させられ、拡径してリーマ262を解放する。
【0043】
リーマホルダ28の嵌合軸部254は、図1に示すようにリーマ軸232の中心を貫通して形成された嵌合孔290に嵌合される。嵌合軸部254の嵌合孔290への嵌合限度は、図2に示すように、嵌合部256の後端面がリーマ軸232の先端面294に当接することにより規定される。本嵌合部256は、図12に示すように、大径のフランジ部に二面取りが施されて横断面形状が小判形を成し、嵌合部256の外周面の直径方向に隔たった2箇所にそれぞれ、互いに平行な平面状の係合面296が形成されている。嵌合部256は、コレットチャック252のクランプナット284および嵌合軸部254より直径が大きく、嵌合軸部254から半径方向外向きに突出させられ、嵌合限度規定部として機能する。また、断面形状が非円形を成す嵌合部256は、駆動部材90の非円形断面の嵌合穴96に嵌合され、それにより、リーマホルダ28の駆動部材90に対する位相が決められ、リーマホルダ28の駆動部材90(主体部28)に対する相対回転が阻止される。
【0044】
嵌合部256の1対の係合面296が設けられた部分にはそれぞれ、図11および図12に示すように、係合突部298が嵌合部256から後方へ(嵌合軸部254側へ)延び出す状態で設けられている。本係合突部298は、板状部材が嵌合部256に固定されることにより設けられ、その外側面は係合面296と同一平面内に位置させられている。
【0045】
嵌合軸部254にはまた、図11および図13に示すように、その外周面の嵌合部256の後端面から後部側へ、リーマ軸232の係合突部244の厚さより僅かに大きい距離離れた部分の、直径方向に隔たった2箇所にそれぞれ、係合突部300が突設されている。これら係合突部300はそれぞれ、図11に示すように、係合突部298より低く、図14に示すように、一対の係合突部298に対して、加工時に切削抵抗に基づいて作用するトルクのリーマホルダ28からリーマ軸232への伝達方向(図14においては反時計方向)において下流側へ45度、離れた位置に形成されている。係合突部300の厚さは、リーマ軸232の円環状溝240の幅より小さくされている。
【0046】
リーマホルダ28の嵌合軸部254はリーマ軸232の嵌合孔290に、リーマホルダ28の係合突部298,300とリーマ軸232の切欠242との位相が一致する状態で嵌合され(この状態でのリーマホルダ28とリーマ軸232との位相を嵌合位相と称する)、図2に示すように、嵌合限度が嵌合部256の後端面のリーマ軸232の先端面294への当接により規定されるとともに、係合突部300がリーマ軸232の円環状溝240内に位置し、リーマ軸232の係合突部244がリーマホルダ28の嵌合部256と係合突部300との間の軸方向の隙間に位置する状態となる。その状態からリーマホルダ28がリーマ軸232に対して、正相対回転方向へ回転させられることにより、図9に示すように、係合突部300が切欠242から外れ、係合突部300と係合突部244(円環状溝240の前側の溝側面)とが軸方向において係合させられ、リーマホルダ28とリーマ軸232とが軸方向において離脱不能に係合させられる。この状態でのリーマホルダ28とリーマ軸232との位相を係合位相と称する。本バルブシート加工工具においては、係合突部300がリーマ保持部側係合部を構成し、リーマ軸232の2個の切欠242と、円環状溝240の各切欠242に続く部分であって、切欠242から、リーマホルダ28のリーマ軸232に対する取付け時の回転方向において下流側へ延び出し、切欠242と共同して、嵌合軸部254の軸線側から視た形状がL字形を成す係合凹部を構成する部分とがリーマ軸側係合部を構成している。
【0047】
また、取付け時におけるリーマホルダ28のリーマ軸232に対する回転は、図9に示すように、係合突部298が切欠242の、正相対回転方向において下流側の端面(リーマホルダ28との間でトルクの伝達を行う側の端面)302に当接することにより止められる。また、この当接により、リーマホルダ28とリーマ軸232との上記正方向の相対回転が防止される。本バルブシート加工工具においては、係合突部298が正方向回転ストッパを構成している。また、リーマ軸232の係合突部244が正方向回転ストッパと当接し、リーマホルダ28の回転を止めるリーマ軸232側のストッパを構成している。これら係合突部298,244は、加工時にリーマホルダ28とリーマ軸232との間でトルクを伝達するトルク伝達部でもある。リーマホルダ28とリーマ軸232とが係合位相にあるとき、係合突部298,244は回転方向において係合する位相となる。
【0048】
嵌合部256には、図11および図12に示すように、その外周面にV溝310が周方向に形成され、係合凹部を構成している。V溝310は、リーマホルダ28の軸線を中心線とする円環状のV溝が直径方向に隔たった2箇所において1対の係合突部298と直交し、2分された形状を有し、嵌合部256の外周面に開口させられている。嵌合部256のV溝310を画定する前側の側壁部には、その前面の外周部に、前方ほど嵌合部256の軸線に向かう向きに傾斜させられたテーパ面312が形成されている。テーパ面312の傾斜角度(嵌合部256の外周面に対して成す角度)は、V溝310の1対の溝側面のうち、後側の溝側面の傾斜角度より小さくされている。
【0049】
さらに、リーマホルダ28には、図2に示すように、逆方向回転抑制部320が設けられている。本逆方向回転抑制部320は、図15に示すように、複数、本バルブシート加工工具では2つの係合凹部322を含む。これら係合凹部322は、リーマホルダ28の嵌合軸部254の外周面の直径方向に隔たった2箇所にそれぞれ形成されており、リーマ軸232に保持された2個のボール326が係合させられる。
【0050】
リーマ軸232には、図15に示すように、直径方向に隔たった2箇所にそれぞれ、周壁を半径方向に貫通して嵌合穴324が形成されるとともに、ボール326が半径方向に移動可能に嵌合されている。ボール326は、リーマ軸232の内周面と外周面との両方から突出する大きさを有し、係合突部を構成している。リーマ軸232の嵌合穴324が設けられた部分には、リーマ軸232の外周面に開口する円環状溝330が形成され、付勢装置の一種である弾性部材としてのばねである板ばね332が収容されている。板ばね332はC字形を成し、リーマ軸232に巻き付けられてボール326を嵌合穴324内に押し込む向きに付勢している。ボール326の嵌合穴324からの抜出しは、嵌合穴324のリーマ軸232の内周面側開口端部の直径がボール326の直径より小さくされることにより防止され、その状態では、ボール326の一部がリーマ軸232の内周面から突出させられる。嵌合軸部254に形成された係合凹部322は、ボール326の一部のみの嵌入を許容する深さのものとされている。なお、板ばね332の周方向のずれは、円環状溝330の底面から円環状溝330内へ突出して設けられた係止部334に板ばね332の端が当接することにより防止され、ボール326を付勢する状態に保たれる。係止部334は、リーマ軸232の軸線まわりにおいて、2個のボール326の間のちょうど真中の位置に設けられ、板ばね332により2個のボール326が同様に付勢される。
【0051】
リーマホルダ28の嵌合軸部254にはまた、図15に示すように、1対の係合凹部322に対して、正相対回転方向において下流側へ45度離れた位置にそれぞれ、外周面に開口する溝336が形成されている。これら溝336はそれぞれ、図11に一方を示すように、嵌合軸部254の軸方向に長く延び、嵌合軸部254の後端面に開口させられている。リーマホルダ28とリーマ軸232とが前記嵌合位相にあるとき、ボール326と溝336との位相が一致し、嵌合軸部254の嵌合孔290への嵌合が許容される。
【0052】
ボール326は係合凹部322に、リーマホルダ28とリーマ軸232とが係合位相にあり、軸方向に相対移動不能に係合させられた状態において係合可能となる。この際、ボール326は、図15に示すように、板ばね332により付勢されて係合凹部322の内側面の溝336に近い傾斜した端部に係合させられ、それにより、正相対回転方向とは逆の相対回転方向のトルクが作用しても、リーマホルダ28が逆方向に回転することを抑制する。リーマホルダ28は、その係合突部298のリーマ軸232の係合突部244との当接により正方向の相対回転を阻止される一方、逆方向の相対回転は、ボール326と係合凹部322の傾斜面との係合により抑制され、リーマホルダ28とリーマ軸232との相対回転位相が一義的に決められるようになっているのである。
【0053】
上記板ばね332の付勢力の大きさは、非加工状態においてリーマ軸232の回転が停止させられる際に回転慣性に基づいてリーマホルダ28に生じる逆方向のトルク等によって、リーマホルダ28がリーマ軸232に対して逆方向に回転させられることを防止できる一方、リーマホルダ28のリーマ軸232からの取り外しのために意図的に逆方向の回転トルクが加えられれば、リーマホルダ28の逆方向の回転が許容される大きさの設定トルクが得られる大きさに設定されている。それにより、使用中にリーマホルダ28がリーマ軸232に対して逆方向に回転させられ、係合突部300と切欠242との位相が一致してリーマホルダ28がリーマ軸232から離脱することが防止されるとともに、リーマホルダ28の嵌合部256と駆動部材90の嵌合穴96との位相が一致した状態に保たれる。後述するように、リーマホルダ28のリーマ軸232に対する取付け,取外しは、嵌合部256と嵌合穴96との嵌合により主体部26との相対回転が防止され、嵌合部256と嵌合穴96との位相が一致した状態で行われるが、加工時には嵌合部256が嵌合穴96から離脱させられて主体部26とリーマホルダ28とが相対回転可能な状態となる。そのため、逆方向回転抑制部320の作用により、リーマホルダ28のリーマ軸232に対する逆方向の回転が抑制され、主体部26に対する位相が変わらず、取外し時に嵌合部256と嵌合穴96とが必ず嵌合されるようにされているのである。本実施形態においては、逆方向回転抑制部320が2個のボール326および板ばね332と共同して逆方向回転抑制装置を構成している。係合凹部およびボールは、1つずつ設けられてもよく、3つずつ以上、設けられてもよい。
【0054】
前記本体部材52内には、図1および図18に示すように、係合部材としての1対のフック340が回動可能に取り付けられている。これらフック340は、フック保持部材342により保持されている。図18においては、駆動部材90の貫通孔120,着座面94の図示は省略されている。フック保持部材342は、図16および図17に示すように、横断面形状が円形を成す部材の直径方向に隔たった2箇所にそれぞれ、ヨーク部344が半径方向外向きに延び出す状態で設けられるとともに、各ヨーク部344の一対の側壁346の間から係合片348が後方へ延び出させられたものとされており、本バルブシート加工工具ではアルミニウム製とされている。フック保持部材342にはまた、図16に示すように、その前端面に、横断面形状が円形を成す突部350が突設されるとともに、後端面に開口する円形断面の有底穴352および突部350を軸方向に貫通する貫通孔354が形成されている。貫通孔354の直径は、前記リーマブッシュ196のリーマガイド孔198の直径と等しくされ、貫通孔354の有底穴352側の開口端部は、有底穴352側ほど直径が直線的に増大するテーパ穴とされ、ガイド穴356が形成されている。
【0055】
フック保持部材342は、図2に示すように、突部350が前記保持孔192に嵌合され、複数のボルト362により本体部材52に同心状に着脱可能に固定されている。フック保持部材342は本体部材52に、1対のヨーク部344が設けられた方向が前記駆動部材90の溝106の長手方向と平行となり、ヨーク部344が切欠98と対応する状態となる姿勢で固定され、それらヨーク部344にそれぞれ、軸364によりフック340が、本体部材52の中心軸線と直角に立体交差する軸線まわりに回動可能に取り付けられている。
【0056】
フック340は、図2に示すように、L字形を成し、軸364から後方へ延び出させられた一方のアーム部370は、図2および図19に示すように、駆動部材90の前記切欠98内に進入させられ、駆動部材90内に位置させられている。このアーム部370の自由端部には、本体部材52の中心軸線側に突出し、フック340の回動軸線に平行に延びる係合突部372が設けられている。係合突部372は横断面形状が台形を成し、その側面の傾斜は前記V溝310と同じにされ、V溝310に嵌合可能である。
【0057】
フック340は、図2に示すように、他方のアーム部380と本体部材52との間に配設された付勢装置の一種である弾性部材としてのスプリングである圧縮コイルスプリング382により、係合突部372が本体部材52の中心軸線に接近する向きであって、嵌合部256のV溝310と係合する向きに付勢されている。このスプリング382の付勢によるフック340の回動限度は、アーム370がフック保持部材342の前記係合片348に当接することにより規定される。回動限度が規定された状態では、係合突部372はリーマホルダ28の嵌合部256の移動経路内に突出させられ、テーパ面312とは係合可能であるが、コレットチャック252のクランプナット284とは干渉しない位置に位置させられる。リーマホルダ28の嵌合部256は決まった位相で嵌合穴96に嵌合される。したがって、嵌合部256と1対のフック340との位相も変わらず、リーマ保持部28が主体部26により保持されるとき、フック340を嵌合部256に係合させることができる。なお、フックは複数でもよく、1つでもよく、本実施形態においては2つであるが、3つ以上でもよい。
【0058】
以上のように構成されたバルブシート加工工具においては、主体部26およびリーマホルダ28をそれぞれ、主軸32およびリーマ軸232から取り外すことができる。加工時には主体部26が主軸32に固定され、リーマホルダ28がリーマ軸232に取り付けられ、本体部材52とアダプタ30,駆動部材90と駆動軸200,リーマホルダ28とリーマ軸282とはそれぞれ係合位相にある。また、コレットチャック252により保持されたリーマ262はリーマブッシュ194に嵌合された状態にある。
【0059】
バルブシート10およびバルブガイド孔12の加工は、まず、バイト80,82,84によりテーパ内周面14,16,18を加工し、続いてリーマ262によりバルブガイド孔12を加工することにより行われる。加工時には、リーマホルダ28はリーマ軸232の移動により、図2に実線で示す前進端位置(加工終了位置)と、前進端位置より設定距離後方の後退端位置(加工開始位置)との間を移動させられる。前進端位置は、リーマホルダ28の嵌合部256が駆動部材90の嵌合穴96から抜け出させられるとともに、フック340の後方に位置し、フック340がリーマホルダ28と係合せず、リーマホルダ28の主体部26に対する軸方向の相対移動を許容する位置であり、リーマ262はリーマホルダ28により、リーマホルダ28の後退端位置から前進端位置への移動によりバルブガイド孔12の加工を行い得るように保持される。また、フック340は、アーム370が係合片348に当接した位置に位置させられている。
【0060】
バルブシート10およびバルブガイド孔12の加工時には、主軸32が回転させられつつ送り装置(図示省略)により軸方向に前進させられる。それにより、アダプタ30を介して本体部材52が主軸32と共に回転させられ、また、駆動軸200が主軸32と共に回転させられ、主体部28が回転させられてバイト80,82,84が工具本体32の回転軸線のまわりに旋回させられる。そして、まず、バイト82によりテーパ内周面14の切削が行われるとともに、バイト84によりテーパ内周面18の切削が行われる。この切削後、主軸32が小距離後退させられてバイト82,84がテーパ内周面14,18から離間させられる。この状態で駆動軸200が主軸32に対して前進させられ、駆動部材90の前進によりスライダ70が傾斜方向に移動させられ、バイト80によりテーパ内周面16の切削が行われる。駆動部材90の前進時には、フック保持部材342が凹部110に嵌合され、駆動部材90との干渉が回避される。
【0061】
続いて、リーマ軸232が駆動軸200に対して前進させられ、リーマホルダ28が後退端位置から前進端位置へ移動させられ、リーマ262が前進させられてリーマブッシュ194から突出させられるとともに、主軸32の回転により回転させられ、リーマガイド孔198により案内されつつ、バルブガイド孔12の内周面を仕上げ加工する。このようにテーパ内周面14,16,18の切削加工と、バルブガイド孔12の仕上げ加工とが主軸32を軸線と交差する方向に移動させることなく連続的に行われる(並行して行われるようにしてもよい)ため、バルブシート10とバルブガイド孔12との同心度が保証される。
【0062】
主体部26およびリーマホルダ28を主軸32およびリーマ軸232から取り外す際には、リーマ軸232は、図20(a)に示すように、リーマホルダ28が加工時における前進端位置へ移動させられた状態から、図20(b)に示すように、さらに前方の着脱時位置へ前進させられ、リーマホルダ28の嵌合部256が駆動部材90の嵌合穴96に嵌合される。前述のように、逆方向回転抑制部320により、リーマホルダ28のリーマ軸232に対する逆方向の回転が抑制されて、嵌合部256は嵌合穴96との位相が一致させられており、図19に示すように嵌合部256が嵌合穴96に嵌合される。この嵌合の途中で、嵌合部256の傾斜面312が1対のフック340の各係合突部372に係合し、斜面の作用によりフック340をスプリング382の付勢力に抗して、嵌合部256の移動経路から離脱する方向へ回動させるため、リーマホルダ28の前進が許容される。
【0063】
この状態から、リーマホルダ28が更に図2に二点鎖線で示す着脱時位置まで前進させられるが、その途中で一旦図20(c)に、一方のフック340について示すように係合突部372がV溝310に嵌入させられた状態となった後、図20(b)に示すように、係合突部372がV溝310の後方側の溝側面に係合させられる。嵌合部256はコレットチャック252と嵌合軸部254との間の部分に設けられ、フック340は本体部材52に取り付けられるとともに、アーム部370が駆動部材90内に進入させられており、着脱時位置への前進により駆動部材90に嵌合された嵌合部256のV溝310とフック340の係合突部372とは互いに係合することができる。また、嵌合部256の嵌合穴96への嵌合により、主体部26とリーマホルダ28とが相対回転不能に係合させられ、リーマホルダ28を主体部26と一体的に回転させることができる。
【0064】
リーマホルダ28が着脱時位置へ前進させられた後、主体部26およびリーマホルダ28が主軸32およびリーマ軸232から取り外される。
まず、図21(a)に示すように、作業者はウォーム172に工具400を係合させ、ウォーム172を、クランプ部材164を解放状態に切り換える方向に回転させる。それにより、鋼球168がテーパ内周面182から離れ、本体部材52のアダプタ30への押付けが解除される。
【0065】
そして、作業者は、図21(b)に示すように、主体部26をアダプタ30に対して回転させる。この場合、作業者は主体部26を、係合凹部62が、現に係合突部44に係合している端面が係合突部44から離れる方向、本バルブシート加工工具においては主体部26側から見て45度左方向へ回転させる。この際、主体部26と共にリーマホルダ28が回転させられる。そのため、作業者は、設定トルク以上のトルクをリーマホルダ28に作用させ、主体部26およびリーマホルダ28を回転させる。リーマホルダ28は、図15においては反時計方向へ回転させられ、嵌合軸部254の係合凹部322と溝336との間の突部が、板ばね332を弾性変形させつつ、その付勢力に抗してボール326を嵌合穴324へ押し出す。そして、主体部26およびリーマホルダ28が45度回転させられた状態では、本体部材52とアダプタ30,駆動部材90と駆動軸200およびリーマホルダ28とリーマ軸232の各位相が嵌合位相となり、図21(c)に示すように、主体部26およびリーマホルダ28を主軸32およびリーマ軸232から離れる向きに移動させ、それらから取り外すことができる。
【0066】
リーマホルダ28が着脱時位置へ移動させられた状態では、図21(b)に示すように、フック340はV溝310の後側の溝側面に係合させられた状態にあるため、当初、主体部26がリーマホルダ28から離れる方向へ移動させられる。この移動に伴ってフック340がV溝310に対して前進させられるとともに、スプリング382の付勢により、図20(c)に示すように、係合突部372がV溝310に嵌入させられ、V溝310の1対の溝側面に係合させられる。それにより、リーマホルダ28が軸方向の相対移動を防止された状態で主体部26に保持され、主体部26と共に移動させられてリーマ軸232から抜け出させられる。また、リーマホルダ28の主体部26に対する相対回転は、嵌合部256の嵌合穴96への嵌合により防止されている。
【0067】
このように、取外し時に主体部26とリーマホルダ28とは、フック340がV溝310に嵌合されるまで軸方向に相対移動させられるため、主体部26およびリーマホルダ28が主軸32およびリーマ軸232から取り外された状態では、図20(c)に示すように、リーマホルダ28は主体部26に対して、着脱時位置に位置させられる場合より、距離Lだけ後方に位置させられる。
【0068】
一体的に取り外された主体部26およびリーマホルダ28は、工作機械外において、図22に示すように、リーマホルダ28が主体部26から取り外される。リーマホルダ28と主体部26とは、1対のフック340のV溝310への嵌入により係合させられているが、この係合は、作業者が主体部26を持って本体部材52の後端面58に指を掛け、リーマホルダ28を本体部材52から抜け出させる方向に引っ張ることにより解除することができる。作業者は、V溝310の溝側面および係合突部372の傾斜面の斜面の作用により、フック340がスプリング382の付勢力に抗して回動させられ、係合突部372がV溝310から抜け出すことができる大きさの力をリーマホルダ28に軸方向に加える。それにより、係合突部372がV溝310から抜け出させられ、主体部26によるリーマホルダ28の保持が解かれ、作業者はリーマホルダ28を主体部26から取り外し、リーマ262をリーマブッシュ194から抜け出させることができる。本バルブシート加工工具においては、係合突部372が第1係合部を構成し、V溝310が第2係合部を構成し、フック340が係合部材を構成し、スプリング382が状態変更装置を構成する係合部材付勢装置たる弾性部材を構成し、嵌合部256および嵌合穴96が相対回転防止装置を構成し、これらが仮保持装置を構成している。
【0069】
リーマホルダ28を主体部26から取り外した後、例えば、リーマ262,バイト80,82,84の交換および刃先位置の調整等が行われる。そして、図23に示すように、リーマホルダ28が主体部26により保持され、一体の組付体とされてプリセット品置き場に保管される。リーマホルダ28を主体部26に保持させる場合には、作業者は、両者の位相を嵌合部256が嵌合穴96に嵌合される位相に合わせた状態で、リーマホルダ28により保持されたリーマ262をフック保持部材342側からリーマブッシュ194に挿入する。リーマ262のフック保持部材342の貫通孔354への挿入は、ガイド穴356により案内されてスムーズに行われ、リーマ262は貫通孔354を通ってリーマガイド孔198に挿入される。フック保持部材342の貫通孔354は、直径がリーマブッシュ194のリーマガイド孔198の直径と等しくされていてガイド孔として機能し、かつ、フック保持部材342がアルミニウム製とされているため、リーマ262のリーマガイド孔198への挿入時に刃先が欠損し難い。そして、作業者は、嵌合部256を嵌合穴96に嵌合させる。嵌合部256の嵌合穴96への嵌合は、図20(c)に示すように、フック340の係合突部372がV溝310に嵌入した状態になるまで行われ、リーマホルダ28は主体部26により軸方向に離脱不能かつ相対回転不能に保持される。
【0070】
次に、主体部26およびリーマホルダ28の主軸32およびリーマ軸232への取付けを説明する。
取付け時には、リーマ軸232は、リーマホルダ28を着脱時位置に位置させる位置へ前進させられている。作業者は一体とされた主体部26およびリーマホルダ28を持ち、本体部材52とアダプタ30,駆動部材90と駆動軸200およびリーマホルダ28とリーマ軸232の各位相を特定の相対回転位相である嵌合位相に合わせる。これらの位相は、いずれかを嵌合位相とすれば、他も嵌合位相となる。そして、作業者は、図24(a)に示すように、主体部26およびリーマホルダ28をアダプタ30およびリーマ軸232に軸方向において接近させ、本体部材52をアダプタ30の嵌合突部38に嵌合し、嵌合軸部254を嵌合孔290に嵌合する。
【0071】
嵌合軸部254はボール326が溝336内を移動しつつ嵌合孔290に嵌合され、嵌合部256がリーマ軸232の先端面294に当接するまで嵌合される。この状態では、係合突部298が切欠242に嵌合され、係合突部300が切欠242を通って円環状溝240に嵌合され、係合突部244が嵌合部256と係合突部300との間に位置する状態となるが、前述のように、主体部26およびリーマホルダ28が主軸32およびリーマ軸232から取り外された状態では、着脱時位置に位置させられる場合より、リーマホルダ28が主体部26に対して距離L、後方へ突出させられているため、本体部材52および駆動部材90と、アダプタ30および駆動軸200とは、軸方向に離脱不能に係合させられた場合より、距離Lに等しい距離離れ、係合突部214の切欠98,116への嵌合,鋼球168の切欠184への嵌合,係合凹部62の係合突部44への嵌合は途中まで行われた状態にある。
【0072】
そのため、作業者は、嵌合部256が先端面294に当接した状態から更に主体部26を主軸32側に押し、リーマホルダ28に対して後方へ移動させる。この際、1対のフック340はそれぞれ、係合突部372とV溝310の溝側面との斜面の作用により、スプリング382の付勢力に抗してV溝310から抜け出す向きに回動させられ、主体部26の移動を許容する。この移動により、本体部材52がアダプタ30の外向きフランジ部34に当接させられ、係合凹部62に係合突部44全体が嵌合されるとともに、鋼球168が円環状溝180に対応する位置に位置し、係合突部214が円環状溝114内に位置し、係合突部118が円環状溝210内に位置する状態が得られる。また、1対のフック340はそれぞれ、図20(b)に一方を示すように、係合突部372がV溝310の前側の溝側面から離れて後側の溝側面に係合し、リーマホルダ28を後方へ付勢する。それにより、嵌合部256が先端面294に当接し、係合突部300が円環状溝240内に位置することが保証される。本実施形態においては、スプリング382がリーマ保持部付勢装置としても機能する。
【0073】
この状態から作業者は、図24(b)に示すように、主体部26を、加工時に作用するトルクに基づく正方向の相対回転方向へ45度(主体部26側から見て右方向へ45度)回転させる。この際、嵌合部256が嵌合穴96に嵌合されているリーマホルダ28は主体部26と共に回転させられるため、作業者は、設定トルク以上のトルクをリーマホルダ28に作用させ、ボール326を嵌合穴324へ押し出させつつ、主体部26およびリーマホルダ28を図15においては時計方向へ回転させる。
【0074】
主体部26が45度回転させられた状態では、本体部材52とアダプタ30,駆動部材90と駆動軸200およびリーマホルダ28とリーマ軸232の各位相が係合位相となる。また、ボール326が逆方向回転抑制部320の係合凹部322に係合させられる。主体部26およびリーマホルダ28の回転後、図24(c)に示すように、作業者は工具400によりウォーム172を回転させ、クランプ部材164をロック状態となる方向に回転させる。それにより、鋼球168がテーパ内周面182に押し付けられ、本体部材52を外向きフランジ部34に押し付け、主体部26が主軸32に軸方向に相対移動不能かつ相対回転不能に取り付けられる。
【0075】
位相が係合位相とされることにより、リーマホルダ28が軸方向に相対移動不能に係合させられたリーマ軸232は、着脱時位置から後退させられる。この際、リーマホルダ28の主体部26に対する後退により、フック340の係合突部372が一旦、図20(c)に示すようにV溝310に嵌合されるが、その状態から更にリーマ軸232が後退させられるのに伴って、係合突部372とV溝310の前側の溝側面との間の斜面の作用により、フック340がスプリング382の付勢力に抗して回動させられて係合突部372がV溝310から抜け出させられ、主体部26によるリーマホルダ28の保持が解除される。それにより、リーマホルダ28の主体部26に対する後退が許容され、フック340が嵌合部256と係合しない状態となる。リーマ軸232の後退により、嵌合部256が嵌合穴96から抜け出させられるが、逆方向回転抑制部320の作用により、嵌合部256と嵌合穴96との位相が一致する状態に保たれる。
【符号の説明】
【0076】
10:バルブシート 12:バルブガイド孔 14,16,18:テーパ内周面 26:主体部 28:リーマホルダ 32:主軸 52:本体部材 70:スライダ 80,82,84:バイト 90:駆動部材 96:嵌合穴 118:係合突部 134:運動変換機構 196:リーマブッシュ 198:リーマガイド孔 200:駆動軸 214:係合突部 232:リーマ軸 244:係合突部 256:嵌合部 262:リーマ 298,300:係合突部 310:V溝 320:逆方向回転抑制部 322:係合凹部 326:ボール 332:板ばね 340:フック 372:係合突部 382:圧縮コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのバルブが着座するテーパ内周面状のバルブシートと、前記バルブを案内するバルブガイド孔とを一工程で連続的に加工するバルブシート加工工具であって、
前記バルブシートを加工する1つ以上の刃具を保持して工作機械の主軸に着脱可能に取り付けられるとともに、リーマガイド孔を備えた主体部と、
前記リーマガイド孔に案内されつつ前記バルブガイド孔の内周面を加工するリーマを保持し、前記主軸の内側に軸方向に相対移動可能に配設されたリーマ軸に着脱可能に取り付けられるリーマ保持部と、
それら主体部およびリーマ保持部が前記主軸および前記リーマ軸に取り付けられた状態で、前記リーマ保持部の前記主体部に対する軸方向の相対移動を許容する一方、それら主体部およびリーマ保持部が前記主軸および前記リーマ軸から取り外された状態で、前記リーマ保持部の前記主体部に対する相対回転および軸方向の相対移動を防止する仮保持装置と
を含むことを特徴とするバルブシート加工工具。
【請求項2】
前記仮保持装置が、
前記主体部に設けられた第1係合部と、
前記リーマ保持部に設けられ、前記第1係合部と係合することにより、その第1係合部に対する軸方向の相対移動が不能となる第2係合部と、
それら第1係合部と第2係合部とを、それらが互いに係合する状態と係合しない状態とに変更可能な状態変更装置と、
少なくともその状態変更装置が前記第1係合部と前記第2係合部とを互いに係合する状態に保っている状態では、前記リーマ保持部の前記主体部に対する相対回転を防止する相対回転防止装置と
を含む請求項1に記載のバルブシート加工工具。
【請求項3】
前記第2係合部が前記リーマ保持部に形成された係合凹部であり、前記第1係合部が前記主体部に対して相対移動可能に設けられた係合部材に形成され、前記係合凹部に嵌入離脱可能な係合突部であり、かつ、それら係合凹部と係合突部との形状が、係合突部が係合凹部に嵌入した状態では前記リーマ保持部の前記主体部に対する軸方向の相対移動を防止する形状とされた請求項2項に記載のバルブシート加工工具。
【請求項4】
前記第2係合部が前記リーマ保持部に固定的に設けられる一方、前記第1係合部が前記主体部に対して相対移動可能に設けられた係合部材に形成され、前記状態変更装置が前記係合部材を前記第1係合部が前記第2係合部に係合する向きに付勢する係合部材付勢装置を含み、かつ、前記第1係合部と前記第2係合部との形状が、前記主体部と前記リーマ保持部とに、それらを軸方向に互いに離脱させる向きの設定力以上の力が加えられれば、前記係合部材付勢装置の付勢力に抗して前記第1係合部と前記第2係合部との係合が外れる形状に選定された請求項2または3に記載のバルブシート加工工具。
【請求項5】
前記第1係合部と前記第2係合部とが、前記リーマ保持部が前記主体部に対して前記バルブガイド孔の加工時における前進端位置より前方の着脱時位置にある状態で、互いに係合する相対位置に設けられた請求項4に記載のバルブシート加工工具。
【請求項6】
前記主体部がその主体部の本体を成す本体部材を含み、その本体部材が、前記主軸に対する特定の相対回転位相で、その主軸に設けられた主軸側係合部と軸方向に嵌合され、その相対回転位相から、加工時に作用するトルクに基づく相対回転の方向に一定角度相対回転させられることにより、前記主軸側係合部と軸方向に離脱不能に係合する本体部材側係合部を備えるとともに、前記リーマ保持部も、前記本体部材側係合部の前記主軸側係合部との係合に伴って、前記リーマ軸に設けられたリーマ軸側係合部と軸方向に離脱不能に係合するリーマ保持部側係合部を備える請求項1ないし5のいずれかに記載のバルブシート加工工具。
【請求項7】
前記主体部が、
前記主軸に取り付けられる本体部材と、
その本体部材に、前記主体部の中心軸線に対して前方に向かうに従ってその中心軸線に接近する向きに傾斜した方向に移動可能に保持され、前記バルブシートを加工する刃具を保持する可動刃具保持部材と、
前記本体部材に軸方向に相対移動可能かつ相対回転不能に保持された駆動部材と、
その駆動部材の軸方向の運動を前記可動刃具保持部材の傾斜方向の運動に変換する運動変換機構と
を含み、かつ、前記駆動部材が、前記主軸の内側に配設された駆動軸に設けられた駆動軸側係合部と、特定の相対回転位相で軸方向に嵌合され、その相対回転位相から、加工時に作用するトルクに基づく相対回転の方向に一定角度相対回転させられることにより、前記駆動軸側係合部と軸方向に離脱不能に係合する駆動部材側係合部を備えるとともに、前記リーマ保持部も、前記駆動部材側係合部の前記駆動軸側係合部との係合に伴って、前記リーマ軸に設けられたリーマ軸側係合部と軸方向に離脱不能に係合するリーマ保持部側係合部を備える請求項1ないし6のいずれかに記載のバルブシート加工工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2011−125962(P2011−125962A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286728(P2009−286728)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000237499)富士精工株式会社 (21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】