説明

バレル容器

【課題】収容されたワークが容器内で活発に移動することを促すことができる、バレル容器を提供する。
【解決手段】バレル容器3は、底板13と、底板から立ち上がる筒状側壁15とを有し、その底板の逆側で開口している。筒状側壁における底板と平行な断面は、多角形の内周輪郭21を有し、内角の角度が2種類以上である。多角形の内周輪郭は、角数の異なる2種類の多角形を半分ずつ結合した形状である。その結合は、一方の多角形の辺と他方の多角形の角とを合わせる、または、2種類の多角形の角同士を合わせる、あるいは、2種類の多角形の辺同士を合わせることでなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バレル容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばセラミック電子部品における外部電極のめっき形成など、小型電子部品にめっき加工を施す装置として、バレルめっき装置がある(特許文献1参照)。バレルめっき装置は回転可能に支持されたバレル容器を備えており、バレル容器の内部には、陰極端子が延出している。めっきを行うに際しては、バレル容器の内部に多数の被めっき物であるワーク及びダミー片を入れ、バレル容器をめっき液に浸漬させ、バレル容器を回転させると共に、陰極端子を介して被めっき物に通電してその表面にめっきを行う。
【0003】
バレル容器の形状としては、例えば正6角形の底板と、その底板の6辺それぞれから立ち上がる側壁とからなる上部開口の容器形状がある。かかるバレル容器は、底板が正6角形であることをうけて、底板と平行な如何なる断面でみても常に正6角形の輪郭が得られるような均等な形状をしていた。
【0004】
ところで、このようなバレルめっきにおいては、ワークがバレル容器内で活発に移動し、各ワークが同じ位置に留まらないようにすることが、めっき品質の向上に重要であると本発明者は考える。特に、本発明者の分析によると、バレル容器の回転軸と平行な方向へのワークの動きが十分ではないことが分った。
【0005】
その一方で、バレル容器内に攪拌部材を挿入し、専用の駆動手段によって攪拌部材を動作させ、強制的にワークの攪拌を行う態様も考えられるが、バレル容器内の定位置に設けられた陰極端子との干渉が好ましくないため、根本的な解決には至らない。
【特許文献1】特開昭63−27478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、収容されたワークが容器内で活発に移動することを促すことができる、バレル容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、底板と、前記底板から立ち上がる筒状側壁とを有し、前記底板の逆側で開口するバレル容器であって、前記筒状側壁における前記底板と平行な断面が、多角形の内周輪郭を有し、内角の角度が2種類以上であることを特徴とする。
【0008】
前記多角形の内周輪郭は、角数の異なる2種類の多角形を半分ずつ結合した形状であってもよい。
【0009】
前記の結合は、一方の多角形の辺と他方の多角形の角とを合わせる、または、2種類の多角形の角同士を合わせるようにすることができる。
【0010】
あるいは、前記の結合は、2種類の多角形の辺同士を合わせるようにすることができる。
【0011】
同課題を解決するため、本発明は、バレルめっき装置をも提供する。本発明に係るバレルめっき装置は、回転可能に支持されたバレル容器と、前記バレル容器内に設けられ、被めっき物に通電する通電部とを備え、前記バレル容器は、前述した本発明に係るバレル容器である。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明によれば、収容されたワークが容器内で活発に移動することを促すことができる。
【0013】
多角形の内周輪郭を角数の異なる2種類の多角形を半分ずつ結合した形状とすれば、大量生産されるバレル容器の条件を一定とし、その設計、解析、制御を容易に行うことができる。さらに、バレル容器をバレルめっきに用いる場合には、バレル容器内の定位置に配置される通電部と、バレル容器側壁との干渉の有無が解析しやすく、移動・めっき等に関する最適制御を実現しやすい。
【0014】
上記の結合が、一方の多角形の辺と他方の多角形の角とを合わせる、または、2種類の多角形の角同士を合わせるようにされている場合には、複雑な多角形結合を回避しつつ効率よくワークの移動促進を図ることができる。
【0015】
一方、上記の結合が、2種類の多角形の辺同士を合わせるようにされている場合には、角の部分が結合箇所になる場合に比較し、結合作業が容易確実に行える。
【0016】
なお、本発明の他の特徴及びそれによる作用効果は、添付図面を参照し、実施の形態によって更に詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るバレル容器及びそれを備えたバレルめっき装置の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応部分を示すものとする。
【0018】
図1は、本実施の形態に係るバレルめっき装置の構成を示す図である。バレルめっき装置1は、バレル容器3と、通電部5とを少なくとも備えている。バレル容器3は、いわゆる傾斜バレルとしてのバレル容器、すなわち、水平方向に傾斜している回転軸回りに回転されるバレル容器である。通電部5は、本実施の形態では、陰極端子として機能するものであって、先端部を除いて、外周が連続的に絶縁被覆されている。通電部5の先端部だけは、被覆がされてなく導電部分が露出している。通電部5は、電源7の一端側に接続されており、電源7の他端側には、陽極端子9が接続される。陽極端子9は、めっき液槽11内であって、バレル容器3の外側に配置される。
【0019】
次に、図2に基づいて、本実施の形態に係るバレル容器の構成について説明する。バレル容器3は、底板13と、筒状側壁15とを有している。バレル容器3の一端側すなわち底板13には、回転支持軸17が接続されており、バレル容器3の他端側すなわち底板13の逆側は開口している。
【0020】
本発明のバレル容器は、筒状側壁における底板と平行な断面が多角形の内周輪郭を有し、内角の角度が2種類以上であることを特徴とする。その一例として、本実施の形態では、図2に示されるように、まず、底板13は、角数の異なる2種類の多角形を半分ずつ結合した形状となっている。より、具体的には、仮想結合線Cを中心に、その一方側には8角形の半分が存在し、他方側には10角形の半分が存在している。また、結合態様としては、8角形の辺と10角形の角とを合わせる態様であり、すなわち、8角形における対辺で半分に切断された部分と、10角形における対角で半分に切断された部分とを結合する態様となっている。
【0021】
筒状側壁15は、そのような角数の異なる2種類の多角形を半分ずつ結合した形状の底板13の外周輪郭19の各辺から立ち上がっている。筒状側壁15における底板13と平行な断面では、図2の右側の図に示されるように、筒状側壁15の内周輪郭21は、底板13の外周輪郭19と相似形の多角形形状をなしており、内角の角度は3種類有している。すなわち、8角形の半分にあたる部分の内角θ1は、135度であり、10角形の半分にあたる部分の内角θ2は、144度であり、仮想結合線Cで結合する部分の内角θ3は、162度である。
【0022】
また、図2の左側の図に示されるように、筒状側壁15は、底板13から開口に向けていったん拡径した後、開口に向けて縮径している。具体的には、8角形の半分にあたる部分では、筒状側壁15は、底板13に対して傾斜角θ4として120.8度で傾斜しており、さらに、最大径部を境に屈曲角θ5として129.5度で屈曲している。10角形の半分にあたる部分では、筒状側壁15は、底板13に対して傾斜角θ6として119.3度で傾斜しており、さらに、最大径部を境に屈曲角θ7として131.9度で屈曲している。
【0023】
また、筒状側壁15は、バレル容器3内にある被めっき物としてのワークやダミーボールの漏れ出しを規制できる程度の目の大きさの多孔部を有する。これによって、バレル容器3をめっき液槽11内に配置した際に、めっき液のバレル容器3内への流入が確保される。
【0024】
次に、以上のように構成されたバレルめっき装置及びバレル容器の作用について説明する。まず、バレル容器3内に、ワーク23及びダミーボール25を収容し、めっき液槽11のめっき液内に浸漬させる。そして、めっき液中でバレル容器3を回転させると共に、通電部5を介して被めっき物に通電し、その表面にめっきを行う。
【0025】
このとき、本実施の形態に係るバレル容器3では、前述の内角、傾斜角、屈曲角がそれぞれ複数種存在するため、ワーク23に伝達される従動力や、ワーク23と底板13の内面や筒状側壁15の内面との距離が変化する。したがって、既存のバレル容器のようにすべての断面が常に正多角形の内周輪郭となる均等な形状のバレル容器に比べて、ワークに不均等な動きが加わることなり、傾斜角や屈曲角の多様化が相俟って、回転軸に沿った方向の動き(バレル容器の底板側と開口側とに亙るワークの移動)を含むワークの活発な動きが促される。よって、ワークそれぞれがより広範に移動しあい、めっき品質の向上を図ることができる。
【0026】
なお、ワークの移動を促すにあたっては、バレル容器内に攪拌部材を挿入し、専用の駆動手段によって攪拌部材を動作させ、強制的にワークの攪拌を行う態様も考えられる。しかしながら、その場合には、第1に、バレル容器内の定位置に設けられた通電部(陰極端子)と攪拌部材との干渉が問題となる。さらに、第2に、攪拌部材を設けると攪拌は促進されるが、ワークが攪拌部材に引っ掛かることもあり逆に移動阻害されたり通電阻害されたりすることもありうる。これに対し、本実施の形態では、前述したワークの移動促進を、バレル容器の形状だけで実現しているため、通電部への干渉や、移動阻害・通電阻害といった問題も生じない。
【0027】
また、バレル容器内側の内角を2種類以上にするにしても、漠然と不定形を採用しているわけではなく、あくまでも2種類の多角形の半分ずつを連結した形状としているため、バレル容器は一つ一つ異なる一品ものではなく大量生産するのに適している。またそれにより、大量生産されるバレル容器の条件は一定となるため、その設計、解析、制御が可能となる。さらに、バレル容器内の定位置に配置される通電部と、バレル容器側壁との干渉の有無が解析しやすく、移動・めっき等に関する最適制御を実現しやすい。
【0028】
また、本実施の形態では、単に2種類の多角形の半分ずつを連結するに留まるものではなく、一方の多角形の辺と他方の多角形の角とを合わせる態様を採っている。そのため、結合する多角形の種類は2種類でも、生じる内角θ1〜3の角度は3種類確保することができ、複雑な多角形結合を回避しつつ効率よくワークの移動促進を図ることができる。
【0029】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。
【0030】
バレル容器における筒状側壁の内周輪郭は、一方の多角形の辺と他方の多角形の角とを合わせる態様に限定されるものではなく、例えば、図3に示されるように、2種類の多角形の角同士を合わせる態様であってもよい。かかる態様によっても、3種類の内角θ1(=135度)、θ2(=144度)、θ3(=139.5度)が得られる。また、傾斜角θ4は122.6度、屈曲角θ5は126.2度、傾斜角θ6は121.2度、屈曲角θ7は127.5度である。このような態様によっても、上述の実施の形態と同様な効果が得られる。
【0031】
また、他の例として、図4に示されるように、2種類の多角形の辺同士を合わせる態様であってもよい。かかる態様においては、内角は2種類だけ生じ、すなわち、内角θ1=135度、内角θ2=144度である。また、傾斜角θ4は120.8度、屈曲角θ5は129.5度、傾斜角θ6は121.8度、屈曲角θ7は127.8度である。このような態様によっても、3種類の内角が得れる点を除いては上述の実施の形態と同様な効果が得られる。さらに加えて、本態様においては、結合箇所が辺同士であるため、角の部分が結合箇所になる場合に比較し、結合作業が容易確実に行える利点がある。
【0032】
また、本発明は、2種類の多角形の結合に関し、図2〜図4に示したように正8角形と正10角形との結合に限定されるものではなく、様々な異なる正多角形の結合が採り得る。一例として、図5〜図7に、正6角形と正8角形との結合態様を示す。図5は、図2に対応しており、一方の多角形の辺と他方の多角形の角とを合わせる態様である。内角θ1は135度、内角θ2は120度、内角θ3は150度である。また、傾斜角θ4は120.8度、屈曲角θ5は129.5度、傾斜角θ6は116.5度、屈曲角θ7は136.2度である。図6は、図3に対応しており、2種類の多角形の角同士を合わせる態様である。内角θ1は135度、内角θ2は120度、内角θ3は127.5度である。また、傾斜角θ4は123.2度、屈曲角θ5は125.4度、傾斜角θ6は118.6度、屈曲角θ7は133.2度である。図7は、図4に対応しており、2種類の多角形の辺同士を合わせる態様である。内角θ1は135度、内角θ2は120度である。また、傾斜角θ4は120.8度、屈曲角θ5は129.5度、傾斜角θ6は116.5度、屈曲角θ7は136.2度である。
【0033】
また、本発明における筒状側壁の内周輪郭は、多角形の結合によって構成される態様に限定されるものではなく、内角の角度が2種類以上あればよい。よって、例えば、筒状側壁の内周輪郭が二等辺三角形によって構成されている態様であってもよい。
【0034】
また、底板は、それを含む仮想的な延在面を観念し、その延在面にバレル容器の回転中心軸が交差する状態で捉えることができる。よって、底板は、単純な平板で構成される態様に限らず、多孔板や枠体などで構成されていてもよい。
【0035】
本発明に係るバレル容器は、バレルめっき装置に用いられるものに限定されず、多数の対象物品を収容し、バレル容器を回転させることにより行う処理であって、容器内での対象物品の活発な移動が処理成績に重要となるものに広く適用することができる。したがって、例えば、セラミック電子部品のセラミック基体の角部を適切に丸めるためのバレル研磨装置に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態に係るバレルめっき装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るバレル容器の構成を示す図である。
【図3】バレル容器の他の構成を示す図である。
【図4】バレル容器の他の構成を示す図である。
【図5】バレル容器の他の構成を示す図である。
【図6】バレル容器の他の構成を示す図である。
【図7】バレル容器の他の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 バレルめっき装置
3 バレル容器
5 通電部
13 底板
15 筒状側壁
21 内周輪郭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板と、前記底板から立ち上がる筒状側壁とを有し、前記底板の逆側で開口するバレル容器であって、
前記筒状側壁における前記底板と平行な断面が、多角形の内周輪郭を有し、内角の角度が2種類以上であることを特徴とするバレル容器。
【請求項2】
前記多角形の内周輪郭は、角数の異なる2種類の多角形を半分ずつ結合した形状であることを特徴とする請求項1に記載のバレル容器。
【請求項3】
前記の結合は、一方の多角形の辺と他方の多角形の角とを合わせる、または、2種類の多角形の角同士を合わせることを特徴とする請求項2に記載のバレル容器。
【請求項4】
前記の結合は、2種類の多角形の辺同士を合わせることを特徴とする請求項2に記載のバレル容器。
【請求項5】
回転可能に支持されたバレル容器と、
前記バレル容器内に設けられ、被めっき物に通電する通電部とを備え、
前記バレル容器は、請求項1乃至4の何れか一つに記載されたものである、
バレルめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−161799(P2009−161799A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340380(P2007−340380)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)