説明

バンドパスフィルタ、及びバンドパスフィルタの製造方法

【課題】 簡単な構成で安価に特定の紫外域の波長の光を取り出すことのできるバンドパスフィルタ、及びバンドパスフィルタの製造方法を提供する。
【解決手段】 波長250nm以下の特定の紫外域の光に対して透過率が最大となるように形成されたバンドパスフィルタであって、二酸化ケイ素等からなる誘電体膜のキャビティ層の上下をアルミ薄膜等の金属薄膜にて被膜し、該金属薄膜は、バンドパスフィルタにおける可視域の波長の光の透過率が10%以下となる膜厚とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信や光学デバイス等に用いられるバンドパスフィルタ、及びバンドパスフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の波長域の光を選択的に透過させるバンドパスフィルタが知られている。このようなバンドパスフィルタは、高屈折率の材料からなる誘電体の薄膜層と低屈折率の材料からなる誘電体の薄膜層からなる薄膜層とを交互に積層させることにより、所望の波長域の光を選択的に透過させるように形成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−37830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような多層膜を用いてバンドパスフィルタを形成する場合、形成する膜数が多ければ多いほどコストがかかることとなる。また、膜数が増えることによる内部応力の増加によって膜割れ等の問題が生じ易い。特に紫外域の波長の光は光学媒質に吸収され易く、使用できる薄膜には制限がある。その制限により高屈折膜と低屈折膜の屈折率差が少なくなるため、層数が多くなってしまう。阻止帯域を広帯域にした場合は数百層もの薄膜の積層が必要となることもある。
【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑み、簡単な構成で安価に特定の紫外域の波長の光を取り出すことのできるバンドパスフィルタ、及びバンドパスフィルタの製造方法を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
(1) 波長250nm以下の特定の紫外域の光に対して透過率が最大となるように形成されたバンドパスフィルタであって、誘電体膜からなるキャビティ層の上下を金属薄膜にて被膜し、該金属薄膜は、バンドパスフィルタにおける可視域の波長の光の透過率が10%以下となる膜厚であることを特徴とする。
(2) (1)のバンドパスフィルタにおいて、前記金属薄膜はアルミ薄膜であり、該アルミ薄膜の物理膜厚が20nm以下であって物理的な膜厚を持つことを特徴とする。
(3) (1)及び(2)の何れかに記載のバンドパスフィルタにおいて、前記誘電体膜は二酸化ケイ素からなることを特徴とする。
(4) バンドパスフィルタの製造方法において、得られるバンドパスフィルタの光学特性が波長250nm以下の特定の紫外域の光に対して透過率が最大となるように,透明基板上に所定の膜厚で第1の金属薄膜を形成する第1ステップと、該第1ステップにより前記透明基板上に形成された前記第1の金属薄膜の上に誘電体膜を形成する第2ステップと、該第2ステップにより形成された前記誘電体膜の上に前記第1の金属薄膜と同じ膜厚で第2の金属薄膜を形成する第3ステップと、を有し、前記第1ステップ乃至第3ステップにより形成される前記金属薄膜及び誘電体膜を1スタックとして前記透明基板上に形成することを特徴とする。
(5) (4)のバンドパスフィルタの製造方法において、前記第1及び第2の金属薄膜はアルミ薄膜であり,該アルミ薄膜の物理膜厚は20nm以下であって物理的な膜厚を持つことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態を図面に基づいて以下に説明する。図1は本実施形態のバンドパスフィルタの構成を模式的に示した図である。
【0009】
図示するバンドパスフィルタ100は、紫外域の波長の光を選択的に透過させる光学特性を有するものであり、特に波長250nm以下、さらに具体的には波長200nm以上250nm以下の、特定の紫外域の光に対して透過率が最大となるように形成されたバンドパスフィルタである。バンドパスフィルタ100は、透明基板101上に形成される金属薄膜層102、金属薄膜層102の上に形成される誘電体膜からなるキャビティ層103、キャビティ層103の上に形成される金属薄膜層104とを有する。透明基板101は紫外域の波長の光を透過し易い性質を持つ材料を用いることが好ましい、このような材料としては、例えば、石英ガラス、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。また、透明基板101は平板状であることが好ましいが、これに限るものではなく、所定の形状を持つ光学部材を基板として本実施形態の膜構成を形成し、バンドパスフィルタを形成することも可能である。
【0010】
金属薄膜層102の形成に用いられる金属材料としては、アルミニウム(以下、アルミと略す)や銀等が挙げられるが、可能な限り紫外域の波長の光を透過させやすい金属材料を用いることが好ましい。本実施形態のバンドパスフィルタ100は、波長250nm以下の特定紫外域の光に対して透過率が最大となり、可視域の波長の光の透過率が、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下となるように形成されるため、金属薄膜層102に用いられる金属材料は特にアルミであることが好ましい。このような金属薄膜層102の物理膜厚は、目的のバンドパスフィルタの光学特性として波長250nm以下の特定紫外域の光に対して透過率が最大となり、可視域の波長の光の透過率が好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下となるために必要な膜厚であり、好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下であって所定の物理膜厚を有している。物理膜厚が20nmを越えると、十分な透過率が得られない。なお、ここでいう金属薄膜層の物理膜厚とは、3層からなるバンドパスフィルタの層構造を1スタックとして捉えたときの1スタックにおける各金属薄膜層の膜厚のことをいうものとしている。
【0011】
キャビティ層103は透明の誘電体膜からなる層であり、このような誘電体としては、二酸化ケイ素(SiO2)、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ハフニウム(HgO2)等が挙げられる。また、このようなキャビティ層103の膜厚(物理膜厚)は、好ましくは10nm以上220nm以下であり、さらに好ましくは20nm以上50nm以下である。キャビティ層103の膜厚が10nm未満の場合、所望する設計波長の光に対して透過率が最大とすることができない。また、膜厚が220nmを越えてしまうと、可視域の波長の光の透過率が10%以上となってしまう。また、金属薄膜層104は、基本的に金属薄膜層102と同じ材料、同じ物理膜厚で形成される。
【0012】
このような金属薄膜層102,104、キャビティ層103は、真空蒸着法等の既知のコーティング技術を用いて透明基板101上に順次形成される。真空蒸着法を用いる場合には、透明基板を真空蒸着機内に置き、金属薄膜層形成用の金属材料(例えばアルミ)を蒸着源として、所望の物理膜厚が得られるまで真空蒸着を行う。次に蒸着源をキャビティ層形成用の誘電体材料(例えばSiO2)に代え、同じように所望の膜厚(光学膜厚)が得られるまで真空蒸着を行う。キャビティ層の形成後、再度、蒸着源を金属薄膜層形成用の金属材料に代え、所望の物理膜厚が得られるまで真空蒸着を行い、3層からなるバンドパスフィルタを作製する。
【0013】
なお、本実施形態では、このように透明基板上に順次形成された金属薄膜層102、キャビティ層103、金属薄膜層104を1つの層構造として1スタックと呼ぶ。本実施形態では、バンドパスフィルタを作製するために、透明基板101上に形成されるこのようなスタックを少なくとも1つ形成するものとしている。また、このようなスタックを透明基板上に複数重ねてバンドパスフィルタを形成することにより、設計波長の光のみをより選択的に透過させることが可能であるが、スタック数の増加に応じて最大透過率は減少してしまう。このため、透過させたい設計波長以外の波長域の許容透過率と、設計波長に対して求められる透過率との関係でスタック数が選ばれることとなる。なお、スタック数が増えた場合においても同じように真空蒸着法等の既知のコーティング技術を用いて薄膜を順次積層させていけばよい。
【0014】
本実施形態では、基本的に高い透過率が得られない紫外域の波長を取り出すことを目的としているために、1スタックまたは2スタック程度の膜構成であることが好ましい。図2に透明基板上に2スタック分の層構造を形成したバンドパスフィルタ110の模式図を示す。図示するバンドパスフィルタ110は、透明基板101上に金属薄膜層102,キャビティ層103,金属薄膜層104からなる1スタック分の層構造が2つ積み重なって形成されている。なお、透明基板上に2スタック形成する場合、基板側から数えて3層目となる金属薄膜層は、1スタックの上層となる金属薄膜層104と2スタック目の下層となる金属薄膜層102とが重なることから、結果的に2倍の膜厚にて形成されることとなる。なお、本実施形態のバンドパスフィルタの光学性能は、波長250nm以下の特定紫外域の光に対して透過率を最大とされ、その最大透過率は30%以上60%以下程度となるものである。また、可視域の波長の光の透過率は好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下となるように形成される。
【0015】
次に本件発明の好適な実施例を以下に記載するが、本件発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0016】
<実施例1>
透明基板である石英ガラス板(厚さ2mm)に1スタック分の膜構造(3層)を、真空蒸着法を用いて順次形成し、目的とするバンドパスフィルタを作製した。なお、1層目及び3層目に形成される金属薄膜層の膜材料としては、アルミを用い、各々物理膜厚9nmとして形成した。また、2層目となるキャビティ層は、SiO2の誘電体膜とされ、物理膜厚30nmとして形成した。得られたバンドパスフィルタの透過率を分光光度計(島津製作所製 UV2450)にて測定した。測定結果から得られた分光透過率特性を図3に示す。
【0017】
<実施例2>
透明基板である石英ガラス板(厚さ2mm)に2スタック分の膜構造(5層)を、真空蒸着法を用いて順次形成し、目的とするバンドパスフィルタを作製した。なお、1層目、3層目、5層目に形成される金属薄膜層の膜材料としては、実施例1と同様にアルミを用い、1層目と5層目の物理膜厚を9nm、3層目の物理膜厚を18nm(スタック1つ分としては膜厚9nm)として形成した。また、2層目、及び4層目となるキャビティ層は、SiO2の誘電体膜とされ、各々物理膜厚28nmとして形成した。得られたバンドパスフィルタの透過率を実施例1と同様に測定した。測定結果から得られた分光透過率特性を図3に示す。
【0018】
<結果>
1スタック分の層構造(3層)を持つバンドパスフィルタは、250nm以下の特定の紫外域の波長において透過率が50%を超えるとともに、可視域(400nm-780nm程度)においては透過率が10%を下回る性能を得ることができた。また、2スタック分の層構造(5層)を持つバンドパスフィルタは、250nm以下の特定の紫外域の波長において透過率が30%を超えるとともに、可視域(400nm-780nm程度)においては透過率が1%を下回る性能を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態における3層構造のバンドパスフィルタの構成を示した模式図である。
【図2】本実施形態における5層構造のバンドパスフィルタの構成を示した模式図である。
【図3】本実施形態における3層構造、及び5層構造のバンドパスフィルタの分光透過率特性を示した図である。
【符号の説明】
【0020】
100 バンドパスフィルタ
101 透明基板
102 金属薄膜層
103 キャビティ層
104 金属薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長250nm以下の特定の紫外域の光に対して透過率が最大となるように形成されたバンドパスフィルタであって、誘電体膜からなるキャビティ層の上下を金属薄膜にて被膜し、該金属薄膜は、バンドパスフィルタにおける可視域の波長の光の透過率が10%以下となる膜厚であることを特徴とするバンドパスフィルタ。
【請求項2】
請求項1のバンドパスフィルタにおいて、前記金属薄膜はアルミ薄膜であり、該アルミ薄膜の物理膜厚が20nm以下であって物理的な膜厚を持つことを特徴とするバンドパスフィルタ。
【請求項3】
請求項1及び請求項2の何れかに記載のバンドパスフィルタにおいて、前記誘電体膜は二酸化ケイ素からなることを特徴とするバンドパスフィルタ。
【請求項4】
バンドパスフィルタの製造方法において、得られるバンドパスフィルタの光学特性が波長250nm以下の特定の紫外域の光に対して透過率が最大となるように,透明基板上に所定の膜厚で第1の金属薄膜を形成する第1ステップと、該第1ステップにより前記透明基板上に形成された前記第1の金属薄膜の上に誘電体膜を形成する第2ステップと、該第2ステップにより形成された前記誘電体膜の上に前記第1の金属薄膜と同じ膜厚で第2の金属薄膜を形成する第3ステップと、を有し、前記第1ステップ乃至第3ステップにより形成される前記金属薄膜及び誘電体膜を1スタックとして前記透明基板上に形成することを特徴とするバンドパスフィルタの製造方法。
【請求項5】
請求項4のバンドパスフィルタの製造方法において、前記第1及び第2の金属薄膜はアルミ薄膜であり,該アルミ薄膜の物理膜厚は20nm以下であって物理的な膜厚を持つことを特徴とするバンドパスフィルタの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−68885(P2013−68885A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208809(P2011−208809)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】