説明

バンパリインホース及び車両用バンパ装置

【課題】中空部に充填される発泡材の充填範囲や発泡倍率のばらつきを抑制することができるバンパリインホース及び車両用バンパ装置を提供する。
【解決手段】バンパリインホース16は、車両幅方向に貫通する中空部21a〜21cを有して該車両幅方向に延在するバンパリインホース本体21と、中空部21a〜21cに挿入されて該中空部21a〜21cを複数の部屋C1〜C6に区画する成形体26と、複数の部屋C1〜C6のうちの少なくとも一つに供給される発泡充填材Mが発泡されて当該部屋C1〜C6に充填される発泡材27とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部に発泡材が充填されるバンパリインホース及び車両用バンパ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バンパリインホースとしては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。このバンパリインホースは、その中空部に2液(主剤、硬化剤)を混ぜてなる発泡充填材を注入しこれを発泡させることで発泡材が充填される。発泡材の充填範囲は、発泡充填材の量で決まる。この発泡材により、バンパリインホースが補強される。
【特許文献1】特開2001−97152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1では、発泡充填材を中空部の特定部位(バンパリインホースの長手方向中央部)にまとめて注入・供給するため、発泡材の充填範囲や発泡倍率にばらつきが生じてしまう。
【0004】
本発明の目的は、中空部に充填される発泡材の充填範囲や発泡倍率のばらつきを抑制することができるバンパリインホース及び車両用バンパ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両幅方向に貫通する中空部を有して該車両幅方向に延在するバンパリインホース本体と、前記中空部に挿入されて該中空部を複数の部屋に区画する区画部材と、前記複数の部屋のうちの少なくとも一つに供給される発泡充填材が発泡されて当該部屋に充填される発泡材とを備えたことを要旨とする。
【0006】
同構成によれば、前記発泡材は、前記区画部材により前記中空部を区画した部屋に小分けして供給される発泡充填材が発泡されて当該部屋に充填されるため、その充填範囲や発泡倍率のばらつきを抑制することができる。また、前記中空部を区画する前記区画部材の形状や発泡材を充填する前記部屋の位置をバンパリインホースに要求される強度・性能に応じて適宜調整することで、徒な発泡材の充填範囲の拡大を回避し、軽量化することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のバンパリインホースにおいて、前記発泡充填材は、加熱発泡材であることを要旨とする。
同構成によれば、前記発泡充填材は、加熱発泡材であることで、製造工程に欠かせない既存の熱処理工程(例えばアルミニウムの押出材からなるバンパリインホース本体に対するT5処理(高温で加工後、急冷してから熱処理によって時効硬化処理する)、鉄プレス材からなるバンパリインホース本体に対する加熱を伴う防錆処理など)に併せて発泡充填材を発泡できるため、発泡材を充填するために要する時間を短縮化することができる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のバンパリインホースにおいて、前記発泡充填材は、固体であることを要旨とする。
同構成によれば、前記発泡充填材は固体であることで、例えば前記区画部材に予め固着した状態で前記部屋に供給すれば、前記バンパリインホース本体に供給用の孔を空ける必要がなく、該バンパリインホース本体ひいてはバンパリインホースの強度低下を抑制することができる。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のバンパリインホースを備えた車両用バンパ装置であることを要旨とする。
同構成によれば、強度ばらつきの抑制された車両用バンパ装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、中空部に充填される発泡材の充填範囲や発泡倍率のばらつきを抑制することができるバンパリインホース及び車両用バンパ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、自動車などの車両のフロント部分に適用される本実施形態に係る車両用バンパ装置を示す平面図である。同図に示されるように、車両幅方向両側には、例えば金属板からなり、断面略四角形の中空構造を有して車両前後方向に延びる一対のサイドメンバ11が配設されている。これらサイドメンバ11は、ボデーの一部を構成する。なお、各サイドメンバ11の前端には、該サイドメンバ11の開口部を閉塞する態様で、例えば金属板からなる略四角形のブラケット12が溶接にて固着されている。
【0012】
車両用バンパ装置は、例えば金属板からなり車両前後方向に延びて前記各ブラケット12の前面に取着されるクラッシュボックス13を備える。このクラッシュボックス13は、その後端に溶接にて固着されたブラケット14において、前記ブラケット12にボルト及びナット(図示略)にて締結されている。一対のクラッシュボックス13は、加えられた荷重を軸方向の塑性変形で吸収して衝撃エネルギーを吸収する。
【0013】
前記各クラッシュボックス13の前端には、該クラッシュボックス13の開口部を閉塞する態様で、例えば金属板からなるプレート15が溶接にて固着されるとともに、該プレート15には、車両幅方向に延在するバンパリインホース16の各端部がボルト及びナット(図示略)にて締結されている。
【0014】
図2(a)(b)は、バンパリインホース16を示す斜視図及び断面図である。なお、図2(b)は、図1のA−A線に沿った断面図となっている。同図に示されるように、本実施形態のバンパリインホース16は、例えばアルミニウムの押出材からなるバンパリインホース本体21を備える。このバンパリインホース本体21は、車両幅方向に貫通する複数(3つ)の中空部21a,21b,21cが上下方向に並設されて、略目の字形状の一定断面を有する。これら中空部21a,21b,21cは、互いに同一の形状を呈する。なお、バンパリインホース本体21は、車両幅方向に直線状に延びる直線部22を有するとともに、該直線部22の各先端に連続して外側に向かうに従い後側に配置されるように曲成された端部23を有する。そして、バンパリインホース16(バンパリインホース本体21)は、各端部23において前記プレート15を介してクラッシュボックス13の前端面に結合され、該クラッシュボックス13に支持される。
【0015】
前記各中空部21a〜21cには、例えば樹脂材からなり、前記直線部22に相当する車両幅方向(バンパリインホース16の長手方向)の範囲(以下、「発泡材充填範囲」ともいう)で該車両幅方向に延在する区画部材としての成形体26が挿入されている。この成形体26は、各中空部21a〜21cを左右に略2等分する縦壁26aと、該各中空部21a〜21c(縦壁26a)を上下方向に略3等分する横壁26b,26cとを有して略キの字形状の一定断面を有する。この成形体26は、前記直線部22において各中空部21a〜21cを、車両幅方向に貫通する複数(6つ)の部屋C1〜C6に略均等に区画する。なお、これら部屋C1〜C6は、図2(b)において右上側を起点に時計回転方向の順番で配置されている。
【0016】
本実施形態では、中空部21a,21bにおいて、部屋C1,C3,C4,C6には、発泡充填材としての固体の加熱発泡材M(図4参照)を熱処理により発泡させてなる発泡材27が充填されている。また、中空部21cにおいて、部屋C1〜C3,C4,C6には、同様の発泡材27が充填されている。つまり、発泡材27は、前記成形体26により各中空部21a〜21cを区画した部屋C1〜C6に小分けして供給される加熱発泡材Mが発泡されて当該部屋C1〜C6に充填される。そして、前記バンパリインホース16は、各中空部21a〜21cの対応する部屋C1〜C6に発泡材27が充填されることで補強される。各中空部21a〜21c(部屋C1〜C6)における発泡材27の配置は、バンパリインホース16に要求される強度・性能に最適となるように調整されている。
【0017】
ここで、車両の衝突等により前方から衝撃が加えられると、この衝撃は、バンパリインホース16及びクラッシュボックス13を介してサイドメンバ11(ボデー)に伝達される。このとき、バンパリインホース16とともにクラッシュボックス13が塑性変形することで、ボデーへと伝達される衝撃を緩衝する。これにより、ボデー及び乗員に加えられる衝撃エネルギーが吸収される。
【0018】
特に、上述の態様で発泡材27の充填されたバンパリインホース16は、車両幅方向中央部でのいわゆるポール衝突を想定した3点曲げ評価において優れていることが確認されている。図3は、バンパリインホースの変形量(ストローク)に対する荷重の推移を示すグラフである。同図において、発泡材27の充填されたバンパリインホース16の荷重の推移を実線で、発泡材27の充填されないバンパリインホース、即ちバンパリインホース本体21単独の荷重の推移を破線でそれぞれ示す。同図から明らかなように、発泡材27の充填されたバンパリインホース16では、荷重の大きさを所定の範囲に収めつつ、効率的に衝突エネルギーが吸収されて、最大ストロークが抑制されていることが確認される。
【0019】
次に、本実施形態のバンパリインホース16の製造方法について説明する。なお、バンパリインホース本体21の素材となる押出材の製造に先立って、前記成形体26の製造が完了しているものとする。この成形体26は、周知の射出成形によって製造される。
【0020】
図4は、バンパリインホース16の製造方法を示す斜視図である。なお、前記バンパリインホース本体21は、高温の製造工程であるアルミニウムの押出し成形によって製造される。以下では、バンパリインホース本体21の素材となる押出材としてのバンパリインホース本体を区別して、バンパリインホース本体Wということもある。
【0021】
まず、バンパリインホース本体Wに対し、前記成形体26の区画する部屋C1〜C6のうち発泡材27を充填する部屋に合わせて加熱発泡材Mを予め固着した成形体26を各中空部21a〜21cに挿入する。この成形体26は、前記直線部22に相当するバンパリインホース本体Wの長手方向の範囲(発泡材充填範囲)に配置される。この状態で、バンパリインホース本体21の製造工程に欠かせない既存の熱処理工程であるT5処理(強度を高めるための熱処理)を行うと、加熱発泡材Mが発泡されて該加熱発泡材Mの配置された部屋に発泡材27が充填される。
【0022】
次いで、バンパリインホース本体Wの両端部を曲げ加工することで、前記直線部22及び前記両端部23を有するバンパリインホース本体21が完成し、前記バンパリインホース16の製造が完了する。
【0023】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、前記発泡材27は、前記成形体26により前記中空部21a〜21cを区画した部屋C1〜C6の一部に小分けして供給される加熱発泡材Mが発泡されて当該部屋に充填されるため、その充填範囲や発泡倍率のばらつきを抑制することができる。また、前記中空部21a〜21cを区画する前記成形体26の形状や発泡材27を充填する部屋C1〜C6の位置をバンパリインホース16に要求される強度・性能に応じて適宜調整することで、徒な発泡材27の充填範囲の拡大を回避し、軽量化することができる。
【0024】
(2)本実施形態では、発泡充填材として加熱発泡材Mを採用したことで、製造工程に欠かせない既存の熱処理工程(T5処理)に併せて加熱発泡材Mを発泡できるため、発泡材27を充填するために要する時間(発泡時間)を短縮化することができる。
【0025】
また、2液(主剤、硬化剤)を混ぜてなる発泡充填材を発泡させる場合のように混ざり具合に応じた発泡倍率の変動が発生しないため、バンパリインホース16の強度ばらつきを抑えることができる。
【0026】
(3)本実施形態では、固体の加熱発泡材Mを採用し、前記成形体26に予め固着した状態で部屋C1〜C6の一部に供給したことで、前記バンパリインホース本体21(W)に供給用の孔を空ける必要がなく、該バンパリインホース本体21ひいてはバンパリインホース16の強度低下を抑制することができる。
【0027】
(4)本実施形態では、強度ばらつきの抑制された車両用バンパ装置を提供することができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0028】
・図5(a)に示すように、バンパリインホース本体21の中空部21a〜21cの全範囲に発泡材27を充填したバンパリインホース36であってもよい。具体的には、各中空部21a〜21cは3つの部屋に区画されており、これら部屋の全てに発泡材27が充填されている。あるいは、図5(b)に示すように、バンパリインホース本体21の中空部21a〜21c(部屋)の必要な範囲にのみ発泡材27を充填したバンパリインホース37であってもよい。
【0029】
・前記実施形態において、バンパリインホース本体W(21)は、鉄プレス材やロール成形材であってもよい。この場合、バンパリインホース本体Wに対する加熱を伴う既存の防錆処理に併せて加熱発泡材Mを発泡すれば、発泡材27を充填するために要する時間を短縮化することができる。
【0030】
・前記実施形態において、発泡材27を充填する各中空部21a〜21cの部屋C1〜C6の選択は一例である。
・前記実施形態において、バンパリインホース本体21の各中空部21a〜21cに挿入される成形体26の形状、即ち該成形体26による複数の部屋の配設態様は互いに異なっていてもよい。また、中空部21a〜21cの一部に成形体26の挿入されない部分、即ち発泡材27を充填しない中空部21a〜21cがあってもよい。
【0031】
・前記実施形態において、バンパリインホース本体21の中空部21a〜21cの形状は、互いに同等であってもよいし、異なっていてもよい。ただし、これら中空部21a〜21cの形状が互いに異なる場合には、各中空部21a〜21cに合わせて当該中空部21a〜21cに挿入される成形体26の形状を変更することが好ましい。
【0032】
・前記実施形態において、バンパリインホース本体W(21)の断面形状は、口の字や日の字、あるいは田の字などであってもよい。これらの場合にあっても、各断面形状に応じて形成される中空部に区画部材を挿入して該中空部を複数の部屋に区画するとともに、これら複数の部屋の少なくとも一つに発泡充填材を供給しこれを発泡させて発泡材を充填すればよい。
【0033】
・本発明は、車両のリヤ部分に適用してもよい。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)車両幅方向に貫通する中空部を有して該車両幅方向に延在するバンパリインホース本体を備えるバンパリインホースの製造方法において、
前記中空部に区画部材を挿入して該中空部を複数の部屋に区画する区画段階と、
前記複数の部屋のうちの少なくとも一つに供給される発泡充填材を発泡して当該部屋に発泡材を充填する充填段階とを備えたことを特徴とするバンパリインホースの製造方法。
【0034】
(ロ)上記(イ)に記載のバンパリインホースの製造方法において、
前記発泡充填材は、加熱発泡材であり、
前記充填段階は、前記バンパリインホース本体に対する熱処理段階を利用することを特徴とするバンパリインホースの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態を示す平面図。
【図2】(a)(b)は、同実施形態を示す斜視図及び断面図。
【図3】バンパリインホースの変形量と荷重との関係を示すグラフ。
【図4】同実施形態の製造方法を示す斜視図。
【図5】(a)(b)は、発明の変形形態を示す断面図。
【符号の説明】
【0036】
C1〜C6…部屋、M…加熱発泡材(発泡充填材)、21…バンパリインホース本体、21a〜21c…中空部、26…成形体(区画部材)、27…発泡材、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両幅方向に貫通する中空部を有して該車両幅方向に延在するバンパリインホース本体と、
前記中空部に挿入されて該中空部を複数の部屋に区画する区画部材と、
前記複数の部屋のうちの少なくとも一つに供給される発泡充填材が発泡されて当該部屋に充填される発泡材とを備えたことを特徴とするバンパリインホース。
【請求項2】
請求項1に記載のバンパリインホースにおいて、
前記発泡充填材は、加熱発泡材であることを特徴とするバンパリインホース。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバンパリインホースにおいて、
前記発泡充填材は、固体であることを特徴とするバンパリインホース。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のバンパリインホースを備えた車両用バンパ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−202717(P2009−202717A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46295(P2008−46295)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)