説明

バーナー

【課題】改質化合物を含むガスの火炎を効率よく固体物質に吹き付けることができ、かつ、改質処理可能な範囲がわかリ易いバーナーを提供する。
【解決手段】本発明のバーナー30は、固体物質Sの表面を改質する改質化合物を気化してなる気体状の改質化合物を含む燃料ガスの火炎を固体物質Sの表面に吹き付けるためのバーナー30である。燃料ガスは、気体状の改質化合物と、空気または可燃性ガスと、酸素を含むガスと、を含む。バーナー30は、燃料ガスを燃焼させた火炎を噴射する第1の噴射部32と、可燃性ガスを含む第2のガスを燃焼させた火炎を噴射する第2の噴射部33とが、交互に配された多重構造の噴射部31を備える。第1の噴射部32の周縁には第2の噴射部33が配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バーナーに関する。詳しくは、本発明は、高分子材料、金属、セラミック等の固体物質の表面を改質する改質化合物を含む燃焼炎を固体表面に噴射するためのバーナーに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンゴムやポリエチレン樹脂等の高分子、金属、セラミック等を材料とする固体物質の表面は、他の部材の接着、塗料の塗装、印刷などの表面処理が困難な場合がある。
そこで、従来から、固体物質の表面を改質して、接着、塗装、印刷などの表面処理を容易なものとする表面改質装置が検討されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載の表面改質装置によれば、固体物質の表面を改質する改質剤化合物を気体状態とし、当該気体状態の改質剤化合物と空気とを混合して燃料ガスとしてから、この燃料ガスを燃焼させた火炎を固体物質に噴射することにより固体物質の表面改質が行われる。
【0004】
上記特許文献1には、燃料ガスの火炎を固体物質に噴射するためのバーナーとして、全体として扇形をなし噴射口を1つ備えるものや、全体として長方形状をなし長手方向に沿って複数の噴射口が一列に並んで設けられているものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3557194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されているような噴射口が1つのバーナーでは、噴射口から噴射される火炎の中心寄りのところ(内炎ともいう)は、空気と接触しにくくなっており一酸化炭素が多く存在する。一方、バーナーの噴射口から噴射される火炎の外縁や外縁寄りの部分(外炎ともいう)は、空気に接触しやすくなっている。なお、上記特許文献1に記載のバーナーのうち、複数の噴射口が並列している構成のものにおいても、端部の噴射口のように隣接する噴射口のない噴射口から噴射される火炎の外炎は、空気に接触しやすくなっている。
【0007】
ところで、気体状態の改質剤化合物を含む燃料ガスを燃焼させると、一酸化炭素などが多く存在する雰囲気下ではラジカル状態の燃焼炎になり易いが、空気に接触しやすい雰囲気下では酸化されて酸化物となりやすい。当該酸化物が塊状となって固体物質の表面に付着すると、固体物質の性質に悪影響を与えることがある。
従って、固体物質の表面を改質するためには、気体状態の改質剤化合物を含む燃料ガスを燃焼させてラジカル状態の燃焼炎とし、当該燃焼炎を固体物質に吹き付ける必要がある。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載のバーナーを用いた場合、噴射口から噴射される燃料ガスの火炎のどの範囲を吹き付けると、ラジカル状態の燃焼炎が固体物質の表面に吹き付けられるかということは不明確であるため、固体物質の表面改質処理が可能な範囲がわかり難いという問題があった。
また、上述したように、上記特許文献1に記載のバーナーの噴射口から噴射される燃料ガスの火炎のうち、外縁や外縁寄りのところでは酸化物が生成されやすくなっているため、当該火炎の外縁や外縁寄りの部分が吹き付けられた領域では充分な表面改質が行われない。すなわち、上記のような構成のバーナーを用いると、固体物質の表面改質に寄与できず無駄になる表面改質化合物が生じてしまう。そのうえ、上記の構成では、一度の吹きつけ処理を行うだけでは表面改質処理を行いたい領域(被処理領域)全体を処理できないことがあるため、燃料ガスの火炎を固体表面に複数回吹き付けたり、複数のバーナーで複数の方向から燃料ガスの火炎を固体表面に吹き付ける必要があった。
【0009】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、改質化合物を含むガスの火炎を効率よく固体物質に吹き付けることができ、かつ、改質処理可能な範囲がわかリ易いバーナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するものとして、本発明は、金属原子、半金属原子、または非金属原子、及び有機基を有し、固体物質の表面を改質する改質化合物を気化してなる気体状の改質化合物を含む燃料ガスの火炎を前記固体物質の表面に吹き付けるための噴射部を備えるバーナーであって、前記燃料ガスは、可燃性ガスまたは空気と、酸素を含むガスと、気体状の前記改質化合物と、を含み、前記噴射部は、前記燃料ガスを燃焼させた火炎を噴射する第1の噴射部と、可燃性ガスを含む第2のガスを燃焼させた火炎を噴射する第2の噴射部とが、交互に配されて多重構造をなし、前記第1の噴射部の周縁には前記第2の噴射部が配されているところに特徴を有する。
【0011】
本発明のバーナーは、燃料ガスの火炎を噴射する第1の噴射部の周縁に、可燃性ガスを含む第2のガスの火炎を噴射する第2の噴射部が配された噴射部を備えるので、第1の噴射部から噴射される火炎はその中心部だけでなく、周縁や周縁寄りにおいても空気と接触し難くなっている。従って、本発明では、バーナーの第1の噴射部のほぼ全域からラジカル状態の燃焼炎が噴射され、当該ラジカル状態の燃焼炎が噴射された固体物質の表面が改質される。その結果、本発明によれば、第1の噴射部の形成領域が表面改質処理可能な範囲とほぼ一致するので、改質処理可能な範囲がわかり易い。また、本発明によれば、第1の噴射部から噴射される火炎の周縁および周縁付近においても酸化物が生成され難いので、固体物質は、表面改質処理後の固体物質の表面に酸化物が付着することによる悪影響を受けない。
【0012】
また、本発明によれば、第1の噴射部を固体物質の所望の領域に一致するように配して燃料ガスを燃焼させた火炎を噴射することにより固体物質を表面改質することができる。その結果、本発明によれば、燃料ガスの使用量に無駄が生じず、吹きつけ作業回数も少なくすることができ、作業効率を向上することができる。なお、本発明においては「周縁」という語には内周縁および外周縁が含まれる。
【0013】
本発明は以下の構成であってもよい。
前記第1の噴射部が、前記固体物質の前記燃料ガスの火炎により改質処理される前記固体物質の被処理部の形状と対応した形状をなしていてもよい。
このような構成とすると表面改質ガスを燃焼させた火炎を一度吹き付けるだけで固体物質の表面の改質が可能となるので、作業効率に優れる。
【0014】
前記燃料ガスには、当該燃料ガスの体積に対して70%以上99%以下の酸素が含まれていていもよい。
このような構成とすると、改質剤化合物として燃焼性の劣るものを使用した場合に、燃焼効率を向上することができる。
【0015】
前記燃料ガスには、当該燃料ガスの燃焼を補助するための助燃ガスが含まれていていもよい。
このような構成とすると、改質剤化合物として燃焼性の劣るものを使用した場合に、燃焼効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、改質化合物を含むガスの火炎を効率よく固体物質に吹き付けることができ、かつ、改質処理可能な範囲がわかリ易いバーナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1のバーナーを備える表面改質装置を説明する模式図
【図2】噴射部側から見たバーナーの正面図
【図3】実施形態1のバーナーを用いて表面処理を行った固体物質の被処理面の電子顕微鏡写真
【図4】従来のバーナーを用いて表面処理を行った固体物質の被処理面の電子顕微鏡写真
【図5】実施形態2のバーナーを備える表面改質装置を説明する模式図
【図6】噴射部側から見たバーナーの正面図
【図7】他の実施形態(2)に示すバーナーの正面図
【図8】他の実施形態(3)に示すバーナーの正面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態1>
本発明を具体化した実施形態1を、図1ないし図4を参照しながら説明する。
本実施形態のバーナー30は、高分子材料、金属、セラミック等の固体物質Sの表面を改質する改質化合物を含む燃料ガスの燃焼炎を固体物質Sの表面に吹き付けるためのものである。
本実施形態のバーナー30を備える表面改質装置10は、図1に示すように、改質化合物を収容・気化する気化室12と、空気または可燃性ガスと気体状態の改質化合物とを含む表面改質ガスを気化室12から移送する移送部17と、表面改質ガスと酸素を含むガスとを混合して燃料ガスとする混合室18と、を備える。
【0019】
気化室12に収容される改質化合物は、固体物質Sの表面を改質して、塗装、印刷、接着などの処理を行いやすくする作用を有する化合物である。
改質化合物としては、常温(5〜35℃)で液体状のもの、または沸点が200℃以下の低沸点のものを用いるのが好ましく、具体的には、金属原子、半金属原子、または非金属原子に、1以上の有機基が結合した化合物等が用いられる。
【0020】
改質化合物に含まれる金属原子としては、アルミニウム、ハフニウム、インジウム、イリジウム、鉄、ニッケル、ニオブ、鉛、ルテニウム、タンタル、スズ、チタン、バナジウム、ジルコニウム、ベリリウム、カドミウム、クロム、コバルト、金、水銀、レニウム、タリウム、および亜鉛などが挙げられる。改質化合物に含まれる半金属原子としては、ヒ素、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン、およびシリコン等が挙げられ、改質化合物に含まれる非金属原子としては、リンなどが挙げられる。
【0021】
改質化合物に含まれる有機基としては、カルボニル基(C=O)、アシル基、アルコキシ基、アルキル基、アルケニル基、フェニル基、アルキルフェニル基、アルキルアミノ基、ポリフルオロアルキル基などが挙げられる。本発明で用いる改質化合物には、これらの有機基のうち一種または2種以上のものが含まれている。なお、改質化合物は、これらの有機基以外に、一酸化炭素、ハロゲン、リン化合物、イオウ化合物等の配位子を有していてもよい。
【0022】
アシル基としては、アセチル基、アセチルアセト基などがあげられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、secブトキシ基、tertブトキシ基、等が挙げられる。アルキル基としては、炭素数が1〜6の直鎖、分岐、環状のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。アルケニル基としては、アリル基、プロペニル基、シクロペンタジエニル基等が挙げられる。アルキルフェニル基としてはメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基などがあげられ、フェニル基に結合したアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。アルキルアミノ基としてはジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などがあげられる。ポリフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基(−CF)などのアルキル基の水素の一部又は全部をフッ素に置き換えたものが挙げられる。
【0023】
改質化合物の具体例としては、Al(O−secC、(CHAl、(CAl、(CBe、As(O−C、B(O−CH、B(O−C、B(O−iC、(n−CB(OH)、トリシクロヘキシルボロン[(C13B]、(CBe、(CCd、Cr(C−C、Ge(O−C、Ge(O−nC、Ge(O−tertC、Hf(O−tertC、In(O−CH、エチルシクロペンタジエニル(1,5−シクロオクタジエン)イリジウム[Ir(C)(C12)]、Fe(CO)、Ni(CO)、Nb(O−C、Nb(O−secC、PO(O−CH、PO(O−C、PO(O−secC、P(O−CH、P(O−secC、Pb(O−iC、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム[Ru(C]、Sb(O−nC、Ta(O−C、ジアセチルアセト−ジブトキシスズ[Sn(OC(C]、Ti(O−iC、Ti(O−secC、Ti[N(CH、VO(O−C、Zr(O−tertC、(CHSiO等が挙げられる。
これらの改質化合物のうち、PO(O−Cや(CHSiOなどが好ましい。
【0024】
改質化合物には、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコールを添加してもよい。アルコールを添加することにより炎色を変えることができ、アルコールの添加量は、改質化合物とアルコールの合計質量に対して0.01〜30質量%であるのが燃焼の良否判定の点で好ましい。
【0025】
気化室12には、空気または可燃性ガスを導入するガス導入部16と、気体状態の改質化合物と、空気または可燃性ガスと、を含む表面改質ガスを混合室18へ移送する移送部17と、が取り付けられている。
【0026】
空気または可燃性ガスを導入するガス導入部16は、空気または可燃性ガスが収容されている図示左側の第1のガスタンク15から、気化室12内の液体状の改質化合物が含まれる液相13内に至るように設けられている。これにより、空気または可燃性ガスは、第1のガスタンク15からガス導入部16を経て液相13中にバブリングされるようになっている。空気または可燃性ガスの導入量は、第1のガスタンク15と気化室12との間に設けた第1の弁15Aを操作することにより制御可能とされる。
【0027】
可燃性ガスとしては、水素ガス、硫化水素ガス、一酸化炭素、メタン、アセチレン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン、ジエチルエ−テル、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼンなどの炭化水素ガス、およびジボランなどのホウ素化合物などを用いることができる。これらの可燃性ガスのうち、プロパンガスが好ましい。
【0028】
移送部17は、気化室12の気相14から混合室18まで設けられている。移送部17により混合室18に移送される表面改質ガスの量は、気化室12と混合室18との間に設けた第2の弁17Aにより制御できるようになっている。
【0029】
混合室18には、酸素を含むガスを供給するガス供給部21と、表面改質ガスと酸素を含むガスとを混合してなる燃料ガスをバーナー30に移送する第1の移送管22とが設けられている。
【0030】
ガス供給部21により供給される酸素を含むガスは、図示右側の第2のガスタンク20に収容されており、この第2のガスタンク20と混合室18との間に設けた第3の弁20Aにより供給量が制御されるようになっている。
【0031】
酸素を含むガスとしては、空気や酸素など、酸素を含むものを用いることができる。酸素を含むガス中の酸素濃度は、使用する改質化合物の燃焼効率等を考慮して、設定することが好ましい。
なお、本発明では、燃料ガスの体積に対する酸素の量が70%以上99%以下であるのが好ましい。酸素が上記の割合で含まれていると、燃焼性の劣る改質化合物を用いた場合でも燃料ガスの燃焼効率を向上させることができるからである。
【0032】
さて、本実施形態のバーナー30は、混合室18に設けた第1の移送管22の一端に設けられている。バーナー30は、図2に示すように、正面視において円形をなす第1の噴射部32と、第1の噴射部32の外周を包囲する円環状の第2の噴射部33とから構成される二重構造(多重構造)の噴射部31を備える。円形の第1の噴射部32は、それ自体が噴射口32Aとして機能する。第2の噴射部33においては第1の噴射部32を取り囲むように円形の噴射口33Aが複数設けられている。
【0033】
第1の噴射部32は燃料ガスを移送する第1の移送管22から連なっており、燃料ガスを燃焼させた火炎が噴射されるようになっている。
第2の噴射部33は、可燃性ガスと、酸素を含むガスとを含む第2のガスを移送する第2の移送管46から連なっており、第2のガスを燃焼させた火炎が噴射されるようになっている。
【0034】
第2のガスに含まれる可燃性ガスとしては、表面改質ガスに含まれる可燃性ガスと同様のものを用いることができ、第2のガスに含まれる可燃性ガスと、表面改質ガスに含まれる可燃性ガスとは別のものでも同じものでもよいし、それぞれ2種以上を組み合わせてもよい。
第2のガスに含まれる酸素を含むガスとしては燃料ガスに含まれる酸素を含むガスと同様のものを用いることができ、第2のガスに含まれる酸素を含むガスと、燃料ガスに含まれる酸素を含むガスとは別のものでも同じものでもよいし、それぞれ2種以上を組み合わせてもよい。
【0035】
可燃性ガス供給部41は、可燃性ガスを収容する第3のガスタンク42から、酸素又は空気を供給する酸素類供給部40と合流するところまで設けられ、第2の移送管46に連なっている。また、可燃性ガス供給部41には第3のガスタンク42から供給される可燃性ガスの量を制御する第4の弁41Aが設けられている。
酸素類供給部40は、酸素又は空気を収容する第4のガスタンク43から、第2の移送管46に連なっており、第4のガスタンク43から供給される酸素又は空気の量を制御する第5の弁43Aが設けられている。
【0036】
噴射部31から噴射される燃料ガスの火炎が吹付けられる固体物質Sを構成する材料としては、例えば、シリコンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、ネオプレンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴムなどのゴム類、各種ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂等の高分子材料、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス、ニッケル、クロム、タングステン、金、銅、鉄、銀、亜鉛、スズ、鉛等の金属材料、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、石灰、ゼオライト、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、半田、ガラス、セラミック等の材料等が挙げられる。固体物質Sは、一種の材料から構成されていてもよいし、二種以上の材料から構成されていてもよい。
【0037】
燃料ガスの火炎の吹付けにより改質処理される固体物質Sの形態は、例えば、板状、シート状、フィルム状、テープ状、短冊状、パネル状、紐状などの平面構造を有するものであってもよく、筒状、柱状、球状、ブロック状、チューブ状、パイプ状、凹凸状、膜状、繊維状、織物状、束状等の三次元構造を有するものであってもよく、これらに限定されない。
【0038】
また、固体物質Sの形態は、上記に例示した構造のものと、金属部品、セラミック部品、ガラス部品、紙部品、木部品等とを組み合わせた複合構造体であってもよい。
なお、固体物質Sの形状を第1の噴射部32の形状に合わせると、表面改質ガスを燃焼させた火炎を一度吹き付けるだけで固体物質Sの表面の改質が可能となるので、作業効率に優れる。
【0039】
次に、本実施形態のバーナ30を備える表面改質装置10を用いた改質方法について説明する。
まず、第1のガスタンク15に貯蔵された空気又は可燃性ガスを気化室12に導入する。空気又は可燃性ガスは第1のガスタンク15から、ガス導入部16を通って気化室12の液相13中にバブリングにより導入される(バブリング工程)。液相13中に含まれる改質化合物は、空気又は可燃性ガスがバブリングされていないときでも、液体状態から気体状態に変化(気化)するが、本実施形態では、空気又は可燃性ガスが気化室12の液相13中でバブリングされることにより、液体状態の改質化合物が撹拌されて気化が促進され、気体状態の改質化合物を、常に飽和蒸気圧状態に近づけることができる。
【0040】
液体状態から気体状態に気化した改質化合物と、バブリングにより導入された空気又は可燃性ガスは、気化室12の気相14に移動する。気化室12の気相14に移動した気体状態の改質化合物と空気又は可燃性ガスとは、気化室12の上部に取り付けられた移送部17を通って混合室18の方向へ移送される。
【0041】
本実施形態では、気化室12において空気または可燃性ガスと気体状態の改質化合物とを混合するので、気体状態の改質化合物と空気又は可燃性ガスとの混合割合を予め定めた割合とすることができる。
【0042】
混合室18では、第2のガスタンク20からガス供給部21を経て供給された酸素を含むガスと、空気または可燃性ガスおよび気体状態の改質化合物を含む表面改質ガスと、が混合されて燃料ガスとされる。
この燃料ガスは、混合室18に設けた第1の移送管22を通ってバーナー30の第1の噴射部32へ移送される。
【0043】
一方、可燃性ガス供給部41から供給される可燃性ガスと、酸素類供給部40から供給された酸素を含むガスと、を含む第2のガスは、第2の移送管46を通ってバーナー30の第2の噴射部33へ移送される。
【0044】
次にバーナー30の噴射部31を固体物質Sの表面に向けて、火炎を吹き付ける。すると、第1の移送管22を通って第1の噴射部32に移送された燃料ガスが燃焼し、第1噴射部32の噴射口32Aから当該燃料ガスの燃焼により生じる火炎が噴射される。一方、第2の噴射部33においては、第2の移送管46を通って第2の噴射部33に移送された第2のガスが燃焼して、第2の噴射部33の噴射口33Aから、当該第2のガスの燃焼により生じた火炎が噴射される。
【0045】
第1の噴射部32の噴射口32Aから噴射される火炎の周縁を取り囲むように第2の噴射部33の噴射口33Aから第2のガスの火炎が噴射されるので、第1の噴射部32から噴射される火炎は、その中心部だけでなく周縁および周縁付近においても酸化物が生成しない(図3を参照、詳細は後述する)。
すなわち、本実施形態では、第1の噴射部32の全域からラジカル状態の燃焼炎が噴射され、このラジカル状態の燃焼炎が吹き付けられることにより固体物質Sの表面が改質処理される(処理工程)。
【0046】
上述したような方法により改質処理を施した固体物質Sには、従来は接着に問題のあった異種材料との接着性を向上する効果、濡れ性(親水性)を向上する効果、帯電防止効果などが付与される。すなわち、表面改質装置10により改質処理を行うことにより、固体物質Sを改質し、接着、塗装、印刷などの表面処理を容易なものとすることができる。
【0047】
次に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態のバーナー30は、燃料ガスの火炎を噴射する第1の噴射部32の周縁に、可燃性ガスを含む第2のガスの火炎を噴射する第2の噴射部33が配された噴射部31を備えるので、第1の噴射部32から噴射される火炎はその中心部だけでなく、周縁や周縁寄りのところでも空気と接触し難くなっている。
従って、本実施形態では、バーナー30の第1の噴射部32のほぼ全域からラジカル状態の燃焼炎が噴射され、当該ラジカル状態の燃焼炎が噴射された固体物質Sの表面が改質される。その結果、本実施形態によれば、第1の噴射部32の形成領域が表面改質処理可能な範囲とほぼ一致するので、改質処理可能な範囲がわかり易い。
【0048】
ところで、従来の構成のバーナー(例えば特許文献1に記載のものなど)を用いて、例えば、眼鏡のレンズ用のガラスに対して表面改質処理を行った場合には、燃料ガスの火炎の周縁および周縁付近が空気に接触して酸化物が生成し、ガラスの表面(固体物質Sの被処理面S1:被処理部S1に相当)に付着することがある。図4に示す白い粒状のものが酸化物である。このような酸化物の付着が生じるとガラスが乱反射が起こして、不都合が生じる。しかしながら、本実施形態によれば、第1の噴射部32から噴射される火炎の周縁および周縁付近において酸化物が生成され難いので、固体物質Sの被処理面S1に酸化物が付着しない(図3を参照)。その結果、本実施形態によれば、表面改質処理後の固体物質Sの被処理面S1に酸化物が付着することによる悪影響を受けない。なお、この点については後述の試験例において詳細に説明する。
【0049】
また、本実施形態のバーナー30を、第1の噴射部32を固体物質Sの所望の領域に一致するように配して燃料ガスを燃焼させた火炎を噴射することにより固体物質Sを表面改質することができる。その結果、本実施形態によれば、燃料ガスの使用量に無駄が生じず、吹きつけ作業回数も少なくすることができ、作業効率を向上することができる。
【0050】
<試験例>
(1)試験例1
実施形態1のバーナー30を備える上述の表面改質装置10を用いて以下の条件下で表面改質処理を行った。
改質化合物として(CHSiO(ヘキサメチルジシロキサン)を用い、バブリングするガスとしてプロパンガスを用いた。酸素を含むガスとしては、当該ガス中の酸素濃度が80〜85体積%の酸素を用い、第2のガスとしてはプロパンガスと空気との混合ガスを用いた。固体物質Sとしてはポリプロピレン板を用いた。
改質処理後のポリプロピレン板の被処理面S1を倍率10000倍で電子顕微鏡[日本電子(株)製、電子線マイクロアナライザー(JXA−8600S型)]により撮影した。撮影した写真を図3に示す。図3の右下に記載の白い線分は1μmの長さを示す。
図3に示すように、本発明のバーナー30を用いて表面改質を行ったポリプロピレン板の被処理面S1においては、白い粒状のものは認められなかった。
【0051】
(2)試験例2
1つの噴射口を有するバーナー(特許文献1の図1に示す形態のもの)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして、表面改質処理を行った。改質処理後のポリプロピレン板の被処理面を試験例1と同様にして電子顕微鏡により撮影した。撮影した写真を図4に示す。図4の右下に記載の白い線分は1μmの長さを示す。
図4に示すように、従来のバーナーを用いて表面改質を行ったポリプロピレン板の被処理面においては全域において白い粒状のものが認められ、0.3μm程度の白い塊状のものも認められた。この白い粒状のものおよび白い塊状のものは分析(XPS分析、FT−IR分析)により改質化合物の酸化物であることが確認された。
【0052】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図5および図6によって説明する。実施形態1と同じ名称の部位には、同一の符号を用い、構造、作用及び効果について重複する説明は省略する。
本実施形態のバーナー30は、図6に示すように、正面視において長円形をなす第1の噴射部32と、第1の噴射部32の外周を包囲する円環状の第2の噴射部33とから構成される二重構造の噴射部31を備える。第1の噴射部32には、円形の噴射口32Aが6個並列して設けられており、第2の噴射部33においては円形の噴射口33Aが多数個、第1の噴射部を取り囲むように設けられている。
【0053】
本実施形態のバーナー30を備える表面改質装置10の混合室18には、酸素を含むガスを供給するガス供給部21と第1の移送管22に加えて、燃料ガスの燃焼量を調整する助燃ガスを供給する助燃ガス供給部51とが設けられている。
【0054】
助燃ガス供給部51は、助燃ガスを収容する第5のガスタンク50から混合室18に至って設けられており、助燃ガス供給部51には第5のガスタンク50から供給される助燃ガスの量を制御する第6の弁50Aが設けられている。
助燃ガスとしては、例えばメタン、エタン、ブタンなどの炭化水素ガスなどが挙げられる。上記以外の構成は実施形態1と同様である。
【0055】
次に、本実施形態のバーナー30を備える表面改質装置10を用いた表面改質方法について説明する。
まず、第1のガスタンク15に貯蔵された空気又は可燃性ガスを気化室12の液相13中にバブリングにより導入する。液体状態から気体状態に気化した改質化合物と、バブリングにより導入された空気又は可燃性ガスは、気化室12の気相14に移動する。気化室12の気相14に移動した気体状態の改質化合物と空気又は可燃性ガスとは、気化室12の上部に取り付けられた移送部17を通って混合室18の方向へ移送される。
【0056】
混合室18では、第2のガスタンク20からガス供給部21を経て供給された酸素を含むガスと、空気または可燃性ガスおよび気体状態の改質化合物を含む表面改質ガスと、第5のガスタンク50から助燃ガス供給部51を経て供給された助燃ガスとが混合されて燃料ガスとされる。
この燃料ガスは、混合室18に設けた第1の移送管22を通ってバーナー30の第1の噴射部32へ移送される。
【0057】
一方、可燃性ガス供給部41から供給される可燃性ガスと、酸素類供給部40から供給された酸素を含むガスと、を含む第2のガスは、第2の移送管46を通ってバーナー30の第2の噴射部33へ移送される。
【0058】
次にバーナー30の噴射部31を固体物質Sの表面に向けて、火炎を吹き付ける。すると、第1の移送管22を通って第1の噴射部32に移送された燃料ガスが燃焼して、第1の噴射部32の噴射口32Aから当該燃料ガスの燃焼により生じる火炎が噴射される。一方、第2の噴射部33においては、第2の移送管46を通って第2の噴射部33に移送された第2のガスが燃焼して、第2の噴射部33の噴射口33Aから、当該第2のガスの燃焼により生じた火炎が噴射される。
【0059】
本実施形態においても実施形態1と同様に、第1の噴射部32の噴射口32Aから噴射される火炎の周縁を取り囲むように第2の噴射部33の噴射口33Aから第2のガスの火炎が噴射されるので、第1の噴射部32から噴射される火炎は、その中心部だけでなく周縁および周縁付近においても酸化物が生成しない。
【0060】
次に本実施形態の効果について説明する。
本実施形態によれば、実施形態1と同様の効果に加えて、以下の効果が発揮される。
本実施形態によれば、混合室18で助燃性のガスが燃料ガスに混合されるので、改質剤化合物として燃焼性の劣るものを使用した場合にも、燃焼効率を向上することができるという効果が得られる。
【0061】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、表面改質装置10として、気化室12の液相13にバブリングにより空気又は可燃性ガスを導入するものを示したが、空気又は可燃性ガスの導入方法はバブリングでなくてもよい。また気化室12には、ヒーター(図示せず)を取り付けて改質化合物の気化を促進してもよい。
【0062】
(2)上記実施形態では、複数の噴射口33Aを有する第2の噴射部33を有する噴射部31を備えるバーナー30を示したが、例えば、図7に示すバーナー30のように第2の噴射部33に1つの噴射口33Aを有するものであってもよい。
図7のバーナー30の噴射部31は、正面視において長円形をなす第1の噴射部32と、第1の噴射部32の外周を包囲する円環状の第2の噴射部33とから構成され、第1の噴射部32には、円形の噴射口32Aが8個並列して設けられており、第2の噴射部33においては第2の噴射部33を構成する円環状の部分が噴射口33Aとされる。
(3)上記実施形態では、第1の噴射部32の外周縁に第2の噴射部33が配されている二重構造の噴射部31を備えるバーナー30を示したが、噴射部31は三重以上の多重構造であってもよいし、第1の噴射部32の内周縁と外周縁との両方に第2の噴射部33が配されているものであってもよい。
具体的には、図8に示すように、内側から順に、正面視において円形の空孔の外周を包囲する円環状の第2の噴射部33、この第2の噴射部33の外周を包囲する円環状の第1の噴射部32、第1の噴射部32の外周を包囲する第2の噴射部33が重なって3重構造をなす噴射部31を有するバーナー30であってもよい。
なお、噴射部31の形状は長円形や円形以外であってもよく、固体物質Sの形状や処理面の形状により使い分けることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
30…バーナー
31…噴射部
32…第1の噴射部
33…第2の噴射部
S…固体物質
S1…被処理面(被処理部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子、半金属原子、または非金属原子、及び有機基を有し、固体物質の表面を改質する改質化合物を気化してなる気体状の改質化合物を含む燃料ガスの火炎を前記固体物質の表面に吹き付けるための噴射部を備えるバーナーであって、
前記燃料ガスは、可燃性ガスまたは空気と、酸素を含むガスと、気体状の前記改質化合物と、を含み、
前記噴射部は、前記燃料ガスを燃焼させた火炎を噴射する第1の噴射部と、可燃性ガスを含む第2のガスを燃焼させた火炎を噴射する第2の噴射部とが、交互に配されて多重構造をなし、
前記第1の噴射部の周縁には前記第2の噴射部が配されていることを特徴とするバーナー。
【請求項2】
前記第1の噴射部が、前記固体物質の前記燃料ガスの火炎により改質処理される前記固体物質の被処理部の形状と対応した形状をなしていることを特徴とする請求項1に記載のバーナー。
【請求項3】
前記燃料ガスには、当該燃料ガスの体積に対して70%以上99%以下の酸素が含まれることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のバーナー。
【請求項4】
前記燃料ガスには、当該燃料ガスの燃焼を補助するための助燃ガスが含まれることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のバーナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−17509(P2011−17509A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163675(P2009−163675)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(507198071)タイムオートマシン株式会社 (4)
【出願人】(593102921)ミズショー株式会社 (8)
【Fターム(参考)】