説明

パイプ式ボールペン

【課題】筆記時の十分なインキ流出性が得られるとともに、非筆記時のカシメ部とボールとの確実なシール性が得られるパイプ式ボールペンを提供する。
【解決手段】ボールペンチップ2が、金属製のパイプ3の先細状の先端部を径方向内方に押圧変形することにより形成したカシメ部4と、パイプ3の先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数の内方突出部5とによってボール6が回転可能に抱持されるボール抱持部を有する。弾発体11がボール6を前方に付勢し且つボール6がカシメ部4の内周面に密接される。ボール抱持部の最大内径Bと前記ボール6の直径Aとの差が25μm以上とする。カシメ部4の内周面に、前方に向かうに従い次第に内径が小さくなる環状凸面部4aを形成する。非筆記時、弾発体11の前方付勢により、カシメ部4の環状凸面部4aにボール6を密接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプ式ボールペンに関する。詳細には、金属製のパイプの先細状の先端部を径方向内方に押圧変形することにより形成したカシメ部と、前記パイプの先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数の内方突出部とによってボールが回転可能に抱持されるボール抱持部を有するボールペンチップを備えたパイプ式ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1には、カシメ部の内周面にボールと同等の曲率を有する球面状凹部を形成してなるパイプ式ボールペンチップが開示されている。
【0003】
前記従来のパイプ式ボールペンチップは、筆記時のインキ流出性を向上させるために(例えば、比較的大きな着色剤粒子を有するインキを容易に吐出させるために)、内方突出部とカシメ部との間のボール抱持部内におけるボールの径方向の移動可能量を大きく設定するに従い、ポンチ加工により内方突出部を形成する際の押圧変形量も増加し、それに伴い、カシメ部の内面の横断面形状が円形から歪んだ形状になりやすくなると同時に、カシメ部の内周面にボールと同等の曲率を有する球面状凹部を形成するためのカシメ部の内方への折り曲げ量(カシメ変形量)も増加する。その結果、カシメ工程時にカシメ部内面を適正にボールに圧接させることができず、確実なシール性を備えたカシメ部を形成することが困難となるおそれがある。
【0004】
したがって、従来において、十分なインキ流出性と、確実なシール性の両方を満足するパイプ式ボールペンは、未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−103288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の問題点を解決するものであって、筆記時の十分なインキ流出性が得られるとともに、非筆記時のカシメ部とボールとの確実なシール性が得られるパイプ式ボールペンを提供しようとするものである。尚、本発明で、「前」とはボールペンチップ側を指し、「後」とはその反対側を指す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本願の第1の発明は、金属製のパイプ3の先細状の先端部を径方向内方に押圧変形することにより形成したカシメ部4と、前記パイプ3の先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数の内方突出部5とによってボール6が回転可能に抱持されるボール抱持部を有するボールペンチップ2と、前記ボール6を前方に付勢し且つ前記ボール6を前記カシメ部4の内周面に密接させる弾発体11とを備えたパイプ式ボールペンであって、前記ボール抱持部の最大内径Bと前記ボール6の直径Aとの差が25μm以上であり、且つ、前記カシメ部4の内周面に、前方に向かうに従い次第に内径が小さくなる環状凸面部4aを形成し、非筆記時、前記弾発体11の前方付勢により、前記カシメ部4の環状凸面部4aに前記ボール6を密接させたことを要件とする。
【0008】
前記第1の発明のパイプ式ボールペン1は、前記ボール抱持部の最大内径Bと前記ボール6の直径Aとの差が25μm以上であり、且つ、前記カシメ部4の内周面に、前方に向かうに従い次第に内径が小さくなる環状凸面部4aを形成し、非筆記時、前記弾発体11の前方付勢により、前記カシメ部4の環状凸面部4aに前記ボール6を密接させたことにより、筆記時の十分なインキ流出性が得られるとともに、非筆記時のカシメ部4とボール6との確実なシール性が得られる。
【0009】
尚、本発明でボール6は、直径Aが、0.3mm〜0.7mm(好ましくは0.3mm〜0.5mm)の範囲のものが好ましい。尚、前記ボール抱持部の最大内径Bとボール6の直径Aとの差は、より一層、円滑なインキ流出性が得られる点で、30μm以上が好ましい。尚、前記ボールペン抱持部内でのボールペンの前後方向の移動可能量は、円滑なインキ流出性が得られる点で、15μm〜65μmの範囲が好ましい。
【0010】
[2]本願の第2の発明は、前記第1の発明のパイプ式ボールペン1において、前記環状凸面部4aの径方向外方のカシメ部4の外周面に、前方に向かうに従い次第に外径が小さくなる環状凹面部4bを設け、前記ボール6を前記内方突出部5に当接させた状態で、前記環状凸面部4aと前記ボール6との間にインキ流通間隙7が形成されるとともに、前記環状凹面部4bの先端と前記環状凹面部4bの後端とに接する仮想直線Pよりも前側に前記ボール6の一部が突出してなることを要件とする。
【0011】
前記第2の発明のパイプ式ボールペン1は、紙面に対してボールペン本体を傾斜させて筆記しても環状凹面部4bの先端(カシメ部4の先端)が紙面に当たることを回避し、滑らかな筆記感が得られるとともに、カシメ部4の内周面の変形(即ち横断面形状が円形から歪んだ形状になること)も回避でき、非筆記時のボール6とカシメ部4との確実なシール性が維持される。
【0012】
[3]前記第3の発明は、前記第2の発明のパイプ式ボールペン1において、前記環状凹面部4bの後端が前記カシメ部4の内周面基端4cよりも前方に位置してなることを要件とする。
【0013】
前記第3の発明のパイプ式ボールペン1は、前記環状凹面部4bの後端が前記カシメ部4の内周面基端4cよりも前方に位置してなることによって、より一層、筆記時のカシメ部4先端が紙面に当たることを回避できる。もし、環状凹面部4bの後端が前記カシメ部4の内周面基端4cよりも後方に位置する場合、環状凹面部4bの先端と環状凹面部4bの後端とに接する仮想直線Pよりも前側にボール6の一部が突出しないため、紙面に対してボールペン本体を傾斜させて筆記した際、環状凹面部4bの先端(カシメ部4の先端)が紙面に接触するおそれがある。
【0014】
[4]前記第4の発明は、前記第1乃至3の何れかの発明において、前記環状凹面部4bの先端と前記環状凹面部4bの後端とに接する仮想直線Pから垂直方向の環状凹面部4bの最大深さDが、2μm以上であることを要件とする。
【0015】
前記第4の発明のパイプ式ボールペン1は、前記環状凹面部4bの先端と前記環状凹面部4bの後端とに接する仮想直線Pから垂直方向の環状凹面部4bの最大深さDが、2μm以上(好ましくは4μm以上)であることにより、カシメ部4の内周面に適正な環状凸面部4aを形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のパイプ式ボールペンは、筆記時の十分なインキ流出性が得られるとともに、非筆記時のカシメ部とボールとの確実なシール性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の非筆記時の要部拡大縦断面図である。
【図3】図2の要部拡大縦断面図である。
【図4】図2のX−X線拡大断面図である。
【図5】図1のボールと内方突出部との当接状態(筆記時)の要部拡大縦断面図である。
【図6】図5の要部拡大縦断面図である。
【図7】図1のボールペンチップのカシメ加工前の状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図8】図1のボールペンチップのカシメ加工時を示す要部拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のパイプ式ボールペン1の実施の形態を図面に従って説明する(図1乃至図8参照)。
【0019】
本実施の形態のパイプ式ボールペン1は、先端に回転可能にボール6が抱持されたボールペンチップ2と、該ボールペンチップ2の後部を保持するホルダー8と、該ホルダー8内及びボールペンチップ2内に収容され且つボール6を前方に付勢する弾発体11と、前記ホルダー8を先端開口部に圧入固着されたインキ収容筒9と、該インキ収容筒9内に収容されるインキ9a及び追従体9bと、前記インキ収容筒9の後端開口部に圧入固着される、通気孔を備えた尾栓10とからなる。
【0020】
・インキ収容筒
前記インキ収容筒9の内部には、インキ9aと、該インキ9aの後端に配置され且つ該インキ9aの消費に伴って前進する高粘度流体からなる追従体9bとが充填される。前記インキ9aは、例えば、低粘度の水性または油性インキ、剪断減粘性を有する水性または油性ゲルインキ等が挙げられる。前記追従体9bは、例えば、高粘度流体のみからなる構成、または高粘度流体中に固形物を収容させた構成が挙げられる。
【0021】
前記インキ9aの着色剤としては、例えば、顔料または染料が用いられる。前記染料としては、例えば、酸性染料、直接染料、塩基性染料等が挙げられる。前記顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料、蛍光顔料、パール顔料、メタリック顔料、蓄光性顔料、酸化チタン等の白顔料、金属粉顔料、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料等が挙げられる。
【0022】
・弾発体
前記弾発体11は、前部のストレート部11aと、後部のコイル部11bとが一体に連設されてなる。前記コイル部11bの後端部には、外径が前方のコイル部11bより大きく設定された密着巻部よりなる膨出部11cが形成される。前記膨出部11cがホルダー8内周面の係止突起8aを後方より乗り越えて、前記膨出部11cが前記係止突起8aの前面に係止される。それにより、弾発体11が圧縮状態で保持される。尚、前記弾発体11の弾発力(即ちボール6を前方に押圧する力)は、10グラム〜25グラムに設定される。
【0023】
前記ストレート部11aの先端は、ボール6後面に当接され、ボール6を前方に押圧し、それにより、ボール6がボールペンチップ2のカシメ部4内周面に周状に密接され、ボール6とカシメ部4内周面との間がシールされる。前記カシメ部4内周面にボール6が密接されることにより、ペン先下向き状態で保管したとしても、ペン先からのインキ漏出が防止され、また、ペン先上向き状態で保管したとしても、ペン先からの空気混入が防止される。
【0024】
・ボールペンチップ
前記ボールペンチップ2は、金属製のパイプ3の先細状の先端部を径方向内方に押圧変形することにより形成したカシメ部4と、前記パイプ3の先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数(具体的には4個)の内方突出部5とを備え、前記カシメ部4と内方突出部5とによってボール6を回転可能に抱持するボール抱持部を構成する。前記金属製のパイプ3は、ステンレス鋼(例えば、SUS304,SUS321等のオーステナイト系ステンレス鋼)の円筒体が採用される。前記金属製のパイプ3は、少なくとも先端部がストレート状の円筒体(直管状円筒体)であることが好ましく、例えば、全体がストレート状の円筒体からなる構成、または、先端部がストレート状であり、且つ、その後方が外径及び内径が拡径する形状である構成が挙げられる。前記内方突出部5は、パイプ3の内周面に周状に等間隔に配置される。
【0025】
前記カシメ部4の内周面に、前方に向かうに従い次第に内径が小さくなる環状凸面部4aが形成される。前記環状凸面部4aの径方向外方のカシメ部4の外周面に、前方に向かうに従い次第に外径が小さくなる環状凹面部4bが形成される。
【0026】
前記環状凸面部4aは、前方に向かうに従い次第に内径が小さくなる形状を有する。前記環状凸面部4aは、例えば、環状凸曲面からなる構成、環状凸曲面と環状傾斜面とからなる構成、または、複数の環状傾斜面からなる構成が挙げられる。
【0027】
前記環状凹面部4bは、前方に向かうに従い次第に外径が小さくなる形状を有する。前記環状凹面部4bは、例えば、環状凹曲面からなる構成、環状凹曲面と環状傾斜面とからなる構成、または複数の環状傾斜面からなる構成が挙げられる。
【0028】
前記ボール抱持部の最大内径Bとボール6の直径Aとの差が25μm以上(好ましくは30μm以上)に設定される。それにより、筆記時の十分なインキ流出性が得られる。
【0029】
前記ボールペン抱持部内でのボールペンの前後方向の移動可能量は、15μm〜30μmの範囲に設定される。それにより、筆記時の十分なインキ流出性が得られる。
【0030】
前記ボール6は、直径Aが、0.3mm〜0.7mm(好ましくは0.3mm〜0.5mm)の範囲のものが採用される。
【0031】
非筆記時、前記弾発体11の前方付勢により、前記カシメ部4の環状凸面部4aに前記ボール6を周状に密接される。カシメ部4の内周面に環状凸面部4aを形成したことにより、カシメ加工前のパイプ3の先端部内周面の横断面形状が円形状から多少歪んだ形状になっていても、弾発体11の前方付勢でボール6が環状凸面部4aに容易に食い付き、カシメ部4内周面とボール6との確実なシール性が得られる。
【0032】
前記ボール6を前記内方突出部5に当接させた際(即ち筆記時)、前記環状凸面部4aと前記ボール6との間にインキ流通間隙7が形成されるとともに、前記環状凹面部4bの先端と前記環状凹面部4bの後端とに接する仮想直線Pよりも前方に前記ボール6が突出してなる。それにより、紙面に対してボールペン本体を傾斜させて筆記しても環状凹面部4bの先端(カシメ部4の先端)が紙面に当たることを回避し、滑らかな筆記感が得られるとともに、カシメ部4の内周面の変形(即ち円形から歪んだ形状になること)も回避でき、非筆記時のボール6とカシメ部4との確実なシール性が維持される。
【0033】
また、前記環状凹面部4bの後端が前記カシメ部4の内周面基端4cよりも前方に位置される。具体的には、図6に示すように、前記環状凹面部4bの後端が前記カシメ部4の内周面基端4cよりも距離Cだけ軸方向前方に位置される。それにより、より一層、筆記時の環状凹面部4b(カシメ部4の先端)が紙面に当たることを回避できる。
【0034】
また、前記環状凹面部4bの先端と前記環状凹面部4bの後端とに接する仮想直線Pから垂直方向の環状凹面部4bの最大深さDが、2μm以上(好ましくは4μm以上)に設定される。それにより、カシメ部4の内周面に適正な環状凸面部4aを形成することができる。
【0035】
・製造方法
本実施の形態に用いられるボールペンチップ2の製造方法について説明する。
図7に示すように、先細状の先端部(具体的には前方に向かうに従い縮径するテーパ状の先端部)を備えた金属製のパイプ3の先端近傍側壁を内方への押圧変形(ポンチ加工)によって、ボール受け座用の複数の内方突出部5を形成した後、ボール6を内方突出部5の前側に挿入する。
【0036】
次に、図8に示すように、金属製のパイプ3の先細状の先端部の外周面に、カシメ具12の圧接面を圧接させることにより、カシメ部4が形成される。前記カシメ具12の圧接面は、凸面状となっているため、前記カシメ部4の形成と同時に、前記カシメ部4の内周面に環状凸面部4aが形成され、且つ、前記カシメ部4の外周面に環状凹面部4bが形成される。尚、前記ボールペンチップ2の製造方法は、1例であり、これに限らない。
【符号の説明】
【0037】
1 パイプ式ボールペン
2 ボールペンチップ
3 パイプ
4 カシメ部
4a 環状凸面部
4b 環状凹面部
4c カシメ部の内周面基端
5 内方突出部
6 ボール
7 インキ流通間隙
8 ホルダー
8a 係止突起
9 インキ収容筒
9a インキ
9b 追従体
10 尾栓
11 弾発体
11a ストレート部
11b コイル部
11c 膨出部
12 カシメ具
P 仮想直線
A ボールの直径
B ボール抱持部の最大内径
C 環状凹面部の後端とカシメ部の内周面基端との間の軸方向の距離
D 環状凹面部の最大深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のパイプの先細状の先端部を径方向内方に押圧変形することにより形成したカシメ部と、前記パイプの先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数の内方突出部とによってボールが回転可能に抱持されるボール抱持部を有するボールペンチップと、前記ボールを前方に付勢し且つ前記ボールを前記カシメ部の内周面に密接させる弾発体とを備えたパイプ式ボールペンであって、前記ボール抱持部の最大内径と前記ボールの直径との差が25μm以上であり、且つ、前記カシメ部の内周面に、前方に向かうに従い次第に内径が小さくなる環状凸面部を形成し、非筆記時、前記弾発体の前方付勢により、前記カシメ部の環状凸面部に前記ボールを密接させたことを特徴とするパイプ式ボールペン。
【請求項2】
前記環状凸面部の径方向外方のカシメ部の外周面に、前方に向かうに従い次第に外径が小さくなる環状凹面部を設け、前記ボールを前記内方突出部に当接させた状態で、前記環状凸面部と前記ボールとの間にインキ流通間隙が形成されるとともに、前記環状凹面部の先端と前記環状凹面部の後端とに接する仮想直線よりも前側に前記ボールの一部が突出してなる請求項1記載のパイプ式ボールペン。
【請求項3】
前記環状凹面部の後端が前記カシメ部の内周面基端よりも前方に位置してなる請求項2記載のパイプ式ボールペン。
【請求項4】
前記環状凹面部の先端と前記環状凹面部の後端とに接する仮想直線から垂直方向の環状凹面部の最大深さが、2μm以上である請求項1乃至3の何れかに記載のパイプ式ボールペン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−10331(P2013−10331A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146013(P2011−146013)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】