説明

パウダーインジェクタ

【課題】容器に装着した状態でも、装着位置の調整ができるパウダーインジェクタを提供する。
【解決手段】プランジャ部材と、シリンダ部材と、弾性係止部材と、鞘部材とを有するパウダーインジェクタであって、弾性係止部材は、シリンダ部材に嵌合する支持部と、該支持部に連設された膨出部を有し、相手容器の受け口に変形時の弾性力により嵌合固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分測定を行う際に用いられるパウダーインジェクタに関し、特に、測定容器に容易に装着できるように構成したパウダーインジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パウダーインジェクタ100を滴定容器に装着するために、図3に示すように、パウダーインジェクタ100に設けた装着栓101を滴定容器102の受け口に嵌合する手段をとっていた(例えば、特許文献1参照)。
図3は従来のパウダーインジェクタの装着状態を説明する図である。
図3のパウダーインジェクタ100は、プランジャをバレル104の貫通孔に挿通配置し、そのバレル104を装着栓101に挿通嵌合してある。バレル104に対する装着栓101の装着位置は、嵌合状態のまま相互に摺動させて変更する。このパウダーインジェクタ100を取り付ける滴定容器102は、発生液105を入れた容器本体106をアダプタ部材107で蓋をし、この蓋に乾燥筒108や検出電極等109が設けられている。
【0003】
容器本体106の側壁には、中空開孔を有する裁頭円錐台形状の受け口103が設けられている。受け口103には、パウダーインジェクタ100の装着栓101が嵌合されている。装着栓101は、裁頭円錐台形状の受け口103に整合するように、外形が同じく中空開孔の裁頭円錐台形状に形成されたテーパー部110と、該テーパー部110に連設され、該テーパー部110より大径のストッパ部111とから構成されている。装着栓101の中空開孔112内には、バレル104が挿入嵌合されている。
【0004】
パウダーインジェクタ100の装着栓101を受け口103に取り付ける時、パウダーインジェクタ100のバレル104は、容器本体102の受け口103から内部に挿入され、バレル104先端が発生液105内に浸積される。これに伴って、装着栓101のテーパー部110が容器本体102の受け口103内に挿通嵌合される。これにより、受け口103に対する装着栓101の嵌合位置は特定の位置に決まってしまう。このとき、受け口103の先端と装着栓101のストッパ部111が当接して挿入状態が停止することも有る。
【特許文献1】特開2003−262615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この装着栓101は、一度、受け口103に装着栓101のテーパー部110が嵌合してしまうと、受け口103に対する位置を変更することができない。
また、この装着栓101は、受け口103の先端に装着栓101のストッパ部111が当接してしまうと、受け口103に対する位置を変更することができない。いずれの場合も、それ以上は挿入位置の調整ができない。バレル104に対する装着栓101の取り付け位置が不適切の場合には、バレル104の先端が滴定容器102内の発生液105内に届かない場合や、バレル104の先端が滴定容器102の底に当接してしまって、先端に収納されている試料がプランジャを押下げても排出できない場合等の不都合が発生する。
【0006】
このような場合には、滴定容器102の受け口103からパウダーインジェクタ100の装着栓101を引き抜き、バレル104に対する装着栓101の取り付け位置を調整した後、再度、滴定容器102にパウダーインジェクタ100を装着し、装着栓101を滴定容器102の受け口103に嵌合することになる。
このような問題が発生すると、正確に秤量された粉末試料の全量を、測定直前まで外気及び滴定容器中の雰囲気と接触させることなく、発生液に直接投入することができない。
【0007】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、容器に装着した状態でも、装着位置の調整ができるパウダーインジェクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために下記の解決手段を採用する。
本発明のパウダーインジェクタは、プランジャ部材と、シリンダ部材と、弾性係止部材と、鞘部材とを有するパウダーインジェクタであって、弾性係止部材は、シリンダ部材に嵌合する支持部と、該支持部に連設された膨出部を有し、相手容器の受け口に変形時の弾性力により嵌合固定される。
【0009】
前記膨出部は、中空に形成され、少なくとも長さ方向に、立ち上がり部と摺接部、又は、立ち上がり部と摺接部と挟持部が連設され、半径方向外方へ膨出形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のパウダーインジェクタは、弾性係止部材の膨出部が弾性変形して容器の装着孔に整合するので、容器に装着した状態でも、装着位置の調整ができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明のパウダーインジェクタの分解・組立図である。
本発明のパウダーインジェクタ1は、プランジャ部材2と、シリンダ部材3と、弾性係止部材4と、フランジ板5と、鞘部材6を有する。パウダーインジェクタ1は、全体的に耐薬品性等に優れた材料、例えば、塩化ブチルゴム、ポリテトラフルオロエチレンのようなフルオロカーボン樹脂等で形成されている。選択的に、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、シリコンゴム、ハロゲン化ゴム、エチレンプロピレンターポリマー、およびこれらの混合物からなる群から選択された材料で作られる。
プランジャ部材2は、図1(a)に示すように、長尺の丸棒からなるロッド部7と、該ロッド部7の長さ方向一端に連設され該ロッド部7より大きい径の操作部8からなり、長さ方向断面がT字形に形成されている。ロッド部7の先端には、パウダー状の試料(図示省略)を介し、必要に応じて、止め栓9が対向配置される。止め栓9は、シリンダ部材3の貫通孔10に嵌合される。丸棒の径は、例えば、約4.4mmφとする。プランジャ部材2はステンレスで作ることもできる。
【0013】
シリンダ部材3は、図1(b)に示すように、長さ方向に貫通孔10を備える筒状案内部11と、該筒状案内部11の長さ方向一端に連設されたフランジ部12を有する。貫通孔10には、ロッド部7が挿通自在に設けられると共に、止め栓9が嵌合配置される。筒状案内部11の外径は、例えば、9mmφで、貫通孔10の径は、例えば、約4.5mmφとする。フランジ部12の外径は、例えば、13.5mmφとする。シリンダ部材3の軸方向長さは、例えば、88.0mmとする。
フランジ板5は、平板からなり、中央部に前記シリンダ部材3の筒状案内部11が挿通されると共にフランジ部12が当接して抜け止めとなる開孔13を有し、その外周が、例えば、楕円形等の任意形状に形成されている。フランジ板5の最外径は、例えば、23.0mmφとする。
【0014】
弾性係止部材4は、図1(c)〜図1(f)に示すように、中空の支持部14と、中空の膨出部15を連続して有し、相手容器の受け口(図示省略)に変形時の弾発力により嵌合固定される。
支持部14は、シリンダ部材3の外周に嵌合される円筒体で構成され、その外側に膨出部15の立ち上がり部16が連設される。
膨出部15は、中空状に形成され、長さ方向に、立ち上がり部16と、摺接部17と、挟持部18が連設され、半径方向外方へ膨出形成されている。
【0015】
立ち上がり部16は、支持部14の外側面から軸方向且つ外方に向けて立ち上がるように形成される。立ち上がり部16に連続する摺接部17は、相手容器の受け口(図示省略)に弾発力により嵌合するように湾曲形成されて弾性が付与されている。この湾曲の程度は小さくする。挟持部18は、鞘部材6を挟持するように略円筒状に形成されている。
【0016】
弾性係止部材4の長さ方向断面図(図1(f))において、狭持部18のA−A断面図は 図1(c)になり、摺接部17のB−B断面図は図1(d)になり、支持部14のC−C断面図は図1(e)になる。
鞘部材6は、図1(i)に示すように、円筒体の両端に、径の小さい開孔21、22を形成するために、軸中心向きの内向き折り曲げ19、20を設けてある。鞘部材6の長さ方向の一端に設けた内向き折り曲げ部19は、中心開孔21により画成される嵌合部となっている。また、鞘部材6の長さ方向の他端に設けた内向き折り曲げ部20は、中心開孔22により画成される止め栓9の抜け止め部となっており、この抜け止め部9の近くに透孔23が帯状に形成されている。鞘部材6の前記嵌合部は、シリンダ部材3の外表面に嵌合する。鞘部材6は、軸方向長さを、例えば84.5mmとする。
【0017】
組立時、まず、シリンダ部材3の貫通孔10にプランジャ部材2のロッド部7を略反対側に到達する付近まで押し込み、シリンダ部材3とロッド部2先端で画成される凹部内にパウダー試料を収納し、このパウダー試料を抑えるようにシリンダ部材3の先端に止め栓9を詰める。この状態のシリンダ部材3をフランジ板5の中央開孔13および弾性係止部材4の中空開孔に挿通嵌合する。このとき、シリンダ部材3のフランジ部12にフランジ板5を当接し、フランジ板5に弾性係止部材4の支持部14を当接する。この状態から、シリンダ部材3を鞘部材6の嵌合部19の開孔21から中に挿入し、嵌合部19を弾性係止部材4の膨出部15内で且つ支持部14端に当接する位置まで嵌合状態のまま挿入する。これにより、図1(j)の組立状態になる。
【0018】
図2は本発明の組み立てられたパウダーインジェクタを容器の受け口に装着した状態を説明する図である。図2において、図1で使用されている符号と同じものは図1の説明を援用する。
図1(j)に示された組立状態のパウダーインジェクタ1を、滴定容器24の容器本体25に形成した受け口26に挿入し、弾性係止部材4を受け口26に挿入嵌合する。このとき、鞘部材6の先端の透孔23およびシリンダ部材3の先端が発生液27中に挿入されていない場合、シリンダ部材3のフランジ部12やフランジ板5を手で持ってパウダーインジェクタ1を受け口26中へ押し込む。その際、膨出部15は、その弾性を付与する膨出部15の構成により中心方向へ弾性変形することにより、受け口26内を該受け口と嵌合状態のまま摺動して位置変更することができる。
【実施例2】
【0019】
図1(k)は本発明の弾性係止部材の実施例2を示す図である。
図1(k)の弾性係止部材は、図1(f)の弾性係止部材と比べると、狭持部を省略した膨出部の構成となっている。このように狭持部を省略することにより、狭持部18と鞘部材6の嵌合状態がなくなるので、その分、膨出部15は変形が容易になり、受け口26の開口サイズが多少狭くても最適な位置まで容易に挿入嵌合することができる。
【実施例3】
【0020】
図1(l)は本発明の弾性係止部材の実施例3を示す図である。
図1(l)の弾性係止部材は、図1(f)の弾性係止部材4と比べると、支持部14の面に対する立ち上がり部の立ち上がり角度を、図1(f)では鈍角(反時計回り方向で)としているのに対し、図1(l)では鋭角(弾性係止部材の中心軸方向でみて、図1(f)のものと比べ反対向き)となっている。これにより、膨出部15aはそれぞれ変形した立ち上がり部16a、摺接部17a、狭持部18aから構成されることになる。このように立ち上がり角度を変えたことにより、膨出部15aの弾発力が弱くなり、膨出部15aの変形がさらに容易になる。
【実施例4】
【0021】
図1(m)は本発明の弾性係止部材の実施例4を示す図である。
図1(m)の弾性係止部材は、図1(f)の弾性係止部材と比べると、膨出部15bの断面形状が直線をつないで形成されている。特に、膨出部15bの外側が、立ち上がり部16b、摺接部17b、狭持部18bに分けて断面が直線で形成されている。これにより、摺接部17bが受け口の面に広い範囲で密着できる。
以上説明した以外に、弾性係止部材は、以上の説明にあった各部分を組み合わせて構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のパウダーインジェクタの分解・組立図である。
【図2】本発明のパウダーインジェクタの実装図である。
【図3】従来のパウダーインジェクタの実装図である。
【符号の説明】
【0023】
1…パウダーインジェクタ、2…プランジャ部材、3…シリンダ部材、4…弾性係止部材、5…フランジ板、6…鞘部材、7…ロッド部、8…操作部、9…止め栓、10…貫通孔、11…筒状案内部、12…フランジ部、13…開孔、14…支持部、15…膨出部、16…立ち上がり部、17…摺接部、18…狭持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャ部材と、シリンダ部材と、弾性係止部材と、鞘部材とを有するパウダーインジェクタであって、前記弾性係止部材は、前記シリンダ部材に嵌合する支持部と、該支持部に連設された膨出部を有し、相手容器の受け口に変形時の弾性力により嵌合固定されることを特徴とするパウダーインジェクタ。
【請求項2】
前記膨出部は、中空に形成され、長さ方向に、立ち上がり部と、摺接部と、挟持部が連設され、半径方向外方へ膨出形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のパウダーインジェクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−190985(P2008−190985A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25306(P2007−25306)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)