説明

パウダースラッシュ成形装置及び粉体表皮の成形工法

【課題】 粉体に均一に送風して粉体の均一な流動による良好な乾燥を実現できるパウダースラッシュ成形装置及び粉体表皮の成形工法の提供。
【解決手段】 上方が開口された略箱状のボックス3と、ボックスの内部を上下に仕切りように設けられるフィルタ4と、フィルタ4の上方に設けられ、粉体2が貯留される貯留空間5と、フィルタ4の下方に設けられ、フィルタ4を介して粉体2に下方から送風する送風空間6と、送風空間6に空気を導入する送風機のダクト7を備えるパウダースラッシュ成形装置1において、フィルタ4を布4a〜4cを複数重ねて構成し、フィルタ4を介して粉体2に均一に送風することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パウダースラッシュ成形装置及び粉体表皮の成形工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粉体を収容したパウダーボックスと高温に加熱された成形金型とを組み付けて表皮成形するパウダースラッシュ成形装置及び粉体表皮の成形工法の技術が公知となっている。
このようなパウダースラッシュ成形装置及び粉体表皮の成形工法では、粉体の下方からフィルタを介して乾燥した空気を送風することにより、粉体を流動させて乾燥させている(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平06−182789号公報
【特許文献2】特開2002−337172号公報
【特許文献3】特開2004−338320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の発明にあっては、送風位置、送風角度等に起因して、フィルタを通過する風量分布差が大きいため、粉体の表面が部分的に隆起し、粉体の均一な流動による良好な乾燥を実現できないという問題点があった。
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、粉体に均一に送風して粉体の均一な流動による良好な乾燥を実現できるパウダースラッシュ成形装置及び粉体表皮の成形工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明では、上方が開口された略箱状の収容手段と、上記収容手段の内部を上下に仕切るように設けられるフィルタ手段と、上記フィルタ手段の上方に設けられ、粉体が貯留される貯留空間と、上記フィルタ手段の下方に設けられ、該フィルタ手段を介して粉体に下方から送風する送風空間と、上記送風空間に空気を導入する送風手段と、を備えるパウダースラッシュ成形装置において、上記フィルタ手段を複数の繊維状部材を重ねて構成し、上記フィルタ手段を介して粉体に下方から均一に送風することを特徴とする。
【0006】
また、請求項3記載の発明では、上方が開口された略箱状の収容部の内部を、複数の繊維状部材を重ねて構成したフィルタで、上下に仕切るようにし、上記フィルタの上方を貯留空間として粉体を貯留し、上記フィルタの下方を送風空間として送風機により空気を導入し、上記フィルタを介して粉体に下方から送風を行って、前記複数の繊維状部材に通過させることにより、粉体に下方から均一に送風することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明では、フィルタ手段を介して粉体に下方から均一に送風するため、送風位置、送風角度等に起因するフィルタ手段を通過する風量分布を無くすことができ、粉体の均一な流動による良好な乾燥を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
以下、実施例1を説明する。
図1は実施例1のパウダースラッシュ成形装置を示す図、図2は同拡大図(一部のみ、粉体は図示の都合上省略)、図3は実施例1のパウダースラッシュ成形装置の作動を説明する簡略図、図4は従来のパウダースラッシュ成形装置の実験結果を示す図、図5は実施例1のパウダースラッシュ成形装置の実験結果を示す図である。
【0010】
先ず、全体構成を説明する。
図1に示すように、実施例1のパウダースラッシュ成形装置1では、粉体2を収容したボックス3(請求項の収容手段に相当)と、このボックス3内に設けられたフィルタ4(請求項のフィルタ手段に相当)と、フィルタ4の上方に形成された粉体2の貯留空間5と、フィルタ4の下方に形成された送風空間6と、この送風空間6に挿入配置された送風機のダクト7(請求項の送風手段に相当)と、粉体供給部8等が備えられている。
【0011】
粉体2は、自動車のインストルメントパネルやドアトリム等のパネル材における基材の表面側に固着される表皮の材料(例えばオレフィン系樹脂の粉体樹脂)であり、必要に応じて粉体供給部8からボックス3のフィルタ4に投入・供給される。
【0012】
ボックス3は、上方が開口した長尺な箱状に形成される他、その上周縁には外側に屈折した鍔状のフランジ部9が形成されている。
図1、2に示すように、ボックス3内の底部3aの四隅には、断面L字型のブラケット10が立設された状態で溶接X1にて固定される他、各ブラケット10の垂直な壁部10aには、中央に矩形状の開口部11aを有する略テーブル状のブラケット11の垂直な壁部11bが溶接X2で固定支持されている。
さらに、ボックス3の周囲4面の壁部3bとブラケット11との間には内側に行くに連れて低く傾斜した傾斜面12aを有するブラケット12が溶接X3,X4で固定されている。
【0013】
そして、ブラケット11の開口部11aには、フィルタ4が張設されている。
具体的には、フィルタ4は、通気性を有し、粉体2の通過を妨げる繊維状部材として、厚みt1が0.6mmの綿製の布4a〜4cを3枚重ねたものが採用される他、その外周縁部はシリコン製のシール部材13でブラケット11に貼着されている。
【0014】
これにより、図1に示すように、ボックス3内は、フィルタ4を境にして上方の貯留空間5と下方の送風空間6に仕切られている。
なお、実施例1では、貯留空間5の高さ(体積)H1を送風空間6の高さ(体積)H2の約3倍に設定している。
また、貯留空間5の高さ(体積)H1は、粉体の浅い状態から150mmの高さまで対応できるように設定している。
【0015】
送風機のダクト7は、送風空間6に空気(図1、2中破線矢印で図示)を導入するためのものであって、送風空間6に導入する空気の温度・風量を送風空間6の温度・圧力に応じて設定できるようになっている。
その他、ボックス3の対向する対向する側壁外側には、駆動部の駆動軸14が連結されている。
【0016】
次に、作用を説明する。
【0017】
<フィルタの送風について>
このように構成されたパウダースラッシュ成形装置1において、送風機のダクト7から送風空間6に導入された空気は、フィルタ4の3枚の布4a〜4cを下方から順番に通過して粉体2に送風される。
この際、フィルタ4を通過する空気は3枚の布4a〜4cを通過する際に布の面方向(水平方向)に沿って広がるように乱流化した後、粉体2に送風されるため、フィルタ4から上方へ直線的に吹き出すような勢いで送風されることはなく、送風機のダクト7の取付位置や送風角度等に起因するフィルタ4の風量分布差を無くして、粉体2に均一に送風できる。
この結果、粉体2を均一に流動させて混ぜ合わせることができる。
【0018】
また、実施例1では、ボックス3の周囲4面の壁部3bとブラケット11との間には内側に行くに連れて低く傾斜した傾斜面12aを有するブラケット12を設けているため、粉体2の貯留量が比較的少ない場合でもボックス3の壁部3b付近の粉体2を自重により傾斜面12aに沿わせて内側、即ち、フィルタ4側へ落下させて誘導でき、好適となる。
さらに、貯留空間5の高さ(体積)H1を送風空間6の高さ(体積)H2の約3倍に設定しているため、粉体2の流動によって粉体2がボックス3の外部に飛散する虞がなく、送風による粉体2の良好な流動を実現できる。
【0019】
<表皮の成形について>
このような構成されたパウダースラッシュ成形装置1を用いて表皮成形を行う際には、先ず、粉体供給部8からボックス3内に粉体2を投入して貯留した後、図1に示すように、送風機のダクト7から送風空間6に熱風(破線矢印で図示)を送風して、貯留空間5の粉体2の予熱を所定時間(例えば5分前後)行う。
なお、熱風の温度は、粉体2の雰囲気温度が例えば80℃前後になるように設定すると共に、熱風の風量は送風空間6の圧力が粉体2の重量圧より大きくなるように設定する。
【0020】
ここで、従来の発明にあっては、フィルタを通過する風量分布差が大きいため、粉体の表面が部分的に隆起し、粉体の均一な流動による良好な乾燥を実現できないという問題点があった。
なお、粉体の貯留量が少ない場合には、粉体の隆起した部分からエアが吹き出し、粉体がボックスから外部へ飛散する虞もある。
これに対し、実施例1では、前述したように、送風空間6に導入された空気がフィルタ4の3枚の布4a〜4cを下方から順番に通過しながら粉体2に送風されるため、粉体2に均一に送風でき、この結果、粉体2を均一に流動させて混ぜ合わせることができ、良好な乾燥(予熱)を実現できる。
【0021】
また、粉体供給部8による粉体2の投入(図1の二点鎖線矢印で図示)により、粉体2の表面における粉体供給部8付近には山盛り状の集まり(図1の二点鎖線で図示)が形成されるため、この集まりを崩して表面を速やかに平坦化でき、これにより粉体2の温度分布が大きくなるのを防止できる。
【0022】
次に、図3(a)に示すように、高温(例えば150℃以上)に加熱した成形型20の成形面22を貯留空間5側に向けた状態としてボックス3の上方に配置し、成形型20とボックス3のフランジ部21,9同士を当接させてシールした状態でボルトB1等により固定する。
【0023】
次に、図3(b)に示すように、駆動軸14を回転駆動させて成形型20とボックス3を共に180度回動させることにより、これら両者の上下を数回反転させて、粉体2を成形面22に落下・付着させる。
この際、成形面22に付着した粉体2は、該成形面22に沿うように溶融するが、粉体2は予め予熱されているので、溶融するまでの時間を短縮できるとともに、成形面22の温度が一時的に大きく低下するのを回避できる。
また、粉体2が略均一に予熱されているので、成形面22の温度が部分的に大きく低下することもなくなり、この結果、溶融時のむらの発生を防止して、安定した粉体2の溶融を実現できる。
【0024】
次に、成形型20とボックス3を元位置に復帰させて、未溶融状態の粉体2をフィルタ4に落下させた後、成形型20をボックス3から取り外す。
【0025】
最後に、取り外した成形型20を冷却した後、成形型20の成形面22から固化した成形品を剥がして所望の表皮を得る。
【0026】
なお、実験の結果、図4に示すように、従来のパウダースラッシュ成形装置では、フィルタを通過する風量分布差が大きいため、粉体の表面が部分的に隆起し、粉体の均一な流動による良好な乾燥を実現できないのに対し、図5に示すように、この発明のパウダースラッシュ成形装置1では、粉体2の表面が均一して粉体2の均一な流動による良好な乾燥を実現できることが証明された。
また、表皮溶融成型直後の待機粉体の粗熱は58℃であり、5分後に42℃であった。
【0027】
次に、効果を説明する。
以上、説明したように、実施例1の発明では、上方が開口された略箱状のボックス3と、ボックスの内部を上下に仕切りように設けられるフィルタ4と、フィルタ4の上方に設けられ、粉体2が貯留される貯留空間5と、フィルタ4の下方に設けられ、フィルタ4を介して粉体2に下方から送風する送風空間6と、送風空間6に空気を導入する送風機のダクト7を備えるパウダースラッシュ成形装置1において、フィルタ4を繊維状部材を複数重ねて構成し、フィルタ4を介して粉体2に均一に送風するため、粉体2の均一な流動による良好な乾燥を実現できる。
【0028】
また、フィルタ4を布4a〜4cを複数重ねて構成したため、安価な材料で製造コストを低減でき、実施が容易となる。
【0029】
以上、実施例を説明してきたが、本発明は上述の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、パウダースラッシュ成形装置の各部の詳細な部位の形状、固定構造については適宜設定できる。
また、実施例1では、フィルタを布で構成したが、この枚数や厚み等は適宜設定できる。さらに、フィルタを耐熱性のガラス繊維状部材で代用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1のパウダースラッシュ成形装置を示す図である。
【図2】実施例1のパウダースラッシュ成形装置を示す拡大図(一部のみ)である。
【図3】実施例1のパウダースラッシュ成形装置の作動を説明する簡略図である。
【図4】従来のパウダースラッシュ成形装置の実験結果を示す図である。
【図5】実施例1のパウダースラッシュ成形装置の実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
B1 ボルト
X1、X2、X3、X4 溶接
1 パウダースラッシュ成形装置
2 粉体
3 ボックス
3a 底部
3b 壁部
4 フィルタ
4a、4b、4c 布
5 貯留空間
6 送風空間
7 送風機のダクト
8 粉体供給部
9 フランジ部
10、11、12 ブラケット
10a、11b 壁部
11a 開口部
12a 傾斜面
13 シール部材
14 駆動部の駆動軸
20 成形型
21 フランジ部
22 成形面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方が開口された略箱状の収容手段と、
前記収容手段の内部を上下に仕切るように設けられるフィルタ手段と、
前記フィルタ手段の上方に設けられ、粉体が貯留される貯留空間と、
前記フィルタ手段の下方に設けられ、該フィルタ手段を介して粉体に下方から送風する送風空間と、
前記送風空間に空気を導入する送風手段と、
を備えるパウダースラッシュ成形装置において、
前記フィルタ手段を複数の繊維状部材を重ねて構成し、
前記フィルタ手段を介して粉体に下方から均一に送風することを特徴とするパウダースラッシュ成形装置。
【請求項2】
請求項1記載のパウダースラッシュ成形装置において、
前記フィルタ手段を複数の布を重ねて構成したことを特徴とするパウダースラッシュ成形装置。
【請求項3】
上方が開口された略箱状の収容部の内部を、複数の繊維状部材を重ねて構成したフィルタで、上下に仕切るようにし、
前記フィルタの上方を貯留空間として粉体を貯留し、
前記フィルタの下方を送風空間として、送風機により空気を導入し、
前記フィルタを介して粉体に下方から送風を行って、前記複数の繊維状部材に通過させることにより、粉体に下方から均一に送風することを特徴とする粉体表皮の成形工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−285832(P2009−285832A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137342(P2008−137342)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】