説明

パターヘッド

【課題】寸法精度の良好なスリットが設けられたフェースインサートを有するパターヘッドを提供する。
【解決手段】ヘッド本体のフェース面に粘弾性体よりなるフェースインサート3を装着したパターヘッド1であって、該フェースインサート3の前面にトウ・ヒール方向に延在したスリット5が設けられているパターヘッド1において、該フェースインサート3は、第1の粘弾性体7と、該第1の粘弾性体7よりも硬度が低い第2の粘弾性体8とを積層した積層体から第2の粘弾性体8のフェース面側を溶出させることにより前記スリット5を形成したものであることを特徴とする。スリット5は、前記フェースインサート3の前面から後方へ上り勾配となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフのパターのパターヘッドに関するものであり、特にヘッド本体のフェース面にフェースインサートを装着したパターヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフのパターは、主としてグリーン上においてボールをヒットしてボールをカップに向けて転がす用途に用いられるクラブである。特許文献1には、パターヘッドのフェース面にフェースインサート(特許文献1では「弾性部材」と称されている。)を装着して打感を柔らかくすることが記載されている。
【0003】
特許文献1は、パッティングの方向安定性を高くできるパターヘッドを提供することを課題としている。
【0004】
図4は特許文献1のパターヘッドの断面図である。このヘッド10のヘッド本体13の前面に弾性部材14が設けられ、該弾性部材14に、互いに平行な4条のスリット16が設けられている。特許文献1の要約書には、次のように記載されている。
【0005】
ゴルフボール18はフェイス面12のうち弾性部材14が設けられている部分で打撃される。そのため、その打撃範囲で押圧されたゴルフボール18の表面は、それら弾性部材14の表面を弾性的に凹ませつつ嵌入することによってその被打撃範囲内におけるディンプル26の分布に拘わらず、ゴルフボール18と弾性部材14との接触面積が大きくなり、且つ上記弾性部材14にはヘッド10の長手方向に平行に4本のスリット16が設けられていることから、上記弾性部材14がゴルフボール18に接触したときは、主にパターヘッド10の長手方向に垂直な方向に変形することとなるため、その変形に起因して生じる復元力のパターヘッド10の長手方向のばらつきを防止することができ、パッティングの方向安定性が高められる。
【0006】
特許文献1の0013〜0017段落の通り、弾性部材14はゴム硬度(JIS K 6301)が70度以下のシリコンゴムよりなる。弾性部材14の厚さは1〜2mm、スリット16の深さは1〜2mm、スリット16のピッチは2〜4mmである。
【0007】
図4では、スリット16は弾性部材16の前面から裏面にまで貫通しているが、特許文献1には、スリットが弾性部材16の厚み方向の途中まで設けられた溝状となっている弾性部材も示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実用新案登録3087804
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、スリット16をどのようにして形成するかについての記載は全くない。
【0010】
一般に、シリコンゴムは、軟質であるため、切削によってスリット16を形成しようとしても、高寸法精度にてスリットを形成することは極めて困難である。射出成形によってスリット16付きの弾性部材14を成形しようとした場合、スリットを形成するための中子と成形品のスリット内面との摩擦力が極めて大きく、中子を成形品から脱型することが極めて難しい。
【0011】
本発明は、寸法精度の良好なスリットが設けられたフェースインサートを有するパターヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のパターヘッドは、ヘッド本体のフェース面に粘弾性体よりなるフェースインサートを装着したパターヘッドであって、該フェースインサートの前面にトウ・ヒール方向に延在したスリットが設けられているパターヘッドにおいて、該フェースインサートは、第1の粘弾性体と、該第1の粘弾性体よりも硬度が低い第2の粘弾性体とを積層した積層体から第2の粘弾性体のフェース面側を溶出させることにより前記スリットを形成したものであることを特徴とするものである。
【0013】
前記スリットは、前記フェースインサートの前面から後方へ上り勾配となっていてもよい。
【0014】
本発明の一態様では、前記フェースインサートの前面と前記スリット内面との交差部が湾曲しており、該パターヘッドの縦断面における該交差部に丸みが設けられている。
【0015】
本発明の別の一態様では、第1の粘弾性体の硬度の方が第2粘弾性体の硬度より硬くなっている。第1の粘弾性体の硬度(JIS K 6253)は、好ましくはType D 50〜75であり、第2の粘弾性体の硬度は、好ましくはType A 20〜50である。
【0016】
スリットの幅は、好ましくは0.3〜0.7mmであり、スリット同士の間隔は、好ましくは1.1〜1.5mmである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のパターヘッドのフェースインサートは、第1の粘弾性体と第2の粘弾性体との積層体から第2の粘弾性体のフェース面側を溶出させることによりスリットを形成したものであり、スリットの寸法精度が良好である。
【0018】
スリットをフェースインサート本体の前面から後方へ上り勾配となるように形成した場合、ボールをヒットしたときに第1の粘弾性体の前端側が下方ないし後方に向って変位するようになり、ボールにトップスピンがかかり易いものとなり、ヒットされたボールの直進性が良好となる。
【0019】
フェースインサートの前面とスリット内面の交差部に丸みが設けられていると、該交差部の摩耗が制御され、フェースインサートの耐久性が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)図は実施の形態に係るパターヘッドの分解斜視図、(b)図はこのパターヘッドの正面図、(c)図は(b)図のC−C線断面図である。
【図2】(a)図はフェースインサートの縦断面図、(b)図は(a)図のフェースインサートの前面の拡大縦断面図である。
【図3】フェースインサート製造用積層体の断面図である。
【図4】従来例に係るパターヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0022】
図1〜図3は第1の実施の形態に係るパターヘッド1を示すものである。このパターヘッド1では、ヘッド本体2の前面(フェース面)に凹部2Hが設けられ、この凹部2H内にフェースインサート3が配置されている。この実施の形態では、ヘッド本体2はアルミ合金、チタン合金、銅合金、ステンレスなどの金属製である。フェースインサート3は、粘弾性体よりなり、前面に複数条のスリット5が設けられている。
【0023】
凹部2H及びフェースインサート3は、横長の略長方形状である。凹部2Hの深さは全体として均一であり、フェースインサート3の厚さも全体として均一である。ただし、部分的に深い箇所及び厚い部位を設けたり、逆に部分的に浅い箇所及び薄い部位を設けてもよい。
【0024】
フェースインサート3の左右幅及び上下幅は凹部2Hよりも若干小さいものとなっており、フェースインサート3の上下左右の側面3Sと凹部2Hの周面2Sとの間には若干の空隙6があいている。この空隙6の幅は0.3〜1.5mm特に0.4〜1.0mm程度が好適である。フェースインサート3の大きさは上下幅が16〜30mm特に18〜25mm、左右幅が50〜150mm特に70〜100mm、厚さTが2〜10mm特に3〜8mm程度が好ましいが、これに限定されない。
【0025】
この実施の形態では、各スリット5は相互間に一定間隔をあけて上下多段に設けられている。各スリット5は、前端側がフェースインサート3の前面(フェース面)に位置している。各スリット5は、後端側ほど上位となるように傾斜して設置されている。フェースインサート3の前面を鉛直とした状態において、スリットの傾斜角度θは20〜70°特に30〜60°程度が好ましい。
【0026】
スリット5同士の間隔は1.1〜1.5mm特に1.2〜1.4mm程度が好適である。スリット5の幅(上下幅)tは0.3〜0.7mm特に0.4〜0.6mm程度であることが好ましい。
【0027】
フェースインサート3は、図2(a)の左側面がパターのフェース前面となるように凹部2H内に配置され、反対側が接着剤によって凹部2Hの奥壁面に接着される。接着剤としては、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤、両面テープなどが好適であるが、これに限定されない。
【0028】
このフェースインサート3は、図3の通り、第1の粘弾性体7と第2の粘弾性体8とを交互に積層した積層体3’を形成し、この積層体3’の前面から第2の粘弾性体8を溶出させることにより製造されたものである。
【0029】
第1の粘弾性体7の硬度(JIS K 6253)はType D 50〜75、特に55〜70が好ましく、第2の粘弾性体8の硬度はType A 20〜50が好ましい。第1の粘弾性体7よりも第2の粘弾性体8の方がやわらかい。
【0030】
第2の粘弾性体8の厚さは前記スリット5の上下幅tに合致する。
【0031】
このフェースインサート3を構成する粘弾性材としては熱可塑性のエラストマー又は軟質合成樹脂などの材料が用いられる。これらの材料は発泡材であってもよい。
【0032】
第1の粘弾性体7の材料としては、具体的には、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂などが例示され、第2の粘弾性体8の材料としてはオレフィン系又はスチレン系のエラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、シリコン樹脂などが例示されるが、これらに限定されない。第1の粘弾性体7と第2の粘弾性体8とを付着させるには、加熱加圧して相互に圧着するのが好ましいが、これに限定されない。
【0033】
第2の粘弾性体8を溶出させるには、積層体3’の後面及び側面をフィルムなどでシールしておき、積層体3’を強アルカリの水溶液に浸漬するのが好ましい。強アルカリの水溶液を加温しておくと、第2の粘弾性体8の溶出速度が大きくなる。
【0034】
この溶出処理を施すと、フェースインサート3の前面とスリット5との交差部が丸みをおびたものとなる。即ち、フェースインサート3の前後方向に沿う縦断面図の拡大図である図2(b)において、交差部7aが凸に湾曲したものとなる。
【0035】
このように交差部7aが丸みをおびていると、交差部が鋭角状のものに比べ、交差部の摩耗が防止され、フェースインサート3の耐久性が良好となる。
【0036】
なお、上記の溶出処理により、第2の粘弾性体8のうちスリット5の奥底に臨む面8aは凹に湾曲したものとなる。
【0037】
このように積層体3’を溶出処理することによって、寸法精度の良好なスリット5が形成される。このように寸法精度の良好なスリット5を備えたヘッド1によると、目標方向にボールを打ち出すことが容易となる。
【0038】
また、この実施の形態では、スリット5が後方に向って上り勾配となっている。このため、ボールとヒットしたときに、フェースインサート3の前面側が下方かつ斜め後方に向って変位することにより、トップスピンがかかり易くなり、ヒットされたボールの直進性が良好となる。
【0039】
上記実施の形態では、スリット5は後方に向って上り勾配となっているが、後方に向って水平でもよく、後方に向って下り勾配であってもよい。スリット5を後方に向って下り勾配とした場合には、ボールをヒットしたときのボールのトップスピンが減少し、ボールにバックスピンがかかり易くなる。そのため、少し荒れたグリーンや転がりの良いグリーンの場合、転がりが悪くなることによって距離感が合わせ易くなる。即ち、一般にパターでヒットされたボールは、パターのフェース面から離れた直後、グリーン面上を無回転又は低回転で滑るように移動し、それから暫くすると、ボールとグリーン面との摩擦によってボールがグリーン上を滑らずに転動するようになる(ボールの周速度とボールの移動速度とが等しくなる)。パターヘッドによるボールヒット時にボールに加えられるトップスピン方向の力が減少するか、又はボールヒット時にバックスピン方向の力がボールに加えられると、上記のヒット直後における無回転ないし低回転の滑動移動距離が長くなる。グリーン面が荒れている場合、このヒット直後における無回転ないし低回転の滑動移動の間ボールがグリーン面から受ける影響が小さくなり、その結果として、ボールが停止するまでの全転がり距離は、通常のグリーンの場合と同等程度のものとなる。また、転がりの良いグリーン(具体的には、芝を短く刈ってあるグリーンや、ローラー等によって硬く締めたグリーンなど)の場合、ボールヒット直後のボールの転がりが、トップスピンが弱くなるかバックスピンが生じることによって抑制される。これにより、ボールが停止するまでの全転がり距離は、通常のグリーンの場合と同等程度のものとなる。このようなことから、本発明のパターヘッドは、少し荒れたグリーンや転がりの良いグリーンで距離感が合わせ易い、即ちプレーヤーが意図した距離だけボールが転がるものとなる。
【0040】
第1図では、フェースインサート本体4の周囲に空隙6を形成しているが、この空隙に、ゴム、エラストマー、合成樹脂などの粘弾性材を充填してもよい。また、空隙6が生じないようにフェースインサート本体4を凹部2Hにぴったりと嵌まるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 パターヘッド
2 ヘッド本体
2H 凹部
3 フェースインサート
5 スリット
7 第1の粘弾性体
8 第2の粘弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド本体のフェース面に粘弾性体よりなるフェースインサートを装着したパターヘッドであって、
該フェースインサートの前面にトウ・ヒール方向に延在したスリットが設けられているパターヘッドにおいて、
該フェースインサートは、第1の粘弾性体と、該第1の粘弾性体よりも硬度が低い第2の粘弾性体とを積層した積層体から第2の粘弾性体のフェース面側を溶出させることにより前記スリットを形成したものであることを特徴とするパターヘッド。
【請求項2】
請求項1において、前記スリットは、前記フェースインサートの前面から後方へ上り勾配となっていることを特徴とするパターヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記フェースインサートの前面と前記スリット内面との交差部が湾曲していることを特徴とするパターヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、第1の粘弾性体の硬度(JIS K 6253)がType D 50〜75であり、第2の粘弾性体の硬度がType A 20〜50であることを特徴とするパターヘッド。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、スリットの幅が0.3〜0.7mmであり、スリット同士の間隔が1.1〜1.5mmであることを特徴とするパターヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−9902(P2013−9902A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145688(P2011−145688)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)
【Fターム(参考)】