説明

パッカー及びパッキング方法

【課題】極めて短時間でパッキングすることができ、且つ耐圧力の大きいパッキング構造を得ることが可能であると共に、非常に長期間に亘って止水機能を維持することができる。
【解決手段】膨張可能な袋体2に吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末との混合物3が充填されているパッカー1を用い、パッカー1を中空ボルト6等の杆体の周囲に設け、パッカー1がボアホールHの遮断すべき領域に設置されるように杆体及びパッカー1をボアホールHに挿入し、袋体2の内部への水の浸入で吸水性ポリマーを膨潤することにより袋体2を膨らまして、ボアホールHを遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば地盤補強工等で穿設されるボアホールに設けられ、ボアホール内の水や薬液等を止水するパッカー及びパッキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボアホールをパッキングする方法として、(1)ゴム製の袋体をボアホール内に設け、その袋体内部に水、オイル、エア等を加圧注入することにより膨張させて遮水する方法、(2)袋体のパッカーをボアホール内に設け、内部に経時硬化性の固結材を加圧注入することにより膨張させて遮水する方法が知られているが、(1)は液圧の解放に伴って遮水状態でなくなるため、継続的な遮水のためには液圧をかけ続けなければならない、(2)は注入材が硬化して遮水機能を発揮するまで、長時間待たなければならないという不具合がある。
【0003】
そして、係る不具合を解消可能な方法として、(3)吸水性ポリマーをボアホール内に設け、吸水性ポリマーを吸水膨張させて遮水する方法があり、前記方法は、設置後に比較的短時間で遮水機能を発揮し、且つ比較的長期に亘って遮水機能を維持することが可能である。(3)の方法として、特許文献1には、筒状部材のパッキング箇所を吸水性ポリマーで取り囲み、その外側にゴムチューブを被せ、ゴムチューブ内の吸水性ポリマーをゴムチューブ内に同梱した水又は外部から供給する水で吸水膨張させて遮水する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−151686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、(3)の方法は、吸水性ポリマーの膨張速度が速いものにあっては耐圧力が小さく、耐圧力が大きいものでは膨張速度が遅いためにパッキングまでに時間がかかるという問題がある。更に、長期に亘っては徐々に吸水性ポリマーが水を放出するため、止水機能を維持できないという問題がある。
【0006】
本発明は上記問題の解消を図るために提案するものであって、極めて短時間でパッキングすることができ、且つ耐圧力の大きいパッキング構造を得ることが可能であると共に、非常に長期間に亘って止水機能を維持することができるパッカー及びパッキング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のパッカーは、パッキングすべき領域に設置される膨張可能な袋体に、吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末とが充填されていることを特徴とする。前記パッカーは、その袋体を透水性として、例えば袋体内部に浸透する湧水等で吸水性ポリマーを膨潤するもの、又は、その袋体を防水性とし、袋体内部に水を供給可能な注入パイプ或いは破断する水収納パック等の水供給手段を設け、水供給手段で供給する水で吸水性ポリマーを膨潤するものとすると好適である。
【0008】
更に、本発明のパッカーは、前記吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末とが、重量比9:1〜1:9の混合比率で充填されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のパッキング方法は、膨張可能な袋体に吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末とが充填されているパッカーを杆体の周囲に設け、該パッカーがパッキングすべき領域に設置されるように杆体及びパッカーをボアホールに挿入し、袋体内部への水の浸入で吸水性ポリマーを膨潤することにより袋体を膨らましてパッキングすることを特徴とする。前記杆体は、例えば中空ボルト、ボルト、各種補強管、注入管等、或いはこれらの組み合わせなど適宜である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のパッカー及びパッキング方法では、袋体内の吸水性ポリマーが吸水膨張して、セメント密度を高めつつ袋体を膨張することにより、数秒以内など極めて短時間にパッキングすることができる。また、袋体内に供給した水或いは浸透した水でセメントの硬化が開始し、その後に袋体内部で吸水性ポリマーが手放した水と徐々に反応してセメントの強度が高まっていくので、耐圧力の大きいパッキング構造を得ることが可能であると共に、非常に長期間に亘って止水機能を維持することができる。
【0011】
また、吸水性ポリマーとセメントも粉体であるため、膨張前の状態ではパッカーの柔軟性が高いことから、ボルトなど杆体の周囲に容易に設けることができる。更に、パッカーの柔軟性と吸水性ポリマーの高い膨張性により、ボアホールに孔壁に若干の凹凸がある場合にも、確実に止水部分を閉塞することができる。
【0012】
また、吸水性ポリマーは高価であるが、セメントと混合することで吸水性ポリマーの使用量を削減することができ、コスト低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下では、本発明について図に示す実施形態に基づき説明する。尚、各実施形態やその施工例の構成は、適用可能な範囲で適宜他の実施形態について適用可能である。
【0014】
第1実施形態のパッカー1は、図1に示すように、防水性の布を縫製したドーナツ状の袋体2を有する。袋体2には、その中央に中空ボルト6等の杆体を挿通させる挿通穴4が設けられ、挿通穴4の外周である内周面2aが中空ボルト6等の杆体に対応した内径になっていると共に、膨張時に於ける外表面2bの径方向突出部分の外径が、ボアホール・鋼管等の止水する領域を閉塞可能な径になっている。
【0015】
袋体2の内周面2aと外表面2bとの間の内部には、吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末との混合物3が充填されている。前記吸水性ポリマーの種類やセメントの種類は適宜であるが、吸水性ポリマーにはポリアクリル酸ナトリウム等に代表されるものを用いる。本実施例では、吸水性ポリマーとして高吸水性樹脂のサンダイヤ株式会社製「アクアパール」を用い、セメントとして急硬セメントなどの急結性のあるセメントを用い、吸水性ポリマーとセメントとの混合比率(重量比)を1:4としているが、必要に応じてこれらにセメントの添加剤、例えば膨張材、減水剤、急結剤、及び硅紗等を混和することも有効である。
【0016】
尚、吸水性ポリマーとセメントとの混合比率(重量比)の最も好ましい範囲は、1:1〜1:6であるが、有効と考えられるのは9:1〜1:9、使用可能と考えられるのは、99:1〜1:99の範囲である。
【0017】
更に、内周面2aと外表面2bとの間の所定位置には挿通穴2cが形成され、袋体2の内部に水を供給するパッカー用注入管5が挿通穴2cに差し込んで設置されている。尚、袋体2の内部へ水を供給する水供給手段は、パッカー用注入管5以外にも、例えば後述する水収納パック12など適宜である。
【0018】
上記第1実施形態のパッカー1と中空ボルト6を用いて地盤補強工を施す場合には、例えば図3(a)に示すように、吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末との混合物3が充填されたパッカー1の挿通穴4に中空ボルト6を挿通して、中空ボルト6の後端近傍の周囲にパッカー1を周設する。その後、地盤Gに斜め上方へ向かって穿設されたボアホールHに中空ボルト6及びパッカー1を挿入して、ボアホールの口元近傍など止水すべき部分にパッカー1を配置し、パッカー用注入管5から袋体2の内部へ水を供給し、吸水性ポリマー3aを吸水膨張させることにより袋体2を膨らましてパッキングする(図3(b))。その後、中空ボルト6に固結材を注入して固結領域7を形成し、地盤補強が完了する(図3(c))。
【0019】
上記パッカー1は、第1段階として、図1(a)、図2(a)の袋体2の膨張前の状態から、パッカー用注入管5を介して袋体2の内部に水を供給すると、吸水性ポリマー3aが吸水膨張して、その周囲のセメント3bの密度を高めつつ袋体2がパッキングすべき領域の形状に沿って膨張し、図1(b)、図2(b)の膨張後の状態となる。前記袋体2の膨張によるパッキング機能は数秒以内など極めて短時間に得られる。そして、供給される水でセメントが硬化を開始し、袋体2の内部で吸水性ポリマー3aが徐々に手放した水と反応してセメントの硬化が進行し、強度が高いパッキング構造が得られる。
【0020】
また、上記施工例以外にもパッカー1の施工方法は適宜であり、例えば別の施工例として、地盤Gの壁面から地中に穿設されたボアホールHに、パッカー用注入管5を有するパッカー1が周設された中空ボルト6を挿設し、止水部分にパッカー1を配置する構成(図4(a))、或いは、パッカー1に杆体として中空ボルト6及びエア抜きパイプ8を挿入して取り付け、ボアホールHに、パッカー1が周設された中空ボルト6及びエア抜きパイプ8を挿設し、止水部分にパッカー1を配置する構成(図4(b))、或いは、パッカー1に杆体としてボルト9及び注入パイプ10を挿入して取り付け、ボアホールHに、パッカー1が周設されたボルト9及び注入パイプ10を挿設し、止水部分にパッカー1を配置する構成(図4(c))、或いは、パッカー1に杆体としてボルト9、注入パイプ10、エア抜きパイプ8を挿入して取り付け、ボアホールHに、パッカー1が周設されたボルト9、注入パイプ10、エア抜きパイプ8を挿設し、止水部分にパッカー1を配置する構成(図4(d))、或いは、ボアホールHに、鋼管や穴開き管等の補強管11を打設し、補強管11内にパッカー1が周設された中空ボルト6を挿設し、補強管11内の止水部分にパッカー1を配置する構成(図4(e))等とすることが可能である。尚、パッカー1は地盤補強以外の、地盤の調査・測定や地盤への薬液注入等でボアホールを設ける場合にも適用することができる。
【0021】
次に、他の実施形態のパッカー1について説明する。
【0022】
第2実施形態のパッカー1は、図5に示すように、第1実施形態と同様に内周面2aと外表面2bとで構成されるドーナツ状の袋体2を有するが、袋体2は透水性の生地で形成されている。袋体2の内部には、吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末との混合物3が充填されている。また、第1実施形態と異なり、袋体2には、パッカー用注入管5を挿通する挿通穴2cは設けられておらず、袋体2の内周面2aと外表面2bとは完全に密閉されている。そして、第2実施形態のパッカー1は、図5(a)の袋体2の膨張前の状態から、例えばボアホールH内の湧水など周囲の水が透水性の袋体2の内部へ浸透し、吸水性ポリマー3aが吸水膨張して、その周囲のセメント3bの密度を高めつつ袋体2が膨張し(図3参照)、図5(b)の膨張後の状態となる。尚、防水性の袋体2のパッカー1と透水性の袋体2のパッカー1とを現場状況に応じて適宜使い分けると好適である。
【0023】
また、別例として、第3実施形態のパッカー1は、図6に示すように、内周面2aと外表面2bとで構成されるドーナツ状で、防水性の生地で完全密閉して形成されている袋体2を有し、袋体2の内部に、破断紐13を引っ張ると破断する水収納パック12を配設すると共に、吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末との混合物を充填する構成である。前記パッカー1を使用する際には、ボアホールHにセットした後に破断紐13を引っ張って水収納パック12を破断し、水収納パック12内の水を混合物に浸透させて吸水性ポリマーを膨張させる。尚、水収納パック12を破断させる手段は適宜であり、ボアホールHの外側から鋭利な鋼棒等で突き破っても良い。
【0024】
また、別例として、第4実施形態のパッカー1は、図7に示すように、平らな枕形状の袋体2を有し、その袋体2の内部に吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末の混合物3が充填されたものであって、平らな枕状のパッカー1を中空ボルト6等の杆体の所定位置に、予め或いは施工現場で巻き付けて設置する。前記袋体2の内部の混合物3への水の供給は、袋体2を透水性として湧水等の浸透で供給する他、防水性の袋体2の内部へパッカー用注入管を介して水を供給する構成としてもよい。
【実施例】
【0025】
次に、第1実施形態のパッカー1で行った耐圧実験例について説明する。
【0026】
耐圧実験では、内径φ53mmの鋼管を模擬ボアホールとした加圧ケース14の口元近傍部分に、吸水性ポリマーとセメントの混合物が充填されたパッカー1を配置すると共に、パッカー1の中央部の挿通穴4に導水管15を挿設する。更に、パッカー用注入管5を介して水を供給し、吸水性ポリマーを膨張させることでパッカー1を膨張させ、加圧ケース14の口元近傍部分を閉塞する。そして、膨張直後の状態で、コンプレッサ16で圧力をかけて導水管15から加圧ケース14内に水を供給した結果、パッカー1は水圧10kg/cmに耐えることができた。従って、例えば地盤のボアホール内にパッカーをセットした直後に、パッカー1の杆体を介して注入材を注入する場合にも、10kg/cm迄の注入圧力に耐えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、例えばボアホールの穿設を伴うロックボルトやアンカーを設置する補強工、或いは先受工、鏡補強工、薬液注入工等を行う場合や、ボアホールを介して地盤の調査・測定を行う場合や、地盤にボアホールを穿設して薬液注入を行う場合等に、ボアホール内の水や薬液等を止水するために利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)は第1実施形態のパッカーの膨張前の状態を示す斜視図、(b)は同図(a)のパッカーの膨張後の状態を示す斜視図。
【図2】(a)は混合された吸水性ポリマーとセメントの膨張前の状態を示す説明図、(b)は同図(a)の膨張後の状態を示す説明図。
【図3】(a)〜(c)は第1実施形態のパッカーによる施工例の工程説明図。
【図4】(a)〜(e)は第1実施形態のパッカーによる他の施工例の説明図。
【図5】(a)は第2実施形態のパッカーの膨張前の状態を示す斜視図、(b)は同図(a)のパッカーの膨張後の状態を示す斜視図。
【図6】第3実施形態のパッカーを示す斜視図。
【図7】第4実施形態のパッカーを示す斜視図。
【図8】パッカーの耐圧実験を説明する説明図。
【符号の説明】
【0029】
1 パッカー
2 袋体
3 吸水性ポリマーとセメントの混合物
3a 吸水性ポリマー
3b セメント
5 パッカー用注入管
6 中空ボルト
7 固結領域
12 水収納パック
13 破断紐
G 地盤
H ボアホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッキングすべき領域に設置される膨張可能な袋体に、吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末とが充填されていることを特徴とするパッカー。
【請求項2】
前記袋体が透水性であることを特徴とする請求項1記載のパッカー。
【請求項3】
前記袋体が防水性であり、前記袋体内部へ水を供給する水供給手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載のパッカー。
【請求項4】
前記吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末とが、重量比9:1〜1:9の混合比率で充填されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載のパッカー。
【請求項5】
膨張可能な袋体に吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末とが充填されているパッカーを杆体の周囲に設け、該パッカーがパッキングすべき領域に設置されるように杆体及びパッカーをボアホールに挿入し、袋体内部への水の浸入で吸水性ポリマーを膨潤することにより袋体を膨らましてパッキングすることを特徴とするパッキング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−118130(P2006−118130A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304204(P2004−304204)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】