説明

パッキンの誤組付け防止構造

【課題】正規の装着方向のみに装着方向が規制されるパッキンの誤組付け防止構造を提供し、パッキンの誤組付けを防止する。
【解決手段】環状のパッキン11を、円筒体5の外周に形成した周溝13に装着してなるシール構造体1のパッキン11の誤組付け防止構造であって、パッキン11の軸線を中心に非点対称となる少なくとも2つの大きさの異なる突起25を、軸線に沿う同一方向に向かって突設し、それぞれの突起25の嵌入する切欠37を、周溝13から延出して円筒体5に設けた。突起25の突出方向は、円筒体5に対するパッキン11の装着方向とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状のパッキンを、円筒体の外周に形成した周溝に装着してなるシール構造体のパッキンの誤組付け防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電線や光ファイバ等を接続するためのコネクタは、双方の結合部同士の間を、シール部材であるパッキンにてシールし、水密、気密構造として、水の浸入や塵埃の侵入を阻止している(例えば特許文献1参照)。一般的に、水密構造や気密構造のコネクタは、シール構造体であるハウジングの結合部が円筒状となり、一方の雌ハウジングの内周に、他方の雄ハウジングが挿入されて結合される。パッキンは、これら円筒体同士の内周と外周の間をシールすることとなる。
【0003】
例えば、円環状のパッキンが、雄ハウジング側に設けられるシール構造体では、雄ハウジングの円筒体外周にパッキンの装着される周溝が形成される。ゴム等の弾性材料からなるパッキンは、弾性変形により拡径された後、所定の装着位置で縮径方向に復元されて周溝に装着される。
【0004】
ところで、この種のパッキン500は、図7に示すように、外周面に、シール性能を向上させるための複数の山部(以下、「リップ」と称す。)501,503が同軸で、軸線Gに沿う方向に並設される。これにより、雌ハウジングの円筒体内周面に接触するリップ501,503の接触箇所を多段状に増やすことで、シール性能を高めている。
【0005】
図8はパッキンの軸線を含む面の要部拡大断面図である。
リップ501,503は、少なくとも雌ハウジングとの結合側となる一方のリップ501が、軸線Gに沿う方向の一方側と他方側とで傾斜角度の異なる斜面よりなる。すなわち、パッキン500の雄ハウジングに対する装着方向(図8の矢印方向参照)の側に傾斜角度の大きい斜面505が配設され、その反対側に傾斜角度の小さい(なだらかな)斜面507が配置される。周溝にパッキン500を装着した雄ハウジングでは、雌ハウジングが外挿されると、挿入側に配置されたなだらかな斜面507にて挿入力を低減させ、良好な挿入性が得られるようになされている。
【特許文献1】特開2006−31961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のパッキン500は、山形に形成したリップ507の左右の斜面505,507を異なる傾斜角度で形成し、相手側コネクタとの挿入力を低減させるようして、良好な挿入性を得ようとしているが、斜面505,507の傾斜角度を目視にて判別し難くいため、本来の装着方向とは逆の装着方向で装着される虞があった。このような逆向きでの誤組付けがなされると、挿入力が逆に増大してしまう懸念があった。また、弾性材料からなるパッキン500では、内周面509と外周面511が入れ替わる裏返し状態での誤組付けが発生し易い問題もあった。
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、正規の方向のみに装着が規制されるパッキンの誤組付け防止構造を提供し、もって、パッキンの誤組付け防止を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 環状のパッキンを、円筒体の外周に形成した周溝に装着してなるシール構造体のパッキンの誤組付け防止構造であって、
前記パッキンの軸線を中心に非点対称となる少なくとも2つの大きさの異なる突起が、前記軸線に沿う同一方向に向かって前記パッキンに突設され、
それぞれの前記突起の嵌入する切欠が、前記周溝から延出して前記円筒体に設けられたことを特徴とするパッキンの誤組付け防止構造。
【0008】
このパッキンの誤組付け防止構造によれば、パッキンの装着方向を逆にすると、円筒体への装着に際し、周溝から延出した切欠と逆方向に突起が位置し、突起と切欠とが一致せず、装着方向が逆向きである誤組付けが認識される。また、ゴム等の弾性材料からなるパッキンでは、装着時に、内周面と外周面が入れ替わる裏返し状態での誤組付けが発生し易い。本構成では、裏返しされた状態で、突起の突出する方向でパッキンが装着されると、大小の突起の位置が切欠の大小と逆となり、少なくとも一つの突起が切欠に嵌入しなくなり、裏返しによる誤組付けが認識される。
【0009】
(2) (1)のパッキンの誤組付け防止構造であって、
前記突起の突出方向が、前記円筒体に対する前記パッキンの装着方向であることを特徴とするパッキンの誤組付け防止構造。
【0010】
このパッキンの誤組付け防止構造によれば、突起の突出方向が、パッキンの装着方向と一致することで、作業者は突起の突出方向でパッキンを装着すればよく、パッキン装着作業時における装着方向の判別性が良好となる。
【0011】
(3) (2)のパッキンの誤組付け防止構造であって、
前記パッキンの外周面には、前記軸線を含む断面において該軸線に沿う方向の一方側と他方側とで傾斜角度の異なる斜面よりなる山形のリップが設けられ、前記装着方向の側に傾斜角度の大きい斜面が配設されることを特徴とするパッキンの誤組付け防止構造。
【0012】
このパッキンの誤組付け防止構造によれば、装着方向の側、すなわち、突起が突出する方向側に傾斜角度の大きい斜面が配設され、その反対側に傾斜角度の小さい(なだらかな)斜面が配置される。周溝にパッキンを装着した円筒体では、相手方の筒状体(相手方コネクタのハウジングフード等)が外挿されるが、その際、挿入側になだらかな斜面が配置され、良好な挿入性が得られるとともに、結合後には、傾斜角度の大きい斜面が結合解除(抜け)方向の摩擦を大きくして、結合の信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るパッキンの誤組付け防止構造によれば、パッキンの軸線を中心に非点対称となる少なくとも2つの大きさの異なる突起を、軸線に沿う方向に突設し、各突起の嵌入する切欠を周溝から延出させて円筒体に設けたので、パッキンの装着方向を逆にしても、裏返しても周溝に装着されなくなり、正規の装着方向のみに装着方向が規制される。この結果、作業者が誤組付けを容易に認識でき、パッキンの誤組付けを確実に防止することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るパッキンの誤組付け防止構造の好適な実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係るパッキンの誤組付け防止構造を備えた雄ハウジングの斜視図である。
本実施の形態では、シール構造体が電気配線用のコネクタ(機器等に一体的に設けられる接続部も含む。)である場合を例に説明する。
シール構造体は、雄ハウジング1と、この雄ハウジング1に外挿される不図示の雌ハウジングとからなる。雄ハウジング1は、機器取付部3に突設された円筒体である嵌合部5を有する。嵌合部5の内側には雌ハウジングに内設された雌端子に電気的に接触する一対の雄端子7a,7bが突出している。
【0015】
嵌合部5には、不図示の雌ハウジングの円筒体であるフードが外挿される。すなわち、嵌合部5の外周面9と、フードの内周面とがシール対象面となる。嵌合部5とフードが挿入結合され、双方の間隙がシールされることで、外部と嵌合部5の内方とが遮断される水密・防塵構造となり、端子同士の接続信頼性が高められるようになっている。
嵌合部5の外周には円環状のパッキン11を装着する周溝13(図5,図6参照)が形成されている。
【0016】
図2は図1に示したパッキンの斜視図、図3は図2に示したパッキンの軸線を含む面の要部拡大断面図、図4は図2に示したパッキンを突起の突出側から見た正面図である。
パッキン11は、ゴム等の弾性材料により一体成形されてなる。パッキン11は、外周面15に、シール性能を向上させるための複数のリップ17,19が同軸で、軸線Gに沿う方向に並設される。これにより、雌ハウジングのフード内周面に接触するリップ17,19の接触箇所を多段状に増やすことで、シール性能を高めている。
【0017】
リップ17,19は、少なくとも雌ハウジングとの結合側となる一方のリップ17が、軸線Gに沿う方向の一方側と他方側とで傾斜角度の異なる斜面よりなる。すなわち、パッキン11の嵌合部5に対する装着方向(図3の矢印方向参照)の側に傾斜角度の大きい斜面21が配設され、その反対側に傾斜角度の小さい(なだらかな)斜面23が配置される。
【0018】
周溝13にパッキン11を装着した図1に示す嵌合部5では、雌ハウジングのフードが外挿されるが、その際、挿入側になだらかな斜面23が配置され、良好な挿入性が得られるとともに、結合後には、傾斜角度の大きい斜面21が結合解除(抜け)方向の摩擦を大きくして、結合の信頼性を高めることができる。
【0019】
図4に示すように、パッキン11には、軸線Gを中心に非点対称となる少なくとも2つの大きさの異なる突起25,27が、軸線Gに沿う同一方向(図3の右方向)に向かって突設されている。非点対称とは、図4に示す突起25,27の配置の如く、一方の突起25を軸線Gのまわりに180度回転させた位置で、他方の突起27に重ならない位置関係を言う。また、「大きさの異なる」とは、面積又は形状の少なくともいずれか一方が異なる意である。面積が同一で形状が異なるものも含む。勿論、形状が同一で面積が異なるものも含む。
【0020】
本実施の形態では、一方の突起25が四角片の大突起、他方の突起27が四角片の小突起となる。以下、突起25を大突起25、突起27を小突起27とも称す。大突起25及び小突起27は、嵌合部5の外径と同一曲率で弧状に湾曲する。
パッキン11は、図3に示すリップ17,19の裾部41が、嵌合部5の外周面にほぼ一致するようにして周溝13に装着される。つまり、嵌合部5の外周面からリップ17,19を突出させる。大突起25及び小突起27の厚みtは、パッキン11の裾部41の半径Rから、内周面31の半径rを減じた値で形成される。
【0021】
図3に示すように、大突起25と小突起27は、嵌合部5に対するパッキン11の装着方向に向かって突出されている。つまり、大突起25及び小突起27の突出方向は、パッキン11の装着方向と一致する。作業者は大突起25及び小突起27の突出方向でパッキン11を装着すればよく、パッキン装着作業時における装着方向の判別性が良好となっている。
【0022】
本実施の形態では、大突起25及び小突起27を四角片としているが、より装着方向の判別性を高めるために、大突起25及び小突起27を、装着方向を示唆する矢印形状としてもよい。この場合、矢印形状の大突起25及び小突起27が嵌合するように、後述の大切欠37及び小切欠39も矢印形状とする。
【0023】
パッキン11の内周面31には、周溝13との、シール性能を向上させるための複数の小リップ33,35が同軸で、軸線Gに沿う方向に並設される。周溝13に接触する小リップ33,35の接触箇所を多段状に増やすことで、シール性能を高めている。
【0024】
図5は周溝の形成された円筒体を小切欠側から見た斜視図、図6は周溝の形成された円筒体を大切欠側から見た斜視図である。
嵌合部5には、それぞれの大突起25、小突起27の嵌入する図6に示す大切欠37,図5に示す小切欠39が、周溝13から軸線Gに沿う方向に延出して設けられている。大切欠37は大突起25が嵌入する四角形で形成され、小切欠39は小突起27が嵌入する四角形で形成される。大切欠37及び小切欠39の深さは、この大突起25及び小突起27の厚みtと略同等に形成される。したがって、パッキン11が正規の向きで組み付けられれば、嵌合部5の外周面からは、リップ17,19のみが突出する。
【0025】
このような構成を有するパッキン11の誤組付け防止構造の作用を説明する。
パッキン11の嵌合部5に対する組付け作業において、パッキン11は、嵌合部5に対する装着方向を逆にすると、周溝13から延出した大切欠37及び小切欠39と逆方向に大突起25及び小突起27が位置し、周溝13に到達した際、切欠37,39と突起25,27が一致せず、装着方向が逆向きである誤組付けが認識される。
【0026】
また、ゴム等の弾性材料からなるパッキン11では、装着時に、内周面31と外周面15が入れ替わる裏返し状態での誤組付けが発生し易い。本構成では、裏返しされた状態で、大突起25及び小突起27の突出する方向でパッキン11が装着されると、大小の突起25,27の位置が切欠37,39の大小と逆となり、少なくとも一方の突起(大突起25)が切欠(小切欠39)に嵌入しなくなり、裏返しによる誤組付けが認識される。なお、他方の突起(小突起27)も切欠(大切欠37)に遊びを持って嵌ることとなり、これによっても誤組付けが容易に視認可能となる。
【0027】
したがって、上記のパッキン11の誤組付け防止構造によれば、パッキン11の軸線Gを中心に非点対称となる少なくとも2つの大きさの異なる大突起25及び小突起27を、軸線Gに沿う方向に突設し、各突起25,27の嵌入する切欠37,39を周溝13から延出させて嵌合部5に設けたので、パッキン11の装着方向を逆にしても、裏返しても周溝13に装着されなくなり、正規の装着方向のみに装着方向が規制される。この結果、作業者が誤組付けを容易に認識でき、パッキン11の誤組付けを確実に防止することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るパッキンの誤組付け防止構造を備えた雄ハウジングの斜視図である。
【図2】図1に示したパッキンの斜視図である。
【図3】図2に示したパッキンの軸線を含む面の要部拡大断面図である。
【図4】図2に示したパッキンを突起の突出側から見た正面図である。
【図5】周溝の形成された円筒体を小切欠側から見た斜視図である。
【図6】周溝の形成された円筒体を大切欠側から見た斜視図である。
【図7】従来のパッキンの斜視図である。
【図8】パッキンの軸線を含む面の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 雄ハウジング(シール構造体)
5 嵌合部(円筒体)
11 パッキン
13 周溝
15 パッキンの外周面
17,19 リップ
21,23 斜面
25 大突起(突起)
27 小突起(突起)
37 大切欠(切欠)
39 小切欠(切欠)
G パッキンの軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のパッキンを、円筒体の外周に形成した周溝に装着してなるシール構造体のパッキンの誤組付け防止構造であって、
前記パッキンの軸線を中心に非点対称となる少なくとも2つの大きさの異なる突起が、前記軸線に沿う同一方向に向かって前記パッキンに突設され、
それぞれの前記突起の嵌入する切欠が、前記周溝から延出して前記円筒体に設けられたことを特徴とするパッキンの誤組付け防止構造。
【請求項2】
請求項1記載のパッキンの誤組付け防止構造であって、
前記突起の突出方向が、前記円筒体に対する前記パッキンの装着方向であることを特徴とするパッキンの誤組付け防止構造。
【請求項3】
請求項2記載のパッキンの誤組付け防止構造であって、
前記パッキンの外周面には、前記軸線を含む断面において該軸線に沿う方向の一方側と他方側とで傾斜角度の異なる斜面よりなる山形のリップが設けられ、前記装着方向の側に傾斜角度の大きい斜面が配設されることを特徴とするパッキンの誤組付け防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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