説明

パラジウムめっき液

【課題】 銅などの金属から形成された導体表面上に、ニッケルめっき被膜、パラジウムめっき被膜、金めっき被膜という構成を備えた表面処理において、その半田特性を更に向上できるパラジウムめっき被膜が形成可能となるめっき液を提供する。
【解決手段】 可溶性のパラジウム塩と電導塩とを含むパラジウムめっき液においてゲルマニウムを含む液組成とし、可溶性パラジウム塩の量をパラジウム金属換算量で0.1g/L〜50g/Lであり、前記電導塩は10g/L〜400g/Lであり、前記ゲルマニウムが0.1mg/L〜1000mg/Lとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムめっき液に関し、特に、半田などの接合材料と接合を行うための接合部を構成するパラジウムめっき被膜する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品若しくは半導体部品として、印刷回路基板やパッケージなど様々なものが存在する。いわゆるパッケージとしては、リードフレーム、BGA(ボール グリッド アレー)、LGA(ランド グリッド アレイ パッケージ)、QFP(クオード フラット パッケージ)、ミニモールド パッケージなどが挙げられる。このようなパッケージは、高密度実装の要求から小型化、多ピン化に日々改良され、その要求特性はますます厳しくなる傾向である。
【0003】
このような電子部品や半導体部品においては、従来より、その接合材料として半田やワイヤボンディングが用いられており、パッケージをプリント配線板などの印刷回路基板に実装する際に不可欠な接合技術として確立している。
【0004】
このような電子部品等の実装技術に関しては、リードフレームの場合、ワイヤボンディング用端子及び半田接合用端子の接合特性を向上するために、端子を構成する銅表面に、ニッケルめっき被膜、パラジウムめっき被膜、金めっき被膜からなる接合部を形成する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
このような接合部においてパラジウムめっき被膜が採用されているのは、下地の銅とニッケルとの拡散を防止することができ、半田やワイヤボンディングによる接合を確実にするためである。ところが、近年の電子部品や半導体部品の小型、高密度実装技術の進展の結果、この接合部の特性要求は更に厳しくなってきている。
【0006】
そのため、このパラジウムめっき被膜に、テルル、アンチモンなどの元素を含有させてリードフレームのアウターリードにおける接合部を形成する技術が提案されている(特許文献2参照)。このようなパラジウムめっき被膜であれば、ある程度の熱履歴を受けた場合であっても、良好な半田付け性が維持できるものとなる。
【特許文献1】特開平9−8438号公報
【特許文献2】特開平6−232311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、パッケージの小型化や実装の高密度化に伴い、接合部自体の薄膜化あるいは小面積化が進行している状況下、高温の熱履歴を受けた場合であっても、良好な接合状態を実現できる接合部が要求されている。特に、半田との接合においては、製造効率の向上の観点からも、高温の熱履歴を受けても良好な接合が可能となる、優れた耐熱性を有する接合部の形成できる技術を要求されているのが現状である。
【0008】
本発明は、上述した事情を背景になされたものであり、従来よりパッケージなどに採用されている接合部、つまり、銅などの金属から形成された導体表面上に、ニッケルめっき被膜、パラジウムめっき被膜、金めっき被膜という構成を備えた接合部において、その接合部の接合特性を更に向上できるパラジウムめっき被膜が形成可能とするめっき液を提供することである。特に、半田との接合において、優れた耐熱性を備えた接合部となるパラジウムめっき被膜が形成可能なめっき液を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者等は、パラジウムめっき被膜を形成しうるパラジウムめっき液について鋭意研究を重ねてきた結果、可溶性パラジウム塩と電導塩とを含むパラジウムめっき液に、ゲルマニウムを添加することで、パラジウムめっき被膜のバリア作用が向上することを見出し、本発明に到達するに至った。
【0010】
本発明におけるパラジウムめっき液は、可溶性のパラジウム塩と電導塩とを含むパラジウムめっき液において、ゲルマニウムを含むことを特徴とする。ゲルマニウムをパラジウムめっき液に加えたことにより、従来のパラジウムめっき被膜で形成した接合部に比べ、非常に耐熱性の高い接合部を形成でき、優れた接合特性を実現できるのである。
【0011】
本発明のパラジウムめっき液では、得られるパラジウムめっき皮膜中にゲルマニウムの元素が析出するため、接合部を形成した際のパラジウムめっき皮膜のバリア機能は、高温の熱履歴を経ても維持されるものと考えられる。このパラジウムめっき被膜中に共析するゲルマニウム量は1ppm〜10000ppmであることが望ましい。1ppm未満であると、バリア機能を向上させる作用が減少してしまう。また、本発明のパラジウムめっき液組成では、10000ppmを超えたゲルマニウム量をパラジウム被膜中に共析し難いからである。
【0012】
本発明における可溶性パラジウム塩は、アミノ基系パラジウム錯体或いはアンモニア系パラジウム錯体を含むものが好ましく、より具体的には、ジクロロジアミンパラジウム、塩化パラジウム、亜硝酸ジアミンパラジウム、硝酸テトラアミンパラジウム、硫酸ジアミンパラジウム、シュウ酸ジアミンパラジウム、シュウ酸テトラアミンパラジウム、ジクロロエチレンジアミンパラジウム(II)、塩化パラジウム、ジクロロジアンミンパラジウム(II)、ジニトロジアンミンパラジウム(II)、テトラアンミンパラジウム(II)硝酸塩、テトラアンミンパラジウム(II)硫酸塩、オキザラトジアンミンパラジウム(II)、テトラアンミンパラジウム(II)シュウ酸塩、テトラアンミンパラジウム(II)クロライドより選択された少なくとも1種類であることが好ましい。また、2種類以上を組み合わせても良い。これらの可溶性パラジウム塩を用いると、パラジウムめっき被膜が効率的に析出させることが可能となる。
【0013】
また、本発明による電導塩は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、クエン酸などのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩より選択された少なくとも1種類であることが好ましいが、より具体的には、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、クエン酸アンモニウムより選択された少なくとも1種類であることが好ましい。これらは2種類以上を組合わせても良い。これにより、めっき液に良好な導電性と緩衝性とを付与することができる。
【0014】
更に、本発明のパラジウムめっき液は、パラジウム金属換算量として0.1g/L〜50g/Lであり、電導塩は10g/L〜400g/Lであり、ゲルマニウムが0.1mg/L〜1000mg/Lとなるそれぞれの濃度範囲であることが好ましい。
【0015】
この場合、パラジウム量が0.1g/L未満の濃度では、めっき被膜析出速度が低下して好ましくなく、50g/Lを超える濃度にしても、析出特性に変化はないものの、パラジウム量が多くなり地金コストの増加になるので、実用的ではない。
【0016】
また、電導塩が10g/L未満の濃度では、めっき液の導電性が低下して好ましくなく、400g/Lを超える濃度になると、電導塩の塩析が生じ易くなるため好ましくない。
【0017】
また、ゲルマニウム量は0.1mg/L未満の濃度では、接合部におけるパラジウムめっき被膜のバリア機能が作用しにくくなる。また、1000mg/Lを超える濃度では、可溶性ゲルマニウム塩からなるゲルマニウム化合物が溶解し難くなるからである。
【0018】
また、本発明のパラジウムめっき液を用いてパラジウムめっき処理を行なう場合、液温25〜70℃、pH6.0〜10.0、電流密度0.10A/dm〜5.00A/dmの条件であることが好ましい。液温が25℃未満であると、限界電流密度が低下することとなり、70℃を超えるとめっき液の分解現象が生じやすくなり、被めっき対象物へのダメージも促進する傾向となるからである。また、pHが6.0未満であると、めっき液の安定性が低下する傾向となり、pHが10.0を超えると被めっき対象物へのダメージが促進する傾向となるからである。そして、電流密度が0.10A/dm未満であると、生産性が低下して実用的でなく、5.00A/dmを超えるといわゆるヤケめっきとなるからである。但し、ここでの電流密度値は、めっき装置の構造などに合わせてその最適範囲を変更する必要がある。
【0019】
さらに、本発明のパラジウムめっき液では、光沢剤、界面活性剤などを適宜添加することも可能である。光沢剤としては、例えば、サッカリンなどを用いることができる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノンイオン性のいずれの界面活性剤も用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るパラジウムめっき液によれば、ニッケルめっき被膜、パラジウムめっき被膜、金めっき被膜からなる接合部を形成した際に、その接合部におけるパラジウムめっき被膜のバリア機能を向上することが可能となり、接合部の耐熱性を向上し、優れた半田濡れ性を備えた接合部が形成可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の好ましい実施形態を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0022】
本実施形態では、本発明のパラジウムめっき液を用いて、半田との接合部を形成し、半田濡れ性評価を行って、そのパラジウムめっき被膜の有効性に関して調査した結果を説明する。
【0023】
半田濡れ性評価は、Cu合金系リードフレームを用いて、その表面上に、ニッケルめっき被膜、パラジウムめっき被膜、金めっき被膜を順次めっき処理して接合部を形成したものを評価サンプルとした。以下に、この接合部を形成した際の各めっき処理条件について説明する。
【0024】
ニッケルめっき処理(目標膜厚0.7μm)
サルファメックス100(日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース社製、液組成:スルファミン酸ニッケル含有めっき液)
液温 55℃
電流密度 3A/dm
【0025】
パラジウムめっき処理(目標膜厚0.03μm)
ジクロロジアンミンパラジウム(Pd金属換算) 4g/L
アンモニア水 20mL/L
塩化アンモニウム 100g/L
酸化ゲルマニウム(Ge金属換算) 10、100、500mg/L
pH 8.5
液温 55℃
電流密度 0.75A/m
【0026】
金めっき処理(目標膜厚0.007μm)
ポストフラッシュ100(日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース社製、シアン化金カリウム含有めっき液)
液温 50℃
電流密度 0.05A/m
【0027】
上記した各めっき処理を、図1に示す工程フローに従ってリードフレーム表面上に順次処理を行い、半田濡れ性評価用の評価サンプルを作製した。
【0028】
この図1に示した最初の電解脱脂処理(イートレックス12:日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース社製、液温60℃、印加電圧6V、浸漬時間30秒)は、リードフレーム表面の汚染物や酸化物などの除去するための前処理として行なったものである。
【0029】
作成した評価サンプルは、めっき液中のゲルマニウム添加量を10、100、500mg/Lとし、パラジウムめっき被膜を形成した、合計3種類(表1に示す実施例1〜実施例3)を作製した。
【0030】
【表1】

【0031】
また、従来のパラジウムめっき液を使用して評価サンプル(従来例)を作成した。この従来例は、次に示すパラジウムめっき処理を行ったもので、その他ニッケルめっき処理、金めっき処理条件、及び工程フローなどは全て上記実施例の評価サンプルの場合と同様である。
【0032】
従来例のパラジウムめっき処理(目標膜厚0.03μm)
ジクロロジアンミンパラジウム(Pd金属換算) 10g/L
アンモニア水 20mL/L
塩化アンモニウム 100g/L
pH 8.5
液温 55℃
電流密度 0.75A/m
【0033】
さらに、比較として、テルル(Te)を含有したパラジウムめっき液を使用して評価サンプル(比較例)を作成した。この比較例は、次に示すパラジウムめっき処理を行ったもので、その他ニッケルめっき処理、金めっき処理条件、及び工程フローなどは全て上記実施例の評価サンプルの場合と同様である。尚、この比較例のパラジウムめっき被膜では、被膜中のテルルの共析量は29ppmであった。
【0034】
比較例のパラジウムめっき処理(目標膜厚0.03μm)
ジクロロジアンミンパラジウム(Pd金属換算) 4g/L
アンモニア水 20mL/L
塩化アンモニウム 100g/L
テルル 50mg/L
pH 8.5
液温 55℃
電流密度 0.75A/m
【0035】
上記した各評価サンプルついて、半田濡れ性評価試験を行った。この半田濡れ性評価試験とは、評価サンプルを半田浴に浸漬してから、該半田浴より受ける力が0(ゼロ)になる迄の所要時間を測定し、その結果時間を半田濡れ性として評価する試験(いわゆるゼロクロスタイム(ZCT)試験)をいう。具体的な条件は次の通りである。
【0036】
半田濡れ性評価試験条件
・フラックス:ロジンフラックス
・半田浴 :63%スズ−37%鉛、液温230±5℃
・サンプルの浸漬速度 :2mm/秒
・サンプルの浸漬深さ :2mm
・サンプルの浸漬本数 :1本
【0037】
そして、上記半田濡れ性評価においては、各評価サンプルを加熱温度380±5℃中1分間保持、400±5℃中30秒間保持を行って試験を行った。尚、各評価サンプルについては、同条件で3回測定を行い、その結果を表2(加熱条件380±5℃の場合)及び表3(加熱条件400±5℃の場合)に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
表2及び表3では、各評価サンプルにおける3回の測定結果のうち、最大時間、最小時間及び平均時間を示している。表2及び表3より判るように、実施例1〜3の各評価サンプルでは、加熱温度380℃及び400℃のどちらにおいても、ゼロクロスタイムが短く、且つ、測定毎の変動も少なく安定した半田濡れ性を示すことが判明した。つまり、高温度の熱履歴が加わっても、半田との濡れ特性は極めて良好であることが判明した。一方、従来例では、ゼロクロスタイムが長く、且つ、測定毎の変動が大きくなる結果となった。さらに、比較例では、高温での熱履歴が加わるとゼロクロスタイムが長くなる傾向が認められた。
【0041】
続いて、上記半田濡れ性評価試験について、更に高温の430±5℃、30秒間保持の加熱処理を行った評価サンプルを調べた結果について説明する。ここで用いた評価サンプルは、実施例2、従来例、比較例の3つを用いた。加熱条件以外については、上記した各条件と同じである。その結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表4に示すように、従来例、比較例の評価サンプルでは、ゼロクロスタイムが全て5秒以上となり、半田濡れ性は非常に悪い結果となった。一方、実施例2の場合では、ゼロクロスタイムが平均0.63秒となり、430℃の加熱処理後であっても、極めて良好な半田濡れ性を備えていることが判明した。上記表2〜表4の結果より、本実施例におけるパラジウムめっき被膜で有れば、高温度の熱履歴を受けた場合であっても接合部が安定しており、その結果、極めて良好な半田濡れ性を備えていることが判った。
【0044】
このことは、従来の半田よりも融点が高く、溶融する際のリフロー温度が高い鉛フリー半田を使用する場合においても、本実施例の接合部であれば、剥離現象や接合不良などの問題を生じない。また、本実施例のパラジウムめっき被膜を備える接合部であれば、パラジウムめっき被膜の薄膜化が可能となり、コストダウンが可能となる。
【0045】
最後に、実施例2のパラジウムめっき被膜について、そのめっき被膜組成を調べた結果、4000ppmのゲルマニウムが母相のパラジウム中に共析していることが判明した。尚、分析方法は、ICP(誘導結合プラズマ)分析により、所定量のパラジウム被膜中に含まれるパラジウム量を測定した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】半田濡れ性評価用サンプルの作製工程フロー図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性のパラジウム塩と電導塩とを含むパラジウムめっき液において、
ゲルマニウムを含むことを特徴とするパラジウムめっき液。
【請求項2】
前記可溶性パラジウム塩は、アミノ基系パラジウム錯体或いはアンモニア系パラジウム錯体を含む請求項1に記載のパラジウムめっき液。
【請求項3】
前記可溶性パラジウム塩は、ジクロロエチレンジアミンパラジウム(II)、塩化パラジウム、ジクロロジアンミンパラジウム(II)、ジニトロジアンミンパラジウム(II)、テトラアンミンパラジウム(II)硝酸塩、テトラアンミンパラジウム(II)硫酸塩、オキザラトジアンミンパラジウム(II)、テトラアンミンパラジウム(II)シュウ酸塩、テトラアンミンパラジウム(II)クロライドより選択されたものであり、かつ
前記電導塩が塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、クエン酸からなるアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩より選択された少なくとも1種類である請求項1に記載のパラジウムめっき液。
【請求項4】
前記可溶性パラジウム塩の量はパラジウム金属換算量で0.1g/L〜50g/Lであり、前記電導塩は10g/L〜400g/Lであり、前記ゲルマニウムが0.1mg/L〜1000mg/Lである請求項1〜請求項3のいずれかに記載のパラジウムめっき液。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のめっき液を用いたパラジウムめっき方法において、
液温25〜70℃、pH6.0〜10.0、電流密度0.10A/dm〜5.00A/dmの条件で処理を行なうパラジウムめっき方法。

【図1】
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