説明

パラジウム抽出剤と抽出方法

【課題】 低環境負荷であるCHON型抽出剤(炭素、水素、酸素、窒素のみから構成される完全焼却処分が可能な抽出剤)であって、より低濃度までの広い硝酸濃度において抽出能を有し、さらにまた、安価である、新しいパラジウム抽出剤とこれを用いた抽出方法を提供する。
【解決手段】 次式[1]:
【化1】


(ただし、Rは炭素数1〜4、Rは炭素数4〜13であり、かつ、Rの炭素数とRの炭素数の合計が7以上であるアルキル基)
で表されるケトン類を抽出剤として、有機溶媒中に溶解させて、パラジウム含有硝酸水溶液と接触させることで、硝酸酸性溶液中のパラジウムを有機溶媒中へ抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、パラジウムの抽出剤およびその抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウムは貴重な資源として知られており、様々な産業分野において、パラジウムが含有されている廃液や被処理液からパラジウムを効率的に回収することが望まれている。これまでにも、その方法についてはいくつか提案されている。その中でも最も多いものは塩酸酸性溶液からの回収法である。しかし、塩酸酸性溶液では、溶解槽の構造材料等の腐食は避けられないため、管理、コスト等の問題を有していた。そこで、溶解槽の構造材料等への腐食性が少なく、溶液自体がリサイクル性に富む硝酸を用いることが提案されている。特に原子力の分野では、高レベル廃液の液性は、照射された核燃料素子を溶解するために硝酸酸性水溶液が用いられており、水溶液中には核分裂生成物としてパラジウムが含まれているので、硝酸酸性溶液からのパラジウムの抽出法を実現することの必要性が高い。
【0003】
これまでにも、硝酸酸性溶液中で使用されるパラジウム抽出剤としては、チオエーテルを用いた方法(特許文献1記載)やカリックスケトンを用いる方法(非特許文献1記載)が提案されている。
【0004】
しかしながら、チオエーテルのようなS(硫黄)を含有する抽出剤を用いた場合、逆抽出後に残存する抽出剤は、焼却処理した場合、不燃性の廃棄物として残存してしまい、環境負荷という観点から問題がある。
【0005】
また、カリックスケトンを抽出剤として用いた場合、6M以上の濃度の硝酸水溶液からは、定量的に抽出可能であるが、それ以下の濃度範囲では、抽出性能が落ちるという問題点がある。さらにカリックスケトン類の合成コストは一般的に非常に高く、大規模なプロセスへの適応は現実的に難しいという問題点も有している。
【特許文献1】特開平05−105973号公報
【非特許文献1】K. Ohto et al., Anal. Chim. Acta., 1997, Vol. 341, No. 2/3, P. 275-283
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、以上のとおりの背景から、従来の問題点を解決し、低環境負荷であるCHON型抽出剤(炭素、水素、酸素、窒素のみから構成される完全焼却処分が可能な抽出剤)であって、より低濃度までの広い硝酸濃度において抽出能を有し、さらにまた、安価である、新しいパラジウム抽出剤とこれを用いた抽出方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、第1には、パラジウムを含む硝酸水溶液からパラジウムを抽出する抽出剤であって、以下の式[1]:
【0008】
【化1】

(ただし、Rは炭素数1〜4、Rは炭素数4〜13であり、かつ、Rの炭素数とRの炭素数の合計が7以上であるアルキル基)
で表されるケトン類であることを特徴とするパラジウム抽出剤を提供する。第2には、上記のケトン類のうちの少なくとも1種を用いて、硝酸水溶液から有機溶媒中へパラジウムを抽出することを特徴とするパラジウム抽出方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
以上のとおりの本願発明によれば、上記ケトン類は、硝酸酸性溶液中で使用可能であり、また、従来のチオエーテルの場合のような環境負荷の問題も大きくなく、CHON型抽出剤(炭素、水素、酸素、窒素のみから構成される完全焼却処分が可能な抽出剤)であるため低環境負荷であり、さらに、カリックスケトンの場合とは異なって、より低濃度の硝酸条件下でも効率的な抽出が可能とされるという広い硝酸濃度において抽出能を有している。さらにまた、安価であるという効果を有している。
【0010】
硝酸酸性溶液中で使用が可能であるため、本願発明のパラジウム抽出剤を用いることで、触媒工業製品中のパラジウムのリサイクルのみならず、使用済み核燃料を再処理した後に発生する高レベル廃液中に含まれるパラジウムを有機溶媒中に抽出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本願発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0012】
本願発明においては、硝酸パラジウムを含む硝酸水溶液と、以下の式[1]:
【0013】
【化2】

(ただし、Rは炭素数1〜4、Rは炭素数4〜13であり、かつ、Rの炭素数とRの炭素数の合計が7以上であるアルキル基)
で表されるケトン類を少なくとも1種溶解した有機溶媒溶液とを混合し、たとえば振とうした後、有機相と水相とを分取して、有機相において抽出されたパラジウムを得る。
【0014】
この場合、ケトン類については、式[1]において炭素数がR≦Rとした場合、R1が大きすぎると抽出能が低下してしまうという問題がある。一方、R1の炭素数を小さくした場合、Rの炭素数が小さすぎると、ケトンの水への溶解性が無視できなくなり、抽出効率が悪化し、Rの炭素数が大きすぎると、抽出に寄与しないばかりでなく、コストが高くなるため、Rは炭素数1〜4、Rは炭素数4〜13、Rの炭素数とRの炭素数の合計が7以上であるアルキル基と設定する。R1の炭素数を調節することで抽出能を保ち、R2の炭素数を調節することで水への溶解度およびコストとのバランスを図るように、適当な種類のケトン類を選択することができる。また、当然に、ケトン類の種類によって、パラジウムの効率的な抽出を可能とするケトン類の濃度、硝酸水溶液の濃度があるため、これらを適宜調節して用いることが望ましい。さらに、硝酸水溶液中のパラジウム濃度に対して、少なくとも10倍以上、好ましくは100倍以上の濃度で、有機相中にケトン類を溶解することが望ましい。
【0015】
なお、抽出能や抽出条件等を考慮して、上記ケトン類のうちの複数種のものを使用してもよい。
【0016】
以下、本願発明について実施例をもとにさらに詳しく説明する。しかし、本願発明はケトン類の炭素数や抽出条件など、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
<実施例1>
ニトロベンゼンに、各種ケトン類を溶解した溶液2.5mlと、0.1mM硝酸パラジウムを含む硝酸水溶液2.5mlとを試験管中で120分間振とうした。振とう後、有機相と水相とを分取して、それぞれの相のパラジウム濃度を測定することで、抽出率(%)を得た。表1には、各種ケトン類の濃度を3M、硝酸濃度を0.01Mおよび0.1Mとしたときの抽出率(%)を示す。比較例としてn−テトラデカノフェノン(Rの炭素数が13、Rがフェニル基)を用いた。
【0018】
【表1】

本願実施例1より、様々なケトン類により、硝酸水溶液からパラジウムを抽出できることがわかる。比較例として用いた、n−テトラデカノフェノンは、R1が炭素数6以上で、かつアルキル基でないケトン類であり、本願発明のケトン類よりも非常に抽出能が低い。
<実施例2>
ニトロベンゼンに、2−トリデカノンを溶解した溶液2.5mlと、0.1mM硝酸パラジウムを含む硝酸水溶液2.5mlとを試験管中で120分間振とうした。振とう後、有機相と水相とを分取して、それぞれの相のパラジウム濃度を測定することで、抽出率(%)を得た。図1には、2−トリデカノンの濃度を2.0Mあるいは1.0Mの一定濃度として、硝酸濃度を0.01M〜4.0Mまで変化させたときの、抽出率の硝酸濃度依存性を示す。
【0019】
本願実施例2より、広い硝酸濃度範囲でケトン類によりパラジウムを抽出できることがわかる。また、本願実施例1および2より、ケトン類の種類によって、パラジウムを抽出するのに適する硝酸濃度があることがわかる。
<実施例3>
ニトロベンゼンに、2−トリデカノンを溶解した溶液2.5mlと、0.1mM硝酸パラジウムを含む硝酸水溶液2.5mlとを試験管中で120分間振とうした。振とう後、有機相と水相とを分取して、それぞれの相のパラジウム濃度を測定することで、抽出率(%)を得た。図2には、硝酸濃度を0.01Mあるいは3.0Mの一定濃度として、2−トリデカノンの濃度を1.0M〜4.0Mまで変化させたときの、抽出率の抽出剤濃度依存性を示す。
【0020】
本願実施例3より、広いケトン濃度範囲でパラジウムを抽出できることがわかる。また、本願実施例1および3より、ケトンの種類によって、パラジウムを抽出するのに適するケトン濃度があることがわかる。
【0021】
以上のような実施例から、式[1]記載のケトン類(ただしRは炭素数1〜4、Rは炭素数4〜13であり、かつ、Rの炭素数とRの炭素数の合計が7以上であるアルキル基)を抽出剤として用いることによって、0.01M硝酸という低い硝酸濃度においても高い抽出能が実現され、しかも5M硝酸濃度程度までの範囲においても限りなく100%近い抽出能が得られている。このように、本願発明によれば、硝酸酸性溶液においてパラジウムを極めて効率的に抽出することができて、触媒工業製品中のパラジウムのリサイクルのみならず、使用済み核燃料を再処理した後に発生する高レベル廃液中に含まれるパラジウムを有機溶媒中に抽出することが可能となる。また、本願発明におけるケトン類の抽出剤は、完全に焼却処分が可能なCHON型抽出剤(炭素、水素、酸素、窒素のみから構成され、完全焼却処分が可能な抽出剤)であり、低環境負荷とすることができて、また、安価で低コストであり、従来よりも汎用性が高い効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】2−トリデカノンの濃度を2.0Mあるいは1.0Mの一定濃度として、硝酸濃度を0.01M〜4.0Mまで変化させたときの、抽出率の硝酸濃度依存性。
【図2】硝酸濃度を0.01Mあるいは3.0Mの一定濃度として、2−トリデカノンの濃度を1.0M〜4.0Mまで変化させたときの、抽出率の抽出剤濃度依存性。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムを含む硝酸水溶液からパラジウムを抽出する抽出剤であって、以下の式[1]:
【化1】

(ただし、Rは炭素数1〜4、Rは炭素数4〜13であり、かつ、Rの炭素数とRの炭素数の合計が7以上であるアルキル基)
で表されるケトン類であることを特徴とするパラジウム抽出剤。
【請求項2】
請求項1記載のケトン類の少なくとも1種を用いて、パラジウム含有硝酸水溶液から有機溶媒中へパラジウムを抽出することを特徴とするパラジウム抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−13789(P2008−13789A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183737(P2006−183737)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】