説明

パラフィンワックス被覆花卉とその形成方法

【課題】 水やりや、保水装置なしで、花卉を使用可能にする。
【解決手段】 切口を含めた花卉表面の全体に、減圧蒸留留出油から分離精製された、
(A)融点50℃以下のノルマルパラフィンを主成分とするワックスと、
(B)融点50℃以下のイソパラフィンを主成分とするワックスとの
混合物であるパラフィンワックスの皮膜を形成し、樹液や水分の流出、損失を止めることにより、花卉の内部に水分を保持し続け、水やりや保水装置なしで花卉を使用可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラフィンワックス皮膜により被覆した花卉とその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、花卉の生鮮保持や、展示使用においては、花器や、フローラルフォームなどの保水機能を有する設備が必要不可欠であった。
【0003】
そのため、水やりを省きたい場合や、水やりが困難な用途や場所での生花の使用は困難であって、ドライフラワー、造化などを生花の代用として実用に供していた。
【0004】
しかしながら、花卉需要の高級化に伴い生花の使用が望まれることが多い冠婚葬祭での会場飾花や、花嫁の持つブーケなどに於いては生花を使用することが強く求められている。このため、これまでにも、水やりの工夫、保水装置の設置など、鮮度保持に必要とされる様々な工夫や試みがなされてきている。だが、いずれの場合も、大変な手間と高度な専門技術、多くの費用が掛るという欠点があった。
【0005】
そこで、このような問題点の改善策として、近年、ドライフラワーの一種でありながら生花の持つ柔らかさや、みずみずしさを特徴とするプリサーブドフラワーや、生花の持つ微妙な色合いを持つフリーズドライフラワーなどの革新技術商品が現れ、利便性と生花と見紛う品質で、花卉、生花の市場において注目されている。しかしながらこの方法は、その商品の製造には複雑で多段階の工程が必要であり、面倒で高価になってしまうという問題があり、しかも、限られた品種しか提供されていないという大きな問題点がある。このため、より安価に、生花の持つ新鮮で微妙な色合いの花卉を多くの品種について恒常的に提供できるようにすることが求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような背景から、従来の問題点を解消し、水やりや、保水装置なしで生花と同等に使用できるようにした花卉を簡便、安価に、多くの品種について提供可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するものとして、本発明は以下のことを特徴としている。
【0008】
第1:花卉の表面全体が、減圧蒸留留出油から分離精製された融点50℃以下のノルマルパラフィンを主成分とするワックスと融点50℃以下のイソパラフィンを主成分とするワックスとの混合物であるパラフィンワックスの皮膜により被覆されている被覆花卉とする。
【0009】
第2:パラフィンワックスは、融点が40℃〜50℃の範囲内のものとする。
【0010】
第3:パラフィンワックスは、ノルマルパラフィン成分が80質量%〜92質量%の範囲内のものとする。
【0011】
第4:上記のパラフィンワックスを溶融してこれに花卉全体を沈漬し、花卉の表面全体をパラフィンワックス皮膜により被覆することで被覆花卉を形成する。
【発明の効果】
【0012】
上記第1の発明によれば、安価で取扱いが容易であって、しかも安定した固化状態が維持可能とされるパラフィンワックスを用いてその皮膜により花卉表面の全体を被覆するので、簡便、かつ安価に、安定して、花卉中の樹液や水分留出を止めることができる。したがって、水やりなしで花卉の使用が容易となる。
【0013】
そして他の天然や合成ワックスより透明度が高く、べたつきも無く、合成ワックスを使用するより生体安全性、環境安全性も確立されている。
【0014】
また、融点が40℃〜50℃の範囲のパラフィンワックスを用いる第2の発明によれば、上記の効果に加えて、低融点であることによって、より低い温度での被覆皮膜の形成が可能であって、しかも、室温、常温においては安定した固化状態が保たれることになる。
【0015】
さらに、第3の発明では、ノルマルパラフィン成分の透明度と適度な硬度、そして、イソパラフィンの柔軟性、滑らかな伸び、ベタつきの少ない特性を併せ持つ皮膜特性を生かすことができる。
【0016】
そして第4の発明によれば、パラフィン皮膜を形成する際に、吹き付けスプレー、刷毛などの道具を使用しないので簡便であり、大気中へのパラフィン粒子の飛散や、環境を汚染しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の被覆花卉においては、花卉の表面全体をパラフィンワックス皮膜により被覆することを特徴としているが、ここで、「花卉」とは、通常、生花として取扱われるものであって、その用途、目的に応じて、所定の部位、寸法、形状に切断、調整された各種のものがその意味に含まれる。たとえば、いわゆる「花クビ」のもの、花弁とともに葉を有するもの等々であってよい。その品種にも特段の限定はなく、一般的には、パラフィンワックスの溶融温度においての溶融ワックスへのわずかの時間の沈漬に耐えられるものであればよい。この沈漬を考慮すると、パラフィンワックスの融点はより低いことが望ましい。
【0018】
実際、パラフィンワックスの溶融のためにプロセス(沈漬)温度が50℃を超える場合には、植物に対しての熱によるダメージが多発し、1〜2日後には被覆後の植物組織が懐死する減少が多くなる。
【0019】
そして花卉の「表面全体」とは、水分の発散や吸湿が行われる組織表面の実質的な全てであることを意味している。ただ、当然のことであるが、微小、微細部位において、被覆花卉の用途、目的を阻害しない範囲においては、皮膜による被覆がなされずにいてもよい。このような部位は、被覆形成のための操作において許容される範囲も含まれる。
【0020】
また、花卉の組織によっては、実質的に水分の発散や吸湿が無視され得る組織表面であれば皮膜被覆の対象としては除外されてもよい。
【0021】
通常は、「表面全体」については、花弁、顎、茎、切口などが主な対象となる。
【0022】
パラフィンワックス皮膜については、その皮膜厚みに特に限定はないが、水分の発散や吸湿を抑えるのに必須とされる厚みであればよい。一方、過度の厚みは、花卉の色あいや質感を損うことになる。
【0023】
皮膜となるパラフィンワックスは、いわゆる石油ワックスの一種として、減圧蒸留留出物から分離精製されたものとして考慮される。そして、本発明でのパラフィンワックスは、
(A)融点50℃以下のノルマルパラフィンを主成分とするワックスと、
(B)融点50℃以下のイソパラフィンを主成分とするワックスとの
混合物である。ここで「主成分」の言葉は、50質量%以上、より好ましくは60質量%以上を占めていることとして定義される。
【0024】
このような混合ワックスとしての本発明のパラフィンワックスにおいては、混合後の融点が50℃以下、特に、40℃〜50℃の範囲のパラフィンワックスが好適なものとして考慮される。
【0025】
このようなパラフィンワックスとしては、市販品等やそれらの混合による調製品として利用することができる。本発明では、ノルマルパラフィン成分が80質量%以上のものが例示される。より具体的には、ノルマルパラフィン成分が80〜92質量%、イソパラフィン成分が8〜20質量%の範囲で、融点が40℃〜50℃の範囲のものが好適に考慮される。
【0026】
市販品等を利用する場合には、たとえば、
(A)融点40℃〜50℃の範囲内の、ノルマルパラフィンを60質量%以上含有するパラフィンワックス、
(B)融点40℃〜50℃の範囲内の、イソパラフィンを50質量%以上含有するパラフィンワックス、
とを混合し、融点が40℃〜50℃の範囲内でノルマルパラフィンが80〜92質量%のものとして利用することが好適に考慮される。
【0027】
本発明に被覆については、花卉の被覆が必要とされる表面を溶出したパラフィンワックス浴内に沈漬し、次いで取出し乾燥することによって簡便に行うことができる。
【0028】
そこで、以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0029】
融点が40℃〜50℃の範囲の、減圧蒸留留出油から分離精製したパラフィンワックスを溶融した液体に花卉全体を沈漬し、パラフィン皮膜を形成して、樹液や水分の流出を止めて、水やりなしで花卉の使用を実現した。
<実施例1>
図1は、花弁1、顎2、茎3、そして切口5を有する生花の花クビを示したものであるが、パラフィンワックスとして、ノルマルパラフィンを60質量%以上含有する標準系のパラフィンワックス(日本精蝋株式会社:品名115、融点47℃)と、イソパラフィンを主成分(50質量%以上)とするイソパラフィン系のパラフィンワックス(日本精蝋株式会社:品名EMW−0001、融点48℃)とを、質量比95:5で混合した混合パラフィンワックスを溶融した液体に、この生花の花クビ全体を、沈漬し、花クビの表面全体にパラフィンワックス皮膜を形成した。
【0030】
図に示した切口5をはじめとする花クビ全体にパラフィンワックス皮膜を形成することで、樹液や水分の流出、損失を止めることにより、水やりや、保水装置なしで花卉を使用に供することを可能とした。
【0031】
水やりをした花卉と比べて、同等以上の長期間(2週間以上)、花卉の鮮度保持が認められた。
<実施例2>
図2に示した花弁1、顎2、茎3、葉4、切口5を含めた花卉全体を、実施例1の混合パラフィンワックスにおいてその混合比を、質量比90〜99:10〜1の割合としたものを溶融した液体に、花卉全体を沈漬し、パラフィン皮膜を形成した。樹液や水分の流出、損失を止めることにより、水やりや、保水装置なしで花卉を使用に供することを可能とした。
【0032】
花卉表面へのパラフィンワックス皮膜の活着性と柔軟性を高め、皮膜の亀裂や剥離を防ぎ、密封性を一層向上することができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、花卉各種会場飾り花、葬儀の祭壇の飾り花、遺影写真の額の飾り花、花輪、ブライダルのブーケなどへの適用が可能であって、水貯め装置を省くことによって合理化・経済効果が期待できる。また、水を使用しないことにより従来、花卉の使用が困難な場合が多かったウインドウディスプレイなどへの花卉使用を促すことも期待できる。
【0034】
花卉の使用拡大が期待できる産業分野としては、水やりや保水装置なしで花卉の使用出来る点と、無味・無臭・無害なパラフィンで花卉全体を覆い、樹液等の漏出や花卉固有の臭いを隠蔽する“パラフィンのバリア性”により、和菓子、洋菓子、ケーキなどの飾りや、和食、洋食のツマ、飾り花など、衛生面が重要視される用途に適応できる。また、使用後の廃棄にあたっても使用成分が生分解性であり、焼却してもダイオキシンを発生しない利点が有る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】生花の花クビを示した説明図である。
【図2】花卉を示した説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 花卉
2 顎
3 茎
4 葉
5 切口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
花卉の表面全体が、減圧蒸留留出油から分離精製された融点50℃以下のノルマルパラフィンを主成分とするワックスと融点50℃以下のイソパラフィンを主成分とするワックスとの混合物であるパラフィンワックスの皮膜により被覆されていることを特徴とする被覆花卉。
【請求項2】
パラフィンワックスは、融点が40℃〜50℃の範囲内のものであることを特徴とする請求項1に記載の被覆花卉。
【請求項3】
パラフィンワックスは、ノルマルパラフィン成分が80質量%〜92質量%の範囲内のものであることを特徴とする請求項3に記載の被覆花卉。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の被覆花卉の形成方法であって、パラフィンワックスを溶融してこれに花卉全体を沈漬し、花卉の表面全体をパラフィンワックス皮膜により被覆することを特徴とする被覆花卉の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−84162(P2009−84162A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252171(P2007−252171)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(507321978)
【出願人】(507321989)
【出願人】(507282749)
【出願人】(507282738)
【Fターム(参考)】