説明

パラフィン系潜熱蓄熱材組成物

【課題】20〜35℃の領域に広く融解潜熱を有し、潜熱の取出し作動温度領域が広く、かつ、該温度範囲での蓄熱容量が大きいパラフィン系潜熱蓄熱材組成物を提供する。
【解決手段】n-ヘプタデカンの含有量が1〜17重量%、n-ノナデカンの含有量が0.1〜10重量%、かつn-ヘプタデカンとn-ノナデカンとの合計含有量が5重量%以上であり、n-ヘプタデカンとn-オクタデカンとn-ノナデカンとの合計含有量が90重量%以上であることを特徴とするパラフィン系潜熱蓄熱材組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、20〜35℃の温度領域に相変化に伴う融解潜熱を有するパラフィン系潜熱蓄熱材組成物に関するものであり、より具体的には建築物への保温保冷および室内と室外間の温度遮蔽機能の付加や、日用品および衣料品等の夏場の冷涼感や冬季の保温機能の付与に効果的な潜熱熱量の大きいパラフィン系潜熱蓄熱材組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外気温度の変動に対して住宅やビル等の室内温度を快適な温度範囲に保つための冷暖房のエネルギー消費を低減するために、建物の気密性を高めたり、壁や天井、床などに断熱材を用いて室内と室外の間の熱移動を抑制することが一般に行われている。これに対して、太陽熱や外気、冷暖房などを熱源とする余剰エネルギーを建物の躯体等に蓄える蓄熱技術が提案されている。例えば、夜間に比較的低温な外気から冷熱を蓄積した後に日中に放出することで室内温度の上昇を抑制することができ、また、日中に室内空気から温熱を蓄積した後に夜間に放出することで室内温度の低下を抑制することができる。さらに、蓄熱熱容量を大きくして省エネルギー効果を大きくするために、20〜35℃の人体快適温度領域に相変化温度を有する潜熱蓄熱材を建築材料に組み込むことが行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
このような用途に供することができる潜熱蓄熱材として無機塩水和物が知られているが、該無機塩水和物には腐食性の問題や、過冷却度が大きく、また相変化を繰り返すにつれて相分離を起すため安定性に劣るという欠点がある(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
一方、有機脂肪酸やノルマルパラフィンなどの有機系の潜熱蓄熱材も知られている。このうちノルマルパラフィンについては、マイクロカプセル化して衣料材料に組み込み、外気や人体の熱を利用して、体感温度をコントロールする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、ノルマルパラフィンを使用して、相変化温度を制御する技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この蓄熱材の使用温度範囲は−10〜20℃程度であり、人体快適温度領域とされる20〜35℃領域に有効でないという欠点があった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−156570号公報
【特許文献2】特開平6−234967号公報
【非特許文献1】Concept for Passive Latent Heat Storage Materials. Applications. [online]. RUBITHERM GmbH. [retrieved on 2005-02-22]. Retrieved from the Internet: <URL:http://www.rubitherm.com/english/pages/03f_passive_latent_heat_storage_materials.htm>.
【非特許文献2】蓄熱・増熱技術編集委員会,「蓄熱・増熱技術」,株式会社アイピーシー,1985年11月30日,p.170−173
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下、本発明は上記問題点を解決したものであり、即ち、本発明の目的は、20〜35℃の領域に広く融解潜熱を有し、潜熱の取出し作動温度領域が広く、かつ、該温度範囲での蓄熱容量が大きいパラフィン系潜熱蓄熱材組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、実質的にn-ヘプタデカンとn-オクタデカンとn-ノナデカンとの3成分からなり、その3成分を所定の割合で含有するノルマルパラフィン混合物が、20〜35℃領域に広く潜熱ピークを有し、蓄熱容量が大きく、相変化を繰り返しても安定で、過冷却現象も少なく、潜熱蓄熱材として非常に有用であることを見出した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、n-ヘプタデカンの含有量が1〜17重量%、n-ノナデカンの含有量が0.1〜10重量%、かつn-ヘプタデカンとn-ノナデカンとの合計含有量が5重量%以上であり、n-ヘプタデカンとn-オクタデカンとn-ノナデカンとの合計含有量が90重量%、好ましくは95重量%以上であるパラフィン系潜熱蓄熱材組成物にかかるものである。
【0010】
本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物は、特に、昇温時に20〜25℃の範囲に融点を有し、かつ降温時に20〜30℃の範囲に凝固点を有することが好ましく、また、全吸熱潜熱熱量(Q)のうち、昇温時の20〜40℃の範囲の吸熱総潜熱熱量(Q1)が200J/g以上であり、かつ昇温時の20〜25℃の範囲の吸熱潜熱熱量(Q2)がQ1の20%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の潜熱蓄熱材組成物は、パラフィン系であるので、過冷却現象が小さく、相分離を起さず、腐食性を持たないため、長期間安定して使用する上での制限が少ないことに加えて、20〜35℃の領域に広く潜熱ピークを持ち、蓄熱材として有効な作動温度領域が広く、更には、蓄熱容量が大きい等の格別の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物は、実質的にn-ヘプタデカンとn-オクタデカンとn-ノナデカンとからなる。
【0013】
本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物におけるn-ヘプタデカンの含有量は、1〜17重量%であり、好ましくは5〜15重量%である。n-ヘプタデカンの含有率が17重量%を超えると、昇温時に全吸熱潜熱熱量(Q)の一部が20℃以下の範囲に現れるため、昇温時の20〜40℃の範囲の吸熱総潜熱熱量(Q1)が200J/g未満となり、蓄熱に有効な潜熱容量が減少する。また、昇温時に20〜25℃の範囲の吸熱潜熱熱量(Q2)が減少するため、蓄熱に有効な潜熱容量が減少するばかりでなく、蓄熱材として有効な作動温度領域が狭くなる。一方、n-ヘプタデカンの含有率が1重量%未満であると、Q1は200J/g以上となるものの、Q2がQ1の20%未満となり、蓄熱材として有効な作動温度領域が狭くなる。
【0014】
本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物におけるn-ノナデカンの含有量は、0.1〜10重量%であり、好ましくは1〜5重量%である。n-ノナデカンの含有率が10重量%を超えると、昇温時にQの一部が20℃以下の範囲に現れるため、Q1が200J/g未満となり、有効な蓄熱容量が減少する。また、昇温時にQ2が減少するため、蓄熱材として有効な作動温度領域が狭くなる。一方、n-ノナデカンの含有率が0.1重量%未満であると、Q1は200J/g以上となるものの、Q2がQ1の20%未満となり、蓄熱材として有効な作動温度領域が狭くなる。
【0015】
本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物において、上記n-ヘプタデカンと上記n-ノナデカンとの合計含有量は、5重量%以上であり、好ましくは10重量%以上である。n-ヘプタデカンとn-ノナデカンとの含有率の合計が5重量%未満であると、20〜25℃の範囲の吸熱潜熱熱量が小さいため、有効な蓄熱容量は大きいものの、作動温度領域が狭くなり、温度が一定でない太陽熱や外気などを熱源とする蓄熱技術に適さなくなる。
【0016】
また、本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物において、n-ヘプタデカンとn-オクタデカンとn-ノナデカンとの合計含有量は、90重量%以上であり、好ましくは95重量%以上である。n-ヘプタデカンとn-オクタデカンとn-ノナデカンとの含有率の合計が90重量%未満では、20〜40℃の範囲の吸熱総潜熱熱量が減少し、有効な蓄熱容量が減少する。
【0017】
本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物は、上記条件を満足していれば差し支えなく、炭素数17未満あるいは炭素数20以上のノルマルパラフィンを更に含有してもよい。
【0018】
また、本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物は、昇温時に20〜25℃の範囲に融点を有し、かつ降温時に20〜30℃の範囲に凝固点を有することが好ましい。昇温時に融点が20℃未満であると、Qの一部が人体快適温度よりも低い温度領域に現れるため、有効な蓄熱容量が減少して、建築材料に組み込んだ際の冷暖房の省エネルギー効果が低下したり、衣料材料に組み込んだときに期待される人体の皮膚温度が適温に保持される時間が短くなる。一方、昇温時に融点が25℃を超えると、有効な蓄熱容量は大きいものの、Q2が減少するため、作動温度領域が狭くなり、温度が一定でない太陽熱や外気などを熱源とする蓄熱技術に適さなくなる。また、降温時に凝固点が20℃未満であると、作動温度領域が人体快適温度領域と比較して低くなり、有効な蓄熱容量が減少する。一方、降温時に凝固点が30℃を超えると、作動温度領域が人体快適温度領域と比較して高くなり、有効な蓄熱容量が減少する。
【0019】
本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物は、昇温時の20〜40℃の範囲の吸熱総潜熱熱量(Q1)が200J/g以上であり、かつ昇温時の20〜25℃の範囲の吸熱潜熱熱量(Q2)が20〜40℃の範囲の吸熱総潜熱熱量(Q1)の20%以上であることが好ましい。Q1が200J/g未満であると、蓄熱容量が小さいため、建築材料に組み込んだ際に冷暖房の省エネルギー効果が充分に得られなかったり、衣料材料に組み込んだときに人体の皮膚温度を適温に安定させる効果が短時間しか持続しないことがある。また、Q2がQ1の20%未満であると、有効な蓄熱容量は大きいものの、作動温度領域が狭くなり、温度が一定でない太陽熱や外気などを熱源とする蓄熱技術に適さなくなる。
【0020】
また、本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物は、ノルマルパラフィン以外に他の構造の炭化水素、例えばイソパラフィン、オレフィン、ナフテンあるいは芳香族成分を不純物として含んでいても差し支えなく、マイクロカプセル等の応用製品を製造する際に用いる樹脂モノマー、重合剤、界面活性剤などを含んでいても差し支えない。
【0021】
更に、本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常用いられる添加剤、過冷却防止剤、比重調整剤、顔料や染料等の着色剤、芳香剤、ゲル化剤等の添加剤を含ませることができる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0023】
(実施例1〜2)
蓄熱材組成物として、n-ヘプタデカンとn-オクタデカンとn-ノナデカンからなる実施例1,2の組成物を調製した。組成混合比を表1に示す。
【0024】
表1中、凝固点、融点および潜熱量は、セイコーインスツルメンツ社製DSC220CU型示差走査熱量計を用いて測定した。示差走査熱量計により得られる温度−熱量のモデル図を図1に示す。
【0025】
ここで、昇温速度10℃/分の速度で加熱したときに得られた温度−熱量図のピークの最大傾斜の接線がベースラインと交わる点の温度を融点とし、また、降温速度10℃/分の速度で冷却したときに得られた温度−熱量図のピークの最大傾斜の接線がベースラインと交わる点の温度を凝固点とした。更に、融点から凝固点を差し引いた値を過冷却度と定義し、表1に示した。
【0026】
また、表1中、安定性は、1000回の熱サイクル試験後の潜熱熱量が初期値の70%以上を保つ場合を○、70%未満になる場合を×で表記した。
【0027】
(比較例1〜5)
比較例1〜3として、n-ヘキサデカン、n-ヘプタデカン、n-オクタデカン及びn-ノナデカンからなる蓄熱材組成物を表1に示す割合で調製した。また、比較例4として無機蓄熱材であるNa2SO4・10H2Oを、比較例5として有機蓄熱材であるカプリン酸を用いた。これらに対し、凝固点、融点および潜熱量を実施例と同様の方法で測定し、評価した。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、本発明に従う実施例の蓄熱材組成物は、Q1が200J/g以上で蓄熱容量が大きく、Q2/Q1が20%以上で蓄熱容量の大きい作動温度領域が広い上、安定性も良好であり、蓄熱材組成物として優れた特性を有していた。
【0030】
一方、比較例1及び比較例3の蓄熱材組成物は、n-ヘプタデカンの含有量が多すぎるため、Q1が200J/g未満で潜熱容量が小さかった。また、n-オクタデカンのみからなる比較例2の蓄熱材組成物は、融点が25℃を超え、Q2が0で、作動温度領域が狭かった。更に、比較例4の蓄熱材組成物は、無機塩水和物からなるため安定性が低く、比較例5の蓄熱材組成物は、有機脂肪酸からなるため、潜熱容量が小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物は、建築物への保温保冷および室内と室外間の温度遮蔽機能の付加や、日用品および衣料品等の夏場の冷涼感や冬季の保温機能の付与に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】示差走査熱量計による得られる温度−熱量のモデル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n-ヘプタデカンの含有量が1〜17重量%、n-ノナデカンの含有量が0.1〜10重量%、かつn-ヘプタデカンとn-ノナデカンとの合計含有量が5重量%以上であり、n-ヘプタデカンとn-オクタデカンとn-ノナデカンとの合計含有量が90重量%以上であることを特徴とするパラフィン系潜熱蓄熱材組成物。
【請求項2】
昇温時に20〜25℃の範囲に融点が存在し、かつ降温時に20〜30℃の範囲に凝固点が存在する請求項1に記載のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物。
【請求項3】
昇温時の20〜40℃の範囲の吸熱総潜熱熱量が200J/g以上であり、かつ昇温時の20〜25℃の範囲の吸熱潜熱熱量が20〜40℃の範囲の吸熱総潜熱熱量の20%以上である請求項1又は2に記載のパラフィン系潜熱蓄熱材組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−321949(P2006−321949A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148351(P2005−148351)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)