説明

パルスアナライザ

【解決手段】1つのパルス又はパルスの反復ストリームをサンプリングするためのパルスアナライザを説明する。パルスアナライザは、1つのパルスに1組の基底関数を乗算して、複数の乗算されたパルス関数を生成する。合成器は、乗算されたパルス関数を結合してパルスサンプルを生成する。詳細には、合成器は、パルスの持続時間に実質的に対応する積分区間にわたる少なくとも1つの積分演算と、少なくとも1つの加算演算とを実行する。基底関数は、合成器の出力が積分区間よりも短いサンプル時間間隔において1つのパルスサンプルに対応するようにする関数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域過渡パルスとそのパルスに関連付けられる直交信号(quadrature signal)の両方の離散時間サンプルを同時に取得するための方法及び装置に関する。この方法は、限定はしないが、オシロスコープを含む電子システムに特に適用することができ、パルスの時間領域における位置を特定したり、パルスの2つの直交表現を求めたり、パルスの形状を特徴付けるパラメータを抽出したりすることができる。
【背景技術】
【0002】
持続時間が有限であり形状が未知の広帯域パルスx(t)が、複数のJ個の時刻t1、t2、...tj、...、tJにおいてサンプリングされるものと仮定する。パルスの持続時間は或る最大値Tによって制限され、また、パルスの到着時刻は概ね分かっているものとする。その際、パルスx(t)の収集されたサンプルを用いて、パルスの形状やそのモーメントのような位置及び時間的広がりを含む幾つかのパルス記述子が求められる。検査中のパルスは、遠隔の対象物によって散乱した電磁放射の一部を捕捉する適切なセンサの出力において観測されるものと見なすことができる。
【0003】
サンプリング技法の発展の概説が、Mark Kahrs著「50 Years of RF and Microwave Sampling」(IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. 51, no. 1, pp. 1787-1804, Jun. 2003)において与えられている。
【0004】
従来のサンプリング技法は、超高速サンプリング回路を用いて瞬時信号サンプルを生成する。しかしながら、そのような超高速サンプリング回路は一般的にコストがかかる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の複数の態様が添付の特許請求の範囲において述べられる。
【0006】
本発明による方法は、パルスの「時間スライス」を用いるのではなく、パルス全体を処理することによってその「瞬時」値を求める。結果として、本発明の際立った利点のうちの1つは、コストがかかる超高速サンプリング回路を実際に用いることなく、「瞬時」信号サンプルを生成する潜在能力からもたらされる。各「瞬時」サンプルは、持続時間Tにわたって求められるパルスx(t)全体の種々の平均値を適切に結合することによって得られる。
【0007】
ここで、本発明の種々の実施形態を、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ディラックインパルスδ(t)を近似する関数を用いて時刻tjにおいてサンプリングされるパルスx(t)の一例を示す図である。
【図2】定数と8つの連続した高調波を結合することによって得られる周期サンプリング関数D8(t)の形状を示す図である。
【図3】パルスx(t)の1つのサンプルx(tj)を取得するために実行される演算の概略図である。
【図4】カーネルγ(t)=1/(πt)を近似する関数を用いて時刻tiにおいてサンプリングされるパルスx(t)の一例を示す図である。
【図5】8つの連続した高調波を結合することによって得られる直交サンプリング関数H8(t)の形状を示す図である。
【図6】本発明に従って構成される第1の新たなサンプリング関数A8(t)を示す図である。
【図7】本発明に従って構成される第2の新たなサンプリング関数B8(t)を示す図である。
【図8】本発明に従って構成されるパルスアナライザPANの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
持続時間が有限であり形状が未知の広帯域パルスx(t)が、複数のJ個の時刻t1、t2、...tj、...、tJにおいてサンプリングされるものと仮定する。パルスの持続時間は或る最大値Tによって制限され、また、パルスの到着時刻は概ね分かっているものとする。その際、パルスx(t)の収集されたサンプルを用いて、パルスの形状やそのモーメントのような位置及び時間的広がりを含む幾つかのパルス記述子が求められる。検査中のパルスは、遠隔の対象物によって散乱した電磁放射の一部を捕捉する適切なセンサの出力において観測されるものと見なすことができる。
【0010】
ディラックデルタ関数、すなわちディラックインパルスδ(t)の「ふるい分け(sifting)」特性によって、パルスx(t)の時刻tjにおけるサンプル、すなわち値x(tj)を以下の積分から求めることができる。
【0011】
【数1】

【0012】
図1は、ディラックインパルスδ(t)を近似する関数δ’(t)を用いて、時刻tjにおいてサンプリングされたパルスx(t)の一例を示す。
【0013】
ディラックデルタ関数δ(t)は、以下の形のサンプリング関数の中央部分(central segment)によって近似することができる。
【0014】
【数2】

【0015】
ここで、{a0,a1,a2,...,ak,...,aK}は所定の(K+1)個の係数の組であり、{f1,f2,...、fk,...,fK}は対応する所定のK個の周波数の組である。
【0016】
必ずしも必要ではないが、適切に選択された或る基本周波数fBの連続した高調波である周波数fkを利用することが好都合である。すなわち、その周波数は以下の通りである。
【0017】
【数3】

【0018】
例示するために、定数と8つの連続した高調波を結合することによって得られる周期サンプリング関数D8(t)の形状を図2に示す。ここで、D8(t)は以下の通りである。
【0019】
【数4】

【0020】
上記のサンプリング関数は、使用される最も低い周波数の周期1/(2π)に等しい時間間隔(−π,π)内でディラックデルタ関数δ(t)を近似する。ただ1つのピークを保持するために、時間間隔(−π,π)にわたって、そのサンプリング関数に単位振幅時間ゲートg(t)を乗算する。
【0021】
上記の設計では、ピーク幅、すなわちパラメータFWHH(半値全幅(full width at half height))は、使用される最も高い周波数の周期の90パーセントに等しい。サイドローブレベルの大きさは0.0037(すなわち、−48dB)未満に抑えられる。
【0022】
一般的に、要求されるピーク幅(FWHH)は、検知システムの時間(又は距離)分解能によって決まる。たとえば、時間分解能が1ns(0.15mの距離分解能に等価である)に等しい場合には、DK(t)のピーク幅は1nsを超えるべきではない。結果として、上記の例示と同じような設計では、最も高い周波数fKは、900MHz未満にすべきではない。
【0023】
正確な演算のために、使用される最も低い周波数f1の周期は、少なくとも、パルス持続時間Tに等しくすべきである。たとえば、予想されるパルス持続時間がT=30nsである場合には、最も低い周波数f1は33MHzを超えるべきではない。
【0024】
本発明の第1の態様によれば、パルスx(t)の時刻tjにおけるサンプル、すなわち値x(tj)は、手順1を実行することによって求められる。
手順1:
1.K個の所定の周波数f1、f2、...、fk、...、fKの組から第1の周波数fkを選択し、以下の形の高調波余弦信号(harmonic co-sinusoidal signal)を生成する。
【0025】
【数5】

【0026】
ここで、θjk=2πfkjは初期位相である。
2.パルスx(t)と高調波信号ck(tj)にゲートをかけた信号とを乗算し、結果として生成された信号を積分して、値Ck(tj)を得る。
3.K個の周波数のそれぞれが利用されるまでステップ1と2を繰り返し、そのような演算の繰り返しの結果として、以下に示すK個の値の組が生成される。
1(tj)、C2(tj)、...Ck(tj)、...CK(tj
4.パルスx(t)を積分して、定数値C0を得る(パルスx(t)がDC(直流)成分を含まない場合には、このステップは不要である)。
5.そのようにして得られた値を利用して、以下のような線形結合を形成する。
【0027】
【数6】

【0028】
ここで、{a0,a1,a2,...,ak,...,aK}は(K+1)個の所定の係数の組である。
6.上記の結合を、解析されるパルスx(t)におけるサンプルx(tj)の推定値として用いる。
【0029】
図3は、検査中のパルスx(t)における1つのサンプルx(tj)を得るために実行される演算を概略的に示す。
【0030】
解析されるパルスx(t)の適切な表現{x(t1),x(t2),...x(tj),...x(tJ)}を得るために、手順1がJ個の時刻tj毎に繰り返されなければならないのは明らかであろう。ただし、j=1,2,...,Jである。
【0031】
従来のサンプリングとは対照的に、開示された本方法は、パルスの「時間スライス」を用いるのではなく、パルス全体を処理することによってその「瞬時」値を求める。結果として、開示される方法の際立った利点のうちの1つは、コストがかかる超高速サンプリング回路を実際に用いることなく、「瞬時」信号サンプルを生成する潜在能力からもたらされる。各「瞬時」サンプルは、持続時間Tにわたって求められるパルスx(t)全体の種々の平均値を適切に結合することによって得られる。
【0032】
開示された本方法の説明によれば、検査中のパルスx(t)の厳密な表現を得るためには、サンプリング関数DK(t)は、パルス持続時間の間隔T全体にわたってディラックデルタ関数δ(t)の十分な近似となるべきである。
【0033】
同じような性質の問題がスペクトル解析やアンテナアレイの設計において生じるので、上記の近似問題に対する種々の解法が当業者には知られている。たとえば、以下の刊行物を細かく調べることによって、利用可能な解法のかなり包括的な概説を得ることができる。
1.F. J. Harris著「On the Use of Windows for Harmonic Analysis with the Discrete Fourier Transform」(Proc. IEEE, vol. 66, pp. 51-83, Jan. 1978)
2.A. H. Nuttall著「Some Windows with Very Good Sidelobe Behaviour」(IEEE Trans. Acoust. Speech Signal Processing, vol. ASSP-29, no. 1, pp. 84-91, Feb. 1981)
3.C. A. Balanis著「Antenna Theory」(New York: Wiley, 1997)
4.N. Jin、Y. Rahmat-Samii著「Advances in Particle Swarm Optimization for Antenna Design」(IEEE Trans. Antennas Propag., vol. 55. no. 3, pp. 556-567, Mar. 2007)
【0034】
当業者には知られているように、基になるパルスx(t)に関連付けられるいわゆる直交信号y(t)をさらに求めることによってのみ、広帯域過渡パルスx(t)を完全に特徴付けることができる。原理的には、入力パルスをカーネルγ(t)=1/(πt)で畳み込むヒルベルト変換器によって直交信号を生成することができる。そのような演算は通常、入力パルスの離散時間サンプルを適切に処理することによって、ディジタル形式で実行される。
【0035】
直交信号y(t)が取得可能である場合には、対象とするパルスx(t)は、以下の式によって定義されるその(ヒルベルト)包絡線z(t)及び位相関数φ(t)によって特徴付けることができる。
【0036】
【数7】

【0037】
ここで、tan-1(・)は4象限関数(four-quadrant function)である。その後、包絡線z(t)を用いて、平均値(「重心」)、中央値、或いは「ドミナント」モード等の幾つかの位置パラメータを推定することによって、パルスの時間領域における位置を求めることができる。
【0038】
たとえば、パルスの平均位置(「重心」)は以下の式から計算される。
【0039】
【数8】

【0040】
上記の式は、「電力」分布と呼ばれることもある二乗包絡線z2(t)を用いることに留意されたい。
【0041】
パルスの中央位置tMは以下のように定義される。
【0042】
【数9】

【0043】
それゆえ、中央位置tMは、パルス持続時間内においてパルスx(t)の左部分と右部分とが等しいエネルギーを得るように選択された時刻である。
【0044】
パルスのモード位置tpは、パルスx(t)の電力z2(t)がその最大値に達する時刻と定義される。それゆえ、以下の式が成り立つ。
【0045】
【数10】

【0046】
上記の議論から、広帯域パルスx(t)そのものと、それに関連付けられる直交信号y(t)によって与えられる補足情報とを知ることによって、パルス位置を特定することができる。
【0047】
パルスの時間領域における位置が特定されたとき、この特定の位置にそのパルスの全エネルギー∫z2(t)dtを割り当てることが好都合な場合がある。そのような演算は、パルス圧縮(pulse condensation)又はパルス短縮(pulse compaction)と見なすことができる。
【0048】
用途によっては、当業者に知られている方法を用いることによって、パルス電力分布z2(t)のさらに高次のモーメントを求めることに関心がある場合もある。詳細には、2次の中心モーメントは、時間領域におけるパルスの広がりを特徴付けることになる。一方、3次の中心モーメントは、パルスの「歪度」に関する情報を提供する。
【0049】
x(t)が複雑な対象物によって散乱するパルスであるとき、包絡線z(t)そのもの、或いは時間領域における電力分布z2(t)は、対象物の構造についての情報を供給する。場合によっては、補足情報を提供するために、位相関数φ(t)も用いられる。
【0050】
ディラックインパルスでのサンプリングと同様に、基になるパルスx(t)に関連付けられる直交信号y(t)の時刻tiにおけるサンプル、すなわち値y(ti)を以下の積分から求めることができる。
【0051】
【数11】

【0052】
ここで、γ(t)=1/(πt)はディラックインパルスδ(t)のヒルベルト変換である(γ(t)の特異性に起因して、上記の積分の主値が用いられなければならない)。
【0053】
図4は、カーネルγ(t)=1/(πt)を近似する関数HK(t)を用いて時刻tiにおいてサンプリングされるパルスx(t)の一例を示す。パルスx(t)のそのようなサンプリングは、実際には、関連付けられる直交信号y(t)のサンプルを生成することに留意されたい。
【0054】
本発明の別の態様によれば、カーネルγ(t)=1/(πt)は、以下の形の直交サンプリング関数の中央部分によって近似される。
【0055】
【数12】

【0056】
ここで、所定のK個の係数{a0,a1,a2,...,ak,...,aK}及び所定のK個の周波数{f1,f2,...,fk,...,fK}の組はいずれも、サンプリング関数DK(t)を構成するために用いられる対応する係数及び周波数の組と同じ要素を有する。
【0057】
例示するために、8つの連続した高調波を結合することによって得られる直交サンプリング関数H8(t)の形状を図5に示す。ここで、H8(t)は以下の通りである。
【0058】
【数13】

【0059】
上記の直交サンプリング関数は、図2に示すサンプリング関数D8(t)のヒルベルト変換であることに留意されたい。
【0060】
上記の直交サンプリング関数は、使用される最も低い周波数の周期1/(2π)に等しい時間間隔(−π,π)内においてカーネルγ(t)を近似する。関数の適切な区間を選択するために、時間間隔(−π,π)にわたって、そのサンプリング関数に単位振幅時間ゲートg(t)を乗算する。
【0061】
本発明のさらなる態様によれば、パルスx(t)に関連付けられる直交信号y(t)の時刻tiにおけるサンプル、すなわち値y(ti)は、手順2を実行することによって求められる。
手順2:
1.K個の所定の周波数f1、f2、...、fk、...、fKの組から第1の周波数fkを選択し、以下の形の高調波正弦信号(harmonic sinusoidal signal)を生成する。
【0062】
【数14】

【0063】
ここで、θik=2πfkiは初期位相である。
2.パルスx(t)と高調波信号sk(ti)にゲートをかけた信号とを乗算し、結果として生成された信号を積分して、値Sk(ti)を得る。
3.K個の周波数のそれぞれが利用されるまでステップ1と2を繰り返し、そのような演算を繰り返す結果として、以下に示すK個の値の組が生成される。
1(ti)、S2(ti)、...Sk(ti)、...SK(ti
4.そのようにして得られた値を利用して、以下のような線形結合を形成する。
【0064】
【数15】

【0065】
ここで、{a1,a2,...,ak,...,aK}はK個の所定の係数の組である。
5.上記の結合を、検査中のパルスx(t)に関連付けられる直交信号y(t)におけるサンプルy(ti)の推定値として用いる。
【0066】
パルスx(t)に関連付けられる直交信号y(t)の適切な表現{y(t1),y(t2),...y(ti),...y(tI)}を得るために、手順2がI個の時刻ti毎に繰り返されなければならないのは明らかであろう。ただし、i=1,2,...,Iである。
【0067】
本発明の開示される態様のさらなる際立った利点は、基になるパルスx(t)を実際にサンプリングすることによって、直交信号y(t)の「瞬時」サンプルを生成する潜在能力からもたらされる。これらのサンプルは、コストがかかる超高速サンプリング回路や複雑なディジタル信号処理を用いることなく求められる。直交信号の各「瞬時」サンプルは、持続時間T全体にわたって求められる元のパルスx(t)の種々の平均値を適切に結合することによって得られる。
【0068】
手順1と手順2は同じような構造を有するが、対応する時間インデックス{1,2,...,j,...,J}と{1,2,...,i,...,I}は大きく異なる。この相違は、サンプリング関数DK(t)と直交サンプリング関数HK(t)の形状が異なることからもたらされる。サンプリング関数DK(t)は1つのインパルスを近似し、それゆえ、短い時間間隔内に集中する。それに対して、直交サンプリング関数HK(t)の時間的な広がりは、意図的に広くしている(図22及び図25を比較されたい)。サンプリング関数DK(t)とHK(t)の時間スケールが著しく異なるため、手順1と2を同時に実行するのは実際には非常に難しい作業になる。しかしながら、同じ時刻において基になるパルス及び関連付けられる直交信号のサンプリングを実行することには利点があろう。それゆえ、この目的を果たすために、別の2つのサンプリング関数を考案する必要がある。
【0069】
本発明のさらに別の態様によれば、サンプリング関数DK(t)とHK(t)を用いて、2つの新たなサンプリング関数AK(t)及びBK(t)を構成する。サンプリング関数AK(t)とBK(t)は、以下のように定義される。
【0070】
【数16】

【0071】
図6、図7は、上記で検討された関数D8(t)とH8(t)から得られ、適切な単位振幅時間ゲートを乗算した2つの新たなサンプリング関数A8(t)及びB8(t)を示す。図示されるように、2つの形状は互いの鏡像であり、それゆえ、同じ時間スケールを有する。
【0072】
結果として、開示される構成は、以下の形の2つの新たなサンプリング関数AK(t)及びBK(t)を生成する。
【0073】
【数17】

【0074】
新たなサンプリング関数AK(t)及びBK(t)は、元のサンプリング関数DK(t)及びHK(t)をπ/4だけ回転させた結果と見ることができる。
【0075】
本発明のさらに別の態様によれば、2つの新たなサンプリング関数AK(t)及びBK(t)を用いて、基になるパルスx(t)をサンプリングして、その2つの像(表現)であるu(t)及びv(t)のサンプルを得る。これらの像は、互いに直交しており、パルスx(t)の包絡線z(t)の形状を保持する。すなわち、以下のようになる。
【0076】
【数18】

【0077】
結果として、形状及び平均位置を含む、元のパルスx(t)の全ての記述子を、通常の方法で求めることができる。
【0078】
さらに、以下に示す新たな位相関数Ψは、元の位相関数φ(t)を定数π/4だけシフトしたものになる。
【0079】
【数19】

【0080】
基になるパルスx(t)の2つの表現u(t)及びv(t)の時刻tjにおけるサンプル、すなわち値u(tj)及びv(tj)は、手順3を実行することによって求められる。
手順3:
1.K個の所定の周波数f1、f2、...、fk、...、fKの組から第1の周波数fkを選択し、以下の形の2つの高調波余弦波信号を生成する。
【0081】
【数20】

【0082】
ここで、θjk=2πfkjは初期位相である。
2.パルスx(t)と、2つの高調波信号c1k(tj)及びc2k(tj)にゲートをかけた信号とをそれぞれ乗算して、結果として生成された2つの信号をそれぞれ積分して、2つの値、Uk(tj)及びVk(tj)を得る。
3.K個の周波数のそれぞれが利用されるまでステップ1と2を繰り返し、そのような演算を繰り返す結果として、以下に示す(2K)個の値の組が生成される。
1(tj)、U2(tj)、...Uk(tj)、...UK(tj
1(tj)、V2(tj)、...Vk(tj)、...VK(tj
4.パルスx(t)を積分して、定数値C0を得る(パルスx(t)がDC(直流)成分を含まない場合には、このステップは不要である)。
5.以下のような2つの線形結合を形成する。
【0083】
【数21】

【0084】
ここで、{a0,a1,a2,...,ak,...,aK}は(K+1)個の所定の係数の組である。
6.上記の結合を、解析されるパルスx(t)の2つの表現u(t)及びv(t)におけるサンプルu(tj)及びv(tj)のそれぞれの推定値として用いる。
【0085】
基になるパルスx(t)の2つの「像」u(t)及びv(t)の適切な表現
{u(t1),u(t2),...,u(tj),...,u(tJ)}
{v(t1),v(t2),...,v(tj),...,v(tJ)}
を得るために、手順3はJ個の時刻tj毎に繰り返されなければならないのは明らかであろう。ただし、j=1,2,...,Jである。
【0086】
図8は、本発明に従って構成されるパルスアナライザ(PAN)1の機能ブロック図である。このアナライザPANは上記で開示された手順3を実装する。
【0087】
このシステムは、信号調節回路(SCC)3と、光ファイバ再循環ループ(RCL)5と、第1の混合器(MXC)7aと、第2の混合器(MXS)7bと、第1の積分器(AVC)9aと、第2の積分器(AVS)9bと、ダイレクトディジタルシンセサイザ(DDS)11と、演算ユニット(ARM)13と、タイミング/制御ユニット(TCU)15とを備える。
【0088】
信号調節回路3は、入力XXにおいて過渡的に現れる単一のパルスx(t)を捕捉し、そのパルスを再循環ループ5に送る。再循環ループはこのパルスを再生し、パルスx(t)の複数のレプリカを含むパルス列を出力XRにおいて生成する。また、再循環ループ5は、パルスレプリカのそれぞれに先行して、同期信号SNも生成する。
【0089】
パルス列を構成する同一のパルスのそれぞれは、2つの混合器(マルチプレクサ)7a及び7bに並列に入力される。混合器入力のもう一方は、ダイレクトディジタルシンセサイザ11によって供給されるそれぞれの余弦波信号C1及びC2によって駆動される。混合器7aは以下の形の信号C1を受信する。
【0090】
【数22】

【0091】
それに対して、混合器7bは以下の信号C2によって駆動される。
【0092】
【数23】

【0093】
上記の式において、fkはK個の所定の周波数f1、f2、...、fk、...、fKの組から選択される周波数であり、初期位相は以下の式から求められる。
【0094】
【数24】

【0095】
ここで、tjは、サンプルが取り込まれる時刻である。
【0096】
混合器7a及び7bによって供給される出力信号は、それぞれの入力PC及びPSを介して2つのゲート積分器9a及び9bにそれぞれ適用される。積分器9は、タイミング/制御ユニット15によって供給される時間ゲートGTによって決定される時間間隔中に、それらの入力信号PC及びPSの積分を実行する。その後、積分器9によって生成された値AC及びASが演算ユニット13に送られる。
【0097】
演算ユニット13は、J個の所定の時刻t1、t2、...、tj、...、tJ毎に所定の周波数f1、f2、...、fk、...、fKの組について生成される入力値AC及びASを用いて、パルス形状、その包絡線z(t)、及び位相関数Ψ(t)を求める。また、必要に応じて、平均時間位置、時間領域における広がり等の他の関心のあるパラメータを求める。演算ユニット13は、実際の周波数fk及び時刻tjを正確に特定するために、タイミング/制御ユニット15から入力FTを介して、周波数インデックスf及び時刻インデックスjを受信する。
【0098】
ダイレクトディジタルシンセサイザ11は、正確な周波数fk及び位相θjkを設定するために用いられる2つの制御信号FR及びPHに応答して、混合器7a及び7bにおいて必要とされる2つの信号C1及びC2を生成する。
【0099】
一般に、再循環ループ5は、入力過渡パルスx(t)の(J・K)個の同一のレプリカを生成しなければならない。たとえば、使用される周波数の数Kが32であり、時刻の数Jも32である場合には、ループ5は、1032個のレプリカを供給しなければならない。これは現実的な要件である。たとえば、Yan Yin著「Beam Diagnostics with Optical-Fibre Optics」(Proc. 2005 Particle Accelerator Conf. Knoxville, pp. 3040-30-42, May 2005)において記述されるシステムは、2kmの長い光ファイバループを用いて3000個のレプリカを生成することができる。同じく以下の文献も参照されたい。
− Ming-Chiang Li「RF Signal Train Generator and Interferoceivers」(米国特許第RE37,561号 2002年2月26日)
− Yan Yin「Method and Device for Measuring Single-Shot Transient Signals」(米国特許第6,738,133号 2004年5月18日)
− Yan Yin及びXiuge Che「New Developments on Single-Shot Fibre Scope」(Proc. 2006 European Particle Accelerator Conf., Edinburgh, pp. 1253-1255, 2006)
【0100】
再循環ループを用いる代わりに、単一のパルスを分配して、複数の並列の処理チャネルに入力することもできる。
【0101】
本発明の好ましい実施形態のこれまでの説明は、例示及び説明のために提示されてきた。それは、網羅的であることも、本発明を開示されるのと全く同じ形に限定することも意図していない。これまでの説明に鑑みて、数多くの改変、変更、及び変形を加えることによって、当業者が意図する特定の用途に合わせて本発明を種々の実施形態において利用できるようになることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのパルス又はパルスの反復ストリームをサンプリングするためのパルスアナライザであって、
1つのパルスに1組の基底関数を乗算して、複数の乗算されたパルス関数を生成するように動作可能な乗算手段と、
前記乗算されたパルス関数を結合して1つのパルスサンプルを生成するように動作可能な合成器とを備え、
該合成器は、前記パルスの持続時間に実質的に対応する積分区間にわたる少なくとも1つの積分演算と、少なくとも1つの加算演算とを実行するように動作可能であり、
前記基底関数は、前記合成器の出力が前記積分区間よりも短いサンプル時間間隔において1つのパルスサンプルに対応するようにする関数である、パルスアナライザ。
【請求項2】
前記基底関数は、前記パルスアナライザが、実質的に、前記サンプル時間間隔の中心のタイミングにおいて前記パルス又は前記パルスの反復ストリームとデルタ関数を近似したものとを乗算するように選択される、請求項1に記載のパルスアナライザ。
【請求項3】
前記デルタ関数は、解析的デルタ関数である、請求項2に記載のパルスアナライザ。
【請求項4】
前記デルタ関数は、ディラックデルタ関数の近似に対応する成分と、該ディラックデルタ関数のヒルベルト変換の近似に対応する成分とを有する、請求項2又は3に記載のパルスアナライザ。
【請求項5】
前記デルタ関数は2つの成分を有し、各成分は、ディラックデルタ関数の近似と該ディラックデルタ関数のヒルベルト変換の近似とのそれぞれ異なる結合に対応する、請求項2又は3に記載のパルスアナライザ。
【請求項6】
前記2つの成分は、鏡像を成す一対のサンプリング関数を形成する、請求項5に記載のパルスアナライザ。
【請求項7】
前記基底関数は、前記パルスアナライザが、実質的に、前記パルス又は前記パルスの反復ストリームと前記サンプル時間間隔の中心におけるデルタ関数のヒルベルト変換の近似とを乗算するように選択される、請求項1に記載のパルスアナライザ。
【請求項8】
前記合成器は、前記積分区間にわたって前記乗算されたパルス関数のそれぞれを積分して複数の積分値を生成すると共に、該複数の積分値についての加算演算を実行するように動作可能である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のパルスアナライザ。
【請求項9】
前記加算演算は、重み付き加算を含む、請求項6に記載のパルスアナライザ。
【請求項10】
単一のパルスを捕捉してパルスの反復ストリームを生成するように動作可能な信号調節器をさらに備え、
該パルスの反復ストリームにおける各パルスは、前記捕捉されたパルスのレプリカである、請求項1〜9のいずれか一項に記載のパルスアナライザ。
【請求項11】
前記信号調節器は、再循環ループを備え、
該再循環ループは、捕捉されたパルスを受信するための入力と、前記パルスの反復ストリームを出力するための出力とを有する、請求項10に記載のパルスアナライザ。
【請求項12】
前記入力は、電気パルスを対応する光パルスに変換するように動作可能であり、
前記再循環ループは、光ファイバのループ及び増幅器を備え、
前記出力は、前記光ファイバループ内を循環する光信号を対応する電気信号に変換する手段を備える、請求項11に記載のパルスアナライザ。
【請求項13】
前記基底関数は、それぞれの異なる周波数で振動する信号である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のパルスアナライザ。
【請求項14】
前記パルスアナライザは、複数の異なるタイミングにおいて前記パルス又は前記パルスの反復ストリームをサンプリングし、前記パルスの包絡線関数を生成するように動作可能である、請求項1〜13のいずれか一項に記載のパルスアナライザ。
【請求項15】
前記パルス包絡線から前記パルスの特性を求める手段をさらに備える、請求項14に記載のパルスアナライザ。
【請求項16】
前記パルス包絡線関数に基づいて前記パルスのタイミングを求める手段をさらに備える、請求項15に記載のパルスアナライザ。
【請求項17】
前記パルスのタイミングを求める手段は、前記包絡線関数に基づいて、前記パルスの平均タイミング、中央値タイミング、及びモードタイミングのうちの少なくとも1つを計算する、請求項16に記載のパルスアナライザ。
【請求項18】
パルスと複数の関数とを乗算して積分区間にわたって積分することによって該パルスのサンプルを生成するパルスアナライザであって、
前記複数の関数は、前記積分区間よりも短い時間間隔にわたるサンプリング関数を形成する、パルスアナライザ。
【請求項19】
パルスを解析する方法であって、
該パルスの持続時間内における複数の時刻毎に1つのサンプル値を導出することによって、前記パルスに解析用関数を適用することを含み、
前記サンプル値のそれぞれは、前記パルスと、各時刻における前記解析用関数におけるバージョンの複数の各スペクトル成分とを組み合わせ、前記パルス持続時間の少なくとも大部分にわたって積分した結果の結合を導出することによって導出される、パルスを解析する方法。
【請求項20】
前記パルスに第1の解析用関数及び第2の解析用関数を適用することを含み、前記第1の関数及び第2の関数は直交(orthogonal)するか、又は直交する成分(orthogonal components)を有する、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−539466(P2010−539466A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524568(P2010−524568)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003095
【国際公開番号】WO2009/034337
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(501253316)ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ (77)
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】20 Frederick Sanger Road, The Surrey Research Park, Guildford, Surrey GU2 5YD, Great Britain