説明

パルスESR装置

【課題】位相やパワーレベルを多彩に変調した測定を行うことが可能で、安価に構成可能なパルスESR装置を提供する。
【解決手段】周波数frfの高周波IFを発生する発振周波数と位相を数値制御可能な第1の発振器と、高周波IFをパルス化し高周波パルスを作成する変調回路と、周波数fmwの高周波LOを発生する第2の発振器と、高周波IFと高周波LOを混合し、その和又は差の周波数fesrの高周波パルスRFを取り出す混合回路と、試料を収容して静磁場中に配置されると共に、高周波パルスRFが供給されるESR共振器と、高周波パルスRF供給後ESR共振器から発生する共鳴信号に高周波LOを混合し共鳴信号を取り出す復調回路と、復調回路から取り出された共鳴信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、AD変換器から得られたデジタル共鳴信号を高周波IFを参照信号として直交検波し、ESR共鳴信号のリアル成分信号とイマジナリー成分信号を取り出すデジタルクォドラチャ検波回路とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子スピン共鳴(ESR)装置に関し、特にパルスESR測定に用いられる装置として、極めて安価に構成可能なパルスESR装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ESR装置は、試料を静磁場(主磁場)内に配置することによりゼーマン分裂させた試料中の不対電子が、特定の周波数のマイクロ波を吸収し、高いエネルギー準位へと遷移する電子スピン共鳴現象を、吸収されるマイクロ波を通して観測する装置である。
【0003】
図3は、特開平6−222121号公報に開示されているパルスフーリエ変換ESR装置の構成を示す図である。図において1は静磁場を発生する磁石である。この静磁場内には、試料が挿入された空胴共振器2が配置されている。この空胴共振器2には、例えばガン発振器などのマイクロ波発振器3から発生したマイクロ波が、方向性結合器4,マイクロ波ゲート5,マイクロ波増幅器6,サーキュレータ7を介してパルス的に供給される。試料の電子スピン共鳴によるマイクロ波エネルギーの吸収に基づいて発生する空胴共振器からの反射マイクロ波は、サーキュレータ7及びゲート8を介して取り出され、アッテネータ9,マイクロ波増幅器10を介してクォドラチャ(Quadrature)検波器11へ供給される。
【0004】
このクォドラチャ検波器11は、前記方向性結合器4から分岐されたマイクロ波を参照信号としてクォドラチャ検波(直角位相検波)を行い、得られた実/虚2種の信号成分は、A−D変換器12,13を介して処理装置14へ格納された後、フーリエ変換などの処理を受ける。
【0005】
15は関数発生器で、発生された時間関数信号は前記アッテネータ9へ減衰率制御信号として供給される。16は関数発生器で発生し得る各種の時間関数を記憶したメモリで、その中の一つを選択して前記関数発生器15にセットすることにより、所望の時間関数信号を発生することができる。17は装置全体のタイミング制御を行う制御部で、ゲート5,8のON−OFFを制御するゲート信号、増幅器6を制御する制御信号、及びA−D変換器12,13の信号取り込みを制御するタイミング信号を発生する。
【0006】
上記構成において、発振器3から発生したマイクロ波は、所定のタイミングで短時間開かれるゲート5によってマイクロ波パルスとして取り出され、増幅器6を介して十分な電力まで増幅されてサーキュレータ7を介して空胴共振器2へ供給される。このマイクロ波パルス磁場により励起されたスピン系からのFID信号は、マイクロ波パルス後開かれるゲート8を介して取り出され、アッテネータ9,マイクロ波増幅器10を介してクォドラチャ検波器11へ供給される。そして、クォドラチャ検波器11は前述のように、クォドラチャ検波を行い、得られた実/虚2種の信号成分は、A−D変換器12,13を介して処理装置14へ格納された後、フーリエ変換処理を受け、その結果、ESRスペクトルが得られる。
【0007】
なお、実際の装置では、マイクロ波パルスの電力を高速に切り替えることと、マイクロ波パルスの高周波位相を90°異なる4種類の位相から選択して照射することが必要になるため、例えば図4に示すような構成を持つ、パワーレベル切替回路18と、4位相切替回路19が、方向性結合器4とゲート5の間に配置される。
【0008】
図4において、パワーレベル切替回路18は、入力部分と出力部分にそれぞれマイクロ波高速スイッチ18−1、18−4を有し、2つのスイッチを同期して切り替えることにより、マイクロ波をそのまま取り出すスルーチャンネルと、マイクロ波可変減衰器18−2と位相調整器18−3を通過させて取り出す減衰チャンネルの2つのチャンネルを選択することが出来る。
【0009】
前記4位相切替回路19は、マイクロ波高速スイッチ19−1とマイクロ波位相調整器19−2とマイクロ波可変減衰器19−3を直列接続したチャンネルを4チャンネル並列に接続した構成を有し、通常は、各チャンネルから0°、90°、180°、270°と90°ずつ位相のズレたマイクロ波出力が得られるように、各位相調整器が調整され、かつ各チャンネルのパワーレベルが一定になるように、各可変減衰器の調整がなされる。そして、いずれかのスイッチをオンにすることにより、4種類の位相から任意のものを選択的して取り出すことが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−222121号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Chemical Physics Letters, Volume 132, Issue 3, Pages 279-282 (1986).
【非特許文献2】Journal of Magnetic Resonance, Volume 130, p.86 (1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図3及び図4に示したような、従来のパルスESR装置では、マイクロ波発振器から発生したマイクロ波を、導波管を主体としたマイクロ波部品を使って測定部に導き、測定部に置かれた試料にマイクロ波を照射すると同時に、試料から発生するESR信号を、導波管を主体としたマイクロ波部品を使って検出部に導き、検出器で検出していたため、大型で重い導波管を始め、移相器や増幅器や減衰器やパルサーなど、数多くのマイクロ波用アナログ部品の使用に由来する、パルスESR装置の大型化とコスト高という問題が避けられなかった。加えて、以下の6点において、測定上の煩雑さや性能不足が指摘できる。
【0013】
(1)高周波パワーレベルの切り替えの自由度不足
例えばHYSCORE(非特許文献1)と呼ばれるパルスシーケンス測定を行なう場合、図5に示したような、π/2パルス−時間(τ)−π/2パルス−時間(t1)−πパルス−時間(t2)−π/2パルスのパルス列を照射することになる。このとき、図に示した3番目のπパルスは、通常π/2と同じパルス幅か、それ以下の幅のパルスを必要とする。パルス幅が短いままで、πラジアンの角度に電子スピンを回転させなくてはならないので、4倍以上の入力パワーレベルを必要とする。
【0014】
一般的なESR測定は、磁場にして300mT以上、共鳴周波数にして、Xバンド帯以上の高周波で行なう。このようなマイクロ波〜ミリ波領域の回路では、高周波位相を保持したままマイクロ波パルスのパワーレベルを任意かつ高速に切り替えることが必要とされ、そのために図4に示したようなパワーレベル切替回路18が用いられている。
【0015】
実際、図5に示したHYSCOREのシーケンス測定を実行するには、π/2パルスを発生させる場合は−6dB側のチャンネルを通過させ、πパルスを発生させる場合はスルーのチャンネルを通過させるように、高速スイッチが切り替えられる。このようにして、励起帯域幅が同じで、フリップ角の異なるパルスを作り出すことが可能である。
【0016】
このようなパワーレベル切替回路の問題点は、パワーレベルを更に多段階に切り替えたいときに、必要なパワーレベルごとに、マイクロ波可変減衰器18−2と位相調整器18−3の部品を有するチャンネルと、チャンネル数に応じた高速スイッチを増設しなければならない。これには、以下に示す3つの問題点がある。
(a)常に決められたパワーレベルしか選べない。したがって、利便性が損なわれる。
(b)パワーレベルのチャンネルを増設するごとに、減衰量と位相を調整しなければならない。これにより、調整にかかる作業時間と、部品増設コストがかかる。
(c) チャンネル数が多くなるほどチャンネルを切り替えるための高速スイッチの数が増加し、スピードの劣化と価格の上昇をまねく。
【0017】
(2)位相切り替え回路の調整の煩雑さ
図4の位相切替回路19には、以下の問題点がある。
(a)位相チャンネルごとに減衰量と位相を調整しなければならない。通常マイクロ波以上の高周波回路では、機械式に電気長を調整する場合が多く、再現性の確保も困難であることが多い。
(b)マイクロ波位相調整器19−2は、原理的に電気長を固定してしまうので、測定周波数の変化によって、微妙な位相チャンネル間のズレが生まれる。現状は、ある程度の誤差を許容するしかない。
【0018】
(3)位相チャンネルの自由度不足
位相を90°ステップから更に多段階に変化させるために、位相チャンネルを増やそうとすると、前述のパワーレベル切替回路と同様のコストと性能劣化の問題が生じ、4段階よりも多段階にすることは困難である。
【0019】
(4)位相変調測定の困難さ
たとえば、図6に示したような、パルスシーケンスによる測定を実行しようとするとき、問題が生じる。図6に示したシーケンスは、“PEANUT”(非特許文献1)と呼ばれるNUTATION測定の例である。この測定は2つのパルス印加の後のエコー信号を測定するが、2番目のπパルスに相当する時間領域を2分割し、前半では位相角Xとし、後半では180度反転した位相角−Xを適用するという測定方法である。
【0020】
図4の位相切替回路19では、位相角Xと−Xを発生できるので、対応可能であるが、応用測定として、Xと−Xを任意の位相角度に設定したり任意の角度でステップさせたりしようとすると、現実的に不可能となる。
【0021】
(5)Quadrature検波回路の精度と調整再現性の困難さ
検波によりFID(Free Induction Delay)信号やエコー信号の形でESR信号を取り出すために、通常は“QIFM(Quadrature Intermediate Frequency Mixer)”と呼ばれる半導体検波器によって、Quadrature検波(直角位相検波)が採用される。マイクロ波帯以上のQIFMは、半導体を用いたアナログ回路であるがゆえに、検波の直交性の精度が懸念される。また、0°と90°の検波出力の位相調整を高周波のアナログ位相調整器によって調整しなければならないので、再現性の確保にも困難さがともなう。
【0022】
(6)ESR共振器の共振周波数が試料から受ける影響の多さ
ESR装置では、空洞共振器やループギャップ共振器に試料を挿入して、試料にマイクロ波磁界を印加している。しかし、試料の形状や性質の影響から、共振器の共振周波数は試料に依存して大きく変化する。そのため、試料のESRを測定するためには、NMR測定の場合には必要のなかった、発振器の発振周波数を大きく変更することができるような特殊なチューニング機構が求められる。
【0023】
本発明は、上記したような問題を解決し、多彩な変調操作を伴ったESR測定を可能にすることを目的になされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この目的を達成するため、本発明にかかるパルスESR装置は、周波数frfの高周波を発生する発振周波数と位相を数値制御可能な第1の発振器と、第1の発振器からの周波数frfの高周波をパルス化し高周波パルスを作成する変調回路と、周波数fmwの高周波を発生する第2の発振器と、前記変調回路からの周波数frfの高周波パルスと前記周波数fmwの高周波を混合し、その和又は差の周波数fesrの高周波パルスを取り出す混合回路と、試料を収容して静磁場中に配置されると共に、前記混合回路から得られた周波数fesrの高周波パルスが供給されるESR共振器と、前記周波数fesrの高周波パルス供給後前記ESR共振器から発生するESR共鳴による変調をうけた共鳴信号に前記周波数fmwの高周波を混合し共鳴信号を取り出す復調回路と、前記復調回路から取り出された共鳴信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、AD変換器から得られたデジタル共鳴信号を前記周波数frfの高周波を参照信号として直交検波し、ESR共鳴信号のリアル成分信号とイマジナリー成分信号を取り出す第1のデジタルクォドラチャ検波回路と、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明のパルスESR装置によれば、周波数frfの高周波を発生する発振周波数と位相を数値制御可能な第1の発振器と、第1の発振器からの周波数frfの高周波をパルス化し高周波パルスを作成する変調回路と、周波数fmwの高周波を発生する第2の発振器と、前記変調回路からの周波数frfの高周波パルスと前記周波数fmwの高周波を混合し、その和又は差の周波数fesrの高周波パルスを取り出す混合回路と、試料を収容して静磁場中に配置されると共に、前記混合回路から得られた周波数fesrの高周波パルスが供給されるESR共振器と、前記周波数fesrの高周波パルス供給後前記ESR共振器から発生するESR共鳴による変調をうけた共鳴信号に前記周波数fmwの高周波を混合し共鳴信号を取り出す復調回路と、前記復調回路から取り出された共鳴信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、AD変換器から得られたデジタル共鳴信号を前記周波数frfの高周波を参照信号として直交検波し、ESR共鳴信号のリアル成分信号とイマジナリー成分信号を取り出す第1のデジタルクォドラチャ検波回路とを備えたので、
(1)高周波パワーレベルの切り替えの自由度不足、
(2)位相切り替え回路の調整の煩雑さ、
(3)位相チャンネルの自由度不足、
(4)位相変調測定の困難さ、
(5)Quadrature検波回路の精度と調整再現性の困難さ、
(6)ESR共振器の共振周波数が試料から受ける影響の多さ、
の6つの問題を解決したパルスESR装置を提供することが可能になった。
【0026】
また、周波数frfの周波数をNMR測定に用いられるラジオ波周波数の範囲とすることにより、パルスNMR測定用の回路をパルスESR測定に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明にかかるESR装置の一実施例を示す図である。
【図2】本発明にかかるESR装置の別の実施例を示す図である。
【図3】従来のパルスESR装置の一例を示す図である。
【図4】パワーレベル切替回路の一例を示す図である。
【図5】HYSCOPE測定のパルスシーケンスの一例を示す図である。
【図6】位相変調を用いたパルスシーケンスの一例を示す図である。
【図7】本発明にかかるESR装置の別の実施例を示す図である。
【図8】本発明にかかる第3の実施例の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
[実施例1]
図1は、本発明にかかるパルスESR装置の第1の実施例を示している。本実施例は、次の(1)から(3)で示される3つの構成要素から成る。
【0029】
(1)図中21から27に相当する高周波回路
この高周波回路は、高周波LO(周波数fmw )を発生する高周波発振器21と入力用混合器(ダブルバランスド・ミキサー)22と、バンドパスあるいはノッチフィルターから成るフィルタ23と、高周波電力増幅器24と、サーキュレータ25と、高周波低ノイズ増幅器26と、出力用混合器(ダブルバランスド・ミキサー)27を備えている。
【0030】
すなわち、高周波発振器21から発振される高周波LO(周波数fmw )は、入力用混合器22と出力用混合器27の各LO入力端子に入力される。入力用混合器22では、このLO入力がもう一方の入力端子に入力される振幅・位相・周波数を制御された高周波IF(周波数frf )とミキシングされ、フィルタ23を介して周波数(fmw +frf)又は(fmw −frf)を取り出すことによりESR共鳴周波数fesrを持ったマイクロ波RFが得られ、このマイクロ波RFは高周波電力増幅器24、サーキュレータ25を介してESR共振器9へ供給される。
【0031】
電子スピン共鳴に伴ってESR共振器9から発生する共鳴信号(周波数fesr )は、高周波低ノイズ増幅器26を介して出力用混合器27に供給され、前記高周波発振器21からの高周波LO(周波数fmw )とミキシングされて、周波数frfの共鳴信号に変換される。
【0032】
(2)高周波IFの周波数/位相/振幅を制御するデジタル制御回路とデジタル復調回路デジタル制御回路は、ダイレクト・デジタル・シンセサイザー(DDS)回路を用いた任意の周波数を任意の位相で発生しうるデジタル発振器100と、ゲート101と、利得を高速可変できる高周波増幅器102とから構成される。デジタル復調回路は、出力用混合器27から得られる周波数frfの共鳴信号をデジタル信号に変換して検波するための、A/D変換器28およびデジタル・クォドラチャ検波器29から成る。
【0033】
デジタル発振器100は、波形記憶ROMを利用し読み出し周期及び位相を任意に変化可能なDDSチップなどを利用し、高周波出力周波数及び位相を数値的に制御することができる。デジタル発振器100が発生した周波数・位相の制御された高周波IFは、ゲート101によってパルス化され、高周波増幅器102によって適切な電力(パルス波高)に増幅されて、入力用混合器22に入力される。
【0034】
A/D変換器28は、出力用混合器27から出力される周波数frfの共鳴信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換し、このデジタル化された共鳴信号は、デジタル・クォドラチャ検波器29に送られる。デジタル・クォドラチャ検波器29は、デジタル発振器100からの周波数fmwの高周波に基づき、演算処理によって共鳴信号をデジタル・クォドラチャ(Quadrature)検波し、実数成分(Real成分)共鳴信号Reと虚数成分(Imaginary成分)共鳴信号Imを得る。
【0035】
(3)図中9〜11の磁場関連装置および制御装置
磁場関連装置は、マグネット電源11から供給される直流電流をマグネット10に供給して、試料を内部に収容したESR共振器9に静磁場を印加する。これにより、試料中の不対電子のエネルギー準位をゼーマン分裂させ、ESR共振器9で共振しているマイクロ波エネルギーによって不対電子が励起可能な状態にさせる。制御・処理装置110は、マグネット電源11を制御して所望強度の静磁場を発生させ、デジタル発振器100、ゲート101および高周波増幅器102を制御して所望の周波数frfと位相を持ち、所望のパルス幅およびパルス強度(波高)を持つ高周波パルスIFを発生させる。制御・処理装置110は、併せて、デジタル・クォドラチャ検波器29から得られた、実数成分(Real成分)共鳴信号Reと虚数成分(Imaginary成分)共鳴信号Imを取り込んで記憶し、積算、フーリエ変換などの所望の処理を行う。
【0036】
図1に示された以上の構成を持つ装置を用いて行われるパルスESR測定について説明する。
【0037】
1.高周波パルスの作成 高周波発振器21からの高周波LO(周波数fmw)とデジタル発振器100、ゲート101、高周波増幅器102からのパルス化された高周波IF(周波数frf)を混合器22によって混合し、生成される和および差周波数成分(fmw+frfとfmw−frf)の内いずれか所望の成分(例えばfmw+frf)をフィルター23を介して取り出し、ESR共鳴周波数(fesr=fmw+frf)を持つ高周波パルスRFを作成する。
【0038】
2.高周波パルスの照射 取り出された高周波パルスRFを高周波電力増幅器24で増幅し、増幅された高周波パルスRFをサーキュレータ25を介して共振器9に供給し、内部の試料にESR共鳴を生じさせる。
【0039】
3.受信および周波数変換 共振器9から発生したESR共鳴による変調を受けた共鳴信号(周波数fesr)は、サーキュレータ25を介して取り出され、低ノイズアンプ26で信号増幅された後、出力用混合器27において高周波信号LO(周波数fmw)と混合され、周波数frfの共鳴信号として出力される。
【0040】
4.検波および格納 この周波数frfの共鳴信号は、A/D変換器28でデジタル変換され、デジタルクォドラチャ検波回路29によって前記発振器100からの周波数frfの高周波を参照波としてクォドラチャ検波される。これにより時間領域のESR信号(Real成分とImaginary成分の2つの信号)が得られ、得られたとESR信号Re,Imは、制御・処理装置110に取り込まれる。
【0041】
5.ESRスペクトルの取得 制御・処理装置110により、ESR信号Re のフーリエ変換処理を行なうと、ESRの周波数領域の吸収スペクトルを得る。また、ESR信号Imのフーリエ変換処理を行なうと、ESRの周波数領域の分散スペクトルを得る。
【0042】
以上のような測定工程の内、高周波パルスの作成工程において、マイクロ波の周波数、位相、パワーレベルとパルス幅の制御は、すべて発振器100,ゲート101,電力増幅器102によりなされる。つまり、高周波信号の調整は、デジタル制御の容易な中間周波数IF帯域(例えばラジオ波など、マイクロ波よりも低い周波数帯域)においてなされるので、高価なマイクロ波用アナログ部品を用いる必要がなく、デジタル制御用の安価な汎用高周波部品を用いることができる。
【0043】
このため、大型で重い導波管を始め、移相器や増幅器や減衰器やパルサーなど、数多くのマイクロ波用アナログ部品を使用していた図3及び図4に示したような従来のパルスESR装置に比べ、大幅なコストダウンが図れると共に、位相やパワーレベルを多彩に変調した測定を行うことの可能なパルスESR装置が提供される。
[実施例2]
図2は、第2の実施例の構成を示し、パルスESR測定モードと連続波ESR測定(CW−ESR測定)モードの切り替え機能を備えたパルスESR装置の例である。図2において、図1と同じ構成要素には同一番号を付し、説明は省略する。本実施例の装置が図1の装置と異なるのは、以下の構成である。
【0044】
(1)CW−ESR測定モード用AM変調手段
CW−ESR測定モードにおいては、パルスESRモードでは不要だった静磁場変調、もしくはCW−マイクロ波のAM変調(振幅変調)を行なう必要があり、その目的のため、例えば100kHz程度の変調信号を発生する発振器50と、この変調信号が切り替えスイッチ51を介して供給される静磁場変調手段およひマイクロ波振幅変調手段を備えている。これらの変調手段は、パルスESR測定モードの際にはOFFされる。
【0045】
前記静磁場変調手段は、切り替えスイッチ51を介して変調信号が供給される静磁場変調回路52と、静磁場内に配置され静磁場変調回路52から変調信号が供給される変調コイル53とから構成される。
【0046】
マイクロ波振幅変調手段は、高周波増幅器102の後段に配置され、切り替えスイッチ51を介して変調信号が供給されるAM変調回路53から構成される。
【0047】
(2)CW−ESR測定モード用クォドラチャ検波回路
CW−ESR法で測定された共鳴信号には、変調信号(例えば100kHz)による変調が重畳されているので、クォドラチャ検波回路29によるクォドラチャ検波後に得られるReal信号ReとImaginary信号Imを、それぞれ100kHzなどの参照波で再びクォドラチャ検波して、前記Real信号ReとImaginary信号Imの各々に対して、100kHzの変調に対する復調を行ってそれぞれ0°/90°位相成分を取り出す必要がある。
【0048】
このため、Real信号Reが供給されるクォドラチャ検波回路56とImaginary信号Imが供給されるクォドラチャ検波回路57が設けられている。各クォドラチャ検波回路には、発振器50からの100kHzの変調信号が参照波として供給される。また、Real信号Re とImaginary信号Imを、パルスESR測定モードの際には制御・処理装置110へ送り、CW−ESR測定モードの際にはクォドラチャ検波回路56とクォドラチャ検波回路57へ送るための切り替えスイッチ54,55が設けられている。クォドラチャ検波回路56による検波によって得られるRe(0°) ,Re(90°)とクォドラチャ検波回路57による検波によって得られるIm(0°) ,Im(90°)は、それぞれ制御・処理装置110へ送られて格納される。
【0049】
このとき、クォドラチャ検波回路56から得られた0°位相成分の出力Re(0°)が、従来法で取得されるCW−ESRスペクトル(吸収波形)に相当する。
【0050】
図2に示された以上の構成を持つ装置を用いて行われるCW−ESR測定について説明する。まず、最も一般的な磁場変調方式のCW−ESR測定の場合について説明する。
【0051】
1.静磁場の変調 スイッチ51を静磁場変調回路52側に倒し、発振回路50からの変調信号(変調周波数:例えば100kHz)が静磁場変調回路52に供給されるようにする。この結果、静磁場変調装置52から、例えば100kHzの交流電流が磁場変調コイル53に供給されることにより、マグネット10が作る静磁場の上に、磁場変調コイル53が作る変調磁場が重畳される形となる。その結果、静磁場が変調されているので、観測されるESR信号もまた、静磁場の変調を受けて、例えば100kHzで変調されたものとなる。
【0052】
2.連続高周波の作成 ゲート101を常時開にすることにより、デジタル発振器100、ゲート101、高周波増幅器102、AM変調回路53(動作せず)から一定振幅の連続高周波IF(周波数frf)を取り出し、この連続高周波IFと高周波発振器21からの高周波LO(周波数fmw)とを混合器22によって混合し、生成される和および差周波数成分(fmw+frfとfmw−frf)の内いずれか所望の成分(例えばfmw+frf)をフィルター23を介して取り出し、ESR共鳴周波数(fesr=fmw+frf)を持つ連続高周波RFを作成する。
【0053】
3.連続高周波の照射 取り出された連続高周波RFは、高周波電力増幅器24で増幅された後サーキュレータ25を介して共振器9に供給され、静磁場と相まって内部の試料にESR共鳴を生じさせる。
【0054】
4.受信および周波数変換 共振器9から発生したESR共鳴による変調および磁場変調による変調を受けた共鳴信号(周波数fesr)は、サーキュレータ25を介して取り出され、低ノイズアンプ26で信号増幅された後、出力用混合器27において高周波信号LO(周波数fmw)と混合され、周波数frfの共鳴信号として出力される。
【0055】
5.最初のクォドラチャ検波 この周波数frfの共鳴信号は、A/D変換器28でデジタル変換され、デジタルクォドラチャ検波回路29によって前記発振器100からの周波数frfの高周波を参照波としてクォドラチャ検波される。これにより100kHzで変調を受けたESR信号(Real成分ReとImaginary成分Imの2つの信号)が得られる。
【0056】
6.2回目のクォドラチャ検波および格納 得られたESR信号Re,Imは、100kHzの変調信号が参照波として供給されているクォドラチャ検波回路56,57にスイッチ56,57を介して送られ、クォドラチャ検波される。クォドラチャ検波回路56から得られる検波出力Re(0°) ,Re(90°)とクォドラチャ検波回路57による検波によって得られるIm(0°) ,Im(90°)は、それぞれ制御・処理装置110へ送られて格納される。
【0057】
7.磁場掃引 以上は、ある静磁場強度でのESR信号の瞬時値(DC成分)であり、ESRスペクトルを取得するため、制御・処理装置110は、マグネット電源11を制御して静磁場強度を所定の範囲にわたり掃引すると共に、掃引に連動して検波出力Re(0°) ,Re(90°) ,Im(0°) ,Im(90°)の格納を行う。掃引に伴って得られた一連の検波出力Re(0°)が、先に述べたように、従来法のCW−ESRスペクトルに相当する。従って、通常のCW−ESR測定を行なう上では、クォドラチャ検波回路56の検波出力Re(0°)を取り出せる構成のみを予め用意しておけば良い。
【0058】
次に、マイクロ波AM変調方式のCW−ESR測定の場合について説明する。この方式は、試料に磁場変動を与えた際の誘導電流による影響を避けたい測定法の場合(例えばEDMR(Electrically Detected Magnetic Resonance)測定などの場合)や、吸収波形型のESRスペクトルを得たい場合、あるいは100kHzよりも高い変調周波数を利用したい場合などに採用される。
【0059】
1.AM変調された連続高周波の作成 スイッチ51をAM変調回路53側に倒し、発振回路50からの変調信号(変調周波数:例えば100kHz)がAM変調回路53に供給されるようにする。そして、ゲート101を常時開にすることにより、デジタル発振器100、ゲート101、高周波増幅器102を介して取り出された連続高周波IF(周波数frf)は、AM変調回路53による振幅変調を受ける。この100kHzの振幅変調を受けた連続高周波IFと高周波発振器21からの高周波LO(周波数fmw)とが混合器22によって混合され、生成される和および差周波数成分(fmw+frfとfmw−frf)の内いずれか所望の成分(例えばfmw+frf)がフィルター23を介して取り出され、ESR共鳴周波数(fesr=fmw+frf)を持つ100kHzの振幅変調を受けた連続高周波RFが作成される。
【0060】
この方式では、ESR共鳴周波数(fesr=fmw+frf)を持つ連続高周波RFの振幅が100kHzで変調されるため、観測されるESR信号もまた、100kHzで変調されたものとなる。
【0061】
2.連続高周波の照射 取り出された100kHzで変調された連続高周波RFは、高周波電力増幅器24で増幅された後サーキュレータ25を介して共振器9に供給され、静磁場と相まって内部の試料にESR共鳴を生じさせる。
【0062】
3.受信および周波数変換 共振器9から発生したESR共鳴による変調および100kHzのの変調を受けた共鳴信号(周波数fesr)は、サーキュレータ25を介して取り出され、低ノイズアンプ26で信号増幅された後、出力用混合器27において高周波信号LO(周波数fmw)と混合され、周波数frfの共鳴信号として出力される。
【0063】
4.最初のクォドラチャ検波 この周波数frfの共鳴信号は、A/D変換器28でデジタル変換され、デジタルクォドラチャ検波回路29によって前記発振器100からの周波数frfの高周波を参照波としてクォドラチャ検波される。これにより100kHzで変調を受けたESR信号(Real成分ReとImaginary成分Imの2つの信号)が得られる。
【0064】
5.2回目のクォドラチャ検波および格納 得られたESR信号Re,Imは、100kHzの変調信号が参照波として供給されているクォドラチャ検波回路56,57にスイッチ56,57を介して送られ、クォドラチャ検波される。クォドラチャ検波回路56から得られる検波出力Re(0°) ,Re(90°)とクォドラチャ検波回路57による検波によって得られるIm(0°) ,Im(90°)は、それぞれ制御・処理装置110へ送られて格納される。
【0065】
6.磁場掃引 以上は、ある静磁場強度でのESR信号の瞬時値(DC成分)であり、ESRスペクトルを取得するため、制御・処理装置110は、マグネット電源11を制御して静磁場強度を所定の範囲にわたり掃引すると共に、掃引に連動して検波出力Re(0°) ,Re(90°) ,Im(0°) ,Im(90°)の格納を行う。掃引に伴って得られた一連の検波出力Re(0°)が、先に述べたように、従来法のCW−ESRスペクトルに相当する。
【0066】
図2に示された装置を用いてパルスESR測定を行なう場合には、スイッチ51をニュートラルにすることにより、発振器50からの変調信号がマグネット電源52とAM変調回路53のどちらにも供給されないようにし、併せてスイッチ54,55を制御・処理装置110側に倒し、デジタルクォドラチャ検波回路29の出力Real成分ReとImaginary成分Imの2つの信号が制御・処理装置110に送られるようにする。
【0067】
これにより、図1と実質的に同じ装置構成となるので、先に図1の装置について説明したのと全く同様にしてパルスESR測定を行なうことができる。
【0068】
以上のように、図2の構成を採用することにより、数多くのマイクロ波用アナログ部品を使用していた図3及び図4に示したような従来のパルスESR装置に比べ、大幅なコストダウンが図れると共に、位相やパワーレベルを多彩に変調した測定を行うことの可能なパルスESR装置であって、パルスESRモードだけでなくCW−ESRモードでの測定も可能なパルスESR装置が提供される。
[実施例3]
図7は、本発明にかかるパルスESR装置の第3の実施例を示している。本実施例では、図1の構成に、周波数f2の高周波信号を発生する第2のデジタル発振器200を加えると共に、このデジタル発振器200からの高周波信号をデジタル発振器100からの高周波信号に混合する混合器201と、混合器201の出力の内高い周波数成分をゲート回路101へ供給するハイパスフィルター202と、出力用混合器27とA/D変換器28との間に設けられ、出力用混合器27から出力される周波数frfの共鳴信号(アナログ信号)に、デジタル発振器200からの高周波信号を混合する混合器203とが設けられている。
【0069】
第2のデジタル発振器200は、200MHzあるいはそれ以上の周波数f2の高周波信号を発生させる回路で、ハイパスフィルター202は、例えば400MHz以上を通過させる通過域を持つものとする。
【0070】
図7において、第1のデジタル発振器100は、例えば200MHz程度の固定周波数(f1)を持ち位相を任意に高精度で指定可能な高周波信号を発生し、この高周波信号は、混合器201で第2のデジタル発振器200からの高周波信号(周波数f2)と混合される。
【0071】
混合器201の出力として、和成分f1+f2と差成分f2−f1の2つの周波数成分が発生し、このうち、f2−f1に相当する低い方の周波数成分がハイパスフィルター202により除去され、f1+f2に相当する高い方の周波数成分がゲート回路101及び高周波増幅器102を介してミキサー22に入力され、高周波発振器21からの高周波LO(周波数fmw )と混合される。
【0072】
たとえば、高周波信号LOの周波数fmwを9.0GHz、f1=200MHz、f2=200MHzとした時、f1+f2(=frf)は、400MHzとなり、ミキサー22からは、図8(a)に示すように、和成分fmw+frf=9.4GHzと、差成分fmw−frf=8.6GHzの2つの周波数成分が発生する。
【0073】
ここで、バンドバスフィルタ23の通過帯域は、ESRの測定範囲(例えば9.0〜9.6GHz)をカバーするように選定設計されているため、和成分の9.4GHzの方がバンドパスフィルター23からESR共鳴周波数fesrのマイクロ波RF(パルス)として取り出され、高周波電力増幅器24、サーキュレータ25を介してESR共振器9へ供給される。高周波信号LOの周波数fmwを8.6GHzから9.2GHzの間で設定すれば、前述したESRの測定範囲(9.0〜9.6GHz)のESR共鳴周波数fesrのマイクロ波RF(パルス)を作成することができる。
【0074】
このようにして作成されたESR共鳴周波数fesrのマイクロ波RF(パルス)をESR共振器9へ供給した後、ESR共振器9から発生するESR共鳴による変調を受けた共鳴信号(周波数fesr)は、出力用混合器27において高周波信号LO(周波数fmw)と混合されて周波数frfの共鳴信号として出力され、この周波数frfの共鳴信号に、混合器203においてデジタル発振器200からの周波数f2の高周波信号が混合される。混合器203からは、差成分frf−f2(=f1)の共鳴信号が得られ、この周波数f1の共鳴信号は、A/D変換器28でデジタル変換され、デジタルクォドラチャ検波回路29によって前記発振器100からの周波数f1の高周波を参照波としてクォドラチャ検波される。
【0075】
なお、上記例では、ESR共鳴周波数fesrとして和成分を採用したが、差成分をバンドパスフィルターから取り出すようにしても良い。例えば、周波数fmwを9.8GHzに設定し、f1+f2(=frf)を400MHzとすれば、差成分が9.4GHz、和成分10.2GHzとなり、差成分9.4GHzがバンドパスフィルターを通過してESR共鳴周波数fesrのマイクロ波RF(パルス)として取り出される。
【0076】
また、上記例では、混合器203において周波数frfの共鳴信号にデジタル発振器200からの周波数f2の高周波信号を混合し、周波数f1の共鳴信号に変換してからA/D変換し、デジタルクォドラチャ検波回路29によって周波数f1の高周波を参照波としてクォドラチャ検波するようにしたが、これに限らず、混合器203を設けずにそのまま周波数frfの共鳴信号をA/D変換し、デジタルクォドラチャ検波回路29において、ハイパスフィルター202から出力される周波数frf (=f1+f2)の高周波を参照波としてクォドラチャ検波するようにしても良い。
【0077】
一般的なESR測定では、サンプルの誘電率や付属装置の装着によって、ESR測定範囲(共振器の共振周波数)が、先に述べた9.0〜9.6GHzのように数百MHzのオーダーで変化する。本実施例では、第2のデジタル発振器200を追加することによって、frfの周波数を400MHzあるいはそれ以上に高めているため、混合器22から出力される和成分と差成分の周波数の差が大きい。したがって、上記のような共振条件の変化があっても、不要な周波数成分が観測領域に混入することを避けることができる。
【0078】
第1の実施例においても、デジタル発振器100の周波数を400MHz以上に高めれば、対応可能であるが、現時点で実用化されている製品技術レベルでは、デジタル発振器100として採用することができる、ナノ秒のオーダーで高速に高周波信号の周波数や位相を切り替えたり、高分解能に位相を設定することが可能な回路は、200MHz程度が周波数の上限で、400MHz以上の周波数を高速で制御することができない。
【0079】
仮に実施例1の構成で、fmw=9.2GHz、frf=200MHzとした場合、混合器22の出力信号は、図8(b)に示すように、差成分9.0GHzと和成分9.4GHzとなる。このように、和成分と差成分の周波数差が小さいと、バンドパスフィルター23で差成分(9.0GHz)を除去できなくなり、残った差成分の影響によるESRスペクトルのS/N悪化や、不要な擬似信号が発生する要因となってしまう。
【0080】
これを防ぐには、バンドパスフィルターの通過帯域をシフトして不要成分を除去するようにすれば良いが、そのためにはフィルターの定数を変更しなければならない。このような定数変更は、測定条件(fesr)の変化に応じて、その都度行わねばならず、操作性が悪くなると共に、バンドパスフィルターの構造が複雑になることは避けられない。
【0081】
その点、本実施例の構成を採用すれば、一般的なESR計測に即した、広範囲にESR観測周波数が変化しても、固定した通過帯域のバンドパスフィルターにより特別なチューニング操作を要することなくESR測定を実行することが可能となる。
【0082】
なお、上記例では、図1の構成にデジタル発振器200、混合器201およびハイパスフィルター202を追加するようにしたが、全く同様に図2の構成にも追加することが可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
パルスESR装置に広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数frfの高周波を発生する発振周波数と位相を数値制御可能な第1の発振器と、
第1の発振器からの周波数frfの高周波をパルス化し高周波パルスを作成する変調回路と、
周波数fmwの高周波を発生する第2の発振器と、
前記変調回路からの周波数frfの高周波パルスと前記周波数fmwの高周波を混合し、その和又は差の周波数fesrの高周波パルスを取り出す混合回路と、
試料を収容して静磁場中に配置されると共に、前記混合回路から得られた周波数fesrの高周波パルスが供給されるESR共振器と、
前記周波数fesrの高周波パルス供給後、前記ESR共振器から発生するESR共鳴信号に前記周波数fmwの高周波を混合し、周波数frfの該共鳴信号を取り出す復調回路と、
前記復調回路から取り出された共鳴信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
AD変換器から得られたデジタル共鳴信号を前記周波数frfの高周波を参照信号として直交検波し、ESR共鳴信号のリアル成分信号とイマジナリー成分信号を取り出す第1のデジタルクォドラチャ検波回路と、
を備えたことを特徴とするパルスESR装置。
【請求項2】
周波数fmodの変調信号を発生する第3の発振器と、
前記静磁場を該周波数fmodの変調信号で変調する磁場変調手段と、
前記周波数fmodの変調信号を参照波として、前記第1のデジタルクォドラチャ検波回路ESR共鳴信号のリアル成分信号Reとイマジナリー成分信号Imをそれぞれクォドラチャ検波して、前記リアル成分信号Reとイマジナリー成分信号Imそれぞれの0°/90°位相成分を取り出す第2のデジタルクォドラチャ検波回路と、
静磁場を掃引する手段と、
から成る付加手段を更に備え、
前記パルスESR装置として動作するパルスESRモードと、前記付加手段を用いた連続波磁場変調ESR装置として動作するCW−ESRモードとを、切り替え可能に構成したことを特徴とする請求項1記載のパルスESR装置。
【請求項3】
周波数fmodの変調信号を発生する第3の発振器と、
前記周波数frfの高周波を該周波数fmodの変調信号で振幅変調する振幅変調手段と、
前記周波数fmodの変調信号を参照波として、前記ESR共鳴信号のリアル成分信号とイマジナリー成分信号をそれぞれクォドラチャ検波して、リアル成分信号とイマジナリー成分信号それぞれの0°/90°位相成分を取り出す第2のデジタルクォドラチャ検波回路と、
静磁場を掃引する手段と、
から成る付加手段を更に備え、
前記パルスESR装置として動作するパルスESRモードと、前記付加手段を用いた連続波振幅変調ESR装置として動作するCW−ESRモードとを、切り替え可能に構成したことを特徴とする請求項1記載のパルスESR装置。
【請求項4】
前記第1の発振器を、周波数f1の高周波を発生する発振周波数と位相を数値制御可能な発振器100と、周波数f2の高周波を発生する発振器200の2つの発振器と、該2つの発振器の発振出力を混合して周波数f1+f2の高周波を取り出す混合手段とから構成し、混合手段からの周波数f1+f2の高周波を周波数frfの高周波として前記変調回路に供給するようにしたことを特徴とする請求項1記載のパルスESR装置。
【請求項5】
前記周波数frfは、NMR測定に用いられるラジオ波周波数の範囲とすることを特徴とする請求項1記載のパルスESR装置。
【請求項6】
周波数f1の高周波を発生する発振周波数と位相を数値制御可能な第1の発振器と、
周波数f2の高周波を発生する第2の発振器と、
前記周波数f1の高周波と周波数f2の高周波を混合して周波数f1+f2の高周波を作成する混合器と、
該混合器からの周波数f1+f2の高周波をパルス化し高周波パルスを作成する変調回路と、
周波数fmwの高周波を発生する第3の発振器と、
前記変調回路からの周波数f1+f2の高周波パルスと前記周波数fmwの高周波を混合し、その和又は差の周波数fesrの高周波パルスを取り出す混合器と、
試料を収容して静磁場中に配置されると共に、前記混合回路から得られた周波数fesrの高周波パルスが供給されるESR共振器と、
前記周波数fesrの高周波パルス供給後前記ESR共振器から発生するESR共鳴による変調をうけた共鳴信号に前記周波数fmwの高周波及び周波数f2の高周波を混合し周波数f1の共鳴信号を取り出す復調回路と、
前記復調回路から取り出された周波数f1の共鳴信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
AD変換器から得られたデジタル共鳴信号を前記周波数f1の高周波を参照信号として直交検波し、ESR共鳴信号のリアル成分信号とイマジナリー成分信号を取り出す第1のデジタルクォドラチャ検波回路と、
を備えたことを特徴とするパルスESR装置。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−57527(P2013−57527A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194665(P2011−194665)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(511132029)株式会社 JEOL RESONANCE (13)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)