説明

パルプの叩解方法

【課題】紙の製造工程において、パルプ繊維の損傷と内部フィブリル化を抑えて濾水度を調製する方法を検討することによって、叩解装置のみによる機械的処理と同等の濾水度のレベルにおいて、より剛度の高い嵩高なパルプを製造し、製品である紙の嵩高性、表面性および寸法安定性を向上する方法を提供する。
【解決手段】 紙の製造工程において、機械的叩解処理の後に、パルプ懸濁液中に好ましくは液体噴流によってキャビテーションを生じさせ、それに伴って生じる微細気泡をパルプ懸濁液中に導入し、その微細気泡の崩壊時の衝撃力を利用して、該パルプを所望の濾水度に調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプを叩解する方法、及びその方法により製造されたパルプを用いて製造された紙に関する。更に詳しくは、針葉樹、広葉樹、非木材繊維などを用いたクラフトパルプや機械パルプ、及び、新聞、チラシ、雑誌、情報記録用紙、コピー用紙、コンピュータープリントアウトなどの印刷古紙、あるいは雑誌古紙やオフィス古紙などこれら印刷物の混合物からなる再生パルプ、及び、それらの混合物を用いて紙を製造する工程において、機械的叩解処理の後に、パルプ懸濁液中にキャビテーションを発生させ、それに伴って生じる微細気泡をパルプ懸濁液中に積極的に導入し、その微細気泡の崩壊時の衝撃力を利用して、パルプ繊維の短小化などの損傷を抑えながら所望の濾水度に調整し、嵩高、高強度かつ良好なシート表面性を有し、寸法安定性が良好なパルプ、及びそのパルプを含有する紙を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源や物流コスト削減、及び高級感やボリューム感といった高付加価値化と言う観点から嵩高で軽量な紙への要求が高まっている。従来、嵩高化に対しては種々の嵩向上方法が試みられてきた。例えば、(1)架橋処理したパルプを用いる方法(特許文献1、特許文献2)、(2)合成繊維を混抄する方法(特許文献3)、(3)パルプ繊維間に無機物を充填する方法(特許文献4)、(4)空隙をもたらす発泡性粒子を添加する方法(特許文献5)、(5)軽度に叩解したパルプ繊維を配合する方法(特許文献6)、(6)ソフトカレンダー処理をする方法(特許文献7)、(7)嵩高薬品を添加する方法(特許文献8)、(8)パルプをマーセル化処理する方法(特許文献9)、(9)パルプを酵素で処理する方法(特許文献10)などが提案されている。しかしながら、上記の方法ではパルプのリサイクルが不可能となること、繊維間結合を阻害するため紙の強度、剛度が著しく低下したりすること、紙の表面性が悪化すること、パルプに対して別種の薬品や填料等を添加するためコスト上昇が避けられないこと、抄紙工程での発泡増加やサイズ低下などの新たな問題を生じることが避けられないことなどの問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開平4-185791号公報
【特許文献2】特開平4-202895号公報
【特許文献3】特開平3-269199号公報
【特許文献4】特開平3-124895号公報
【特許文献5】特開平5-230798号公報
【特許文献6】特開昭58-24000号公報
【特許文献7】特開平4-370293号公報
【特許文献8】特開平11-350380号公報
【特許文献9】特開平7-189168号公報
【特許文献10】特開平7-54293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、ダブルディスクリファイナー等の通常使用されている叩解装置によってパルプの叩解を進めると濾水度の低下に伴って、繊維長の低下、微細繊維分の増加、保水度の上昇、カールの増大といった変化が生じ、さらに作製したシートは密度の上昇と寸法安定性の悪化が認められる。
【0005】
そこで本発明は、紙の製造工程において、パルプ繊維の損傷と内部フィブリル化を抑えて濾水度を調製する方法を検討し、さらに機械的叩解処理と組み合わせることによって、叩解装置単独による機械的叩解処理と同等の濾水度のレベルにおいて、強度低下を伴うことなく、より剛度が高く嵩高で良好なシート表面性を有し、寸法安定性の良好なパルプを製造し、製品である紙の嵩高性、表面性及び寸法安定性を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、パルプ繊維自体の持つ嵩が機械的叩解処理時に最も低下することに着目し、パルプ繊維の嵩を低下させずに濾水度を調整することによって嵩高なパルプを得る方法について、鋭意研究を重ねた結果、パルプ繊維懸濁液中にキャビテーションを積極的に発生させ、その際に発生する微細気泡をパルプに接触させ、その際の気泡の崩壊衝撃力によってパルプを処理すると、パルプ繊維表面に対して選択的に負荷を与えて繊維の損傷と内部フィブリル化の進行を抑え、外部フィブリル化が促進されることを見出した(特願2006−33114)。このキャビテーションによる叩解処理によれば、パルプ繊維の損傷が少なく繊維が剛直になるため、繊維自体の嵩を損なわずに濾水度を調整することができ、機械的叩解処理によって得られたパルプよりも比散乱係数や寸法安定性が向上する。さらに、機械的叩解処理の後に、さらにキャビテーションによる叩解処理を行うことによって、同一密度で比較するとシート表面性が向上し、かつ単独のキャビテーション処理と比較して、任意の濾水度に調整するために必要な消費電力を削減できることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、キャビテーション処理によって、内部フィブリル化を抑制して外部フィブリル化を促進して、紙力を損なわずに嵩高で高い比散乱係数と良好な寸法安定性を有するパルプを得ることができ、かつ、機械的叩解処理の後にキャビテーションによる叩解処理を行うことで、機械的叩解処理によって損傷を受けた部位を起点として、外部フィブリル化をより一層促進させ、良好なシート表面性を有するパルプを、キャビテーション単独処理と比較して少ない消費電力で得られることを特徴とするものである。
【0008】
ここで、本発明のキャビテーション処理は、パルプ懸濁液中に流体噴流を用いてキャビテーションを発生させることが特徴であり、パルプ懸濁液自体を流体噴流として噴射、あるいは清水または工程水をパルプ懸濁液で満たした容器内に液体噴流として噴射させることによってパルプ懸濁液中にキャビテーションによって気泡を発生させ、パルプ繊維と気泡を接触させることができる。
【0009】
加藤の成書(加藤洋治編著、新版キャビテーション 基礎と最近の進歩、槇書店、1999年)に記載されているように、キャビテーション気泡の崩壊時に数μmオーダーの局所的な領域に数GPaにおよぶ高衝撃圧が発生し、また、気泡崩壊時に断熱圧縮により数千℃に温度が上昇する。その結果、キャビテーションは流体機械に損傷、振動、性能低下などの害悪をもたらす面があり、解決すべき技術課題とされてきた。近年、キャビテーションについて研究が急速に進み、キャビテーション噴流の流体力学的パラメーターを操作因子としてキャビテーションの発生領域や衝撃力まで高精度に制御できるようになった。その結果、気泡の崩壊衝撃力を制御することにより、その強力なエネルギーを有効活用することが期待されている。従って、流体力学的パラメーターに基づく操作・調整を行うことでキャビテーションを高精度に制御することが可能となった。これはキャビテーションの作用効果の安定性を保持することが可能であることを示しており、従来のように流体機械で自然発生的に生じる制御不能の害悪をもたらすキャビテーションではなく、制御されたキャビテーションによって発生する気泡を積極的にパルプ懸濁液に導入し、そのエネルギーを有効利用することが本発明の特徴である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるパルプの叩解方法では、クラフトパルプ、機械パルプなどの木材を原料とするパルプ、古紙や繊維素からなるシートを原料とする再生パルプ、及び非木材繊維を原料とするパルプについて、パルプ繊維自体の損傷を抑えて濾水度を調整することが可能となるので、より剛度が高く、嵩高なパルプを得ることができる。また、キャビテーション単独処理に比べて、同一濾水度に低下させるために必要なエネルギーを大幅に低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で対象とするパルプは、原料として、針葉樹または広葉樹、非木材繊維などを原料とする。より具体的には、クラフトパルプ、サルファイトパルプ等の化学パルプ、砕木パルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ等の機械パルプ、あるいは古紙や繊維素からなるシート状の物質から製造された再生パルプ等が挙げられる。古紙としては、例えば、新聞紙、チラシ、更系雑誌、コート系雑誌、感熱記録紙、感圧記録紙、模造紙、色上質紙、コピー用紙、コンピューターアウトプット用紙、あるいはこれらの混合古紙に適用できる。また、パルプ以外の化学繊維などの長軸と短軸の比が大きい繊維状物質との混合物にも適用できる。本発明においては、調成工程における濾水度の低下幅が大きく、機械的叩解処理とキャビテーション処理の組み合わせが容易なクラフトパルプを処理原料とすることを特徴としている。
【0012】
例えば、本発明による叩解処理をクラフトパルプに対して適用した場合、パルプの濾水度の低下に伴う保水度の上昇は、通常の叩解装置単独による機械的叩解処理を行ったパルプよりも緩やかである。この現象は、キャビテーション処理によってパルプ繊維の内部フィブリル化より外部フィブリル化が進行したことを示すものである。また、従って、従来の叩解装置単独による機械的叩解処理で得られたパルプと同一の濾水度で比較すると、強度低下を伴うことなく、嵩高で寸法安定性が良好な紙シートが得られる。一方で、キャビテーション単独の叩解処理によるパルプと比較すると、前段の機械的叩解処理によってある程度内部フィブリル化が進行しているため、同一濾水度で比較した場合、紙質は機械的叩解処理とキャビテーション単独処理の中間的な紙質となる。
【0013】
また、機械的叩解処理とキャビテーション処理による各々の濾水度低下の比率を変更することにより、得られるパルプの品質が異なる。例えば、機械的叩解処理による濾水度低下の比率を低くすると繊維の損傷が抑えられるので、より嵩高なパルプが得られる。反対に機械的叩解処理による濾水度低下の比率を高くすると、繊維外部の損傷が進み、キャビテーション気泡が作用する起点となる部位が増加するため、シート表面性が良好なパルプが得られる。
【0014】
本発明は、機械的叩解処理後に、キャビテーションによる叩解処理を行うことによりパルプを叩解し、所望の濾水度に調整する。処理後のパルプの濾水度は用途により多様であり限定されるものではないが、広葉樹クラフトパルプではカナダ標準濾水度30〜600ml、針葉樹クラフトパルプではカナダ標準濾水度100〜600ml、機械パルプではカナダ標準濾水度30〜300ml、再生パルプではカナダ標準濾水度50〜400ml程度である。機械的叩解処理とキャビテーション処理による濾水度低下の比率は、用途により任意に変更できる。より嵩高なパルプを得る場合には機械的叩解処理による濾水度低下の比率を低くし、キャビテーション処理による濾水度低下の比率の方を高くすることが好ましい。また、シート表面性の良好なパルプを得るためには、機械的叩解処理による濾水度低下の比率を高くすることが好ましい。
【0015】
通常パルプの叩解処理は機械的叩解処理により行われる。具体的に機械的叩解処理とは、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものである。本発明においては、機械力による従来の叩解装置による機械的叩解処理とキャビテーションによる叩解処理とを組み合わせることにより、各々異なる機構によって叩解が行われるため、パルプ繊維の特性を制御し、より望ましい紙質を得ることができる。
【0016】
また、キャビテーション処理において、更に必要に応じて水酸化ナトリウム、珪酸ナトリウム、その他のアルカリ薬品、脱墨薬品、酸化性漂白剤、還元性漂白剤を加えることができる。更に、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等も必要に応じて添加しても何ら問題はない。また、異物除去や高白色度化が必要ならば、上記工程に通常用いられている異物除去工程、あるいは漂白工程などを組み入れることも可能である。
【0017】
本発明におけるキャビテーションの発生手段としては、液体噴流による方法、超音波振動子を用いる方法、超音波振動子とホーン状の増幅器を用いる方法、レーザー照射による方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、液体噴流を用いる方法が、キャビテーション気泡の発生効率が高く、より強力な崩壊衝撃力を持つキャビテーション気泡雲を形成することが可能となるためパルプ繊維に対する作用効果が大きい。上記の方法によって発生するキャビテーションは、従来の流体機械に自然発生的に生じる制御不能の害悪をもたらすキャビテーションと明らかに異なる。
【0018】
本発明において、液体噴流を用いてキャビテーションを発生させる際に、パルプ懸濁液を液体噴流として噴射させることによってパルプ懸濁液と気泡を接触させることができる。また、液体噴流をなす流体は、流動状態であれば、液体、気体、粉体やパルプ等の固体の何れでもよく、またそれらの混合物であってもよい。更に必要であれば、上記の流体に、新たな流体として、別の流体を加えることができる。上記流体と新たな流体は、均一に混合して噴射してもよいが、別個に噴射してもよい。
【0019】
液体噴流とは、液体または液体の中に固体粒子や気体が分散あるいは混在する流体の噴流であり、パルプや無機物粒子のスラリーや気泡を含む液体噴流のことをいう。ここで云う気体は、キャビテーションによって発生する気泡を含んでいてもよい。
【0020】
キャビテーションは液体が加速され、局所的な圧力がその液体の蒸気圧より低くなったときに発生するため、流速及び圧力が特に重要となる。このことから、キャビテーション状態を表わす基本的な無次元数、キャビテーション数(Cavitation Number)σは次の数式1のように定義される(加藤洋治編著、新版キャビテーション基礎と最近の進歩、槇書店、1999)。
【0021】
【数1】

【0022】
(p:一般流の圧力、U:一般流の流速、pv:流体の蒸気圧、ρ:流体の密度)
ここで、キャビテーション数が大きいということは、その流れ場がキャビテーションを発生し難い状態にあるということを示す。特にキャビテーション噴流のようなノズルあるいはオリフィス管を通してキャビテーションを発生させる場合は、ノズル上流側圧力p1、ノズル下流側圧力p2、、試料水の飽和蒸気圧pvから、キャビテーション数σは下記式(2)のように書きかえることができ、キャビテーション噴流では、p1、p2、pv間の圧力差が大きく、p1≫p2≫pvとなることから、キャビテーション数σはさらに以下の数式2のように近似することができる(H. Soyama, J. Soc. Mat. Sci. Japan, 47(4), 381 1998)。
【0023】
【数2】

【0024】
本発明におけるキャビテーションの条件は、上述したキャビテーション数σが0.001以上0.5以下であることが望ましく、0.003以上0.2以下であることが好ましく、0.01以上0.1以下であることが特に好ましい。キャビテーション数σが0.001未満である場合、キャビテーション気泡が崩壊する時の周囲との圧力差が低いため効果が小さくなり、0.5より大である場合は、流れの圧力差が低くキャビテーションが発生し難くなる。
【0025】
また、ノズルまたはオリフィス管を通じて噴射液を噴射してキャビテーションを発生させる際には、噴射液の圧力(上流側圧力)は0.01MPa以上60MPa以下であることが望ましく、0.7MPa以上30MPa以下であることが好ましく、2MPa以上15MPa以下であることが特に好ましい。上流側圧力が0.01MPa未満では下流側圧力との間で圧力差を生じ難く作用効果は小さい。また、60MPaより高い場合、特殊なポンプ及び圧力容器を必要とし、消費エネルギーが大きくなることからコスト的に不利であり、また、パルプ繊維が過度に損傷を受け、製紙原料として使用するには好適ではない。一方、容器内の圧力(下流側圧力)は静圧で0.05MPa以上3MPa以下が好ましい。下流側にも圧力を掛けるのは、被噴射液(パルプ懸濁液)を収める容器を加圧することで、キャビテーション気泡が崩壊する領域の圧力が高くなり、気泡と周囲の圧力差が大きくなるため気泡がより激しく崩壊することにより衝撃力が大となるからである。また、容器内の圧力と噴射液の圧力との圧力比は0.001〜0.5の範囲が好ましい。
【0026】
また、噴射液の噴流の速度は1m/秒以上200m/秒以下の範囲であることが望ましく、20m/秒以上100m/秒以下の範囲であることが好ましい。噴流の速度が1m/秒未満である場合、圧力低下が低く、キャビテーションが発生し難いため、その効果は弱い。一方、200m/秒より大きい場合、高圧を要し特別な装置が必要であり、コスト的に不利である。
【0027】
本発明におけるキャビテーション発生場所としてはタンクなど任意の容器内若しくは配管内を選ぶことができるが、これらに限定するものではない。また、ワンパスで処理することも可能であるが、必要回数だけ循環することによって更に効果を増大できる。さらに複数の発生手段を用いて並列で、あるいは順列で処理することができる。
【0028】
キャビテーションを発生させるための液体の噴射は、パルパーの様な大気開放の容器の中でなされても良いが、前述したようにキャビテーションをコントロールするために圧力容器の中で行われるのが好ましい。
【0029】
本発明における液体噴流によるキャビテーションの発生方法では、パルプ懸濁液に対して、噴射液体として、水道水、製紙工程で回収される再用水、パルプ搾水、白水、及びパルプ懸濁液自体を噴射することができるが、これらに限定するものではない。好ましくは、パルプ懸濁液自体を噴射することで、噴流周りに発生するキャビテーションによる作用効果に加え、高圧でノズルまたはオリフィス管から噴射する際の流体力学的剪断力が得られるため、より大きな作用効果を発揮する。
【0030】
液体噴流によってキャビテーションを発生させる際の処理対象のパルプ懸濁液の固形分濃度は5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは4重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以上3重量%以下の範囲で処理することが気泡の発生効率の点から好ましい。被噴射液の固形分濃度が5重量%以上20重量%以下である場合は、噴射液濃度を4重量%以下にすることによって作用効果を得ることができる。
【0031】
また、キャビテーション処理の際のパルプ懸濁液のpHは、好ましくはpH1〜13、より好ましくはpH3〜12、更に好ましくはpH4〜11である。pHが1未満であると装置の腐食などが問題となり、材質及び保守等の観点から不利である。一方、pHは13を超えると、パルプ繊維のアルカリ焼けが生じ、白色度が低下するので好ましくない。pHはアルカリ性条件である方がパルプ繊維の膨潤性がよく、OH活性ラジカルの生成量が増加することから望ましい。
【0032】
本発明では、液体噴流において液体の噴射圧力を高めることで、噴射液の流速が増大し、これに伴って圧力が低下し、より強力なキャビテーションが発生する。更に被噴射液(パルプ懸濁液)を収める容器を加圧することで、キャビテーション気泡が崩壊する領域の圧力が高くなり、気泡と周囲の圧力差が大きくなるため気泡は激しく崩壊し衝撃力も大となる。キャビテーションは液体中の気体の量に影響され、気体が多過ぎる場合は気泡同士の衝突と合一が起こるため崩壊衝撃力が他の気泡に吸収されるクッション効果を生じるため衝撃力が弱まる。従って、溶存気体と蒸気圧の影響を受けるため、その処理温度は0℃以上70℃以下であることが好ましく、特に10℃以上60℃以下であることが好ましい。一般には、融点と沸点の中間点で衝撃力が最大となると考えられることから、水溶液の場合、50℃前後が好適であるが、それ以下の温度であっても、蒸気圧の影響を受けないため、上記の範囲であれば、高い効果が得られる。
【0033】
本発明においては、界面活性剤を添加することでキャビテーションを発生させるために必要なエネルギーを低減することができる。使用する界面活性剤としては、公知または新規の界面活性剤、例えば、脂肪酸塩、高級アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸などのアルキレンオキシド付加物などの非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤は、これらの単一成分からなるものでも、2種以上の成分の混合物でも良い。界面活性剤の添加量は噴射液及び/または被噴射液の表面張力を低下させるために必要な量であればよい。
【0034】
上記工程を経て製造されたパルプは繊維内部の損傷が少なく、繊維が剛直で嵩高になるため、このパルプを用いて嵩高な紙を製造することができる。
【0035】
本発明により製造したパルプを原料として紙を製造する際には、公知の抄紙機を使用することができるが、その抄紙条件は特に規定されるものではない。抄紙機としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等が使用される。なお、多層紙や板紙を製造するには、円網式抄紙機が使用される。
【0036】
本発明の紙において、本発明により製造したパルプの配合量は特に限定されるものではないが、全パルプ成分に対して5重量%以上配合することが好ましい。配合量が5重量%未満であると嵩高化等の紙質向上の効果が不十分である。
【0037】
本発明の紙は、1層の紙の他、2層以上の多層紙であってもよい。多層紙において、キャビテーション処理したパルプは少なくとも1層に存在すればよい。
【0038】
本発明の紙は、本発明により製造したパルプ以外の原料パルプとして、通常の化学パルプ(針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)等)、機械パルプ(グランドウッドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等)、脱墨パルプ(DIP)を単独または任意の割合で混合して使用してもよい。抄紙時のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよい。
【0039】
また、本発明の紙は填料を含有してもよい。填料としては、ホワイトカーボン、シリカ、タルク、カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、酸化チタン、合成樹脂填料等の公知の填料を使用することができる。
【0040】
さらに、本発明の紙は、必要に応じて、硫酸バンド、サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、着色剤、染料、消泡剤等を含有してもよい。
【0041】
本発明の紙は、全く塗工処理をしていないか、あるいは顔料を含まない表面処理剤を塗工することにより印刷用紙として使用することができる。本発明の印刷用紙は、表面強度やサイズ性の向上の目的で、水溶性高分子を主成分とする表面処理剤を塗工することが望ましい。水溶性高分子としては、澱粉、酸化澱粉、加工澱粉、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の表面処理剤として通常使用されるものを単独、あるいはこれらの混合物を使用することができる。また、表面処理剤の中には、前記水溶性高分子の他に耐水化、表面強度向上を目的とした紙力増強剤やサイズ性付与を目的とした外添サイズ剤を添加することができる。表面処理剤は、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター等の塗工機によって塗布することができる。表面処理剤の塗布量としては、片面当たり0.1g/m以上3g/m以下が好ましい。
【0042】
本発明の紙は、印刷用紙、新聞用紙の他、情報用紙、加工用紙、衛生用紙等として使用することができる。情報用紙としてさらに詳しくは、電子写真用転写紙、インクジェット記録用紙、フォーム用紙等である。加工用紙としてさらに詳しくは、剥離紙用原紙、積層板用原紙、成型用途の原紙等である。衛生用紙としてさらに詳しくは、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ペーパータオル等である。また、段ボール原紙等の板紙として使用することも可能である。
【0043】
また、本発明のキャビテーション処理したパルプは伸張紙の原料としても使用できる。伸張紙とは所謂伸び特性に優れた紙で、例えば、ドライヤーロールと予め伸張させておいたゴムベルトとの間に湿紙を通し、ゴムベルトの収縮によって紙匹に収縮を与えて製造されるクルパック紙、ドクターブレードを用い、プレスロールまたはドライヤーロールとで湿紙に皺をつけて製造されるクレープ紙、特表平11-509276号公報に開示されているような、硬い物質から成りその表面に周方向にリブを有し、もう一方より速い速度で回転する硬質ロールと、軟らかい物質から成り平滑な表面を有し、もう一方より遅い速度で回転する軟質ロールからなる一組のロール間で湿紙を収縮処理して得られる紙等などが挙げられる。
【0044】
さらに、本発明の紙は、塗工紙、情報用紙、加工用紙等の顔料を含む塗工層を有する紙の原紙としても使用することができる。塗工紙としてさらに詳しくは、アート紙、コート紙、微塗工紙、キャストコート紙、白板紙等である。情報用紙としてさらに詳しくは、電子写真用転写紙、インクジェット記録用紙、感熱記録紙、感圧記録紙等である。加工用紙としてさらに詳しくは、剥離紙用原紙、包装用紙、壁紙用裏打ち紙、工程紙、成型用途の原紙等である。
【0045】
また、本発明の紙は、その片面または両面に、1層以上の合成樹脂層を設けたラミネート紙の原紙としても使用することができる。
【0046】
[作用]
本発明の叩解方法において、パルプ繊維に対して内部フィブリル化が抑制され、外部フィブリル化が促進される理由としては、完全に解明されたわけではないが次のように考えられる。キャビテーションにより生じる微細な気泡の崩壊時には、前述したように数μmオーダーの局所的な領域に強力なエネルギーが発生する。従って、微細な気泡または気泡雲がパルプ繊維表面あるいは近傍で崩壊する場合、その衝撃力は直接あるいは液体を介してパルプ繊維表面に到達し、パルプ繊維を構成するセルロースの特に非結晶領域に吸収されることにより、パルプ繊維の外部フィブリル化と膨潤が起こるものと考えられる。キャビテーションによりパルプ懸濁液中に生じた気泡はパルプ繊維に対して非常に小さく、その衝撃力は主にパルプ繊維表面近傍に作用し、パルプ繊維全体を損傷させる程大きくはない。更に、パルプ繊維は液体中に分散しており固定されていないため、気泡雲の連続崩壊のような極めて大きな衝撃力であっても、過剰のエネルギーをパルプ繊維自体の運動エネルギーとして吸収する。従って、本発明の方法は、機械的作用単独による従来の叩解方法に比べてパルプ繊維の短小化・切断などの損傷を抑えることができ、内部フィブリル化を抑えることができると考えられる。さらに、予め機械的叩解処理を施し、ある程度パルプ繊維表面に損傷を与えることによって、キャビテーション気泡崩壊時の作用点が増加するため、シート表面性が向上するとともにキャビテーション単独による処理に比べて作用効率が向上し、所望の濾水度に調整するために必要な電力を大幅に削減できる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1〜4]
市販広葉樹漂白クラフトパルプシートを低濃度パルパーで離解した後、ナイアガラビーターを用いて、処理濃度2%で、カナダ標準濾水度(CSF)566mlまで叩解したものを原料Aとした。原料Aを任意の濃度に調整後、図1に示されるキャビテーション噴流式洗浄装置(ノズル径1.5mm)を用いて、噴射液の圧力(上流側圧力)を7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力(下流側圧力)を0.3MPaとして、処理時間を変化させて処理し、濾水度を調整した。なお、噴射液として濃度1.1重量%のパルプ懸濁液を使用し、容器内のパルプ懸濁液(濃度1.1重量%)をキャビテーション処理した。処理後のパルプについて、保水度、及びカナダ標準濾水度(CSF)を測定し、結果を表1に示した。
・保水度:JAPAN.TAPPI No.26:2000に従った。
・カナダ標準濾水度(CSF):JIS P 8121:1995に従った。
更に処理後のパルプについてJIS P 8222:1998に基づいて手抄きシートを作製した。手抄きシートの厚さ、坪量を下記の方法で測定し、これを元に密度及び嵩を算出した。さらに、裂断長及び引張破断伸び、比引裂強さ、平滑度、透気抵抗度、比散乱係数を下記の方法で測定した。
・厚さ:JIS P 8118:1998に従った。
・坪量:JIS P 8124:1998(ISO 536:1995)に従った。
・密度及び嵩:手抄きシートの厚さ、坪量の測定値より算出した。
・裂断長及び引張破断伸び:JIS P 8113:1998に従った。
・比引裂強さ:JIS P 8116:2000に従った。
・平滑度、透気抵抗度:JAPAN TAPPI 紙パルプ試験法 No.5-2:2000に従い、王研式平滑度透気度試験機により測定した。
・比散乱係数:TAPPI T425om-91に準拠して色差計(村上色彩製)で測定した。
また、微細繊維を歩留まらせるため、白水を循環させながらシートを作製すること、乾燥プレート、リングを使用せずに、JIS P 8111:1998に規定する標準状態で、一昼夜放置し乾燥させること以外はJIS P 8222:1998に準じてパルプシートを作製し、これについて、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.27Aに従い、60分後の浸水伸度を測定した。値が大きいほど、水中でシートが伸びたことを示す。これらの結果を表2に示す。
【0049】
[実施例5〜8]
市販広葉樹漂白クラフトパルプシートを低濃度パルパーで離解した後、ナイアガラビーターでCSF448mlまで叩解したものを原料Bとして、実施例1と同様にキャビテーション噴流式洗浄装置を用いて、噴射液の圧力(上流側圧力)を7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力(下流側圧力)を0.3MPaとして、処理時間を変化させてキャビテーション処理し、濾水度を調整した。処理後のパルプについて保水度、カナダ標準濾水度を測定し、結果を表1に示した。さらに、実施例1と同様にして手抄きシートを作成し、同様の項目について測定を行い、結果を表2に示した。
【0050】
[実施例9]
市販広葉樹漂白クラフトパルプシートを低濃度パルパーで離解した後、ナイアガラビーターでCSF345mlまで叩解したものを原料Cとして、実施例1と同様にキャビテーション噴流式洗浄装置を用いて、噴射液の圧力(上流側圧力)を7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力(下流側圧力)を0.3MPaとしてキャビテーション処理し、濾水度を調整した。処理後のパルプについて保水度、カナダ標準濾水度を測定し、結果を表1に示した。さらに、実施例1と同様にして手抄きシートを作成し、同様の項目について測定を行い、結果を表2に示した。
【0051】
[実施例10]
市販広葉樹漂白クラフトパルプシートを低濃度パルパーで離解した後、ナイアガラビーターでCSF247mlまで叩解したものを原料Dとして、実施例1と同様にキャビテーション噴流式洗浄装置を用いて、噴射液の圧力(上流側圧力)を7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力(下流側圧力)を0.3MPaとしてキャビテーション処理し、濾水度を調整した。処理後のパルプについて保水度、カナダ標準濾水度を測定し、結果を表1に示した。さらに、実施例1と同様にして手抄きシートを作成し、同様の項目について測定を行い、結果を表2に示した。
【0052】
[比較例1〜5]
ナイアガラビーターを用いて、濾水度を調整した原料Aを比較例1、同様に原料Bを比較例2、原料Cを比較例3、原料Dを比較例4、さらに叩解処理を行いCSF159mlに調整したものを比較例5とした。叩解後のパルプについて保水度、カナダ標準濾水度を測定し、結果を表1に示した。さらに、実施例1と同様にして手抄きシートを作成し、同様の項目について測定を行い、結果を表2に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1に示されるように、ほぼ同一濾水度で比較すると実施例は比較例に比べて保水度が低くなっていた。保水度は内部フィブリル化の指標として使うことが可能であり、同一濾水度で比較して保水度が低いということは外部フィブリル化が進んでいることを示唆している。
【0056】
また、実施例4と実施例5を比較した場合、実施例4の方が濾水度がやや低く叩解が進んでいることが示されているにも関わらず、保水度が低かった。同様に、実施例7と実施例9を比較した場合も、実施例7の方が濾水度が低いにも関わらず、保水度が低かった。従って、前段の機械的叩解処理の条件を変えることによって、内部フィブリル化と外部フィブリル化の程度を変化させたパルプを調製することが可能であるといえる。
【0057】
表2に示されるように、実施例ではそれぞれの原料に対して、濾水度の低下に伴う密度の上昇を抑えながら裂断長、比引裂強さ、平滑度、透気抵抗度を向上させることができた。機械的な叩解処理のみである比較例1〜5では、濾水度の低下に伴い紙力が向上するものの、著しく密度が上昇していた。例えば、実施例4と比較例3を比較した場合、濾水度がほぼ同等であるにも関わらず実施例4の方が密度が低いが、裂断長は高かった。一方、実施例4と実施例5を比較した場合は、実施例5の方が密度、強度、平滑度、透気抵抗度ともに高かった。また、ほぼ同等の濾水度である実施例8と実施例10と比較例5を比較した場合、実施例8、10は比較例5よりも密度が低かった。さらに、実施例8と実施例10を比較した場合、実施例8の方が低密度であったが、平滑度、透気抵抗度は実施例10の方が著しく高かった。機械的叩解処理を軽度にした場合は嵩高性が発現し、機械的叩解処理を強度にした場合はシート表面性が大きく向上することが分かった。
【0058】
また、ほぼ同等の濾水度である実施例4あるいは実施例5と比較例3、または実施例9と比較例4を比較すると、実施例の方が比散乱係数が高めとなった。しかし、実施例4と実施例5、あるいは実施例7と実施例9を比較した場合、実施例4と実施例7の方が比散乱係数が高かった。このことから、前段の機械的叩解処理を軽度にする方が、叩解後の比散乱係数が高く維持されることが分かった。
【0059】
さらに、実施例では同一原料のパルプで比較した場合、強度の向上に伴う浸水伸度の上昇はほとんど見られないが、比較例では強度の向上に伴い浸水伸度が著しく上昇し、寸法安定性が悪化した。
【0060】
従って、本発明は外部フィブリル化を促進することでパルプ濾水度を低下させる嵩の低下の少ないパルプの叩解方法といえる。また、前段の機械的叩解処理の程度を変化させることにより、最終的に得られるパルプの性質が変化することから、本発明により機械的叩解とキャビテーション処理の程度を変化させることにより、性質の異なるパルプを調製することが可能となる。
【0061】
[実施例11]
工場製広葉樹漂白クラフトパルプの完成原料を原料Eとした。原料Eを実機ダブルディスクリファイナーを用いてカナダ標準濾水度(CSF)440mlまで叩解して原料Fとして、実施例1と同様にキャビテーション噴流式洗浄装置を用いて、噴射液の圧力(上流側圧力)を7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力(下流側圧力)を0.3MPaとしてキャビテーション処理し、濾水度を調整した。処理後のパルプについてカナダ標準濾水度を測定し、表3に示した。また、実施例1と同様にして手抄きシートを作成し、同様の項目について測定を行った。さらに、表面粗さとしてPPS粗さを以下の方法に従って測定した。
・PPS粗さ:JIS P 8151:2004
また、原料パルプ1tのカナダ標準濾水度(CSF)を100ml低下させるために必要な電力(電力原単位)を算出し、結果を表4に示した。
【0062】
[実施例12]
原料Eを実機ダブルディスクリファイナーを用いてCSF330mlまで叩解したものを原料Gとして、実施例1と同様にキャビテーション噴流式洗浄装置を用いて、噴射液の圧力(上流側圧力)を7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力(下流側圧力)を0.3MPaとしてキャビテーション処理し、濾水度を調整した。処理後のパルプについてカナダ標準濾水度を測定した。また、実施例11と同様にして手抄きシートを作成し、同様の項目について測定を行った。結果を表3、4に示した。
【0063】
[比較例6〜8]
原料Eを比較例6、原料Fを比較例7、原料Gを比較例8として、それぞれについてカナダ標準濾水度を測定した。さらに、実施例11と同様にして手抄きシートを作成し、同様の項目について測定を行った。結果を表3、4に示した。
【0064】
[比較例9〜12]
原料Eを、実施例1と同様にキャビテーション噴流式洗浄装置を用いて、噴射液の圧力(上流側圧力)を7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力(下流側圧力)を0.3MPaとして、処理時間を変化させてキャビテーション処理し、濾水度を調整した。処理後のパルプについてカナダ標準濾水度を測定した。また、実施例11と同様にして手抄きシートを作成し、同様の項目について測定を行った。結果を表3、4に示した。
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
表3に示されるように、実施例11、12と比較例10では、実施例の方が同一キャビテーション処理時間でのカナダ標準濾水度の低下が大きいことが分かった。このことから、キャビテーション処理の前に機械的処理を行うことにより、キャビテーション処理の効率が向上すると言える。
【0068】
表4に示されるように、実施例11、12と比較例10では、同一キャビテーション処理時間でありながら実施例の方が透気抵抗度が著しく上昇し、シート表面性が大きく向上した。さらに、電力原単位については、実施例11、12は単独のキャビテーション処理である比較例9〜12よりも大幅に低下した。
【0069】
従って、本発明は、予め機械的叩解処理によってある程度パルプ繊維表面に損傷を与えた後にキャビテーション処理を行うことにより、キャビテーション単独の処理に比べ、同一処理時間での濾水度の低下幅とシート表面性の向上効果が大きくなった。また、機械的叩解処理との組み合わせにより、キャビテーション単独の処理に比べ、同一濾水度まで低下させるのに要する処理時間を短縮することが可能となり、任意の濾水度に調整するまでに必要な消費電力を削減できる叩解方法である。
【0070】
[実施例13]
工場製広葉樹漂白クラフトパルプの完成原料を実機ダブルディスクリファイナーを用いてCSF118mlまで叩解したものを原料Hとして、実施例1と同様にキャビテーション噴流式洗浄装置を用いて、噴射液の圧力(上流側圧力)を7MPa(噴流の流速70m/秒)、被噴射容器内の圧力(下流側圧力)を0.3MPaとしてキャビテーション処理し、濾水度を調整した。処理後のパルプについてカナダ標準濾水度を測定した。また、実施例1と同様にして手抄きシートを作成し、同様の項目について測定を行った。結果を表5に示した。
【0071】
[比較例13、14]
原料Hを比較例13とし、原料Hを実機ダブルディスクリファイナーを用いてさらに叩解したものを比較例14として、それぞれについてカナダ標準濾水度を測定した。さらに、実施例13と同様にして手抄きシートを作成し、同様の項目について測定を行った。結果を表5に示した。
【0072】
【表5】

【0073】
表5に示されるように、実施例13と比較例13を比較すると、実施例13は濾水度が低下しているにも関わらず、密度はほとんど変化しなかった。すなわち、密度がほぼ同等であるにも関わらず、実施例13は裂断長、平滑度、透気抵抗度が高かった。実施例13と比較例14では、実施例13の方が濾水度が低いにも関わらず、密度が低く嵩高となった。一方、裂断長はほぼ同等であり、引裂き強さは高かった。低密度化しているため、平滑度、透気抵抗度は実施例13が低いが、比散乱係数は高かった。以上のことから、CSF100ml程度の低濾水度のパルプでも、キャビテーション処理の効果が発現することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例で使用したキャビテーション噴流式洗浄装置の概略図である。
【符号の説明】
【0075】
1:試料タンク
2:ノズル
3:キャビテーション噴流セル
4:プランジャポンプ
5:上流側圧力制御弁
6:下流側圧力制御弁
7:上流側圧力計
8:下流側圧力計
9:給水弁
10:循環弁
11:排水弁
12:温度センサー
13:ミキサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的叩解処理の後にキャビテーションによる叩解処理を行うパルプの叩解方法であって、該キャビテーションによる叩解処理がパルプ懸濁液中にキャビテーションによって気泡を発生させ、該気泡をパルプに接触させてパルプを所望の濾水度に調製することを特徴とするパルプの叩解方法。
【請求項2】
キャビテーションによるパルプの叩解処理が、パルプ懸濁液中に液体噴流を用いてキャビテーションを発生させることを特徴とする請求項1記載のパルプの叩解方法。
【請求項3】
パルプ懸濁液を液体噴流として噴射することによってキャビテーションを発生させることを特徴とする請求項2記載のパルプの叩解方法。
【請求項4】
清水または工程水を液体噴流として、反応容器内のパルプ懸濁液中に噴射することによってキャビテーションを発生させることを特徴とする請求項2記載のパルプの叩解方法。
【請求項5】
パルプ懸濁液を連続的に供給し、処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のパルプの叩解方法。
【請求項6】
パルプ懸濁液を循環させ複数回処理することにより所望の濾水度に調製することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のパルプの叩解方法。
【請求項7】
対象とするパルプが化学パルプである請求項1〜6のいずれかに記載のパルプの叩解方法。
【請求項8】
対象とするパルプが機械パルプである請求項1〜6のいずれかに記載のパルプの叩解方法。
【請求項9】
対象とするパルプが再生パルプである請求項1〜6のいずれかに記載のパルプの叩解方法。
【請求項10】
請求項1〜9記載の叩解方法で所望の濾水度に調製されたパルプを含有する紙。

【図1】
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【公開番号】特開2008−38311(P2008−38311A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217506(P2006−217506)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】