説明

パルプの生成および黒液処理の方法

本方法は、循環式流動床炉 (304) 中でアルカリ土類金属酸化物を加えて 650℃以上の温度で熱することにより、特に非木材から得られた黒液を処理するステップを提供する。本方法は、単独で用いてもよく、あるいは、 (a) 水酸化ナトリウムに基づき、さらに原材料中のシリカを珪酸カルシウムへと実質的に転換するに足る量の水酸化カルシウムを含む白液に、原材料を蒸解するステップ (12) 、 (b) パルプおよび黒液を、結合していないシリカを実質的に含まないようにして回収するステップ (14) 、 (c) 黒液中の有機成分をガスに変える触媒反応のため、ならびに、白液中および酸化カルシウム中のナトリウム値を含んでいる回収した固体を得るための、酸化カルシウムを含んだ流動床炉 (304) 中で、黒液を加熱して、回収した固体から白液を再生するステップ、を含んでいるような、イネ科植物由来の原材料を製紙用パルプもしくは板材用パルプに転換するための方法の一部として用いることもできる。上述した白液を使用することによって、小麦藁、稲藁、および、シリカを多量に含んだ他の材料 (9) の処理を、処理の難しい黒液を生じること無く行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプをイネ科植物の繊維から生成する方法に関し、また、上述のパルプ生成方法における副生成物になりうる黒液の処理方法、または、例えば、クラフト黒液、もしくはクラフト黒液と苛性黒液との混合液であるような、別の方法で生じうる黒液の処理方法、にも関する。
【背景技術】
【0002】
[クラフト法]
木材の主成分は、グルコース分子が連なってできている長い直線状の半透明なセルロース繊維であり、軟木の場合には約 42wt% 、硬木の場合には約 45wt% 程度を占めている。また、グルコース分子と他の糖分子との短い分鎖であるヘミセルロースが、木材のさらなる成分を構成しており、これは水に比較的溶けやすく、パルプ化工程において除去される。セルロース繊維は、三次元状フェノールポリマー網であるリグニンと結合しており、このポリマー網は複数のセルロース繊維にまとめて結合していて、剛性を与えている。リグニンは、軟木の場合には約 28wt% 、硬木の場合には約 20wt% 含まれている。化学的パルプ化工程と、その後続する漂白工程とにおいて、セルロース繊維を激しく損傷させること無く、リグニンを選択的に除去する。抽出物は、軟木の場合には約 3wt% 、硬木の場合には約 5wt% にあたる。抽出物には、植物ホルモン類、樹脂、および脂肪酸が含まれる。
【0003】
クラフト法もしくは硫酸塩パルプ法は、多くの木材の樹脂成分を効率的に処理できるため、木材を化学的にパルプ化する上で好ましい方法である。この方法においては、主要な蒸煮物質 ( cooking chemical ) として水酸化ナトリウムを、また、触媒として硫酸ナトリウムを用いている。この方法では、水酸化ナトリウムを単独で用いるソーダ法よりも、強靭なパルプ産物が得られる。クラフト法とソーダ法の双方において、アントラキノンを補助的な触媒として用いることがある。クラフト法では、チップを蒸解釜 ( digester ) 内で加熱・加圧して、「白液」(この場合には、水酸化ナトリウムおよび硫酸ナトリウム水溶液のこと)と共に蒸煮し、リグニンを選択的に溶解させる。二〜四時間の後、パルプ、消耗したパルプ化物質、および木材屑、の蒸煮混合液を、蒸解釜から排出する。得られたパルプを、「黒液」と呼ばれる、パルプ化物質と屑との混合物から分離する。
【0004】
その後、いわゆるTomlinson炉を主要な構成とする工程によって、黒液から処理物質(硫酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウム)を再生成する。約 65% の無水固体成分を含んだ黒液を、炉の中に噴霧する。降下する間に、黒液の小滴からは残っていた水が蒸発して失われ、固体は熱分解されて炉の底に炭床 ( char bed ) となって積もる。この炭床を温度 750℃〜1050℃ の還元条件で焼いて、炉から熔解物として回収物質(主に Na2CO3と Na2S )を取り出す。この回収物質を水に溶かすと、白液の前駆体(いわゆる緑液)が得られる。熱分解中および炭焼き中に発生したガスは、炉の上部で完全に燃焼される。処理条件下で生じるメルカプタンを除去するため、排煙は徹底的に洗浄しなくてはならない。炉には、ガスの燃焼熱を蒸気と電気に換えるための適切な熱交換器が実装される。
【0005】
商業活動において、化学物質とエネルギーの有用な回収を行うことができるとは言え、Tomlinson炉の使用には多くの問題がある。例えば、水もしくは希黒液と、無機熔解物とが、誤って接触してしまうと爆発する可能性がある。また、炭床が高温になると、ナトリウム塩の放出が増大し、炉の上部の煙突内が過剰に濁ってしまう。さらにまた、溶出黒液を処理するために用いられている現行の技術は、局所的な経済的条件に依存している。近代の木材パルプ製作所の典型的な規模は、年間 360,000トンを超えるパルプ生産であるのにひきかえ、このような技術では、年間 60,000トン程度のパルプ生産しか行うことができない。当然ながら、藁、およびその他のイネ科植物由来の材料の処理については、さらに小規模なものとなってしまう。と言うのは、藁などの農作副産物を、大量に長距離輸送するのは非経済的であるためである。
【0006】
[クラフト法における流動床の回収]
これらの問題を解決するため、また、投資を削減して回収作業のエネルギー効率を増大させるためという目的の下、無機物質が熔融状態では無く固体のままで在るように保つことによって、熔解物と水との爆発事故を無くし、且つナトリウム塩の放出を削減するような、クラフト法における数多の回収方法が記載されてきた。
【0007】
この基本的特徴については、 US-A-3309262(Copeland et al)で開示されており、この文献には、黒液から産する無機物残渣のみから実質的に成る固体微粒子の流動床を含んだ反応炉 ( reaction vessel ) において、黒液を処理するための方法が記載されている。この方法には、以下が含まれる。即ち、
(a) 自然燃焼を起こすのに充分な量の燃焼成分を含んでいる黒液について、黒液中の固体含量が 20〜45wt% の範囲になるように蒸発させて濃縮するステップ、
(b) 濃縮した黒液を、床の上部の空間に噴霧し、この空間内で蒸発するようにして、残留する一層濃縮された黒液が、微粒子状となって流動床内を流れるようにするステップ、
(c) 流動床内で発生する自然燃焼の実質的全体から発生する排ガスとしての有機物を完全に無くすために充分な量の、酸素を含んだ流動ガスを、速度 30〜150cm/sec(1〜5ft/sec)で導入することにより、床の流動の程度を保つステップ、
(d) 床内に残留する化学物質の混合物の共融点以下である、非熔解温度に床を保ちながら、流動ガス中での飛沫同伴を抑止するに足る重量の、黒液の無機物残渣から、床上の気状燃焼産物および床中の凝集物 ( agglomerates ) が形成されるように、床を約 540〜982℃の範囲の温度にするステップ、
(e) 凝集物を流動床から排出するステップ、ならびに、
(f) 床の上部から排ガスを排出するステップ。
【0008】
ナトリウム系白液については、最も推奨される床の温度は 760℃である(ただし、本発明者らは、この値が実際の作業における温度を超えるものであるということを知っている)。水を迅速に蒸発させ、効率的に洗浄して含まれる塵埃を減らし、床微粒子の凝集の促進および制御をするためには、黒液を、粗い滴と微小滴との混合物として導入することが推奨される。硫化水素ガスが形成されないように保つ反応炉内の酸化条件、および、有機物を燃焼ガスに転換することについては、開示されていない。最終生成物は Na2CO3 および Na2SO4 であり、これらを再苛性化 ( recaustication ) して、白液を再生する。この特許文献には、Copeland法として商業化が試みられていると記載されてはいるが、この方法は床の凝集が激しい傾向があり、特に、藁の蒸煮から、比較的低い熱の発生で黒液を得る処理を行う際にこの傾向が顕著であって、それゆえにこの方法は技術的・商業的な見込みに欠けて、やがて廃れてしまった、ということを本発明者らは知っている。本発明者らの経験から述べると、Copelandの開示した類の単純な流動床は、許容できない凝集を起こしやすく、短い始動時間の後にはまったく実用にならなくなる。
【0009】
US-A-3523864(Osterman) は、積層したそれぞれが CaO のペレットからできている、下層流動床、中層流動床、および上層流動床を有する反応炉に基づいたクラフト黒液の回収方法を開示している。下層床は 704〜760℃( 1300〜1400°F)で作動し、また、 Na2SO4 が Na2S に還元される反応の固体生成物を含んでいる。中層床は、 648〜704℃( 1200〜1300°F)であり、また、黒液と、 CaO ペレットの表面に燃焼ガスと有機物と共に析出する Na2CO3および Na2SO4 を生成する完全燃焼に必要な量の約30%の量の予熱空気とを、供給される。上層床は、カ焼

されて CaO を再生することになる再循環 CaCO3 を受けて、材料を流動床に供給して上の床から下の床へと漸次降下させてゆく。全般的な燃焼ガスは、一部がガスとして再循環され、また、一部が遠心処理された後に蒸気生成器に供給される。ところが、三つの床のすべては単純なバブリング型であって、また、既述の理由により、中間床が許容できない凝集を起こしやすい。
【0010】
これらの低温流動床法が商業利用されない理由としては、さらに以下の二つの理由が挙げられる。即ち、第一には、 Na2SO4 を Na2S に迅速且つ完全に転換するためには比較的高温が必要となるということであり、また、第二には、無機塩の融点以下の温度で Na2S が燃焼ガスと接触すると、 H2S が容易に生成してしまうということである。つまり、還元には高温が好都合であるのに、上述の別手法では無機塩混合物の融点以下である比較的低い温度が要求されてしまうのである。その帰結として、還元モードで流動床を作動させる工程においては、形成される Na2S のほとんどは、全般的に以下の反応によって迅速に H2S (と若干の COS )に転換され、
Na2S + CO2 + H2O -> Na2CO3 + H2S
その結果、固体 Na2S の回収率は低くなってしまう。
【0011】
万全を期すために、US-A-4011129(Tomlinson)についても触れる。この文献では、温度を保ちつつ炉内の還元区域の雰囲気を還元しながら、硫酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの固体ペレットを、還元区域の炭床上に直接注入することにより、注入したペレットの硫酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを含んだ熔解物を形成することで、クラフト回収炉の物質回収能を増大させるための方法が開示されている。これらのペレットは、流動床燃焼ユニットのような補助焼却炉内で、さらに多い量の黒液から産生することができ、これによって、さらなる回収炉の構築を必要とすること無く、回収能を増大させることができる。
【0012】
[非木材セルロースパルプの産生]
紡績業、ならびに、処理のコストと効力との二者択一に攜わる農事業、ならびに、限られた森林資源に攜わる消費財事業、を含む製パルプ・製紙産業に関する数多の問題を、イネ科一年生作物から得られる農作副産物を使用することによって解決することができる。
【0013】
広義では、イネ科作物の副産物とは、一年生農作物が主要な目的もしくは予定した目的に応じて収穫された後に残される材料のことである。これらには、小麦、稲、大麦、および燕麦といった穀類の藁、ならびに、亜麻およびライ麦といった種子作物 ( seed grass ) の藁、ならびに、バガス (砂糖黍滓; bagasse ) として知られる砂糖黍の茎を砕いたもの、ならびに、蜀黍の茎および玉蜀黍の茎、ならびに、例えば、操綿後に綿の種子に絡みついている短い繊維のことであるコットンリンター ( cotton linters ) などの他の農作副産物、を含む。木材の供給が無い国、もしくは乏しい国においては、藁およびバガスから得られるパルプが、製紙用途において高比率で用いられており、そのうちの実に 90% 近くは高品位な印刷用紙および筆記用紙となる。例えば中国では、製紙用パルプの 85% 以上は非木材原料(主に藁)からつくられると報告されている。インドでは、ほぼ 55% の製紙用パルプが非木材資源からつくられており、そのうちの約半分は農作副産物由来であると報告されている。農業廃物を燃やすことを禁じる立法が増加したことが、この資源の別の使用方法の進展を新たに促すこととなった。適性な土壌管理の下で、農家は、農作を維持しつつ、小規模なパルプ製作所に継続的な繊維資源を供給することができる。
【0014】
小麦藁および稲藁といった農作副産物は、セルロースを含んでおり、良い製紙用原材料になりうる。前述したように、これらの原材料は嵩張るものであるので、輸送にはコストがかかり、また、一日当たりのパルプ生産量が約 10〜100トンという比較的小さい規模であるため、局地的にパルプ化するのが最適な戦略であると言える。パルプ製作所からは、溶出黒液が生じ、これを河川に排出すれば深刻な汚染を引き起こしてしまう。年間生産 60,000トン以下の溶出黒液を処理するための技術には、経済的な見地で実施可能なものが無いということは、河川の汚染を止めるために、多数存在する小規模なパルプ製作所が閉鎖されてきた、ということを意味している。また、このような適切な技術の欠落によって、新たに小規模なパルプ製作所、特に農作副産物を使用しようとするような新規の製作所を設立しづらくなっている。結果的に小規模なパルプ製作所を望むことができなくなっているということから、小規模なパルプ製作についての研究開発はほとんど行われていない。その帰結として、小規模なパルプ製作技術、特に藁のパルプ化についての技術は、大規模な木材パルプ化技術には遠く及ばないものとなってしまっている。
【0015】
藁は、化学的な手法でパルプ化することができ、また、機械的な手法と化学的な手法との組み合わせ(化学-機械パルプ化)によってもパルプ化することができる。非木材原材料を蒸煮するにあたっては、活性物質として水酸化ナトリウムを単独で用いることが推奨される。これは、多くの非木材繊維には、粘性の強い樹脂が含まれておらず、硫酸ナトリウムが不要であるためである。この理由により、この類の原材料からの化学的パルプ生産は、主に、ソーダ法と呼ばれる、水酸化ナトリウムを含む強アルカリ性蒸煮液と共に原材料を加圧しながら 140〜170℃に加熱する方法を伴って行われる。このような条件下では大部分のリグニンが溶解する。水酸化ナトリウムは生成した黒液から回収することができ、また、黒液中の有機成分はエネルギー生成のための燃料として用いることができる。回収にあたり硫酸塩から硫化物への還元が必要なクラフト法とは対照的に、ソーダ法から得られた黒液は、強酸化条件下においてさえも燃焼させることができる。したがって、物質の回収には、黒液を適切な乾燥物になるまで濃縮させること、および、濃縮した液を、過剰な酸素を与える手段を以って燃焼させること、が含まれる。主に炭酸ナトリウムから成る燃焼した無機残渣を、水に溶かし、焼いた石灰と共に苛性化して、水酸化ナトリウムを再生(して再循環)する。別の手法として、消石灰 Ca(OH)2 を NaOH と混合して活性物質とし、これを白液に入れて使用する、というものがある。これは、消石灰が蒸解剤 ( digesting agent ) として機能し、且つ廉価であるためである。しかしながら、 NaOH/Ca(OH)2 黒液の再循環方法については記載が無く、また、従来、このような黒液は処理せずに単に排出されてきたものである。
【0016】
[イネ科植物由来の出発物質から得られたパルプ中のシリカ]
藁および他の非木材セルロース系農作物中には、比較的高濃度のシリカ成分が在るので、化学回収法の実施が困難である。小麦藁は、藁内に埋没した小結晶として、 4〜10w% のシリカを含んでいる。稲藁はさらに多くのシリカ成分を含み、その量は 9〜14wt% である。大麦、燕麦、およびライ麦といった他の穀物の藁は、 1〜6wt% のシリカを含む。その一方、木材は 1wt% 未満のシリカしか含まない。ソーダ法を藁のパルプ化に適用する場合、藁中のシリカのほとんどは水酸化ナトリウムと反応して水溶性の珪酸ナトリウムとなり、これがリグニンおよび他の有機物と結合して、黒液中に残留することになる。高濃度のシリカを含んだ黒液は、特に濃縮工程において、スケーリング ( scaling ) (ガラス状物質でできた被覆をつくること)を増大させてしまう。木材に基づく改良された回収システムにおいては、高額の投資と運転コストと引き換えに、シリカ含量が 5〜6wt% 未満の穀類藁を用いることもできる。しかしながら、特に稲藁のような高濃度シリカを含む産物については、現在のところ、技術的且つ商業的に実用可能な方法は存在していない。
【0017】
われわれの WO 03/014467(この参照により本開示に含まれる)には、製紙プラントで使用するために具合が良い細長い原材料の処理方法であって、
前記原材料から不適な材料 ( contrary material ) を抽出するステップと、
不適な材料を取り除いた前記原材料を破砕して、節を取り除くステップと、
前記破砕した原材料を、長さ方向に裂くステップと、
前記裂いた原材料を、複数の区域に分けられた同方向回転式スクリューコンベアへと送り込み、前記コンベア内の前記原材料を処理して、パルプおよび溶出黒液を生成するステップと、
少なくともひとつの区域に、処理剤を入れるステップと、
前記少なくともひとつの区域における温度および/もしくは圧力を制御するステップと、
濃縮した黒液を、前記黒液の処理のための流動床炉の形態である処理罐内に噴霧するステップであって、ここで、前記処理罐は、処理剤とエネルギーとを回収する手段の一部であるようなステップ
を含む、処理方法が開示されている。同時回転式スクリューコンベアに入れて、パルプ化に関与させるアルカリには、水酸化ナトリウム、および付加的なものとして水酸化カルシウムが含まれ、これにより、セルロース繊維上にシリカを沈澱させて、シリカが黒液と反応して珪酸カルシウムとなることを防ぐ。
【0018】
また、 WO 03/014467 は、パルプ化工程において生じる溶出黒液を、液蒸解貯蔵槽内に回収して、濃縮するための設計の標準的なエバポレーターを用いて固体含量が 30〜70% になるまで濃縮した黒液を処理する方法についてもさらに記載している。溶出黒液の固体濃度が 30%以上である場合には、濃縮ステップを省いて、処理罐内で直接に反応を行うことができる。パイプ、もしくは、密閉式ツインスクリュー輸送システムを用いて、 90℃を超える温度の濃縮された黒液を反応炉へと移す。密閉式輸送システムは、有機成分の気化による損失を最小限にするために用いられる。黒液の粘度を下げて、抵抗無く輸送できるようにするために、 90℃を超える温度が必要となる。黒液は、循環式流動床反応炉の中で処理される。流動床における上限温度は 650℃であるとされているが、実際の運用で用いられる最高温度は 610℃である。これは、 600℃を超える温度では、黒液中に存在する無機アルカリ金属種(例えば、 Na および K )が揮発してしまうことが、他の工程において証明されているためである。これらの化学種が蒸気相に在る場合には、それらを回収するための付加的な方法を行う設備が必要になり、全体のコストが増大してしまう。
【発明の開示】
【0019】
高温での反応の利点は、黒液処理のための反応速度が増大し、それにつれて処理量も質を保ったままに増大することになる、ということである。われわれは、上述した黒液回収方法において、 650℃以上の温度を用いることができるということを発見した。最近の実験においては、流動床中で 650℃から 700℃もしくは 725℃までの範囲に加熱した黒液から得られる無機種の損失を最小限に抑えられる(即ち、損失が経済的に重篤な量にはならず、確実に回収するための付加的な設備が不要になる)、ということが示されている。
【0020】
本発明では、例えば酸化カルシウムであるアルカリ土類金属酸化物を含んだ反応炉内で、黒液を 650℃以上の温度に加熱するステップを含む黒液の処理方法を提供する。
反応炉内において、黒液はアルカリ土類金属酸化物と反応して、水酸化ナトリウム、および、炭酸ナトリウム、および、アルカリ土類金属炭酸塩、および、燃焼性成分を含み従来技術に係る処理方法(例えばボイラー)における燃料にすることができる揮発性気液成分、の混合物を形成する。
【0021】
別の特徴においては、本発明は、得られる黒液中のシリカ含量の多さに関連する問題を低減もしくは克服できる、イネ科植物由来の材料の処理方法を提供する。
また、本発明では、イネ科植物由来の原材料を、製紙用パルプもしくは板材用パルプに転換するための方法であって、
水酸化ナトリウムに基づき、且つ、前記原材料のシリカを、水酸化カルシウムへと実質的に転換するために有効な量の水酸化カルシウムをさらに含んだ白液に、前記原材料を蒸解するステップと、
実質的に溶解性珪酸塩を含まない、パルプおよび黒液を回収するステップと、
前記黒液の有機成分を気体へと触媒反応的に転換するため、ならびに、前記白液のナトリウム値および酸化カルシウムを含んだ固体を回収して得るための、酸化カルシウムを含んだ、流動床反応炉内において、前記黒液を加熱するステップと、
前記回収した固体を用いて、前記白液を再生するステップと
を含むことを特徴とする方法、が提供される。
【0022】
いくつかの条件下では、パルプを洗浄する工程において、黒液流中に重篤な量の珪酸塩が混ざってしまう、というリスクがある。しかしながら、パルプ化のためにアルカリ液中に水酸化カルシウムを含めるので、珪酸塩が珪酸カルシウムとして、珪酸ナトリウムよりも優先するように、もしくは珪酸ナトリウムを実質的に排除するようにして、黒液中に混入することになる。珪酸カルシウムは、珪酸ナトリウムよりも、下流の処理における問題をかなり引き起こしにくい。さらなる特徴においては、本発明は、少なくとも一部はパルプの洗浄から得られた黒液を処理する際に、黒液の濃縮および回収をする間のスケーリングを抑制するために、イネ科植物由来の出発物質をソーダ法にかけて蒸解してパルプを生成するときに水酸化カルシウムを添加するような、水酸化カルシウムの使用方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を、図面を参照した例示を以ってさらに詳述する。
[小麦もしくは稲の藁の処理の概要]
本発明に係る方法を、小麦藁の処理を参照して図示することで説明してゆく。小麦藁は、パルプ化する前には通常は切り刻んで用いるものであって、また、その茎には節があり、藁をパルプ化する前に切り刻むと通常はそのまま残ってしまう。このことは製紙用パルプの製造においては深刻な欠点であり、これによって製造した紙の品質が劣悪なものとなってしまう。したがって、好ましく用いる方法とは、節を砕き、藁の茎を長さ方向に穏やかに截断し、さらに、塩基性 ( positive ) 且つ定量的且つ継続的な手法を用いて、原材料を蒸解釜に入れる、という方法である。処理する藁を搬送コンベア 9 から藁前処理ステーション 10 へと搬入して、そこで茎をローラーに挟んで破砕し、不適な物質を抽出し、また、茎を長さ方向に截断する。その後、調整した藁を、蒸解/パルプ化ステーション 12 へと送り、アルカリ水溶液(白液)の存在下で昇温および昇圧しながら、藁を機械的工程にかける。その後、得られた黒液を、溶出液処理ステーション 14 へと送って加熱処理をして、いわゆる緑液 ( green liquor ) の素となりうる固体が得られる。今度はその液を、 CaCO3 給送管から得た石灰と接触させることで、白液を再生してパルプ化ステーション 12 へと再循環させる。黒液の加熱処理から生じる排ガスを回収して、蒸気発生および熱処理のために用いることができる。白液中の痕跡金属 ( trace metals ) が過剰に蓄積されることを避けるために、 CaCO3 スラッジの固体ブリードを除去する。
【0024】
[前処理]
パルプを作るための原材料が藁であるときには、切り刻んだ藁、長さ方向の截断処理もしくは寸断処理をした藁、または、長さ方向の截断処理および/もしくは寸断処理と切り刻み処理との双方を施した藁、といった形態の藁用いることができる。
【0025】
図2には、好ましい前処理方法を示しており、藁を開梱した後、藁をコンベアベルト 101 に沿って搬送して、塵埃、石などの重量物、および、樹脂の紐といった他の不適な物質、を取り除く。その後、藁をフィードホッパー 103 に入れて、藁の茎の節を破砕するギザ付きローラー 105, 107 と、藁の茎を長さ方向に穏やかに截断するピン(棘)付きローラーとが配置された内部へと藁を送り込む。このようにして、互いに反対方向に回転する第一ギザ付きローラー 105 と第二ギザ付きローラー 107 との間に藁が入れ込まれて、藁の節が破砕されることになる。その後、破砕された材料は、二つの互いに反対方向に回転する中間ローラー 109, 111 を通り、不適な材料が以降のローラーを損傷しないようにする。その後、藁はさらなる二つのローラー 113, 115 (ここでは同方向に回転している)を通過する。これらの下流のローラーには、藁を長さ方向に切り開いて寸断するためのピンが備えられており、また、これらの下流のローラーは、フィードシューと協働して作動する。
【0026】
このシステムの動作によって、藁を、節を取り除いて短くし、さらに切り開いたもしくは寸断したような材料とすることができる。これによって、化合物および蒸気が素早く浸透するようになり、繊維の長さを保ちつつ繊維を傷めないように処理をしながら、高速且つより均一なパルプ化を行うことが可能となる。この結果、柔組織細胞の分散から生じる目に見える「輝斑」 ( "shiner" ) の量が非常に少ない紙シートが得られること、排水が改善されること、引っ張りおよび引き裂きへの高い耐性を有すること、高いパルプ収率、ならびに、パルプ化物質の必要量が少ないこと、を含む、改良された品質のパルプの製造を行うことが可能になる。
【0027】
その後、処理済藁をピンローラー 113, 115 から投下して、コンベアもしくはブロアシステム(図示せず)のいずれかに先立つフィードホッパー 117 へと送り、処理済藁を、パルプ化を行う前に調製した物質を貯蔵しておくための底部攪拌式容器 ( live bottom bin ) に収める。上述したような、ピン付き、ならびに、ギザ付きもしくは縦溝付きのローラーを開けて供給するためのシステムは、特に藁のために設計されたものであるが、若干の修正を施すことで、他の適切な原材料(亜麻、麻、バガス、ならびに、ウッドチップもしくは大鋸屑、を含む)に対しても使用することができる。
【0028】
麻および亜麻といった長いセルロースを含んだ原材料を使用する際には、ピンローラーを自己洗浄式のものとして構成することもできる。これは、材料がローラーの周りに巻きついて、装置に絡みつくことを防ぐためである。図3には、作動しているピンローラーの一部分の概要図を示した。ピンローラー 120 は、半径方向に伸びている多数のピン 122 を備えた外表面を有する。これらのピンは、処理された材料 126 が搬送される穴あきベルトもしくは編み上げベルト 124 とマッチするようにして使用する。ピン 122 は、材料 126 を引っ掛け、また、ベルト 124 がピンから離れると、ピンローラー 120 が絡った繊維に束縛されること無く、材料から引き離される。
【0029】
上述した工程は、藁、亜麻、および麻を用いて、研究室レベルの予備実験を経て、実験および開発されてきたものである。さらには、ピンによる叩解 ( pinning treatment ) を施したウッドウール(木毛)は、ウッドチップの代わりとして使用できることがわかっているため、丸太をチップ化せずに薄片状にしたような場合には、木材に対して、上述したような原材料のピンによる叩解を行うことができる。このような原材料の調製方法は、特に、木材の繊維が短い場合に有用であり、これは薄片化処理 (フレーキング; flaking ) とピンによる叩解との組み合わせでは、繊維の長さが損われないためである。
【0030】
[イネ科植物系出発物質および他のセルロース系出発物質の蒸解]
切り刻んだ藁を供給材料として用いることもできるが、本方法に係る蒸解段階における好ましい供給材料は、長さ方向に截断したおよび/もしくは寸断した、藁または他のイネ科植物の茎由来の材料である。このような材料を蒸解する際には、イネ科植物の茎由来の材料および他の残留する節由来の材料と容易に接触させることができ、それらの材料中のシリカを溶かし、リグニンおよび他のアルカリ反応性物質を蒸解することができる、白液が使用される。
【0031】
非木材系原材料の蒸煮にあたっては、水酸化ナトリウムだけが活性物質として必要になり、また、このような理由から、これらの原材料からの化学的パルプ製造法の大部分は、いわゆるソーダ法と呼ばれる工程を伴って行われる。そうした工程においては、原材料を、水酸化ナトリウムを含んだアルカリ性蒸煮液と共に、 140〜170℃の範囲の温度まで加熱し、または、加圧下で 180℃まで昇温させる例もある。蒸煮液は強アルカリ性にするべきである。このような条件下では、原材料中のリグニンの大部分が溶け出すことになるが、その一方で原材料中の珪素成分の大部分は水酸化ナトリウムと反応することになり、水溶性珪酸ナトリウムが生成する。したがって、蒸煮から得られる黒液には、リグニンおよび他の有機化合物に加えて、珪酸イオンが含まれることになる。それゆえに、好ましく用いられる白液は、ソーダ型(即ち、硫酸ナトリウムでは無いもの)であって、さらにシリカを沈澱させるに足る量の水酸化カルシウムを含んだものである。
【0032】
イネ科植物由来の供給材料を処理する白液中に水酸化カルシウムが存在しているとき、または、水酸化ナトリウムを加えた直後に水酸化カルシウムを加えたとき、のいずれかの場合においては、シリカを、珪酸カルシウムとして藁の繊維上に沈澱させることで、得られる黒液中の溶解性珪酸含量を低減させるために充分な量の水酸化カルシウムを用いる。ここで、水酸化カルシウムの有効量とは、部分的に蒸解した藁またはすべてを蒸解した藁から得られた黒液を抽出を開始する前に、実質的にすべてのシリカもしくはシリカの所望する一部を、不溶性珪酸塩に転換して、その大部分を藁繊維上に沈澱させられる水酸化カルシウムが存在するような量とするべきである。
【0033】
例えばシングルチューブ型もしくはマルチチューブ型のスクリューフィーダー式蒸解釜(例としては、 Lenzing Technik GmbH & Co KG. の Pandia digester )であるような、連続蒸解釜を用いて、藁もしくは他の非木材セルロース系材料を蒸解することができる。水平チューブ型連続蒸解釜内で、スクリューフィーダー式植物繊維を高速で蒸煮する方法については、 Atchison, J.E., Rapid Cooking Horizontal Tube Continuous Digester with Screw Feeder - Now the World Standard for Pulping Non-Wood Plant Fibers, 1990 Pulping Conference Proceedings でレビューされている。この技術は、当初はバガスのパルプ化のために開発されていたが、他の非木材植物由来の材料(小麦藁および稲藁を含む)から成る他の形態についても適用できるものである、と説明されている。ロータリー型一括式蒸解釜 ( rotary batch digesters ) を用いた草創期の蒸煮法では四時間以上の蒸煮サイクルが必要であることと較べると、バガス、藁、および他のほとんどの非木材植物繊維の場合には、 十〜十五分間の蒸煮時間だけで可能である、と述べられている。本発明者の経験から言うと、この性能は誇張されたものであって、非経済的な量の蒸煮物質を用いずに、二十分未満の時間だけでセミケミカルパルプを製造するのは不可能である。スクリューフィードを使用することで、供給材料の密度を上げることができ、これによって蒸解釜の処理容量を上げ、さらには白液と供給材料との連続混合も促すことができる。また、本発明者の知識から言うと、通常の蒸解釜には、二系統、三系統、もしくは四系統の、それぞれの直径が約一メートル程度のチューブが接続されて含まれており、それらの設備は相当に大きく、また、かなりの資本がかかるものである。
【0034】
藁もしくはバガスは、水平チューブ型蒸解釜内で加圧して昇温すると、高速で吸水するため、とりわけ上述したピンによる叩解を施した後には、パルプ化がすぐに始まり、高速で進行する。白液は、ソーダ型もしくはクラフト型とすることができる。また、藁もしくはバガスのパルプ化を行う場合には、典型的には、藁の乾燥重量を基準にして 12〜14wt% NaOH 、または、 6〜7wt% NaOH および 6〜7wt% Na2S を用い、パルプ化温度は 170〜180℃、パルプ化圧力は 7〜9bar として、また、蒸煮時間は、化学パルプ(ケミカルパルプ)を製造する場合には十〜十五分間、セミケミカルパルプを製造する場合には三〜五分間とする。上記で説明した概要は、本発明者の知識に基づいたものであって、実地に得たものでは無い。
【0035】
バガスもしくは藁(稲藁を含む)に対する好ましいパルプ化工程では、同方向回転・内部交合式ダブルスクリューシステムに基づくコンベアで藁を搬送する、水平チューブ型蒸解釜を用いる。このような蒸解釜は、その処理容量に対して物理的に小さく構築することができ、競合技術に較べて投資コストが廉価で済む。さらには、パルプ化を少量の水で行うことができるため、黒液を高濃度で製造でき、その後の黒液の濃縮工程を減らすもしくは省くことができる、ということは大きな利点である。寸断したおよび/もしくは切り刻んだ藁は、貯蔵部から、白液および蒸気が開口部から注入される蒸解釜のバレル (胴部; barrel ) 、あるいは蒸気注入をする代わりにバレルが外部から電気加熱されているような蒸解釜のバレルへと、連続的に供給される。内部交合したツインスクリューの回転につれて、藁と黒液とが混ぜ合わされ、藁は機械的に攪拌されて蒸解される。ツインスクリューは同方向回転するように使用されるため、繊維に科す機械的処理が減って、繊維の損傷を最小限にすることができる。ツインスクリュー構造における、バレルに沿っての搬送は、まず、二つのスクリューの段が内部交合することによって開始される。一方、シングルスクリューコンベアによる搬送では、材料が、前進するスクリュー段と、固定されたバレル壁との間にトラップされてしまう。したがって、摩擦、ならびに、スリップ(バレル内の圧力によって、材料とバレル壁との間で空転が発生すること)およびサージングの増加の可能性、に鑑みると、シングルスクリュー構成は低効率である。同方向回転式スクリューを備えたツインスクリュー蒸解釜内では、材料は、8の字の形の経路を通るので、スクリューが反対方向に回転する方式である場合よりも長い経路が得られることになり、藁と黒液とがさらに能く攪拌されることになる。製紙用パルプを製造するためのツインスクリュー式蒸解釜に関する当該技術は、 US-A-4088528 (Berger et al)および US-A-4214947 (Berger)に開示されており、これらの記載はこの参照により本開示に含まれる。これらの参考文献は、両方とも、イネ科植物では無く、ウッドチップの処理方法に関するものであることに留意されたい。
【0036】
数々の実験により、単独のツインスクリュー式蒸解釜を用いて、ピンによる叩解を施して寸断した藁(長さ約25mm)を、κ価(カッパー価)が 30〜70 の範囲の化学パルプもしくはセミケミカルパルプ(例えば、箱もしくはカートンの製造での使用、または段ボール包装への使用など、に対して有用である)に転換できることが確認されている。一連の実験においては、直径 40mm のツインスクリュー式蒸解釜の投入口へ藁を供給し、また、スクリューのピッチを、その長さに沿って変えて、投入口の 90℃から、最後から二番目の区域の 165℃までの範囲の、五段階の温度を有する五つの処理区域に分けるようにする。定量ポンプを使って、示した液体対固体の蒸解比率が得られるように充分な量の水を伴ってアルカリを添加した。蒸解釜の下流の蒸煮区域の温度が、 165℃を下回らないようにすると、程良くほぐれたパルプが得られて好ましい、ということがわかった。直径 40mm の比較的短いツインスクリューを使って、一分間未満で、苛性(アルカリ)添加を 10%以下にして処理することにより、セミケミカルパルプに相当する品質である 40代前半のκ価が得られる、と結論が出た。実物大の機械においては、蒸煮温度は 170℃となると予想され、これは、連続スクリュー式蒸解釜を用いてセミケミカルパルプを製造するために有用な温度である。

実験No. 1 2 3 4 5 6 7
────────────────────────────────
温度 165 165 165 165 165 165 165
スクリュー速度 120 120 120 120 120 120 50
藁供給レート 6 3.75 6 6 6.3 6 3.75
液体対繊維の比率 1.6 2.5 1.6 1.6 1.5 3.2 3.36
(1に対し)
苛性対繊維の比率 9.4 15 9.4 9.4 9 9.4 8.3
(%)
────────────────────────────────
κ価 45.8 45.8 43.7 43.9 39.9 60.5 42.3

商業的な規模のツインスクリュー式押出機を使用した場合、付加的な蒸煮段階を必要とすること無く、例えば約一分間の保持時間と、 7bar の蒸煮圧力を以って、印刷用紙もしくは筆記用紙として適切な完全に蒸解された化学パルプを得ることが可能である、と予測できる。別の手法として、第一段階でセミケミカルパルプを製造するようにツインスクリュー式押出機を使用した後、パルプの脱水を行う前に、第二蒸煮段階において例えば 7bar の圧力で三十分間の付加的な蒸煮を行って、化学パルプに転換することもできる。
【0037】
図4には、同方向回転式ツインスクリュー蒸解釜 131 の実施形態を示した。貯蔵部から、イネ科植物由来の原材料(藁、亜麻、麻、バガス)、ウッドチップ、または、他のセルロース系原材料を入れて、パルプ化することができる。パルプ化されるまでの工程として、まず、原材料を蒸解釜 131 に引き込む。蒸解釜 131 内には、第一方向へ向かう段を有し、中間部位 135 においては段の方向が逆転するような二つの外部部位 133, 134 を備えるスクリューの縦断面を描いている。深い切れ込みの段を備えた硬質鋼を用いて、コンベアスクリューの段を製造しており、これによって、上述したように原材料が明確に運搬されることになる区域の大きさを改善することができ、また、こうしたコンベアスクリューの段は、繊維の損傷を最小限にするように特に設計されている。この特徴的な設計によって、必要なエネルギー量を減らすことができ、これはつまり、より小さい駆動シャフトおよびギアボックスを使用することができるということであり、さらには投資コストも低減できるということを意味している。また、スクリューの縦断面およびサイズを縮小した駆動シャフトの設計により、原材料処理量も、従来技術に係る同時回転式ツインスクリューの 400% を超えるほどに増大することになる。
【0038】
図4で概要を示しているように、コンベアの或る実施形態には、フィードホッパー 139 を介して原材料が供給される第一区域 137 が備わっている。第一区域において、コンベアスクリューの段は可能な限り開くように設計され、材料をユニットに入れ込めるようになっている。第二区域 141 においては、蒸煮液(好ましくは、充分な量の硫化物は含まずに Ca(OH)2 を含んだソーダ法白液)を、投入口 143 を介して添加し、また、蒸解釜バレルの第二区域には、通気孔 145 を通じて蒸気を導入することもできる。区域 141 の長さ、および、その区域内の原材料の滞留時間は、材料の性質に応じて変えることができるが、パルプ化液(リグニン易溶液 ( easy lignin ) )と容易に接触でき、且つ他の易溶性物質を溶かすような出発物質層に含まれたリグニンのうちの充分な量が蒸解されるために充分なものとする。
【0039】
上述したように、藁もしくは他のイネ科植物系出発物質の中に存在するシリカを、不溶性珪酸塩へと転換して、藁をパルプ化する際に、大部分のシリカをセルロース繊維上に沈澱させ、下流の化合物回収システムのエバポレーターもしくは他の部品のスケーリングを引き起こしうる有害な量のシリカが溶出黒液中に可溶性珪酸塩として混入することを抑止するのが望ましい。このような目的のために、藁もしくは他のイネ科植物由来の材料をパルプ化する際には、第二区域 141 に、水酸化カルシウムを乾燥原材料(藁)に対して 4% の比率で加え、さらに水酸化ナトリウム 8% を加えることができる。一般的には、重量比にして水酸化カルシウム約1に対して水酸化ナトリウム約2、として用いる。この方法は、任意のアルカリに基づくパルプ化システムに適用することができ、また、珪酸ナトリウムをセルロース繊維上に珪酸カルシウムとして再沈澱させる効果を有している。それらの繊維がパルプとして単離され、続いて洗浄、漂白、および紙として漉かれた際には、珪酸カルシウムのうちの一部、もしくはほとんど、もしくは実質的にすべては、(後続のパルプ処理条件に依って)その場でそれらの繊維上に残存することになる。 NaOH および Ca(OH)2 の双方が存在する混合アルカリ系においては、不溶性の CaSiO3 を形成する反応の方が、可溶性の Na2SiO3 を形成する競合反応よりも、シリカが珪酸カルシウムとして繊維上に保持されるか、または黒液中に不溶性珪酸カルシウムとして混入することになる、という点に鑑みて、大いに好ましい。したがって、 NaOH/Ca(OH)2 で処理したイネ科植物由来の材料から得られた黒液と、公知技術によって処理を修正できる木材のパルプ化から得られた黒液とでは、可溶性シリカ成分に関しては重大な違いは無い。沈澱した珪酸カルシウムは、ひとたび形成されると、漂白、脱水、ならびに、低pH(pH < 4)を用いない製紙もしくは製材工程を含んだ後続のパルプ化工程における条件下では、再溶解しづらい。また、沈澱した珪酸カルシウムは、パルプの灰分の無害部分として簡単に得られるものであって、製紙用の混ぜ物として用いる珪灰石と化学的に類似し、さらに複合珪酸塩である陶土にも類似している。後続の工程に関する限りの唯一の違いは、イネ科植物由来の材料から得られたパルプには、灰分は例えば 3〜4% 含まれるのに対して、木材パルプの灰分は通常は約 1% 程度である、ということである。後述する CaO の流動床を用いて黒液を気化する溶出液処理ステーション 14 は、 Ca(OH)2 を含み、さらに再生 NaOH を含んだ白液を産生し、且つ、供給材料およびセルロース繊維上に沈澱した珪酸カルシウムの双方を蒸解するこの黒液を産生し、有害な量の珪酸カルシウムが黒液中には混入しないようになっている、ということに留意されたい。
【0040】
部分的に蒸解された原材料は、コンベアスクリューが逆段区域 135 を有する第三区域 147 に入る。第三区域 147 は、処理されている材料を詰まらせてしまうことになる前進する原材料に対して、高圧をかけて詰まり部分を上流へ遡らせて破砕する区域、として機能している。この区域では、バレル壁には穴の開いた区域 149 が設けられており、蒸煮液のいくらかが搾り出されることになる。原材料に対して白液を作用させると、原材料中の容易に接触できるリグニン成分のうちのすべてもしくは多くが迅速に可溶化され、ヘミセルロースおよび他の溶解性有機物固体と共に溶解する。第三区域においては、白液の一部(典型的には当初に加えた白液の約半分に対応する)が、区域 149 から、固体成分を多く含有する黒液流(典型的には約 30wt% の固体を含む)として排出される。この黒液流の中の、リグニン易溶液、溶解性ヘミセルロースおよび他の溶解性有機物を除去するということは、これらの物質はもはや存在せず、部分的に蒸解された原材料中に残存しているリグニンへのアルカリ攻撃を妨げることは無いので、蒸解の後半段階を援けることになり、さらには、固体含量に富む黒液流を齎して、比較的固体成分を多く含む黒液流を最終的に寄せ集めて回収しやすくしている。バレルおよびコンベアスクリューの残りの部位には、第四区域 151 、および、パルプ排出口 153 に先行する第五区域 132 が設けられる。第四区域においては、残った白液でパルプが蒸解され続けるように、且つ、部分的に蒸解された出発物質に潤滑性を与えて蒸解釜バレルに沿って前進できるように、温度と圧力とを上げる。第五区域においては、温度と圧力とを減らし、材料がツインスクリュー式蒸解釜から離れるように調節する。材料は、ツインスクリューユニットを二〜三分間で通過することになる。スクリュー速度は、約 200rpm とすることができる。上述したツインスクリュー式蒸解釜には第四/第五区域が設けられているが、任意の数の区域(適切には三個以上)を使用することができ、どのような処理を要する場合にも対応できる。
【0041】
スクリュー構成およびバレル構成の双方を変更しやすくするために、蒸解釜はモジュール構造にするのが適切である。これはコスト的にも効率が良く、ひとつの標準ツインスクリューユニットを用いて、数多の異なるタイプのセルロース系原材料を処理すること、ならびに/あるいは、スクリュー・バレル構成を変更するだけで種々の品質のパルプを製造すること、が可能になる。運転速度は、 50〜500rpm の範囲とすることができる。実際には、 50〜250rpm の速度が用いられている。使用した原材料、および要するパルプの品質に応じて、速度を調節する必要がある。ツインスクリュー式蒸解釜は、化合物および液体を注入できるように、且つ、各区域において液体もしくは蒸気を通すまたは除くことができるように構築することができ、これはツインスクリュー式押出機の標準的な特性である。さらには、ツインスクリュー式押出機においては、適切なパルプ繊維を得るにあたって、従来用いられてきたタイプの精巧なギアボックスおよび駆動部を使用する必要が無い、ということも考慮されたい。単純なギアボックスおよび駆動部を使用することができ、投資コストおよびエネルギー消費を抑えることができる。本目的に使用した場合、本パルプ化システムは、従来技術に係るツインスクリューの半分未満のエネルギー消費で済むと予想される。蒸解釜の別の実施形態(図示せず)においては、コンベアスクリューへの供給区域が、他の区域に較べて大きくなっており、原材料を自由に供給区域に入れ込むことができ、コンベアの処理量を増大させることができるようになっている。原材料が、処理区域、第一加圧区域、第二加圧区域、と前進するにつれて、同時回転式ツインスクリューコンベア内部の区域のサイズは徐々に小さくなってゆき、区域内の圧力を増大させてゆく効果を齎している。
【0042】
同時回転式ツインスクリューを、 100ミリメートルのバレルサイズで使用する場合、同時回転式内部交合ツインスクリュー式押出機に、以下のような五つの区域を設ける。

区域 1 2 3 4 5
タイプ 藁投入 蒸気/アルカリ 初期の液の 蒸解 蒸解/排出
処理 回収
T ℃. 65 100 130 150 130
P (bar) 0 0 2〜3 4〜5 2〜3

ツインスクリューから排出されるパルプは、約 50% の水分を有しており、κ価は 30〜40 であると予想される。これは、標準的な方法で漂白して、印刷用紙もしくは筆記用紙に適するような未漂白化学パルプに相当する。また、段ボール箱 ( fluted packaging ) としての使用に適する、より高いκ価を持つセミケミカルパルプについても、必要であれば製造することができる。得られるものは、ツインスクリュー式押出機の、毎分回転数と、段の構成もしくは滞留時間との相関、さらには、圧力、温度、および用いたパルプ化物質の量、との組み合わせによって決まってくる。シングルスクリューを用いた場合には、 20 程度の低いκ価となることが予想される。
【0043】
見込んだツインスクリュー式蒸解釜 131 だけでは完全な化学パルプが製造できなかった場合には、別のツインスクリュー式蒸解釜、もしくは、例えば上述の Atchison に開示されている類のシングルスクリュー式蒸解釜で、例えば 1〜2bar の圧力(120°)で二十分〜四十分間に亘って、任意に白液を追加して、パルプをさらに蒸解する必要がある。 Atchison は、上下に並べて配置された、二つの水平チューブ式蒸解釜の使用方法について開示しており、上側の蒸解釜の排出口から、第二の蒸解釜の投入口へと、部分的に蒸解された材料が供給されるようになっている。従来技術に係る実施では、一列に並べて配置した三つのこのような蒸解釜を使用する必要が生じることもある。しかしなら、上記で開示したツインスクリュー式蒸解釜は、イネ科植物由来もしくは他の出発物質を充分に分解することができ、漂白可能な化学パルプを得るにあたっては、追加のツインスクリュー式もしくはシングルスクリュー式蒸解釜による段階をひとつだけ必要とするのみであって、設備の規模および投資コストを削減することができる。この後にさらなる蒸解をすることで、 14〜20 のκ価を得ることもできる。
【0044】
ツインスクリュー式蒸解釜から得られたパルプ、もしくは後続のさらなる蒸解段階から得られたパルプは、さらなる処理(例えば化学パルプの場合には漂白)に先立って、洗浄を行って黒液をさらに回収する。通常、洗浄は、複数の段階を踏む工程であり、例えば、パルプを洗浄液に連続的に漬け、複数(例えば二〜四段階、通常は三段階)の連続した脱水段階にかけるようにする。繊維上の珪酸カルシウムのいくらかは、洗浄液中に分散することになり、複数段階の洗浄工程の終わりには、珪酸カルシウムのうちの例えば約 50% が、洗浄液中に再分散してしまうことになる。珪酸カルシウムの再分散は、洗浄液中に例えばポリアクリルアミドのような凝結剤を加えることによって、抑止することができる。しかしながら、黒液の濃縮で用いる条件下では、再分散した珪酸カルシウムからは、珪酸ナトリウムよりも有害な析出物が生じにくい。さらには、珪酸カルシウムは、水に対して比較的不溶性であり、且つ、高い融点(珪灰石の融点は 1540℃である)であって、これは黒液の気化のための流動床の床温度よりも充分に高く、また、珪酸ナトリウムの融点よりも充分に高い。本明細書において予期している工程の条件下では、黒液中の珪酸カルシウムは、離散した微粒子として残留することになって、爆発することも、回収工程で用いる流動床の凝集を促してしまうことも無い、と予想される。
【0045】
各脱水段階は、スクリュー型の圧搾機内で行われる。この圧搾機内には、スリーブを通過した洗浄液、ならびに、回転するスクリューによって抄紙簀 ( screen ) 上を長さ方向に前進しており、且つ、例えば、スクリューの螺子山もしくはスクリューの螺子山間の空隙によって定められる、抄紙簀の投入端から排出端にかけて縮小してゆくような横断領域を以って圧搾されているパルプ、を回収するためのハウジング構成手段内部に収められたスリーブ内にフィットした細長い回転スクリューが備わっている。これによって、回収されたパルプは圧縮された状態となり、また、パルプから液体が漸次搾り出されることになる。 US-A-6792850 、 US-A-6393728 、 US-A-6736054 、および US-A-3256808 では、このようなタイプの圧搾機に共通する特徴のいくつかが示されている。通常、洗浄液は、パルプとは反対方向に進行するので、
第一スクリュー圧搾機、第二スクリュー圧搾機、第三スクリュー圧搾機が連結されて存在している場合には、水を混合タンクに供給して、第三スクリュー圧縮機に供給されるパルプを洗い、また、第三圧縮機から回収された洗浄液を、別の混合タンクに供給して、第二スクリュー圧縮機に供給されるパルプを洗い、また、第二スクリュー圧縮機から回収された洗浄液を、第一スクリュー圧縮機に供給される化学パルプを洗うための混合タンクへと供給する。ここで、第一スクリュー圧縮機から回収された洗浄液(固体濃度が約 10wt% 以上、例えば約 12〜15wt% )からは比較的濃縮された黒液流が得られ、これを、 149 で得られるさらに濃縮された黒液流と併せて、アルカリ回収にかけることができる。珪酸カルシウムに転換されたシリカのうちのいくらか、もしくは大部分は、黒液中に混入することになる。しかしながら、回収工程において用いる条件下では、珪酸ナトリウムとは対照的に、珪酸カルシウムは溶解しづらいので、黒液を蒸発させて濃縮した際に生じる有害なガラス状析出物を無くすかもしくは低減することができる。混合タンクの代わりに、インラインミキサーを使うこともでき、また、スクリュー圧搾機の代わりに、パルプを脱水するための他の公知の手法を使うこともできる、ということも明らかである。スクリュー圧搾機は、(本発明に使用することもできる)ドラム式洗浄機に較べてそれなりに小さく、イネ科植物由来の材料のパルプ化を含む小規模な工程を行う上で好ましい。
【0046】
[黒液回収]
本発明は、製紙用セルロース系原材料のパルプ化から生じる溶出黒液から、有機化合物および無機化合物、ならびにエネルギーを回収するための処理方法を提供する。本方法は、上述したパルプ化工程と併せて用いるのが特に好ましいが、他のパルプ化工程から得られる黒液を処理するために単独で用いることもできる。本方法は、少ない処理量でも経済的に実施可能となるように構成されている。
【0047】
硫化物が存在しないので、流動床反応炉内において、酸素もしくは酸素を含む気体(例えば空気)の化学量論量が存在する酸化条件下で、黒液に含まれる有機成分を気化することによって黒液を処理することができる。しかしながら、黒液は気化して(部分的に酸化して)、特に CO2 、 CO 、 H2O 、および H2 を成分として含み、さらにはメタン、ならびに、酸素もしくは自由酸素を含んだ気体の準化学量論量が存在する条件下で熱分解または部分的に酸化されるような C2+ 成分、を共に含むような合成ガスへと転換するのが好ましい。このようなガスは、天然ガスボイラーから得られる蒸気と燃焼ガスとの混合物とすることもでき、または、必要であれば天然ガスを補った洗浄済再生合成ガスを供給するボイラーから得られる、蒸気と燃焼ガスとの混合物とすることもできる。これらの気体は、流動床の流動媒体として機能し、また、床物質は、本気化工程に触媒作用を及ぼし、さらには床中の副産物として形成されうる炭 (チャー; char ) の気化にも触媒作用を及ぼすような CaO から成るか、あるいはこのような CaO を含む。こうした工程においては、床から供給される気体混合物中の酸素量は、部分的な酸化を支持でき、床温度を維持するために充分な量とするべきであるが、その一方、黒液中の水酸化ナトリウム成分および/もしくは水酸化カルシウム成分を完全に炭酸塩に転換してしまわない程度の量にするべきでもあって、さらに言えば、少なくともいくらかの NaOH が床内に NaOH の形態で残留するように反応を行うことが可能であると考えられるような量とする。したがって、流動ガスの酸素含量は、 <5% の酸素とすることができ、また通常は約 1.5〜2% の酸素とし、排ガス中の酸素含量が、床の <1% 以上、典型的には床の約 0.8% になるようにする(すべて体積%)。
【0048】
200℃以上になると黒液中の有機物が熱分解されはじめ、水蒸気、 CO2 、 H2 、軽い炭化水素類、タールを生じ、さらに、クラフト黒液および他の硫黄含有液体の場合には、軽い硫黄化合物(例えばメルカプタン類)も生じる。 600℃になると、揮発分放出 (devolatilisation ) が本質的に完了し、固着した炭素、いくらかの水素、および大部分の無機物を含んだ炭残渣が残る。炭の組成は、広汎に変化しうるものであり、処理条件(例えば温度)と燃料特性との双方に依存する。藁の黒液は、木材の黒液よりも低い熱量を有し、このことは、流動床反応炉に入れるにあたって考慮するべきである。
【0049】
一連の実験は、温度勾配熱重量分析 ( temperature ramp thermogravimetric analysis; TGA ) を用いて行われた。この技術により、物質の熱分解プロファイルを迅速に測定し、続いて物質の熱分解動力学を解析することが可能になる。藁の黒液の場合、 N2 雰囲気下で 20℃/min の速度で加熱すると、五つに分かれたピークが確認された。即ち、 (a) 25〜105℃の水分の脱離、 (b) 105〜250℃の大きい蒸発ピーク、 (c) 300〜350℃の小さい蒸発ピーク、 (d) 425〜500℃の小さい蒸発ピーク、ならびに、 (e) 650℃の無機化学種(例えば Na および K )の揮発分放出、である。三種の主要な有機成分(リグニン、ヘミセルロース、カルボン酸)に関しては、三つの大きい蒸発ピークに帰することができるが、一方、液の有機成分は、これらの実験で得られたピークと関連づけることはできなかった。また、これらの実験からは、工業用反応炉の作業温度が 750℃を超えないようにして、パルプ化物質(即ち、 Na および K )の大半を好ましい固体形態で回収できるようにすることが好ましく、例えば反応温度は 675〜725℃、好ましくは例えば 675〜700℃とするのが良い、ということもわかった。
【0050】
0.1m の内径の珪砂の、従来技術に係る流動床もしくは気泡流動床 ( bubbling fluidized bed ) を使用した、一群の流動床実験は、典型的な排ガス組成物の定量のため、ならびに、黒液の熱分解、気化、および燃焼の実験から得られる、炭、排ガス、およびタールを得るために行われた。また、床の混合および凝集の傾向についても調査した。固体含量を 29% および 45% になるように濃縮した黒液を、 500〜700℃および U/Umf = 4 (即ち、激しく流動している状態 ( vigorously fluidized ) )で作動している床へと供給し、 N2 と O2 とを混ぜて補給した。排ガスの分析からは、
主に産生する気体の典型的な組成は、 H2 0〜5% 、 CH4 7〜12.5% 、 CO 7.5〜15% 、 CO255〜89% 、および C2+化学種 0〜8% の範囲であることが示された。床の凝集は、高い U/Umf にも拘わらずすべての実験において発生し、典型的には流動性が失われることで、実験が二十分間未満で終わってしまうことになった。気体の収率は、典型的には非常に低い( 550℃での 9% から、 700℃の 25% の範囲)。低い気体収率と、気体の組成(即ち、高い [CO2] と、低い [CO] および [H2] )とを考え合わせると、炭を気化条件下に置いても、蒸気再形成反応が起こらない、ということが示唆される。おそらく、凝集した流動床内では、気体と固体との接触が乏しくなっていると考えられる。しかしながら、昇温するにつれて気体の収率が増大するということは重大なことであって、このことから、(床の凝集に対して充分に高い耐性を持つように設計された)工業用反応炉を、 K および Na の融点にできる限り近い温度で運転することで、合成ガスの産生量を最大化できる、ということが示唆される。( N2 のみを用いた)熱分解実験を行うにあたって、排ガスラインに濃縮器を追加した場合には、(濃縮可能な部分の)タールの収率が、 550℃では 30% 、また 700℃では 38% と定量された。また、炭の収率は、 550℃での 45% から 600℃での 39% 、 700℃での 31% まで減少し、このことからも、温度が重要な方法変数であるということが示唆される。
【0051】
噴流流動床 (spouted fluidized bed ) は、気泡流動床とは違って、材料が罐の壁に沿って定着する前に、床の基部から材料を中心軸に沿って押しやるための、ジェット噴出口を中央に設けるように設計されている。典型的には、床は円筒状では無く円錐状の形状であり、大量の循環運動を援けるようになっている。これによって、気泡流動床よりも、床の安定性をさらに増し、且つ、床を凝集しづらくすることができる。
【0052】
反応炉は、好ましくは循環式流動床反応炉とする。このような反応炉は、 US Patent 4479920, 4559719 に記載されており(この参照によりこれらの記載は本開示に含まれる)、 Torftech Limited of Reading, UK (www.torftech.com) から購入可能である。このような反応炉は、本質的には静的であって且つガス/空気混合気の縦方向の流れによって流動する床内の、床微粒子の横方向の動きのランダム性から発生してしまうことになる従来の流動床反応炉における床内の温度制御および熱輸送速度の問題を、克服することができると考えられる。気泡流動床と噴出流動床とのいずれも、このような問題を蒙ってしまう。本発明者の行った実験においては、床内にホットスポットが現れた際に、凝集が起きていた。循環式流動床は、このようなリスクを最小化し、また、活性 CaO 床もこうした問題からの援けとなりえる。
【0053】
黒液の処理に適用した本発明の好ましい実施形態に伴って行う、 Torftech から提案された解決策は、
酸化カルシウムから成る、もしくは、酸化カルシウムを含む、微粒子状物質塊を含んだ処理区域を備える反応炉を設けるステップと、
処理区域に、熱した流動ガスを供給して、処理区域内の流体の渦流を生成し、また、流動性の渦流の流体によって、微粒子性物質が密集帯 ( compact band ) を形成して、処理区域の軸の周りを乱流として循環させるようにし、ここで、流動ガスは黒液中の有機物の少なくとも一部を燃焼させるための酸素を含むようなステップと、
黒液を、微粒子性物質の密集帯の中へと供給し、床中の黒液を処理して黒液中の有機物を気化するステップと、
床から出る排ガスとして、黒液から有機物を回収するステップと、
床から出る固体として、黒液から無機物を回収するステップと
を含む。
【0054】
微粒子のそれぞれは、密集帯の外縁全体に沿って、処理区域の内部を出入りするので、均一な処理条件を得ることができる、と考えられる。微粒子塊中の微粒子の動きは、流体の流れの作用と、重力の作用と、流体の渦流によって生じる遠心力の作用とを組み合わたものによって決定され、また、このような物質を微粒子帯中へと供給すると、処理されるべきこれらの粒子および物質が徹底的且つ連続的に混合されることになる。結果的に、微粒子の薄い帯のみを使用することで、非常に効率的な処理作業を行うことができる。さらには、処理用ガス流が、各微粒子の周囲にできる微視的絶縁気層に衝突し、これを最小化する。この結果として、熱伝導速度および質量輸送速度が、他のタイプの反応炉よりも大きくなり、さらに高速且つ効率的な処理を行うことができるようになっている。
【0055】
実験は、半工業的規模の、上述した循環式流動床型反応炉を用いて行った。処理する黒液を固体状に転換した場合には、この固体を二段階スクリューフィーダー(投入スクリューをひとつ、供給スクリューをひとつ備える)を介して供給した。処理する黒液が液体状であった場合には、反応炉の上面を介するか、または、床表面の真上且つ床表面に対して垂直に置かれた二相ノズル( Ar もしくは N2 と共に供給する)を介するような遠心式ポンプを用いて、黒液を供給する。反応炉の上面を介して、排ガスと、いくらかの固形物とが排出され、ダクトを長さ方向に通って、サイクロン式・ベンチュリ式洗煙機に入って通過した後、 850℃で運転されている再燃焼室 ( afterburner chamber ) を通った。床が中央放出口を通過した際に、床の固体を除去した。プラント内の別々の地点から、それぞれ固体サンプルと気体サンプルを採取した。反応室は、高耐熱セラミック(この作業において絶対に必要であるというわけでは無い)からできており、また、基部は 400mm で、上へ行くほど膨らみ、天部では 500mm となっており、また、高さは 850mm であった。流動ガスが、流動床の下から反応室に入気する際に通過する散気管 ( distributor ) には、或る角度をつけて並べた多数の平行なプレートが含まれ、流動ガスはこれらのプレートの間を通過した。散気管の自由表面積は 30% であった。散気管によって、床内の激しい渦流動作を伝えることで、反応炉の上面から微粒子を噴出させてしまうこと無く、ガスの局所速度を大きくし、且つ乱流が激しくなったという効果が得られた。すべての実験に関して、用いた名目流動速度 ( nominal fluidizing velocity ) は 10m/s であり、これは、平均粒子サイズが 1.5mm の酸化カルシウム床を適切に支持できるものであった。
【0056】
これらの実験における黒液の処理に関しては、二種の異なる処理モードを考慮した。即ち、 (a) 黒液および酸化カルシウムを特定の比率を以って含んだ予混物 ( premix ) の調製、ならびに、 (b) (種々の固体成分を含んだ)黒液を、反応炉内に内在する生石灰床上に直接噴霧すること、である。作業上、循環式流動床に乾燥固体を供給することで、非常に簡単な代用手法とすることができるが、しかしながら、このような手法は好ましくないとする技術文献が存在する。 CaO と共に生じる反応生成物は、(実質的に過剰の石灰を使用したとしても)完全に乾燥させるためにはさらなる加熱が必要となる耐熱樹脂の特性を持つ樹脂塊であり、したがって、破砕して気密シールを介して(例えばスクリューフィーダーもしくはロータリーバルブで)反応炉内へと供給できるようになる前に、冷却して固化しなくてはならない。これは高コスト且つ不便である。さらには、平衡モデルから、過剰の CaO によって CaCO3 の生成反応が起こり、炭化水素(特に CH4 )の形成が阻害される、ということが示されている。この代用手法は、気化炉内の(珪砂もしくはアルミナのいずれかである不活性物質と混合した) CaO の内在床の上に、従来技術に係る黒液噴霧ノズルを用いて黒液を直接汲み出す、というものである。黒液は 200℃に達すると膨張し、半工業的規模では困難が生じるが、工業的規模で行われてきた大がかりな実験ではこのようなことが問題になるとは考えられていなかった。
【0057】
黒液の無機成分、さらには触媒のカルシウムを含んだ床固体は、以下の反応式にしたがって溶液に溶解して Na+ 、 Ca2+ 、 CO32- 、 (OH)- イオンの混合物とし、中央排出堰を介して床から排出することができる。
【0058】
CaO + H2O + Na2CO3 -> 2NaOH + CaCO3
その後、この溶液を上述したように処理する。
これらの実験において用いた処理温度は、 550℃〜725℃の範囲であった。一般的には、温度が上昇すると、黒液から反応生成物への転換
速度も上昇した。黒液中の大部分の無機成分は、従来に可能であると考えられていた温度よりも高い温度で、固体として回収することができた。信頼限界 95% 以内で測定した実験データでは、典型的な回収率は 90% を超えた。
【0059】
排ガスの品質に依る温度への影響は判別できなかった。また、黒液の固体濃度についても、ナトリウムもしくは排ガス組成物のいずれかの回収率に依る影響は判別できなかったが、予期した通り、より希釈した液(固体分 16% )を処理した場合には、排ガスはより多くの水分を含んでいた。供給するにあたっての最適な固体含量は、上流の処理条件および経済的制限(即ち、パルプ化工程から生じる固体成分、および、前もって標準的な多目的エバポレーターで脱水しておいた場合と較べての、循環式流動床反応炉内の水の蒸発のコストの検討)に左右されるものと予想される。
【0060】
流動ガス中の酸素濃度に関しては、初期の実験では、産生する排ガス混合気( N2 、 CO2 、 H2O )の酸化条件から予想して、 5〜20% の [O2] とした。無機化学種(即ち、 Na 、 C 、および K )の回収率は良好であった。床のサンプル、およびサイクロンアンダーフローのサンプルは、 Ca 39〜60wt% 、 Na 2.5〜13wt% の範囲であった。 <2% の [O2] で行った実験では、主に N2、 CO2 、 H2O 、および炭化水素を含み、また、 H2 と CO とは窒素のピークに隠れてしまったのでクロマトグラフィーでの検出は困難であった。
【0061】
平衡モデルから、CaO が気化反応において重要であることが示されている。また、 CaO は、固体炭素が塊(即ち、炭およびタール)になるなることを阻害し、且つ、固体炭素が硫黄と複合化する(特に CaS 、なお、これは非常に有益な副産物である)ことも阻害してしまう。好ましくは、好ましい量の CaO を、 CaO:DS (乾燥固体; Dry Solid ) の比率が 0.2:1〜0.4:1 の範囲となるように、より好ましくは 0.35:1 となるようにする。比率が 1.2:1 のときには、炭素が CaCO3として結合して、炭化水素の形成量が大幅に落ちる。
【0062】
したがって、好ましい実施形態においては、黒液の固体含量は 10〜40% 、例えば 15〜30% とし、酸化カルシウム単独、または酸化カルシウムおよび不活性物質、を含んだ循環式流動床炉に直接供給することができ、また、必要であれば天然ガスを補って、反応炉から得た再生合成ガスを供給したバーナーから生じた蒸気および燃焼ガスと共に供給することもできる。 CaCO3 から CaO を 回収するためのエバポレーションプラントおよびカ焼炉が望ましく、また、プラントが土壌から取り出した天然の重元素が堆積することを抑制する上で、少量(約 10% )の CaCO3 流を消費する必要がある。しかしながら、この物質は、局所的な再処理工程へと送って、煉瓦の製造に用いるか、もしくはセメント塗りに用いることができた。
【0063】
図5は、これから説明する溶出液の処理工程の好ましい実施形態である。
パルプ化工程から生じる溶出黒液を蒸解液貯蔵槽 301 に集めて、標準的な濃縮用途エバポレーター 302 を用い、固体含量が 30〜70% となるまで濃縮される。固体濃度 30% 以上の溶出黒液が、同時回転式ツインスクリューコンベアから出た場合には、処理罐内で直接処理して、濃縮ステップを省くことができる。濃縮した黒液は、 90℃を超える温度の反応炉 304 内へと、密閉式ツインスクリュー搬送システム 303 を用いて移送される。密閉式ツインスクリュー搬送システムは、蒸発工程の間の有機成分の損失を最小限にするために使用される。黒液の粘度を減らして、搬送しやすくするために、温度は 90℃を超えるようにする。反応炉 304 内において、黒液は、以下の二つの方法のいずれかで処理される。
【0064】
第一の方法では、流動物質の床が内部に支持された反応炉の室(チャンバー)に、濃縮した黒液を噴霧することで、黒液を循環式流動床炉 304 内に導入する。流動物質は、石灰のような土類金属酸化物とすることができ、石灰と黒液乾燥固体との比率は 0.3:1 とすることができる。土類金属酸化物の平均粒子サイズは、 1〜4mm の範囲とすることができる。前述したように、反応炉は、化学量論的条件下、もしくは準化学量論的条件下で運転することができる。第二の方法では、ツインスクリューコンベア 303 内において、溶出黒液と、石灰( CaO )のような土類金属酸化物とを、例えば石灰と黒液乾燥固体との比率を 0.3:1 として、予混することで、黒液を、後で循環式流動床炉 304 に供給することができるような脆い粒状の物質へと転換する。また、床に供給する前に黒液を乾燥固体へと転換した場合には、反応炉を化学量論的条件下、もしくは準化学量論的条件下で運転することができる。双方の方法の変種においては、土類金属酸化物(例えば石灰)と黒液乾燥固体との比率を、 0.2:1〜1.3:1 の範囲とすることができる。標準的なカ焼炉 308 によって土類金属酸化物を供給することができる。双方の場合において、循環式流動床炉 304 の室の温度を、 300〜750℃の範囲内、好ましくは 650〜750℃の範囲内に保ち、必要な化学反応が秒単位で起こるようにする。本処理のさらなる実施可能な実施形態においては、循環式流動床炉 304 内部の固体の一部を、スクリューフィーダー 303 を介して、反応炉 304 へと戻すように再循環することができる。
【0065】
化学反応によって、黒液は、以下のように転換される。即ち、
(1) 流動床炉 304 内部の、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウム、ならびに石灰。床は中央排出地点を介して溢れることになり、溢れた物質が溶解槽 305 内で溶かされて、再苛性化として知られる従来技術に係る方法で、緑液として水酸化ナトリウムを回収する。その後、緑液を公知のフィルター 306 で濾過し、炭酸カルシウムのスラッジ、および白液(水酸化ナトリウムおよび水酸化カルシウムを含む)を得て、パルプ化工程において再利用する。しかしながら、この方法の変種においては、温度を慎重に制御して、 再苛性化を反応炉内で行うようにすることもできる。この場合、炭酸ナトリウムは形成されないので、溶解槽 (306) を使用せずに水酸化ナトリウムを回収することができる。
【0066】
(2) エネルギー産生のために使用できる燃焼性成分を伴う、気体および液体。気体を収集して、パルプ製造工程ラインで使用できるようなエネルギーおよび蒸気を生成しうるボイラー 309 の動力とする。本処理のさらなる実施可能な実施形態においては、燃焼性成分を含んだ気体を、流動床炉に再循環させて、化合物回収反応のための熱を得ることができる。
【0067】
炭酸カルシウムのスラッジは、乾かして脱水し、循環式流動床炉とすることができる第二カ焼炉 308 へと、送ることができる。この反応炉は、 1100℃程度の温度で運転することができ、炭酸カルシウム CaCO3を、酸化カルシウム CaO へと戻して、溶出黒液物質回収工程において再利用することができる。生成された流動床物質のうちの約 10% は、連続的に工程から除去され、工程中に重金属および他の物質が堆積しないようにする。必要であれば、固体含量が 30% 以下の溶出黒液を、この方法を用いて(試験して)処理することもできる。しかしながら、エネルギー消費が大きくなってしまうので、こうした使用は好ましくは無い。
【0068】
本発明から逸脱すること無く、上述した実施形態に種々の変更を加えることができることが明らかである。例えば、流動床内で処理した黒液は、クラフト液とすることも、あるいは、ソーダ/Ca(OH)2 黒液と、クラフト液、もしくはソーダ/アントラキノン法から得られた黒液との混合液とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、本発明に係る、小麦藁からパルプを作成するための工程を示す、全体的なブロック図である。
【図2】図2は、図1のパルプ製造工程の一部である、原材料の前処理工程に用いられるローラー構成の概要図である。
【図3】図3は、図2のローラー構成において用いることができる、自己洗浄式ピンローラーの構造の概要図である。
【図4】図4は、図1の工程において藁をパルプに転換するために用いることができる、同方向回転式ツインスクリューコンベアの可能な実施形態の概要図である。
【図5】図5は、図1の工程において用いることができる、好ましい溶出黒液処理装置のブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒液の処理方法であって、前記黒液にアルカリ土類金属酸化物を加え、反応炉内で 650℃以上の温度に加熱するステップ、を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記黒液が、イネ科植物由来の材料のパルプ化工程から得られるものであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記イネ科植物由来の材料が、小麦、稲、大麦、燕麦、亜麻、ライ麦、バガス、蜀黍、もしくは玉蜀黍の、藁から選択されることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ソーダ型白液から、前記黒液が得られることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記イネ科植物由来の材料中の有害なシリカを、珪酸カルシウムに転換するために充分な量の水酸化カルシウムを含んでいるソーダ型白液から、前記黒液が得られることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記黒液が、 10〜70wt% の固体を含むことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記黒液が、 15〜30wt% の固体を含むことを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記黒液を、 650〜725℃ で加熱するステップ、を含むことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記黒液を、 675〜700℃ で加熱するステップ、を含むことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
流動床反応炉内において、前記黒液を、前記黒液中の有機物の少なくとも一部を燃焼させる加熱された流動ガスと共に、加熱することを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記流動ガスが、前記黒液中の前記有機物を完全に酸化する自由酸素の化学量論量を少なくとも含むことを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記流動ガスが、前記黒液中の前記有機物を部分的に酸化し、前記黒液中の他の有機物を燃焼性排ガスに転換する、酸素の準化学量論量を含むことを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記流動床中の物質が、アルカリ土類金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記アルカリ土類金属酸化物が、酸化カルシウムであることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記流動床に、黒液および酸化カルシウムを、酸化カルシウムと前記黒液の乾燥固体との比を 0.1:1〜1:1 の間に保つようにして供給することを特徴とする、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記流動床に、黒液および酸化カルシウムを、酸化カルシウムと前記黒液の乾燥固体との比を 0.2:1〜0.4:1 の間に保つようにして供給することを特徴とする、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記アルカリ土類金属酸化物の平均粒子サイズが、 1〜4mm の範囲であることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
濃縮された前記黒液を、流動物質床が内部に支持された前記反応炉の室の中に噴霧することで、前記黒液を前記流動床反応炉内に導入することを特徴とする、請求項10〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記反応炉が、循環式流動床反応炉であることを特徴とする、請求項10〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
酸化カルシウムから成る、もしくは、酸化カルシウムを含む、微粒子状物質塊を含んだ処理区域を備える反応炉を設けるステップと、
前記処理区域に、熱した流動ガスを供給して、前記処理区域内部に流体の渦流を生成し、また、流動性の前記渦流の前記流体によって、前記微粒子性物質が密集帯を形成し、前記処理区域の軸の周りを乱流として循環するようにし、ここで、前記流動ガスは、前記黒液中の有機物の少なくとも一部を燃焼させるための酸素を含むようなステップと、
前記黒液を、前記微粒子性物質の前記密集帯の中へと供給し、前記床中の前記黒液を処理して、前記黒液中の前記有機物を気化するステップと、
前記床から出る排ガスとして、前記黒液から有機物を回収するステップと、
前記床から出る固体として、前記黒液から無機物を回収するステップと
を含むことを特徴とする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記床に供給された前記気体の名目流動速度が、 >2m/s であることを特徴とする、請求項10〜120のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記床に供給された前記気体の名目流動速度が、約 10m/s であることを特徴とする、請求項10〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記黒液が、アルカリ土類金属酸化物と、アルカリ土類金属酸化物対黒液乾燥固体の比率が 0.1:1〜1:1 の範囲となるように予混されて、脆い粒状物質となり、その後、前記脆い粒状物質を、前記循環式流動床反応炉へと供給することを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記反応炉が、化学量論的条件下、もしくは準化学量論的条件下で運転されることを特徴とする、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記流動床反応炉内において、水酸化ナトリウムおよび/もしくは炭酸ナトリウム、ならびに、水酸化カルシウムおよび/もしくは炭酸カルシウム、を生産することを特徴とする、請求項10〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記流動床が、中央排出点を介して溢れ、その後、溢れた物質が溶解槽内で溶解されて、水酸化ナトリウムを緑液として回収することを特徴とする、請求項10〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記緑液が濾過されて、前記パルプ化工程において再利用するための、炭酸カルシウムのスラッジ、および、水酸化ナトリウムを含んだ白液を得ることを特徴とする、請求項26記載の方法。
【請求項28】
炭酸ナトリウムが、実質的に形成されないことを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項29】
イネ科植物由来の原材料を、製紙用パルプもしくは板材用パルプに転換するための方法であって、
水酸化ナトリウムに基づき、さらに、前記原材料中のシリカを珪酸カルシウムに転換するために有用な量の水酸化カルシウムを含んだ白液で、前記原材料を蒸解するステップと、
前記蒸解ステップから得たパルプを回収するステップと、
蒸解された前記パルプを洗浄し、オプションとして前記蒸解ステップから直接得た黒液を回収することによって、前記蒸解ステップから得た黒液を回収するステップであって、ここで、前記回収された黒液は、実質的に溶解性珪酸塩を含まないようなステップと、
酸化カルシウムを含んだ流動床反応炉内で前記黒液を加熱し、前記黒液中の有機成分を、気体へと触媒反応的に転換し、また、前記白液のナトリウム値、および酸化カルシウムを含む回収された固体を得るステップと、
前記回収された固体を用いて、前記白液を再生するステップと
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項30】
前記イネ科植物由来の原材料が、小麦藁であることを特徴とする、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記イネ科植物由来の原材料が、稲藁であることを特徴とする、請求項29記載の方法。
【請求項32】
前記イネ科植物由来の原材料が、バガスであることを特徴とする、請求項29記載の方法。
【請求項33】
前記蒸解ステップから得られた黒液流と、前記パルプ化ステップから得られた黒液流とを併せたものを含む黒液を回収することを特徴とする、請求項29〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記黒液が、前記流動床反応炉内で加熱される前に、蒸発によって濃縮されることを特徴とする、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記黒液が、蒸発によって濃縮されて、固体含量が 20〜40wt% となることを特徴とする、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記流動ガスが、前記黒液中の前記有機物を完全に酸化する自由酸素の化学量論量を少なくとも含むことを特徴とする、請求項29〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記流動ガスが、前記黒液中の前記有機物を部分的に酸化し、前記黒液中の他の有機物を燃焼性排ガスに転換する、自由酸素の準化学量論量を含むことを特徴とする、請求項29〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
流動ガスおよび黒液を供給して、 <1% の酸素を含んだ前記床上に、排ガスを生成するステップ、をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
酸化カルシウムから成る、もしくは、酸化カルシウムを含む、微粒子状物質塊を含んだ処理区域を備える反応炉を設けるステップと、
前記処理区域に、熱した流動ガスを供給して、前記処理区域内部に流体の渦流を生成し、また、流動性の前記渦流の前記流体によって、前記微粒子性物質が密集帯を形成し、前記処理区域の軸の周りを乱流として循環するようにし、ここで、前記流動ガスは、前記黒液中の有機物の少なくとも一部を燃焼させるための酸素を含むようなステップと、
前記黒液を、前記微粒子性物質の前記密集帯の中へと供給し、前記床中の前記黒液を処理して、前記黒液中の前記有機物を気化するステップと、
前記床から出る排ガスとして、前記黒液から有機物を回収するステップと、
前記床から出る固体として、前記黒液から無機物を回収するステップと
を含むことを特徴とする、請求項29〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
蒸解のための供給された前記原材料が、前記原材料中から節を除去して長さ方向に沿って截断するために、破砕されていることを特徴とする、請求項29〜39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記破砕が、前記原材料が間を通過する、互いに反対方向に回転する一対のギザ付きローラーを手段として行われることを特徴とする、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記截断が、前記破砕された原材料が間を通過する、互いに反対方向に回転する一対のピンローラーを手段として行われることを特徴とする、請求項40もしくは41に記載の方法。
【請求項43】
イネ科植物由来の出発物質を、パルプにするためのソーダ法による蒸解において、少なくとも一部はパルプの洗浄から得られた黒液を処理する際の、黒液の濃縮および回収の間のスケーリングを阻害するために添加することを特徴とする、水酸化カルシウムの使用方法。
【請求項44】
前記黒液が、その一部が蒸解釜から得られ、また、その一部がパルプの洗浄から得られたものであることを特徴とする、請求項43記載の使用方法。
【請求項45】
前記黒液中のシリカが、珪酸ナトリウムを実質的に除外するように、珪酸カルシウムの形態となることを特徴とする、請求項43もしくは44に記載の使用方法。
【請求項46】
珪酸カルシウムの分散を阻害するために、洗浄中に凝結剤を加えることを特徴とする、請求項43〜45のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項47】
前記凝結剤が、ポリアクリルアミドであることを特徴とする、請求項46記載の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−510814(P2007−510814A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537447(P2006−537447)
【出願日】平成16年11月3日(2004.11.3)
【国際出願番号】PCT/GB2004/050023
【国際公開番号】WO2005/045126
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(506150098)バイオリージョナル ミニミルズ(ユーケー)リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】BIOREGIONAL MINIMILLS(UK)LIMITED
【Fターム(参考)】